絆の軌跡   作:悪役

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特別実習 ケルディック 終

ルナリア自然公園。

ここに訪れた経緯は複雑なれど目的としては単純であった。

先日に起きた大市に起きた事件。

それだけならいいのだが、更に翌日……つまり今日に前日の事件を大きくしたものが起きた。

商品が盗まれたのだ。

それも問題が起きた二店同時に。

当然、余りの不自然さにお互いがお互い疑いあうことになり、再び険悪な喧嘩が起きそうになったのでここは俺の出番だ、と俺は再び芸術技を炸裂しようとした瞬間に意識が暗転。

後にやったのがリィンとわかり殴り合いになるのだがアリサの命によるエリオットのアーツによって無理矢理終止符が打たれた。

最近、二人から遠慮という概念が消え始めている気がする。

そして意識が暗転している間に領邦軍が無理矢理な解決で事件を纏め上げたらしく、そこをリィンがあからさまにおかしいという事で領邦群の詰所に問い詰め、エリオットの機転で大体の事情が理解できた。

そして最終的に奪った犯人はどこに潜伏しているという推理をしようとしている内に酔っぱらいの人間がいたので水をぶっかけてやろうとしたら上手い具合に真相に辿り着け、そしてこの正面ゲート前にはアクセサリーが落ちているというビンゴ具合。

 

「さて……」

 

そして俺は扉を見るのだが案の定鍵がかかっている。

 

「南京錠か。また豪華な事だ。小物らしい金の使い方で」

 

「いやいや……今はそういう問題じゃなくてその鍵をどうにかしないと……」

 

「……ふむ。その程度なら……」

 

ラウラが鍵の具合を確かめつつ大剣を引く抜くとアリサとエリオットが声を上げる。

 

「で、出来るの!?」

 

「やれない事は───」

 

「待った───ここは俺にやらせてもらおう」

 

ない、と言いかけようとしたラウラを遮るようにリィンが声をかけ刀に手をかけまま皆の前に出る。

その視線は何時もより力が籠っているようでラウラもその視線を見たからか何も余計なことは言わずに解った、と言って下がる。

それにリィンは頷き

 

「レイ。お前も下がってくれ」

 

「……い、いや。その……やる気十分の所申し訳ないのだが……」

 

汗がたらたらに流れる俺を見て全員不審に思ったのか視線で空気読めよ、という言葉を贈られるのだがそれを十分に解っているから汗が流れているんだよ。

それでも最終的にはばれるものだと思い、仕方がなく手にあるものを見せた。

そこにあるのは───握り潰された様に壊れている南京錠の成れの果てと思える物体であった。

 

「……」

 

全員が驚きと同時にどういう事だ、と更に視線で追加注文されるので種明かしをするしかないと流石に悟る。

 

「いや、俺、実は───右手握力200なんだよ、ははは」

 

「ははは、成程そうだったのか。じゃあ南京錠なんて一撃だよな」

 

「ふむ、成程。それなら我らよりも静かに且つ効率的に鍵を壊せるわけだ、ははは」

 

ははははは、と俺、リィン、ラウラで合唱し、和やかな雰囲気を醸し出し始めた瞬間にアリサは一番に正気に戻り

 

「って! 握力200キロ!? どんな怪力よ!!」

 

「いや! 安心しろアリサ! 左手はまだ100キロ行くか行かないかだから! 左手は安全だぞ?」

 

「そ、それでも僕からしたら十分えげつないレベルだよ!? りんごとか簡単に割れるよね!?」

 

「いやいや。近接系なら少なくともそれくらいの握力は皆持ってるクラスが多いと思うんだが?」

 

ばっ、とアリサとエリオットがリィンとラウラに顔を振り向き、ばっ、とリィンとラウラが視線を明後日の方向に振り向いた。

こいつら本当にノリがよくなったよな、と思う。

こいつらの両親が今のこのテンションを見たらどんな風な感想を抱くのかある意味楽しい末路である。

きっと愉快な事になるだろうから。

 

世の中奇怪な人間は変な目で見られるからな……

 

そんな事態になった場合はなるべく他人の振りをしなければ。

そういった人間の周りも奇態な人間と思われる可能性が高いからだ。

常識人は疲れるものだ、と改めて考えながら───門を開けた。

 

「───サラ教官には悪いが───非常事態だしな」

 

内部に一歩踏み込んだ瞬間に目の前に壁が発生した。

しかし、それは違う。

その正体はいきなり上空から現れた巨大な魔獣なだけだ。

なので何の遠慮もなく予備動作無しのアッパーカットをぶち込んだ。骨が砕ける音ではなく肉を貫く音を拳が立てる事が自分の調子の全てだと判断した。

 

 

 

 

 

 

「なっ……!」

 

リィンは恐らくこの場にいる全員と気持ちを共有していると実感できた。

原因は当然、目の前にいる少年。

門を出た瞬間に二足歩行のゴリラのような魔獣の奇襲に襲われそうになり反射で剣を抜こうとして助けようとする姿勢のまま体は驚愕で停止していた。

見るとラウラも似たような姿勢で更に俺よりも驚いたように唾を飲んでいる。

レイがやった事は本当に単純でただ単にアッパーカットを放っただけなのだ───ただその攻撃一つの威力と速度が尋常じゃなかっただけ。

現に拳は叩くのでは穿っている。

そして自分達の動体視力ではいきなり腕が魔獣の中心に放たれたようにしか見えなかったのだ。

そして魔獣は一撃で死んでいたのだろう。余韻の生を終え、身をセピスに変えていった。

一撃必殺。

武術において誰もが望む技であり、境地を垣間見て自分を唾を飲む。

しかし、それを成した本人は特別気負いもせず殴った腕をプラプラ振って

 

「見習いで現在は士官学院生とはいえ習慣は中々捨てれないな」

 

そして彼はようやく思いだしたみたいにこちらに振り返り

 

「ほら。どうしたお前ら───先に行くぞ?」

 

 

 

 

 

アリサは先日までの評価が一気に狂ったのを理解した。

 

魔物退治というより掃除だわこれ……

 

出てきた瞬間に目の前のレイが叩き、一撃で終わるものはそれで終わり、終わらなければ私達に有効な位置に飛ばし終わらせる。

戦闘能力が昨日までと大幅に変わっている。

だが、それは凄い変化ではなかったと思う。

まるでマンガみたいに音速で動いたりしないし、地面を割ったりしていない。単純な運動能力が解放されただけでそれでも何となくだがサラ教官には負けるんじゃないかとは思う。

だけど基本的な身体能力が上がったせいで戦闘のスムーズさが半端なく効率よくなっている。

大物が来たら即座に大地を踏もうとする足を払い、止めをラウラか後衛の私とエリオットのアーツ。

小物が来たら即座に先制攻撃の拳を浴びせ、怯ませた好きに同じ速度タイプのリィンが止め。

戦闘を上手く回しているのは間違いなくレイであった。

その事に全員で色々とレイに問い詰めたいと思ったのだが、流石に事件の解決が最優先であるというのは理解しているし何よりも本人の表情が何時になく真剣だ。

余裕がないわけではない。

ただ余裕を捨てて本気を出しているだけなのだ。

その横顔の雰囲気が何時もと違う感じがして少し焦る。

落ち着きなさい、アリサ。私は至って普通よ。家は普通じゃないけど。ダメ? どうしてもダメ? じゃあ母親のせいという事にしておこう。よく考えればお爺様な気もするけどそれはそれだ。

そうこうしている間に

 

「ビンゴ」

 

という台詞と共に公園の広場らしき場所に到着し───あからさまな集団が屯っているのを発見した。

 

「えーと武器は銃火器……くらいっぽいし動きは素人のそれ。手早く動いたけど予想通り雑魚かよ」

 

「ふむ……レイよ。武装については解るが素人云々は何故そう思うのだ?」

 

「見張りも何もつけず、罠の様子もない。どこかに忍んでいるかと思ったら気配は今のところ感じる様子がないし、あの集団もこちらに気づいている様子がない───武器を持って粋がっているレベルのチンピラだな」

 

まぁ、これら全て鬼クラスの隠蔽によるものとかならお手上げなんだがなと溜息を吐きながら戦況を簡易的に説明してくれる。

あっという間に状況を説明してくれるレイにすごっ、と内心で思いながらも確かにレイの意見の通りだと相手の様子を見れば理解できる。

有体に言えば相手はだらけていた。

給料日の仕事を終えて嬉しそうにして呆けてるという感じがさっきから声を聴かなくても伝わってくる。

これが確かに演技なら大したものなのだろうけど、その割には装備が大したものではないのが知識によるもで理解できる。

 

「どうする? リーダー。正面突破、奇襲、一撃必殺の大技。どれでも行けそうではあるが?」

 

「とりあえずリーダー言うな。そしてそれについては俺もそう思うけど……場所が微妙に悪いな……」

 

「え? 何で? た、確かに素人の僕から見ても奇襲は場所が広過ぎるから難しいのは解るけど……他については別に大丈夫なんじゃあ……」

 

エリオットの意見に同意見のラウラと私もそう思い問い質そうと思い

 

「あっ」

 

気付く。

 

「荷物ね……」

 

私の独り言に二人も気づき、やれやれといった感じで溜息をつくレイとどうするかと考えているリィン。

荷物。

そう、今回は確かに犯人を捕まえることも主目的なのだがそれと同じレベルの目的で奪われた商品の奪還というものがある。

商品はやはりと言うべきか。犯人達の傍にあるので下手なクラフトやアーツをかましたら商品に被害が出そうだし、レイの言う通りなら速攻で勝てるのかもしれないが下手に商品を盾にされても不味い。

大技は封じられ、一撃必殺で挑まなければいけない。

不可能ではないとこのメンバーなら思えるのだが何事にも万が一というのがあるので出来れば万難を排したいのだが、いざという時は正面突破しかないと思われる。

どうするか、と全員で悩んでいる中、アリサが見たのは自分が装備しているものとか知識でありそこまで考え、ふと相手の武器を見てみた。

相手の銃はレイの例えを借りるならチンピラでも使えるアサルトライフルでラインフォルト社の銃であり、型式も記憶に間違っていなかったら見覚えもあるものであり大きさや装弾数も記憶しており───とそこまで考えて一つ作戦を思いついた。

そこまで考え、やれるだろうかと思う。

この場合、問題は何もかも全て自分の実力とタイミングだ。

どれかずれたら全滅……とまではいかないのだが、一人二人は敵が無傷のまま終わる。

だが、このメンバーならと改めて思い、口を開く。

 

 

 

 

 

 

「待て!!」

 

といういきなりの叫び声に俺達は慌てて傍にある武器を持って声が聞こえた方向を見る。

するとそこは何やら大層な武装をしたガキ共で中には女も交じっている。

しかも全員が同じような赤い服。

学生と直ぐには思いついたが、見た目が華奢な相手と自分達が持っている武器を見ていると余裕が生まれてくる。

 

「何だクソ餓鬼共……!」

 

「まぁ、落ち着けよそこの明らか学が足りていない大人共。ここは知性溢れる俺達を見習って少し落ち着いてみないか?」

 

ガントレットを着けたガキのあからさまな挑発に直ぐに体が正直に反応して銃口がそっちに向かう。

 

「いや、待つのだレイ───いきなり学がないと決めつけるのもどうかと思うが?」

 

そうだそうだ、と大剣を持った少女に全員で同意する。

 

「良いか? この大人達は見たところ健康状態は悪そうではない。つまり金には困ってはいない。それなのにこんな愚かなことをして生活どころか人生を歪める様な事を仕出かしている。つまり己のこれからを想像する学がないということで……」

 

うむ? とそこで首を傾げ

 

「やはりそなたらは学がないのではないか」

 

「このガキどもがぁーーーーーーーー!!」

 

もう我慢が出来ないという感情をそのまま指に籠め、そこでようやく気付いた。

 

「……は?」

 

銃口から何かが生えている。

銃剣なんてつけていたかと記憶を思い返すがそんな覚えはない。

だからもっと詳しく見ようとしたら気付いた。

 

「矢……?」

 

それも普通のではない。金属製の矢だ。

そんな物が何故生えていると思い、つい視線をガキの方に向けて更に新しい事実に気づいた。

一人、女のガキが他の学生よりも見え辛い背後に立っており、しかも弓を構えて既に残心状態であった。

そこから考えられる事には考えられるがそんなの有りかという思いが一番強く口から吐き出された。

 

「四人同時に矢を放って銃口に入れたのか!?」

 

 

 

 

 

 

上手くいったわね……!

 

安堵の吐息を吐きながら作戦の成功を喜んだ。

この作戦に必要なのは自分の実力とタイミング。

実力は当然、矢を銃口に入れる精密な技術と速度。それらはクオーツを命中や行動などの速度と命中率を高める組み合わせることによって上げた。

問題のタイミングはレイが時間稼ぎをしてやるから任せろと言ったから任せたのだがまさかあんな挑発でやるとは思ってもいなかった。

しかもラウラを巻き込む辺りが策士だ。

まぁ、だからこそ挑発によって銃口がこちらにずっと向けられたまま静止されていたからタイミングは取り易い事この上なかった。

だからこれで銃での相手の反撃は無くなった。

さぁ、どうなる? と思っていたら犯人達はやはりと言うべきか。銃を投げ捨てて

 

「ガキ共が! 調子に乗ったらどうなるか教えてやる……!」

 

と言って拳だけでこちらに挑もうとして

 

「へぇ?」

 

「ほぅ」

 

「……はぁ」

 

レイ、ラウラ、リィンの順で台詞順でありリィンが苦労を背負った溜息みたいである事に同情するが仕方がないことである。

 

「調子に乗ったらどうなるか、そりゃ是非とも教えて欲しいもんだな───何しろ俺も好きだからなぁ、泣かすの」

 

にやにやと拳を構えるレイ。

 

「是非もない。せめてそれくらいの気概を吐いて貰わなければアルゼイド流が穢れる───ただ逃げるものを斬るのは義に反すると」

 

ラウラは既に正眼の構えで斬るという意思を態度に出しまくっている、

 

「……レイはともかく確かに反抗するというならそれなりの覚悟をしてもらう」

 

リィンは鞘から抜刀し、何時でも動けるように前のめりの格好をし───そして三人が同時に挑んだ。

結果は強いて言うなら私とエリオット抜きで十分だったと言っておくだけである。

 

 

 

 

 

 

「商品は……うん、多分だが全部ここにあるな。おい、レイ。犯人達の傷口に塩を塗りこむな。犯人の顔芸スキルを無駄に上げても一発芸にしかならないぞ」

 

「……リィンって最初に会ったころよりも適応力がグングン上がっているよね……」

 

エリオットの台詞と共に背後から聞こえてくるぐわー、という悲鳴が止まりぐえっという気絶の音に代わっていた。

 

「ちょいと拷問したら案の定こいつら手動じゃなくて頼まれてやった事らしいな」

 

「額に肉奴隷と書かれているのは拷問なのか───相手は?」

 

「凡そ検討はついてんだろ?」

 

「……領邦軍か」

 

検討がついていたが故に残念だった。

こういった事件の場合、裏に権力者を持っている場合揉み消される場合がかなり大きいし、恐らくそうなる可能性が高いとしか思えない。

周りのメンバーも重い雰囲気を纏っているので同じ想像をしているのだろう。

未来を想像して軽く鬱になりそうだがとりあえず商品だけでも返却できるだけ良しとするかと思い、荷物を纏めようかと思っていると

 

「……あれ?」

 

エリオットが突然奇妙な事が起きたという表情に変わる。

 

「??? どうしたエリオット? 何か変な物でも見たか?」

 

「いや……その見たというより聴こえたっていうか……」

 

「聴こえた?」

 

エリオットの発音に全員で耳に集中するがそんな特別な音は聞こえてこない。

そしてエリオットが言うならば間違いなくその音はこの公園ではまず聞こえるはずがない音が響いたということであり───と、そこまで思考していると突然レイは武器を構えたかと思うと

 

「お前ら! 下がれ!!」

 

咄嗟に全員が反応し、後ろに下がったと思った瞬間にそれは(・・・)来た。

 

「───!!」

 

それは生態系に例えるならヒヒというのだろう。

ただし大きさが普通にヒヒよりも更に巨大なものであるという事を除けば。

 

「こりゃ喰われたらお仕舞だな……」

 

「盛り上がる煽りは寄せ!」

 

レイに遅れる形で全員武器を構える。

が、初の大型魔獣にエリオットとアリサは多少気が引けているのを察せられる。

それに

 

「もう二体……!?」

 

現れたのはレイが入り口で一撃で倒した魔物。

レイ一人からしたら雑魚なのかもしれないが、集団でそして大型の魔獣がもう一体いる中では難しいと思われる。

 

「どうするリィン? 逃げるか」

 

絶体絶命という単語が相応しい状況でも変わらずに何時もの口調でレイが撤退するかと尋ねてくる。

それは間違いないこの場における判断としては一番いいのかもしれないが

 

「……駄目だ。犯人とはいえ人と商品がここにある」

 

犯人達は逃げられたら困ると思い気絶しながら縛られているし、商品も片手間で運べる量じゃない。

全部を切り捨てたら確かに逃げれるかもしれないとは思うが

 

「……やっぱり甘いか?」

 

「ああ、甘いな」

 

即座に返ってくる返事に周りが何かを言おうとし

 

「───だからまぁ、甘さだけじゃない事を証明することにしようぜ。何、勝てない相手じゃない」

 

「───」

 

全員がその言葉に驚きと共感を覚え

 

「───ああ! 前衛頼むぞレイ! ラウラ! 俺とリンク頼む!」

 

「承知……!」

 

「エリオット! 私達でリンク組むわよ!」

 

「う、うん、わかった!」

 

「ははは───見ろ魔獣共! こいつら仲がいいだろう! 即座に俺をハブにしたぜ!? ざまぁみやがれ!」

 

全員で無視をして構える。

 

「Ⅶ組A班、これより敵魔獣と戦闘に入る!」

 

「おう!」

 

全員の頷きと共に魔獣達の攻撃が始まった。

 

 

 

 

 

「あぶね……!」

 

「うわ……!」

 

レイとエリオットの悲鳴と共にヒヒの魔獣の前足が私達がいた場所を撃砕するのをラウラは見た。

流石の巨体か。

速度はともかくパワーに関しては地面を破壊することなど容易い。

だがヒヒはその一撃で仕留められなかったのが不満なのか叫び声と共に一番近いレイの方に視線を向ける。

 

「わひゃーーーー!」

 

などと意味不明な叫びを上げながらレイは横にステップ、前に前進、後ろにスウェー。

全てを使って魔獣の攻撃を回避する。

言動はともかくその回避運動に思わず溜息をするくらいの美しさにくっ、と思い

 

「───む? 目の前に魔獣が」

 

ヒヒに比べれば小柄だが自分達から見たら十分巨大な魔獣がフックのような攻撃をこちらにぶちかました。

 

 

 

 

 

ラウラ死んだーーーー!? 

 

思わずエリオットは心の中で叫んでしまう現実の光景に目を閉じようかと思った瞬間

 

「ふっ……」

 

と彼女は直ぐに剣を大地に叩きつけるかのように振り下ろすと当然そのまま地面に刃が食い込みその反動で

 

剣を使った逆立ち状態に……!?

 

いきなりの上への移動に魔獣の攻撃もラウラの腹辺りを狙っていたので当たらない。

しかし、そのフックは当然刺さっている剣に当たり弾かずに持っているラウラはそのまま横回転をしようとするが───勢いが弱く見える。

恐らく弾き飛ばされる前に既に自分で抜いたのだ。拳で吹き飛ばされる方向に。

だからこそ余計な力で吹き飛ばされずに半回転で済み、そのまま

 

「……せい……!」

 

一刀両断した。

 

 

 

 

 

「まず一匹……!」

 

ラウラの勝鬨を聞きながらリィンももう一体の供回りの魔獣を相手に挑んでいる。

 

「───!!」

 

魔獣には当然知恵はない。

だからこそその人間を優に超える運動能力と頑丈さを持ってただ攻める。

防御という思考は持っていない。

だからこそこっちも防御に専心してはいけない。

攻撃だ。

だが魔獣とは違い大振りではなく小振りで、些細かもしれないが傷をつけ続ける。

だが時間をかけてはいけないという事も知っているし

 

何より! ここで俺も皆の道をつけないままだと皆と対等にならない……!

 

ここで限界を超える。

その技も自分の記憶と体にある。

オーブメントもそれを手伝ってくれる。

だが、その技を放つのに一瞬の隙が必要であり、それをどうにかしなくてはと考えている間に

 

「……!?」

 

横合いからの水の砲撃が魔獣の気を逸らしてくれた。

 

「……! 最高だよエリオット……!」

 

頼りになる仲間がいる事を至高の事だと認識し

 

「炎よ……! 我が剣に集え……!」

 

刃からCPを全消費(フルスロット)して生み出した業炎が生まれる。

それは触れるもの全てを燃やす剣であり、ここより更に派生する技の為の切っ掛けであった。

魔獣もこちらの炎に気づくが遅い。

 

「焔ノ太刀……!」

 

瞬間、三連撃を全て胴体にぶち込んだ。

一斬に一秒など無様な事はしない。

三連一秒(・・・・)

それを持って魔獣の生命は焔と化し、そしてその焔の明るさからヒヒの魔獣がレイではなくこちらを認識し吠えて向かってくる初動を見せた。

 

「しまった……!?」

 

本当にそう思った瞬間───自分の(ヒカリ)よりも尚輝く流星(イカズチ)を地上で見るとは思わなかった。

それはヒヒの背後から発生するものでそこには誰よりも光り輝いているレイがいた。

 

 

 

 

 

 

「おぉ……!」

 

レイはオーブメントの全力稼働による自身から発生する雷に包まれていた。

リィンと同じく自身もCPの全てを消費したクラフトの使用。

短時間勝利を願うが故に一撃限りの必殺技。

発光する幾何学的な陣が真っ直ぐに幾つも現れる。方向は無論、あのヒヒに。

そしてもっとも光っている右腕の雷撃が許容限界の点火を知らせる。

 

「行くぞ……! 迅雷の型ぁ……!」

 

それは地上を走る星であり、彼が願った祈りの形であり───己を象徴する最強の業である。

一撃必殺という躱せず、命中するという夢物語を自分なりに体現した拳。

それを

 

「レールガン……!」

 

 

 

 

 

 

エリオットが余りの眩しさから目を開けてみると何時の間にかレイがリィンの傍あたりにいた。

えっ、と思う。

レイのいた場所は間違いなくその逆であり間にはあの巨大な魔獣もいたはずだ。

どう足掻いても時間的に不可能な移動であり、そこまで考え魔獣はどうなったか、と慌てて見たら

 

「嘘……」

 

魔獣の胴体は焼失していた。

まるで抉り取ったかのように消えている胴体は辛うじて肉でくっついている程度でどう見ても魔獣が絶命している。

攻撃を受けた魔獣すら認知できないまま死を迎える一撃。

そして時間がようやく追いついたようにグラリと魔獣が倒れる刹那の時間の中、撃った本人はアチアチと多少火傷を負ったかのように手を振りながら

 

「とりあえず一件落着ってとこかね?」

 

 

 

 

 

 

 

アリサ達はこうして初の特別実習というものを終えて鉄道に乗り帰路についていた。

最終的に事件は解決したとは言えなかった。

あの後、領邦軍が現れたと思ったら私達を囲み逆に罪を私達に着せようとしに来た。

反論しようとも恐らく権力でそれを無理に通すつもりらしく、ならば反抗するしかないかと思ったところで

 

「その必要はありません」

 

という綺麗な声と共に鉄道憲兵隊というある種のエリートの存在が現れ、しかもそのリーダーと思わしき人が綺麗な水色の髪を女性ということであった。

名はクレア大尉というらしくまるで予見していたかのように私達の危機を収拾した。

領邦軍は仕方がなくという感じで退避していったが、最後の最後に吐いた

 

「鉄血の狗が……」

 

という言葉が嫌に耳に響いたと思った。

そしてそのまま事情聴取を各自受け、そのままケルディックに戻り元締めさんに礼を言われた。

ただ不思議な事があるとすれば

 

「お久りぶりですね、レイさん。ご健康そうで何よりです」

 

「……えーー、そうですねークレア大尉。俺も貴女みたいな美女にもう一度出会えてとてもとても嬉しいですーー」

 

と知り合いらしいのだがレイがあからさまに敵意を隠さずに応対するのでちょっと、と流石に全員で制止しようとしたがクレア大尉が苦笑と共にこちらを抑えるから仕方なしに放っておく事にした。

すると途中でサラ教官も合流し、しかもレイと似たような敵意を持って接していることにどういう事だろうと思いつつそのまま帰ることになった。

そうしてようやく終わったと思ったが帰る途中にリィンが自分が実は貴族である事と捨て子であった事を話し、全員で驚きつつも納得を示し、そしてラウラが

 

「───ではレイ。そろそろそなたの事も話してくれないか?」

 

「うっ」

 

ドッキリという表情をそのまま見せ、彼はチラリとサラ教官の方を見ると教官は瞬間就寝を使って寝ており逃げられたと叫んでいた。

 

「あー……一応断っておきたいんだが」

 

「言っとくけど、私達、サラ教官に貴方の隠し事聞いていいって本人から許可を得たわよ?」

 

「マジかアリサ……! この人自分でクラスの不協和音の原因を作っておきながら何たるいい加減さ……!」

 

私達と似たようなリアクションを取っていることにどう反応すればいいのかと思ったが、本人はそれで逆に覚悟を決めたらしくこちらに顔を見せた。

 

「まぁ、先に言っておくが実は凄い人間だった……! とか剣聖クラスの人間なんだ! とかそんな面白事実はないからな───単純に両親の仕事の影響だ」

 

「両親の……?」

 

思わず自分の家庭を思い出すが今はそれとは別だ、と思い彼の話に耳を傾ける。

 

「お前らも大体予想しているだろ? ───うちの両親は遊撃士でな。まぁ、母は流石に引退しているんだが親父は今も現役でな。その影響で俺も多少強いってわけ」

 

「遊撃士……!」

 

遊撃士。

支える籠手を持って市民を守る一種の正義の味方であり、その実力は軍人相手でも劣るものではないと言われる集団である。

帝国では今では余り見られなくなったのだが、それならば確かにレイの実力は頷ける所がある。

成程、とラウラが嬉しそうに頷き

 

「ならそなたは若輩とはいえプロとして行動していたのか……?」

 

「んなわけない。年齢制限とかあるしな。精々、見習い&お手伝い程度だよ。受付とかもしていたな」

 

まぁ、そりゃそうよね、と思うがそれでこの実力とかおかしい気がする。

流石にそこは怪しまれると思ったのか彼も即座に答えてくれた。

 

「そこら辺は両親がおかしいくらい鍛えたり、色々連れ回されたもんでな。最早、笑うしかない体験なんて両手両足の指で数えれないぜ、ははは」

 

「いや、そこで爽やかに笑われても僕達が困るよ……」

 

全員が苦笑で迎える中、そりゃそうだよなとレイも頷き

 

「ま、そういうわけだ。ようやく俺も無駄な隠し事を曝け出せれた。これからもよろしく頼むぜ?」

 

そうして私達の初の特別実習は青春よろしくで終わりを迎えれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何とか終わらせることが出来ました……!
今回は色々と頭に溜め込んだ物を多少吐き出せれたので気分良かったです!
色々と語りたいことはありますが、それは読者の皆様から問われたほうが応えやすいかな、と思い敢えてここでは書きません!
次は第二章ですが……二つ程聞きたいことがあります。
一つはもう間に何もいれずにそのままメインストーリーを進んだほうがいいかという事と。
二章に向けて、皆様に新しいクエストとか頭の中では思ったけど書くのがなぁ、と思った没ネタみたいなものでいいので二章のオリジナルストーリーに協力してくれないでしょうか!!
というわけで感想本当によろしくお願いします!!!

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