絆の軌跡   作:悪役

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特別実習 ケルディック

「うわぁ……」

 

「ほぉ……」

 

この二つの呟きこそがケルディックに来たA班の約全員が思った感想であろうとリィンは思う。

見渡せば、二言で言えば穏やかな雰囲気でありながら、賑やかという矛盾しているかもしれないがそれらを成立している風景。

言い方が悪いかもしれないが、一種の田舎のような朴訥な雰囲気を醸し出しているのに、恐らくケルディックの最大の特徴ともいえる大市によるものなのだろう。

だからこそ穏やかな雰囲気の中に祭の雰囲気が混ざったかのようになっていて面白いとも言える。

だから、初めて来た俺やエリオット、アリサ、ラウラは全員驚きの溜息を吐いていたのだが例外が二人いる。

 

「あーら。相変わらず良い雰囲気ねぇ。こういった所に来ると自然と羽を伸ばしたくなるわ~」

 

「いやいや。どこに居ても羽を伸ばしている教官の言葉を俺はわざわざ指摘などしませんよ? ───する必要性がないですから」

 

遠慮なく駅からそのまま歩く傍若無人の権化の二人であるレイとサラ教官である。

レイはサラ教官の笑顔の肘鉄砲を笑顔で受け止めて苦しんでいるようだが、その表情に初めて来た人間の驚きやら関心がない。

むしろどちらかと言うと

 

……懐かしいと思っている?

 

同じことを思ったのか、アリサがレイに近づいて

 

「ちょっとレイ。貴方、ケルディックに来た事があったの?」

 

「来た事がないって言ったか?」

 

わざとらしい笑顔に流石にアリサはムッとするが、確かにここまでの道中はおろか実習先が決まった後にも行ったことがないとは聞いていない。

恐らく聞いてないだろ、とここで誰かが答えたら直ぐに聞かれなかったからな、と返すに違いない。

屁理屈ではあるが確かに理屈である……と言えるほど大人じゃない俺達は流石に悪趣味という表情を張り付けてしまうが本人は苦笑してそれに答えた。

 

「まぁ、流石に嫌味になるとは思ったが今回は初の特別実習だろ? なら、余り俺の主観で歪んだ事実をお前らに植え込ませて実習するのも不味いだろ? ただの旅行とかなら俺も多少は語ってるさ」

 

「う~~ん……そう言われるとそうなるのかなぁ……?」

 

エリオットの言葉通りに確かに言われると否定出来ない気がする。

相手が例えどんなに信頼出来る相手でも、知っている事を他人に語るとそこには間違いなく主観が混じる。

本人にとってはここはいい場所であったと語られても、今の俺達とは状況も違うし、当時とは町が変わっている可能性もある。

勿論、その変わっている可能性は人もある。

この町の住人であり、見た本人でもあるレイ自身だ。

主観ですら時間の流れで変わるものなのかもしれないし、記憶というのはつい過去を美化する傾向にある。

だからそういう意味で自分自身で感じ取ったほうがいいという事なのだろう。

そうだとしたら流石にこちらの態度が悪かったか、と罰が悪い顔に皆なってきたのだが

 

「はいはい。レイ、別に私は偽悪者になれなんて言ってないわよ。他のメンバーも。レイに黙ってたのは私が言っておいたのよ。一人の知っている知識に頼らないようにってね」

 

サラ教官のナイス仲裁に全員がほっとした顔になってレイ以外が顔を見合わせる。

 

「うん……すまないなレイ。私はそなたをもっと趣味の悪い男かと思ったがそれは私の勘違いであった……すまぬ」

 

「うん……僕もレイは性格が悪いと思ってたからちょっと意外と思ってしまったよ……ごめん」

 

「そうね……私もレイって悪趣味が人間になった存在と思ってたから貴方がやったと思ったわ……ごめんね」

 

「……まぁ、皆が謝っているから俺も謝っておく……すまない」

 

「おいおいおいお前らちょっと俺様少し脱帽ですだよその余りの仲の良さに───やんのかテメェら!!」

 

数秒後

 

「じゃあ、実習中に泊まる場所を教えるわよ。ついて来なさーい」

 

「はい」

 

四人全員がキッチリ同時に返答し、教官の後ろについて行く。

残り一人は地べたに倒れたまま動かなくなっているが、全員気にせずに捨て置いた。

 

 

 

 

 

 

捨て置かれていたレイはその後中に入ることなくぼーっとして脳内にある記憶と町の地図の誤差修正しているとようやく宿屋から四人組が現れた。

何やら憤慨しているものが一名、困惑しているのが二名、何か理解したという顔つきが一名と綺麗に分かれていた。

おやおや、と思うが気にせずに近づき状況を聞く。

 

「どうやらサラ教官から無理無謀と課題を提出されたようだが内容は?」

 

ああ、とまずラウラが反応した。

 

「どうやら今回の実習は男女寝る部屋が一緒のようだ」

 

「そりゃすば───女性に不利な。紳士的にもあの野生じみた教官は何を学生に強制してるんだろうなありがとうございました」

 

「本音と建前を同時に言われても………とりあえずアリサが怒るよ? そのリアクション……」

 

「もう既にリミットよ……!」

 

まぁまぁ、とアリサを殴られることによって制止して本命の内容についてリィンについて聞いてみる。

 

「内容自体は簡単な雑務みたいなものだ……──レイ。もしかして知っていたのか?」

 

「まさか。内容を俺一人だけ教えられていたら贔屓だし、面白味がないだろ?」

 

サラ教官による特別実習となると、彼女自身が慣れた手順をするのではないかと予測してはいたが、聞かれていないので答えなくてもいいだろう。

真実は心の中に。うん、至言。

ただ、大抵の真実がサラ教官による脅迫によって出来たものであるのはどういう事だろうか。

気にしたら負けという言葉を深く思いながら、どうする? という感情を視線に込めてリィンを見る。

返答はやはり予想した通りであった。

 

 

 

 

 

「えっと……ここが依頼内容の街道灯かな?」

 

「光もないようだしここが正解のようだな」

 

リィンがよっこらせとカバーを開けて、直そうとした所で気配が多重に重なる。

 

「魔獣か……!」

 

レイが振り返り構えるのと同時に魔獣の群れは一斉にレイ目がけて襲ってくる!

 

「レイ! 左よ!」

 

「レイ! 後ろからも来てるよ!」

 

「レイ! 正面突破するがよい!」

 

「え~と、パスワードは……」

 

「──お前ら少しは手伝え!!」

 

 

 

 

 

 

「これが手配魔獣……強力そうね……」

 

「ああ。だが、リンクと俺達の力があれば何とかやれるはずだ」

 

「うぅ……流石におっかないなぁ……」

 

「大丈夫か? エリオット」

 

「ははははは、安心しろエリオット……いざという時はお前の必殺ハイドロカノンでリィン事やっちまえば───」

 

「お前だけが行け」

 

げしっ、と背中を蹴られてレイはあっ、とよろめくが既に遅い。

そこは魔獣の視界内であり、接敵範囲であった。

そうして魔獣の脅威が降りかかりそうになる中、レイが見たものは俺を囮にして他のメンバーが効率よく散開している姿であった。

 

「お前ら覚えていろよーーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

そうして各種の依頼を全てこなした後にラウラはレイが皆の前で一人歩いている姿を見る。

その姿はあからさまに自分不機嫌ですオーラを出していた。

 

「ご、ごめんね? レイ……その……まさかリィンがあそこまでやるとは流石に思っていなくて……」

 

「……エリオット。その割にはお前ら普通に対応していたよな……!」

 

あーだこーだ言っている背中を見ながらラウラは内心で苦笑する。

 

……よく言う。

 

その割にはほとんどダメージを負っていないではないか。

我等のメンバーはエリオットとアリサが多少の疲労、私とリィンがダメージと言えるものではないかもしれないが多少の傷を。

なのに見たところレイは疲労も見えなければ傷を負っているようにも思えない。

明らかに一番不利な立ち位置を強いられたというのに。

間違いなくこの中で一番平然としている。

ならば、昼間にサラ教官に問うた事も間違いではないかもしれない、とラウラは視界を過去に飛ばす。

 

 

 

 

 

「サラ教官。一つ問うても良いですか?」

 

「あら? 何かしらラウラ? 実習について以外で私が答えてもいい事なら別にいいわよ」

 

宿で既に昼からビールを飲んでいる教官に対して、大人としてそれはと思わなくもないが今はどうでもいい事だろうと思い、前から気になっていた疑問を聞いてみた。

 

「ずばり───レイとフィーは何者なのかを知りたい」

 

「───あら?」

 

面白い話題を聞いたという笑顔を浮かべているこの教官を油断してはいけないなと改めて思う。

周りの皆も気にはなっていたが問うてはいけないと思っていたのだろう。

驚きの顔を浮かべつつ納得の感情が浮き出ていた。

 

「私に聞くより本人に聞けば?」

 

「残念ですが……二人とも話術においても曲者です。なら剣で……と思いましたが何度も逃げられたので」

 

物理的に聞こうと思ったんだ……という周りの声はこの際聞かなかった振りをする。

今は大事な事を聞いている最中である。

 

「なら、何故特別二人を特別視するのかしら? 例えばそこに居るアリサなんか家名を隠してるわよ?」

 

「サ、サラ教官! このタイミングでその話題にしないでください……!」

 

アリサが顔を真っ赤にして叫んでいる姿は同性から見ても可愛らしく見えるのだが、今は気にしてるタイミングではないのでちらりと見るだけに留めておく。

 

「確かにアリサの家名も気になるかと問われても肯定します……が、二人への疑問と焦点が違います」

 

「具体的には?」

 

「───修羅場慣れし過ぎてる事です」

 

強さという点においてならばレイとフィーは私の全力より上か同レベル。

だが、経験の量という意味ならば二人は私達の中で桁違いである事は察している。

死にかけた事など恐らく両手の指程度では数えられないくらい体験しているのではないかと思う。

それは目の前の教官もそうなのだが、と思うが。

 

「あの年齢であの力量をただの訓練していた学生というので納得するのが難しいと思ったので、まずは教官に聞いておこうと思った次第です」

 

「う~~ん。期待されているところ悪いけど、プライバシーの問題って私が答えたら貴方は納得する?」

 

「納得はしますが、結局は直接二人に問う事になるかと」

 

「じゃあそうしておきなさい。フィーの方はあの子、天邪鬼だから答えないかもしれないけど、レイの方は単純に私が止めただけだから答えるかもしれないわよ?」

 

「───ちょっと待ってください」

 

「あら? 何かしら? 私の愛しい生徒の一人のリィン君?」

 

「台詞の真ん中は無視させてもらいますが……では、レイが今も正体不明なのは単純に教官が抑えたからと?」

 

「んーーー。そう聞こえたんならそれが真実になるのかしらねぇ?」

 

全員で視線を思わず合わす。

問うたリィンも含め、全員が視線を合わす。

その瞳に映る感情の色が全員同じであると確認して、再びビールを飲み始めた教官に向き直り

 

「───どうして教官が率先してクラスに亀裂が生まれそうな事をしているんですか!!」

 

と、叫んだ。

 

 

 

 

 

というわけで、アリサ達は直接聞こうかと思ったのだが、何だかんだで隠すのに同意したのはレイなので、こうなったら本人が言いたくなるようにしようと四人で思わず画策したのだが……何だかそれら全てスルーされていくの躍起になってしまったので逆に直接聞き辛くなってしまった。

 

どうしよう……

 

そうは思うが私自身も家名を隠しているから下手に行動に移すと、じゃあお前はどうなんだ? って事になるし、自分は聞くのに私は言わないなんて余りにも唯我独尊過ぎる。

かと言って他力本願にするのもいやらしい。

つまり本人が言ってくれるのが一番なのだが、ここまでの嫌がらせに等しい行動で逆に彼が伝える気になるのかも中々謎だ。

これならば素直に聞いておけばよかったと思うと同時に

 

凄い……

 

ラウラと同じようにアリサも彼が実力者であると気づいていた。

だが、それは単純にラウラのようにはっきりと分かる強さから解るものではなかった。

むしろどちらかと言うと地味な所なのかもしれない。

単純に───彼は上手いのだ。

戦闘の流れを読み、戦闘のリズムに乗り、戦術を頭で組む事が。

誰よりも危険な最前線にいるのに、誰よりも無駄のない行動をしていたのは間違いなくレイであった。

強さという面ならラウラとフィーとそこまで変わらないかもしれないのだが、二人とはまた違った強さをここで改めて感じ取った。

だから思った。強さという意味ならラウラ、フィーと同レベルかもしれない彼だが、もしかしたら勝利するかという点で言えば彼が最強なのかもしれない、と。

性能で勝つのではなく全てで勝つ。

そういった所が何か彼らしいな、と思わずくすっ、と笑うが何となくその表情は隠す。

そして、依頼達成を教会に伝え、外に出て宿屋に向かおうとしていた所を

 

「……!」

 

何か大市からの喧騒が私達の鼓膜に引っかかった。

 

「……? 何かしら?」

 

「何かのイベント……ううん。これは怒った声がする」

 

この中で一番耳が良いエリオットの言葉なら即座に信頼できる。

 

「ふむ……何か問題でも起きて諍いでも起きたのか……?」

 

「客が絡んできたのかもしんねぇな……どうするよリーダー?」

 

「だからリーダー言うな───だけど、確かにちょっと確かめに行った方がいいかもな」

 

リィンの鶴の一声に全員で大市に向かい、見てみると大人二人が襟首掴み合って殴り合いを開始しようとしていて

 

「って、止めな───」

 

きゃ、と叫ぼうとした瞬間に横から風が発生した。

え、と思う。

そこには記憶と視覚が間違っていなかったらレイが居た場所だから。

だが、今横目に見た場所には彼はおらず、どこに行ったと一瞬で視線を彷徨わせると

 

「ぶっ……!」

 

眼前にあったクロスカウンターが決まりそうな掴み合いの真ん中に突如彼が出現して何故か殴られていた。

クルリクルリと二人分の拳のエネルギーをトリプルアクセルすることによって発散し、空を清らかに回る。

思わず自分の脳が悟りを超えた境地に辿り着いたのか、と謎の感想を抱くがそんな感慨を外に出すまでもなく彼はそのまま着地した。

 

「……」

 

その場にいた全員の沈黙を背負う中、パンパンと体から埃を叩くような仕草をした後、レイは言った。

 

「芸術展10点は堅いな……皆の衆───拍手が欲しい所だな」

 

迷わずリィンが突撃して鳩尾をアッパーカットで殴る彼を、全員で称賛する光景が騒ぎを聞きつけた元締めの見た光景であった。

 

 

 

 

 

その後、二人も喧嘩する気勢を削がれたのが。

そのまま元締めさんの説得のまま喧嘩を中断し騒ぎを止めたと認定された僕達は元締めさんの家に招待される形で礼を言われ、今回発生した事件の概要を語られた。

何でも出店の出店場所を同じ所に配置され、どちらかが嘘を吐いていると思って喧嘩に至ったらしい。

そういう事は今のケルディックではよくある事であり心配しなくてもいいと言われ、僕達は宿屋に帰る事になった。

ただ、気になると言えば最後に元締めさんが言ったことで、元締めさんはレイを見ながら

 

「はて……君……私と出会った事はないかね?」

 

と、問うた事であった。

それに対し彼は

 

「いえ、それはきっと俺ではなくて、元締めさんが昔夢見たイケメン少年が偶然俺に似ていたのではないでしょうか?」

 

と真面目な顔で汗を流しながら答えていた。

リィンが無言で足を踏んで制止しようとしたが間に合わなかったと悔しがっていた。

とりあえず僕にもレイが嘘を言っているくらいは凄く解る。

彼は元締めさんと会うような事があったのにそれを隠そうとしている。

つまり

 

レイの過去に関係するって事かな……?

 

エリオットは自分の推理に恐らくという言葉は付くだろうけど確信を持っていた。

しかし、それを嘘を吐いてまで隠したということは、もしかして律儀にサラ教官の言いつけを守っているのだろうか。

自由人である彼らしくない……とは言えない。意外と本人が義理堅い事も目上に尊敬の念を忘れないことくらいは知っているからである。

冗談を言うとよくサラ教官に吹き飛ばされているがそれはそれである。

とりあえず、結局問い詰めるのは保留にして宿に帰り夕食を取る事になったのだ。

そして、話題になったのはどうして僕達が集められたのかという話題であった。

 

「ARCUSだけが理由じゃないよね……? 皆、わざとらしいくらいにレベルが高いし……」

 

「能力で選んだというだけならば、少々チームとして行動する事を考えていない気もするからな」

 

リィンの言葉に全員が現在のB班について予想して沈黙する。

 

「……ガイウスとフィーとエマは大丈夫かしら……?」

 

「……まぁ、流石の二人もチームが危機になった時に喧嘩をして最悪な事態を起こす程自制がないわけでもないから無用の心配だろう」

 

ラウラの言葉を信頼するしかB班の未来を明るく出来ないのだからそう願うしかない。

 

「ねぇ、レイはどう思う?」

 

「あ? ……悩んでも答えが出ない内容はあんまり気にしても意味ねえぜ? ま、多分学院長やサラ教官辺りの策によるものだとは思うけどね」

 

どれも正論だから成程、と全員思い、そこでふと咄嗟にという調子でリィンの口から発声された内容が耳に届いた。

 

「───士官学院に入った理由も皆違うだろうし」

 

あ、と全員で思わず声を出して反応する。

 

「入学理由か……それはちと考えてなかったな……」

 

「当然だけど皆、士官学院に入る理由なんて違うよね……」

 

逆にこのⅦ組が同じ理由で士官学院に入ったメンバーとかなら分りやすいんだけど皆を見る限り違うと思う。

 

「ふむ……私の事例でいえば目標としている人物に近づくため。つまり鍛錬の場を欲したという事だ」

 

「目標の人物って?」

 

僕が当たり前に疑問に思ったことを皆を代表して言うとラウラは

 

「答えても別に構わないのだが、ここは秘密ということにしておこう───アリサは?」

 

「私は……理由としては色々あるんだけど、やっぱり一番大きな理由は"自立"したかったからかな」

 

「自立に士官学院を選ぶとは……最近のお嬢様は物騒だな」

 

直後にズドン! とテーブルの下で大きな音が響いたと思うとレイが大きな汗をかいているのを見て全員が聞かなかった振りをした。

そして、素晴らしい笑顔でこちらに向けてエリオットは? と聞いてくるので

 

「うーーーん……もしかしたら少数派かもしれないけど……元々僕は音楽系の進路を取ろうとしていて……けど、本気じゃなかったから流れでここに来ることになって……」

 

「えー? エリオットの演奏、凄く上手いと私思うんだけど……」

 

「そうだな。私もそなたの音楽は私見を省いても素晴らしいと思う。諦めるには───」

 

まだ早いと言いそうになるラウラはしかし口を閉じた。

流石に踏み込みすぎ、と思ったのかもしれない。

だから僕もそこは飛ばして礼を言うだけに留めた。

そして、リィンが

 

「で? 一番怪しいレイはどうなんだよ?」

 

「俺かぁ?」

 

ある意味でもっとも気になる相手に自然とアリサとラウラも目線を強めて彼を見る。

しかし彼は気にせずうーーーん、と唸り

 

「強いて言うならば三人の意見を足して二で割った感じだな」

 

「……つまり?」

 

「ああ───本来なら違う道を選ぼうとしていたんだがクソな親父が、「その前にこの学院に行って経験と力をつけてきたまえ」とかいきなり入学決められて阿呆な猿め、と思ってテンプルに一撃入れてバトったら、何時の間にか気絶して荷物整えられてた」

 

「へ、へぇ……個性的な理由ね……」

 

「言葉選ばなくていいぞ」

 

えっと、とつまり……

 

「レ、レイはこの学院に入ったのは仕方なくだったっていう事なの?」

 

「んにゃ。余りにも反応が馬鹿らしかったから親父には反抗したけど、別にこれはこれで面白そうと思ったから不満じゃなかったぜ? ───ただ、入学試験前日に教えるのはどういう事だ」

 

「……時々思うのだが、そなたの父上はどんな方なのだ?」

 

「ああ。きっと山猿が人語を覚えてしまい自分を人間と勘違いした哀れな存在だ。もしも出会ったら躊躇わずに武器を向けてもいい。いいや……まずは俺が……!」

 

何やら熱く語りだそうとするレイをまぁまぁと落ち着けることによって対処し、感想を抱く。

意外と言うべきなのか。それともそんなものだろうかと思えばいいのだろうか。

ただ一つだけ言えることがあるならレイは今の環境も楽しんでいるということである。

刹那主義のレイらしい気もする。

 

「で、リィンはどうなのよ?」

 

「俺か? ───強いて言うなら"自分"を見つけるためかもしれない」

 

瞬発爆笑を披露したレイが即座にキレたリィンとのバトルを、刹那の瞬間にアリサが二人を殴る光景にツッコミを入れられなかったラウラと僕はとりあえず苦笑した。

 

 

 

 

……あら?

 

アリサは食べ終わり部屋でレポートを書こうと向かっている最中に後ろにリィンとラウラが居ない事に気付いた。

試に下を見ると二人が何か語り合っているのを見つけ、しかし雰囲気が重く見える気がする。

会話の内容は余りはっきりと聞き取れない。

悪いかな、とは思うが今度はしっかり耳に意識を傾けると最早会話の終わりらしく

 

「……いい稽古相手が見つかったと思ったのだがな」

 

「あ……」

 

そうして外に向かうラウラと取り残されるリィンを見て思わず唸ってしまう。

最後の一文だけを見て読み取るとラウラはリィンの腕前に失望してリィンもそれに応えられずにという形に見える。

だけどどうしてだろうか?

リィンだってかなりの実力者だ。別にラウラに劣っているわけじゃないし、私達の指揮やまとめ役としても頑張っている。

単純な武力だけでも一騎打ちでラウラにただ負けるような強さじゃないのだ。

それなのにラウラがそこまで失望するだろうか。

無駄に謙遜したからか? 有り得なくはないがラウラがその程度でそこまで思うとは思えない。

 

「色々あるわね……」

 

溜息を吐きそうになるのを我慢してどうしましょうと思っていると

 

「……あら?」

 

何時の間にか私とエリオット以外にも消えている人物が居ることを認識した。

 

 

 

 

 

 

ラウラは剣を持って街道に出て、魔物の気配がない事を確かめ素振りを始めようと思った時に、ようやく人の気配を感じることに気付いた。

 

「レイか……夜に女子に対して気配を消して追跡するのは余り良い趣味ではないのでは?」

 

「はっはっはっ、細かいことを気にしていると疲れるぞ」

 

本当に最初からそこに居たかのように、丁度あった岩場に腰かけている少年に苦笑する。

よく言う。

そんな気配隠蔽などという細かい事をしてまでこちらに来たくせに。

 

「……要件があるのではないか? それとも私の鍛錬に付き合ってくれるのか?」

 

「おうよ。気分転換にな」

 

最後につけた言葉は冗談交じりの言葉だったのだが、それに対してまさか肯定の台詞を受け取るとは思っておらず、レイの方を見ると既に武具を装備している。

 

「……よいのか?」

 

何時も彼とフィーは私が鍛錬に誘うと全力で逃げる。

余りにも綺麗に逃げるのでつい追いかけてしまうのは性格だろうか、と内心で考えつつ追いかけまわして最後には逃げられてしまうというのが何時もであった。

というかどうしてあそこまで本気で逃げられるのかが解らない。

ただ鍛錬に誘おうと解りやすい意思表示に剣を持っていっただけなのに、二人はまるで殺人鬼が来たかのような表情をこちらに向けるのだ。

思わず失礼なと思い地裂斬を叩きつけた記憶が新しい。

そして、普通に避けられた記憶を思い出して思わず不覚……! という感情を呼び起こしそうになるのを自重して返事を待っていると

 

「二度は言わない」

 

そうして彼はただ構えるだけ。

二度は言わない。

それはつまり、もう一度口に出している事であるという事で

 

「あ───」

 

そうだ。

そういえば既に要件も理由も言っている。

彼はこう言った。

気分転換に、と。

だが、それが誰に対しての気分転換かを告げておらず

 

「……ふふ。そなたも随分とお人好しだな」

 

「記憶にない思い違いはよしてもらおーか」

 

返事が実に子供っぽく聞こえたので微笑が更に深くなるのを感じ、気分転換が実によく効いていることを実感する。

 

「ふふふ……それはすまない。では、鍛錬に付き合ってもらおうか───手を抜くと承知しないぞ?」

 

「そういうのはまず俺を追い詰めてから言う台詞じゃないかな?」

 

実にシンプルな挑発だ、しかし、だからこそ乗ろうと思い───そのまま二人の速度が激突し、待ってても何時までも帰ってこないので様子を見に来た三人に叱られるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい! 長らくお待たせしました申し訳ありません!!
とりあえずケルディック編スタートですが、出来ればケルディックは速めに終わらせたいのでもしかしたら次回凄く端折って終わらせるかもしれません。
多分、作者の方だと解ると思うのですがケルディックは書くことが少なくて……!
だから出来るだけ次回に終われるようにしたいと思います。
感想をよろしくお願いします!!

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