勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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ドレイクの贖罪回、彼が犯したラインハット兵殺戮についての沙汰が下ります。
ついでに、ひっそりと潜んでいた魔物大臣も炙り出されます。

キリが良かったので、ヘンリエッタが今後の旅についてこれるかは次回に回しました。ごめんなさい。
今回も難産で何度も書き直しましたが、それなりに見れる形に仕上がったと思います。思いたい。


14・下

 魔物が化けていた偽太后が、長年行方不明だったが生きていたヘンリエッタ達によって討伐された。

 帰還した第一王女らの戦いを目の当たりにした人々は、口々に英雄譚の始まりとも言える戦いに居合わせた興奮を騙り、話は瞬く間にラインハット中に広がった。

 合わせてとばかりに、デール王の勅命によって城の蓄えが住民らへふるまわれた事もあり、ラインハットの国民達は何年ぶりかもわからない、希望と喜びに満ちた宴をそこかしこで開く。

 誰もが喜び、笑い、餓えや兵からの暴行で家族を亡くしたものはともに歩める者がもう居ない事に涙を流しながらも、隣人に慰められて夜更けまで続いた宴の輪へ入っていく。

 

 そしてソレは、偽太后が討伐されたラインハット城も同様で、城で働いていた人間は互いに抱き合って喜び、新たな希望となって戻ってきたヘンリエッタの帰還を口にしては、ラインハットの明るい未来を想っていた。

 だが、城下町や城の各所と違い、謁見の間には今重苦しい空気が立ち込めていた。

 

 ヘンリエッタに付き従い、偽太后を討ちとった剣士ことドレイクが念の為、古い地下牢を確認した方が良いかもしれないと口にした事で、本物の太后が発見されたのだ。

 その姿は偽太后が化けていた姿とは打って変わって、憐れみを誘うほどにみすぼらしく憔悴しきっており、長い監禁生活によって目は衰え足腰も兵に肩を貸されてようやく歩けると言った有様であった。

 

 謁見の間へ連れて来られた本物の太后は、ボヤけた視界にヘンリエッタを見、ヘンリエッタ自身が名乗ったことで口元に手を当てて驚くと、兵の手を振り払って倒れ込むように床へ伏せて懺悔を始める。

 其方が攫われ10年近く戻って来られなかったのは、全て妾のせいだと。ごろつき達と手を結び、魔物に母親を襲われた兵を買収して其方を浚わせたのは自分だと、罪を告白し。

 全ては妾がデールを王位に就かせようとやった事で、無理やり王位につかされたデールには何の責任もないと、妾の命でどうかデールを赦してやってほしいと嗚咽を堪えながら、伏したまま懇願する。

 

 玉座に座ったままのデールは、みすぼらしい姿に成り果てさせられた母の姿に愕然とし、続けざまに告解された母の罪にその目を見開く。

 同じように言葉を失っていた大臣達であったが、今日のラインハットの窮状を招く引き金を引いたとも言える人物の言葉に、口を開いて弾劾を始める。

 

 

「謝って許されるものか!」

 

「そうだ!ヘンリエッタ様がお戻りになられたから良かったものの、そうでなければこのラインハットがどうなっていた事か!」

 

「ヘンリエッタ様!この女狐を即刻処刑致しましょう!」

 

 

 自分はどうなってもよい、だからどうか我が子であるデールの命だけはどうか、どうかと震えた声で懇願をし続ける太后へ浴びせかけられる罵声。

 その姿に、幼かった頃の自分がもっと素直に心を開いていれば、この人は自分の命も同じように庇ってくれたのだろうか。とヘンリエッタは考えて大きく息を吐くと。

 不愉快極まりない、大臣達を黙らせるべく鞘へ納めたままの剣の剣先を謁見の間の床へ叩きつけて大臣らを睥睨し、その良く回る口を閉ざさせる。

 

 

「確かに義母上のやった事はこの惨状を招く切っ掛けになったかもしれない。だが、魔物が化けていた事を知らなかったとはいえ国を傾けるような行為を諫めるのが貴様達の仕事じゃないのか?」

 

「そ、それは、その……」

 

「諫言をした者は、悉く不審な死を遂げるか……職を解かれて謹慎になりまして……」

 

「そして臆病風に吹かれ、飴を与えられて偽りの繁栄を享受していたと? 貴様達に義母上を弾劾する資格など無い事を知れ」

 

 

 集まっている大臣の中でも、上等な衣服に身を包んだ大臣らが特に口うるさく弾劾を叫んでいた事を目敏く見つけたヘンリエッタは、その目に侮蔑の色を隠そうともせず大臣へ言葉を叩きつけ。

 言い負かされる形となった大臣は悔しそうに唇を噛みながら、剣呑な光を目に宿しつつも押し黙る。

 

 そんな大臣らを不快そうにヘンリエッタは見つつ、床に伏す太后の傍でしゃがみ、その痩せ細った肩にそっと片手を乗せる。

 

 

「あの時、確かに私は貴方を強く憎んだ。だけども、今は感謝もしているんだ……貴方のおかげで私はドレイク達に出会え、そして絆を結ぶことが出来たのだから」

 

 

 ドレイクと言う存在に強く依存しているヘンリエッタの掛け値のない本音が、優しい声音で太后へと告げられる、そして。

 私はデールも貴方を赦す、どうか私に二度も兄弟と母上を失わせないでほしいというヘンリエッタの言葉に、太后は伏したまま涙をぽろぽろと零し何度も何度も謝罪の言葉を叫ぶ。

 

 二人の様子を内心ハラハラしながら見守っていたドレイクは、ヘンリエッタの出した優しい結論に満足そうに頷き、ふと大臣の一人からの敵意の視線に気づく。

 大半の大臣らが、目の前で繰り広げられる懺悔と赦しに感動の涙を流している中感じた違和感に、ドレイクはヘンリエッタから意識を外さずに思考を巡らせる。

 この局面において自分達に敵意を抱くとしたら原因は凡そ二つ、偽太后と通じていて富を貪っていた輩か、もしくは偽太后と同じように魔物が化けている存在か、と。

 そして、先ほどヘンリエッタに言い負かされた大臣の大半が場の雰囲気と流れに涙を流し、次々とヘンリエッタへ自らの罪を懺悔し贖罪を誓っている以上、前者の可能性は低いとドレイクは判断した。

 

 場の人間に気付かれないよう気をつけつつ、ラーの鏡を所持したままのマリアへドレイクは視線で合図を送り、敵意をぶつけてきた大臣へ声をかける。

 

 

「なぁ、そこの大臣さんよ」

 

「……何かな?ドラゴンの勇者殿」

 

「勇者は止してくれ、柄じゃない。少し気になる事があるんでな、声をかけさせてもらったのさ」

 

 

 一足飛びに斬りかかれるようにしつつ、ドレイクに声を掛けられ振り向いた大臣をマリアが掲げたラーの鏡が映し出し、輝きを放った鏡が大臣に化けていた魔物の真の姿を露見させる。

 にわかにざわめく謁見の間、しかし魔物が暴れ出す前にドレイクは既に駆け出しており、一刀のもとに魔物を両断し容易く絶命させた。

 

 どよめく大臣、隣にいる者も魔物ではないかと疑心暗鬼に駆られる中、ヘンリエッタが凛とした声で集まった大臣らへ魔物を排除するために人を集めろと告げ、人が次々と城の広間へと集められていき。

 傍にドレイクを控えさせたマリアが掲げたラーの鏡で、集められた城の人間を映し出していき、人間であることを証明する。

 そして、太后に化けていた魔物と大臣へ化けていた魔物以外は人間に化けた魔物は、ラインハット城にはいない事が明らかになった時には既に太陽が上がっており……。

 詳しい話は夕方する、とヘンリエッタは宣言するとドレイクと一緒の部屋へ入ろうとし、そっとヨシュアとマリアに引っ張り出された。

 

 

 

 そして同日の夕方、身だしなみを整えたヘンリエッタ達4人は、改めてラインハット城の代表者が集められた謁見の間へと踏み入る。

 大臣に化けていた魔物の死体と血痕は片付けられており、その痕跡はうっすらと残った血の染みにしか見つける事が出来ない。

 

 玉座に座るデール、そして集められた代表者達は皆、凱旋したヘンリエッタが玉座に就く宣言をするものと思っていた、しかし。

 彼らの予想を裏切るかのように、ヘンリエッタと視線を交わした後ドレイクが一歩前に踏み出る事に、彼らは内心で首を傾げる。

 そして、ドレイクが語り出した内容は……彼らにとって救国の英雄である剣士の罪の告白であった。

 

 ヘンリエッタ達と共に魔物に囚われた先で、魔物の命令によりサンタローズへ向けて進軍していた兵士達を一人残らず皆殺しにしたと告げたドレイクに、大臣は顔を蒼褪めさせてヘンリエッタ達へ視線を向け。

 沈痛そうに目を伏せる彼女達の様子に、ドレイクの言葉が真実であると悟る。

 

 ヘンリエッタにマリア、そしてヨシュアは彼らが冷静になる前になし崩し的に告げ、そしてヘンリエッタが赦すという流れで行くべきだとドレイクを想い主張していたのだが。

 ドレイクはその言葉に首を横に振り、罪は贖わなければならないと返答し、このタイミングで告げる事にしたのだ。

 

 ラインハットと言う国を大きく傾けた必要のない出兵と、その兵士らの全滅を成した原因が目の前にいるという事実に大臣らは震え、ドレイクへ言葉を投げかける。

 彼らの中では、その出兵をごり押しした大臣が責任を取らされ族滅させられた事で終わった事件だっただけに、何故今更そのような事をという気持ちが強かった。

 

 

「何故皆殺しに……?」

 

「命令だったからだ、と言うつもりはない。俺はサンタローズを滅ぼされることが我慢できなかった」

 

 

 ドレイクの回答に、偽太后に冷遇されていた大臣の一人は頭を悩ませる。

 国勢を思うならば既に終わった事、ここで赦しを与えた上でその罪を鎖としてラインハットへ縛り付けてしまえば、この国は栄えるだろうと。

 しかし、兵士として働いている子を持つ親を思うと、それでいいのかと思案している中。

 今まで口を閉ざし、状況を見守っていたデールが口を開き、ドレイクへ問いかける。

 

 

「一つ問いたい、兵士らは最期まで勇敢であったか?」

 

「……ああ、泣きながら震えながら、それでも最期の時まで逃げようとせず俺に立ち向かってきた」

 

「そうか……」

 

 

 まだ少年らしさの残る声で、デールはドレイクの言葉に静かに頷いて瞑目し、ドレイクの傍で沈痛そうな表情を浮かべているヘンリエッタへ視線を向けると何かを決意する。

 彼は人の顔を窺いながら長い間、鳥かごのような玉座で過ごしてきた事で、その人物が何を求めているのかを察する能力に長けていた。

 

 そして、だからこそ彼は気づいた、目の前で罪を告解した剣士は罰を受けたがっており、傍に立つヘンリエッタとマリア、ヨシュアはドレイクの心の闇を晴らしたがっている、と。

 彼らのような関係を自分も築けていたのなら、自分はここまで致命的に間違うことはなかったのだろうかと、デールは答えの出ない思いを抱きながら、口を開く。

 

 今まで何も出来なかった、ただ誰かが何とかしてくれると思いながら、変わり映えのしない空虚な玉座に座り偽りの王冠を被り続けてきた少年は、姉へ王位を譲る前に王らしい事を一つだけでも為したいと思ったのだ。

 

  

「救国の剣士ドレイクへ裁きを申し渡す。 殺した兵士の数以上の人の命と未来を、その剣で救うのだ」

 

「……畏まり、ました。偉大なる王よ」

 

 

 強い意志をもって、少年らしさが残る声で下されたその沙汰に、ドレイクは自発的に膝をついて深く頭を垂れる。

 その時、ドレイクが背負っていた剣にはめ込まれた漆黒の宝玉が輝きを放ち、幾つもの白く輝く魂が宝玉から立ち上り、この国に幸あれという声をその場に居る人々の頭に直接届けた後、天へと還っていく。

 

 

 

 

 その光景はとても儚く、しかし人々の胸に暖かい意志を与えるモノであった。 

 感極まった大臣の一人が、ラインハット王国万歳と叫び、同じように感情を抑えきれなかった大臣は王国の未来に栄光あれと叫ぶ。

 

 今この瞬間、ドレイクの罪は赦されたのだ。

 

 




太后へのヘンリエッタの台詞は、小説版ヘンリーの台詞も参考にしてます。
彼女は確かに赦されない罪を犯したが、同時にドレイクと絆を深めるきっかけにもなったのでヘンリエッタさんはそんなに怒ってませんでした。
太后さんの今後は、次回ちらっと触れる予定です。


【今日のリュカちゃん】
ラインハット解放から暫くした頃
「お、王!パパス王!ラインハット王国に行方不明であったヘンリエッタ王女が帰参し、竜の剣士と共に偽りの太后を討ち果たしたそうです!」
「なんだと!?」
「そして、竜の剣士とやらの外見は、パパス王がお話されていたドレイクという少年に酷似していたそうで……」
「そうか、あいつは生きていたんだな……こうしてはおれん、すぐに使いを出せ!」
「ハッ!!」
なおこの時点でドレイクは既にビスタ港から船に乗ってポートセルミに向かっていた。
更に、リュカはこの話を盗み聞きしていた。カウントダウンスタートだ。

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