絆の軌跡   作:悪役

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特別実習 ノルドⅢ

リィンは昨晩のレイとアリサの二人での会話を明日に皆で問い詰めようという計画を立てていた本当に学生らしい日常を何故か思い出していた。

委員長プロデュースによる二人が気になるから見ましょう発案に全員がいやいや、と建前を放った後に普通に気配を経って見に行った昨日の夜。

誰もが普通に本気で気配絶ちをこんな馬鹿げた事に普通に使っている事実に全員のノリの良さがおかしいな、と内心で苦笑しながらも俺も乗っかった。

そして何やら雰囲気だけを見るとレイがすっごいヒロインっぽい挙動なのでとりあえず今度新聞部辺りに報告しとく事をスケジュールに入れて、その詳しい内容を朝に聞いてみよう。

 

───そんな当たり前の日常を送る事を目の前の光景が許さなかった。

 

「……」

 

全員が声を出す事が出来ない。

ここは昨日、依頼があって来た事がある監視塔。

カルバート共和国の方を監視するために立てられた塔であり、軍人の人にはそこで見える光景を見せて貰った。

昨日見たら普通に見えた監視塔の屋上部分が吹っ飛んでいる。

砲撃されたのは間違いなく───いや本当に目を背けたいのは

 

───余りにも真っ白な布団に包まれている塊が目についている事だ。

 

最早、想像するまでもないのは解っている。

アリサや委員長も口を覆ってその事実を噛み締めている。

顔が青白くなっているように見えるのは決して気のせいではない。

 

酷い

 

そうとしか言えない事故現場。

思わず俺も沈黙しようとして

 

「おい、リィンリーダー。とりあえず現場検証始めようぜ。突っ立っているだけだと邪魔だし」

 

レイが別に何も変わってないと言わんばかりに事故現場に足を踏み入れていった。

 

「お、おい……」

 

余りにも自然に悲惨な場に歩いて行くので全員が無理矢理に引き留めてしまいそうになるのを静止して勝手に行く馬鹿の背に小走りで追いつく。

余りにも自然な歩みと表情に本当に自然体である事に気付く。

それに対してか思わず委員長が

 

「その……レイさんは平気なんですが」

 

「ん? ああ平気と言えば平気なんだろうな。死体は見慣れている」

 

さらりと言われた言葉に思わず全員で絶句するが、本人は自分が吐いた言葉が気に入らなかったのか。

う~~と、ちょっと考え直して

 

「違うな。多分、見慣れているみたいか」

 

「……何故自信がないんだ?」

 

「いやだって記憶ないし」

 

経験だけ体が覚えて困ったものだ、と愚痴るレイにやはり絶句する。

本人はちゃんと自覚しているのだろうか?

それはつまり、記憶のなかった時期に人が大量に死ぬのを目撃しているという事である。

人の生き死にをその目と体で体感してしまっているという事なのだ。

もしかしたら

 

レイは猟兵の子供……とか?

 

それなら有り得なくはないかもしれない。

それはそれで頷ける部分は結構、多々ある。

戦闘能力もその切れる思考も過去にそれらしい場所で訓練を受けていたからというのなら分かる。

勿論、逆にそれこそ本当に遊撃士の子だったかもしれないし軍人の子供だったのかもしれないが。

それでもそこまで人の死を見慣れる理由があるとすれば猟兵の可能性が高い。

高いが

 

「……」

 

どうしてもリィンはそっち側には見えなかった。

おかしな話だ。

どこにいてもこのようなキャラを通すような唯我独尊の典型的なキャラに見え、戦闘中でも不敵な笑顔を浮かべ、むかつくが頼りになる男が

 

───被害者側の人間に何故か見えてしまう。

 

強いのは確かなのだ。

年齢からみても確かにレイは実力は普通に考えれば圧倒的ではある。

だが、それ以上にリィンはその精神力に目を向けてしまう。

武を昇華するのに必要なのは当然、才や地道な努力というものが必要ではあるが、それを成し得るのに必要なのは忍耐といった精神力だ。

ラウラはその真っ直ぐな志と生き方から。

フィーは今までの人生から。

Ⅶ組のメンバーのほとんどがこの組み方に分けられると思う。

レイは……多分、無理矢理に分けるとしたらフィーと同じで今までの人生から。

フィーみたいに選択肢は少なかったがそれでも選び取った道だからこそ強いかもしれないと同時に流されて得た力かもしれない場合もある。

レイは間違いなく選び取って得た力だ。

選ばされた力のような感じがしない。

勿論、今までのは自分の勘でしかないし、所々推理が間違っているのは承知の上の考えである。

それにこの馬鹿がそういった事を考えてはいないとは思えない。

そこまで考えてそういえばと思った。

 

───レイは過去の記憶を取り戻そうと思っているのか、と。

 

同じ記憶喪失者として過去についてはそれは思う事がある。

知りたくないか、知りたいで言うのなら確かに頷きたい様な頷けない様な気持ちがある。

何せ本当に何も思い出せないのだ。

自分が何故記憶を失ったのか、どうして捨てられた、家族は生きているのか死んでいるのか。

そういったネガティブになりそうな部分も丸ごとそこに詰まっている。

記憶喪失になる理由というのは小説などによる典型的なパターンで当て嵌めれば二つだ。

 

頭に大きな衝撃を受けて物理的なショックによって記憶が失う仕方がないパターン。

 

そしてもう一つが───精神的なショックで記憶が喪失するパターン。

 

どっちも恐怖ではあるがどちらがマシかと言えば前者の方だと思う。

この場合は悪意があるパターンもあるが事故によってなった可能性というのもあり、救いがある可能性がある。

 

だが後者にはそれは全くない(・・・・)

 

子供の頃の自分もどっちの可能性も怖いが、特に後者の可能性には怖がった。

先程は物理的に記憶を失わせるなどと言ったが、あれだって相当なショックが必要である。

それを精神的なショックで補うのだ。

一体、何をしたら自分がそうなるのかと震えたものである。

そしてだからこそレイがさらりと告げた事に畏怖に近いものを覚えるのだ。

 

覚えのない自分が死体に見慣れるような体験をしているのにさらりとそれを流している事に。

 

振りでやっているのだろうか。

否、そんな風には見えない。

本当に彼はさらりとそんな自分を受け入れているように見える。

自分は死体を見慣れてしまう体験はした。で、それが? とでも言わんばかりの態度であった。

その態度から二通りの解釈がある。

一つは過去の事は過去で今の自分とは全く関係ないことだと割り切っているのか。

もう一つは───過去の事を全て受け止めた上でさらりと語っているのか。

どちらも自分には真似が出来ない境地ではあるのだが……特に後者の場合は想像を絶する。

どれ程の精神力を持ってればそんな事を成し得るのか、と。

そして

 

「車の運転もそれか?」

 

「いや? それは事後だが?」

 

馬に乗れないレイの為にノルドの民のアムルさんに借りた導力車。

有り難いとレイは頷き、馬の負担を減らすために委員長も乗っての運転。

委員長は実に恐る恐るという態度の悲壮な決意をしていたが意外にも普通な運転ではあったのが別の意味で着いた途端にほっとしていたが気持ちはわかる。

何故なら運転自体は普通なのだが、時々小柄の魔物を見ては描写し辛い事をレイが自然体でやりまくったからである。

それはもう悲惨であった。

肉を擂り潰した時の音が響いた時は車内にいる委員長のひぃっ! という悲鳴が高原に響いたものである。

しかし、本人は今回に限って全くの善意であり、単に突っかかりそうな可能性のある魔物を潰しただけという。

論理的にはおかしいものではなかった為に委員長も止めるに止めれずに涙目でずっとスカートを握っての行進であったらしい。

まぁ、こんな馬鹿げた思考で現実逃避を続けていたいがやはり目の前の悲惨さから目を背け続けるのは無理であり、今も尚、このノルドが切迫した状況になっているのだ。

このままでは共和国と帝国との開戦が避けれないものになる。

 

「何とか出来る物を見つけないとな……」

 

パン、と軽く顔を叩いて色々と勝手に見回っているレイに何故かアリサも傍にいて散策してレイが凄いやり辛そうという珍光景は今日だけは無視して俺も何か回避に繋がる物がないかを見回しに始めた。

 

 

 

 

 

「カットバックドロップターン……!」

 

「た、ただのドリフトですようぷっ……!」

 

実に適当に叫んだ台詞に律儀に横からツッコミのお言葉を貰うが気にしていられない。

何せ非常事態だ。

例え、それによってエマの健康状態に著しい被害が出たとしても許される。

犯人候補に当たる人物を今、追いかけてノーブレーキなドリフトをかましているのだから。

それはエマ。厳密に言えばアリサとガイウスも含めた3人のファインプレーによって敵……まぁ、一応敵と呼称するけど、その敵がどこから監視塔と共和国の方を撃ったのかを見つけた後の出来事であった。

 

「お、おい! 皆! あれを見ろ!」

 

「何だリィン。ついに頭の中の妄想を現実に投影したか? 可哀想とは全く思わないが病院に行って来い。それで無理なら諦めろ」

 

即座に俺とリィンの殴り合いが発生したが他のメンバーは普通に二人を無視してリィンが言った物に目を向ける。

最初に反応したのはユーシスであった。

 

「あれは……」

 

銀色の物体が空中を飛行していた。

しかし、目がいいものには銀色の物体が銀色の傀儡に見え、その手と思わしき場所に何やら子供が乗っているのが分かるだろう。

余りにも意味の分からない組み合わせだが、ユーシスには心当たりがあるのか。

それをそのまま口に吐き出した。

 

「オーロックス砦付近で見た銀色の……!」

 

「それってマキアスが捕まる原因になったっていう?」

 

ああ、とユーシスは答え、エマもそこに保証するかのように頷く。

 

「……この状況で正体不明の子供と銀の傀儡……」

 

「……在り来たりだけど、偶然なわけないわよね」

 

なら方針は決まったも同然である。

各自が急いで馬に乗る。

俺とエマも急いで車に乗り

 

「速度だけなら俺達の方が上だから先行して足止めだけしておくぞ! ───ただしエマの健康面は考慮しないが」

 

「無茶するなよ馬鹿! ───せめて戦える程度には加減しておけ」

 

「あ、あの、ちょっと! 今、私の健康への悪影響がさらりと流されませんでしたか?」

 

善処する、ととりあえず定型な台詞を吐いてアクセル全開で走った。

いやぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁと叫ぶ少女の悲鳴が隣から聞こえた気がするがうん、非常事態だ。

非常事態は何事にも優先されるものである。

いやぁ、高原はいいものだ。

何せ走るのに邪魔するものが魔獣しかいないから遠慮なく速度制限など気にする事無くアクセルを踏める。

都会では不可能な事である。

 

ビバ高原……!

 

「そ、その表情……! うっ」

 

隣から使命感に満ち溢れた声が届いた気がするが後に喉からリアルな音が聞こえて口を押えたことになった。

悲しい事に正義も力が無いと生き残れないのである。

正義かどうかは勝った者が決めるのが弱肉強食の掟。

う~~ん、切ない。

と、やっている内に着いたようだ。

何やらストーンサークルめいたものの場所に降りたっぽい。

このままアクセル全開で轢いてやろうか、と一瞬、考えたが借り物の車なので万が一壊れたら結果としてサラ教官辺りに殺されそうなので手前で止めて車から降りる。

 

「おい、エマ。大丈夫か? ここで死んだらお子さんが悲しむぞ。フィーだが」

 

「う……ま、まだ……死ぬには……」

 

エマも随分とノリがよくなったものである。

最早、堅物という言葉はⅦ組からは消え失せた概念になりつつある。

マキアス? ははは、戯言を。

ラウラにユーシス? あれらは堅物ではなく天然気質である。

いやまぁ、一部堅いが。

 

「ともあれエマ。ARCUSと杖の準備は大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫かって……子供相手に戦うんですか!?」

 

「……それ言い出すと俺達も非難される立場だぞ?」

 

我がクラスの末っ子の事を出すとエマも弱い。

お母さんは大変である。

 

「まぁ、流石にそりゃあ暴力沙汰で解決するのは気が引けるけど、こっちがそう思っても相手がそう思っていないパターンというのがな」

 

「……何だか説得力がある言葉ですね」

 

以心伝心なぞARCUSを使っても難しいのだ。

全ての心を理解できるような装置なぞ……あっても気に食わないだけだ。

 

「ま、まずは会話から試みてみようぜ。交渉交渉」

 

「き、気楽に言いますけど私達交渉術なんて……」

 

「ないのなら臨機応変」

 

そう言って鼻歌を歌いながら緊張無くストーンサークルに向かっていく俺を見てエマも諦めたのか小走りで追いつき、向かう。

そうしてちょっと坂を上った先にはやはり小さな子供がいた。

何か独り言を呟いてこちらに気付いていない様子だったが、サークル内に入った瞬間にこっちに気付き

 

「あれ? シカンガクインの人だー? ってあれ? 人数減ってる?」

 

……ほぅ?

 

思わず内心で呟く。

何せいきなり士官学院の人だ、だ。

確かに今の自分達はまだ制服を着ているが故に分かる人には当然、分かる。

少なくとも学生服を着て武器を携帯している自分らがただの一般市民だとは口が裂けても言えない状態であるのは確かである。

武器と年齢から士官学院と推測されてもおかしくはないのだが……人数が減っているときた。

つまり、相手はこちらの事を知っている幼女のようだ。

ふむ、と思いながらも俺もそれに応える。

 

「そこの幼女よ!」

 

「ボク、幼女じゃないよー!」

 

「ほう? では何歳だ」

 

「うーーん。そこら辺はちょっとボクもわかんなーい」

 

「そうか───じゃあそこの幼女よ!」

 

「だからボクは幼女じゃないよー!」

 

「何を言うボクっ子で見た目10歳レベルの子供が幼女の範囲に入っていないと思っているのか! 鏡を見て出直して───」

 

背後からズドン! と色んな意味で響いてはいけないような音が後頭部から聞こえた気がしたら視界が真っ黒になった。

ちかちかと明滅する視界が一段落がついたと思ったら体は目の前の壁のような物に押し付けられていた。

 

……壁!?

 

いや壁と思っていたものは地面だ。

つまり、今の自分は地面に倒れているのだ。

 

「まさか遠隔攻撃か……! 己、幼女め!」

 

「う~~ん、シカンガクインの人って皆、こんな感じなの?」

 

「いえ。これはレイさんがおかしいだけなので気にしないでくださいね」

 

うむ、気のせいかエマらしい声がこちらを罵倒した気がする。

そういえば攻撃も前からではなく背後からだったような気がするが……まぁ、気のせいということにしておこう。

とりあえず立ち上がっとく。

 

「で、まぁお嬢ちゃんよ。悪いがちょ~っとお兄さん達と会話する気はないかい? 

 

「知らない人とは喋ってはいけないってクレアに言われたよ?」

 

「……ほっほぅ」

 

珍しい名前ではないがもうこれは偶然にしては出来過ぎなのでもしかしたら少女の正体が分かったかもしれない。

となると限りなく怪しいが敵ではない。

敵ではないが───情報を持っている可能性はあるな。

そう思っていると相手も何やらこちらを見ながらぶつぶつ言っている。

何でも戦力とか何やら呟いているように思える。

やれやれ、と思いARCUSUをエマに繋いでおく。

エマは唐突なリンクに驚いているようだが構ってはいられない。

 

「う~~ん。でもどれだけ出来るか試しといたほうがいいよね」

 

「§・∃ΓΛЁж」

 

銀の人形兵器が応えるかのように少女の前に出てきた。

どう見てもここからの流れは決まっている。

だが、ここを何とかするのが交渉術だ。

見ているがいい。

これぞ最終手段!

 

「まぁ、そんな事よりもちょっと話し合おうぜ? ほらほら、こっちに来ると飴ちゃんがあるぞぅ? 美味しいぞぅ? ささっ、こっちに来るとい───」

 

過保護の銀腕が躊躇わずにこちらに腕を振りぬいた。

直撃であった。

 

 

 

 

 

 

あ、自己紹介する前にガーちゃん殴っちゃった!

 

少女───ミリアム・オライオンは自分の分身ともいえるガーちゃん。正式名称はアガートラムがやった行動にやっちゃったー、とほんわか表情を浮かべながらてへっという顔をしている。

うん、今の手応えだと多分"ゴチャアッ!"クラスだと思う。

ガーちゃんのお蔭で現場は見えないけど多分、すっごい事になっているんじゃないかなー。

うん、さっすがガーちゃん! でも何時もより力が入り過ぎだった気がする。

でも、とりあえずこういう時は

 

「さよなら変なガクインの人! え~と、こういう時は君の事は忘れないよでいいのかな?」

 

「勝手に殺すな……!」

 

「え? うそ!?」

 

ゴチャアッ! コースから生き残れる人類が存在したのかとミリアムは瞳を輝かせてちょっとガーちゃんの背中から顔を除くと本当に生きていた。

ガーちゃんの拳をそのまま両手をクロスにして受け止めて、地面に亀裂を生みながらも両膝をプルプルさせながらも生きている。

 

「うわっ、本当に生きてるよ! マンガみたい~」

 

「ふふ……! この世界だとマンガみたい~という言葉を容易く実現することなぞ頑張れば出来るんだぜ……! 普通なら骨のどこかが折れている気がする!」

 

「……つまりレイさんもちょっと人外なんですね。逆に安心しました」

 

うわぁい、シカンガクインの人ってこんなに面白い人が一杯いるのかー! とミリアムはちょっと感動した。

おじさんやクレアが注目するわけだと深く感心する。

これは確かに色んな意味で楽しい。

そう思って目をキラキラしていると

 

「マンガ読んでんのか……」

 

「うん? うん! 面白いから好きだよー!」

 

そうか、そうかと答える変な人に首を傾げながら

 

「それがどうかしたの?」

 

「ああ───じゃあよくあるマンガのセオリー通りにやらせて貰おうか」

 

ほえ? と呟いた瞬間に気付いた。

自分の周りに光の剣が創造され、切っ先がこちらを向いている事に。

何時の間にとは思うが逆に納得する。これらの攻撃に繋げる為にわざわざ回避せずにガーちゃんの攻撃を受け止めたという事なのだろう。

攻撃を受けとめながら───否、何時の間にかアガートラムの腕を取りながら

 

「傀儡使いに対しての対抗策───とりあえず術者をやっておけ」

 

告げられる言葉が終わるよりも早くに導力で生み出された架空の刃は僕の方に殺到した。

 

 

 

 

 

 

 

目の前にいる銀の人形兵器を掴みながら、その背後の地面がまるで空爆を受けたかのようにドッカーン! と爆発をするのを見て米神から汗を流しながら

 

「……あの幼女……死んだかな……」

 

「い、威力は抑えていますから死んではいませんっ」

 

人間にはショック死という驚きで死んだりする死因が存在するのだが、いざという時は弁護側に回ってやろうと思うが、人形兵器に力が入るのを察して安全の為に後ろにバックステップした時点で何となくオチが見え始めた。

 

「うわーーー! すっごくきれいな剣!」

 

わーい! と言わんばかりに盛り上がっている子供が突き刺さった剣群の上でまるでブランコに乗っているかのような姿勢と能天気な笑顔で出迎えられた。

エマがそんな……とか嘘……と言わんばかりの驚愕を得ているのをARCUSを通じて感じ取るが、ただの子供がこんな状況でそんな謎の傀儡を操っているのだから実に想定内の身体能力である。

人間の形をした怪物というのを身をもって知っている人間からしたら何一つ驚くところはない。

傀儡使いの弱点は傀儡使い本人なぞ誰にでも分かる弱点だからそもそも期待してはいなかった。

強いて言うなら恐らく近寄れば自分で抑え込めるだろうとは思えた。

思えたが、それにはエマが目の前の傀儡を相手しなければならない。

却下するしかない作戦だからやはり自分がこいつを相手しなければならない。

 

フィーがいれば相性が良かったんだけどなぁ……

 

かなりの無い物強請りだが事実、フィーがいれば間違いなく勝てたと断言できる。

単純な近接系のリィンやユーシス、ガイウスでも行けるとは思うがその中でも特別にすばしっこく双剣銃という得物ならば能天気な少女相手には相性が良かったと思う。

猫みたいな彼女なら目の前の銀の傀儡に対しても擦り抜けられたとは思うし

 

「戯れに聞くけどエマ。あの傀儡───」

 

「ガーちゃんだよー! 正式名称はアガートラム! ちなみに僕の名前はミリアム・オライオンだよ!」

 

「おお、こいつは丁寧に───じゃああのアガートラムを潜り抜けてミリアムを捕えられる?」

 

「レイさんは私に死ねと?」

 

諦めマッハの我がクラスの委員長。

逆に行きますっ、とか言われたらこっちの心臓がブレイクしてたからいいのだが。

まぁ、でもそこら辺は別に問題はない。

何故なら今回の自分達の役目は別に目の前の少女を倒すことではない───足止めが本命だ。

少女の強さは確かに年齢を考えれば驚異的な物ではあるが、それも理不尽クラスの物を前にすれば自分らとそこまで力量は変わらない。

ならば、この面白コンビを倒す非常に簡単でシンプルな戦略は後ろから響く人では出せない足音であり

 

「悪い! 遅れた!」

 

「ああ。その分はちゃんと報告書に書いとくから気にするな」

 

「非常にリアルな売り文句だ……」

 

ユーシスのツッコミを無視してA班全員が追いついた。

 

 

つまり、数の暴力による強制的な鎮圧であった。

 

 

にゃにーーーー!? と驚くミリアムという少女に対して非常にいい笑顔を浮かべる自分を自覚して近接系全員でヒャッハーー! させてもらう。

目の前のアガートラムとやらも流石にMURIと言わんばかりな仕草に思わず苦笑してしまう。

 

 

 

 

目の前の銀の人形の方が実に人間らしく振る舞っているように見えて

 

 

 

 

 

 

 

 

 




な、長い間お持たせしました……

最近、疲れているせいか筆が進まず……いや言い訳ですね。
今回も何時もよりはちょっと短いのでお慈悲を……

でも、この話からでもリィンとレイの違いが目立つように書いています。

そしてようやく出たミリアムですが……ミリアム自身の強さとしては多分、Ⅶ組メンバーと変わらないだろうと思っています。
身体能力などは十分に高いが、実力としてみればⅦ組メンバーに勝るとも劣らないレベル。
まぁ、実際、ミリアムの強さはアガートラムの強さですからね。
最低限の身のこなしはあれど強さの概念はアガートラムに圧縮されているでしょうね。
他の鉄血の子供達と比べると実はミリアムが一番どういう基準で選ばれているのかがわからないんですよねー……

後、敢えてレイは前回の話を引き摺らないようにしています。
意識しないように……というのも勿論ありますが可哀想な事にレイ君はそこまで"弱い"意思でもないんですよねー……
戦闘もさらりと流したのは次回の方が本番だと思っているからです。

ともあれ楽しんで頂ければ有難いです。
感想よろしくお願いします。

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