そして速いもので俺達のクラス発足から既に三日。
簡潔ではなくしっかりとした自己紹介、普通の校舎巡りなどの新入生がする類のイベントをそろそろ全部終わり、授業が本格的に始まる寸前というタイミング。
特科クラスⅦ組は先にやらなければいけない問題に直面していた。
「おーーい、どっかバケツ空いてねー? こっちの水はもう汚れに汚れきってるわ」
「残念だが、こっちも全滅だ。エリオット、リィン、マキアスの方はどうだ?」
指名されたメンバーが各自の担当していた場所から首だけだし全員横に振る。
やれやれ、と全員で溜息を吐きながらフロアに出る。
ここは第三学生寮。
普通のクラスならば貴族ならば第一、平民ならば第二と分けられそこの管理人が寮を仕切っている。
だが、特科クラスⅦ組はあらゆる意味で規格外なので寮も分けられているのだが
「せめてもう少し掃除しとこうぜ……」
寮は売れ残っていたマンションタイプのものを改築したもので普通に住むぐらいは別に一応問題なかったのだが、管理人がいないせいか多少汚れていた。
これでは不味いと思いいっそ全員で掃除しないかという提案は必然と出された。
「おい、皆。バケツじゃんけんだ」
「これで七回目だぞ……」
「まぁまぁ。文句を言っても仕方がない」
「まぁ、僕達も自分の意思で参加しちゃったからねー……」
「フフ、それに皆で掃除というのも悪くはないだろう」
ガイウスは前向きでいいなぁ、と思いながら男子でここに来ていない生徒を呼ぶ。
「おい、ユーシス。お前もじゃんけんだ」
「……ふん。何故俺まで……」
自分が指定された部屋からぶつぶつと文句を言いながら出てくるユーシス。
出てきた瞬間にマキアスが嫌なものを見たという顔に変化するがこの程度でそこまで変化していたらこいつ将来禿るんじゃないかと思う。
「文句を言うんじゃないっ。じゃんけんに勝てば楽ができるんだし、自分だけ貴族様だからといって特別扱いされてほしいか?」
「……ふん、無用だ。とっととやるぞ」
一々、突っかからんと喋れないのかとツッコみたいがそこまで言うのは面倒なのでじゃんけんをする。
すると負けたのはユーシスだったので特大の舌打ちをかまして全員分のバケツを持って下に降りていく。
「四大名門の息子をパしらせている図……」
「……これって僕達貴族の人やアルバレア公爵家に知られたら首を切られても文句が言えないことを実はしているんじゃ……」
「何を言う。貴族だからって特別扱いするんじゃないエリオット。あの尊大な奴は偶には地味な事というのを知るべきなんだ」
相変わらずだなぁ、と思うがまだ三日だからこんなものだろうとは思う。
「それにしてもだ……レイ。ユーシスはお前の事を気に入っているのかもな」
「ん? 藪から棒に何を言い出すんだリィン。俺は別にユーシスを優遇した覚えなんてないぜ? 別に冷遇もしてないが」
「そこが気に入られているんじゃないか?」
そういうもんかねぇ、と思うが話していたら夕食に間に合わない。
さぁて、バケツが来るまで荷物の整理をしようと暗黙の了解で各自の指定された部屋に戻ろうとした瞬間。
「きゃあああああああああああああああああああああ!!!」
上の女子の階から悲鳴が上がった。
「何だ!? 新手の下着泥か!?」
「真っ先にそんな事を思いつく君はどうなんだ!?」
「漫才をしていないで行くぞ!」
漫才なんかしていないというマキアスの戯言は全員で無視して上の階に上がる。
今の悲鳴はアリサとエマだ。
戦闘においては仕方がないとはいえ達人とは言えない二人だ。
嫌な予感はするがラウラとフィーの二人はどうしたと思う。
あの二人がいるなら多少の痴漢くらい逆に折るだろう。どこをとは言わないが。なのに二人の声が聞こえないところを見ると
史上稀にみるレベルの達人クラスの変態か……!?
発足三日目で恐ろしい敵と対峙しなければいけないとはこれが士官学院の醍醐味と思い、全員で同時に三階に辿り着く。
後ろからは悲鳴が聞こえたのか。ユーシスも来ていた。
見るとフロアの休憩所に何故かフィーを中心にアリサとエマは彼女の腕を掴み、ラウラは何故か美しい笑顔でフィーの肩を握っていた。
中心のフィーは熱い、痛い、重いと不満を三人に吐き出していたが三人とも青褪めた顔でそんな声を聴ける余裕はなかった。
「ど、どうしたの!? 皆?」
「見たところ怪我はないようだが……」
エリオットとガイウスの言う通り見たところ尋常じゃないレベルで震え上がっている以外そこまで負傷とかはない様子である。
それに予想した下着泥棒とかも
「……一応聞いとくけどリィン。気配、無いよな?」
「ああ。このフロアには他に他人の気配はない。もしくは」
俺達に気取られないレベルの達人がいるかだ、と言外に告げ警戒を一つ一応上げとく。
だけど、それにしてはフィーがそんなに警戒していないのだから無用な心配なのだと思うのだがとりあえず聞いとく。
「フィー。一体、何があったんだ?」
「……ん」
フィーは結構疲れた顔をして仕方がなさそうに答えた。
「ゴキ───」
「お願い、フィー。言わないで。その正式名称を言った瞬間理性を保てる自信がないの」
「……黒くてカサカサ黒くてカサカサ黒くてカサカサ黒くてカサカサ黒くてカサカサ黒くてカサカサ黒くてカサカサ黒くてカサカサ黒くてカサカサ黒くてカサカサ黒くてカサカサ黒くてカサカサ」
「……」
全員が一斉にはぁ~、と溜息を吐いて緊張感を全て排出する。
各自肩を解し、かいていた汗を拭き、メガネを上げ、やれやれと首を振り、無言で帰ろうとしようとして全員が制服の裾を握られた。
犯人はテンションがおかしい方向に狂っている女子三人である。
最早嫌な予感は決定されたのを理解した男子は全員で再び溜息を吐いた。
「やだなぁ………」
エリオットは一人。
確か、フィーの部屋である場所を新聞紙ブレードを片手に憂鬱になりながら獲物を探していた。
結局あの後、女子三人に押し切られ男子全員で女子の部屋のアレ退治になったのである。
超面倒だなぁという感情を全員で思いながらそれぞれ分かれて退治することになった。
ちなみに女子はせめてもの礼という事か。今は食糧やら何やらのこれからの寮生活に必要そうなものの買い出しに行ってくれている。
正直、自分もアレはそこまで好きじゃないし、断りたい気持ちはかなりあったのだが家でも姉さんに頼まれ何度か退治した事もあったし、何より流石に女の子に頼られているの断るというのはなけなしの男としてのプライドに関わる。
だから、早く見つけて終わらせようと思い隅とかを注意深く調べてみると
「……あ」
いた。
それはもう結構立派な黒いのが。
かさかさと足を動かして動いている。
見ていると嫌な気分になるし、動き回られたら面倒なので即行動しなければいけない。
「ごめんね……」
相手がアレ相手でも謝ってしまうのは臆病だからだろうか、と自嘲し片手に握っている新聞紙ブレードを一気に振り下ろす。
だけど
「あ」
運が悪いことにそのタイミングでアレが動き、多少足にかする程度で止まってしまった。
失敗したぁ、と思い再度新聞紙を振り上げようと思った瞬間に
「……えっ」
目の前のアレが光り、僕を飲み込んだ。
ガイウスはエマの部屋を虱潰しに探していると隣の音から途轍もない爆音が聞こえた。
「何だ……!?」
直ぐに件の部屋に行こうと足を動かしドアは手を使うのがまどろっこしいのでほぼ体当たりのような動きでこじ開ける。
そしたらラウラの部屋からはリィンが。アリサの部屋からはレイが。
そして余ったマキアスとユーシスが下から上がってくる音を聞きながら隣のフィーの部屋……エリオットが担当している部屋に突撃した。
「エリオット……!」
そして彼はいた。
その身をぷすぷすと焦がし、あんだけ鮮やかで女子負けの艶を持っていた紅毛は冗談みたいなアフロになって部屋の中心で倒れていた。
思わず後ろにいたメンバーがくっ、と唸っている。
唸りの方向性が気のせいか、喜怒哀楽の喜か楽だった気がするが気のせいとしてエリオットを抱える。
「エリオット……! どうしたんだ? 目をあけてくれ……」
エリオットは暫く何も反応せず、焦燥感が増して肩を揺さぶりそして数秒後にぼんやりだがようやく目をあけた。
その事に心底ほっとした───いが目に力がないことに気づき愕然とする。
「ガイ……ウス……? そこに……いるの?」
「ああ。俺も、リィンもレイも。ユーシスにマキアスもいる。だから心配しないでくれ」
何があったかを聞きたいところだが、そんな場合ではない事がエリオットの体から伝わる弱弱しさが無理矢理こっちに伝えてくる。
「そっか……うん……僕は最後に……友達に見守られて逝けるんだ……へへ」
「な、何を言っているんだエリオット! 気をしっかり持ちたまえ!!」
余りに弱弱しい言葉にマキアスも膝を着けてエリオットを激励する。
「そうだ、エリオット! 俺達はまだ三日目だぞ? まだまだ始まりすら味わっていないじゃないか……」
「それにだ。まだ、俺達はお前のバイオリンを聞いていないぞ? 自己紹介の時に言ったじゃないか……皆に聞かせてあげたいって……」
リィンとレイも励ますが言葉尻が弱い。
まるで心では認めていることを頭では認めていないと必死に出張するかのようだ。
「バイオリン……そうだ……僕のバイオリンはどこにあるんだろう……?」
するとエリオットの両手が何かを探すように空中を彷徨う。
その手の動きの虚ろさに両目から熱いものが流れそうになってしまう。
代わりに手を取ろうと思い、手を伸ばそうとしたときに
「……これの事だろう」
ユーシスが何時の間にか傍に立ってエリオットの両手にバイオリンを握らせていた。
きっと急いで走って取ってきたのだろう。肩で息をしていたが貴族の子息はそんな素振りをエリオットには絶対に気づかせないと気丈に何時も通り振る舞っていた。
そしてエリオットは握ったそれをとても大事なものみたいに両腕で抱え、最後にくしゃり、と表情を緩め
「ああ……良かったなぁ……」
そしてエリオットはがくり、と体から力を抜いた。
「……エリオット?」
返事は何もなく、ただエリオットはアフロのまま満足そうに眠っていた。
その日、その時間に。
第三学生寮から男達の叫びが聞こえたという。
「──状況を確認しよう」
リィンは3階の休憩所のソファで座りながら周りを見回した。
空いているソファには今は亡きエリオットの遺体(呼吸はしているが)がある。
顔にハンカチを乗せているせいで余計に胸の空白が痛みそうになり、くっ……と目をそらす。
エリオットの遺志を俺達は引き継がなければいけないんだ。
なら、悲しんでいる場合ではないだ、と自分に言い聞かせる。
「もしかしてフィーの部屋の火薬に引火したのか?」
「いや、それならばエリオットはあんなギャ……じゃなくてあんなダメージで済むわけがない。それにそれならば部屋にも爆破の影響があったはずだ」
「確かにな……見たところフィーの部屋に爆破の影響はなくあるのはエリオットのゆか……無残な死体(?)だけであった」
ユーシスの同意も済ませ、俺はなら何が爆発したのかという疑問を提示しようとして間にレイが入った。
「いや、原因は大体理解できた。恐らく原因は今回の騒動の原因───Gだ」
「? ……何故Gが原因になるんだ?」
ガイウスの最もな疑問に全員でそうだ、と尋ねる。
それにレイは答えるように頷き続きを話す。
「ああ……恐らく相手はゴキバン……一種の魔獣なんだが……まぁ弱いのなんの。普通のGと変わらない、それこそスリッパ一閃で倒せる経験値にもならない雑魚魔獣のせいだと思う」
「……それがエリオットを倒したというのか? 確かにエリオットは戦闘経験はないけど度胸は普通の人間よりもあるほうだったぞ。そんな雑魚に負ける要素はないと思うんだが……」
あの特別オリエンテーリングでもガーゴイル相手にちゃんと戦っていたところからそれは実証している。
その結論をまぁ、待てとこちらの焦りを押しとどめ結論を急ぐ。
「問題はな。普通のGと違ってこいつはな───一撃で倒さないと生物相手に対しての自爆をするんだ」
皆の顔が嫌なことを聞いたという表情に歪むのを見て、ああ、俺もあんな表情をしているんだなぁと思った。
「………何だ。その嫌がらせな魔獣は」
「だからエリオット以外は特に爆発の影響がなかったのか……」
ユーシスとマキアスの意見には完全同意の姿勢である。
嫌がらせ以外何物でもない魔獣だが、良く考えたら魔獣自体が人間に対しての嫌がらせみたいな感じだから魔獣の存在理由からしたら大差ないのかもしれない。
遭遇したらむかつくの一言しか生まれないが。
「……とりあえず対処にあたる前にエリオットを部屋に移さないか。このままでは風邪……いや、忍びないからな」
「そうだな……よし、俺とレイとガイウスで一旦部屋まで送るか……」
「しゃあねぇなぁ……」
よっこらせと三人で死体(のつもり)を持ち上げる。
力がないぐったりとした人間は持ち上げるのに苦労する。だから、決してエリオットの頭を見てはいけない。見たら俺達の力が抜ける。
「お、おい、ちょっと待ちたまえ!」
するとそこにマキアスの静止がこちらにかかる。
半ば予想できていたことだが、仕方がなくそちらに振り替える。
すると二人とも不満ありありという顔で互いを無視している。
「何故、俺がこの煩い眼鏡と一緒にいなきゃいけないのだ」
「そ、それはこちらの台詞だ! 僕はこんな傲慢な男と同じ場所で待っているなんてごめんだぞ……!」
同じ場所にいるだけでも駄目なのか……と俺は互いの険悪さに溜息を吐きそうになりかけたが流石に二人の前でそれをするのは失礼であると自粛。
こちらとしたら二人にしたら険悪になるのは目に見えていたが……それでもこれからはクラスメイトになるのだから仲が悪くても折り合いは絶対に必要なのだ。
だから敢えて二人にすることによって折り合いをしてもらおうと思い、それにガイウスとレイを巻き込んだのだが……やはり無茶だっただろうか。
やはりマキアスとユーシス。どっちかと自分が変わるべきかと思っているとおいおい、と間にレイが乱入してきた。
「帝国知事の息子と四大名門の御子息様は魔獣とはいえGが屯っている場所では怖くて二人きりでは心細いか?」
「なっ!?」
「……貴様」
二人の怒りの矛先がお互いではなくレイに向かうのに慌てて俺はレイを見るがレイはレイで普通に飄々とした笑顔を浮かべるだけで全く堪えていない。
むしろ自然体である。
「いや、何。別に攻めているわけでも笑うつもりでもないぜ? どんなに強がってもまぁ人間だしな。怖いものは怖い。それでいいじゃねえか。だから遠慮なくだれか一人残ろうか?」
「───馬鹿にしないでくれ!」
結果、マキアスの方が沸点が低い事が判明したが、ここまで露骨な挑発だと後に響くんじゃないかと思い、レイを見るが本人は二人に見えない位置でジェスチャーで気にするなと伝えるだけ。
そんな風に言われたら逆に気にするだろうがと思うが済んだことを取り戻すことは出来ないので動くしかない。
とりあえずエリオットを部屋に戻すために三人で担ぎ上げる。
願わくば、これを機に多少の折り合いが出来ればいいのだが……あの調子だと難しそうだと思う。
今日何度目かの溜息が三人重なる。同じことをどうやら考えたみたいだと苦笑し、今日は幸福が良く逃げる日だと思った。
茶番だな、とユーシスは心底そう思いながら内心で溜息を二桁以上した気がするなとどうでもよく考えながら隣の怒りやら何やらの視線は無視する。
マキアス・レーグニッツ。
こいつは知らないが、レーグニッツという名前ならば有名だ。
父が平民出身の帝都知事で革新派のオズボーン宰相と盟友とも呼ばれる人物で清廉潔白を地で行っている人物であり、やはり貴族から煙たがれているが有能ではあるというもの。
別に特別に貴族を毛嫌いしているという話は聞かないが、革新派という聞こえのせいか。余り信用できない。
現にこの息子がこんな様だからな。
別に貴族嫌いなんぞどうでもいいのだが、毎回毎回俺に突っかかってくるのが実に面倒だ。
お蔭でつい口が滑りやすくなる。
ここにいるといらついて何を言うか分からないので先に退治をするか、と自己判断をして勝手に歩き出す。
「……おい、君。一体どこに行く」
何故お前は俺を監視しているみたいな言い方で言うのだ。
思わず、貴様に答える義理も義務もないだろう阿呆が、とそのまま口に出そうになったがここでこんな風に言えばどうなるかは流石に学習している。
だから言い方を変えて
「俺が何かをしようと貴様には関係ないだろう阿呆が」
「……これはこれは。成績では一歩僕に劣るのに貴族様は位で自分が上に立っていると勘違いしてらっしゃるようで」
同時にお互いの襟首を掴む。
やる気か? そっちが売ってきたんだろ、と目線で語り合いながらいい度胸だ、と口に出そうとしてそうなるとどうせ二階から男どもが来るだろうから意味がないと思い舌打ちをして離す。
向こうも同時に舌打ちをして離した為やはり同時に睨む。
こいつは人の真似をして苛立たせる天才なのか?
だが、どうやら訳を聞かなければ許さんとでも言いたげな目線はまだ収まっていないので仕方がなく答えるしかないらしい。
「……効率の問題だ。ただ待っているよりも面倒事をとっとと終わらせた方が時間を節約できる。それだけの話だ」
「……まさか君が趣味の悪い魔獣を退治するというのか? 信じられん……君みたいな貴族はこんな小事などどうでもいいと無視をするんじゃないのか……!?」
「勝手に決めつけるな」
いや、その意見にはかなり同意なのだがこいつに言われると癪に障る。
だから、最後は半ば無視する形で先に進んだのだが
「……おい。何故俺の後をついて来る」
「ふん。君に言われる義務はない。単に僕も面倒事をとっとと終わらせて自分の掃除をしたいだけだ」
つくづく嫌味を言わなければいけない性格をしているらしい。
ちっ、と舌打ちをして無視してそのままラウラの部屋に入る。
やれやれ、と一度首を振り視界を開けると───直ぐ目の前に黒いのがいた。
ドアからの距離は一歩。
本当にその程度の距離くらいしか空いていないところで奴はカサカサ動いていた。
まるでこちらを挑発しているようだ。
「……面白い」
ここまで露骨な挑発はそれこそあの眼鏡やレイ並みである。
新聞紙ブレードを何時のも剣術を構えるように右手に下げ左手を腰に当てる周りからは独特な構えと言われる姿勢。
戦闘の時の緊張がこの部屋に満ちるのを満足し、奴と相対する。
敵対所はまるで俺の事など知らんとでも言わんばかりにかさかさ動くだけ。舐められたものだ。
先程、レイは言った。
一撃で倒さなければ駄目だと。
何と容易い。
そんなもの一瞬で済ませてやる……!
「せい……!」
踏み込みは一歩。
奴は人や魔獣よりも下にいるので横に振るのでは当てづらいので上段からの片手打ち。
決まった、と思った。
明らかに軌道はブレードの真ん中。
そう思ってたら
「なにっ!?」
こちらの攻撃の軌道を読んだかのようにこっちの足元にカサカサ動き出した。
「くっ……!」
いきなりの唐突な動きにこちらの動きがつい反射で腕がそれに合わせようとするが人体の構造上不可能なレベルである。
結果、狙いは外れ。目標はそのまま外に向かった。
「己……!」
それに対してユーシスは憤怒の視線で憎き怨敵を睨んだ。
この自分の剣が。
躱された? それもあんな虫けら風情に?
許せるか? 否
「許せるはずがなかろう下郎め……!」
すぐさま反転し目障りな黒色を叩き潰そうと意思を燃やす。
そう、俺は誇り高いアルバレア家の血を受け継ぐもの。
ならば、たかが虫けら一匹に見下されるわけにはいかない。
故に───叩き潰す!
足を反転すると黒いのは既に廊下の中央にいる。
ノロマめっ、と思うと同時に好機と思い足を進める。
すると
「なっ……!?」
黒いのが何故かエマの部屋からも飛び出してマキアス・レーグニッツも憤怒の形相で飛び出してきた。
何となく経緯は予想できてしまったのが腹が立つが今はそんな場合ではない。
獲物は二匹ともほぼ同じ。
だが、相手は小さい体躯なので問題はないのだろうが、廊下は人間二人が暴れるには少々狭い。
だから
「邪魔だ、戯け!」
「君が邪魔だ! どけ!」
言われた発言に思わず視線を相手に向け、殺意にも似たような感情を吹き出し
「……あ?」
二人同時に反射で振り上げていた新聞紙ブレードを振り下ろしていたのを他人事にように見た。
それもターゲットをちゃんと視認しないままに。
我武者羅に放った斬撃は当然真面に当たるわけなく、Gをちょっと掠る程度に収まり───二度目の光が自分達を包んだ。
その後、爆発音を聞いて二階に下りていた三人が見たものは廊下に横たわっている大貴族の綺麗な金髪アフロと知事の息子のアフロと罅割れた眼鏡であり、二度目の大声が寮に響いた。
とりあえず何をやっているんだろうね自分と思えるオリジナルストーリー。
魔獣に関しては完ぺきなご都合主義型ギャグ魔獣です。
まぁ、ヒツジンみたいなセクハラ魔獣がいるくらいだから大丈夫な気もしますが……
本当は一話で完結したかったのですが、どうやら前編後編に分かれました。
次回で今回よりも短くして掃除を終わらせてもう一個オリジナルを書いたらメインストーリーに行こうと思っているのでできれば気を長くして待っていただければと。
感想、本当にお願いします……!