絆の軌跡   作:悪役

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大いなる伏線

「いやぁ、皆、中間試験頑張ったじゃない~。もう、教官として鼻が高いわ❤ 特にあのちょび髭を笑う事が出来るなんて最高だわ。後でほっぺにキスくらいしてあげるわ」

 

「別に教官が教頭先生を笑えるように頑張ったわけではないのだが……」

 

「サラ。少し意地汚い」

 

「やぁねぇ。冗談よ冗談」

 

サラ教官の性格を考えると全く冗談に聞こえる言葉ではないのだが、ツッコミを入れると暴力が飛んでくるのは周知の事実なのでここは無視するのが賢明であると学習している。

 

「エマやマキアス、ユーシス、アリサが成績優秀なのは知っているけどリィンも凄かったし、レイも中々ねぇ」

 

「いやぁ」

 

と照れるような仕草をするレイを成績優秀者全員が睨む。

ラウラですら睨んでいる事実に流石にレイはたじろぐ。

 

「な、何だよ……?」

 

「……この馬鹿に負けた……頭で負けた……」

 

「……剣にかまけ過ぎたか……」

 

レイ・アーセル。

中間試験における順位───第五位。

第五位。

第五位なのだ。

採点を担当した教官全員がこれは何かの間違いではないのかと思い、教職会議を開き、採点を一つ一つ深く確かめたが、間違いなく答えはおかしくなかった。

今度はナイトハルト教官による尋問さえ起きたのだが、逆にそれだとすると武闘派であるナイトハルト教官やサラ教官の目を盗んでずるをする事が出来るのならこの学院にいる必要が無くなる。

だから、点数の張り出しの時に急にレイにナイトハルト教官が近付き、しかし何も言わずに苦渋の表情を浮かべるという珍イベントがあった。

ちなみにⅦ組では成績優秀者メンバー以外の生徒も全員馬鹿な……! と呻いた。

 

「……というかレイさんは入学試験は悪かったと言っていませんでしたか?」

 

「あー、あれはな───」

 

「それね。単純にテスト終わる二十分前に来たから受ける時間が無かったというだけなの」

 

サラ教官の遮った台詞に思わず、全員がレイを馬鹿を見る目で見てしまう。

 

「ちなみに、その理由はここに来る前にトラブルに巻き込まれたせいだって」

 

今度は憐れな生物を見る目に変化した。

 

「お前ら、段々と芸風が整ってきたな。特に俺に対するリアクションが」

 

全員無視してわざとらしく武器の点検を行った。

こいつら……などという呟きが聞こえるが、それも含めて無視する彼らは最早、自然体。

唯一、ガイウスだけが同情の目で見てくれるのが救いだ。

つまり、ガイウスが唯一の癒しキャラ。

ここでアリサやフィー、エリオットの名が出ないのがやばい所だろう。

 

閑話休題

 

それはさておき、何時も通りにサラ教官の指パッチンで戦術殻が現れる。

またフォルムが変わっている事にやれやれ、と全員思いながらも意識を戦闘の方に切り替える。

その中で何やらリィンとフィーが興味深い事を話し合い、そこにラウラが突っ込んで空気が悪くなる事件が起きたが今のⅦ組だとよくある事件である。

だから、全員がそれについてううむと唸る人と溜息を吐く人で別れ、武器とARCUSの準備をしている最中に

 

「フン……中々面白そうな事をしているじゃないか」

 

などと余り聞き覚えのない声がこちらの耳朶に直撃した。

何だ何だと声が聞こえてきた方面を見てみるとそこにいるのは真っ白な制服───つまり貴族クラスのⅠ組の人間が複数人いた。

フェリス? とアリサが呟くのを聞くが、部活仲間なのかと思いながら何故ここにⅠ組の生徒がいるのだと全員が疑問に思う。

その疑問を代表してサラ教官は別に驚いていない声で

 

「あら? どうしたの君達。君達の教練は明日だったと……思うけど?」

 

「……」

 

微妙に空いた間は何だ? と全員考えたが黙殺した。

言うと何かされるというのは身を以て理解しているのが多いからである。

そして恐れ知らずのⅠ組の代表らしき金髪の少年がグラウンドに降りてきて、近くによってくると

 

「トマス教官の授業が自習になりましてね。そこでただ自習するのも能がないと思い───クラス間の"交流"をしようかと思いまして」

 

そうしてサーベル……というには少々、細いタイプの剣を構えにやついた笑顔で全員がこちらを見て構えてくる。

それで大体、全員が相手がどういう理由で交流などとほざいたのを理解した。

 

「レイ、お前何かをしたか?」

 

「リィン、謝るなら今の内だぞ」

 

互いに襟首を掴み合う二人をとりあえずユーシスが二人の鳩尾を狙う事によって黙らせた。

呻いているⅦ組二人の馬鹿をサラは無視して笑い

 

「面白そうじゃない」

 

などと言って戦術殻を消した瞬間にⅦ組全員で自分達の運命を受け入れた。

また面倒事に、という。

 

 

 

 

 

 

「チームメンバーはこうか……」

 

マキアスはリィンの呟きに周りを周りのメンバーを見回す事によって同意した。

メンバーは僕、リィン、レイ、エリオット、ガイウスという五人メンバー。

相手も五人なのでそこら辺は狙ったのだろうとは思う。

本当はリィンは五人にフィーかラウラを入れ、もう一人アーツ使いを入れたメンバーというバランスあるメンバーで挑もうとしたのだが何故か班分けに毎回パトリックとかいう男が茶々を入れるから結局、チームはこうなった。

やれ男同士の決闘だとか言ったり、ユーシス・アルバレアを入れようとするとまた茶々が入る。

で、残ったメンバーがリィン以外貴族ではないのと男子である事を考えれば相手の考えなぞ思考するまでもなく理解出来る。

 

「まぁ、何時かはこうなるんじゃないかなぁって思ってたけど……面倒だなぁ」

 

「何だ。レイは知っていたのか?」

 

「知っているというか周りの風聞だよ。別にⅦ組自体は評価としてはそりゃ悪くないんだけど……ほら? やっぱり色々と特別視されているようには見られるからな。そこら辺、普遍的な貴族様達は耐えられないんだろうよ」

 

臆面なくよく目の前に見える相手に言えるものだと、流石に僕も顔を引き攣らせるが、相手は聞こえていなかったようで助かった。

こういった面ではレイは本当に相手が貴族であろうとなかろうと言いたい事を言うから周りはヒヤヒヤする。

エリオットも似たような表情を浮かべたから仲間がいる事に安堵する。

 

「ま、相手もそれなりに剣術に自信があるっぽいけど全員同じタイプで挑んでくるのはザルだな。俺達はエリオットのアーツが組むのを守ればそれだけで一網打───」

 

「あ、今回はⅦ組はハンデとしてアーツ禁止ねーー」

 

「───俺達の秘密兵器が戦力外通知を」

 

「ぼ、僕はいらない子!?」

 

全員が顔を逸らしたり、視線を明後日に向けたりしている。

かくいう僕もその一人だが、ガイウスだけがエリオットの肩に手を乗せ

 

「大丈夫だ。いざという時は俺達が何とかする」

 

止めを無自覚にしたガイウスはエリオットが崩れ落ちる理由を最後まで理解出来なかった。

 

「だが、不味いぞ……エリオットも入学当時より動けるようにはなったが……英才教育を受けている貴族達の動きについていけるか?」

 

エリオットの役割はやはり大抵の場合は固定砲台か回復役だ。

時折、前に出て攻撃する事はあるがそれは大抵の場合は弱った魔獣の止めか、追撃の場合のみだ。

真っ向から一人で相手をする事は滅多にないようにしてきた。

だが、今回はアーツが禁止であるというのならエリオットは必然的に前に出なければならない。

でないと五対五のこの戦いでは不利になる。

だが、それだとエリオットがピンチになるからやはり前衛の誰かと二人で組んで戦うしかないのだろうけど、そうなると他の3人で4人を相手にしないといけない。

それだと負けるとは思えない戦闘能力を僕……とは言うには流石に恥ずかしいので他の3人は持っていると思う。

だが、危険ではあるからどうするべきだと考えるが

 

「大丈夫だ。俺に考えがある」

 

とリィンが安心させるかのように全員にそう告げた。

 

「ほぅ? リィンよ。それはまともな作戦なんだろうな?」

 

「何を言うレイ。俺がまともじゃない作戦を立てた事があったか?」

 

「作戦ではないが時折、何故だと思うような事はあったな」

 

指摘したのがガイウスであった為、多少、リィンにダメージが生まれたが彼は堪えた。

 

「こ、今回は大丈夫だ───逆に相手がこちらの一人に対して二人で挑ませればいいんだ」

 

成程。

それならば確かにこちらのマイナスになる所かこちらが有利になる戦況にはなるだろう。

だが、それならそれで問題は勿論ある。

そうなるという事は逆に言えば一人で二人を抑えられる様な技量がない人間でないと駄目であるという事だ。

まぁ、それは当然の問題だからリィンも考えてはいないはずだから考えているとして、問題はどうやって分断するかだ。

二人に分断する方法は地形を利用したり、罠を利用したり、奇襲したりなど幾らでもあるのだろう。

問題は今は模擬戦形式であり、それらを利用する事が実質不可能であるという事だ。

だから、その問題について問うとリィンは実にいい笑顔で笑って

 

「俺に任せろ」

 

と言った。

微妙にオチを理解したようなのは僕だけなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

そうして互いが互いに武器を持って相対し、サラ教官の合図を持って始まる。

 

「───始め!」

 

そこから悲劇が連鎖的に生み出された。

まず最初にリィンはいきなり隣にいるレイの襟首を掴む。

あ? とレイが反応するよりも早くに腕の力と腰の捻りを利用して、レイの足が宙を浮く。

は? と敵味方関係なく意味不明な行為に身を固めている間にリィンはレイをまるで砲丸のように一周スイングし

 

「即席コンビクラフト……! 人間砲弾……!!」

 

「まんまじゃねーーーーーかーーーーーーーー!!!?」

 

レイを撃ち出した。

マキアスは余りに行いに胃を抑え、エリオットは人間ってあんな風に飛ぶんだと思い、ガイウスは意外に飛んでいるのを見るとレイもリィンに協力していたんじゃないかと思う。

そうして行く先はパトリック以外で固まっていた二人の男子生徒。

 

「へ……?」

 

「ちょっ、ちょっ!?」

 

狙われた貴族生徒は余りにも馬鹿げた行いに反応が遅れた。

それによって不幸にもいきなりやられた割には姿勢を上手く保持し、そのまま

 

「ダブルラリアットォゥ!」

 

首に引っ掛ける思いっきり凶悪な技で男子生徒二人を地面に引き摺り倒した。

首を押さえて苦しんでいるクラスメイトに他のメンバーもようやく動こうとして───そこにレイを除いたリィンチームが突撃をする。

変則的ではあるが間違いなく一種の奇襲としてリィンの作戦は間違いなく成立した。

だが、苦しんでいた二人も貴族の誇りからか。

立ち上がって自分達もと思っていたら失くしている物に気付いた。

 

「お探し物はこれかな?」

 

レイの笑顔を付けた答えの提示に恐る恐る二人がそちらの方を見るとそこには予想通りに自分達の探し物───剣が二本共、レイの手にあった。

そうそう、それだよこの平民野郎、と顔を引き攣る二人組を嘲笑うかのように三日月の笑みを浮かべるレイはそのまま両手の剣をポーーン、と遥か背後に適当に投げ捨てて

 

「英才教育を受けている貴族のお偉い坊ちゃんはステゴロの教育はどこまで受けているかちょいと平民様に教えてだせぇ」

 

ボキボキと両手の骨を鳴らしながら彼は処刑宣告するかのように笑顔で二人に立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

「……私やラウラを避けたからちゃんと事前に調べてきたのかと思ったけど、そこまでじゃなかったみたいだね」

 

フィーは適当に呟いているとどういう事? という目線が3人こっちを向いた。

もう一人は疑問ではない目線であったから敢えてスルーした。

 

「本音かはともかく。私やラウラ、ユーシスを省いたのは確かに戦力的に有名だから勝つ為には間違っていない。アリサもエマもアーツ使いとしても弓使いとしても上位のレベルだから剣一辺倒のⅠ組が恐れるのも無理がないと思う」

 

まぁ、後にアーツ禁止令が出たのは流石に男性陣も予想外だったと思うけど。

そうじゃなきゃエリオットを4人で守って一網打尽というプレイは夢ではなかったし。

まぁ、流石にそこまで後衛を警戒していないというのは無いとは思うんだけど。

ただ、Ⅰ組の何が失敗したかというと

 

「───ちょっと他のメンバーを舐め過ぎだね」

 

リィンを、ガイウスを、エリオットを、マキアスを、そしてレイを舐め過ぎている。

まずレイは言うまでもなく身体能力、技能、経験なら間違いなくⅠ組の相手にフルで使うには勿体ないレベルだ。

ラウラやユーシス、私を戦力的に排除したのならば彼も排除すべきだ。

そして他の前衛である二人は私の目から見ても才能有りまくりの二人である。

Ⅶ組はラウラという入学最強という少女がいるせいか、何故か隠れているが二人とも十分に強い。

特にリィンなど最近、物凄く成長しているせいでちょっと私もピンチ。

八葉一刀流も当然、技としても凄いのだが名刀も使い手がへなちょこなら鈍らになる。だから、リィン自身が凄いのがよく分かる。

現にあの金髪の貴族の人の渾身の突きを右足を起点に左回転をし、相手の左半身を踊るように回転をし、するりと背後に回り躊躇いなく峰とはいえ薙いだりしている。

ガイウスも勿論、負けておらず彼の方は技ではなく力で押し勝とうと思ったのか。逆にガイウスが渾身の突きを放ち、敵の手から剣を弾き飛ばしていた。

そしてマキアスやエリオットもだ。

二人はリンクしているらしく、作戦はリィンとガイウスが速攻で二人を蹴散らそうとしている間、マキアスが前衛を担っているらしい。

散弾銃を持っているマキアスを見て、最初は怯んでいたが懐に入り込めば有利は自分の方で実力は自分の方が上だと過信していたのだろう。

相手は少々むかつく笑みを持ってマキアスに挑みかかっていたが

 

「甘く見過ぎ」

 

マキアスはマキアスで必死にだが冷静に剣をちゃんと見ている。

凶器を見るというのは精神が壊れていない限り、恐怖と緊張を生み出し続ける物だ。

普段見慣れた包丁であっても、それを殺意と共に握られればそれは包丁とは呼べない。人を殺す凶器だ。

だが、マキアスは包丁よりも人を殺す為に造られた武器を相手に恐怖はそこまで覚えていない。

簡単だ。相手に殺意もなければ必死さが無い。

マキアスを下に見ているのを理解出来る。

 

「そんな事ないのにね」

 

確かに近接戦闘における技量というものではⅠ組の人間の方がやや上回るかな? とは思う。

剣技と銃技の違いだから別に当たり前の差である。

でも、マキアスは二回の特別実習で人から向けられる殺意を知っている。

魔獣との戦闘の経験も増やしている。

相手も魔獣とぐらいはやり合った事ぐらいはあるだろうけど───果たして敵意と殺意で刃を向けられた事があっただろうか?

その結果がこれだ。

マキアスの間合いに入り込み、突きを放った生徒は明らかに取った! という表情を浮かべていた。

マキアスは丁度撃った反動で防ごうにも反動を抑えているから不可能だ。

だから、このまま倒されるしかない未来を───マキアスは笑顔を浮かべる事によって否定した。

彼は背後から来た魔道杖の攻撃に全く気付く事無く倒される結果になった。

最後にエリオット。

エリオットの戦闘能力という点ではアーツを除いたら間違いなくエマと同じでⅦ組では本人達には悪いが下から数えた方が早いレベルの実力者である事は否定出来ない。

今回みたいにアーツを使えなくしたら彼の戦闘の能力というだけならほぼ使えなくなる。

クラフトによる治療は出来るだろうけど、エリオットにはクラフトでの攻撃手段はないので今回の条件は間違いなく彼を戦力外通告したと言っても間違いではない。

技術、経験、適正において彼が今回の戦いで注目を得られるとは確かに思えない。

 

だけど───だからこそ度胸という意味ならばエリオットとエマはⅦ組トップクラスである事を皆が知っている。

 

だから彼が一人だけ背後で皆を応援するわけがなく、それが読めていないⅠ組のメンバーに勝てる道理は無かった。

もう一人の事に関しては語るまでもない。

だって、武器も無いし、あっても巣の実力差があり過ぎる勝負なのだから。

 

 

 

 

 

 

こうしてここまではレイはちゃんとした流れではあったはずだと思う。

膝を着いた貴族生徒を前にうちのメンバーは息は多少は荒げているが、どちらかと言うと全員余裕がある様子であり、楽勝とは流石に言わないが勝利の二文字は貰えてもいいだろうという様子。

相手の貴族の坊ちゃん連中は馬鹿な……! とか。寄せ集めの連中にとか言っているが、それの文句はせめて教官連中に言えよ、と流石に思いながらも口にはしない。

だから、まぁ、サラ教官によるそこまで、の言葉を聞き、武器を収納するまでの流れは良かったのだが

 

「……今回は俺達の勝ちだったけど、次がどうなるか分からないような練度だった……また機会があればよろしく頼む」

 

などとリィンが相手の代表の金髪の少年に手を差し伸べた時、内心で頭を抱えた。

馬鹿か、リィン。

明らかに、そいつ……プライド高そうじゃねえか、と。

そして、まぁ、予想通りにリィンの差し出した手を払って無理矢理立ち上がり

 

「いい気になるなよ……リィン・シュバルツァー……! ユミルの領主に拾われた出自も知れぬ浮浪児風情が!」

 

などと暴言を吐いた。

即座に周りも金髪坊ちゃんが言った暴言に抗議の目線がⅦ組から発生するが、それを振り払うかのようにパトリック坊ちゃんは目についた周りのメンバーにも暴言を吐いていく。

やれ、平民如きが。ラインフォルトなぞ成り上がりの武器商人とか。猟兵の小娘がなどと聞いてて正直、眠たくなる。

周りもまぁ、否定はしないけど言われる筋合いはないとパトリックを睨んでいる。

そして、遂にパトリック坊ちゃんがこっちも睨んでくるので、無視してやろうと思ったが面倒なので一応答えた。

 

「何だ? 俺も浮浪児だとか平民風情がとか言うか? 別に俺もどちらも否定するつもりはないから言うなら好きにしてもいいが?」

 

「はっ……! 君に至ってはシュバルツァーよりも最悪だろうが……!」

 

最悪。

その一言に周りの目線が俺を注目するのが理解されるが、ハイアームズの彼はそれに気づいているのかいないのか。

気にもせずに、ただ

 

 

人の皮を被った怪物(・・・・・・・・・)()! おぞましい本性を発揮する前に生まれ故郷にでも帰るがいい───煉獄にな!」

 

 

などと、まぁ、ある意味で聞いていて呆れるような発言を叫んできた。

 

「え……?」

 

恐らく、アリサと思わしき声が耳に入るが正直、気にしていられない。

周りも似たような表情と声を出しているので一々、反応するだけ無駄である。

それにパトリックによる必殺の挑発はまだ終わってなく、そのまま引き攣った笑顔を浮かべると

 

「何なら……この僕の手によって帰らせてやろうか!?」

 

無理矢理に剣をこちらに向けて構えてきた。

そこでようやく取り巻き達はパトリックの暴走を止めようとしたが本人は全然聞きはしない。

でも、まぁとりあえず俺が言う事があるとすれば

 

「いや。お前程度に殺される程、俺弱くないから。ごめんな?」

 

と、本気で謝っといた。

 

 

 

 

 

 

 

敢えて割愛するが、アリサはその後のレイの挑発スキルの高さに今までこちらを上から目線で怒鳴りまくっていたパトリックだったか。とりあえず、相手に同情した。

具体的に言うといい気になるなって勝っていい気になって何がおかしいとか。

テストの事もそれだけ言うなら負けるなよとか。

寄せ集め寄せ集めうるさいけど、文句を言うなら学院長辺りに文句を言いに行けよ根性無しとか。

そもそもラウラやフィーを敬遠して、結果、リィンに負けているレベルじゃあまだまだ俺に届かないとか。

相手がズタボロなのをいい事にもう挑発しまくりであった。

途中でサラ教官が思いっきり頭を殴って止めなかったら、今頃パトリックの血管は切れていたかもしれない。

最後の方の彼の表情は赤を通り過ぎて赤黒くなっていたし。

本物の挑発スキルというのがどういう物なのかを理解した。理解したくなかったけど。

そしてとりあえずガイウスがサラ教官を止めている間に格好よく決め、その後にほらほら次の特別実習先を教えるわよ~の流れである。

で、それが

 

【6月特別実習】

A班:リィン、レイ、アリサ、ユーシス、ガイウス、エマ

(実習地:ノルド高原)

B班:マキアス、ラウラ、エリオット、フィー

(実習地:ブリオニア島)

 

との事であった。

毎度の事ながら嫌がらせ精神に溢れたチームメイクであった。

該当する生徒はお互いをちょっと見て、直ぐに視線を外していたりする。

そして同じチームの人間は頭を抱えている。

 

「こ、今回は人数を均等に分けないのですね……」

 

マキアスが言外に生贄をもう一人くれないでしょうかというが

 

「馬鹿め───こちらは問題児を二人抱えているのだぞ」

 

「……どっちも針の筵だったか……」

 

マキアスが諦めたように呟くのを見る。

無理もない。

何故ならノルド行きが決まった瞬間、何故かレイのテンションがバーストしている。

 

「やった! ノルドか万歳! ガイウスの話を聞いて、すっごい行きたかったんだよなぁ! もしかしてガイウス! 教官を説得してくれたか!?」

 

「ふふ……レイが以前、ノルドの星空を見てみたいと言ってたのを思い出してな。説得と言うほど大袈裟な事は出来ないが掛け合うくらいはしてみた」

 

「最高だ! ガイウス! 今度、うちの父親をファックして構わんぞ!」

 

「ふむ? どういう意味だ?」

 

慌ててリィンがレイを横合いから思いっきり殴っているが、何時も通り本人は無傷だ。

ギャグ体質過ぎるだろう。

そしてやっぱり、レイがあんなにテンションを挙げたのは星空を見れるからか。

 

───憧れなんだ

 

そう言った彼の表情を思い出す。

結局、あの後に彼と冗談以外で上手く話した事はない。

彼も彼で上手い事こちらを冗談で回避して避けている事は流石に気付いている。

気遣いなのか触れてほしくないのか。どっちかは知らないけど、成程、サラ教官のチーム分けは確かに悪辣である。

カメラを持っていくべきか。いや、ここは記憶に刻み込む為に持っていかないのが吉か、と唸っている彼。

だが、そこにユーシスが近付き

 

「おい、レイ」

 

「ん? 何だユーシス。もしかしてカメラを奢ってくれるのか?」

 

「自己破産をして買え───そうではなくてだ。先程のハイアームズの言った事……あれはどういう意味だ」

 

誰もが思ってはいたが聞いてもいい事は解らなかった事をユーシスがズバッと遠慮なく切り込んだ。

 

人の皮を被った怪物め、とパトリックは叫んだ。

 

どう解釈をしても流石に余りいい想像は出来ない。

聞かれた本人よりも聞いている周りの方が少し表情が暗くなってしまっている。

多分、私もその一人なんだろうとは思う。

でも、そんな雰囲気をまるで理解出来ていないかのように。

ノルドに行く事を喜んでいる表情のまま、酷くあっさりと

 

「ああ。そのまんまの意味(・・・・・・・・)じゃないかな?」

 

酷くあっさりとそんな事を言う。

逆にこちらが硬直するのを彼は本当に気にしていないようである。

そしてそれと同時に思う事がある。

シャロンの登場で私の隠していた秘密……と言っても大した事がないのだが。

とりあえず、ラインフォルトの娘である事実は発覚した。

隠し事は無くなった。

無くなったが

 

……私はどうしたいんだろう

 

何故かずっと彼の事に思い悩んでしまう。

周りからは世話好きとかよく言われるがエマ程ではない。

心配だからか?

心配であるのは勿論だ。心配などもうずっとしている───でもどうしてそこまで彼を心配するんだろう。

仲間だから? 

うん、それはある。

クラスメイトだから?

勿論、それもある。

だからきっとそれだけ。

 

───それだけ?

 

それだけのはずだ。

だって彼は別に私に対して特別な事はしていないし、こちらもしていない。

そこから発展するものはないはずだ。

 

でも……そういえば

 

この疑問を昔、誰かに問うた事があったような気がする。

 

多分だけどまだシャロンがラインフォルトにいなかった───父様がまだいて、陽だまりの様な生活をしていたあの頃に。

 

「……」

 

誰にだっただろう。

お祖父様か。

父だっただろうか。

 

───それとも……母だっただろうか?

 

わからない。

今の私にはもう過去の自分の事ですら時々他人事のように感じてしまう。

あの時、父と母の間で笑っていた子供は本当に私だったのだろうか。

そんな事はない、と常に被害妄想を否定するが時々、そんな馬鹿げた事を考えてしまうくらいに参っていうらしい。

大事な……本当に大事な思い出なのに……幸福と共に悲しさも一緒に思い出してしまう。

私は……私は本当に

 

「何がしたいんだろう……」

 

誰にも聞こえない声でそんな言葉を呟く。

当然、余りにも小さい声だったので誰の耳にも入っていない。

本当に唇を動かしたのかも定かではない音の羅列だ。

だから、周りがこちらの事を注視していないのは当たり前の事。

でも、つい口から漏れてしまったのは溜息であった事に、ちょっと疲れているわね、私、と苦い笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はーーーい! ようやく大きな伏線を出せましたよ……

物凄い分かりやすいような伏線ですが、さて、彼はどういう形の怪物なのかはまだまだ謎ですねぇ。
怪物言っていますが、怪物のような人間というあれもありますから4章まで待っていてね!

ううむ……戦闘はもっと激しくしたかったですけど……自分の力の無さ+ここでそこまで激戦になるかなぁというイメージ力の無さですかねぇ……申し訳ない。

諸君、敢えて言おう! ───愛の芽生えとは何ぞや!?
それは曲がり角でぶつかり合って芽生えるものかね!?
命を助けられた時にドキドキして芽生えるものかね!?
特別な行動と特別な言葉によって芽生えるものかね!?
その答えを自分なりにこのノルドで出すので待っていてくださいーーーーー!!

感想・評価よろしくお願いします!!

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