何故なら、自分がそれを聴きながら書きましたから(笑)
「……うぅ」
ふと、何の理由も無しにアリサは目を開けてしまった。
目覚めに理由は多分、無かったとは思うがとりあえず気分は最悪だ。
何故ならこういう寝た直後に起きてしまったものは、経験上、中々寝付けないのだ。
現に今も寝る前にはあった眠気がちょっと引いてしまっている。
「……むぅ」
時間を見ると深夜ではあるがまだ二時だ。
まだまだ寝れる時間だ。
明日も実習があるからという事でレポートは当然、手加減抜きで書いたがそれでもラウラ共々、早目に寝たのだ。
今日の依頼を思い出すときっと明日もかなり疲れる内容だろう、と話し合った結果である。
だから、早く眠った事に後悔も間違いもないのだが、起きてしまったのは失敗である。
とは言っても、誰を責めることも出来ない失敗なのだが。
……まぁ、目を閉じていれば眠れるでしょ。
目を閉じて、ぼーっとしていたら何時の間にか意識は落ちているものである。
その間は辛いかもしれないが、仕方がない。
我慢しよう───そう思い至ったところでパタン、と扉が開かれ、閉められる音がした。
「……?」
勿論、この部屋の扉ではない。
この高級なホテルの広い部屋を占領しているのは女子の私達二人のみであり、可能性があるラウラは隣で同性からしても魅力的な寝顔と寝息を晒している。
そうなると当然、間違いなく違う部屋の扉である。
奇妙な話である。
二時なら確かに、不健康的な人なら動いている人はいるとは思うが、ここはホテルだ。
そんな時間に動き回るのは良くて従業人くらいであり、私の耳に聞こえる範囲の扉というのは客室でしか有り得ない。
そして、私の耳がおかしくなければ……間違いなく音は私達の隣。
男子の部屋から聞こえた。
「……何をやってるのよ……」
こんな時間帯に動き回るかもしれない男子メンバーなぞ一人しかいない。
トイレという選択肢は最初から無い。
何故なら部屋にあるのだから。
普通に考えれば、もしかしたら私と同じように起きてしまい、ちょっと散歩にでも行こうとしたのかもしれない。
それならば自分がわざわざ何かをする必要はない。
必要はないが
───恋物語は人間の物語でしょう?
そんな言葉を口から吐き出した少年の表情が頭から離れない。
面白半分に言った冗談……と、捉えるには余りにも重たい。
その時に浮かんだ表情を私は空っぽな笑顔と捉えた。
でも、本当に空っぽな笑顔ならまだ良かった。
でも、アリサにはまるでそれが……無理矢理に何も無いんだと出張する子供の必死な嘘のように見えたのだ。
根拠なんて何もない。
義務なんて何もない。
アリサが彼に何かをする必要性なんてクラスメイト&仲間以上の事は何もない。
だから、このまま布団を被って眠るのは別に何もおかしな事ではなく
気付けば布団を跳ね除けて畳んでいる制服の上着を羽織って部屋の外に出たアリサは間違いなくやってしまった、と自覚した。
そして、本当に予想通りの少年の表情が物凄いキョトンとしていたのが労働の報酬だったかもしれない。
「……で? 何か言いたい事はあるかしら?」
「……正座はデフォでしようか?」
「オフコース。当たり前よ。この状況での貴方の発言権はゴキバン以下よ」
「あの愉快爆弾以下だと……!」
「シャラップ! いい? 今の貴方はライン……アリサ裁判所における最終裁判。弁護士は既にあきらめの境地に入り、検事は賄賂で買収。終身刑は手堅い状態よ。この裁判結果を揺るがすには並大抵のミラと土下座じゃ無理よ」
「いやぁ……それ、状況説明ないと凄いお笑い劇場に見えるんだが」
反省点が見えない馬鹿にキツイ眼差しをすると躊躇いが見えない土下座に変化する。
こいつ、プライド捨てている。
土下座型人類をゴミを見る目で見下しながら溜息を吐く。
こんな風に説教状態に持ち込んだのは当然、モデルの時のような理不尽ではなく理由あっての理不尽だ。
何故なら───事もあろうかとこの男はこんな時間に一人で街道に出て魔獣退治をするつもりだったというのだ。
「馬鹿だとは思っていたけど……はっきり言ってあげるわ。貴方、リィンの事を馬鹿と言う資格ないわ」
「そんな……馬鹿な……」
本気で愕然としている馬鹿は無視して、もう一回溜息を吐く。
ああ、でも、こんなに馬鹿だからお人好し馬鹿のリィンと波長が合うのだろうか。
まぁ、別に望んで知りたかった答えではなかったのだが、これで彼が度々出すミラやクオーツ、セピスの出所が分かった。
つまり、彼はトリスタにいる時も似たような事を度々しているのだ。
その姿を見た事がないという事は今みたいに深夜か早朝に。
寮には早起きや朝練などで早く起きる人間が多いから深夜の可能性が高い。
だが、そうなると彼はその時、何時までやって何時寝ているというのだろうか。
ここが普通の学校ならば寮から出るというのは彼の実力があれば上手く行くだろうけど、2階にはリィン、ガイウスという気配読みの二大鉄板がいる。
無論、レイも三大鉄板に含まれる強者なので出し抜く事は可能と言えば可能なのだが……ずっと出し抜け続けていると考えれば、全員が寝た直後を狙っているのだろう。
だが、私達Ⅶには実は特に決まった就寝時間というものは存在しない。
例えば、ガイウスなどはそれこそ絵に熱中した時などはちょっと遅い時があるらしい。
見た事ないので伝聞だし、何よりもガイウスが徹夜をするイメージはないのだが。
まぁ、そういう時はレイも流石に諦めてはいるのだろうけど。
「……そんなに私達、頼りない?」
思わずこんな言葉が口から生まれてしまう。
確かにこういった実習という場面では私達がレイに勝る事はほとんど無い。
強いて言うならアーツの腕くらいは勝てるけど、それ以外はてんで駄目である。
武力という意味なら勿論、ラウラやガイウスは十分にこのチームの主力になっているしエリオットもアーツの威力は私以上である。
私も勿論、アーツ以外にも弓に関しては多少の自信はあるけど彼の技術を前にするとどうしても翳って見える。
それ以外の頭の出来……つまり、単純な知識量という意味でも勝っている……かもしれないけど実習における頭というのは何も知識だけではないという事くらいは十分に理解している。
遊撃士見習いという経験からか、何事も応用的に動き回っているのを見ると流石に嫉妬や焦りの念を抑えられない。
だからこそ吐き出された弱音であり、それを聞いて流石に本気でどうしよう? と微妙に視線を回していたが最終的には諦めたかのように溜息を吐き
「いや。別にお前らがどうこうとかじゃないんだ。単純に───やっておけばよかったという言葉は本気で大嫌いなだけなんだ」
「そ、そうなの……?」
やっておけばよかった。
でも、それはつまりifの可能性の否定。
あったかもしれない自分を大嫌い……と言っているというのは私の考え過ぎだと思うので、どうして? と聞いてみる。
「いや……だって……何かやっておけばって言葉は真面目に生きてないって感じがして気に食わない」
「真面目に……生きる?」
どうも言っている言葉が微妙に通じない。
彼の雰囲気を見るとはぐらかしているわけでもなければからかっているわけではないという事くらいは分かるが……何というか。
言葉の意味を互いに捉えているものが違うというか。
あー、と彼もそれを理解したのか。
少し、考え、ま、いっかなどと呟いて覚悟を決めた感じになったようである。
「最初の大前提を言わせてもらうが───俺は別に誰かの為とかそんなリィンみたいな事を思ってこんな事をしているわけじゃないさ。報酬があるし」
「報酬……?」
魔獣を倒せばミラでも貰える契約でも誰かと結んでいるのだろうか?
それならサラ教官辺りが怪しいが、サラ教官は放任主義のように見えて物凄い生徒思いの教官である事くらいは流石に感じ取っている。
そんな教官が自分を追い込むように戦っている彼に報酬などというのをやるとは思えないのだが。
その疑惑に、彼はああ、と答え───指を上に向ける。
自然と視線はその指を辿り、近くにあるビルを超え、そして
「あ……」
星空に辿り着いた。
「ま、ここはトリスタよりもちょいと都会過ぎて見え辛いが……」
確かに。
セントアークは帝都には劣るとは言っても十分に都会と呼べるものだ。
この深夜になっても多少の明かりがあるからか。星空は少しトリスタよりも少ない気がする。
まぁ、ルーレの方がもっと酷いんだけど……
それをこの場で言うものではない、と思い
「……これを見ることが貴方の報酬なの……?」
思わず、そう問い掛けた。
それに対しては彼は満面の笑顔でああ、と答えた。
思わず、驚きとか色々な意味でドキリとした。
よく考えれば、彼の満面の笑顔というのは冗談を無視したらこれが初めてではないだろうか。
まるで、それこそ彼は子供のような笑顔で星空を眺めている。
「……星が好きなの?」
「……言っても笑わない?」
笑わないわ、と告げ、そうかよと彼が苦笑しながらも星空に目を向けながら───星に手を伸ばす。
「───憧れなんだ」
その一言にどれ程の想いが込められていたのだろうか。
「星のように一瞬一秒を全力で生きてみたい。そりゃ後悔しないようになんて綺麗事は言わないけど、なるだけそういうのは無しに。輝く事は無理かもしれないけど、あの光に恥じないように生きてみたい。そうやって懸命に生きている命を守りたい。勿論、そんなのは不可能な事なんだろうけど───」
それでも届かないモノに手を伸ばし続けたい───
最早、それは説明とか解説ではなかった。
彼が吐き出しているのは祈りだ。
しかし、それは女神に届けるものではない。
誰かに理解されて言っている言葉ではなく、自分に届けと誓う祈り。
他人から見たら何を言っているんだろうと言われるものこそ尊いのだと誰に言うのではなく示す誓い。
夕方の彼の顔を見た時とは違う意味で背筋がぞっとする。
夕方のが多少の畏怖と恐怖が混じったモノであるのならば、今のはまるで感動するモノに出会った時の背筋の震え方であった。
アリサは必死に自分に言い聞かせていた。
そんな風に思ってはいけない、と。
何故なら、彼女は姿形だけなら間違いなく自分と同年齢の少年に対して───人の在り方なのだろうか? と本気でそう思ってしまったから。
それを誤魔化す為に聞いた。
「どうして、そんな風に思うようになったの?」
その言葉に彼は苦笑しながらもちゃんと答えた。
「こんなの聞いたらアリサは間違いなく何を言っているんだとか思うんだろうけど……俺はね。生きているっていう事はもうそれだけで奇跡なんだと思っている」
本当にそんな事を……彼はさらりと自分に告げる。
「こうやって会話をしている事も。士官学院に通って青春しているのも……いや。当たり前のように物を食べれて、自分の好きに生きているだけで十分な程に奇跡だ。いや」
───呼吸をしているだけで涙を流して感謝したくなる。
「───」
この時、アリサは間違いなく自分を恥じた。
結論だけを言うのなら、これを聞くには
少なくとも今のアリサにはこの話に対して返す言葉もなければ相槌を打つ資格すらなかった。
自分の信じる者どころか家名すら隠している自分がこんな彼に対して何を言えるのだ。
言えるはずがない。
言えるはずがないのに……口がそれでも何かを吐き出すかのように大きな口をあけて
「……っ」
言えなかった。
言うべきであるというのは頭ではなく本能の部分で理解している。
しかし、間違いを指摘するというのは……その間違いに対して自分が指摘するに恥じない人間であるという認識が必要だと思う。
だから、自分に───全力で生きたいと願う彼にそれは間違いだと指摘出来る様な恥じない生き方をしていると言えるのだろうか。
言えるはずがない。
言えるのならば、間違いなくアリサ・Rなどという家名を誤魔化して名乗っているはずがない。
自分は
せめて、ここにいるのがサラ教官やヴァンダイク学院長などなら彼に対して何かを言ってあげれたかもしれない。
もしくは
母様なら……
彼に対して間違いだと指摘しただろうか。
解らない。
ただ、彼がこちらの様子を眺めながら苦笑し
「寝付けないとはいえ余り夜更かしは女の子にはキツイだろ。そろそろ寝ようぜ? 明日も早いし、俺も諦めるから」
その催促から自分は失敗したのだと完全に自覚した。
命に対して光あれ、と祈る彼に一人の小娘が何を言えたのだろうか。
少し、疲れたような顔をしたアリサを連れて部屋に戻ろうとする。
流石にこればかりは自分が悪いと理解している。
夕方からの不調は中々治らない。
性能には勿論、問題ないが語るべきではない言葉だけが嫌に口から吐き出される。
まだ事情ならともかく人の内面というのは誰であって語るべきではないものだ。
人の内面というのはどんな内容であっても闇というものが混じっている。
それが清く正しく生きてきた聖人のような人間であっても例外ではない。
人が人である限り鬱憤という名のストレスは心に澱を残す。
日々を生きるだけで淀みは蓄積される。
それが生きるという事であり、人生というモノであるのだから。
だから、内面というのは他人であれ自分であれ語るものではないのだ。
そういった内面を利用して、その奥に呪詛を塗りこむような真似を人はロマンチックな生物の総称を持って名付けている。
故にアリサにはばれないように内心で非常に大きく舌打ちを鳴らす。
近くにアリサがいなければ殺意を漏らしていたかもしれない。
最近はリィンの出現のせいで忘れかけていた衝動が胸を疾る。オーブメントがまだかまだかと雷の発生準備をしている。
それら全てを無視して、ようやく女子の部屋の前に辿り着く。
「ほら、アリサ。明日も早いんだし、寝付けなくても無理矢理寝ろよ? フィーみたいに寝られちゃあ困る。何せこのチームの癒し要因が3人から2人に減るからな」
「……癒しかどうかはともかくもう一人が誰かは無視しておいてあげる……」
良かった良かった。
ちゃんと何時も通りに振舞えている事に内心で大きく安堵の溜息を吐く。
アリサのツッコミは何時もと違って、力が無いし、明日になっても彼女の性格から察するに引き摺ってしまいそうだが、正直、俺にはどうする事も出来ない。
間違いなく、原因も悪いのも俺なのだが俺がしてやれる事はないのだ。
誰に言われるまでもなく自分で理解していた。
それなのに遊撃士を目指しているのだからお笑い草だと思うが、それくらいの矛盾は許容して貰いたいものである。
人を救う事は出来ないのだろうけど、助ける事くらいは出来る事は把握しているので問題はないと思いたい。
人を救うのはそれこそ向いている人間に任せよう。それこそリィンとかに。
だから、俺は彼女におやすみ、と告げ、部屋に戻ろうとした。
だが、そこに静止の声がかけられた。
「そういえば……」
と、そこから続く言葉は
「夕方の……あの言葉はどういう意味なの……?」
その言葉に込められている感情が100%の心配と不安である事を察し、答えを求めている金髪の少女に振り替える。
何時も気が強く、お嬢様然としている彼女はその瞳を不安で濡れさせていた。
その表情は余り、俺が見たいものではない為、思わず夕方の自分を■したくなりそうだ。
ああ、くそ━━
今日の俺は本格的にオカシイ。
いや、夕方のような事があったら昔から自分はこんな風に揺れていた。
今回はそれが久しぶりだったから、揺れが酷いだけだ。
だから、せめて彼女に無駄な心配をさせない為に作った苦笑を顔面に張り付けて彼女に答える。
「ああ、それか───悪いな。ありゃあお前らを誤解させちまった」
「……え?」
どういう事? と問い詰める瞳から外れる為に畳み掛けるように言葉を繋げる。
「いや何。間が抜けてしまっていたからな。本当なら俺は恋物語というのは必死且つ真面目な人間の物語でしょうと言うつもりだったんだけど……ちょい口が回らなかった。あれじゃあ、色々とお前らに変な誤解をさせちまうだけなのに。マジですまん」
心にもない事を言う。
余りにも道化っ振りに自分に対して嘲りの笑顔を浮かべてしまいそうだが、必死に何時もの自分を形成する。
「そ、そうなの? でも、それってどういう事?」
「いや、だって恋愛事って他人によっては違うかもしれないけど大抵はお互いの想いを真面目に出し合う事によって成立するものだろ? それがハッピーに辿り着くかは勿論、俺には解らないけど……家族になるっていう事はそういう事だろう? じゃなきゃ家族でもない人間と家族になるって難しいだろ?」
自分でも理解していない理屈を語るのは難しい。
他人事のように喋っていると彼女に気付かれていないといいのだが。
「今まで自分だけを養えばいいはずの自分が他人と一緒になるんだ。世知辛いあれで言うと金とか家とかそういうのもあるし、自分達も一緒になるんだ。そりゃ必死で真面目にならないと難しいだろ。俺みたいな不真面目な人間にはまだまだ遠い話だよ」
それこそ、星のように遠い。
それらの想いを全て鋼の自制心を持って、外には絶対に吐き出さないまま。
一応、嘘は言っていない。
結構、真面目にそういうものじゃないのかな? という自分の持論を語っているので説得力がある言葉になっているはずだ。
それを彼女が納得してくれればいいのだが。
「……貴方。意外にもそういう所は真面目なのね」
「それは褒めているのか?」
「うん、かなり。もっと、そういう事についてはちゃらんぽらんに考えていると思ってたわ」
全くもってその通りなのだが、話が変な方に逸れない為にへいへい、と告げて手を振る。
そろそろ寝て、今日の自分をリセットするべきだ。
アリサの為でもあるが、それ以上に自分の為に。
何時、襤褸が出るか。さっきから冷や汗ものなのだ。
だから、今度こそ彼女から離れて自分の部屋に入ろうとしようとして───
「───でも、それは遠い話とかじゃないと思うわ」
ルビーのような赤い目をした少女の強い言葉がそれを遮った。
「勿論。貴方の理屈も合っていると思うし、正しい事だと思う。愛って言うとちょっと恥ずかしいけど、貴方の言う世知辛い物もロマンスの意味も含めて、それは必死に真面目じゃないと手に入らないものだと思う」
でも
「恋っていうのは遠いとか真面目とかそんなんじゃなくて……うん。それこそ離れている者を知りたい、理解したいと思う心から生まれるもので……理屈とか抜きに求める心から強く想うものなんじゃないかしら」
「───」
今まで学院の中で一番手強いのは何人もいると思ったし、これまでの人生でも強さ的にも精神的にも手強い、いやらしいと思う人間は何人もいた。
だが、これは流石に読めなかった。
今夜限りかもしれないが……まさかレイ・アーセルの強敵がこんな可憐な少女とは。
天敵は間違いなくあの馬鹿なのだが。
「あ、そ、その……私が勝手に思っているだけだし、まだそういう経験もした事がないから美化しているだけだと思うから余り気にしないでね!?」
小声で叫ぶという妙技を使っているアリサの恥ずかしがっている表情が見なくても頭の中で浮かんでしまう。
最後の最後で自信を失くすんじゃなくて恥ずかしがるのが彼女らしいと笑うべきか。
そんな考えもしなかった考え方をこちらに突きつけられた事に苦虫を噛んだ表情を浮かべるべきなのか。
そんなの俺が解る筈がなかった。
だから、彼女自身は気付いていない戦果に対して皮肉めいた白旗を振り回す。
「───なぁんだ、アリサ。実に女の子らしい激甘なスイーツ思想をお持ちじゃないか」
「スイっ……!?」
余りの言葉に彼女が恐らく赤面して硬直したような気配を察し、そのまま俺はケケッ、とわざと笑いながら自分の部屋に逃げ込む。
今度こそ、彼女がこちらに声をかける暇もなく。
待ちなさい! とこちらを呼びかけようとする気配をドアを閉めることによって遮断する。
流石のアリサもこの深夜に、しかも寝ている男子クラスメイトの部屋に突撃しようとする程、女と常識を忘れはしないだろう。
それらを盾にすれば、ここは間違いなく安全地帯だろう。
そうして扉を閉めて数秒すればアリサも諦めて部屋に戻る気配を感じ取れた。
そこで、ようやく安堵の息を吐けた。
本当に今日は自分にとって鬼門の日だったらしい。
何もかもが裏目に出るアンラッキーデイというのは今日みたいな事を言うに違いない。
その割には逆のハッピーデイというのを経験した覚えがないが、そういうのは人生的存在しないだろう。
とりあえず、二人を起こさないようにしてぱぱっと上の服だけを脱ぎ、シャツになって布団に倒れこむ。
高級品は余り肌に合わないのだが、今回ばかりは感謝しておきたい。
自分の全体重を支えてくれるこの軋みが本気で有難い。
最後の最後にあんな止めのラリアットを受けるとは思ってもいなかったのだから。
「……」
らしくない。
アリサの言う事だって正しいとは限らないし、正しくあってもそれが全人類に共通する定義ではないのだから。
現に今日の夕方のように、ただ美しい、気に入ったからと言って迫る人間もいるのだから。
愛という言葉は決して美しい事ばかりに利用されるものじゃないのだから。
俺が言えた言葉じゃないけど、やっぱりそういうものなのだ。
命を尊いと先程言ったばかりだが、人間が綺麗とは言ってはいないので別にいいだろう。
何故なら悪という名称はそもそも人間を指す言葉から生まれたはずなのだから。
「……はぁ」
変な方向に思考が逸れそうになる自分を右手で顔を覆う事によってリセットする。
何を無意味な哲学を考えようとしているのやら。
そういうのは柄でもなければ、俺が語る事でもないのだから意味がない。
善悪なぞどうでもいい。
だから、目を瞑って自分をリセットしないと。
明日になったら、自分は何時も通り愉快なレイ・アーセルとして活動しないと。
だから、今日を締め括る結論として顔を覆っている右手を見ながら
「───勘弁してくれよ」
と、誰にも聞こえないように本音を零し、そこで今日を終了させた。
更新しました~。
今日はもう完全シリアスです。
今回の特別実習は正しく、これを書くために書いたと言っても過言じゃないです。
この話のテーマはレイの生き方、信念、祈りという部分に焦点を当てました。
どういう風に思ったかは読者様の思うように感じ取ってくれればと思います。
そして、それを感想に書き込んでくれば有難いです!
ちなみに、今回のレイは本気で弱っていますねぇ。
何だかんだで何時もどおりを貫けていません。
この主人公、案外イレギュラーに弱いねっ、精神的に。
そしてうちのアリサ……本編よりもロマンにいっているような気がする……なんてこったい。
ともあれ、次回で出来ればセントアークを終わらせたいと思います。
本編の様子を見ると規模はA班と違って小さいみたいのでその程度かよっ! と思うかもしれませんが、出来れば心広くお受け止めてくれればと思います。
次回も出来るだけ頑張りますっ。
感想よろしくお願いします。