IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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さあ、もう幾つ寝るとお正月か数えろ!(当日だよ馬鹿野郎)

新年あけましておめでとうございます。

旧年中は沢山のアクセスと感想、ありがとうございます。今年も何卒よろしくお願いいたします。


Gな新年/元旦の計

年末年始。

 

それは、家族皆が揃って新たな年を共に迎える、心機一転の為の重要な時である。だが、そんな時でも非番だろうとなんだろうとその時間を返上して仕事をする者達がいる。それは『毎日が月曜日だ』と豪語する、警察官、検事、裁判官、弁護士、法に携わる仕事をする人間だ(諸説あり)。

 

これは、たとえ事をしてでも家族と共に生きる事と、世界一カッコいい父親であり続ける事を己に堅く誓った、そんな男の物語である。

 

 

 

 

爆発音。

 

爆発音、爆発音、怒号、銃撃、断末魔、銃撃、怒号、そして爆発音が暴風雨となって雲一つ無い憎たらしいまでに透き通った夕暮れの空に木霊する。ここは、カリブ海に浮かぶ常夏の島、キューバの某所。そこで置きている小規模の戦争の真っ只中に一人の男が、織斑一夏がいた。

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

死体から奪った二丁の銃を持ち、走り始めた。四方八方から襲い来る銃弾の嵐を搔い潜ると、ガレージにあるハマーに乗り込んだ。サンバイザーに収納されたキーをイグニッションに差し込み、アクセルを思い切り踏み込んだ。重厚なエンジン音と共にガレージのドアを突き抜けると山道を走り始めた。

 

ルームミラーから断続的に爆発して木っ端をそこら中に撒き散らして行く屋敷の跡が見える。要所に仕掛けた数十キロのC4爆薬が同時に起爆した結果である。

 

「よ〜〜し、来い来い来い来い!!!」

 

ミラーに映り込んだ三台の車が追って来る事を確認し、好戦的な笑みを浮かべた。そんな折、一夏は太腿辺りに振動を感じた。奇跡的に機能しているスマートフォンだ。液晶には見覚えのある番号と名前がある。

 

「はいは〜い、毎度しぶとく生き残っております愛しの旦那で〜す。どうしたの?」

 

『どうしたの、じゃ無いでしょ?年末は帰って来るって言ってたじゃない。簪ちゃん、もうおせち料理の準備終わらせてるのよ?』

 

妻の一人、刀奈が不機嫌そうな声を上げる。電話の向こうで綺麗な顔を顰めているのが容易に想像出来た。

 

「その事については本当にすまん。キューバは解放記念日があっても正月なんて無いからな。俺も結構文句は言ったよ、間際にそんな大仕事をこっちに回して来んなって。」

 

『だったらこの仕事受ける必要無かったじゃない!』

 

「そうも行かないんだよ。交換条件で家族でアメリカの市民権が無い人にはくれる様に口利きしてくれるって言われてさ。一々全員分のビザを取る手間が省けるし。後、こっちで追っかけてるエクスタシーの製造と販売をやってる奴、マイアミ辺りは結構根を張り巡らしてるんだ。早々に潰しとかないと、どんどん広がってくから。うぉッとぉ!?」

 

アクセルを思い切り踏み込んだまま時速百キロ以上で走行し、尚且つ電話をかけている途中なのだ。突然車輪が地面の隆起した部分を移動し、車体が大きくバウンドした。そして電話中、一夏は忘れていた。

 

ここは山道。上がり坂があるならば、当然どこかで下り坂が出て来ると。

 

「OOOOOOOHHHH SHIIIIIIIIIT!!!!」

 

バウンドした直後、道は急な下り坂に変わっている。ハマーは数秒程宙に浮いていたが、やがて重力に従って叩き付ける様に着地した。内一台は着地に失敗し、横転して炎上した。後二台。

 

『どうしたの?!』

 

「ああ、言うの忘れてたなあ!今カーチェイスの真っ最中なんだよ!!今車が百キロ以上出して坂道下ってる所だ!!」

 

ビシビシッ、と着弾したガラスに罅が入り、サイドミラーが吹き飛ばされた。

 

「ちゃんと帰る!帰ります!日付が変わるまでに、俺はちゃんと実家の敷居を跨いでいます!」

 

『絶対だよ?』

 

「ああ!分かったから、こっちに集中させてくれ!カーチェイス中に電話して事故って死ぬとか洒落にならん!!」

 

『絶対だからね?』

 

「おう!愛してるよ。んじゃ、年末に。」

 

電話を切り、再び運転に集中する。

 

「家族優先なのは良いけど、俺の事も少しは構ってくれっつーの。」

 

毒突きながらもその顔には優しい笑みがあった。素早くハンドルを回し、ヘアピンカーブを曲がり切る。追い縋る二台のうち一台が曲がり損ねて横転。奇跡的に生き残っている唯一の車を運転するのは、一夏が爆薬で天高く吹き飛ばした屋敷の持ち主の麻薬王本人である。スペイン語で悪口雑言を吐きながら銃を乱射して来る。

 

「よいしょっ!」

 

地面が平らになった所で頭をシートにしっかり固定すると空いた手でサイドブレーキを思い切り引き上げ、後続の車を追突させた。車体後部が持ち上がり、車は逆さまになってハマーを押し潰した。

 

「ったくも〜〜。」

 

一夏は奇跡的に無傷だった。頭を固定しておいたお陰で鞭打ち症にもなっていない。ボディーが拉げてドアが開かない為、銃で蝶番を破壊して外に出た。

 

「・・・・・とっとと帰ろう。」

 

しまったばかりのスマートフォンを引っ張り出して、ボタンを長押しすると自動的に登録されていた番号へ電話がかかった。

 

「俺の位置はGPSで追跡してくれ。ハマーの上に乗ってる車にお目当ての奴がいる。まあ、生きてるかどうかは知らないけど。それよりも、今動かせる一番速いヘリを俺の位置に送れ。そしてマイアミ国際空港まで運んでもらいたい。荷物は後から送ってくれ、住所は何時もの所で良い。あ”?知るか、んな事!こちとら家族との時間ギリギリ切り詰めてまで依頼受けてやったんだ、文句は言わせねーぞ、ハゲ、ゴルァ。奴をどうにかしろって言われたは言われたけど、事後処理はそっちの責任だろーがよぃ、為政者(ポリティシャン)。」

 

電話を切ると、その場に座り込んだ。流石に一週間半もの間マイアミを動き回り、最後の二日は殆ど眠らずに戦い続けていたのだ。帰国する前に寝落ちしてしまったらそれこそ何をされるか分かった物ではない。

 

「何を考えているかは知らんが、考え直す事を推奨する。」

 

拉げた車から逃げようとする血塗れの麻薬王はビクリと体を強張らせ、動きを止めた。

 

「今の俺は途轍も無く機嫌が悪い。頼むから俺の仕事をこれ以上増やさないでくれ。出ないと勢い余ってお前をぶっ殺しちまう。だから動くな。Do you understand?」

 

男はコクコクと何度か頷いた。一夏の毛穴と言う毛穴から滲み出るさっきと怒気で口の奥がカラカラになり、まともに喋れない。

 

「分かったら腹這いになってそっから動くな。」

 

「『任務は遂行する』、『家庭も守る』。両方やらなくっちゃあならないのが『当主』の辛い所だな。」

 

それから二十分後、空を裂くローターブレードの音と共にヘリが一機飛来した。

 

 

 

 

場所は変わって、更識邸では刀奈がテーブルに鎮座した携帯を睨み続けていた。

 

「お姉ちゃん、そんな事しても何にもならないよ?」

 

「分かってるわよぅ、それぐらい。」

 

刀奈は唇をすぼめてからかう妹に言い返す。

 

「でも心配せずにはいられないの!年末年始は一緒にいるって行ってたのにそれがパァになるかならないかの瀬戸際よ!?絶対焦るでしょ、普通?」

 

「絶対に大丈夫。ちょっと来て。」

 

簪は姉を連れて一夏の部屋の戸を開けた。机の真向かいに張ってあるコルクボードには結婚した時の写真とツーショットが複数、家族全員の集合写真がそこら中に張られていた。その上辺には、太い油性ペンで書かれた紙が貼り付けてあった。

 

来年/生涯の目標

家族を残して先に死なない

世界一カッコいい旦那で居続ける

世界一カッコいい親父で居続ける

 

最後に書かれた目標は油性ペンで書かれるだけでなく、赤ペンで何度も下線を引かれていた。

 

「これ、いつの間に・・・・・?」

 

「クリスマスパーティーやった後、部屋で何かしてるのが見えて。朝になってもう一度見たら、これがあったから。付き合い始めてからも、結婚してからもずっと、どんな些細な約束だって破った事無いんだよ?」

 

「二回はあったでしょ?結婚記念日と、後は夏奈芽の誕生日が———」

 

「アレは時期が時期だったし、それに加えて当事者全員が忘れてたからノーカン。アレは特例。一夏も気付いた時には泣きながら謝ってたし。」

 

思い返すと苦笑いしか出来ない。涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして土下座しながら地面にヘッドバットを繰り返す大の大人など見たくないが、初見のインパクトが凄まじかった為に今でもはっきり覚えている。

 

「それに、この目標もあるから絶対帰って来る。」

 

「そっか・・・・・そうだよね。一夏君は、そう言う人だもんね。うん、ありがと〜〜〜、簪ちゃ〜〜〜ん。」

 

学生時代に戻ったかの様に刀奈は簪に抱きついて頬擦りを始めた。

 

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん・・・・・!?」

 

「ん〜〜〜〜♪か〜〜ん〜〜ざ〜〜し〜〜ちゃ〜〜ん♪」

 

「お母さん、何してんの・・・・?」

 

更識家三女の玉籤が冷めた表情で叔母に戯れ付く母親を見下ろした。

 

「玉籤、助けて・・・・」

 

「・・・・・無理。」

 

止めようとすれば最後、間違い無く『すりすり地獄』の矛先が自分にも回って来る。愛情を注いでくれるのはとても嬉しいしありがたいが、如何せん表現するのにスキンシップが過剰過ぎる。父が不在の時は寂しさを紛らわすためそれがかなり顕著になる。ちょっとどころかかなり恥ずかしい。

 

逃げようとしたが足首を掴まれ、巻き添えを食らってしまう。

 

「うわぁあああああ〜〜〜!!」

 

「ん〜〜〜玉籤お帰り〜〜。」

 

簪は矛先が別の人間に向いてくれた事に安堵し、居住まいを正した。

 

「お母さん、ただい・・・・・あ〜〜〜!!お母さんたまちゃんにすりすりしてる〜〜!!わたしもしたい〜〜〜!!!」

 

「や〜〜め〜〜ろ〜〜〜!はぁ〜〜〜なぁ〜〜〜せぇ〜〜〜〜!!!」

 

夏奈芽には母親の血が色濃く受け継がれている。良く彼女は母親似だと良く言われるが、性格は間違い無く刀奈に似ている。

 

「グシ姉、うるせえ。親父の部屋で何騒いで・・・・・ああ・・・・いや、その、ごめん。」

 

「母さん、やっぱり父さんはまだ・・・?」

 

騒ぎが思いの外響いていたのか、簪の息子達もやって来た。

 

「うん。でも大丈夫。お父さんは今までず〜〜〜っと皆との約束守って来たから。絶対皆で年を越そうって約束もした。帰りは夜遅く担っちゃうかもしれないけど、必ず日付が変わる前に帰って来るよ。ほら。」

 

コルクボードに張られた一夏の三つの目標を指差すと、四人の子供達は皆小さく笑った。

 

その直後、刀奈のスマートフォンが鳴った。素早くそれを取る。

 

「もしもし?」

 

『俺だ刀奈、喜べ。終了だ。ヘリを全速力で飛ばして貰った。今マイアミ国際空港にいる。虚さんが予定日に送ってくれるって言ってた小型ジェットが来てるから、今すぐ飛ぶ。』

 

「ほんとに!?」

 

『おう。全速力で飛ばしても空港に着陸するのは今から後大体十時間はかかるから、到着は夜のかなり遅い時間になっちまう。それだけはどうにもならないんだ。ごめん。』

 

「ううん。皆いるから、ちょっと待ってて。」

 

スマートフォンをスピーカーモードにすると、順番に言葉を贈って行く。

 

「一夏、早く帰って来てギューッてして。」

 

「父さん、皆待ってる。」

 

「早くしないと、俺と兄貴で親父の分の料理全部食べちまうぞ!」

 

「お父さん、早く早く〜〜〜!!」

 

「お父さんの手打ち蕎麦、早く食べたい。」

 

『そっか・・・・おう。もう少しだから待ってろ。ジェット機の運転、替わって貰うから。超特急で帰ってやる。後、尊。食うのは勝手だが、俺の分の飯食ったらお前、後が恐いぞ。それだけは充分留意した上でやれ。じゃあな。もうすぐだ。もうすぐ帰ってやる。』

 

これだから、父親と言うのはやめられない。


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