絆の軌跡   作:悪役

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プロローグ

戦車の砲が耳に響く。

砲が鳴る度に人の声が減ったり増えたりする。増える時はともかく減ったような感じを覚えた時はぞっとするような感じを覚えながら、ガレリア要塞に突撃する者達がいた。

 

「エリオット! 大丈夫か!?」

 

「う、うん! 僕は大丈夫だけど……」

 

紅髪の気弱そうな男の子が走りながら返事をするが、声に力がない。

それはそうだ。

何故なら周りは血が日常の風景に交じっているかのように当たり前に死体が置いてあるのだから。

 

「これは……」

 

「惨いな……」

 

長身の日が焼けた少年と凛とした少女もその光景には同意する。

 

「うっ……」

 

「くっ……!」

 

金髪の少女と紅髪の少年が死体に慣れていないせいか、この状況に顔を青くしている。

 

「大丈夫、二人とも?」

 

「無理もない……」

 

その二人に銀髪の少女と眼鏡をかけた少年が背中をさする。

この光景を見て、逆に何も思わないほうがおかしい。死を見て何も思わないような生物はその時点で破綻しているだろう。

その状態を少年ではなく大人の年齢に達している導力銃と強化ブレードを構えた女性と片手剣を構えた軍人の男性が口を開く。

 

「やっぱり、外の騒ぎは陽動見たいわね……」

 

「そのようだ。狙いは"列車砲"というのは間違いない。否、狙いは鉄血宰相と言うべきか……どちらにしても無茶苦茶すぎる……」

 

「テロを起こすような輩が無茶苦茶をしないわけないというわけか。ふん……気に食わんな」

 

そこに金髪の少年の無表情そうに見えてその実、怒りの感情を瞳に移しながら舌打ちを入れる。

 

「無茶苦茶というよりは有り得ないです……」

 

そこに眼鏡の少女が合いの手を入れて、この状況の有り得なさを嘆かせてもらう。

ここにいるメンバー全員がその意見には同意したいが、同意するだけでは意味がない。

若い、学生くらいのメンバーが集まる中、黒髪の一人の少年が皆より前に出て大人二人に進言する。

 

「───時間がありません。俺たちも協力させてください」

 

「俺もリィンに賛成だな。"列車砲"が発動したら、とりあえずトワ会長が危ないしな」

 

そこにもう一人、黒に多少青の色がかかったような少年が話に乗った。

この危険な状況でやれやれといった感を出して、黒髪の少年と事態の解決を求める。

そこに大人二人が口を開く前に二人で視線を交差する。

連れて行っても大丈夫なのか、と。その互いの視線を理解し、一瞬視界を今ではなく過去を覗いて、考え

 

「………全く。一体、その無鉄砲さ。誰に似たのやら」

 

嘆息と同時に答えを出した。

 

「───リィン以下A班は私に付いてきなさい。そしてレイ以下B班は少佐に従いなさい───念押しするけどこれは訓練とかじゃなくて実戦だからね」

 

「左翼と右翼の列車砲を二手に分かれて抑える。いいか? 私とサラ教官の指揮には余程の事態がない限り従え! いいな!?」

 

各自、頷きの返事と共に黒髪の少年───リィンが後ろに集っているメンバーに振り返る。

 

「トールズ士官学院《Ⅶ組》一同……列車砲の起動を食い止めるべくこれよりミッションを開始する! 日頃の成果を見せる時だ……全力で教官達をサポートするぞ!」

 

「おう!」

 

全員で一斉に唱和し、各自武器の点検、ARCUSの点検を行う中、黒髪の少年に青色がかかった少年が声をかける。

 

「一応言っとくが……俺が命を懸けて皆を守れるならなんて思って自殺行動するなよ、リィン」

 

「……はは。肝に銘じておくよ。そっちこそ。無茶や無理な事をするのは止めてくれよ?」

 

「こっちにはお前みたいな馬鹿はいないから心配すんな」

 

「鏡を見たらそんな馬鹿が映るんじゃないかな?」

 

「……言うようになったじゃねえか」

 

「誰かさんが悪い見本になってくれたからな」

 

互いに笑みを浮かべられる事実を再確認をして、互いに拳を向け、コツンと触れる。

 

「じゃ、そっちは任せたぜ? リィン」

 

「ああ───こっちは任せられたからそっちは任せるよ、レイ」

 

 

 

 

 

 

 

この事件が始まる五ヶ月前。

トリスタ駅の鉄道ホームに鉄道が停まり、暫くしてドアが開き、そこから数多の人が流れ出した。

老人、子供、青年、中年と色々な年齢層が溢れ出すが、今回は三月だからか制服姿の少年の姿が多く見れる。

そんな中、基本、緑や白の制服が多い中、赤の制服を着ている少年がホームに降りた。

 

「───あーーあ。流石と言うべきか。何と言うべきか……人が多いなぁ」

 

少年の声は姿をそのまま声にしたみたいな感じである。

髪は青が多少含まれ、顔は面倒という表情が張り付いているが、顔の造形自体はきちっとしている。

肉付きも無駄はかなり排除されており、右手だけが何故か黒いグローブで包まれている。

制服自体はだらしなく着ているが、それを着こなしているのは少年の雰囲気がそんな感じだからだろう。

そして本人はそんなのどうでもいいという感じに荷物を持って、ホームから歩いて出る。

周りをちらちら見ながら、そして改札を出ようとする。

すると

 

「おっ」

 

何やら金髪の少女が自分の荷物を慌てて見ている。

明らかに何かがあった様子である。

金髪の少女を一目見るとはっきり言えばかなりの美少女としか言えなかった。

整った造形に、プロモーションは完璧に近く、リボンで髪を括っているのが可愛らしく見え、笑っていたらさぞ可愛いのだろうと思い、そして気づく。

さっきからホームでちらちら見る制服の中で自分の制服は異色の赤色だが、彼女も同じ色だと気付く。

なら、お近付きになっておかないと損だろうと思い、彼女に近付き、声をかける。

 

「どうかしたのか?」

 

「え……?」

 

綺麗な目がパチクリとこちらに向けられ、何故か痒くなる。

そのまま驚きの視線で見られると微妙にそわそわしそうになるのでさっさと話題を変えようとする。

 

「何か、忘れ物をした……もしくは失くしたみたいな感じだったけど?」

 

「え、ええ……ちょっとどこかに切符を入れたかを忘れてしまって……でも、いざという時は駅員さんに事情を言ってお金を払うから……」

 

心配はいらないと続きそうな口調だったので、成程、そういう性格なんだな、と把握する。

なら、この場ではあんまり彼女に主導権を握らしては会話を断れると思い、続きを言う前に先に口を出す。

 

「───荷物ばかり見ているようだけど、その制服のポケットとかは見たか? 案外、慌てて何時もの自分が入れているようなとこには入れてないかもしれないからな」

 

「……あ」

 

すると思い出したのか、慌てて左ポケットに手を入れ

 

「あった……」

 

切符を見つけたようだ。

それにほっとした調子で息を一つ吐き、こちらに改めて向き直す。

 

「ありがとう……助かったわ」

 

「いんや。同じクラス? になるような制服だったからな。なら、これを切欠に仲良くなろうとした下心ありだ。気にしないでくれ」

 

「そういえば同じ制服ね……それにしても。普通、そんな下心があるからなんて正直に言わなくてもいいんじゃない?」

 

「親から素直に生きなさいって言われてるからな。いい子ちゃんなんだよ」

 

「ふふ……」

 

ツボに嵌まってくれたのか、予想通りの可愛らしい笑顔を見せてくれて十分、報酬を貰った気分だ。

この運は空の女神に感謝を捧げてもいいかもしれない。

 

「じゃあ、もしかしたら同じクラスになるかもしれないから自己紹介しておくわ。私の名前はアリサ・R(アール)。貴方は?」

 

「ん? ああ、俺の名前はレイ・アーセル。家名で言われるのはムズ痒いから名前でいい」

 

「じゃあ、私もアリサでいいわ。よろしくね、レイ」

 

「ああ。どうなるかは解らないが同じ士官学院に行く者同士、仲良くしようぜ」

 

一回、握手をし、お互いに笑顔を浮かべてよろしくする。

うん、かなり仲良くできそうである。

 

「じゃあ、このまま一緒にって行きたいんだけど、ちょっと寄りたいところとかがあるから悪いけど私は先に行かせ貰うわね。また入学式の時に会うんだろうけど、一旦、またね」

 

「おう。美少女と最初に友人になれて俺も嬉しいわ」

 

最後にもう、と微苦笑を入れて、そしてそのまま去って行った。

幸先いいなぁ、と思いつつ、俺も改札を通り、ようやく駅から出る。

そして、自分を迎えたのは花吹雪であった。

 

「おお……ライノの花がここまで咲いているのとは壮観だなぁ……」

 

思わず、ぐっ、と背伸びをしてこの気持ちよさを堪能する。

すると横で

 

「ライノの花か……こんなに咲いているのは初めて見たな……」

 

同じ感慨を抱いている少年の声を聴き、つい思わずそちらを見る。

すると、あちらもそう思ったのか、こちらを見ようとして、そして視線が交差する。

 

「───む?」

 

「───ん?」

 

すると、思わず最初に抱いた感情を確認しようとする。

相手の少年は結構な美形だと思われる黒髪の少年であり、見た目だけで察するのもどうかと思うがかなり生真面目そうであり、見たところかなり鍛えられているようであった。

内心ではそこはへぇ? と思うところなのだが、何故かそんな感想が思いつかない。

別に何か目に付くというわけではないし、派手なアクセサリーを付けてたりもしてないし性格が悪そうではない。

なのに、何というか───むかつく。

そんな感想を思って思わず、自分にはぁ? とか思ってしまい、初対面に何を思っているんだと思い、頭を振り、その思いは無視する。

相手も似たような素振りを見せていたが、見なかったことにして挨拶をしようとする。

 

「君は……同じ制服のようだな? 俺の名前はリィン・シュバルツァー」

 

「俺の名前はレイ。レイ・アーセルって感じでな。レイでいい」

 

「じゃあ、俺もリィンでいい……お互い向かうところは一緒みたいだから良かったら一緒に行かないか?」

 

「お? 別にいいぜ。まだ時間的余裕はあるみたいだが、流石に入学式に悪目立ちは不味いからとっとと行こうぜ。悪目立ちしたら後々が遊べねえ」

 

「後々に遊ぶ気なのか……」

 

苦笑を浮かべられ、そして行こうと促される。

俺も言葉じゃなくて歩くことで答え、そのまま学院に向かう。もう、さっきまでのむかつきは感じない。

なら、気のせいだろうと思い、そう思うと色々と話がしたくなる。

例えば

 

「それは………刀なのか?」

 

「あ? ああ……よくわかったな。エレボニアじゃあ、あんまり知られていない武装だと思ってたんだけど……レイも剣を使うのか?」

 

「いや、ケンはケンでも俺は拳とかのほぼ我流だからな……刀の事はまぁ、親父や母さんとかがそういうのをよく知っている人でな」

 

「成程……」

 

とまぁ、益体のない話と周りを見回りながら学校に行く。

途中、何やら貴族らしい凛々しい少女と少年が車や執事が送り出しているのを見たが、あの子らも同じ制服を着ていて、思わずお互いに、ん? と首を傾げるが、今気にしても意味がないとお互い納得し合い、遂に校門に辿り着く。

 

「へぇ……」

 

「ここが……」

 

互いに学院を見ての感想を呟き、感嘆する。

目の前に広がっているのは広大な士官学院。

名を『トールズ士官学院』という結構どころかかなり有名な士官学院であり、ドライケルス大帝とやらが創立した学院とまでは知っている。

生憎、学はないのでほぼ詳細は覚えていないが。

 

「写真では見たが……かなり良さそうな校舎だな。二年間いるには丁度いい」

 

「ああ……同感だ」

 

感慨深く一緒に頷く。

どうやら、こういう所の感性も結構似ているようだ。強いて言うなら俺はちゃらんぽらん。リィンは生真面目という差くらいだろう。

まぁ、友人が出来るのは心強いなと改めて思いながら校門を二人で潜ると

 

「───ご入学おめでとうございます!」

 

という明らかな女の子の甲高さの祝福の声が迎えてくれた。

 

「へ……?」

 

一緒に何だ何だという顔で声がした方に振り返ると二人がこちらに向かっているところであった。

一人は黄色のツナギを来た恰幅がよさそうな男性で如何にも技術者であるという雰囲気を出している男の人で、もう一人は一緒にいる男性のせいか。小ぢんまりという表現が凄く似合う少女であった。

この少女が自分達を祝福してくれた声の主だとは思うし、自分達を祝う学生なら先輩だとは思うのだが……

 

「(……先輩? なのか……どう思う、リィン)」

 

「(……俺もそう思うけど……理論的に考えたらそうなるだろ……?)」

 

そりゃそうだ。

最悪の可能性として隣の男性があの声を出したというのがあるのだが、流石にそれはメンタル的に厳しい。暫く、夢に出そうである。

そうしている間に二人が俺達の前に立ち

 

「うんうん、君達が最後みたいだね。えっと……リィン・シュバルツァー君とレイ・アーセル君で良かったよね?」

 

「え……あ、はい。確かに俺達がそうなんですけど……」

 

「……何か俺達が変なことしましたかね?」

 

いきなり、上級生に名指しで呼ばれるとしたらそういう事しか思いつかない。

入学試験の時には別に何かをやらかした覚えはなかったのだが……うん、確かないはず。

こちらの疑問を察したのか、少女の方が慌てて手を振って弁解する。

 

「わわっ、そ、そういうのじゃないの! ご、ごめんね? 確かにいきなり来たら先輩に名前を呼ばれるってちょっと嫌な予感がするよね?」

 

「まぁ、ちょっとした事情があるだけだから。これだけ言ったらそれでも嫌な予感みたいなのを感じると思うけど、少なくとも何か問題があったからとかじゃないから」

 

「はぁ……」

 

リィンと一緒に首を傾げるが、少なくとも二人とも嘘を言っているような雰囲気じゃなさそうだし問題ないだろうと思い、信頼することにする。

 

「おっと。じゃあ、その申請したものを預からせてもらうけどいいかな?」

 

「あ、はい」

 

「意外と重いのでしっかり持たないとやばいですけど……」

 

「わかった……っと。確かに。ちょっと重いけど……」

 

「わわっ。ジョルジュ君。大丈夫? 私も手伝う?」

 

「はは。トワに任せると潰れそうで怖いから大丈夫だよ」

 

二人で得物が入った荷物を渡し、それをジョルジョと呼ばれた先輩が受け取る。

見た目は重そうに見えないかもしれないが、どっちも持つと重い獲物だからなぁ、やっぱり。

 

「あ、そうだ。入学式はあちらの講堂にあるから遅れないようにね?  ───そしてトールズ士官学院にようこそ!」

 

「入学おめでとう。充実した二年間を過ごせることを女神(エイドス)に祈ってるよ」

 

「あ……ありがとうございます」

 

「感謝っす」

 

そして直ぐにベルが鳴ったのでこりゃいかんとお互い思い、挨拶をして先輩と別れる。

入学式……さて……やる事はただ一つだ。

 

 

 

 

 

「……らの二年間で自分なりに考え、切磋琢磨する手がかりにして欲しい」

 

「……はっ」

 

寝ていた意識が唐突に目覚める。

状況をみると寝ている間に頭がカックンとなった時に目が覚めた感じらしい。

やばいやばい。周りの学生は特技開眼睡眠で何とか誤魔化せただろうけど、教官達にばれたかもしれない。まぁ、流石にこれだけの人数がいたら注目されてないだろうけど。

だが、まだ意識が朦朧としているのでもう一眠りしようかなぁ、と思っていたら気配がこちらに寄ってきたので仕方がないので今度はしっかり目を覚ますと何時の間にか周りの学生がいなくなっている。

どうやら、入学式はもう終わってクラスの方に向かったという感じだが

 

……そんなのもらったっけ?

 

少なくとも入学案内書には書いてなかった気がするけどと思ってたら予想通りリィンと見知らぬ同じ制服の紅髪の少年がこっちに来ていた。

 

「……レイ。お前、入学式中ずっと寝てただろ」

 

「あ、バれた? 入学式の学院長の挨拶ほど眠たいのはないだろうと思ってつい」

 

「あ、あはは……メンタル強いね……」

 

「───と、そういえばそこの少年は?」

 

「ああ、紹介するよ。と言っても、俺もさっき入学式中に隣だったから喋ったところなんだが」

 

「あ、初めまして。エリオット。エリオット・クレイグっていうんだ」

 

「うっす、レイ・アーセル。末永くお見知りおきをってな」

 

一通り挨拶して、駄弁りたい所だが今の状況を知りたいので区切るしかない。

 

「所で、これは今、どうなってるんだ? クラスに向かっているみたいだが……そんなの俺、知らされていなかった気がするが?」

 

「ああ。それで、今、何か女の教官の人が特別オリエンテーリングをするとかでどこかに行かなきゃいけないらしい」

 

「……遠回しに言わせてもらうがキナ臭いな」

 

「十分、素直な発言だと思うよ……?」

 

否定しないところを見るとお前らも同意見だろうがと思うが、まぁいいや。

そんな事を言っているとどこにいったか追いつけなくなってしまうだろう。

だから、さっさと立ち上がり、外に出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

リィン、エリオット、俺で仲良く三人で沈黙する。

言い訳っぽく聞こえるが仕方がないといわせてほしい。

何せ、辿り着いた場所が超おんぼろそうな校舎なのだから無言にでもなりたくなる。

 

「まさか、これからの俺達の校舎はここだと言うのか……?」

 

「頼むからレイ……恐ろしい未来予想図を言わないでくれ……!」

 

「というか、明らかに机とかそういう必要そうなのがあるようには思えないんだけど……」

 

「───地面か」

 

最悪の未来予想図を語ると二人から現実逃避の為の殺意が湧いたので無視した。

周りにいるメンバーも何やら混乱している最中であり、メンバーの中には駅で出会ったアリサや来る途中で出会った人の顔もあった。

とりあえず、女性の教官が扉を開けて中に入っていったので疑問をそのままに中に入ろうとするが

 

「……ん?」

 

「? どうした、レイ」

 

「いや、何か見られているような感じがしたんだが……気のせいかね?」

 

「まぁ……こんな所に入ろうとする新入生はそりゃあ見られそうだけど……」

 

違いないと思い、今度こそ中に入る。

 

 

 

 

 

 

 

広場のような所で集まると教官が皆の前に出て勝気な表情で一言言った。

 

「サラ・バレスタインよ。今日から君達《Ⅶ組》の担任をさせてもらうわ。よろしくね~」

 

「は?」

 

「Ⅶ……組……?」

 

「ふむ? 聞いていた話と違うな……」

 

「サラ・バレスタイン……? ってぇと……」

 

各自、ばらばらの反応をしているが、俺はⅦ組云々よりも教官の名前が聞き覚えがあるというか聞かされた名前であるのを思い出す。

 

……うわぁ、クソ親父の元同僚らしいなぁ……

 

嫌な感じがプンプンする。

それはもう凄いくらいに。何せ、ただ立っているだけなのに隙という隙が見当たらない。

少なくとも今の自分じゃあタイマンでは勝てないくらいは理解できた。

とは言って、ここにいるメンバーもリィンを含め、かなり優秀っぽいメンバーばっかりみたいだが。

例外で言うならばエリオットと眼鏡をかけた少女なのだろうけど、戦闘のみが士官学院に必要な存在というわけではないので無問題だろう。

 

「あ、あのサラ教官? その……私の勘違いとかじゃなかったら確かトールズ士官学院の1学年のクラス数は5つだったと思うんですが……それも各自の身分に合わせて」

 

「あら? 流石ね。首席合格がいると説明が楽ね~」

 

おいおい、と皆が心の中を一つにした瞬間だったかもしれない。

だから、代表して俺が一つ言った。

 

「───つまり教官には学が無いと」

 

直後ににっこり笑顔をサラ教官が浮かべたかと思い、腰にあてていた左手が動いたかと思うといきなり脳天に激痛があり何時の間にか視界には天井が映っていた。

 

「お、おいレイ! しっかりしろ! 幾らなんでもぶっちゃけ過ぎだ……!」

 

「そうだよ! というかよく意識あるね……トンカチを思いっきりぶつけられたのに……」

 

「いや、流石に意識が飛びかけた。殺す気だ、あの教官……」

 

クソ親父に鍛えられていなかったら死ぬとこだったと思い、勢いよく立ち上がる。

ほぅ、とかへぇ、とかいう声が周りから聞こえるがそんなもんである。

 

「あら? 流石の体捌きと頑丈さね。それぐらい出来なくちゃあの家族で生きていけないか」

 

「……後半については物凄く同意させてもらいます」

 

まだオリエンテーリングが始まってすらいないのに、凄い疲れてきた気がする。

やれやれ、という調子で顔を振りながらサラ教官は苦笑のままこちらに告げてくる。

 

「でも、残念。5つのクラスっていうのは去年までの話。今年からは別───君達の平民、貴族、関係なく一緒のⅦ組わね」

 

「え……?」

 

全員で思わず唖然とした声を上げるがその前に怒号が一つ湧いた。

 

「じょ、冗談じゃない! 貴族と一緒のクラスなんてやってられるか!」

 

全員で声が上がった方に視線を向けるとそこには何やら生真面目そうな眼鏡をかけた少年が叫んでいた。

 

「えっと、確か君は……」

 

「マキアス・レーグニッツです! 今はそんなことよりも貴族と一緒のクラスなんて断固拒否します! はっきり言って正気じゃない……!」

 

すっごい貴族批判に思わず3人で顔を合わす。

 

「(うっわ……すっげぇ貴族批判。別に性根が腐っている奴っていうのは貴族だけというわけじゃないと思うんだけどなぁ……?)」

 

「(……何か理由があるのは確実だな……根は深そうだけど)」

 

「(うん……安易に聞いちゃいけない事情がありそうだよね……)」

 

3人でとりあえず小声で成程と思いながら、この空気をどうしようかと周りのメンバーと一緒に悩んでいると

 

「……ふん」

 

一人失笑する少年がマキアスを見た。

当然、マキアスはそれに気づき、怒りの感情を結構込めてその少年を睨む。

 

「……君。何かな、その失笑は。言いたいことがあるならはっきり言ってくれないかな?」

 

「別に。平民が煩く騒いでいると思っただけだ。ああ……貴族といると正気でいられないんならそれが普通なのか。すまないな」

 

「……これはこれは。どうやら大層な大貴族様が紛れ込んでいたようで。その無駄なくらい尊大な態度……さぞ名のある貴族なんだろうな……!」

 

「───ユーシス・アルバレア。大層な貴族の名前だ。忘れてもらっても構わない」

 

「なっ!」

 

明かされた名を聞いて絶句するマキアスと他のメンバー。

強いて言うなら驚いていないのは留学生っぽい背が高い少年くらいみたいだ。

 

「し、《四大名門》……」

 

「東のクロイツェン地方を治めるアルバレア侯爵家の……」

 

「ふむ……?」

 

「……(ふわぁ~)」

 

各自の反応を見ているとそれぞれの個性が嫌でもわかるなぁ、と思うがこれ以上は激化しそうだし、そろそろ止めるべきだろうと思い、二人の間に入ろうとする。

 

「───ストップ。お互いの主義主張性格はともかく名乗りだけでいきなり喧嘩を勃発しようとすんじゃねえ」

 

「───二人ともそこまでだ。譲れない了見があるんだろうけど、熱くなりすぎだ」

 

すると何故かリィンとハモった。

 

「「……む?」」

 

更にお互いハモって一緒に唸りそうになるが何か嫌なのでとりあえず周りも俺達のハモリに止まってくれたのでこの隙に目配せでリィンはマキアスを俺はユーシスとやらの説得に回った。

 

「自分の名前を誇りにするのはわかるが……自慢と嫌味にする気はないんだろ? なら、ここらで止めたらどうだ。」

 

「……フン、確かにな。無意味なことに熱くなったのは認めよう」

 

意外に話せる反応に意外に器は広い貴族かもしれないと思う。

まぁ、貴族を嫌がったマキアスに対する一種の反抗みたいなもので意外と性格は悪くはないのだろう。

リィンの方も説得に成功したみたいだし、大丈夫みたいだ。

 

「あらら? 最初から結託してくれる学生がいるなんて♪ 私も楽が出来ていいわぁ~」

 

「───リィン。思わず女性に対して禁句ワードをぶちかましたい俺の心情……理解してくれないか……?」

 

「気持ちはわかるが落ち着け……! さっきのトンカチを忘れてないだろ」

 

その前にあのトンカチはわざわざ俺へのツッコミに用意していたのだろうかと思うが、野暮だろうか。

とりあえず、まだ特別オリエンテーリングを始めていないということでサラ教官が何故か非常に楽しそうな顔をする。

 

正直、嫌な予感が猛烈に膨れ上がってきた。

それも、サラ教官からじゃなくて足元から。

そのサラ教官がいきなり下がって何やらスイッチらしきものに振れたことも。

 

「それじゃあ、さっそく始めましょうか? ポチッとな」

 

ガクンと地面が一瞬揺れた。

 

「え……」

 

「なっ……」

 

「しまった……!」

 

「やっべ……!?」

 

気づいた瞬間に地面が傾いた。

落とし穴!? と叫ぶ暇もなく一気に皆がずり落ちていく。

 

「うわわ……!」

 

「きゃ……!」

 

すると聞き覚えのあるエリオットとアリサの声がしてリィンと一緒に膝を曲げ、手をついていた俺達は一瞬の目配せで二人の方に駆け、手を掴んだ。

エリオットとアリサを俺は両方の手を掴み、リィンは体勢を維持し辛い俺の襟首を掴んで何とか耐えるという構図だ。

 

「くっ……!」

 

リィンの両方の腕にかなり負担がかかっているのが理解できるが、これが最善の形だから仕方がない。

他のメンバーは仕方がなく落ちてしまったが、一人銀髪の少女がワイヤーで生きているのを見たがサラ教官に落とされているのを見ると俺達も時間の問題のように思われる。

 

「……リィン、後、何秒耐えられる!?」

 

「……とりあえず十秒は確実!」

 

ナイス返答。

なら、その十秒の間に出来ることだけをするしかない。

 

「アリサ! エリオット! 嫌だろうけど下を見れないか!? 出来れば安全かどうかを確認してくれ!」

 

「え!? わ、わかったよ!」

 

「りょ、了解っ! ……ちょ、ちょっと暗くてあんまり見れないけどそこまで深くはないみたい!」

 

「落ちたメンバーの声も聞こえるから大丈夫そうだよ!」

 

そこまでわかったら十分だ。

 

「というわけでリィン、落ちるぞ! アリサは俺が何とかするからリィンはエリオット頼んだ! ───二人とも下噛まないように歯を食いしばっとけ!」

 

「へっ……? きゃあ!」

 

「わ、わわ……!?」

 

瞬間的にエリオットとアリサを腕の力だけで引き上げ、リィンも察してくれたのかそのまま指を離しエリオットを掴もうとするのだが

 

「あ……?」

 

「へ……?」

 

リィンがミスって足を滑らせ、滑った足が俺の頭を蹴り、当然そんなんだと狙っていた計画がパーになりそのままごちゃごちゃになって落下した。

 

 

 

 

 

 

「あっら~。変な落ち方したみたいだけど……まぁ大丈夫でしょ」

 

少女と紅い髪の少年はともかく黒髪の二人の少年はかなり鍛えられている。

練度だけを見れば、あのクラスでもトップクラスの実力くらいはあるだろう。フィーもいるから何とかなるだろうし。

奇妙なというよりは珍妙な集団だと最初は皆、思うだろうけど出来れば乗り越えてほしいと思う程度には大人になっている。

それに一人、サラは自嘲し、一言だけ独り言を呟く。

 

「さて……全員のお手並み……拝見させてもらうわ」

 

 

 

 

 

 

 

「イタタ……」

 

「っつぅ~~……」

 

「くっ……二人とも大丈夫か?」

 

リィンは四人で落ち、床に激突して真っ先に二人を心配する。

 

「え、ええ……意外と大丈夫みたい……」

 

「ぼ、僕も……あんな状況だったのに意外に大丈夫なもんだね……」

 

「ああ……すまない。俺がもうちょっとちゃんとしていたら……」

 

あそこで足を滑らせさえしなければ少なくともまともな着地にはなっていたはずなのに肝心な時にまた失敗してしまう……悪い癖だ。

そう思い、謝罪すると二人とも苦笑しながら首を横に振る。

 

「仕方がないよ……いきなりだったし……むしろ助けてくれたことに礼を言わせてよ」

 

「そうね……最後の最後はともかくそれでも助けてくれたことには感謝してるわ。ありがとう」

 

「───はは。そういってくれると助かる」

 

ほっ、と一息を吐きながら体の様子を見る。

見たところ体の一部一部を打ったみたいだが、酷い所はないようだ。

流石にそこまで酷いトラップにはしてないみたいだ。

 

「おい……大丈夫か!?」

 

「怪我は……見たところないようだな」

 

「ふぅ……無事で何よりだ」

 

すると先に落ちていたメンバーがこっちに駆け寄ってきてくれたみたいなので安心させるために立ち上がる。

よろっっとよろめくが打ったせいか安定してないなと思い、皆の方を見て気づく。

 

「そ、そういえばレイは!? 一緒に落ちたはずだが……!?」

 

「へっ!? ……ほ、本当だ!? レイはどこに……!?」

 

エリオットと一緒に慌てて、アリサもはっと思い周りを見回すが周りのその人影がいない。

そう思い、先に落ちていたメンバーの方に視線を向けると……何やら気まずいものを見たという表情を浮かべている。

何だろうと思い、問おうとしたところを銀髪の少女が先に口を開けた。

 

「……足元」

 

「へ?」

 

「え?」

 

「は?」

 

三人で馬鹿っぽい反応をして理解よりも反応で下を見ると……全員の下敷きになって普通に苦しんでいるレイが自分達の足元にいた。

全員で焦ってレイから足をどけ、介抱する。

思わず、リィンは何だか締まらないなと内心で苦笑しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




初めましての人は初めまして。悪役です。
最初だから長くなりましたが次回は流石にもう少し控えようかと……次回で出来ればバトルまで行きたいと思います。
もう、ここまで見れば自分が誰をヒロインにしたいか解ると思いますが嫌だとという方はすいません。
感想よろしくお願いします

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