勇者の父親になる筈の原作主人公がTSしてたけど、何か質問ある? 作:社畜のきなこ餅
題名でもう落ちてますが、夢落ちです。
パパスさんにすべてを明かし、みっともなく縋りついた日の夜。
俺は何年ぶりかもわからない、明日に希望を抱えてベッドへと潜り込み眠りに就いた。
そして、その翌朝。
「……ずん…………ずん……」
窓から差し込む日差しが、瞼の上から俺の目に降り注ぐのを感じると同時に。
俺の上に跨ってるらしい、軽い何かが俺の体を揺する感触にゆっくりと目を開く。
またリュカちゃんが俺の上に飛び乗り、揺り起こしに来たのかな、などと思っていたら。
「おー、やっと起きたなごすずん! ねぼすけさんだな!」
「……お前、誰じゃぁぁぁぁぁぁぁ?!」
艶のある黒い髪の毛に、背中から同じように黒い羽根をはやした少女が俺を起こそうとしていた。
思わず飛び起き壁を背にしながら、少女を指さして叫ぶ俺。少女はきゃー、とか言いながら飛び起きた俺の上から転がり落ちる。
「誰ってひどいなーごすずん、ホークだぞ!」
「まてまてまて!ホークはそもそも鳥というか何というか、ともかく鳥っぽい姿でしかも雄だったろ!?」
「むー、まだ寝ぼけてるなーごすずん。あたしはどこをどーみても雌だぞー!」
ぷんすかぷんとばかりに両手を振り上げ、背中の羽根をばさばささせながら抗議してくるホーク(雌)。
いやまて違うそうじゃない、俺はなぜナチュラルにこれをホーク(雌)と認識している、というかどういうことだこれは何だというのだ!
「お兄ちゃーん、起きてるー?」
ぎゃーすかぎゃーすか俺とホーク(雌)が騒いでると、カチャリと開く部屋の扉。
そこから現れるは変わらず可愛いリュカちゃん、良かった君はそのままの君でいて。
「……なんでホークがお兄ちゃんの部屋にいるの?」
「ごすずんの上に乗って、起こしてたんだぞー!」
「……ふーん」
そして俺へほにゃっと笑顔を向けたと思ったらホーク(雌)へ、本場のホークブリザードもびびるレベルで冷たいまなざしを向けるリュカちゃん。
あれれーおかしいなー?お願いだから優しいままの君でいて。
「まぁいいやー、サンチョが御飯出来てるって言ってたし。早くきてねー」
「おー、そういえばそーだったんだぞ!ごすずん!」
そうかと思えばいつものおひさま笑顔を向けてくるリュカちゃん、そうだよね今の怖い顔とお目目は俺の見間違いだよね。お願いだからそうだと言って。
そのままリュカちゃんは部屋から出ていき、ごはんだぞごすずん!と呆けたままの俺の手をホーク(雌)が引っ張る、こいつ意外と力つええなおい。
そして、居間へ向かえば既にリュカちゃんとチロルが食卓についていた。いや待て何かがおかしい。
リュカちゃんの隣に座ってる少女を見る、今俺はこの少女を見てチロルと判断していた。だがどう見ても猫……じゃなくてベビーパンサーじゃない。
「あ、おにいちゃんだぁー。こっち、こっちすわってー」
まるで子猫の様に無邪気に甘えるような声で、リュカちゃんとチロルの間に空いている椅子をぽんぽんと叩いて勧めてくるチロル。うん可愛い、じゃなくて違うそうじゃない。
そして視線をリュカちゃんへ向けてみればにっこり笑顔、うんやっぱりホークを睨んでいたあの視線は気のせいだったんだなそうに違いない。
「おや坊ちゃんもようやく起きられましたか、御寝坊さんですね」
そして台所で色々と作業をしていたらしいサンチョさんがひょっこりと顔を出す、パパスさんの息子同然という事から昨日から俺を坊ちゃんと呼んでくれている。
ああ、俺はここに居ていいんだな……という感慨に耽りつつ、いつも見ている丸顔でふくよかなサンチョさんの顔の違和感に気付く。
髭が、ない……だと……?
「? 何か私の顔についておりますか?」
「い、いや、何もない、なんでもない」
それ以上の違和感を俺は意図的に見えないふりをしていた、サンチョさんはいつもの服じゃなく。
メイド服を、着ていた。頭にはヘッドドレスまで完備。だけど髭がない以外はいつものサンチョさんである、あ良く見ると胸があるって違うそうじゃない。
「変な坊ちゃんですねぇ、ほら。温め直しましたから早くお上がり下さい」
「あ、ありがとう」
リュカちゃんとチロルの間の席に座り、ホークがチロルの隣に座るのを確認したサンチョさんが、美味しそうな匂いを立てるスープを準備されていた器へ注ぎ。
焼き立てのふかふかパンに、みずみずしいサラダが食卓に並べられる。とても美味しそうダ。
殆ど食べ終わったチロルや、リュカちゃんが無邪気にすり寄ってくるのを相手しつつ、半ば異常しかない現状について思考を巡らせながらパンを食む。
そして俺はふと気づくのだ。
もしかして、パパスさんも……?
そう思っていたら、何やら席を外していたらしいパパスさんが戻ってくる。
ごくり、と喉に詰まりかけたパンをスープで胃に流し込み……その姿を静かに見守る。
「おお、起きたかドレイク。らしくない寝坊だな」
「き、昨日は色々あったから……」
パパスさんはいつものパパスさんだった、片乳首を露出したヒゲダンディーだった。ありがとう、そしておめでとう俺。
そしてそのまま俺に背を向け何か戸棚を探し始めるが、俺の目は気づかなくてよい違和感に気付く。
パパスさんの背中に、なんかチャック見えね?と。
この瞬間俺の思考は加速する、聞くべきか聞かざるべきか。どうするかと。
そして、俺は……自ら死地へ踏み込む覚悟を決める。
「パ、パパスさん。その首のチャック、は……?」
「ん?なんだお前も知っている筈だろうに……しかし少しパイポジが落ち着かんな、よし……」
やめろ、やめてくれ。お願いやめて。
カラカラと乾く口に喉、俺の言葉は言葉にならず背中に手を回したパパスさんが器用にチャックを下ろしていくのをただ見ている事しか出来ず。
「……ふぅ、グランバニア製の肉襦袢とはいえ、常用するものではないですね」
「しょうがありませんよパパス……いえ、マーサ様」
背中のチャックを下ろして出てきた何か、それはリュカちゃんを大人にしたかのような穏やかな雰囲気の女性だった。
そこまでを見て、俺の意識は暗転していく。もう勘弁してください、いやほんとに。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
思わず叫びながら飛び起きる、ついでに俺の上から何かがころころと転がり落ちる。
不快な汗で寝巻が体に張り付くのを感じながら、荒い息のまま部屋の中を見回す。いつもの俺の部屋だ。
そして、先ほど転がり落ちた何かを見てみれば、どうやら俺の胸の上で丸まって寝ていたらしいホーク(雄の鳥)が床に落ちてなお丸まったまま爆睡していた。
「よかった、本当によかった……肉襦袢を着てるパパスさんなんていなかったんだ……」
安堵のあまり涙が出てくる、いやほんとにもう何が何やらというかどういう夢だという話だ。
きっと、昨日聞いたヘンリーが女の子だという話が俺の頭に残ったままで、ホークが俺の上で丸まって寝ていた事で悪夢を見たらしい。
冷静に考えると悪夢でもなんでもないかもしれないが、少なくともリュカちゃんがちょっと怖い気がするのとパパスさん(♂)がパパスさん(♀)というだけで、俺に取っちゃ十分悪夢だ。
「どうされました?坊ちゃん」
俺の叫び声を聞きつけたのか、心配そうにガチャリと扉を開けて入ってくるサンチョさん。
うん、いつものサンチョさんだ。髭もあるしメイド服も着ていない。
「な、なんでもないです。ちょっと悪夢を見て……」
「大人びたところもありますけど、年相応なところもあるんですね。そろそろ朝食が出来上がりますよ」
「ああ、ありがとうサンチョさん。いつもいつも……」
「何を仰いますか」
俺の返答にサンチョさん(髭あり)は朗らかに微笑むと、ほほえましそうに俺を見詰めてくれる。なんだか恥ずかしいが悪い気はしない。
そしてそろそろ朝ごはんが出来ると言われればベッドの上に居続ける理由もないので、ベッドから下りようとして。
俺は部屋から出ていくサンチョさんの首筋に、チャックらしき金具がついていることを見てしまった。
ソレを理解した俺は思考を放棄、そのままベッドへと倒れ込むように力尽きる。
どこか遠くで聞こえる、サンチョさんとリュカちゃんの会話が聞こえたが、とにかくもう一度この悪夢から目覚めるべく意識を失う俺なのであった。
「ねーねーサンチョー、どうして首筋に何かつけてるのー?」
「え?ああ、どうやら昨日仕立て直した時に襟につけたままの金具が肌に張り付いてたみたいですな。お嬢様ありがとうございます」
ちなみにオルテガさんは、ビキニブラとパンツが似合うグラマーボディに、両腕に蛇を巻き付けた妖艶なお姉さんらしいですよ。
夢だけど、こんな世界線だったらドレイクはもっと幸せだったかもね。