「くっそ……!」
マキアスは本日最悪にして最大の正念場に息を切らせて現状を嘆いていた。
マキアスはあの後、自分がかなり軽率で周りに迷惑をかけるような行為をしたのかという事に気づくくらい頭を冷やし、謝罪をしようと来た道を戻っている最中であった。
そして戻る途中に魔獣に遭遇した。
そこまでは良かった。
魔獣に遭遇してもショットガンの扱いはそれなりに出来るので相手に気づかれる前に射撃して撃退した。
ここまでは良かった。
だが、その後が問題であった。
ショットガンというのは装填を一々しないといけないのが難点で距離が遠いと威力が減るのが弱点だが、その分近接の威力は強いし弾が広がるので集団戦にも有利なんだが……銃の特性。
そうなったら結果がこれだ。
フロア全て……というわけではないがかなりの魔獣がここに集まってきてしまった。
「ちぃ……!」
弾を放ち、直ぐにポンプアクションで放つ。
それと共に飛び掛かってきた魔獣は散り、そこで再びポンプアクション。
さっきからそれの連続である。
弾の交換などをやっている暇などないので既に導力をメインとした弾に変えている。
こうすると何時かは導力変換によって中身が熱でイカれる可能性があるがそんなのに構っていられる余裕はない。
また、導力弾だと弾に特殊な能力を加えるには戦術オーブメントから発動するのだが、貰ったばっかりのオーブメントであるが故にクオーツなどが以前のと違い規格外である。
つまり、現状は洒落になっていない。
「ああもう……! 今日は厄日だ!!」
愚痴を吐くが現実には作用してくれない。
再びポンプしてショットガンを前に構え、放とうとした瞬間に
「───キィッ!」
「なっ……!」
横からの魔獣の接近に気付かなかった。
致命的な隙。
ここで自分は死ぬのかなどと在り来りな感想を抱き、最後に父と自分の生き方を作るきっかけになった人を思い出し、そして
「どうりゃあああああああああああああ!!」
それら全てがガントレットを装備した少年の拳で粉砕された。
「はぁ!?」
突然の奇跡に何度目かの驚きを示してしまうが、少年の地面に叩き付けられた衝撃波で魔獣が怯えた様に引いてくれたことが一番ほっとした。
ほっとした所で気づいたら周りはほんの少ししか顔を合わせていないメンバーが囲んでいた。
「き、君達は………!」
「話は後だ。ガイウス! マキアスとエマを抱えて戦う事は!?」
「任せてくれ」
「よぉし……ガイウス。慣れないかもしれないが、流石にこれだけの数だと余裕がないから半分はお前達に頼む。アリサ。いきなりの実戦だがやれるか?」
「あのね……一応、私も士官学院に自分から入学しているのよ。やれるかじゃなくてやるわ」
思わず口笛でいい女だなぁと内心で微笑を浮かべる。
さっきのデート。冗談じゃなくてマジで頼むべきだったかと楽しい後悔を浮かべ
「全員! チームで組んで各個撃破。エマとアリサは後方支援、マキアスは前に出ないようにしてアリサやエマのフォローを最優先───行くぞ!」
「おお……!」
全員の叫びと共に魔獣がこちらに飛び掛かってきた。
「ARCUS駆動……!」
複数を相手に弓では不利だとアリサは直ぐに思い、前からはともかく横から魔獣が来ていない事を確認した後にアーツ準備に入る。
流石に簡単なファイアボルトくらいしかないが下手な攻撃よりも攻撃になる。
だけどアーツが駆動するまで自分は無防備になるので横からはマキアスがフォローしてくれると信じ、前はレイとガイウスを信じるしかないと思い、前を見ていると
「ふっ……!」
呼気と共に飛び掛かってくるトビネコなどよりも速く近付き、何故か直前で空に飛ぶように地から跳ねる。
そこからがまるで自分の視界はスローモーションになったかのようにコマ送りに動きが進んでいる気分になる。
よく見ると彼は空中で一回転をしようとしており、そして左足がわざとらしく伸ばされており、そして恐らく数秒のカットシーンが視界に続き踵がまるで吸い寄せられるようにトビネコの頭に迫り、後は想像したくないので暫くお肉は見たくないかもしれない。
いや、士官学院に入った時点でこれくらい我慢しなくてはいけないのだと思い、アーツの駆動を急ぐ。
レイはそのまま群れの中に入らないように絶妙なコントロールと体捌きで爪や体当たりをガントレットで弾き、拳、足、更には肩や膝などを入れて魔獣を倒し、押しのけていく。
「凄い……」
思わず戦闘中だというのにポツリを口からの呟きを止めれない。
見れば後衛の二人も黙ってコクコクと一緒に頷いてくれる。
それに凄いのはレイだけではなくガイウスもだ。
「風よ……薙ぎ払え……!!」
一瞬、オーブメントが発光したかと思うと頭の上で回していた槍から強力な風が生まれ、そしてガイウスはそのままそれを魔獣達に放った。
するとそこに人口の竜巻が発生して魔獣達は阿鼻叫喚。
そしてそこから漏れたものをガイウスは槍で蹴散らせればいい。
あれだけの数の魔獣を単純作業の様に戦っている二人にやはりもう一回凄いとだけ呟き。
そして
「ファイアボルト!」
「ルミナスレイ!」
物理攻撃などの攻撃が効かない魔獣に対しては私達のアーツが止めを刺す。
後は本当に単純作業であった。
「ふぅ……何とか終わったわね……」
「へ、へとへとです……」
そして魔獣を掃討するのに約十分間くらいで終わった。
戦闘に関して特別知識とかを持っているわけではないが、それでもガイウスとレイの役割が一番大きかったことは理解している。
正直、余りサポートできなかったのは不甲斐ない。
エマは仕方がない。彼女は戦闘に関しては経験を積んでいなかったのだから。むしろ、初陣とも言える戦闘で彼女は震えはしたが、自分の役割を精一杯やっていた。百点をつけてもいいくらいだと思う。
まだまだね、と自己評価をし、とりあえず前を見る。
マキアス……とりあえず勝手に言わせてもらうが、彼も似たような事を考えていたのか。少し悔しそうな顔で二人を見ていた。
そして私も二人を見ようとしたのだが……何やらおかしい。
二人とも構えを解こうとしていない。
念には念をという雰囲気……どころではなくまだいるという断定系の雰囲気を感じて思わず三人で周りを見回すが視界に移る場所には魔獣の姿はいない。
こっちの勘違いか、二人の考え過ぎかと思わず息を吐き出し
「アリサ!」
ばっ、と振り返ったレイがこちらに向かって突進してきた。
へ? と驚く間もなく腰に手を回されそのまま勢いよく地面に押し倒された。
「……っ。危なかった……」
女の子特有の温かい温度を体に抱きながら、背後を見る。
背後にはガイウスが貫いている魔獣の姿。
さっきまでは周りにはいなかったが、魔獣もない知能を使ったのか。天井の梁に上って上から奇襲してくるということであった。
クソ親父に魔獣退治に付き合わされた甲斐があったというものである。
やれやれ、と今さらになってサラ教官の無茶苦茶を実感する。
確かに、ここにいるメンバーの大半といいユーシス、ラウラ、リィン、それに銀髪の少女と頭一つ飛び抜けたメンバーが多く集まっているのは何となくわかるが、エマ、とエリオットとかは戦闘とは別分野の才能系統なのではないかと思う。
まぁ、それにしてはエマの度胸がかなり凄いと思う。魔獣に対して冷静にアーツを練れるというのはそれだけで才能である。
アーツの威力もかなり高いし、アーツ適正最下位の自分としては羨ましい。
今はともかくこれからとなると成長が凄いだろうなぁと今だけの上から目線を楽しませてもらう。
「だ、大丈夫かね!?」
「あ~~。平気平気。俺は大丈夫だし、アリサもだいじょ……」
うぶ、と加えようとしてようやく腕の中を見る。
腕の中では綺麗なブロンドの髪よりも色としては激しいくらいに顔を真っ赤にして恥ずかしさと怒りと照れの三つの感情が行き交って、どこに落ち着こうかをこの瞬間にも考えようとしているような感じであり、何となくオチが見えたのは理解した。
では、この状況をどうすればいいだろうか、と真剣に考える。
きっかり三秒考え、ここは自分が先に攻撃するべきだと考えた。何故ならアリサの表情はすでに怒りの方に傾きつつあるのだから。
「アリサ」
「……何かしら?」
冷静に怒っているという矛盾の表情を顕現させることに成功しているアリサに対してあくまで自分は冷静にああ、と頷き
「───出来ればこの状況をもっと楽しみたいから後三分くらい構わないか?」
「構うにきまってるでしょ変態!!」
そのまま即座に膝を曲げて思いっきり脇腹に抉り込む様に入れられ俺はたまらず吹き飛んだ。
とりあえず十五秒くらい苦しんでから何とか立ち上がり、汚れた部分を手で払う。
「───よし。マッキー、怪我はないか」
「だ、誰がマッキーだ! 僕の名はマキアスだ!! というか、この場合、怪我人候補は君だ……!」
「それだけ叫べたら大丈夫そうだな。でも、あんな事になることも考えずに勝手に一人で行くのはどうかと思うぞ?」
「それについてはレイに賛成だ。風と女神の加護もそうだが俺達が間に合わなかったら危なかった」
「う……それは……すまない……」
この様子だとかなり反省しているようだから問題ないだろう。
反省していなかったら流石にあれだったけど。
「エマとアリサも怪我は………なさそうだな」
「は、はい。お陰様でって。レイさん。手、ちょっと怪我してますよっ?」
「え?」
何故かアリサが驚いた顔でこっちを見ているが、とりあえず、ああ、とエマに対して頷き手を見せる。
そこには怪我という割にはちょっと裂いて流れ出た血があるだけであった。
「別に大したことないよ。よくある擦り剥いたような傷。大方戦っている最中に怪我でも───」
「……嘘ね。さっき、私を助けるときは手に傷なんかつけていなかったでしょ」
一瞬で看破された気がするがここでめげたら帝国男子の名折れだと思い、膝かっくんしかけた膝を立て直す。
「いや違う………! そう! 実は先程槍を振り回していたガイウスの風に当てられて鎌鼬を喰らったみたいなんだ! だからオールオッケーだ!」
「……」
ガイウスが無言の抗議をこちらに向けてくるが今だけ無視する。
そう、女の子に責任を負わせるなぞ男のすることではないのである。だから、マキアスの馬鹿を見るような目も、エマの苦笑も今の俺には見えないのである。
そうしているとアリサも観念したかのように溜息を吐いて懐からハンカチを取り出す。
「……はいはい、じゃあ解ったからせめてハンカチで黴菌が入らないようにくらいはさせてもらうわ」
「いや、別に……そのハンカチ高そうだし、別にこれならティアを使わなくてもいいくらいだぞ」
「いいから。黙って治療くらい受けなさい。じゃないと」
ボッと小さいファイアボルトが指の先から出て、にこりと彼女はは笑った。
焼いて塞ぐぞ、と言外に告げられ無言で治療を受けるしかなかった。
やだなぁ、積極的過ぎるよ……。
成程……このクラスに集まるメンバーは規格外なんだな、と改めて実感した時であった。
そして手に何やら高級感感じる包帯を巻かれ、色んな意味でむず痒さを感じながら手を開いて閉じを繰り返して問題なく拳を作れることを試し、よしっと立ち上がる。
「ありがとよ、アリサ。今度、代わりのハンカチを何とかするわ」
「……(礼を言うのは本当はこっちの方でしょうに)」
「は?」
「な、何でもないわ。それより先に進むんでしょ」
「あ、ああ……マキアスも当然、それでいいよな?」
「むしろ、僕からお願いしたいくらいだ。解ってはいるだろうけど、改めて自己紹介させてもらう。マキアス・レーグニッツ。平民出身だ……そういえば、その……助けてもらった分際で失礼な事を言うと思うんだが……その身分を聞いていいか?」
逆に言えば失礼だと思っても聞かざるを得まいという事なのだろう。
リィン達と話したようにかなり根深い事情がありそうだが、下手をしたら反感を買いそうな言葉だから一応、周りのメンバーをそれとなく見回すが見たところそこまで気にしている人間はいなさそうであった。
「貴方ねぇ……まぁいいけど。私は別に貴族じゃないわ。平民よ」
「俺の方はむしろ身分とかがなくてな。ノルドの方からの留学生だ」
「私もです。田舎の方から来ましたから……そんな高貴な血を持っている人間じゃありません」
上手いこと貴族のメンバーはいなかったようである。
まぁ、見たところ貴族っぽいのはラウラとユーシスっぽいし。
身分制度関係なくと言うが、そこまで気にするほどごちゃごちゃになっていないのだろう。
「そ、そうなのか……ええと、君は?」
すると当然、まだ返事をしていない俺の方に視線が向くわけで、はて、どうしようかと思う。
別に答える程、まだ信頼性を築いているわけではないが流れ的に自分だけ答えないと明らかに自分は貴族ですを隠しているようにも思えるから困る。
まぁ、別に隠す理由もないから答えてもいいかと思う。
「平民か、貴族か、と言われると───ぶっちゃけどっちだろうなぁ?」
「……は?」
一瞬、マキアスどころか全員が意味が解らないという沈黙を作る。
その間に挟むように自分の言葉を入れる。
「いや、冗談じゃなくてマジでな────まぁ、よくある記憶喪失の養子って奴でな。だから、ぶっちゃけ自分が元平民か貴族かわからなくてな」
「……あ」
すると全員が気まずい顔でこちらを見るのだから面倒なのだ。
特にマキアスなど顔を青褪めている。
別にこっちは同情が欲しくてこんな詰まらない話をしているわけじゃないのだ。同情してほしいなら、もっと脚色をつけてお涙プリーズをしている。
面倒くさい雰囲気はさっさと掃除するのが吉だ。
「別に記憶喪失で養子だからと言って別に不幸じゃ……」
ないと言おうとして今までの記憶を思い出す。
そう、母さんは実に気立てがよくて素晴らしい女性と思っているが、逆にクソ親父の事を思い出す。
例えば、訓練だと言って滝がある場所に連れられたと思ったら後ろから押されて落ちた事とか。
例えば、泳ぎの練習だと言われたと思ったら何の遠慮なく足を下から引っ張られ危うく水死体になりかけた事とか。
例えば、勉強だと言われ椅子に座ろうとした瞬間に机をちょいやー!! とか叫んでこっちに弾き飛ばして顎を強打した事とか。
「不幸では……不幸では……不幸ではなかったが殺意が沸く生活ではあったが復讐をしようと思ったら毎度奇襲を察知するし、飯に毒を入れてやろうと思ったら何時の間にかそれが自分の飯の中に入っている時もあってストレスとかが溜まって……うん、まぁ普通の生活を送れたよ?」
「いかん、手遅れだ」
ガイウスがこちらを致命傷を得て死ぬ寸前である患者の見切りを下した医者のような表情でこちらに冷静なツッコミを入れた。
何とか意識を取り戻して周りを見ると気まずさが消え失せて憐みの視線がこちらを見ていた。
「その……すまない……そんなつもりで言った言葉じゃなかったんだ……」
「おい、待て。さっきまでならともかくこの状況でその台詞だと意味はともかく心に響かなくなるだろうが……!」
「……レイさん。後で一緒にご飯を食べませんか? 高いものとかは無理ですけど……でも一緒に普通のご飯を食べません?」
「慈愛の目で告げられなかったら嬉しかったなぁ……!」
「……さぁ、行きましょう。皆で明日を掴む為に……!」
「ああ、明日を掴む為に……!」
「おい、ちょっと待て。何だその結束力はーーーー!!」
とりあえず、全員の結束力が高まり(不本意だが)さぁ、先に進もうと漲るパワーと共に前に進もうとしたのだが、相手が誰だったかを忘れていた。
「のわーーーー!!」
「マキアス! 叫んでいないで走れ! 無駄に酸素を消耗していると死ぬぞ!」
「も、最もだが……!」
最もだが、一言言いたいという表情で今、自分達が走っている状況の原因を睨む。
そう、それは巨大な丸い鉄球。
走っている自分達は坂道なので当然、そのスピードは段々と速くなっている。
そう、その意見は最もなのだが
「あの鉄球はどういうことだーーー!」
この通路に入ったかと思うと急に入ってきた入口が閉まり、そして何だ何だと思い、少し道を進むと急に後ろから鉄球が落ちてきたのである。
文句の一つや二つ言いたくなるというものである。
「知るか! 今必要なのは疑問を思うことじゃない………! 今、俺達に必要なのは心ではなくただ走るという機構になるという無心であり、そうつまり───」
「───風になることだな!」
「そう! その通り! 我らはこの瞬間人ではなく風になるのだ………!!」
「出来るかーーーー!!!」
「何を言う! 前にいるエマを見てみろ!」
そんな余裕は欠片もないのだが、とりあえず心配の意味でもとりあえず見てみた。
「…………!!」
すると、そこには初対面で感じた奥ゆかしさとか聡明さとかを全て脱ぎ捨てた有りの侭の姿………すなわち走らなければ死ぬという言葉を体現したかのようなド必死な少女の姿があった。
俗に言う女の子走りというものではなく、素人なりの必死な、しかしそれ故に生まれる足、体、手の振り。その表情に余裕などなく最早血走っているレベルの目線が自分の状態がどんなのかを示していた。すなわち、形振り構っていられない。
「って駄目じゃないか!!?」
ツッコんでから周りを見るが、よく見ればレイはおろかガイウス、アリサもレベルは違えど似たような血走りを見せている。
生の本能にしがみ付く原初の人間というタイトルの写真が生まれそうだな、と現実逃避の余裕が生まれてしまう。
だが、自分も残り数秒したら同じ存在になることを否定できず、いっそ己も最初から理性を捨てていればよかったと悔しくなった。
恐らく時間にしては一分ちょっとくらいだったのかもしれない。
しかし、俺達にとってはまるで一日中走ったかのような気分を覚えたものであったと全員で床に倒れて息を吐きながらそう思った。
風と女神よ……
ガイウスは本気で今の状況を風と女神に感謝していた。
全員無事で生きているという事をこれ程感慨深く思った事はないなと思った。
そんな時にエマがゆらりと立ち上がった。
「え、エマ?」
アリサもその立ち上がり方に不吉を感じたのか、少し引くようにエマに声をかけるが彼女は無反応。
視線も何か虚ろだ。
全員どうかしたのかと固唾を飲んで見守り、そして
「……あ、おばあちゃん。ふふ……今日はリソッドなの? セリーヌも喜びそうね……」
「え、エマーーーー!!?」
「……自分の最も幸福な記憶に飛んだか……こうなったらもう脳は……」
「い、言っていいことと悪いことがあると思うぞ!?」
もうこのチームは駄目かもしれないとつい思ってしまう瞬間であった。
だが、希望は捨ててはいけないという言葉を信じて息を整え皆に気力を取り戻す言葉を吐く。
「皆……風が流れている……もうすぐ出口だ」
「で、出口……? そんなものがあるんですね……」
「誰か……キュリアの薬持ってないか……!」
状態以上混乱を持て余しているエマに対して全員で何とか落ち着かせることでようやくまともに戻せた。
全く、とたまらずにマキアスが舌打ちをし
「一体誰がこんな陰険なトラップを仕掛けたんだ! 仕掛けた人間は絶対に性格悪いぞ!」
「なぁ、ゼリカ。そういえば一つ聞きたかったことがあるんだがよぉ……あの鉄球やら何やらは一体どうやって調達したんだ?」
「ん? ああ。学院長に訓練用にと言ったら快く引き受けてくれたよ? 何でも手作りらしい」
「……笑えねえ……」
「と、とりあえず……もうすぐゴールだ。とっとと行って上がろうぜ……太陽の光を見たくなってきた……」
全員が異議なしと頷き立ち上がる。
そこら辺は皆、士官学院に入学するだけあってか体力の回復がはえぇなぁと思って、俺も前に進もうと思い、前を見上げると魔獣が数体、こちらをじーっと見ていた。
「……」
全員の一致団結に言葉などいらなかった。
何やらオーブメントが光っていた気がするが、最早気にする理性などは既に存在していなかった。
やる事はただ一つ。
故に誰もが無言で武器を構えた。
その在り様に魔獣達は脅えた様に一歩後ろに下がった瞬間に、全員で奇声を上げて襲いかかった。
その時の魔獣が仮に僅かでも知性があったのならばこう思っていただろう。
キチガイ、怖い、と。
……何故かもうキャラ崩壊が起きているような気がする……。
この調子だと次回で旧校舎は終わりですかね。
というか次回で終わらせたい。
感想よろしくおねがいします