勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある? 作:社畜のきなこ餅
ソレと、ドレイク凱旋の後のパパスさんとの打ち合わせ会、ついでにパパスさんが裏でRTAやってたことが判明する回です。
それと、今回あの方が登場します。
グランバニア ♪日
昨日は、天空の竜騎士とか呼ばれる事になった俺と、王女であるリュカの婚姻発表の宴でそれはもう大騒ぎであった。
その際に、俺はリュカ以外にも5人の女性と重婚している事を正直に明かした。パパスさん含めたリュカを大事にしてきた人達へ、通すべき義理だと思ったからだ。
しかし、特に何事もなく宴は進行した。思わずパパスさんへ視線を向けてみれば、リュカが他の女性とは一味違う指輪を着けている事から、リュカの扱いを一段上に置いていると判断されたらしい。
まぁ実際問題、精神的区別はないにしても、公的区別の為にリュカが正妻と言う事になっているのだが……。
……ちなみにこの件の話し合い、俺はノータッチで。女性陣だけの話し合いでそう決まっている。正直どんな話し合いがされていたのか気になる反面、知らない方がよい気がしてしょうがない。
ちなみに宴の間、酒の席で酔いつぶれて醜態を晒した事を理由に、一切の飲酒を失礼を承知で断らせてもらっている。
パパスさんに子供の頃託した知識こそあるが、どこで何が起こるかわかったものでもないので、念には念を入れて、だ。
まぁ結論から言えば、昨晩は警戒は無駄に終わりその日は何事もなく夜が更け、特にトラブルもなく朝日が昇ったんだけどな。
そんなこんなで夜が明け、嫁達はサンチョさんとリュカに任せつつ、パパスさんと今後について話し合う。
ちなみにリュカは、ブオーンを撃破した時に見つけた最後の鍵を手に、フローラ達と円陣を組んで何やら話し合っていたが、まぁきっと悪い事じゃないだろう。
パパスさんにも、ゲマが俺の体に施した進化の秘法の事を話した上で、これを何とかする為の手がかりを探すために旅に出たいと告げる。
俺の言葉にパパスさんは少しはゆっくりしてはと言いかけるが、同時に彼の悲願である妻の救出にもつながるであろう事を思い、口をつぐむ。
そして、取り急ぎはエルヘブンへ向かって、そこから沈んだ天空城へ向かう予定だとパパスさんへ話してみると、なんと既にパパスさんが踏破済みらしい。
なんでも、ラインハットの報を聞いたパパスさんは、グランバニア城内の整理もようやく終えた事で身動きが取れる状態になっていたらしく。
リュカとサンチョさんが旅立つのに合わせ、オジロンさんに頼み込んだ上で単身エルヘブンへ渡ったらしい。
当初は、マーサさんを半ば攫うかのように駆け落ちしていったパパスさんを邪険に扱っていたエルヘブンの民だったが……。
俺の話題を出したところ、何とか話を聞けるようになったそうで、いずれ俺がエルヘブンへ赴く事を条件に助力を得られたとの事だ。
その後はエルヘブンで受け取った魔法の絨毯を使って天空の塔跡を登り、更には途中で天空人のプサンと名乗る男を拾いつつ沈んだ天空城まで向かったらしい。
ん?今さり気なく聞き逃せない単語が出たぞ?
思わず問い返せば、俺がサンタローズでパパスさんに一切合切ゲロった例の知識の中にある、例のプサンらしい。
ついでに、そのまま沈んだ天空城へ一緒に赴いた際、オーブの行方を不思議な力で探った時に実の息子である俺に起きたことを知って酷く落ち込んでいたそうだ。
パパスさんに、グランバニア城のどこに匿われているか聞いた後、席を立つ。
部屋を出ていこうとする俺の背中に、パパスさんが後悔だけはないようにな。と切実に訴えるような声で言葉を投げかけてきたので、殺しはしないさ。とだけ返す。
ただ、ケジメをつけるだけだ。
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昨日の、当代の天空の勇者。いや、天空の竜騎士の凱旋にグランバニア城は今も沸き立っている。
パパス王が世話役としてつけてくれた年配のメイドの話では、国中がリュカ王女との婚姻含めて勇者を祝福しているとの話だ。
昨日は国の重鎮との会合や、パパス王との久しぶりの語らいで忙しかったあの子だが。
きっと、今日にも私の下へやってくるであろう。
あの子は間違いなく、私を憎んでいるのだから。
「マスター……いえ、プサン様……」
「何も言うな、そしてあの子が私に何をしようとも……何もせず静観せよ」
私より先に、グランバニア城に匿われていた天空人が私を気遣うように見つめてくるが、手を振ってその先の言葉を遮る。
かつての過ちから、人の営みを見詰め直し、実際に体験する為に地上へ降りた事、そして旅の途中で行き倒れた私を救い介抱してくれた女性を愛し、交わった事は言い訳のしようがない程に愚かな事だ。
だが、それでも彼女を愛した事までを過ちだったとは思いたくないと共に、何故彼女を置いて旅に出てしまったのであろう。とも自責の念が頭を過る。
彼女は、きっと私を最期まで恨み、そして息を引き取ったのだろう。そう自嘲しながら部屋に据え付けられた窓から外を眺めていれば、来客を示すノックが部屋に響き渡る。
視線を扉へ戻し、どうぞ。と声を出したが、果たしてその時私の声はいつも通りの声を出せていただろうか?
そして、扉を開き入って来た人物は、想定通りの人物。
私の罪の証とも言える血を分けた息子、ドレイクであった。
ドレイクは、私と対面に座っていた天空人を見た後、私の方へまっすぐ無言のまま歩を進めてくる。
その顔は俯き、彼女譲りの灰色をした髪で目元が隠されており、どのような目をしているのか伺い知ることは出来ない。
やがて、私の前に立ったドレイクは、口を開き感情を押し殺したかのような声を搾り出す。
「……母さんの最期の言葉を届けるよ。 『プサン、貴方に一目だけでも。また会いたかった』てな」
ドレイクの言葉に、私は何も言う事が出来なかった。
恨んでくれてよかった、憎んでくれれば良かった。
なのに、彼女は最期の瞬間まで、私を愛していたというのだ。
「なんで、母さんを置いていったんだよ……? 体だけの関係だったとでも言うつもりか?偉大な天空竜さまがよぉ!!」
言葉を発さない私に業を煮やしたらしいドレイクは、座ったままの私の胸倉を掴み。
その目尻に涙を浮かべながら、私を激しく問い詰めてくる。
「……愛していたさ、彼女の存在は、私の心に確かな暖かさをくれた」
「じゃあなんで!?」
「……沈んだ天空城を、蘇らせる為には留まるわけには……いかなかったからだ」
「っ…! 歯ぁ食い縛れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
胸倉を掴まれたまま応えた私の言葉に、ドレイクは音が響く勢いで強く歯軋りし。
左腕で私の体を掴み持ち上げると、私の頬へ大きく振りかぶった拳を叩きつけてきた。
ドレイクの拳が私の頬へめり込み、そのまま吹き飛ばされて部屋の壁に背中から叩きつけられる。
座ったまま状況の推移を見守っていた天空人が駆け寄ろうとしてくるが、私は腕を振り上げて彼女を制止する。
今の一撃で口の中を切ったらしく、口元から血は流れ痛みで頭はくらくらするが、コレは私が受けるべき罰なのだ。
そしてドレイクは大股で、壁に背を預けたままの私へ近づくと。
しゃがみ込み、右腕を差し出してきた。
「……母さんを愛していた、その言葉に嘘は無さそうだし。この一発で終わりだ」
「……お前は、私を恨んでいないのか?」
のろのろと伸ばした私の腕を掴み、乱暴に立たせるドレイクを見る。
彼の瞳には様々な感情が渦巻いていれども、しかしその中には……少なくとも憎しみの感情は、無かった。
「思うところが無いと言えば嘘になる、だけどな……アンタが母さんを愛してくれたおかげで、俺はこの世界に産まれる事が出来たんだよ」
私の体へホイミをかけて離れると、空いていた椅子に乱暴にドレイクは座り込み。
彼女の面影が遺る顔でぶっきらぼうに言い放つ。
「そのおかげで、俺は愛する女達に出会えた。だから俺なりにアンタには感謝してるんだよ、『クソ親父』」
その言葉を口にし、ケッと口にしながら……ドレイクは顔を背けた。
私を、乱暴な言葉ながら父と認めてくれた息子の言葉に、私はみっともなく崩れ落ち、嗚咽を漏らす事しか出来なかった。
守るべき世界を悪意に蹂躙され、居城を深き水の底へ堕とされた情けない私を、この子は父と認めてくれた。
とても情けない話だが、その事がとても、嬉しく。
そして同時に、自身がとても情けなく思えた。
Q.マスタードラゴンさん、なんか弱々しくない?
A.不思議パワーあっても、人間女性と愛を交わすぐらいには人間性が上がっているのだ。
Q.ドレイクの怒り弱くない?
A.自身が苦境に立っていた頃ならまだしも、愛し愛されている今。プサンが居なければ自分も存在しなかったことを理解したが故です。
後は、母の最期の言葉が憎しみじゃなかったことも大きい。
というわけで、ドレイクとプサン。父子の再会でした。
プサンさんは、愛した女性の為にも世界を平和にするために天空城復活の為に旅立ち。
ドレイクの母は、愛した男の使命を察して涙を飲んで見送ったのである。
ちなみに、父子の再会当初はもっと先の予定だったのですが……。
パパスさんなら、短期間でここまでやれるよな、っていう作者の謎の信頼によりこうなりました。
早い段階で父子の再会を書きたかった、と言うのもありますけども。