勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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ブオーン決戦中編、という名の決着回。
なんとか、ぎりぎり間に合わせられました。


24・中

 

 漆黒の翼を広げて空を舞い、ブオーンを相手に戦いを繰り広げていたドレイクの墜落。

 その光景は彼を信じていた者、祈りながら勝利を願っていた者、少しでも状況を良くしようとする者全てに、大きな衝撃と絶望を与えた。

 ドレイクを叩き落としたブオーンは、その手応えから致命傷を与えたことを確信し、その上で確実なトドメを刺すべく瓦礫に埋まったドレイクめがけ巨体を揺らしながら歩き始める。

 

 

 その状況の中、ドレイクは瓦礫の中で大きく咳き込み、口から血を何度も吐き出しながら一瞬失っていた意識を取り戻す。

 だがその手からは、相棒とも言えるホークの剣は失われており、天空の鎧は大きな罅が入っている事から最早戦闘継続は困難な状況であった。

 しかしそれでも、ドレイクは諦めてはおらず、迫りくる地響きに対して怒りと憎悪を燃やし、未だ人間の姿を保っていた腕と脚を変異させながら、瓦礫を動かそうともがく。

 

 まるで、急速に人間としての自分がどす黒い業火に焼かれ灰となっていく錯覚を感じながら、ドレイクは咆哮と共に瓦礫を打ち砕こうとした、次の瞬間。

 どこかで聞いた覚えのする声がすると共に、ドレイクの視界を塞いでいた瓦礫が大きな音を立てて動かされた。

 

 

「居たぞぉぉぉ!」

 

 

 瓦礫を動かした存在……ソレは、それはドレイクへ想いを寄せる女性ではなく、リュカの配下のモンスター達でもなく。

 かつてサラボナで、花婿を選抜するための催しからドレイクが辞退するよう、ドレイクへ絡んできた荒くれ達だった。

 

 

「……なんで、お前達が?」

 

「なんでもクソもあるかよ! これでも齧ってろ!」

 

 

 茫然と呟くドレイクに対して荒っぽく叫び、その口へ薬草をねじ込みながら、屈強な体躯の荒くれ達が必死に瓦礫を除去しようと力を合わせる。

 その間もブオーンがゆっくりと迫っているというのに、男達は逃げ出す素振りを見せる事なく、声を掛け合いながらドレイクの動きを阻害していた瓦礫をどけていく。

 

 

「正直今でもてめーは気に入らねーよ! だけど、あの化け物何とか出来るてめーに託すしかねーんだよ!」

 

「おら!間抜け面晒してねーでとっとと口動かせ口!」

 

 

 男達が自分を助けている、という状況に思考が追い付かず茫然といたままのドレイクの顎を、別の荒くれが掴むと強引に上下させ無理やりドレイクに薬草を咀嚼させる。

 ある意味虫の良い男達の発言、しかし、何故かドレイクの心はとても晴れやかであった。

 

 彼らはドレイクと同じで、自分勝手な理屈で動き、自分勝手なことを相手へ押し付ける。

 だけれども。

 

 

「自分勝手にも、程があるなお前ら」

 

「うるせぇよ!」

 

「だけれども、それがいい。助かった……今度酒でも奢るさ」

 

 

 迫りくるブオーンがすぐそこまで来たところで、ドレイクはようやく動けるようになり、救助をしてくれた荒くれ達へ礼を言い。

 荒くれ達は、極上の酒奢れよ!などと叫びながら一目散に逃げていく。

 

 今この瞬間、ドレイクの心に初めて……どこかの誰かの為に戦うのも悪くないという気持ちが芽生えた。

 体は満身創痍で武器はどこかへ飛んでいき、鎧に至っては砕けてないのが不思議な有様。

 そんな状況で、ドレイクを見下ろすブオーンは大気を揺らしながらドレイクを嘲笑う。

 

 

「哀れなものだなぁ? みっともなく命乞いをするならば、一思いに踏み潰してやるぞ?」

 

 

 大きな口を吊り上げ、三つの目に嘲りを隠すことなくブオーンはドレイクへ言い放つ。 

 しかしそれでも、ドレイクの心には恐怖も絶望も、欠片も存在はしていなかった。

 

 何故ならば……。

 

 

「お兄ちゃん!大丈夫?!」

 

 

 チロルとシャドウを引き連れたリュカとビアンカが息を切らせながら駆け付けたことを皮切りに、ヘンリエッタとマリア、そしてデボラとフローラが来てくれたのだから。

 

 ドレイクは今まで、追い詰められた状況においては一人きりで戦い続けてきた。

 ラインハットの時は、勝算が十分にあったがゆえに仲間達と共に戦ったものの、強敵と言える相手や精神的に辛い時は自ら一人になる事を選んできた。

 何故ならば、それが一番楽だったのだ。庇い守る事を考えずに済むのだから。

 

 ソレが思い違いだと気付けたのは、自分を疎んでいる筈の人間……荒くれが自身も危ないのに、自分を救助してくれた時だった。

 人は簡単に悪事に転ぶ事もあれば、例えソレが自分本位の理由だとしても不意に誰かを助ける事もあるのだと。

 

 

 だから、ドレイクは少しだけ、他者へ助けを求める事にした。

 

 

「悪い、俺一人じゃ難しいから、手伝ってくれるか?」

 

 

 後ろ頭をかきながらドレイクは振り返り、大事な存在だと胸を張って言える6人の女性へ……ドレイクは恥も外聞も投げ捨て、素直に助けを乞うた。

 

 

「っ……! うん!」

 

「あんな大きいの相手するの一人で無理だったのよお兄さん、だけど。任せて!」

 

「何を今更、私の命は貴方と共にあるのだぞ?」

 

「うふふ、治療は任せて下さい」

 

「アンタねー、気付くの遅過ぎよバッカじゃないの? けどまぁ、頼まれたなら手伝ってやるわ」

 

「姉さんも素直じゃないんだから……ええ、お手伝いさせて頂きますわ。ドレイクさん」

 

 

 各人各様の頼もしい返事を聞きながら、ドレイクは何年振りかもわからない、自然と出てきた笑みを浮かべ。

 自分を無視するかのような小さな者達にブオーンは苛立ち咆哮を上げる。

 

 

「どれだけ群れようと、お前達程度が勝てるものかぁぁ!」

 

 

 まるで自分達の勝利を疑っていないかのようなドレイク達の姿に、ブオーンは不快さを隠すことなく大きく息を吸い込み。

 容易く命を灰へと変える激しい炎をドレイク達へ向かって吐きかける。

 

 迫りくる炎、ソレに対してドレイクは向き直ると変異し黒い鱗に包まれた左腕を掲げる。

 無駄にしか思えないその行為、しかしドレイクには確信があったのだ。

 今の自分ならば、天空の盾が応えてくれると。そしてその確信は事実へと変わり。

 ルドマンの屋敷の方角から光条を引きながら飛来した天空の盾が、ドレイク達を庇うように炎の前へ立ち塞がり、盾から発せられた聖なる結界によって炎は目標を焼き殺すことなく散らされる。

 

 予期せぬ現象に三つの目を見開き驚愕するブオーン、その目の前で激しい炎を無力化した天空の盾は掲げられたドレイクの左腕へ収まり。

 ソレと同時に、罅割れていた天空の鎧が光り輝き、白金の輝きを放つ全身鎧へと変貌した。

 

 今この瞬間、天空の武具はドレイクを祝福し、そして認めたのだ。

 魔道に堕ちかけながらも、ようやく前を向いて戦う意思を固めた一人の青年を。

 

 天空の武具から伝わる、己を鼓舞する意思を感じながらドレイクは振り返り。

 心からの言葉を、6人へ伝える。

 

 

「愛してるぜ、お前達」

 

 

 そう言い残し、ドレイクは強く地面を蹴って飛び上がると、変異によって一回り大きくなった翼をはためかせて空へ飛び上がり。

 愛剣に宿る相棒の名前を叫び、叫びに呼応して手元へ戻って来た剣を右手で強く握りしめる。

 

 先ほどまでは、満足な飛行が出来なかった翼で強く羽ばたき、盾を掲げながらドレイクは咆哮と共にブオーンめがけて突進。

 今までとは速度も鋭さも段違いのドレイクの速度にブオーンはたじろぎながらも、先ほどと同じように腕を大きく振るう事でドレイクの接近を阻む。

 そして、大きく距離をとったドレイクめがけて稲妻を放とうとした瞬間……。

 ブオーンの足や下腿部めがけ、リュカとビアンカが放ったバギマとメラミが浴びせかけられ、注意を逸らされたブオーンの稲妻はドレイクを捉える事無く虚空へと消えていく。

 

 ならば先に足元の虫けらを踏み潰してやると、ブオーンは大きく足を踏み出すも、ソレを阻むかのようにドレイクが再度飛来しブオーンの肩口を手に持った剣で切り裂いていく。

 さっきと似てるようで、大きく状況が変化した一進一退の攻防はブオーンの苛立ちを加速させ、名案を閃いたブオーンは大きく踏み込むとその巨体に似合わない軽やかさで大きく後方へ飛びのき。

 足元からの呪文が満足に届かない距離から、ドレイク達を焼き殺すべく威力よりも飛距離を重視した炎の吐息を放とうと息を大きく吸い込み……即座に光線のような炎の吐息をぶちまける。

 

 回避をすれば足元のリュカ達が焼き殺されるとドレイクは判断すると、盾を構えて吐息の前に飛び出し天空の盾による結界で吐息を受け止めながら、それでも全身を炎へ焼かれていく。

 しかし、ドレイクが負傷すると共に物陰に隠れつつ支援をする隙を伺っていたマリアとフローラから回復呪文が飛ばされる事で、ドレイクの火傷は巻き戻すかのように治療される。

 

 思わぬ結果に地団駄を踏むブオーン、そしてその隙を逃がさないとばかりに……。

 サラボナの街沖合に停泊されていた、ルドマンが所有する船からバリスタの矢が放たれ。ブオーンの体へ深く突き刺さる。

 放ったのは、リュカのモンスター達の協力で大急ぎで船へ辿り着いた、ヘンリエッタとデボラである。

 デボラが父が所有する船に大型の装備が搭載されている事を思い出し、その手の装備に対して造詣を持つヘンリエッタが運用して発射したのだ。

 

 

 人間が手に持つ剣や、放つ呪文よりも大きな痛手にブオーンは怒りの咆哮を上げながら、先ほどまで注意を外していなかったドレイクを意識の外へ放り出し。

 忌々しい矢を放ってきた船を沈めようと、大股で駆け出し始める。

 

 その瞬間を、ドレイクは見逃してはいなかった。

 天空の鎧、そして盾に導かれるまま、左腕に赤黒い雷光を纏わせるとともに右腕からは青白い雷光を放つ事で剣に雷光を纏わせ。

 腕の中で暴れる雷光達を無理やり御しながら、赤黒い雷光と青白い雷光を剣の刃に融合させ、肩に担ぐようにホークの剣を構える。

 

 そして、後一歩でブオーンが船へ襲い掛かれるところまで来た、その瞬間。

 

 

「これで……終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 今にも弾け飛びそうな、極光と表現するのが相応しい雷光に包まれた剣を、遥か先にいるブオーンめがけて袈裟懸けに振り下ろし。

 剣が振り下ろされた勢いによって放たれた、三日月状の極光は狙い違うことなくブオーンを捉え、激しい閃光と衝撃が辺り一帯を包む。

 

 

 

 そして、極光によって生まれた閃光と轟音が止んだその場所には、山程に大きい魔物の姿は最早影も形も存在していなかった。

 

 




まさかの荒くれ救助隊が一番乗り。
彼らは自分勝手で迷惑な傾奇者だけども、地元であるサラボナを愛している荒くれでもあったのだ。

そして、今までうじうじぐちぐちネガネガしていたドレイクが、ようやく前を向き始めるかもしれません。

溜めに溜めに溜めて覚醒させるの、しゅごい気持ちよかった(アヘ顔Wピース)



天空の盾さん「当代の天空の勇者は、儂の導きで生まれたも同然」
天空の鎧ちゃん「ぐぬぬ」

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