「これは酷い」
「そだね」
実に簡潔な感想だが、それしか言いようがないのだから仕方がないではないかとレイは思う。
今日も今日とて天気が素晴らしい空の下。
トールズ士官学院Ⅶ組は再び、実技テストをしている最中であった。
今回も、前回と同じで人形兵器を利用した模擬戦。
しかし、前回と違うのが、人形兵器の外見が多少変わっているのと、性能が上がっている事であった。
それを問うとサラ教官は
「色々、設定したらそうなるのよ?」
恐ろしい最後は疑問形だ。
間違いなく理屈で考えて設定を変更していない。
もしもミスったら現段階の自分達よりも凶悪なボスクラスになって出現したりするのではないのだろうか。
くわばらくわばら。
まぁ、それはともかくとして。やはり、方法はチームで挑むという形になり、最初のチームはリィン・アリサ・ガイウス・ラウラという若干前衛に偏っているが、逆に言えば攻撃的なチームで挑み見事に撃破した。
そう、ここまではいいのだ。
問題は次の、つまり現在進行形でテストをしている今のチーム。
ユーシス・マキアス・エリオット・エマのチームなのだ。
こっちは逆に後衛に偏っているが、マキアスは運動能力が低いわけでもないし、いざという時はエリオットとエマよりは前に出れる。
チームの能力的には問題ない。
───単純に人間関係に問題があったのだ。
言わずとも理解できるだろう。Ⅶ組最大にして最高の険悪の仲。ユーシス・マキアスである。
二人のペアは未だにARCUSのリンクも繋げる事は出来ていないペアである。
それだけならまだいい。
しかし、今、俺達が見ている光景を見ているとそれだけとは言えないだろう。
「貴様……! いい加減にしろ!」
「そっちこそ! 何回、僕の邪魔をすれば気が済むんだ!」
内容を要約すれば、ユーシスが突撃しようとすればマキアスの射撃に巻き込まれたり、邪魔をする。
マキアスが攻撃をすればユーシスがアーツを使用して偶然にもマキアスの銃弾を消し飛ばしたり、弾き飛ばしたりする。
そういった内容の悪循環をこのテスト中にもう、数える気すら起きないレベルで起こしており、二人とも本来の目的を忘れて妨害に徹しているんじゃね? と疑ってしまいたくなる光景である。
「……今度は二人が組んだアーツがぶつかり合って敵に当たってない。ある意味器用だね」
「というかエリオットとエマが私には見ていられないんだけど……」
「二人のコンビがアーツを組む時間を稼ぐ所か、チームの妨害をしているからな」
フィー、アリサ。ラウラの批評をうむ、と男三人で頷く。
エリオットとエマは頑張っている。
必死に二人に落ち着けを促す叫びを出したり、詠唱が短い下位アーツやクラフトで援護や攻撃をしたりしている。
未だにあのチームが生きているのは間違いなく二人のお蔭と言える。
「……見たところ、人形兵器も限界が迫っているな」
「ああ。恐らく、このまま行けば勝てると言えば勝てる……」
「───が、当然、評価なんて語るまでもないだろうな」
あれで評価が高くなるなんて奇跡は起きるはずがない。
勿論、評価のマイナスの原因はユーシスとマキアスのチームワークの無さ。
エリオットとエマは戦闘未経験者として十分に頑張っていると言ってあげたいが、サラ教官の事だから二人も纏めて評価するだろう。
その方が二人にもダメージがあるし、ここは士官学院。
未熟、未経験で良しと許される場ではないのだろう。
「ふむ……レイよ。逆に聞くがあの状況ではどうすればいいのだろうか」
「正直に言うとかなり厳しい。この不協和音の原因のユーシスとマキアスをこっちから除外して戦うっていうのもありだが、それにはエリオットとエマの戦種じゃ難しい。強いて言うならマキアスを除外してユーシスが機能してくれるなら良しか」
「……味方を除外するのに躊躇ってない所に突っ込みは入れたいけど、何でマキアスの方なの」
「簡単。ユーシスの方が相手に近づいて生き残れる確率が高いから」
成程ねぇ、と二人の女子が頷くのを見ていると大きな音が聞こえたのでどうやら終わったらしい。
見ると四人共息絶え絶えだ。
前衛二人もそうだが、後衛も激しい。
無理もない。
二人に抑制の叫びを上げ続け、更にはアーツも連続詠唱。
逆に二人のキャパシティに驚くばかりである。
「はい、テスト終了。解っていると思うけど、原因の二人は反省しなさい。それ以外に問題があるっていうなら受け付けるけど?」
「……ふん」
「く……」
言われた二人は理解はしているのだろう。
そのまま武器を収めて反論せずにこっちに戻ってくる。
エリオットとエマも何とかという様子でこっちに帰って脱力する。
「お疲れ、エリオット、委員長」
「水分補給をした方がいい。タオルもこれを使ってくれ」
「あ、ありがとうございます……リィンさん、ガイウスさん……」
「はぁ……ほ、ほんと、ありが、と……」
死にかけという感じに疲れ切っている二人を他のメンバーが労うのを見て、やれやれと思い
「じゃあ、教官。俺とフィーで人形兵器とバトルですか?」
「……めんどい」
残った俺とフィーが前に出て、とりあえず質問する。
「ああ。残念だけど、二人の相手は人形兵器じゃないわ」
「───は?」
にっこり笑顔のサラ教官はパチンと指を鳴らして、嘘じゃないと示すかのように人形兵器を消す。
その行動に、嫌な予感が止まらない。
「……じゃあ、一体何と戦うんで?」
「二人とも、このクラスじゃトップクラスの強さよね?」
何か似た流れを以前にもした気がする。
そして、その後はどうなったか。
思い出したくもない。
「……確かに身体能力と経験は私とレイは高いけど、他の皆も伸びていると思う」
ナイスだフィー。
そう、その通りだ。
最近の伸び代はリィンが一番凄い。
以前の特別実習で何か、掴んだのか。もしくは吹っ切れたのか。
めきめきと上達している。
他のメンバーも同じだ。
数か月したら抜かれていそうで結構、怖い。これだから才能の塊集団は……!
「あら殊勝───でも、まだ皆を守る力はあるくらいは思っているんじゃない?」
「───」
俺は口笛を吹き、フィーは欠伸をする事によって返答を拒否した。
そのリアクションに素直な反応でよろしいと告げられた。
解せぬ。
「というわけで。一度、その天狗の鼻を折っとこうかしら」
にこっと笑顔で───懐からハンドガンタイプの導力銃とロングソードを取り出して構えた。
え? と思わず俺とフィーが呟くのに何時も以上に爽やかな笑顔でこちらを見ながら───姿を消した。
瞬間
「……っ!」
二人同時に横に飛んだ。
ガイウスは目の前に発生した土埃に対し、エリオットと委員長の前に立つ事にした。
そうすると自分は諸に土埃を被る事になるが構う事はない。
見ればリィンも同じ事をしている。
他はユーシスは反射的に腕で土埃を防いでいるが、マキアスは間に合わずに目が! と叫んでいる。
アリサはラウラが守っているようだから大丈夫だろう。
だが、その前に
「リィン。今の動き、見えたか?」
「いや……飛ぶ寸前の動きは見えたが、そこからは見えなかった」
「リィンもか……私も似たようなものだ」
前衛三人の動体視力を持っても見えなかった動き。
しかも、自分は高原育ちとして多少、目には自信があったのだが、サラ教官の動きには惨敗してしまったという事になる。
そう思った直後にサラ教官が砂埃から現れる。
立ち上がり、右手に銃、左手にブレードを持っている姿には隙がないし、余裕がある。
現に
「ほら? どうしたの二人とも。この程度で倒れるような可愛らしさを持っているとは思っていないからかかって来なさい」
このように挑発する余裕さえある。
そしてようやく攻撃を受けた二人はと意識を張り巡らした刹那に銃声が響いた。
俺達からしたら左手の方から射撃。
砂埃で見えないが間違いなくフィーの攻撃。
間違いなくまともに見えていない状況なのに見事に教官を狙っているのが風の動きで解る。
精密射撃というならアリサの方が上かもしれないが、それでもフィーの腕も凄い。
しかし、それらの射撃は
「~~♪」
鼻歌交りのステップで気楽に回避されていた。
軽い。そして速い。
ただのステップにしか見えないのだが、それが高速になると洗練さが違うように見える。
そうして軽い調子で回避しながら、右手の銃をフィーがいるであろう方角に向け───フェイントで逆に向けた。
すると銃口の直線状に土埃を払うように現れてレイが目の前の銃口に顔を引き攣らせた。
その引き攣った顔に対してもサラ教官はまるで平等であると言うように笑顔を与え
「Bang♪」
遠慮なく撃った。
「レイが死んだーーーーー!?」
エリオットのツッコミが今日も空気を揺るがす。
確かに、見事に顔面に命中し、しかも顔に穴を開けていった。
間違いなく人間なら即死なのだが……何故だか穴が開くだけに止まらずに、体までが消えていった。
これは
「本で読んだ変わり身の術……!?」
委員長が読んだ本が少しだけ気になった。
しかし、答えは違うようだ。
続いてラウラの口から叫ばれた、悔しいような。しかし素晴らしいと褒め称えるような声が
「───分け身か!」
その叫びと同時にレイがサラ教官の背後から飛びながら足に雷を重ね、そのまま後頭部に蹴りを振りぬこうとして
「はい、残念」
普通に左手のブレードを背後に回して受け止められた。
しかも、ブレードにはレイとは違い、紫の稲妻を重ねてのだ。
雷同士の衝突音など今まで聞いたことがなかったが、とりあえず即座に耳を封じてしまう音であるというのを即座に理解して耳を塞いだ。
だからこそ、光の対処が間に合わずに目がやられた。
「───」
「───」
耳は対処したお蔭か。
恐らく、レイとサラ教官のやり取りが音としては聞こえたが言葉としては聞こえず、そのまま数秒間じっと堪えた。
そして時間にしては二十秒くらいか。
ようやく耳と目が戻り始め、戻った視覚と聴覚が捉えたものは
「あーらら? 互角? ……私の紫電と同レベルって……ちょっとショックだわ私……」
「
拮抗している状態の二人であった。
しかし、見ているとそれが違うと解る。
何故ならサラ教官は不敵な笑顔を浮かべており、レイは冷や汗を流してポーカーフェイスの笑顔を浮かべている。
差は歴然であった。
「っと、油断も隙もないコンビねぇ」
「……っが!」
ようやく地上に落下しようとするレイをそのまま教官が回し蹴りみたいに振り回す足がレイの胴体を蹴り飛ばす。
咄嗟に両腕でガードしていたが、その腕事胴体にめり込んでいるようにも見える勢いで吹っ飛ばされ、サラ教官は蹴りの反動でそのままバックジャンプ。
「……む」
すると何時の間にか上にはフィーが落ちてきており、撃とうとアクションを起こそうとしている最中であった。
レイが一度、飛んでいたが故に、上からの攻撃は疎かになるであろうという奇襲をサラ教官は本当に普通にクリアした。
それでもフィーは落ちながら、腕を下がっていくサラ教官に向けようとするのだが落下していく風圧のせいで照準が定まらない。
元よりフィーはこの場にいる誰よりも小柄であり、鍛えているとはいえかなりの細腕だ。あの双剣銃を自在に操っているだけで十分見事であり、故にそれ以上には対処できない。
そして、そんなフィーに対しても遠慮なく銃口を向け
「おっと!」
一瞬で横に跳び、サラ教官がいた位置に雷撃が通る。
その間にフィーが着地し、レイの傍に一旦引く。
仕切り直し……と言いたい所なのだが
「完全にレイとフィーが弄ばれているな……」
あの二人が、という想いはを抱くなという方が難しい。
間違いなく、単体戦力という意味ならばあの二人は別格だ。
二人のコンビの相性も決して悪くない。
互いに速度という点でもⅦ組トップクラスという事であり、速度を持って撹乱しつつ、必殺を狙うコンビネーションは俺では多分、一手。よくて二手は防げても三手目でやられるであろうという事は確かだ。
それに対してサラ教官は息切れする所か、不敵な笑顔をずっと保っている。
強い。
間違いなく、自分が今まで出会った魔獣や人よりも遥かに格上。
いや……一人だけいたか……
恐らく、今も自分の故郷であるノルドで部隊を率いておられるだろう。
あの人の戦っている姿に対しても、自分は自然と畏敬の念を覚えさせられたものだ。
考えが逸れた。
見た所、二人はまだ余力がある。
さっきまでと同じような戦況に持っていく事は恐らく、まだ可能だ。
だが、逆に言えば同じような結果にしか持ち込めない可能性の方が高い。
どうする、と思う。
テストとして見るならば、既に十分な成果を見せたと俺の視点ではそう思う。
しかし、俺の視点と二人の視点が一致するわけがない。
二人ともお気楽に見えて、かなり実践派だ。
ここでの敗北をそのまま実践の敗北と捉えかねない。敗北と言ってもルビは諦めと取るのだろうけど。
ならば、どうする? と再び思い、視線を二人に固定した。
「わかっちゃあいたがなんつーか……」
本当、この教官、怪物だとレイは溜息を吐く。
まぁ、それもそうかとも思うが。
何せ、史上最年少でA級遊撃士になったのだ。その実力が嘘になるわけがない。
A級と言えば、あの
そして残念な事に、その評価は間違ってはいないのだろう。
さっきから
例えば、今から正拳突きを入れようとしてそれをフェイントに足を刈るというイメージをしよう。
そうすると相手の対処もイメージ出来る。
例えば、相手がエリオットやエマの場合、引っかかるというイメージが生まれる。
次にリィンやラウラ。ガイウスやユーシスなら躱す、受けるなどといったイメージが生まれる。
これが、まぁ普通の対人戦におけるイメージ。
相手が何が出来るか。どういう風な癖があるかをイメージして、その先を想定する。
しかし、サラ教官の場合は最早、
それでも、まだ防御の時のイメージはマシな方だ。
サラ教官の攻撃のイメージになる場合、一瞬で15回くらい見えてしまう。
……まぁ、それでもあの
あの時は
あの化物とはもう二度と絶対に会いたくない。
偶にあの時の記憶を思い出して、何故生きているのだろうか自分と思ってしまう辺り、あの出会いは本当に最悪なものであったと思う。
話がかなり逸れてしまった。
まぁ、でも簡単に言えば勝ち目のない状況っていう感じでしかないのだ。
「フィー。何か策はないか?」
「レイ。何か策ない?」
同時にお互いにもう策がないという事を自白してしまった。
思わず、真顔で無言になるが、気を取り直す。
「じゃあ、基本に返って下手な鉄砲以下略で言い合おうぜ」
「ラジャ───一つはこのままコンビネーションで戦う」
「ま、当然さっきまでの焼き直しだな。こっちが最後には体力なくしてゲームセットの流れ」
多少のチャンスはあるかもしれないが、かなりの望み薄。
ただでさえ、性能による差があるからこっちはミラクルパンチか、もしくは慢心を狙っているのだが恐ろしい事にサラ教官にはそれがない。
「サラ教官! もう少し油断してくれませんかね!?」
「やーね。あんたらの経験とセンス知ってて油断するわけないでしょ。油断して欲しかったらそこで呆然としている愛しい教え子みたいになってみなさい」
「教官! それは俺とフィーが可愛い教え子ではないという事ですか! おい! フィー! 聞いたか!? この教官、差別主義だぞ!」
「……レイと一緒にされたくないかも」
「そうね、フィー。私もあんたとレイを一緒にする気はないわ……」
「敵は身内か!」
舌戦でも追い込まれた。
俺の味方はどうやらこの火照った体を冷やしてくれる風だけらしい。ドチクショウ。
「二つ目はこのまま白旗」
「テストとしては十分にやった気もするしな」
逆にこれで勝てるのならサラ教官不要論が発生してしまう。
というかそれだけの力量があるなら遊撃士のプロを目指している。
「……で、第三が」
「ご都合主義。例えば、レイがこのままサラにぼっこぼこにされたら謎の力に目覚めるとか。追い込みとして結構いい所まで行ってるけど、キンチョーが足りないなら私が刺そうか?」
「フィーこそ。そのロリボディがいきなり色気溢れる大人ボディに変身してもてもてヒロインになるチャンスだぞ。その際に服が破れるミラクルを許可してやろうではないか」
一瞬、互いにこいつを先に仕留めて教官に差し出せば終わらないかな? という思考が過ぎったが疲れるだけだろう、と思い、吹っ飛ばした。
さて、恐らく現状はこんなものだろう。
バリエーションはあるだろうけど、基本方針はこの三つ。
その中で一番良さげと言えば
「……2だね」
「2だよなぁ……」
やはりどう考えても二人でサラ教官を倒すというビジョンが思いつかない。
かなりのラッキーがあればいけるが、そんな奇跡は現実で起きることは99%ない。
そんな無謀な賭けに賭ける事が出来る様な人生なら、人類はもう少し幸せになっている。
そして3は同じ意味で論外になる。
なら、消去法で2しかない。
この実技テストも別に勝つ事=合格ではないのだ。
如何に効率よく、また冷静に戦っているのもポイントのはずだ。
なら、勝算無しに戦う行為は褒められたものではないと評価されるし、正しい結論だ。
なら、ここで潔く両手を上げるのは正しいはずなのだが
「その割にはフィー。納得してないな」
「……む」
図星を突かれたという表情でこちらを見るフィー。
皆は、こいつの事を余り感情を表に出さない子だとか思っているらしいが、俺からしたら分りやすい。
無表情でいるのは、単に不器用なだけである。
過去のあれこれがあるせいで表に出しても、どうせ後には……という考えが多少、あるのだろう。
だからだろうか。
次の言葉につい、大爆笑してしまった。
「勝てない事は解ってたけど……やられっ放しはむかつく」
笑った俺を許してほしいものである。
何せ、相手はフィーだ。
これが他のメンバー。例えば、これがガイウスやエマでも別に俺は驚かないと思う。
予想外とは思うかもしれないが、人の性格を一から十まで把握など不可能と割り切っているからである。
だが、フィーの口だと思うと笑える。
他のメンバーなら意外とは思うかもしれないが、笑いはしないだろう。
これはフィーの事情を知っている俺のみの特権みたいなものだろう。
よくもまぁ、その事情でそこまで年相応でいられたなぁ。
「……遂におかしくなった?」
「はっ、はは……わりぃわりぃ。気にすんなフィー。兄貴分として妹分に出番を与えてやろう」
「こんなへんな兄はいらない……出番?」
最近の周りの評価に涙が出てしまいそうだ。
前回のヅカ王子の事件のせいで女性陣の皆は誤解と分っても白い目で見るのは止めなかった。
被害者は時に加害者よりも酷な扱いを受ける……。
だが、フィーも最後の言葉には興味があったのか食いついてきた。
だから、俺も笑顔で答えた。
「第三の選択肢だ───ご都合主義の結果を起こしてやろうぜ」
サラは二人の作戦会議が終わるのを待ってあげた。
当然、サーヴィスだ。
本来なら、もう終わらせているのだがこの二人は面白いから待ってあげている。
でも、まぁ、それでも点をあげるなら白旗かしらねぇ。
勝負もしない人間は軍にはいらないが、勝ち目のない戦いをする蛮勇もいらないのだ。
勝ち目のない戦いに挑むのは
だから、まぁ、二人ならここで降りるだろうと思っていたのだけど
「……無茶苦茶。たかが、一か月ぐらいしか付き合いのない私達ができる可能性は低過ぎ」
「そうでもない。いや、普通ならそうだが、俺達にはリンクがある分、やりやすい。元々、互いの息を合わせるのがリンクの効果だからな」
「……だとしても難易度高過ぎ」
「そこら辺は互いの実力でカバーだな───やられっ放しは嫌なんだろ?」
「……むぅ」
何やら愉快な相談をしている。
目を見てみたら、フィーは呆れ、レイは愉快と感情は違うが、諦めは宿ってない。
やる気だ。
「……はぁ。ま、それしかないみたいだし───やる」
「そだな」
すると、気楽に言葉を吐き、明らかな前傾姿勢を取った。
こちらに突撃する気しかない。
フェイントの気配を探るが、その様子もない。
本気でこちらに正面衝突するつもりなのだ。
……正気?
明らかな実力差がある相手に対して小細工無しの正面衝突。
二人の加速力+自重+筋力で押し勝つとでも思ったのか。
そんなの躱せばいいだけの話だ。
二人の速度が速い事は知っているが、こちら以上ではない。
まだまだ、若い教え子に負けるつもりはない。
その事を、二人も承知のはずだ。
ならば、これはただのヤケクソか。
「───」
少し、失望かもしれないが、二人の年齢を考えればそういうものかしらねぇ、と思う。
まぁ、それならそれでいい。
突撃してくる二人を倒して、説教。
これで仕舞だ。
そう思っていた───二人の体が一瞬、光が包むというより消費のような形で浮かぶ寸前まで。
「クラフト!?」
そう思った瞬間に両腕が思考よりも早く瞬発して、鋼と鋼がぶつかり合った甲高い金属音に比例するレベルで腕に衝撃が走った。
「くっ……!」
前にいたはずの二人がいないのは解っている。
何故なら、二人は超高速の速度で私を中心にXの形に斬り込んできたからだ。
加速の原因はCP大量消費による一時的な加速。
そして
「……!? また!?」
次は左右から。
異様な加速に、ブレードと銃で防ぐが、かなりの速さに二人はまた擦れ違う。
だが、やはり二人がしている事は分かった。
これは
「コンビクラフト……!」
コンビクラフトというのは簡潔に言えば、コンビネーションによるクラフト。
口で言えば非常に簡単だが、その綱渡りのような能力の調節が簡単なわけがない。
力、速度、技術、タイミング。
どれかが狂えば間違いなく、ただの二人の攻撃にしかならないものだ。
それを、恐らく即興でここまで息を合わせるとは。
「───上等!」
まだまだ次が来る。
だが、
少なくとも今はまだ。
エマの目からはそれはもう疾風迅雷という言葉しか思いつかなかった。
サラ教官を台風の目として活動する暴風圏。
時々、稲光のような光がサラ教官から発生するのは恐らく、武器が激突した際に起こる摩擦熱。
それがもう、何回起きたか。
自分の動体視力でも10回以上は起きている。
恐らく、この技は単純な加速に物を言わせて敵に攻撃を送るだけのクラフト。
でも
加速力が凄過ぎるとここまで……!
嵐の苛烈さは尚増す。
一回二回三回四回五回六回七回八回九回十回十一回十二回十三回十四回十五回十六回十七回十八回十九回二十回───
そこまでが動体視力が数えられる限界であり、そして二人が止まった瞬間であり
「あーーーー! 技名考えてねえ……!」
というレイさんの叫びと同時に今までの疾走の軌跡から雷と風が吹き荒れた瞬間であった。
そしてその後を見届ける余裕もなく、レイさんとフィーちゃんはそのまま倒れた。
フィーは息を切らせながら、皆の介護を受けていた。
「本当にお疲れ様でした、フィーちゃん。
「……ん。あり、がと……」
タオルと水を受け取って汗と水分補給をとる。
流石に今回のハードワークは疲れた。
一応、相方であったレイの方を見ると
「さぁ、レイ。水なら好きなだけ飲め」
「あべべべべべべべ、べ、あぼ、テメ、こら、うぶぅ!」
まるで滝のように二本のペットボトルを遠慮なく真下というよりレイの口めがけて飲ますというより落としているリィンとそれを疲れた体で受けているレイの姿があった。
最後はペットボトルを口に突っ込んでいた。
中身はまだ両方とも六割くらいあった気がするけど、きっと大丈夫だろう。
本当にリィンはレイに対してだけは子供みたいである。
流石に呆れたのか。アリサが仲介して何とか復帰する光景に変わるが。
「……アリサもレイと仲がいいよね」
「あ、フィーちゃんもそう思います? でも、まだそういった感じというより何だか幼馴染みたいな雰囲気出ていますよねー?」
「……委員長。ちょっと母親っぽい」
「母……!?」
私のコメントにショックを受けたらしいけど、疲れて反応する気が起こらない。
いや、疲れもそうだけど
「あっちゃあーー。グラウンド完全に罅割れ状態じゃない。面倒ねー……ユーシス、マキアス。整備よろしく」
「何故、俺が……」
「何故、僕が……」
ハモった二人が同時に舌打ちをするのはどうでもいいが、サラが無傷なのはちょっとむかつく。
まさか、あれだけの連撃……は防がれるのは想定内ではあった。
だけど、最後に発生する風と雷まで完全に防がれるのは想定外であった。
同じ生き物なのか怪しい……と言いたいが、残念ながら似たような存在が身内にいたのでそういった存在もいると理解してしまう。
……流石にサラでも団長に勝てるとは思えないし
そう考えるとサラに人間味が出てくるから不思議である。
でも、今回で一番不思議なのは
「……」
コンビクラフト。
確かに、私達はリンクがあるから通常のコンビよりも遥かに成功率は高い。
息も合わせやすいし、どう動けばいいのかも察知できる。
だからコンビクラフトは出来るなどと言うわけではない。
そこに少しでも疑問を抱けば、コンビクラフトは勝手に瓦解する。
信頼関係があればいいというわけでもないが、それでもお互いの関係、能力などに信頼がなければ間違いなく出来ない技である。
まだ、これがこちらの事情を知らないリィンやラウラなら出来ても、そこまで何かを思うわないかもしれない。
だけど、レイは間違いなくこちらの事情を知っているだろう───私が元猟兵だという事を。
一般人からは間違いなく殺し屋みたいに思われていて、実際に否定できない私の過去。
猟兵になった事について後悔があるわけではない。
いや、後悔なんてあるわけがない。
それが生きていく為の手段であったし、団の皆に報いる手段でもあった───それが他者の命を奪い取るものでも。
最初の頃は自分の命や他人の命に震えて何も出来なかった自分が、よくもここまで強くなれたものだと改めて思う。
自分の生き方は間違いであったかと問われると、大多数の人間は間違いだとか人間の屑だとか言うのだろう。
それは否定しないし、大いに認める。
だから、このクラスでも事情を知られたらそんな風になるのだろうと思っていたのだが
「フィーちゃん?」
「……ん?」
「何かいい事でもあったんですか?」
委員長にそう言われるというのなら、自分の無表情が崩れていると認めるしかない。
でも、何だか安易に認めるのも癪な気がしたので
「───ん。なんでもない」
そう答える事にした。
皆さん、長らくお待たせしました……かなり飛ばして実技テスト2回目です。
まぁ、今回はむしろフィーとの絆イベントみたいな回でしたね。
そしてコンビクラフト……これを書くのが楽しみでしたけど、ちゃんと描写出来ましたかね?
今回のサラ教官の目的は言ったように二人の過信を叩き折るのが目的でしたが、もう一つは他のクラスメイトのレイとフィーに対する偏見を叩き壊すのも目的です。
ここまで、レイがつえーみたいな風に書いたかもしれませんが、当然クラスのメンバーもそう思うでしょう。
そうなると当然、レイなら。フィーなら大丈夫という考えが無意識にあるかもしれません。
当然、そんなのは明らかに不味いので二人には今回は負けてもらいました。
コンビクラフトの派手さに目を奪われがちですが、これって要は本来のサラ教官とのバトルに最初に急いでクラフトを割り込ませたくらいの小細工でもある事になりますからね。
流石にサラ教官も驚きましたがやはり無傷。A級は伊達じゃない。
ともあれ、次回から第二章……出来れば、皆さんこんなイベント、クエストが見たいという案があればなんでも言ってくれませんか?
オリジナルで行こうと思っているので、意見募集中です!
そして感想もよろしくお願いします!!