今日も素晴らしい晴天かな。
突き抜けるような青空。吹き抜ける風が今の温度と相まって素晴らしいくらいの癒しをくれる。
そんな青空の下でサラ教官のはいはーい、という声と共に
「じゃあ、今日は皆もお楽しみ。実技テストの始まりよー」
とのたまった。
レイはサラ教官が教官らしい真面目な顔で実技試験の始まりを告げるのに最早良い予感などないと思っている。
そう思っていると近くにいたフィーの表情が偶然見えた。
無表情を常とするフィーがまるで、超絶面倒な事態がこれから起きるぜベイビーという顔だ。
きっと同じ事を思っていたのかもしれないと思うとストレスが緩和される。
そうしていると
「ふむ……サラ教官。それはもしや我らとサラ教官が模擬戦をするのだろうか?」
「え? やーねぇ、そんなわけないじゃないラウラ───流石に最初からそんな無理無謀はやらないわよ」
一気に脱力した。
見るとフィーの方も後ろで手を組んでいた手がVの字になっていた。
同志はここにいるな、と熱い思いで胸が一杯になりそうになる。
ちなみに一種の挑発のような言葉を受けてユーシスとマキアスが凄い嫌そうな顔をしているのが目に見える。
婉曲的に言うと知らないって幸せだなぁ、と思う。
内容は何でも単純な戦闘力を計るものではなく状況判断能力を見るためのものらしい。
「つまり、ごり押しで勝つのは逆に問題という事なんですね?」
「……ふむ。まぁその方が面白い」
エマとユーシスの言葉にサラ教官もそうよーと答えつつ
「リィン、レイ、エリオット、ガイウス。前に出なさい」
チーム単位での指名をいきなり受けることになった。
「う、うわ~……一番かぁ」
「解りました……!」
「全力を尽くすとしよう」
「ま、気楽にな」
全員堅い&緊張し過ぎだろう、と思うがそんなものなのだろう。
いや、これが本当にサラ教官とバトルとかならば最早俺は自爆コマンドすら躊躇わずに使っていただろうけど。
そうして最初にまずは装備の点検とクオーツのセットをする時間を貰えた。
「よし。我らが切り札エリオットは何時でも大技をかませるようなものにしておくんだ……! いざという時はリィンごとやれ……!」
「……エリオット。馬鹿が何か言ってるけど躊躇ってくれよ? あ、この馬鹿相手なら気にせずやっても減点にはならないと思うからやっても構わないと思うけど」
「……前々から思ってたけどリィンって何故かレイに対して容赦ないよね?」
「ああ、それは俺も思っていた。まるで長い付き合いみたいだと錯覚してしまいそうだ」
「「それはない」」
思わずハモって否定するとつい、互いに目線を合わせてしまう。
そして、同時にむぅ……と唸る。
いや、本当になんだろうね? このシンクロレベル。
「はいはい。仲がいいのは解ったからさっさと相手出すわよ」
出す? と他のメンバー全員で首を傾げる。
まるで物を出すような言い方でてっきり何か魔獣でも出すのかと思っていたらサラ教官はにっこり笑って指パッチン。
すると
「───」
一言でいえば機械人形。
というか、普通にそうとしか表現できないモノがいきなり空間から湧き出た。
これには流石に周りも臨戦態勢に移ってしまう。
「ま、魔獣……!?」
「いや……! 魔獣にしては命が感じれない……!」
「ご名答っ。これは魔獣じゃなく簡単に言えば動くカカシ。人形兵器っていうものよ」
周りが驚きで沈黙する中、俺だけがフーーン、と思わずそれを睨んでしまう。
それに反応するのは当然出した本人だ。
「あら? レイは不満かしら?」
「不満って言うよりは少し悪趣味じゃないですかね? 見ていて壊したくなる」
「ま、それについてはほぼ同感なんだけど……使い勝手がいいのよねぇ」
欲に負けた……と思わず全員で呟くが教官は気にしない。
この教官、好き勝手し過ぎだろうと思うが性分なのだろう。
それに見たところ───勝てない相手ではないし。
だが
「サラ教官。一つ質問が」
「はいはい。何かしら」
「───その人形兵器、硬いですよね?」
「……少なくとも柔らかいイメージは湧かないわねぇ」
それがどうした、という視線に俺は無言で自分の両腕を指し示す。
そこにあるのは装備したガントレットをつけた両腕だが、幾らガントレットをつけていても硬いものを殴る時にその痛みを全軽減するということはないのだ。
そのジェスチャーに気付いた皆は躊躇わずに憐れみを向け、サラ教官は悟ったような笑顔を作って首を横に振るった。
すると両肩に手が乗った。
後ろを見るとリィンとガイウスだった。
「……」
「……」
「……」
口で語るよりも遥かに多い言葉を視線で語った気がするが二人の視線は要約すると
───諦めろ。
であった。
無言で両膝をついて両腕を地面につけて絶望表現をかますが二人は用事が終わったら直ぐに武器を取り出して構えようとしていた。
そんな非情なっ。
「俺の中の癒しはエリオットしか居ないのか……」
「……そこで僕の名を出されると色々と困る気がする……」
エリオットの苦笑と一緒に出された言葉に激励の意味も込められていたので何とか立ち上がり、膝や手についた砂を払いながら
「ま、やるかね」
ほぅ、とラウラは外野の視点で彼らの様子を見ていた。
特に恐らくあの中で一番強いレイの切り替えが凄まじい。
先程までコントをしていたというのに既に意識は戦闘用に切り替わっているのが解る。
プレッシャーがここまで届いて響いている。
気迫の質の差を除けば父やクラウスを相手しているかのように思えて自然と手が剣に伸びてしまいそうになるのを必死に堪える。
……未熟!
同年齢の少年が強烈なプレッシャーを放っただけでこうも自分が抑えられなくなるとは。
鍛錬が足りていないと何も考えずとも解る。
だが、そうと解っても戦ってみたい、と祈る。
それもレイだけではなくガイウスやリィンもだ。普段通りの真面目な表情を浮かべているが最早内側は普段という言葉から既にかけ離れた思考をしているのが目に見えるし、エリオットも何かあったのか。いい顔をするようになっている。
……父上。
父上は私が士官学院に入らず女として生きるのもどうかと思っていたのは知っている。
そして、それは間違いなく別に自分を不幸にするものではなく、その道を選んでいたらその道の過程と結果による幸福がある事も理解している。
もしかしたら、ある意味で今以上の幸福を得れていたかもしれないと考えるくらいには頭は固くない。
だが、これは無理だ。
父としては必死に男手一つで育てて女性らしさや女性としての幸せも見つけて欲しかったのだろうけど───やはり自分は
士官学院に来て良かったと今の私は声高らかに叫べる。
そして、リィン達の様子を見て準備は整ったと察したサラ教官は苦笑一つで顔を真剣に変え
「はじめっ!」
実技テストの開幕の合図と共にリィンとレイが同時に人形兵器に挑んだ。
マキアスは二人の疾走をその目でしっかり捉えた上で判断していた。
……は、速い!
武器を装備し、合図と同時に疾走した二人はマキアスの動体視力を持ってしても十分に速いと言えるスピードであった。
それは純粋な前衛組である事を省いてもその評価は覆らない。
恐らくリンクはリィン&レイ。ガイウス&エリオットペアに分けられており、前衛の二人が同時に挑んだのはこの二人なら未知の相手の攻撃でも対処できると判断したからだ。
ガイウスが行かないのは多分、エリオットの保護と同時に二人がやられそうになった時のカバー役。
作戦会議などしている様子は見れなかったが、何か事前にしていたのかもしれない。
そうこう思考していると既に二人は残り五歩くらいの距離まで詰めており、そろそろ人形兵器が反応をしなければいけない瞬間であり───そして、それは既にしていた。
人形兵器は機械的な反応と共に左腕を振り被っていたが、慢心無しであの程度なら僕でも躱せるだろうし、あの二人なら当然だろう、と思う。
そう思っていると───その左手から不思議な事に光が溢れていた。
幻想的な、と思ったが───よく見るとレーザーであった。
それが遠慮なく二人の胴体辺りを横薙ぎにする勢いで
「───」
ぶち込まれた。
「おおおおおおおおおおお!?」
アリサは二人が驚きのリアクションと共に走る勢いをそのままにスライディングに移行して二人の頭上を通るレーザーブレードを見た。
か、完全な近接殺しねぇ……
まさかあんなものからレーザーブレードみたいなものを、しかも自立思考でぶちかますなんてうちの実家にもそんな事が出来るか、と思うと不思議に思うがサラ教官が話すとは思えないので結果として謎のままだろう。
そして、人形兵器を通り越した二人はその勢いで立ち上がり
「まさかここに来てレーザーブレードとは! ───男心を擽る設定でマジカッコいいなアレ!」
「ああ! 男なら一度はレーザーブレードに憧れるべきだよな……!」
解るぜリィン!
だよな、レイ!
と謎のテンションでハイタッチをして───その反動を利用して、そこを突きで狙っていた人形兵器の追撃を躱して、お互いの支点を左右の足に託してくるりと回り、人形兵器に回ると同時に刀の柄頭と回し蹴りがヒット。
その攻撃に対しての人形兵器の反応は正しく機械的であった。
痛みを数値として捉えているが故に無反応を持っての反撃を是とした。
更には
「……もう一本!?」
左腕からも光を発生させた人形兵器はコマンド通りに相手を攻撃するために両腕を振う。
それに対してリィンは咄嗟に右に飛翔、レイはしゃがんでそれぞれの攻撃を躱す。
「───」
その中で人形兵器が選んだ相手はリィンである事が意思がない兵器相手ですらそれは読み取れた。
空中にいるリィンは例えどんな超人であろうとも重力と言う枷がある限り自由に動くことは不可能。
それこそ鳥のような筋肉でも持っていない限りは。
故に人形兵器は狙いをリィンに絞った。
その間にレイが攻撃するという事などは許容範囲というダメージをただダメージと捉えれるが故に出来る攻撃思考。
左のレーザーを持っての薙ぎ払いは武器では恐らく受け止められない。そして、頭を下にしたリィンは何をするのかと思えば両手をまるで求めるかのように下に下げ───そこにもう一つの両手が合致した。
「よっ……っと」
それは地面にいたレイがリィンの落下地点に滑り込んできたのであった。
空中から落ちてきたリィンの体重をそのまま受け止め膝を曲げ、更にそれを発条のようにしてリィンを再び空中に上げた。
それ故に左のレーザーは空振りを果たし───駄目押しで残った右のレーザーブレードをレイに斬り付けるが
「あらよっと……」
滑り込みの勢いを潰さずにそのまま手を使わずに側転を果たすことによって全ての攻撃は避けられ
「スパークアローー!!」
そこにエリオットのアーツが放たれた。
それらの流れはフィーをして優秀と言える流れであった。
最初から最後までの見事な攻防の流れ。
最初は速度の点で優秀なリィンとレイのコンビで威力偵察。
威力偵察を終え、それ以上がないと判断したらヒット&アウェイによる攪乱。
そして、最後は隙を作った上で自分は直線状から逃れ、エリオットのアーツによる止め。
それら全てが見事に成功した優秀な流れであった。
ただ一つだけ問題があるとすれば
「……まだ動いている」
恐るべきはあれだけの性能と機械の耐久性か。
いや、逆にあれだけの性能だから、これだけの耐久性を持ち得ているのか。
作り主が誰かは知らないが、何処で作ったのか予想できるが故に納得がいく性能だったが
「……フィニッシュ」
最後の最後に力を温存していたガイウスの突撃によってその使命は仮にだが終わった。
「うん、文句なし。リンクも戦術も判断力も。オールオッケー。最初のテストでこのレベル出すなんてやるじゃない四人とも」
ガイウスはサラ教官の褒め言葉を聞いた。
「楽勝、楽勝ー。周りが才能の塊集団だと楽できる」
「レイ……慢心だけはするなよ」
「僕とかはアーツだけが取り柄だからなぁ……」
「いや、エリオットは十分だ。俺は最後の止めをかすめ取ったくらいだしな」
ガイウスをしてここにいるメンバーが全員凄いと言えることくらいは理解している。
ノルドの外を知らないが故に無知と言えるのかもしれないが、レイとリィンはまだともかくエリオットですら順応してきている。
不思議な事に自分の腕前も上がってきている事が自覚できるし、全員のはまだ不可能ではあるがこの四人のメンバーならARCUSのリンクがなくとも多少の意思疎通が出来るくらいだ。
これもある種のリンクによる影響なのかもしれないな、と思いながら武器を収納する。
そして、サラ教官が何らかの書類に何かを書きながらこちらを……というよりはリィンとレイを流し目で見て
「それにしてもリィンとレイ───あんたらもしかしてホ……はいはい、二人とも。仲がいいのは解ったから武器を抜いて互いに牽制しないの」
即座に戦闘態勢に入ってお互いを排除しようとする辺り、この二人は相当だ。
こういうのを……都会風に言えばノリノリだ、と言うのだろうか。
都会は言語が難しい。
一応、武器は収めたがお互いに数歩離れて睨み合いながら元凶のサラ教官に答えを求める。
するとサラ教官は素直に答えた。
「単純単純。二人が異様にARCUSのリンクレベルが高いからよ。リンクレベルだけなら恐らくここにいるメンバーの誰とよりも二人のペアがトップよ」
「はぁ?」
二人して意味が分からないという顔になる。
二人の表情を見ると嘘は感じられないから、本人側からしても予想外の出来事だという事なのだ。
だがリンクのレベルの高さの原因……というより納得なら前々からあった。
リィンは普段は真面目でお人好しな普通な好青年という感じなのにレイ相手だと多少ネジが外れ、しかも容赦がない、
レイはレイでリィン相手に容赦がないし、冗談を言いながら突っかかるし、それを楽しんでいる節がある。
それは今もわざとらしは、"はっ"という顔を作って
「まさかお前……俺のイケメンフェイスに遂にやられて畜生道に落ちたか! この変態が……!」
リィンが躊躇いのない真面目な顔でレイの襟首を掴んで右腕で殴っているのがリアルだ。
「リ、リィン! 待て! まるでギャグ漫画みたいに真面目な顔で殴りまくるのは体裁が悪いぞ!」
マキアスが必死に止めようとするのも愉快だ。
殴られている本人はぐわー、と楽しんでいるのだからそっとしておくのも手段とは思うのだが、人それぞれなのだろう。
他のメンバーは呆れているのだから。
「はいはい! 次行くわよ! 次! 今日はまだこれ以外にもイベントあるんだから」
サラ教官の切り替えを求める声に応じ他のメンバーも用意にかかる。
それらを自分も見守らねば、と思い思考を切り替える。
ちなみにレイはリィンに捨てられて泣き真似をしていた。
そうして各自の実技テストを終えてサラ教官からの次のイベント───特別実習についての話をリィンは聞いていた。
途中にネーミングまんまじゃないか……とぼそりと呟いた某クラスメイトは次の瞬間に弾き飛ばされたのを見たが何時も通りと思い無視した。
そして、特別実習というのは要約すれば学院の外での実習をするというものだ。
説明はそれだけでそれを持って何を学ぶのか、何をするのかを話さないまま俺達は違う目的地に行くために二チームに分けられた。
『4月特別実習』
A班:リィン、レイ、アリサ、ラウラ、エリオット(実習地:交易町ケルディック)
B班:エマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス(実習地:紡績町パルム)
「……うわぁ」
とA班メンバー全員とB班メンバーの半数以上が恐らく同じ思いで息を吐いた。
チームメンバーの分け方があからさま過ぎる。
明らかに嫌がらせ以外の他でもない。
当の二人は嫌なものを見たという感じで顔を歪ませているが、流石に教官に逆らう気もないのか舌打ちだけで済ませていた。
実際、人間関係を除けばこれで十分に分けられているのだから仕方がないのだろう。
逆にA班メンバーは正直どこも文句がないチーム分けであった。
B班に負けず劣らず戦闘面の安心感があり、付き合いも悪くないチームだ。
チームの発表によってとりあえずチームで話し合うことになる。
「B班には悪いけどこっちは上手くいけそうね」
「うむ。このメンバーなら大抵の魔獣など押し通せそうだ。初の特別実習……よろしく頼む」
「あ、あはは……僕も出来る限り足手まといにならないように頑張るよ」
「じゃあ俺はそんなエリオットの応援役に……」
「お前はそんなエリオットの壁役な」
この人でなしっと、しなを作って叫ぶ馬鹿は無視してとりあえず思う。
このメンバーなら確かに大抵の事はやれそうだな、と。
何とかここまでやれましたね……
レイはこの人形兵器について存在も知っていますし、アレらの存在も知っています。
まぁ、だからあんまり良い目で人形兵器は見ていませんが教官が使ってますしね。
今回は出来る限りまともな戦闘描写に……なっていると見られていたらいいなぁ。
感想よろしくお願いします。