絆の軌跡   作:悪役

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特別実習 セントアークⅡ

 

「うぇっぷぅ……酷い目……うぷ……に……」

 

「ああ、もう。しっかりしなさいよ。水、飲む?」

 

お腹を擦りながら、必死に歩くレイを後ろから背中を擦りながらアリサが看病するが、ラウラも無理もないとは思う。

それ程までに凄まじい攻撃料理であった。

料理については生憎、詳しくは知らないので何も言えない人間ではあるのだが流石にあれらがキツイ料理であった事くらいは理解できる。

というか、死んでいく周りの光景を見て、そう思えなくなったら不味いだろうとは思うが。

だが、まぁ、店長もこちらの場に合わせてノリに礼を言ってくれたので依頼としては成功の出来であったのだろう。

今回ばかりは男性陣に頼りっきりの結果だったので、次は自分達が何とかせねばなとは思う。

 

「エリオットにガイウスも大丈夫か?」

 

「うう……な、何とかね……」

 

「……まぁ、俺達はレイよりも早くにダウンしたからな」

 

そうは言っても二人ともロワイヤルで貰った水を手放せないでいる。

やはり、あの時点でも胃袋にはダイレクトに効いたらしい。

そういう意味ならばレイはかなり頑張ったという事なのだろう。

だが、レイというなら一つだけ最後に不審を残した。

それは、彼が店を出る前に店長に問うた事であり

 

「一つお聞きしたいんですが……ここまで店を暗幕で覆っているのはどうしてでしょうか?」

 

と、彼は聞き、それに対して店長の反応は

 

「───」

 

力のない笑みであった。

苦笑ではない。

苦笑以上に、仕方がない、とあれは諦めるかのような感情が支配した時に生まれるものであるとラウラはそう感じた。

それに対して、レイも返事を期待していなかったらしく一礼で去り

 

「───ハァ」

 

溜息を吐いていた。

心底呆れているという感じの吐き方であったが故に自分が聞いていいものなのか、悪いのかを判断するのが難しかった。

 

「とりあえず、次の依頼だが……」

 

「次の依頼はモデル……なんだか実習っていうよりはアルバイトって感じが出てきたわねぇ」

 

「何事も経験という事だろう」

 

「でも、モデルって……女子二人は大丈夫だろうけど僕とかはちょっと見栄え的に合わないなぁ……」

 

「心配するなエリオット───お前にはいざという時の女装がある」

 

「ぼ、僕に新たなトラウマを植え込むつもり!?」

 

それに関しては、全員で一致団結して無視をした。

誰もが認めている事に、何故に疑問を挟まなければいけないのだろうか。

エリオットが泣き真似で落ち込んでいるが、とりあえずそれも全員で無視をして依頼の店に向かい

 

「……ここか」

 

目的地に辿りついた。

 

「店名はカラフル……まぁ、何というか可愛らしい店名ではあるな」

 

「まぁ、服と観点から見ても正しい店名ではあるな」

 

レイとガイウスからの男性陣の視点からの店名に対する考察を聞きながら、依頼の店と店名が同じである事を確認する。

うっし、とレイは曲げていた背を無理矢理戻し、表情も手で叩いて何とか普通に戻す。

腹が痛いがこれくらいのポーカーフェイスが出来ないと遊撃士は務まらないのだ。多分。例外がいそうだけど。

 

「ともあれ、今度こそちゃちゃっと終わらせようぜ?」

 

全員が同意の頷きをしたのを確認して全員が店に入った。

 

 

 

 

依頼は意外にもスムーズにいった。

 

「依頼を受けてありがとー♪」

 

店長のアンナさんの童顔の笑顔と共にエリオット含む全員がモデルとして起用されることになる事が依頼の内容であった。

 

「本当ならモデルさんに頼んでいたんだけど……急に来れなくなったから助かったわー」

 

ちょっと疲れたような苦笑を浮かべるのが不思議ではあったが、流石に気のせいだと思い全員が依頼を受ける事を進んだ。

 

「ネクタイきついな……」

 

「……ふむ。こういう服装は初めてだ」

 

レイとガイウスがそれぞれの着こなしでスーツを着てきたりとかは新鮮であった。

レイは前を完全に開けての着こなしで何だか悪い坊ちゃんみたいであったし、ガイウスは肌の黒さとスーツの謎の黄金律で格好よく見えた。

二人とも格好いいなぁと思いつつ、僕も着たのだが

 

「……七五三?」

 

それはカルバートの風習でしかも服装が違うよ、と皆の感想を否定したが似合わない事は自覚していたので仕方がなかった。

童顔なのもそうだけど背が低い事がこういう格好いい服装を台無しにしてしまうんだろうなぁ、と思った。

アリサやラウラも勿論、スーツを着たのだが何故かラウラが男物を着てのスーツであった。

 

「ふむ。どうだ?」

 

「……いや、結構普通に似合うわ」

 

隣で普通の女物を着ていたアリサが呆れた風に呟いているのに全員で同意した。

普段も凛々しいと言われる女騎士キャラのラウラだから男装は違和感なく彼女の雰囲気に溶け込んでいる。

上手くいけば男と偽れそうではあるのが流石だ。

 

「エリオット。心配するな。きっとお前も後、十数年すれば男ら……いやなんでもない」

 

「いっそ最後まで言ってくれた方が嬉しかったよ!?」

 

レイの要らぬ言葉にツッコミを入れながらも指定された服装を着ていく。

これなら、この依頼は平和的かな、と苦笑しながら普段着ないような服も着てテンションを上げていく。

 

───平和的な時間はある意味でここまでであった。

 

 

 

 

 

「ううむ……かなり着たな」

 

「まぁ、服を着続けるっていうのは流石に慣れない動作だから疲れてはきたわな」

 

「あはは……僕は姉さんのせいで慣れっこなんだけどね……」

 

悲しそうに呟くエリオットを尻目にガイウスは男性陣で指定された服装を睨んでいる。

既にスーツから私服、制服なども着まくったのでもう男性陣はほぼ終えていると言っても過言はない。

だが、アンナさんには終わったら他の服も見てくれても構わないという事で折角だから他の服も見ている最中なのだ。

 

「とはまぁ、言っても俺達は制服ばっかり着ているからなぁ」

 

「まぁ、士官学院って言っても学生だからね」

 

二人の会話にその通りだな、と思いつつもこっちに来てから俺からしたら珍しい服装を見る。

正直に言えばこういうセンスが無い俺からしたら見ても選ぶのは難しいのだが見るだけでも中々楽しいものだ。

 

「それにしても女性陣はまだやるみたいだな……」

 

ガイウスは今も着替えているであろう着替えスペースの方をちらりと見ながら呟く。

まぁ、モデルと言われた時から主役は女性二人か、と思っていたからそうなるのではと思っていた事ではあった。

 

「まぁ、タイプは違うけど二人ともスタイル含めて美少女判定受けているから、アンナさんみたいな職業は色々着させたいんじゃないか?」

 

「ある意味で職業病って言うのかな?」

 

「俺が馬を見るとつい世話をしたくなるようなものか」

 

女性陣に対して例えが悪かったかもしれないが、俺にとって一番分かりやすい例がこれであった。

そう考えるとアンナさんが熱中してテンションあげて二人を浮かせて、あのモデルショーのような場所のカーテンを敷いて暫く出てこないのも理解できる。

間に意味が分からない説明をしたような気がするが全て事実だった場合、俺はどうすればいいのだろうか。

どうにも出来ないか。そうなのか。

田舎者の自分にはどうも現実は厳しいものに見えるらしい。

哲学的なものを理解していると急に件のカーテンからばっ、と飛び込んできたアンナさんがマイクを持って

 

「はぁ~~い! そこの男子メンバー注目ー!」

 

などと騒ぎ始めた。

何だ何だと三人で見ながら、とりあえずレイが先陣を切った。

 

「どうしたんですかアンナさん。二人の美少女にセクハラした事の自慢ですか?」

 

「いや、それは勿論したけど」

 

したのか……とエリオットと俺は俯くが、聞くわけにもいかなかった。

そんな事を聞いたら間違いなく後で酷い目に合う。それだけは間違いない。

 

「まぁ、それは置いといて。野郎共ーーー! 今日は美少女二人の今まで見た事がないようなコスチュームを見れるシャインデイよーー!」

 

「はぁ?」

 

テンションが高いアンナさんに迷う事無く返事を返すレイ。

さっきはあんなに礼儀良かったのだが、人に合わせた礼儀らしい。

現にアンナさんもうんうん、とこちらの態度に嬉しそうに笑いながらテンションを更に上げていく。

 

「いや、もうね? あの二人、素材が良すぎてお姉さん、ちょっとテンションハイになってもう趣味で作ったあれやこれやを着せてあげたくなって……! ついでにセクハラしつつ結局、着せちゃったのよ……! はい、状況終了!」

 

「成程。つまり、際限なく嫌な予感が吹き上がってくるこの感覚は決して俺の被害妄想ではないという事ですね?」

 

レイの笑顔で断じた答えにエリオットと俺が同調する。

先程のレストランと似たような感覚が全身を襲っている。

何か死んで達成するクエストの類をやっている気分である。

 

「まぁまぁ───じゃあ予告無しの開帳ーーー!」

 

「え」

 

三人同時の間抜けな言葉に反応するかのように一気にカーテンを開けてしまったアンナさん。

そこは何かドラムロールとか何か開ける為のワンクッションがるものじゃないのかと思うが、もう遅い。

何故ならカーテンが開いた先には

 

 

もう、かなりのフリフリなドレスのような服装の二人のイメージカラーから生み出されたもうどう見てもアレっ、という感じの服装を見てしまったからだ。

 

 

「───」

 

ニコニコ笑顔のアンナさんを除く被害者三人は同時に真顔の無表情になって口を堅く結んだ。

幾らこういう事が疎いガイウスでも解るものは解る。

 

───ここで笑ったものから死ぬ。

 

胸の中央にリボンが結ばれている可愛らしい衣装やらスカートは制服よりも短くてかなり際どいとか。

髪には可愛らしいブローチがついているとか、最近、皆に教えられた言葉であるリリカルっぽいとか。

そんな要素は無視して決して表情を変えてはいけないのだ。

何故なら二人は既に羞恥とか、そういった表情を通り越して笑顔でこちらを見ているからだ。

究極クラスの笑顔だ───肉食獣としての。

最早、運命を受け入れるしかないと思ったのかレイは吹っ切ったかのように二人に声をかける。

 

「大前提としてせめて聞いておきたいんだが……今回は俺達、悪くないよな?」

 

「ええ、そうね。確かに何も悪くないわ。どっちかと言うと大人気ないのはこっちだと自覚しているし」

 

「うむ。我らも頭の冷静な部分がよさぬか、と警告を告げているのだが……感情とは厄介というものだな」

 

ああ、まだ彼女達が心の端に罪悪感を抱いているだけマシか、と思う。

視界の端であらあら顔で逃げていくアンナさんを尻目に最後にエリオット、レイと一緒に呼吸を合わせ

 

「遅れたが、似合っている」

 

二人の赤面と同時に衝撃が俺達を襲ったが、後悔しても意味がないものであった。

 

 

 

 

 

アリサ達はそうしてカラフルを出て、その足で手配魔獣に挑み倒した所であった。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

五人が五人とも疲れた顔でとぼとぼ、としかし最低限の警戒で街に帰宅している。

五人のストレスは最早、表面張力状態だ。

これ以上、上がったら色々と破裂する。

だから、手配魔獣に対して全員がオーバーキルな技やら何やらをしていた気がするが、五人とも気にしていない。

 

世の中結果が全てね……

 

その結果が今の自分達になっているのが都合よく無視させてもらう。

このまま幽鬼のテンションで歩いていると一つ大きな溜息を吐いた少年がいた。

予想通りにそちらを見るとレイであり、やれやれと首を傾げ、唐突にパン! と両手を叩き、全員の視線を集める。

 

「ま、今回は色々珍妙な依頼が多かったが……これもある意味社会経験を積んだって事だ。気持ちは全員共有しているだろうけど、流石にこのままずっとゾンビテンションも面倒だろ? 後はレポート書くだけだ。逆に考えろよお前ら───俺達は今、A班達には出来ない経験を獲れたんだぜ?」

 

物凄い前向きな意見だ。

確かにレイらしい言葉といえば言葉なのだが……それを言うこと自体がレイらしくないというので思わず四人で顔を合わせてそのまま笑った。

どうやら我らの不器用なリーダーは不器用なりにも皆を率いろうとしたらしい。

こちらの笑に目に見えて彼は不機嫌になった。

自分でも似合わない行動だと思っていたらしいが……それを指摘されると不機嫌になるとか変な部分で子供っぽい。

 

「ご、ごめんごめんレイ。わ、笑ったのは悪かったら機嫌直してよ」

 

「別に機嫌を直すほど不機嫌になった覚えもする気もないわ、エリオット」

 

フン、と鼻を鳴らす仕草でどうやってその言葉に説得力を持たせるつもりなのだろうか。

笑いを堪えている私とラウラは残念ながら力になれない。

だから、今度は代わりにガイウスが

 

「いや、確かに。レイの言うとおりだ。愉快な体験ではあったが……滅多にない体験ではあった事には変わりないな。いい言葉だ」

 

「そーだなぁ」

 

苦笑しながら宥め様とするガイウスの言葉も効果がない。

そろそろ男性陣に任せっきりも悪いかもしれない。

何時の間にか街の中にいるし、もう夕方だ。

そろそろ機嫌が戻ってもらわないと困る。

そう思い、ラウラとアイコンタクトをし、レイに声をかけようと思ったら……ふと眼の前から走ってくる女性が見えた。

 

……わ。

 

有体に言えばかなり綺麗な人だった。

髪の色は私と同じ金髪で後ろで遊ばせているストレートの髪型。

瞳は碧眼で流石にそこまで同じではないが、スタイルも整っているように思える。

そんな人が走るには適していない青白いロングスカートを振り乱して息を乱している。

うちのメンバーというかエリオットもちょっと見惚れている。

ガイウスはどうしたのだろう? と見ているし、レイは運動かな? という風に見ている。

何だか男子三人でまともな恋愛観を持っているのか誰なのか分った瞬間な気がした。

だけど、まぁ、気にはなるけどここで声をかける程かどうかを判断し損ねているから私もラウラも何も言う事が出来ずにいるとその女性は体力が戻ったのか顔を上げた。

すると当然、視線は前に向く事になり彼女の前には私達がいる。

 

「───」

 

彼女は何を思ったのか。

視線を何故か、エリオット、ガイウス、そして最後にレイへと視線を動かした。

向けられた三人は警戒の体勢に思わず移行するが結果として最後はレイにのみ視線を固定した。

向けられた本人は何か服装に付いているのかと視線を自分に向けるが、私から見ても何か見られる様な汚れなどはついていないとは思う。

だから、逆に彼女の咄嗟の動きに対応出来なかった。

彼女はいきなりバッ、と立ち上がったと思うとこちら……いやレイの方に走り、直ぐに彼の手を両の手で握りしめ

 

「お願い……! 私と付き合って!」

 

「だが断る。では」

 

光速のやり取りと衝撃に耐えられずに相手の女の人は勿論として私達も時を止める。

やんわりと彼女に握られた手を解き、レイはそのままスタスタと去ろうとするが、途中で誰も付いて来てない事に気付き、心底どうしたんだ? という顔で

 

「おい、どうした? 速く帰ろうぜ?」

 

「───ちょっと待った!!」

 

告白を断られた女の人と一緒に盛大にツッコミを入れる事になった。

 

 

 

 

レイの心境はただ一言のみであった。

簡潔に、そう。誰も彼もが分かる言葉であり、誰も彼もが一度は使った言葉ではないのだろうかという言葉。

 

つまり、面倒くさい。

 

「この僕が君を欲しいと言っているのに何故、君は僕の物にならないんだい? 僕と居れば貴族の名誉を手に入れるんだよ? 庶民の君にとってこれ程幸せなことはないだろう?」

 

「お生憎様ですが、私は在り来りな人生を味わいたいと思っておるのでその名誉は他の誰かに差し上げてください?」

 

先程の女性に無理矢理腕を組まれ、目の前には超絶分かりやすい坊ちゃんタイプの貴族の少年と屈強なボディガードの皆さんに囲まれたパライソに思わず空を仰ぎ見たくなったが、そんな事をすればこの演技がばれてしまう事くらいは理解していたので意志で止めた。

結局、あの光速のやり取りの後でも彼女の話を聞くことになったのだ。

簡単に纏めると

 

「何かいきなり僕の物になれとか意味不明な事を言って付き纏ってくる貴族を払う為に手伝って欲しいの」

 

ストーカー被害に悩まされているという事であった。

まぁ、確かに見た目だけでもうちのクラスに負けず劣らずの容姿とスタイルだから貴族じゃなくてもそうなる可能性があってもおかしくはない。

おかしくはないが……確かに同情はした。

相手が平民の人間なら彼女はビンタ一発で済ますか、それこそ領邦軍にでも知らせるなりが出来たのだろうけど、この街で貴族が相手となると間違いなく困ったものだ。

すると、周りのお人好し連中は何とか力になればと考え、生み出された手段がこれだ。

彼女が最初に俺に声をかけたのもその貴族の申し出に断る手段として既に恋人がいるので、というのがあったらしい。

そして、それを描いたら丁度、俺みたいなのになるらしい。

別にどうでもいいのだが、この人の趣味は年下なのか。

だからこそ、俺が恋人役をやるしかなかったのだが。

 

……まぁ、二人には少し任せられない事柄だしなぁ。

 

普段なら二人に任したくなるのだが、今回のみは俺が(・・)やらねばなるまい。

だから、俺はせめてもの準備にあからさまな目印になりそうなトールズの制服の上着だけを脱いで他のメンバーはいざという時の為に近くに隠れて貰う事にした。

あ。アリサ、路地から髪が出てるぞ。

 

……それにしても困った。

 

ヒートアップする二人のやり取りを余所に俺は結構、本気で困っていた。

やる気がないとか面倒とかそういう次元ではない領域で困った。

恋愛とかそういうのは俺の範疇外(・・・・・)だからだ。

これは別に俺が鈍感だからとか交際経験がないからとかではなく、そういう思考をする生き物ではない(・・・・・・・)からだ。

誤解が生まれそうであるが、別に不能でもホモでもない。普通にアリサ達を見て、可愛い、綺麗などと思う事はある。

だが、自分はそこまでのみで止まっておくべきなのだ。

だから、こういうのは本当に困ったものなのだ。

恋愛事にはなるべく関わらない様にしていたのだが、こうなるとは予想外である。

だから、その……こういうのを見ると

 

 

───酷く自分に対して吐き気がする

 

 

「なぁ、君もそう思うだろう?」

 

そう思っていると坊ちゃん貴族がこちらにも語りかけてきたので、とりあえず適当にはぁ? とか言って話を促した。

 

「君みたいな庶民よりも僕みたいに権力と財産を約束された存在の方がそれは未来が輝いているだろう? 君も馬鹿じゃないのならどうしたら彼女が幸せになるか分かるんじゃないかい?」

 

こっちを明らかに馬鹿にした笑顔で説得のつもりの罵倒を垂れ流させてくる。

聞いているこちらからしたら正直、ああはいはい、そうですねの意見である。

恋とか愛とかに巻き込まれるのは面倒なのだ。

そういうのはそっちで適当にやって欲しい。

だが

 

「なら、お一つ聞きたいのですが?」

 

「ん? 何だい? 諦めの言葉かい?」

 

周りから凄い何をする気だ馬鹿野郎! という視線が凄い降りかかってくるのだが、無視して

 

「さっきから権力とか身分とか金とか仰っているようですが……彼女が本気で欲しいなら何故、愛で語らないんですか?」

 

「───」

 

チーーン、と周りが停止した。

隣にいる彼女も坊ちゃん貴族も周りにいるボディーガードも隠れている場所からはみ出ているアリサの髪も関わりにならないように無視していた一般人の皆さんも変なポーズで全員停止した。

はて? どうしてそうなる? と結構、本気で周りの停止を理解不能の視線で見回すのだが、誰も答えを返してくれない。

数秒後、何故か急速に顔面を赤く染め上げた坊ちゃん貴族が意味の分からん叫びを上げながら

 

「ややややや、やってしまえーーー!!」

 

謎の結論が急に出されたからえーーー!? と思わず驚きながら迎撃してしまった。

最後の覚えていろーーー! と言って逃げていく坊ちゃん貴族を見ながら、あの捨て台詞はまだ死語にはならないんだな、と適当に思った。

 

 

 

 

 

「今日は本当にありがとね!」

 

そう言って手を合わして謝る女の人は悔しいけど様になっているとアリサは思った。

 

「い、いえいえ! まぁ……礼を言うならレイに……」

 

と言いたい所なのだが本人は離れた所でやる気なしに欠伸をしている所であった。

どうでもいい、という雰囲気がプンプン出てる。

 

……何だか今までにないやる気の無さねぇ……?

 

正直、違和感を感じなくもないがそこはとりあえず無視しておく。

 

「でも……その……大丈夫ですか? 追い払ったと言えば追い払いましたけど……また貴女を狙うかもしれませんが……」

 

「あ、そこは大丈夫よ。私、旅行者だから」

 

そうだったんだ……と思うが、そうなると彼女は結構、本気で運が悪かったのかもしれない。

旅行先でまさかこんなストーカー事件に巻き込まれるとは。

 

「それにしても最高だったわね、あの切り返し……くく」

 

それに関しては結構、同感だった。

まさか、明らかに権力と金が全てっぽい貴族の少年に愛で語れよ、と言うとは。

見た目に似合わず意外とロマンチストなのかもしれない、あの馬鹿。

こうしてクラスの意外な面を見れるのは確かに面白いかもしれない。

 

「でも……ちょっと一つだけ聞きたいことがあるのだけど、レイ君」

 

「はい? 何ですかね?」

 

ヒョイ、と小首を傾げる動作が何だか子供っぽくてまた皆で笑いを堪える事になったのだがそれは別として

 

「まぁ、私もあの勢いで上手くいくとは思ってなかったけど……本当に光速に私の告白を拒絶したわよね? ……流石にあれはちょっと傷ついたんだけど……もしかして私ってそこまで魅力ないタイプだった?」

 

そう、それは確かに最大の謎だ。

そして、間違いなくこの女の人はかなりの美女に入る人だ。

タイプで言えば身近で言うとサラ教官を女らしくしたバージョンだろうか。

だけど、どちらであっても見た目がかなり魅力的である事だけは確かなのだ。

容姿もスタイルもオールオッケーだし、性格も何だか気が強くてそういった人が好みならかなり好かれるタイプだとは思う。

私が男だったら一撃KOはともかく揺らいでいたかもしれないというのは否定出来ない。

その疑問に、彼はああ、と頷き───何かぞっとする笑顔と共に答えを口に出した。

 

「だって、恋物語は人間(・・)の物語でしょう?」

 

その笑顔を見て、一瞬、透明な笑顔かと思った。

だが、これは違う。

ただ単に中身がないから透明に見えるだけで、実際に名付けるなら……どこまでも空っぽな笑顔だ。

中身がないんじゃなくて、中身を消した空っぽ。

 

恋物語は人間の物語

 

その言葉を。

私はそのまま受け取るべきなのか、暗喩で受け止めるべきだったのか。

私は、ここでそれを選ぶべきだったのかもしれないが、結局、それを冗談だと思って微苦笑するに留めてしまった。

これが、正しかったのか、間違っていたのか。

 

 

それこそ答えを知るのは空の女神様だけだろう。

 

 

 

 

 

 




長い間お待たせしました~。

理由はオリジナルに手を出していたのと就職難です……誰か助けて……

……ともあれ。今回は密かにレイの根源に繋がる様なイベントでした。
次回も空きそうですが感想よろしくお願いします。

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