絆の軌跡   作:悪役

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特別実習 ノルドⅠ

「やばいな」

 

「ああ、やばいな」

 

リィンとレイの合唱に鉄道の動きによって生み出される流れる風景を窓に映しながら、A班メンバー全員の深い頷きと共に窓ではなく反対の席をチラリと見る。

 

「……」

 

「……」

 

B班の席は実に重苦しいプレッシャーが特に男子二名の胃を直撃していた。

二人の可憐な少女が生み出すプレッシャーに最近、胃潰瘍になりそうなマキアスは大ダメージを受けているが、ここで挫けてはいけないという眼鏡男子の忍耐が笑顔で何か話題を出さねばなるまいと意気込む。

 

「そ、そういえばフィー。何か今日は準備の時間が長かったみたいだが……何をしていたんだ?」

 

「……ん。弾丸と閃光手榴弾と爆薬の補充。ブリオニア島には行った事がないから分からないけど一応、有事の際に備えて」

 

「……」

 

マキアスが崩れ落ちそうになる。

そこをフォローの為にエリオットが入る。

 

「そ、そういえばラウラは逆に夜遅くに出て行ったみたいだけど、どうしたの?」

 

「ああ。私は単純に何となく体を動かしたくなったから鍛錬をしに行っただけだ。レイもいたから鍛錬に誘ったが逃げられたが」

 

今度はA班のメンバーの視線がレイに集中した。

欠伸をして逃げたから隣のアリサが容赦なく小指を踏み抜いた。

レイは大量の汗が流れているが、アリサは綺麗な笑顔のままである。

 

「……不味いな。マキアスの胃が限界に達しかけている。おい、レイ。こういう時に茶番を作る役目だろう?」

 

「ふ、ふふ……こちらの小指の惨状を無視して茶番を作れとは……リィン。随分と芸人気質になったものだ……!」

 

もう一方をリィンが踏み抜いた。

それでも笑顔を浮かべているレイにガイウス辺りは称賛しているが他は無視だ。

 

「ふ、ふふふふ……生憎だが仕込みは既に済んでいる───全員のポケットにな!」

 

「なにぃ……!?」

 

慌てて全員が制服のポケットを調べてみると

 

「飴が……!」

 

「ど、どうして私だけ胸ポケットに……!?」

 

「……私のポケットには猫じゃらしが入っていたんだけど、レイは私に喧嘩を売っている?」

 

「胃薬……」

 

「お、おいレイ! マルガリクッキーなんてどうやって調達した!?」

 

大多数は飴だったが、何人かはそれぞれのネタを入れた物でニヒルに笑う彼の顔面を殴るシーンが生まれるが何時も通りである。

他、数人は何時入れられたのだろうかと考えるが、悪戯でレイの事を考えると無駄な気もするから溜息と共にとりあえず飴の人は食べ、胃薬の人は飲んだ。

マルガリクッキー。フルネームでマルガリータクッキーを引き当てたリィンはどうやって処分するべきか悩む事になった。

迂闊な事をしたら死ぬ案件である。

 

「ま、何はともあれノルドー♪ ノルドー♪ 着くのが楽しみで仕方がない」

 

「俺の故郷を楽しみと言って貰えるのは嬉しいな。期待に応えられる自慢の故郷だが」

 

「そうですね。そういえばガイウスさんは弟さんと妹さん二人いるんですよね? どんな子か楽しみです」

 

「まぁ、ガイウスの兄妹というのならかなり性格が良さそうではあるな」

 

ユーシスの言葉にうんうん、と全員が頷く。

 

「私も弟とか妹欲しかったなぁ」

 

「アリサさんは年下の子の面倒が好きそうですものね」

 

「私は兄か姉が欲しかったがな」

 

「へぇ……僕は姉さんがいるからなぁ。でも、皆からお前は末っ子属性だって言われるんだよね……」

 

「はは、俺も妹がいるけど兄とか姉がいたらか……考えたこと無かったなぁ」

 

わいやわいや、と何とか話題がいい方向に回ったのにマキアスが二人に見えないようにレイに親指を立てている。

レイもニヤリと笑って親指を立て返す。

ともかくこの場限りのマキアスの胃は安全を保障されたのであった。

後は知らないが。

 

 

 

 

 

 

そうしてB班と別れ、レイはエリオットとマキアスに敬礼をしてから別れ、それからどんぶらこをしてルーレに辿り着く。

そこでまた乗換かーと思い、全員で飯買わないとやばいんじゃ? という流れになり

 

「それには及びませんわ」

 

という可憐な声と共にあんぐり口を開けるお嬢様と逃げようとする俺をリィンが足を引っ掛けて倒す場面が生まれた。

当然、現れたのはパーフェクトメイドシャロンの姿であり、弁当を笑顔で浮かべる姿は他人から見たら天使のようにも見えるのかもしれないが、それと相対している学生は困惑したり、呆れたり、感心したり、憤ったり、逃げようとしたりと色取り見取りであった。

定期飛行船を使った先回りだったらしく、厨房もそこで借りるという無駄なレベルでのパーフェクト。

お嬢様への愛が為せる技と冗談交じりに言うがあながち否定できない箇所がある分、恐怖心もパーフェクトである。

だが、まぁそこまでなら全員、まだ許容範囲ないの出来事であったのだが

 

「久しいわねアリサ。そして他のⅦ組の面々も。アリサの母、イリーナです。ラインフォルトの会長をいているわ。うちの不肖の娘が世話になっているわ」

 

と、突然、キャリアウーマンの女性が出てきたかと思うと、アリサの母であった。

それはもう、アリサのリアクションが保証したので誰も疑いはしなかったが。

だが、挨拶をしたと思うと仕事があるのでの一言でそのまま帰ろうとするのをアリサが怒って自分に何が言いたい事はないのと言うと、別に今までの事は学院から聞いているから知っているの一言。

へ? とアリサが驚いている最中に自分が学院の理事の一人である事もばらし、アリサの精神はもう驚愕の形しか取れない。

その隙をまるで狙ったかのようにして

 

「それにしても……貴方がアーセルさんのお子さん?」

 

などと俺の方に視線を向けた。

流石に俺もちょい驚いたが、イリーナ会長の言い方に気付き、嫌な予感がするという表情で

 

「……クソ……父の知り合いで?」

 

「ええ。色々とお世話しているわ」

 

「身内の恥が……!」

 

イリーナさんの微妙な言葉選びで一瞬で悶えるかのように頭を抱えてしまう。

周りの全員が毎度思うが、こいつの父はどんなものなのだろうか? と考えるが、よく考えればこんな息子がいる時点で微妙に理解出来る気がする。

そしてそのままちょっとだけイリーナさんの視線が俺を見つめ、しかしそれを振り払うかのようにして後ろを向き

 

「一つ聞いてもいいかしら?」

 

「え? まぁ、答えられる質問でしたら」

 

「───貴方、笑わないの? 笑えないの? どちらかしら」

 

などと一々、クリティカルな質問をされる。

最近はこんなのばっかりで気が滅入ってしまう。

指摘されるのは慣れっこだけど、だからと言って指摘されまくりたいわけではないのだ。

 

「いえいえ何の事やら。このプリチーフェイスが見えませんか?」

 

とりあえず適当に両手の人差し指を頬に指してスマイルを浮かべてみる。

でも、こっちを見ていないイリーナさんには当然意味がなく

 

「そう。無駄な時間を取らせてごめんなさい」

 

そう言ってそのままクールに去っていた。

後からシャロンさんが微笑んで失礼しますと言っているが、とりあえず誰にとっても嵐であったアリサ母の登場は終わったようだ。

 

 

 

 

 

 

「……全く」

 

「あら? 会長、何か問題でも?」

 

後ろのメイドが恐らく微笑んでこちらに問いかけているが、どうせ理解して聞いているだろうから詳細は省いて

 

「貴方。気付いていながら報告しなかったでしょ?」

 

「ふふ……お嬢様の青春を邪魔するのは私の仕事の範疇外ですから」

 

「よく言うわね」

 

呆れて溜息を吐きそうだが事実なので何も言わない。

それにしても……うちの娘は男を見る目がないのかあるのか。

常識的に考えれば、間違いなく見る目が無い選択である。

そういえば娘の好みとか知らない自分であった。

 

「ですけど……お嬢様を戒めたりはしないのですね?」

 

「まぁね」

 

これに関しては昔、自分の口で一度、あの子に対して語った事だから前言撤回するのは少し大人気ない。

身から出た錆とはよく言ったものである。

自分やシャロンも含めて、本当に

 

「女って面倒ね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

全員が沈黙を持って目の前の光景に注視しているのがエマにもわかった。

気持ちは分かる。

というか自分もそうしている。

目の前に広がる風景……雄大という言葉が本当に似合うような高原と空。

夕方に着いたという事もあって夕日が草や山を照らして少し赤く彩っているのがまた美しく、魔獣がいるのも理解しているのだがそれも含めて自然の調和というようなものに見える。

 

「ふふ……驚いてもらって何よりだ」

 

それを眼帯を巻いている屈強な軍人の人が微笑を浮かべながら自分の事のように喜んでいた。

帝国軍、第三機構師団長ゼクス・ヴァンダール。

何でもリィンさんやユーシスさん、レイさんが言うには隻眼のゼクスというヴァンダール流を修めたアルノール家の守護者らしい。

レイさんは見た瞬間に

 

「……いや、もう参った」

 

などと白旗を上げるような人らしい。

そしてガイウスさんが事前に中将に頼んでいたのが

 

「馬ですか……」

 

グラウンドで馬術部が乗っている姿は見た事があるが、自分が乗った事は一度もなかった。

だが、この広大な高原で馬を乗って駆けるというのは自分でも少し高揚してしまうものであった。

一応、リィンさん、ユーシスさん、アリサさん、ガイウスさんは乗馬経験があるから大丈夫だから私はアリサさんの後ろに乗せてもらい、経験のないレイさんは───物凄い気難しい顔になっていた。

 

「……レイさん?」

 

「あーー、いや……ううむ……よし。一度試してみよう」

 

まるで覚悟を決めた殉教者のように恐る恐る馬の方に近付いていくのだが……次の瞬間

 

「ぬぉ……!」

 

馬が急に驚いたように後ろ足でレイさんを思いっきり蹴り抜いた。

急な事に反応が出来たのはゼクス中将だけであり咄嗟に吹っ飛んだレイさんの背後に高速に回り込み、彼を受け止めた。

 

「大丈夫かね?」

 

「たはは……ええ。来るかなぁとは思っていたので防御と衝撃は逃しました」

 

それでも痺れるのか。

両腕をぶらぶらとしている。

慌ててアリサさんがレイさんの腕を見、男子三人は件の馬の方に近付いたんだ。

 

「どうしたのだ……先程まで落ち着いていたというのに」

 

「むぅ……嫌がって……いや……怯えている?」

 

怯えている?

ガイウスさんの推理に私が最初に確認をしたのは近くに魔獣がいるかという事であった。

確かに高原に魔獣はいるが、当然そんなに近くにはいない。

そもそも魔獣に怯えて人を乗せられないのだったら中将が馬を連れてくるはずがない。

ゼクス中将も

 

「おかしいな……そこの馬達はノルドで育てられた駿馬だ。荒っぽいのはいても怯えるような事は無かったのだが……」

 

「ああいや……ちょっとその。俺は少し動物に嫌われる体質でして。猫の子一匹近寄ると暴れ回って……だから馬もそうかなぁって思ってたんですけど……案の定みたいです」

 

「動物に嫌われるって……」

 

それだけでここまでの反応が返ってくるものだろうか。

私の呟きに全員が同じ思いを抱いただろうけど、本人は仕方がないだろと言わんばかりの態度。

小動物に嫌われるならまだ理解できる。

馬にだって多少の興奮による反応があるのも頷ける。

だが、馬は怯えているとガイウスさんは言った。

馬に関する事なら馬術部であるユーシスさんよりも寄り添えるガイウスさんが怯えていると。

嫌がっているではなく怯えているだ。

その差異は捨て置けるものではない。

だが、本人がそれを語るつもりがないらしいから余り聞くのも躊躇われる。

だが、とりあえず中将が

 

「しかし……困ったな。ノルド高原は見ても分かるように広大だ。馬に乗れないのは───」

 

「いえ、こうなっては仕方がありません───レイ」

 

「な、何かなリィンリーダー? 私には貴方の笑顔がとてもとても麗しく気持ち悪いので御座いますのよ?」 

 

「ああ、俺もその口調が気持ち悪いからイーブンだ───走れ」

 

皆でノルド高原の方に視線を再び向ける。

ノルド高原はやはり雄大な自然を自分達の瞳に映し、自分達の視力では広大な高原と山くらいしか見えない。

ちょっと何か塔みたいなのは立っているが、そこはノルドの村ではないので今は置いとく。

今度は皆でゼクス中将から貰った地図を見る。

地図でノルドの村がどの辺にあるのかを確認して、そちらの方を再び見る。

やはり、その辺りを見ても理解できるのは雄大な高原と美しい夕日。

雄大さは時に人間にとっての最大の敵になるのであった。

 

「よぉーし、皆。急いでノルドに向かおう」

 

「ま、待てリィン! 洒落になっていないし、仲間を置いていくつもりなのか!?」

 

「馬鹿だなぁ。仲間だからお前が踏破出来ると信じているんだよ。大丈夫だ、お前は死なない───と風と女神の加護がそう言っている」

 

「お、お前! ガイウスの決め台詞を奪うつもりか!?」

 

漫才コンビを無視している間に私を含めて全員が騎乗する。

馬に乗るのは初めてだけど乗る時はアリサさんやユーシスさんが手を貸してくれたお蔭で何とか乗れた。

自分の視点が高くなるのにはやはり驚いたが、考えている内にレイさんを除いて走る準備が出来ており、そこに漫才をしていたレイさんがわざとらしくはっ、と唸り

 

「リィンはともかくお前らも俺を置いていくつもりか!?」

 

「なら、方法はあるのか?」

 

ユーシスさんの直球に容易くダメージを受けるが、ここで諦めたら試合終了だと思っているのか。

次は

 

「ガイウス! 俺とお前の友情ならここで俺を置いていく選択肢は取らないよな!?」

 

「任せておけ。後でノル土下座をお見せしよう」

 

「ノル土下座……!?」

 

はっはっはっ、と笑うガイウスさんを見て、ああガイウスさんも諦めているんだなぁ、としみじみに思えた。

最後にレイさんの視線はこちらに向き

 

「いやよ、無理よ、残念ね」

 

「ま、まだ何も言ってないのにその台詞! このツンデレリーナめ!」

 

「だ、誰がツンデレリーナよ!? というか何語よそれ!」

 

「ああん!? ───多分、マキアスの脳内言語だ!」

 

即座に仲間をネタにした態度は凄いと思った。

 

「頼むぜアリサ! エマ! ここで誰にも思いつかないような凄い案を思い出せばその瞬間にA班の評価はSランク間違い無しだ!」

 

「サラ教官はきっとチーム分けに失敗したのよ……」

 

「た、確かに凄い弱点を突いたが今の問題について語り合おうぜ!?」

 

ふるふると全員が首を横に振るうのを合図に

 

「ハイヤーーーー!!」

 

「待てーーーーー!!」

 

 

 

 

 

一時間後。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 星空ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「……あいつ。一時間も馬と同じスピードで走って叫んでいる」

 

リィンの本気の呆れた台詞にユーシスも全く同意であった。

こっちは流石にレイの為に多少のスピードは緩めているが、それでも馬の脚で追い掛けられ続けるというのはどういう事だ。

 

「……執念ね」

 

アリサが感嘆するかのように……だが謎な事に憐れむように呟くのを聞くが、どういう意味か理解出来ない俺は聞かなかった振りをするしかなかった。

 

「だが、このままだとレイの体力が無くなるぞ。一旦、休憩を入れた方がよくないか?」

 

ガイウスの提案にリィンがちらりと背後を見る。

背後のレイには最早、正気の一欠片もない。

あるのは走りぬくという執念。

見栄も恥も外聞も捨てた男の顔はとてもじゃないが見れるものではなかった。

星ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! と叫び続ける男にリィンは

 

「さぁ、レイ。水だ」

 

懐から取り出した水筒を結構な勢いでレイの顔面にぶつける事であった。

情け無用。

容赦無しの行いに、普段の外道行為を見慣れている俺達も少し顔が引き攣った。

この人でなしぃぃ! と背後から聞こえてくる声に、俺達はどんな反論が出来たのだろうか。

 

 

 

 

 

 

はぁはぁ、と息を荒げてレイは高原で流石に倒れた。

流石にあの後一時間くらい走って追いかけていたが、限界が来たんで無理せずに休む事にした。

今度こそ周りのメンバーは俺の為に休憩しようと足を止めようとしたが、ただでさえ俺のせいで時間が推しているから構わずに行ってくれと頼んどいた。

勿論、これだけだとお人好し連中は否定するだろうから馬車でも持ってきてくれと頼んどいた。

そこでようやく迷っていた足を動かし、ノルドに向かっていった。

地図も水も一応の食料もあるので一応、迷う事はない。

魔獣も高原故に隠れる場所がないから魔獣がいない所で休憩しているから問題もない。

強いて言うなら少しずつ空に星が浮かんでいるのが、ただただ嬉しかったくらいである。

 

「……」

 

でも、何だかおかしい。

最近はふつふつと嫌な予感めいた物が胸によく走るのだ。

ボタンを掛け間違えたような……その程度の予感なのだが、それが自身の致命傷になるようなないような。

よく分からない感じだ。

 

何か帝国で大きな事が起こりそうな予感がするから?

 

そんなのは貴族派と革新派の対立の飽和状態を知った時から感じている。

間違いなくそろそろ嫌な事が起こり得そうな事くらい帝国民で勘がいい人間は皆、察知している。

だからそんなでかい嫌な予感ではない。

これは個人の嫌な予感だ。

何か自分の決めたルールが崩れるような予感。

どこからそんな予感をしていただろうか。

思い当たる可能性などそんなにはないがあるとすれば

 

───リィンと出会ってしまった事。

 

もしくは

 

「……」

 

どこぞの少女に誤って自身の内面を語ってしまった事だろうか。

 

どっちでも無さそうだし、どっちでもあるような気がする。

でも、それは回避出来た出来事だっただろうか。

少し考えるが、アリサについては多分、回避は出来たのではないかと思う。

極論を言えばトールズに言っていなかったら起きえなかった出来事だ。

だが、リィンに関しては……何故だろうか。

出会っていない自分を想像出来ない(・・・・・・)

何故かだなんて知るわけがない。

意味が分からない確信があるだけだ。

自身が生きているのならばあの馬鹿と出会い、馬鹿をしていたという頭に蛆が湧いたのではないかと思う馬鹿げた確信。

言葉通りに馬鹿馬鹿しい妄想だ。

馬鹿を五乗くらいしたイタイ妄想だ。

そう分かっているのに否定出来ない馬鹿さ加減。

きっと、リィンの方も似たような感覚を覚えているのではないかと思う。

だから俺達の過去も今も未来も運命が決めた……などとクソみたいな事は言わない。

こうあるべしと誓った生き方から互いに出会う未来を選択した。

そう思うのがベストだし、そうだと思っている。

 

リィンは人を救う生き方を選んでいて、俺は人を助ける道を選んでいた。

 

それ故に。

だからこそ。

きっと行きつく先は───

 

「ま、それはない事を一応祈っておくかね」

 

クスっ、と笑う。

周りに仲間がいなくて本当に良かった。

■■の籠った冷笑を見せるようなシチュエーションじゃないし、エマやアリサの心臓に悪い。

無意識の内にお互い理解しているはずだ。

破綻が決まった友情(・・・・・・・・・)であるという事は。

今はそれから目を逸らしているだけ。

だが、そんなのは風船を膨らまし続けている行為と何ら変わりはない。

永遠に膨らまし続けられる様な風船なぞ存在しない。

破裂した後の俺達のその後は、それこそ女神のみぞ知るでいいだろう。

だから、そこはいい。

納得していると思う未来予想図だ。

それならばOKだ。

だが、何故納得しているのに嫌な予感というのが生まれる。

実は納得していないからか?

否だ。

それはない。

それではあの馬鹿に負けているように感じるので絶対に無い。100%無い。断言出来る。

なら、それ以外とすれば

 

───でも、それは遠い話とかじゃないと思うわ

 

一か月ほど前に自分にそんな事を言った少女の姿を思い浮かべた。

恋とは、愛とは理屈抜きで求める心から生まれるものであると説いた少女がいた。

 

「───」

 

その言葉を自分が受け入れるわけにはいかなかった。

求めるモノも、求められる事も自分にはないのだ。

自分はそこに居て、それで居るだけでいいのだ。

それで満足している。

ただ、それだけの人生と言われても、自分はそれだけで良かったのだと笑って死ねる。

そういう生き方を考えて、やると決めた。

 

やると決めた(・・・・・・)

 

ならやるのみ。

理由も後悔もいらない。

だから嫌な予感なぞ振り払えばいいのだが

 

「……」

 

どうしても、それを振り払えなかった。

だから、拘泥するのは止めようと思い、立ち上がった。

休憩は済んだからまたノルドの村に向かおう。

色々と考えて悩むというのがまず自分らしくない。

折角のノルドだ。

唯一自分にとっての最大の報酬である綺麗な星空が見れるというのだ。

周りに多少の無粋な物はあれども、これだけ地上で照らすものが無いのならばその星空はきっと満天という言葉に相応しい風景だろう。

本当は今日、じっくりと見ていたかったのだが距離と体力と明日からの事を考えると今日は難しいかもしれない。

 

明日

 

明日を楽しみにしよう。

そう考えられるこの刹那が、真実愛おしいと考えている自分にやはり嘘などない。

この一瞬一秒にどれだけの幸福が詰められているかを改めて良く考え、疾走する。

 

明日が楽しみだ。

 

ともう一度だけ思った。

 

 

 

 

 

 

 




意外に早く出せるなぁ……悪役です。就活ストレスマッハです。誰か雇って。

……ともあれ、今回からノルド。
ああ……書きたいシーンの二つ目のノルド……。
ですが、正直に言いたい事がある───次の依頼を飛ばして星空シーンを一気に書きたい……!
ああ、でも急過ぎるだろうか……!
ここだけは書くべきという何かがあるなら教えてくれません!?

ちなみにrairaさんはびっくり仰天で気付いたのですが、3章から段々とリィンとレイの比較みたいなものが度々と起ってくるのでそこもご注目を。

感想・評価よろしくお願いしますーー!


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