勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある?   作:社畜のきなこ餅

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暫く本編への出番がなさそうなリュカちゃんパートを挟む暴挙。
ドレイクが10年間過ごしてる間、リュカちゃんはどうだったかというお話です。

永い間国を空けていた王様の一人娘である王女が、無邪気で居させてくれるだろうか。という話。


番外編2『グランバニア王女の憂鬱』

 

 暗い靄がかかった中、お兄ちゃんが咳き込む度に血をその口から零している。

 今にも膝をつきそうなぐらいボロボロなのに、お母さんからもらったって言って大事そうに手入れしていた剣を握って。

 怖い、怖くて大きい魔物2匹から、ボクとお父さんを守るように立っている。

 

 

『がはっ、ごほっ……俺は、俺は大丈夫だ……まだ、頑張れるから、行ってくれ、パパスさん』

 

 

 お父さんがお兄ちゃんを気遣って、逃げろと叫んでるかのような悲痛な声でお兄ちゃんへ呼びかけている。

 だけど、頑固なお兄ちゃんは首を力なく左右へ振ると、両手で剣を構え始める。

 

 ダメ、その先を言っちゃダメ。お兄ちゃん。

 逃げようよ、一緒に帰ろうよ。とボクが叫ぶけどもお兄ちゃんには届かない。

 だって記憶の中のボクは、お父さんの腕の中で震えているだけだったから。

 

 

『行ってくれ! 父さん!!』

 

 

 いつもみたいにお兄ちゃんが叫び、ボクを抱いているお父さんが迷った末に身を翻して走り出す。

 ダメ、お父さん行かないで、お兄ちゃんを助けてあげてとボクは叫ぶけど、その声は届かない。

 

 そして、お兄ちゃんが大事にしていた剣が、魔物に真っ二つに折られた。

 

 

 

 

 

「っ!…………また、あの夢」

 

 

 目を覚ませば、そこは豪華な寝台から見える部屋の天井。

 サンタローズの村のボクの部屋じゃなく、実はお父さんが王様だったグランバニアの……王女であるボクの部屋。

 

 毎日じゃない、それでも時折見てしまう夢でかいていた汗が髪の毛と寝巻をボクの体へべたりと張り付けていて、それが不快な感触を伝えてくる。

 大きく溜息をつき、サイドボードの上にある水差しからグラスへ水を注いで一息吐くと、侍従の人を呼び着替えをお願いする。

 

 また怖い夢を見られたのですね王女様、おいたわしや……などと呟きながら侍従が出ていったのを見届け、ボクは寝台から下りると大事な宝物を仕舞っている宝箱へ近づき、鍵を開けて中を開く。

 その中にあるのは、王女様が持つにはふさわしくないらしい物。だけどボクにはどれもが大事な宝物だった。

 

 お兄ちゃんがボクにくれた、もうボクが纏うには聊か小さくなってしまった手織りのケープ。

 お兄ちゃんが、おままごと用にボクに作ってくれた一角うさぎをモチーフにした木製のお人形。

 そして……あの後、傷付いた体を推してあの場所へ戻ってくれたお父さんと一緒に見つけた、お兄ちゃんが大事にしていた鋼の剣の残骸。

 

 

「王女様、お着換えの準備が……」

 

「……ありがとう」

 

 

 そっと剣の柄部分を手に取り、怪我をしないようにしつつぎゅぅっと胸にかき抱いていると侍従の人が戻ってきたので、剣を寝台の上へ置く。

 侍従の人は、お父さんとボクからお兄ちゃんの事を聞いていて知っている、だけどその上でもう居ない人の事を考えてもと言ってくる人だから、ボクが宝物を見ていることに良い顔をしてくれない。

 

 だから、こう言う事も平気で言っちゃうんだ。

 

 

「……王女様、その。もう十年になりますし王女様ももう婚姻を考える御年です、ですから、その……」

 

「わかってるよ、うん、わかってる。だけどお願い、その先は言わないで」

 

 

 ボクを思って、悲しそうにしながらも告げてくれる貴方を嫌いになりたくないから。

 

 そう想いを込めて言葉を返せば、侍従の人は目を伏せてただ一言畏まりましたと返してくれた。

 お父さんもボクの想いを知っているからこそ、16歳になったボクに無理に婚姻を勧めてきたりはしない。

 

 だけれども、大臣や貴族達はここぞとばかりに告げてくるのだ、もう死んだであろう男の事は忘れろと。

 産まれのハッキリしない怪しい男が居なくなって良かった良かったと。

 そんな粗末な物は捨ててしまい、私が送る宝飾品に身を包んで欲しい。と。

 

 ふざけている、お父さんにもオジロン叔父さんには何も言えない……腰抜けの宮廷雀共が囀るのが我慢できない。

 貴方達のような連中が、お兄ちゃんとチロル、ホークさんとヘンリーを見殺しにさせたというのに。

 

 すごくムシャクシャする、今のボクはお兄ちゃんが好きだと言ってくれていた顔で笑えているだろうか?

 なんだか、とても怖くなったので、侍従の人に着替えを手伝ってもらった後はお兄ちゃんの剣の柄を抱きしめて眠る。

 

 

 

 今度は悪夢ではなく、お兄ちゃん達とサンタローズで過ごした時の夢を見る事が出来た。

 

 

 

 

 

 そして、アレが現実だったらよかったのに、と思いながら夢から醒めて。

 今日も宮廷雀共からの求婚や見合いをあしらって、お父さんと訓練をする。

 お兄ちゃんが諦めたり死んだりするわけないから、今度はボクが助ける為に。

 

 そして、お兄ちゃんに言いたいんだ、もう頑張らなくて良いんだよ。って。

 

 

「……リュカよ、お前は強くなったな」

 

「ううん、まだまだだよお父さん」

 

 

 鍛錬を終えて汗を拭い、お父さんと鍛錬の問題点を話し合い洗い出す。

 

 

「お父さん、次はこの子達との連携を試したいんだけど。お願いしていい?」

 

「……ああ、オジロンが今日は多めに政務を受け持ってくれるからな。存分にやろう」

 

 

 軽く息を整え、指笛を吹いて仲良くなりボクに忠誠を誓うようになってくれた魔物達を呼び集める。

 小さい魔物はスライムにドラキーやミニデーモンから、大き目の魔物はオークキングにメッサーラと結構な数が揃っていると思う。

 

 だけど君達、たまーにボクから目を逸らしてるのなんで?そんなに怖い事お願いしたり叱ったりしてないと思うんだけどさ。

 

 お父さんと、魔物達を交えた戦闘訓練は結局お父さんを押しきれずに引き分けになって終わった。

 ボクもそうだけど、お父さんもまたお兄ちゃんを見捨てて逃げる事になっちゃった事を、ずっと悔やみ続けている。

 

 

 そして、お風呂で身を清め……昔、お兄ちゃんがとぼけつつもデレデレしながら話してた、ボクも会った事があるお姉さんに体型が近づいてきた体を姿見で見直し。

 お兄ちゃんと再会したら、どんな顔をしてくれるかと想って暖かい気持ちになりつつ、侍従の人に着替えてもらい眠りに就こうとして。

 

 寝る前にもう一度宝物を見ようとして宝箱を開けたら、お兄ちゃんの剣の残骸が無かった。

 一瞬で冷えるボクの頭、そして今朝は起きるのが遅くてベッドに置いたままだった事を思い出して、侍従の人へどこに片づけたのかを聞いて。

 

 

「……その、大変申し上げにくいのですが、捨てさせて頂きました。あのような物に縛られる王女様を、これ以上見て居られず……」

 

「……なんで? ボクがお兄ちゃんの剣を大事にしてたの知ってたよね?なんで捨てちゃったの? ねぇ、なんで?」

 

 

 足元が崩れ落ちていくような錯覚を覚え、目の前が真っ暗になっていく中。

 ボクはふらふらとした足取りで、侍従の人の肩を両手で掴み、ヒッとか細く悲鳴を上げる侍従の人を問い詰める。

 

 ねぇ?なんでそんな青ざめた顔しているの?ボクの宝物を捨てたのは貴方だよ?

 

 

「どこに捨てたの?いつ捨てたの?ねぇ教えて?」

 

「も、申し訳ありません。王女様……」

 

「謝らなくていいよ、で。どこに捨てたのかな?」

 

 

 唇を震わせながら謝ってくる侍従の人、でも謝ってもらってもお兄ちゃんの剣は帰ってこないんだ。

 だから、少しだけ両手に力を込めてしっかりとお願いする。教えてもらうために。

 

 誠意を込めてお願いしたおかげで、何故か怯えつつも侍従の人は捨てた場所を教えてくれた。

 すぐに窓を開けて指笛を鳴らし、空を飛べる魔物達を呼び集めると。ボクの匂いがする剣を探すようお願いして、ボクも走り始める。

 後ろから侍従の人が呼び止める声が聞こえたけども、聞いて止まる理由はなかった。

 

 

 そして、1時間弱捜索の末に、兵士さん達が武器を捨てる廃品をまとめる場所に、無造作にお兄ちゃんの剣が転がっているのを見つける事が出来た。

 ちょっと汚れちゃってるけど、磨けば元に戻ってくれそうだったからホっとして寝室へ戻……ろうとして。

 とても、嫌な宮廷雀の男に会ってしまった。

 

 

「おや、王女様とあろう方がそのような恰好でどうされたのですかな?」

 

 

 贅肉を揺らして馴れ馴れしく話しかけてきたのは、大臣の息子。

 大臣が頻りに(しきりに)見合いさせてこようとする相手だ、お兄ちゃんとは似ても似つかない愚か者だ。

 ボクの肩に手を回してこようとしたので、手で払いのけて目を合わせず寝室へ戻る事にする。

 

 

「そんなゴミのような剣を抱えて……ドレイク?と申しましたか、そんな卑しい生まれの男なんて忘れてしまえばよいのに」

 

 

 そして、聞き逃せない言葉を耳にしたボクは。

 無意識の内に、名前も覚えていない大臣の息子の首元を掴んでお城の壁へ叩きつけていた。

 

 

「お、王女!何を……っ!?」

 

「黙れ、お兄ちゃんを侮辱するヤツは許さない」

 

 

 どうあっても、人を害する事を止めようとしない魔物を睨むように大臣の息子を睨んで警告する。

 正直、コイツが大臣の息子じゃなかったら……ダメだ、こんなのの血で手を汚したらお兄ちゃんが悲しむかもしれない。

 

 股間に染みを作り怯える大臣の息子から手を離すと、今度こそボクは振り返る事なく寝室へと戻る。

 

 

 

 

 この日見た夢は、お兄ちゃんやホークさん、チロルとおままごとをする夢だった。

 何故かお兄ちゃんは、知らない筈なのにボクがやった事を、無理するななんてお兄ちゃんが言う資格無いような事を、困ったように笑いながら言ってボクの頭を撫でてくれた。

 その後は、自分では迫真だと思っていたヘタクソな演技を披露するお兄ちゃんに、夢の中のボクは無邪気に笑っていて……。

 

 それでも、コレが夢だと言う事が、とても、とても悲しかった。 

 




侍従の人(メイドさん):こんなのがあるから王女様は囚われているんだ、捨てないと。王女様は救われない……!(決意の剣ぽいっちょ)


侍従の人は侍従の人なりに、リュカの事を想って行動しましたが思いきり裏目った感じです。

リュカちゃんは、ラインハット王らの発言によって宮廷雀系人種への人間不信拗らせており、ソレもあって魔物を次々と仲間にしてる感じです。

ちなみに大臣の息子は、しばらく先に本編でも出番がある予定です。
なお外見イメージは、DQ8のチャゴス

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