勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある? 作:社畜のきなこ餅
納得いく仕上がりにする為に、リュカちゃん視点の番外編を投稿する事にした作者の屑であった。
古の魔物ブオーンが打倒された、サラボナの夜。
抗えない絶望を覆した英雄の姿に、街の住人は大いに沸き……誤解と嫉妬からドレイクを攻撃し流言を流布していた、裕福な商人が身銭を切って住人らへ酒や食事を振る舞う。
人々は互いに酒を酌み交わし、吟遊詩人は新たな伝説とも言える、目撃した光景を即興で詩にし楽器をかき鳴らしながら英雄への賛歌を歌い上げていた。
しかし一方で、極大と形容するのが相応しい一撃を放ったドレイクはフラつきながら地面へと降りた後、ゆっくりと地面に倒れ伏していて。
その姿を人目に見せないようにされながら、ドレイクはルドマンの屋敷の一室でベッドへと横たえさせらえる事となった。
当初は大いに取り乱したルドマンとサンチョ、そして女性陣であったが……。
治療に造詣が深いマリアと、回復呪文が得意なフローラによる診療から、ドレイクの昏倒は極度の疲労と緊張によるものだと判明した事で、胸を撫でおろす。
せめて看病を、と願い出るマリアやフローラであるも、メイドからは皆様方も闘いでお疲れである以上そのような事はさせられない、と断られた。
そして、夜も更けた頃。
胸の高鳴りで、中々寝付けなかったリュカはベッドから下りると、あてがわれた部屋のバルコニーへ通じる戸を開け、夜風にその身を晒す。
胸に去来するのは、ドレイクの雄姿と……彼から言われた愛している、という言葉。
そして、サンタローズに居た頃、かつて幼かった頃の自分では結局させられなかった、初めて見たドレイクの自然な笑顔だった。
「ボクは、お兄ちゃんの重荷だったのかな……?」
夜風で自らの長い髪がなびき、そっと片手で髪を抑えながら未だ破壊の痕がそのままになっている、ドレイクが守った町をリュカは見下ろす。
かつて幼かった頃のリュカにとってドレイクは、とても頼りになるお兄ちゃんで、そして父のパパスに並ぶ無敵の象徴だった。
しかし、その幻想と憧憬は自分が人質に取られた事で砕かれ、残ったのは幼い頃の思い出に縋る少女だけになってしまった。
リュカは自らの胸に手を当てて考える、自分はドレイクを愛していると胸を張って言えるかと。その問いかけには自信を持って愛していると即答出来る。
だけれども、自分は今のドレイクを通して過去のドレイクを追いかけていたに過ぎないのではと思ってしまい、その事が彼女にとって心に刺さる棘と化していた。
水のリングを回収に行くときに、船の上でドレイクに教えてもらった、彼の足跡を想いリュカは夜空を見上げる。
懺悔をするかのように、辛かったであろう思い出を語ってくれたドレイクを見て、あの時リュカは胸が締め付けられる思いがして。
ドレイクは頑張ったんだと、出来る事をやったんだと慰めた。しかしリュカは思う。
あの時自分がすべき事は、かつて頑張っていたドレイクへ向けた言葉をかける事ではなく、今あの時も苦しんでいたドレイクを認めて受け入れるべきだったのではないかと。
そこまで自問をして、リュカは自身の根底の想いを、自覚した。
「ああそうか、ボクは……『お兄ちゃん』を取り戻したがってたんだ」
サンタローズで共に過ごしていた頃のドレイク、そしてラインハットで置いてけぼりにしてしまったドレイク。
最早手が届かない、あの頃の思い出を探してさ迷い、決してもう手に入らない事をリュカは理解する。
何故なら、あの頃の思い出を求め続けるという事は、戦い続けてきた今のドレイクを否定すると言う事なのだから、と。
ドレイクにこれ以上戦ってほしくなかったのも、思い出の『お兄ちゃん』から離れ続けてしまうドレイクを見るのが辛かったのだと、醜い自分の本音を直視したリュカ。
その上で、思い出が無ければ、ドレイクはどうでもよい存在なのかとも自問する。
自問に対する回答は、否であった。
サラボナの街で再会したドレイクは、ホークの死を乗り越えて強く逞しくなっていた。
更に、十年近くも離れていた自分を迷惑な顔をすることなく受け止め、優しく抱き留めてくれた。
そして……船の上で語らい合ったあの時間に感じた、縋っていた憧憬とはまた別の温かい感情を思い出して自らの胸へリュカはそっと手を当てる。
色々と自問をしたが、あの時の想いもまた嘘ではないと自信を持って言えた。
明日の朝、改めてこの思いを告げようとリュカは心に決めて部屋へ戻り、ベッドへ潜り込んでゆっくりと目を閉じる。
その日、リュカは夢を見た。
夢の内容は、大きくなったリュカの前でドレイクと逸れたリュカが泣きながらお兄ちゃんを探してるという、夢だった。
幼いリュカは目の前に立つリュカへ、お兄ちゃんがどこに行ったか知らない?と涙声で見上げながら問いかけ……。
大きくなったリュカは、幼い自分の前でしゃがみこむと、あやすように背中をポンポンと叩きながら、見つけたよと教える。
大人のリュカの言葉に、幼いリュカは涙声で本当?と見上げ、大人のリュカが指差した先で元気だった頃のホークを相手に、何やら話し込んでいる少年時代のドレイクの姿を指差し……幼い自分へ教える。
ようやく見つけた大好きなお兄ちゃんの姿に、幼いリュカは泣きながら駆け寄って飛びつくように抱き着き、ワンワンと大きな声で泣き声を上げる。
そんな幼いリュカの様子に、少年時代のドレイクは困ったように笑いながら抱き返すと幼いリュカの頭を撫で始めた。
そんな二人の姿に、リュカはぽっかりと穴が空いたままのように感じていた心が満たされるのを感じる。
そして、いつの間にかホークが消えている事に気付くと共に、背後から足元を突かれて振り向くと片羽根を途中から失った、大人のホークがそこに立っていて。
彼は一声、世話を焼かせる妹分だと言わんばかりにリュカを見上げると、失っているはずの翼を広げて空へと舞い上がり……ドレイクを頼むと言わんばかりに一声鳴くと、どこかへ飛び去って行った。
幼い少女の憧憬と思い出は、ようやく再会できたことで果たされ……今この時、少女だった女性は未来へ歩き始めたのだ。
ホーク「妹分が思い悩んでたからちょっと出張しただけで、俺はドレイクの剣に帰っただけだからな」
ホークにとってもリュカちゃんは、何度もおままごとの相手をする程度に大事な妹分だったのだ。
というわけでリュカ視点の話をお送りさせて頂きました。
リュカがドレイクに固執していたのは、思い出を追いかけ続けていたからで、あの頃のドレイクに戻ってほしかったからなんですよね。
だからこそ、闘いから離れてサンタローズで共に過ごしていた時のような、穏やかな時間を過ごしたがっていたのです。
けれども、リュカが大きくなったようにドレイクもまた成長しており、確かな決意と共に前へ進み始めた今。
リュカもまた、思い出と決別して改めてドレイクと向き合う事にしたのです。
なお、改めて向き合おうとした結果、やっぱりドレイクしかありえないよね。と肉食雌的思考に落ち着く模様。