勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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今までのあらすじ

ドレイク「アカン、このままじゃ皆殺してまう。せや、ぐっすり寝てしまってそこを殺してもらお」
嫁s「そんな事絶許」

大体こんな感じ


30・上

 

 太陽が昇り始め、朝靄が辺りを包み込む時刻。

 漆黒の巨竜が眠りに就き続ける塔の頂上に、かつては一人の男であった巨竜に縁深い人物が集まっていた。

 彼ら、彼女達は一様に強い決意を秘めた表情を浮かべており、その中から二人。否……三人の人物が歩み出る。

 

 一人はひょろりとした体躯の、手に聖なるドラゴンの力が秘められたオーブを握る男、プサン。

 二人目は、巨竜がドレイクと呼ばれていた頃と同じ髪色を持つ少年、レックス。

 そして、その場に集まった子供以外には見えない三人目こと、妖精のベラが妖精の女王から預かって来たホルンを手に、僅かに進み出る。

 

 

 少年は、兄弟姉妹、そして母親を代表とした家族らへ視線を向けると、床に付きたてられたままの天空の剣の柄を強く握り、剣に宿る魂に父を救う為に力を貸してほしいと願いながらゆっくりと引き抜き始め。

 やっとか、と言う意思を剣は新たな持ち手となった少年へ伝えながら、天空の剣は素直に引き抜かれ……ドレイクの息子である、レックスの手に収まる。

 

 ソレと同時に、漆黒の巨竜を微睡の牢獄へ捕え続けていた結界が、ゆっくりと紐解かれるように霧散していき。

 閉じられたままだった、巨竜の瞼がゆっくりと開き始める。

 

 

 今のまま戦いを始め、弱らせてから進化の秘法によって蝕まれた巨竜の魂を癒しても、巨竜へと変貌した男の魂のみしか救うことが出来ない。

 ソレを時間をかけて調査したからこそ、集まった人間達は次なる布石を打ち始めるかのように、緊迫した空気に包まれ始めた空間に透き通るようなホルンの音色が響き渡る。

 

 人の世に極力関わらないという妖精の掟をも破るその行為が齎す効力は、今彼らのいる空間を妖精界へ隔離する為の合図であった。

 異界の扉を開く力を持つエルヘブンの民と、妖精女王らの協力によって発動した大魔術は、寸分違う事なく漆黒の巨竜と彼を引き戻すべく集まった人物らを異界へと誰一人欠ける事なく運ぶことに成功し。

 

 ソレと共に、僅かに開かれていた魔界と地上を繋ぐ扉から、漆黒の巨竜へ送られていた進化の秘法の燃料とも言えるドス黒い魔力が遮断される。

 

 

「魔界の王ミルドラースよ、お前の思惑でこうなったのかは私にすら解らない。だが……我が子を返してもらうぞ」

 

 

 ドラゴンの力が秘められたオーブをプサンは手に持ちながら、ゆっくりと身を起こし。翼を広げて咆哮を上げる漆黒の巨竜へと歩みを進め。

 本来ならば、自らがマスタードラゴンへ戻る為にオーブへ込めていた力を、悪意によって堕とされた息子を呼び起こす為に放出する。

 オーブから立ち上った、金色に輝くドラゴンのオーラは、プサンへ鉤爪を振り下ろそうとしていた漆黒の巨竜へと吸い込まれていき、巨竜は振り下ろそうとしていた鉤爪を持つ手で頭を押さえながら呻き声を上げ始めた。

 

 

 巨竜が呻き声を上げ、苦痛に咆哮を上げるたびに血管のような赤黒い脈動と、白銀に輝く脈動が交互に巨竜の体を駆け巡っていき……巨竜の体を包み込む、漆黒の鱗のところどころに罅が入り始め。

 その僅かに、理性の光が戻った漆黒の巨竜は、片手でその頭を押さえながら、苦痛に満ちた声を発する。

 

 

「ナ、ゼ……殺サナイ……!俺ニ、オ前達ヲ殺サセル、ツモリカ……?!」

 

 

 少しでも気を緩めれば、進化の秘法によって捻じ曲げられた暴力の衝動を愛する家族へ向けてしまいそうで、ソレが何よりも恐ろしい漆黒の巨竜は咆哮交じりの声で必死に家族達へ訴えかける。

 だがしかし、集まった家族達にとってはそんな事、すでに覚悟してきた事で……。

 

 

 

「何を馬鹿な事を言っているドレイク、さぁ。一緒に帰るぞ」

 

 

 その黒髪に白髪が目立ち始めたパパスが、威風堂々たる戦装束に身を包み、背中に背負った愛用の剣に手をかけて応え。

 

 

「そうですよ坊ちゃま、お子様達の4年間分の誕生日パーティもしないといけませんからね」

 

 

 同じく白髪の混じり始めたサンチョが、全身鎧に身を包んだ上で大盾とウォーハンマーを構えて朗らかに巨竜へと伝え。

 

 

「ドレイク、ずっと頑張らせて本当にごめんね。そして、ありがとう……だから、今度はボク達がドレイクを助けるんだ」

 

 

 ずっと悔やみ、そして今度こそドレイクと共に歩いて行こうと決意を固めたリュカが、ボブルの塔で手に入れたドラゴンの杖を構え。

 モンスター達の中でも、特に精鋭と言える装備に身を固めたモンスター達と共に立ち向かう決意を固める。

 

 

「ドレイク、人間に戻れたら一緒にまた温泉に入りましょう? 少しぐらいゆっくりしても、きっと誰も怒らないから」

 

 

 そう告げると共に、ビアンカは颯爽とチロルへ跨り、左手でチロルに掴まりながら右手に魔力を集中し始める。

 あの時はただ、成す術もなくドレイクをただ一人行かせてしまった後悔は、冒険を経て守られるだけだった女性を強くしたのだ。

 

 

 家族達からの暖かい言葉に漆黒の巨竜、ドレイクの瞳に明らかな迷いが生じる。

 恨まれ憎まれてでも、家族を自ら傷付けるぐらいならば死を選び、二度と醒める事のない眠りに就く事を躊躇しなかった男の心に。

 生きたいと、家族達と未来へ進んでいきたいという、押し殺していた渇望がむき出しにされていく。

 

 しかし、漆黒の巨竜へと変貌した男の意思は、瞬く間に殺意と憎悪に塗りつぶされていってしまい……

 漆黒の巨竜は全身に赤黒い脈動を走らせながら、殺意に満ちた瞳で人間達を見下ろす。

 屈強な男でも腰を抜かし、命乞いをしてしまいそうな圧迫感、しかし誰一人として臆する者は居らず。

 

 

「帰ろうドレイク、ラインハットの皆も貴方を待っている」

 

 

 動き易さを重視した戦装束に身を包んだヘンリエッタが、毅然とした表情で剣を抜き放ちながら巨竜を臆することなく見据える。

 決して楽な旅路ではなかった、しかしそれ故に彼女もまた一流に連なる戦士としての才能を開花させ、今ここに立っている。

 

 

「ドレイクさん、貴方は十分苦難の道を歩いてきました。少しは他の人に託して、楽な道を歩いでいいんです」

 

 

 時折フローラと交代したりはしていたが、それでも巨竜と化したドレイクの傍に居た時間が長い人物の一人であるマリアは、祈るように手を組みながら巨竜を見据え語り掛ける。

 聖女と呼ばれ、今や一児の母となった女性が昔も今も願う事はただ一つ、ドレイクが光の当たる場所で生きてくれる事なのだ。

 

 

「ドレイク、随分と見ない間に育ったな。成長期か?」

 

 

 厚な全身鎧に身を包んだヨシュアがマリアを庇うように前に出ながら、手に持った槍で肩を叩きながら冗談めかして巨竜へ語りかける。

 自分と妹を救い、そして国すらも救った親友の末路がこんな事になるなど、彼にとって納得できるものではなかったのだ。

 

 

 語り掛けられる言葉、怯える様子を見せない人間。それらに対して漆黒の巨竜は忌々しそうに攻撃を仕掛けようと動き始めようとする。

 しかし、思うようにその体は動かない、まるで僅かに残った人間性が必死に耐えようとしているかのように。

 ソレと共に、巨竜は頭に鈍痛を感じ、両手で頭を抱えるようにしながら呻き声を上げ始める。

 

 

 憎悪と殺意に塗りつぶされながらも、それでも漆黒の巨竜へ変貌した男は抗い続けているのだ。

 

 

 

「ドレイクさんお願いです、帰ってきてください。一人で寂しい所に、私達を置いて消えて逝かないで下さい……!」

 

 

 漆黒の巨竜が頭痛に身をよじり、翼を震わせる度に発せられる風に長い蒼髪をなびかせながら、フローラは悲痛な声で巨竜へと訴えかける。

 もう十分じゃないかと、貴方一人だけに重荷を背負わせたくないという懇願じみた叫びは、頭痛に呻く巨竜に確かに届いた。

 

 

「ドレイク、アンタ……帰ってこないと承知しないって私言ったわよね? 覚悟しなさい、とびっきり痛くしてやるんだから!」

 

 

 妹とは対照的に、デボラは手に持ったグリンガムの鞭を素振りし床へ鞭先を叩き付けながら、眦を吊り上げて巨竜を睨みつける。

 誰にも見せなかったが、彼女もまた泣くほど心配しどうしてと嘆いたのだ。故にこそ、首輪をつけて引き摺ってでも連れ帰る決意をデボラは再度強く持つ。

 

 

「フローラを泣かせたら殴りに行くとは約束したけど、まさかこんな事になるとはね……だけどルドマンさん達も、サラボナの人達も皆君を待っている。だから帰ってくるんだ、ドレイク!」

 

 

 最近、ようやく新たな恋を見つけ結婚式を挙げたばかりのアンディが、苦笑いを浮かべながら漆黒の巨竜を怯える事無く見据える。

 その背には大きな背嚢が背負われており、中にはルドマンから預かった道具や薬を満載してきている。実力は一歩どころじゃない程足りないかもしれないが、弱者には弱者の戦い方があるのだ。

 

 

 

 漆黒の巨竜は、自らの中の相反する意思に苦しむ。

 殺せ、殺したくない、壊し尽くせ、壊したくない、と異形へと変貌した思考の中で必死に抗い続ける。

 そうして、苦しむ漆黒の巨竜の前に、6人の少年少女達が決意を秘めた表情で、歩み出た。

 

 

「父上……その、苦しいよな。終わらせてやるよ、皆で」

 

 

 異形に堕ちてなお、自分達を傷付けない為に抗いもがき続ける巨竜、父の姿に天空の鎧を着込み。

 右手にウォーハンマーを、左手にドラゴンシールドを持つ緑色の髪を切り揃えた少年、ヘンリエッタとドレイクの間に生まれた子であるコリンズが複雑そうな顔で巨竜を見据え。

 

 

「お父様、あと少し我慢してください。皆でお家に帰りましょう?」

 

 

 水の羽衣に身を包み、錫杖を手にした少女。マリアとドレイクの間に生まれた娘であるポピーが母親と同じように祈るようなしぐさをしながら、巨竜を見据え。

 

 

「パパ、ありがとう。パパのおかげで皆無事だよ、だからさ。一緒に帰ってお昼寝しよ? デボラママに、あんまり怒らないよう僕からもお願いするからさ」

 

 

 シャドウパンサーのシャドウに跨った、フローラとドレイクの間に生まれた息子のテンはのんびりとした口調で語りかけながら。

 左手に天空の盾を構え、右手に彼の妹が設計し職人が作り上げた一点もののビッグボウガンを携えて、父である巨竜を見上げる。

 

 

「パパ……あのね、わたし。いっぱい、いっぱいお勉強したの。だから、帰ったら、あの時みたいになでなでして?」

 

 

 賢者のローブに身を包み両手で杖を持つ黒髪の少女、デボラとドレイクの間に生まれた子のソラが、怖いはずなのに何故か怖くない父であった漆黒の巨竜を見上げて、か細い声で懇願する。

 

 

「お父さん、皆凄い心配してるんだよ。お爺ちゃんとお婆ちゃんもそうだし、お母さんたちも心配してたわ。だから、早くお家に帰ろう?私も一緒に謝ってあげるから」

 

 

 金髪をおかっぱ状に切り揃え、お気に入りのリボンを付けた少女。ビアンカとドレイクの娘であるタバサが、必ず連れ戻すという決意を込めて漆黒の巨竜を見上げて語り掛ける。

 

 そして。

 

 

「お父さん……あのね、僕だけじゃない。お母さんもお爺ちゃんも、皆頑張ってここまで来たんだよ。皆で頑張ればここまで出来るんだよ、だから……」

 

 

 あのロクデナシでわからずやで寂しがり屋の兄弟を頼む、とオーブを光らせながら自らへ意思を伝えてくる天空の剣へ目を落とし、灰色の髪を持つ少年はこくりと小さく頷くと。

 自らの背丈ほどもありながら、羽根のように軽く感じる天空の剣を両手に持ち、切っ先を父である漆黒の巨竜へ向ける。

 

 

「もう、お父さんだけに頑張らせたりなんかしないから。だから……帰ってきてよぉ!」

 

 

 リュカとドレイクの間に生まれた息子、レックスの涙交じりの訴えは立て続けに浴びせかけられた子供達の言葉や訴えによって揺らいでいた、漆黒の巨竜の心を大きく揺さぶり。

 その揺さぶりは、巨竜の中で抗い続ける息子であり夫であり父親であった男の意思に、確かな活力を与え……進化の秘法を打破する糸口となる。

 

 

 そして、その抵抗によって生まれた糸口を塞ぐため、進化の秘法はその力を漆黒の巨竜を覆いつくす殻のように、巨竜の体を赤黒いオーラで覆いつくしていく。

 妖精の助力によって、異界へ全員で転移していなければ、さらなる力を魔界から送られてこの目論見は破綻していたであろう。

 しかし、そうでない今。進化の秘法による悪意と邪悪な力が表に出ている今この時が、漆黒の巨竜を……ドレイクへと戻す為の最大にして唯一のチャンスであった。

 

 

 

 故にこそ、魂を震わせ身を竦ませる咆哮を上げる、漆黒の暴竜と化した存在にリュカ達は臆することなく立ち向かう。

 愛する家族と一緒に、家へ帰る為に。

 




Q.妖精さんの異界転移ってどういうこと?
A.ベラさんが妖精のホルンを吹いて座標指定し、ポワンさまと妖精女王、更に妖精sが魔力を結集して儀式呪文を発動。
 魔界からの影響を遮断すると同時に、塔の頂上から決戦のバトルフィールド(DQ11のラスボス空間的な)へ転移させた感じです。
 ベラさんが倒れると帰れなくなるので、彼女はこっそりと隠れつつ援護呪文をちまちま今後は撃つ感じ。


次回は、皆でお家に帰る為の戦い開始です。

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