勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある? 作:社畜のきなこ餅
前回の話の後の感想数にたまげました、皆さまありがとうございます!
花月 ×日
珍しく日を跨ぐことなく同日に日記を書くことになった俺であるが。
今現在、隠し切れないワクワク感でそのお目目を輝かせて俺の手を引っ張るリュカちゃんにパパスさんの家の地下室へ連れて来られている。
そういえば妖精を見つけて、妖精の国へ行くイベントもあったなぁ。なんて思いつつ地下室を見回すが何もない。
あるのは、俺に見えない誰か……多分妖精と話してるリュカちゃんに、チロルの頭の上に止まってるホークと乗られているチロルである。
どうやら妖精基準では俺は大人扱いらしい、もしくは穢れた心をもった子供か。
時折首を傾げたりしつつ、楽しそうに妖精さんと思しき何かとおしゃべりしてるリュカちゃんを見る。
考えないようにしていたが、ドラゴンクエスト5というのは男の子である主人公が波乱に満ちた冒険と人生の末に伴侶を娶り、そして伴侶との間に生まれた勇者である子供達と共に魔王を打ち倒す。
ソレが、俺が覚えているざっくりとしたストーリーの流れだ、その中に幾つかの胃壁に重たいイベントが目白押しという感じである。
良く似た別の世界だと自分に言い聞かせて目を逸らしてきたが、最近のイベントラッシュにコレとくれば最早言い逃れは出来ないだろう。
だが、そうなると天空の花嫁ならぬ花婿はどうなるのだろう?ビアンカちゃんは女の子だったから違うだろう、ワンチャンフローラが男であることに賭ける?それこそ論外じゃないだろうか。
……あれ?この状況割と詰んでね?
そんな事を考えてたら、ぐいぐいと腕を引っ張られる。飛ばしていた思考を引き戻しそちらを見てみれば。
どうやら何度も俺を呼んでたらしいリュカちゃんが、ぷにぷにほっぺを膨らませて俺を見上げていた。可愛い、天使か。
リュカちゃんに謝れば、チロル達先行っちゃったよと言われて見上げてみれば。空に浮いているチロルとホークである、ちょっとした怪奇現象だな。
大人から見るとあの階段こうなってるんだな、と思いつつ階段を上がると俺このまま地下室の天井に顔面ぶつけるんじゃね?と心配しながらリュカちゃんに手を引かれ……。
階段を一緒に登り、ふと気が付いた頃には。
雪景色に包まれた花畑の中に、リュカちゃん達と一緒に俺は立っていた。トンネルをくぐったらそこはなんとやら、ってレベルじゃねーな。
思わず俺が呆けていると、勝気そうな印象を与える青髪の少女がポワン様とやらに話を聞きに行きましょうとリュカちゃんの手を引いて走っていく。
恐らくアレがベラなのだろう、しかし気のせいか俺を見た時一瞬なんか凄い驚いた顔していたが気のせいか?
いかん、昨日の大人リュカちゃんの件から次々と入ってくる情報で未だに落ち着かん。落ち着かんがとりあえずほったらかしされててもアレなので急いで後を追う事にする。
そうして二人に遅れて謁見の間に到着する俺、中々に開放感溢れる広間だが不思議と寒さは感じない。
どうやら話はまだ始まってなかったそうなので安堵しつつリュカちゃんらの後ろに立つと、そもそも俺の到着を待ってたらしい。こりゃまた失敬。
ポワン様が言うには春風のフルートとやらの奪還をお願いしたいらしい、それがないと春を呼べないんだとか。実にメルヒェン。
だが話はそこで終わらず、ポワン様はベラにリュカちゃんへ村の案内をするよう指示を出すと。俺に残るよう言い出した。
俺はまだ何もやってないぞ、本当だぞ。
思わず身構える俺だが違ったらしい。
リュカちゃんとベラへ向けられていた視線は慈愛と申し訳なさを感じさせるモノだったが、俺へ向けられている視線は……憐憫に満ちたモノだった。
正直ポワン様に憐れまれるような事はない筈だ……って、偉大なる天空の主の血を引く少年とか言われてもソレ誰の事ですかね?
はぁ、俺の父親は明かせない事情を抱えて地上に降りた偉大なる存在なんですか、へー。
あの、そんな話よりちょっと相談したいことあるんですけど良いですかね?あ、良いですかありがとうございます。
何で知ってるかは言えないですけど、バシルーラって呪文知りません?あ、知ってますかでは教えて頂く事は……無理?永い年月の間に失われた?
じゃーしょうがないですねー、俺はリュカちゃん達心配なので行きますね。ありがとうございましたー。
……あの、辛い運命がその血によって齎されても決して絶望しないで下さいって言われても。すんません、凄く無礼な事言ってる自覚ありますが正直わかんねーです。
俺の父親はプサンとかいう、母を孕ませて旅に出たロクデナシだ。貴方が言う偉大なる天空の主なんかじゃない。
自分でも信じられないぐらい冷たい声が出ていた、ポワン様ごめんなさい。貴方は美人で嫌いじゃないですけど、ちょっと色々俺もいっぱいいっぱいなんです。
だけど……。
俺は大丈夫だ、まだ頑張れる。
花月 ♪日
あの後特別問題なくリュカちゃんらと合流、リュカちゃんにすごく怖い顔してるって心配された。いかん失敗失敗。
ともあれ、昨日は妖精の国の万事屋でリュカちゃんが物欲しそうに見つめていたうさみみ付きの毛皮のフードを買ってあげて、妖精の宿で一休みして終わった。ちなみにフードはとても喜んでくれた、癒される。
そして今日は妖精の国で情報を集めて得られた、西にあるドワーフの洞窟とやらに出陣である。が。
特に問題もなければ損害もなかったので省略する。強いて言うなら盗賊の鍵の技法を手に入れたのと、御老人からザイルなる少年を止めてやってほしいと懇願されたくらいか。
リュカちゃんは、ボクに任せて!って元気よく老人に返事してた、良い子だなぁ。ちょっと昨日は色んな意味でいっぱいいっぱいだったから、ほんと心が和んで落ち着く。
だからベラよ、俺は別にそういう感情を持って見てはいないぞ。なんだその意味深なスライムじみた笑みは。
そしてリュカちゃん、なんで俺のこの言葉を聞いてご機嫌が斜めになる。いつものほんわか笑顔の君に戻ってプリーズ。
結局彼女の機嫌を直すために、サンタローズに戻ったら一角うさぎ一家の新作を作る事となってしまった、これも全部雪の女王ってヤツの仕業なんだ!
そんなこんなで手に入れたての盗賊の鍵の技法でダイナミックエントリー、そこは一面の氷の床でした。コレどう考えても生活不便だよな。
だがここを突破せねば進めない、思わず火を放つ事も考えたが残念ながら俺もリュカちゃんも火が出る呪文は使えない。
まぁ仮に使えたとしても……ここにいるであろうザイルも蒸し焼きになりそうだから出来ないけどな、残念だ。
なので次善策として、なるべく滑らないようにするために用意しておいたロープをそれぞれリュカちゃんとベラ、そして俺の靴に巻き付ける。
贅沢を言えばスパイクブーツが欲しかったがそんなものなかったが故の、苦肉の策による万屋調達な一品である。
そしてさぁ往くぞ!と進もうとしたら足元からブニャーって声、見下ろせば足元がちべたそうなチロルがそこにいました。とりあえず小脇に抱えて進むことにした。
そして魔物に襲われたので、行け!チロル!って投げつけたら戦闘の後思いきり噛まれた上にホークにも思いきり突っつかれた。さすがにふざけすぎたので反省。
ボスと戦う前からHPが減っている俺、ようやく到着した雪の女王がいると思しき玉座の間にいたザイルにまで心配される。解せぬ、と思いつつチロルを下ろす。
というワケで気を取り直しての戦闘、俺が前線に立った上でピオリム改を使用して戦いに挑み……ほどよく実験成功しつつ、ザイルを懲らしめる事に成功。
そして間髪を容れず不意打ちで襲い掛かってくる雪の女王、待てやお前ボスとしての前口上はどうしたお前!?
咄嗟に巻き込まれそうな位置にいたザイルを蹴飛ばしてリュカちゃんらの方へ転がしつつ、雪の女王が吐きかけてきた冷たい息の前で両手を広げて背後の3人と2匹を庇う。クッソ寒いいぃぃ?!
心配そうに俺へ向かって叫ぶリュカちゃんにベラ、そんなに心配するな。
俺は大丈夫だ、まだ頑張れる。
体に霜が張り付く不快な感触に顔をしかめながら鋼の剣を構え、効果が切れていたピオリム改を起動。
ホークに援護するよう叫びながら、俺は雪の女王めがけて吶喊。背後からも援護が飛び始め総力戦が始まる。
種族上寒さに対して高い耐性を持つホークが、俺が庇い切れないチロルや転がってるザイルを庇うために戦場を飛び回り。
リュカちゃんのバギ、そしてベラのギラが雪の女王の体を削り取り。呪文によってよろめいたところを俺が斬りかかり、即座にチロルが追撃に入る。
本音を言えば力が強いホークにも援護をしてもらいたいところだが、あいつの凍りつく息は効果が皆無だし。家族を心配する老人に頼まれたザイルを死なせるワケにもいかん。
そうやって戦況を考えていれば、隙ありとばかりにその腕を俺めがけて振り下ろしてくる雪の女王の腕を、加速した意識の中で体を動かして回避し。カウンターとばかりに雪の女王の体を深く切り裂く。
戦っている間も俺の体へのダメージは蓄積し続けており、時折リュカちゃんやベラからのホイミで癒されるが消耗の方が早い有様だ。
敵の範囲攻撃を庇っているのもあるが、このピオリム改……長時間使っていると、体のあちこちから何かが千切れるような音を立てやがる。だが有用であるし今はこの効力は絶大だ。
だが、俺としては望むところである。
強大な敵相手にも有用であることが証明できたし、何よりここで経験を積めばいずれくる闘いの訓練にもなる。
だから雪の女王よ。
リュカちゃん達の未来の為にも、俺の礎になって死んでくれ。
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春風のフルートを奏でたことで春の息吹に包まれた妖精の国。
爽やかな風が吹き抜ける中、私が想うのは春風のフルートを取り戻してくれた小さな戦士達。
周囲に居るものを安心させるような、穏やかで優しい生命力に満ちた少女リュカ。
地獄の殺し屋という異名を感じさせないほどにおとなしく、忠実なベビーパンサーのチロル。
古代……私がこの世界へ生を受ける遥か昔に存在したと言われる、ダークオルニスの子供のホーク。
そして……。
「……偉大なる天空の主の血を引く戦士、ドレイク」
意識せず私の口から呟かれる男の子の名前。
彼の話ではまだ11才だというのに、何かに脅えつつも奮い立とうと必死に頑張っている子。
あの子は、自分の父が何者であるかきっと知っているのでしょう、その上で許せないのでしょう。
遥か昔、人の世への耐え切れない憧れを我慢できず、その力を封じてまで大地へ降りたあの御方。
まさか、自分が戻る前に天空城が堕ちるとは思わなかったのでしょう。
「……ポワン様、やはりあの人は……?」
「ええ、貴方の思っている通りですよ。ベラ」
私の呟きに、こらえきれなかったのか問いかけてくるベラへ答える。
「だとすれば、あの人は勇者なのですか?」
「……確かにあの子は勇者になる資質はあります、が。天空の武具は彼を認めないでしょう」
「そんな、何故ですか?!」
あの御方と地上の民との間に生まれた子供。かつての天空の勇者の伝説になぞらえれば勇者足り得る資質は確かにあの子にはある。
私があまりにも無神経だったせいで、あの子には酷く辛辣に当たられてしまいましたが。あの子の本質は……。
「ベラは、あの子の瞳をしっかり見ましたか?」
「……いえ、その、まるで底が見えない闇を見てるようで……」
「まだまだ修行が足りませんねベラは。確かに深く暗い闇でしたが……それでもその中にしっかりと光がありましたよ」
とても歪で、今にも壊れてしまいそうな光が。
あの子が歪む前ならば、きっと天空の武具は彼を認め力を貸したでしょう。ですが。
実の父であるあの御方への憎しみに心が染まり、そして大事なものを守る為に自分すらも削って戦おうとする今のままでは……。
私の言葉ではあの子には届かなかった、その事が悔やまれてなりません。
願わくば、あの穏やかで優しい少女……リュカがあの子の心の闇を払ってくれることを願うしかありませんでした。
私はこの時はまだ、どこか悠長に事を構えていたのでしょう。
それでも何時かは愛する人達の言葉で自分を見詰め直して、大事な何かだけじゃなく自分も大事にすることの大切さを解して立ち上がってくれると。
だけれども、あの時あの子の心の闇を、ほんの少しでも払えていたのならばと後悔した時には。
全てが、遅かった。
主人公の日記では、ずけずけと心に入り込まれた風ですが。ポワン様頑張って説得しようとしてました。
ですが、クソ親父を擁護する相手と言う事で主人公、心閉ざしてました。コイツ拗らせてんな。
段々と自分の体を投げ売りするかのように、躊躇うことなく酷使し始めるドレイク。
果たして彼の未来やいかに。