勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある? 作:社畜のきなこ餅
クラフトボス(ブラック)を5本、タバコを一箱生贄に捧げてようやく完成です。
古の魔物、ブオーンが竜の剣士ドレイク達に打倒された日の翌日。
昨晩の激闘によって、サラボナの街並みはところどころ荒廃しているが、それでも人々の顔には笑顔が浮かんでいた。
恐れ、陰口を叩いていたにも関わらず、巨大な魔物相手に退くことなく闘い、勝利を収めた新たな勇者ドレイク。
彼を闘いのさ中で救助した荒くれ達は、自らの活躍も交えつつ間近で見た戦いを、復興作業の休憩の時に周囲の人間へ語っては聞かせ。
誤解から攻撃し、そして嫉妬で流言を流布した裕福な商人は、身銭を切って復興に少しでも貢献しようとしていた。
希望に満ちたサラボナの街、その中でも一際大きい今回の戦いでも目立った損傷が幸いにも無かったルドマンの屋敷にて。
ドレイクは、決意を込めた瞳でルドマンとサンチョ……。
そして、リュカにビアンカ、ヘンリエッタとマリア、デボラとフローラの合計8人の前で、口を開く。
自分は、6人の内誰か一人を選ぶ事など出来ない最低の男だと。
その上で、ドレイクは訥々と語り出す。
ヘンリエッタとマリアとは共に長い年月を過ごしており、その間の心の支えが無ければ自分は魔物へ堕ちていた事を。
フローラには、海辺の修道院で世話になった恩があるし、自分を癒したいと話してくれた気持ちは心の底から嬉しかった事を。
デボラから、縁もゆかりもない男だというのに手厳しく叱咤してもらえたことで、自分の過ちと思い上がりを正す切っ掛けがもらえた事を。
ビアンカが、かつての思い出の頃から見違えるほどに美しく育って居た事に驚き、自分の旅路に付いて行きたいと言ってくれたことが嬉しかった事を。
そして、リュカには子供の頃から心の支えになってくれていた事、そして船の上で自分の努力を肯定してくれた事が嬉しかった事を。
ともすれば、惚気とも言える言葉を恥じ入る事無くドレイクは言い切り、だからこそ自分には誰かを選ぶ資格などないと口に仕掛けたところで。
ずっと、ドレイクの言葉を黙って聞いていたリュカが踏み出し、ドレイクの瞳を真正面から見上げて問いかける。
「お兄ちゃん……ううん、ドレイク。貴方は嘘は吐いてないけども、それでも隠し事をしているよね?」
「……何のことだ?」
「ボクには、ドレイクが『選べない優柔不断な男を演じて、嫌われればすべてが丸く収まる』って言っているように見えるもん」
怒ることなく、悲しむこともなく淡々とした口調でドレイクを見上げて詰問し強い眼差しをドレイクへ向けるリュカ。
その眼差しに耐え切れずドレイクは目を逸らし、続けて放たれたリュカの言葉に目を見開いてドレイクは狼狽する。
語るに落ちたとは正にこの事で、そんな男の姿にデボラは呆れたと言わんばかりに大きな溜息を漏らす。
「そもそもアンタ、あの時『愛してるぜ、お前ら』なんて気障な事言ってた癖に、往生際悪すぎない?」
「あ、あれは勢いで……」
「勢いで出ちゃうと言う事は、本音ですよね?ドレイクさん」
ブオーンへ立ち向かう際にドレイクが彼女達へ向けた言葉を思い出し、自らの顔が熱くなるのをデボラは自覚しつつ精一杯の悪態をドレイクへ叩き付け。
フローラもまた、ふわりと微笑み、ドレイクの逃げ道を鮮やかに塞いでいく。
ここで咄嗟に上手い事を言えればまた状況は変わったのかもしれないが、ドレイクという男は根本的に女性関係に慣れてはおらず。
にやにやとした笑みを浮かべているルドマンとサンチョの前で、ビアンカはドレイクへ視線を向けて口を開く。
「お兄さんは、私達の事が嫌い?」
「い、いや。そういうワケじゃ……」
にこりと微笑むビアンカ、その微笑みに無意識に後ずさるドレイク。
そこでふとドレイクは気づく、女性陣が少しずつにじり寄ってきている事実に。
ヘンリエッタとマリアへ視線を向けてみれば、ビアンカと同じようににこりと花開いたかのような微笑みを浮かべられる。
そして。
「ドレイク、ボクね……ずっと『お兄ちゃん』の事が大好きだった。あの頃の『お兄ちゃん』が傍に居てほしかった」
「リュカ……」
その中で一人ドレイクへにじり寄っていなかったリュカは、自らの胸に手を当てながら言葉を紡ぐ。
突然のリュカの言葉に、ドレイクはリュカの心に傷を残していたことを改めて自覚し、後退っていた足を止める。
ドレイクの様子にリュカは微笑み、過去の思い出に決別し、想いを確かな形とする為に口を開く。
「過去は過去、それでも……ボクは今を生きてくれている貴方を愛しています」
まるで穏やかな日溜まりのような笑顔と共に、飾り気のない愛を捧げる言葉がリュカからドレイクへ贈られ、その言葉にドレイクは目を見開き。
言われた内容を理解して、その顔が見る見るうちに赤くなっていく。
一連の流れを、音を立てる事無くお茶を啜り見守っていたルドマンとサンチョは、ドレイクはあんな顔も出来るのだななどと感想を抱いていた。
リュカの言葉、そしてドレイクの反応に状況を注視していた女性陣はここで気付く。
ドレイクという男は、見た目や功績にそぐわず取り繕わない真っ直ぐな愛の言葉が、一番有効である事を。
「ドレイク、大神殿で守り続けてくれてありがとう。出遅れた形になるけども、私は貴方を愛しています。貴方以外なんて嫌なんです」
「ヘンリエッタ……」
「ドレイクさんって、ずっと私を子供扱いしてましたよね? 守られ続けた私ですけども、それでも貴方の傍に居たいんです」
「マリア……」
長年共に居続け、依存をさせてしまったと思っていた二人の女性の、真っすぐな瞳とその言葉にドレイクは茫然と彼女達の名前を呟き。
同時に、二人の内心を決めつけていたことを、内心で恥じた。
「ふふふ、そんな顔も可愛いですよドレイクさん? 不束者ではありますけども、それでも、貴方が自身を愛せるようになるまで、そして愛せるようになった後も……私は貴方を愛しています」
「フローラ……」
「本当、どれだけ女引っかけてんよのアンタは。けどま、死んだ小魚の目が釣り上げた小魚の目ぐらいにはなったようだし、折角だからアンタを、その……愛してやるわよ」
「デボラ……」
ずっと心の底へ押し隠し続けてきた、己自身への嫌悪感を見抜いていたフローラにドレイクは驚きを隠すことなく茫然と呟き。
デボラの素直とは程遠い、しかし思いやりに満ちた言葉にドレイクは不器用に笑みを浮かべる。
「お兄さん、私ね。あの時からずっとお兄さんの事が好きだったの、だけど今は。貴方の傍に寄り添いたいの、愛してるわ……ドレイク」
「ビアンカ……」
レヌール城の冒険の後、別れたきりだったかつて少女だった美しい女性の言葉に、ドレイクは女性の名前を口にする。
6人から愛の言葉を捧げられたドレイクは、己の心に自問する。
自分は本当に彼女達を愛しているか?と。
そして、その答えは是であった。
「……物凄く最低な事を言わせてもらう事になってしまうな」
己の心の赴くままに、大きく深呼吸しながら後ろ頭をドレイクは軽く掻く。
そして、決意を込めて6人を見回し、強い意志を持って宣言する。
「リュカ、ビアンカ、ヘンリエッタ、マリア、フローラ、デボラ……俺の嫁に、なってくれ」
緊張で口の中の水分が乾き、時折言葉に詰まりながらも青年は今までの人生の中で最大限の勇気をもって、人生で最低の言葉を告げた。
青年の言葉に、名前を呼ばれた女性達は互いに顔を見合わせて苦笑いすると、ドレイクへ向き直り。
異口同音に、喜んで。と承諾の返事を返すのであった。
新たな天空の勇者が、6人の美女と美少女を妻として迎え入れたという仰天の報せは、瞬く間にサラボナの街を駆け巡った。
ある人はめでたいと秘蔵の酒を空けて乾杯し、ある荒くれはあの野郎全部掻っ攫っていきやがったと嫉妬の咆哮を上げ、ある裕福な商人はむしろとっとと降って御用聞きになるべきだったと後悔する中。
花嫁達には準備が必要だと、ルドマンの屋敷から放り出されたドレイクは人目を忍びながら、サンチョと共にとある家の前に立っていた。
「坊ちゃま、こちらが……」
「ああ、花婿レースで同道した、アンディの家だ」
ブオーンの襲撃でも、幸い目立った損傷が起きていない家の扉をドレイクがノックすると、年を召した老人が中から顔を出し。
ドレイクの顔を見て要件を察したのか、アンディの部屋へと案内を始める。
その間、ドレイクとサンチョ、そしてアンディの父との間に会話は何一つなく……。
「ああ、ドレイクさん。この度はご成婚おめでとうございます」
部屋の扉をノックされた後に開けられた、部屋の中のベッドの上で上半身を起こしている、体のあちこちに死の火山で負った火傷を癒すための包帯を巻きつけたアンディに迎えられた。
ドレイクに頼まれたサンチョが部屋の前で待つ中、ドレイクはアンディのベッドの横に置かれた椅子に腰かけて病状を尋ね、まだ節々は痛むけども快方に向かっているという言葉にホッとした表情を浮かべ。
フローラ達を妻へ迎える事を、頭を下げてアンディへと詫び、その次の瞬間アンディの華奢な腕で下げた頭を勢いよくはたかれた。
「言うに事欠いて何を言ってるんですか? 僕を笑い者にしたいんですか? 貴方は」
「そういうつもりではなかったのだが……」
「貴方は少々、その辺りの機微が疎すぎますよ。これじゃあお嫁さん方も苦労しそうだ」
はたかれた頭を摩りながら回答するドレイクに、アンディはやれやれと肩を竦めながら溜息。
まるで、社会から長い間離れていた世捨て人のようなドレイクに、苦労させられそうなデボラを思い……色々と便利に使われた過去から、まぁ良いかなどとアンディは思いつつ。
ドレイクへ向かって口を開く。
「僕ではフローラの憂い顔を晴らす事は出来なかった、それが唯一にして絶対の答えなんですよ」
「そうか……」
「だから謝らないで下さいよ? 貴方は少々どころじゃないぐらいズレた人ですけども、貴方ならばフローラを任せても悔いはないとハッキリ言えるんですから」
強い意志を持った青年の言葉に、ドレイクはただ頭を下げて。ありがとう、と一言告げ。
ドレイクの言葉に、でもフローラ泣かせたら何を差し置いてでも殴りに行きますからね。と朗らかにアンディは笑って宣告をするのであった。
修羅場「あれ?私の出番は?」
残念だが、修羅場はもう作者的にもお腹いっぱいなのだ。暫く出番はいらないのだ。
そういうワケで、ドレイクは最大限の勇気を振り絞って最低の選択を選びました。
ドレイクという男は恋愛クソ雑魚ナメクジなので、真正面からの真っすぐな好意と愛の言葉に弱いという、チョロい特性を持っていたのです。
何故かって? この世界に産まれ堕ちて、真っ当な人間社会で殆ど過ごせていなかったのですから。しょうがないね。
忘れ去られてる疑惑のある最後の鍵さんは、次回あたり顔を出すかもしれません。