IS x W Rebirth of the White Demon 作:i-pod男
一話で一万超えするまで書いたのって初めてですわ。
とある休日———珍しく一夏、刀奈、そして簪の三人が家を空けていた。そんな日に、更識の本家にある道場に更識の双子達がいる。
「勝負だ兄貴!」
大きな歩幅でリズミカルな柔らかい動きでステップを踏みつつ交互に腕で顔や顎を守るカポエラの『ジンガ』をしながら尊が息巻く。対する兄の一刀もトントンとリズミカルに両足で軽く跳ねてはいるが、それはボクサーのフットワークの様で、時折前に出している足を交互に入れ替えている。拳も軽く手を握り込んだだけの何の飾り気も無い構えだ。
「タケちゃんも懲りないねー、玉ちゃん?」
道着姿で隅の方で正座している次女の夏奈芽と三女の玉籤は丁度それぞれの演武と組手を済ませた所だった。冷やしたタオルを首筋に当てて緑茶を飲んで涼を取っていた。
「玉ちゃん言うな。でも良いだろ別に、好きにやらせれば?どうせカナ姉以外はカズ兄にゃ勝てないんだからさ。ホンット何なの、カナ姉のアレ?カナ姉しか捌き切れないって不公平過ぎる!カズ兄のあのスピードも不公平過ぎる!」
うがーっと両手をバタバタさせながら玉籤は不満を口にする。
「まあまあ、カズお兄ちゃんお父さんにしごかれてるからねー。そりゃ強いよ。でもでも、玉ちゃんもタケちゃんも充分強いと思うんだけどな。何度か私にも勝ってるし。」
「あたしらだってそうだろうが!今までどんだけ修行して来たと思ってんのさ?!」
「うぉりやああ!!」
両足がまるで尊とは別個の生き物の様に複雑な軌道を描く蹴りを幾つも繰り出す。一刀はその蹴りを平手で捌きながら蹴りが当てられない距離まで詰めようとするが、尊もバク転で顎を狙った両足の蹴りが決まり、一刀が仰け反る。
「今のは利いたぞ。」
「嘘つきやがれ。」
兄の言葉に尊はふんと鼻を鳴らすと、両手で体を支えたまま軟体動物の様に背を反らし、踊りに混じらせた向こう脛、喉、顎、顔面を狙う鋭い蹴りを飛び跳ねながら次々と放つ尊。一刀も最初は身軽なフットワークでそれを軽やかに交わしていたが、上空から迫る踵落としを白刃取りよろしく受け止めた。
「うげっ・・・・」
「確かに速くなったし息も上がらなくなってる。だが動きが派手過ぎるぞ。」
「うは〜、やっぱ尊は我が家の忍者小僧だ。立って蹴る時の打点が相変わらず高いな。しかも打点が高い癖に全く軸足がぶれてないし。私も上段蹴り上達したいのに〜・・・・」
「タケちゃんはブレイクダンスがきっかけでカポエラ、だっけ?を始めたから、私達の中じゃ体は一番柔らかいと思うよ?柔軟体操のコツ、教わったら?」
「やだよ。あいつ、いつまで経ってもあたしらにベッタリなんだから。あたしには籤姉、籤姉ってうるさいし。いい加減姉離れしろっつーの。カナ姉だって毎度毎度姉ちゃん姉ちゃん言われるのうんざりするだろ?今時あんなに姉ラブな弟気色悪いって言われるだけだぞ?」
この話題に関する火種が未だに燻っている玉籤は怒りに任せて緑茶を飲み干した。
「私は良い事だと思うけどな〜。お父さんも千冬伯母様に甘えてた時期があったって聞いたけど。それに比べて、カズお兄ちゃん甘えさせてくれないし、玉ちゃんも最近は全然甘えてくれないし。タケちゃんまで姉離れしちゃったら、私寂しくて死んじゃうかもだよ?」
むすっと不機嫌である事をアピールする為に顔を膨らませる夏奈芽だが、元々ぽやっとした表情とおっとりした性格の持ち主なので全く怖くない。寧ろ可愛らしさが増すだけだ。
「カナ姉はハムスターか!そんなん人前で出来るか、こっ恥ずかしい!まあ・・・・・確かにカズ兄も最近稽古以外じゃ相手してくれないけど、さ・・・・・」
なんだかんだ行って玉籤も兄に構って欲しいようである。
「だったらタケちゃんにぎゅーーってして貰おうよ、二人で。姉弟のスキンシップは大事なんだよ?ほらほらおいで〜、お姉ちゃんがぎゅーーってしてあげるから♪」
期待一杯の笑顔で両手を広げたまま手招きをする夏奈芽のオーラに逆らえず、玉籤は仕方無く彼女の方に近付いた。
「んふ〜〜、あ〜〜、癒される〜玉ちゃん成分が補給されて行く〜〜幸せ〜〜。」
「あ、籤姉ズリィ!」
側転中に玉籤が抱きしめられるのが視界に入り、思わずそう叫んでしまう。
「余所見を、するなっ!」
その隙を突いて一刀は寸止めしながら何発も尊に容赦無くボディーブローを浴びせて行く。
「ちょ、痛い!兄貴、痛い痛い痛い!寸止めをしろ、寸止めを!」
「している。お前が柔なだけだ。恨むなら玉籤が抱きしめられているのを見て自ら隙を作った自分を恨め。」
中学生とは思えない程冷ややかな声でにべもなく言い返す。
「んだと、この糞真面目の堅物野郎!蹴り潰してコロッケにすっぞ!?」
「上等だ、遺言は聞いたぞ妖怪『女誑し』。今度こそその息の根止めてやる。」
兄弟同士で本気の殴り合いが始まろうとした。尊の蹴りが一刀に、一刀の拳が尊に迫って行くが、
「こーらー、やめなさーい!!」
いつの間にか二人の間に移動した夏奈芽はまず一刀の腕を取って足を引っかけて転ばせ、次に尊の回し蹴りを屈伸でかいくぐり、軸足を払ってひっくり返した。手慣れた様子からこの一連の動作は日常茶飯事である事が窺える。
「夏奈芽・・・・お前、本気で投げただろ・・・・?」
「オーマイガ・・・・背中がめっちゃイテェ・・・姉ちゃん、ナイステク!」
「誉めても許しません!もう〜。タケちゃんが短気なの、悪い癖だよ?カズお兄ちゃんも一々喧嘩売る様な事言わないの!良いの?また簪叔母様に叱られるよ?」
「尊、また錘入りの箱持ったままで正座させられたいか?カズ兄もあの『無限・リアル鬼ごっこ』の怖さ、忘れてないよな?」
双子兄弟は双子姉妹のその言葉で顔から一切の血の気が失せた。同年代は疎か三、四歳上の者を相手に喧嘩しても全く負けない実力の持ち主である二人だが母親に対する畏怖だけはどうする事も出来ない。凡そ二年前、夏奈芽達が不在の時に二人は血だらけになるまで殴り合いを続けた事があり、怪我が完治してから数日後に二人は母の簪にかなりきつい灸を据えられた。
尊は正座した状態で錘が縁まで詰められた箱を膝に乗せられ、動く事もままならない状態で放置され、一刀は木製の薙刀と練習用のゴムで出来た手裏剣を持った簪に敷地内中を本気で追い回された。以降それがかなりのトラウマとなって根強く植え付けられ、父の一夏とは違う意味で頭が上がらなくなっている。
「チッ・・・・」
「流石にアレはもうヤダ・・・・」
二人の怒りも急激に失せてしまい、二人はシャワーを浴びに道場を後にした。
「いい加減に懲りてよ、二人共・・・」
「カナ姉、その言葉、母さんみたいに聞こえる。ほら、あたしらもシャワー浴びに行こ!」
更識一家はかなりの大所帯な為、浴室も巨大なユニットバスになっており、仕切り付きのシャワーと浴槽が三つずつあるのだ。だが、そこに向かう途中、四人は積み上げられた四つのアタッシュケースに気が付いた。
「ん?何だこりゃ?」
「さあな。ほっとけ玉籤、多分父さんや母さんの物だろうし。」
「いやいや、隠れてる物程見たくなるのが人の性でしょ。見ようぜ、減るもんじゃなし。」
兄と姉二人が止める間も無く尊は適当なアタッシュケースを開いた。その中には、鍔が無い紫色のメカニカルな刀が入っている。
「これは・・・・・刀、なのか?」
「こっちは、何かのグリップみたいなのが入ってる。」
尊につられて夏奈芽も僅かに反りが付いた黒とメタリックブルーのグリップを引っ張り出した。
「こっちは・・・・うわ、何かゴツいブレスレットが入ってる。」
一刀は三人をそのまま放置してシャワーを浴びようとスタスタと先に進んだが、尊の言う通り気にならない筈が無い。仕方無く、本当に仕方無く、まだ開けられていないケースを開いた。その中には大きめのバックルが付いた銀色のベルトが収まっている。
「なあ兄貴。コレ、何なんだろうか?」
互いに見つけたアイテムを交換してしげしげと眺めながら尊は一刀にそう訪ねた。
「俺に分かる筈無いだろうが。ほら、見る物は見たんだから元に戻せ。」
だが次の瞬間、開いた窓から四つのマシンが飛び込んで来た。それぞれショウリョウバッタ、蠍、蜻蛉、雀蜂の形をしている。
「おおっ?!何だこりゃ?!」
左右の面が色違いのショウリョウバッタのマシンは尊に、蜻蛉のマシンは夏奈芽に、雀蜂のマシンは玉籤に、そして一刀にと、まるで主の帰りを待ち侘びていたペットの様に喜びらしき仕草を見せていた。
「可愛い〜〜〜、何これ〜〜〜!!」
頭の上にちょこんと乗っかっている蜻蛉はその場所が大層気に入ったらしく、羽を畳んでゆっくりしていた。
「それより、俺達がこれを手にした途端にやって来た理由は何だ?ていうか、これなんなんだ?」
「それは、ゼクターと言う物だよ。」
聞き慣れたその声がした方向へ顔を向けると、煙管を片手に着流し姿の天次郎だった。
「じ、祖父ちゃん・・・・!!」
「やれやれ、困った困った。ゼクターは持ち主を選ぶからね。はあ・・・・またかぐやにどやされるよ。」
懐から携帯を引っ張り出して電話をかけ始めた。
その頃、家を空けている一夏、刀奈、そして簪の三人は、東京の渋谷に来ていた。と言ってもその大部分は瓦礫の山と化して封鎖されているのだが。そして現在、その瓦礫の中から二足歩行するサナギが跋扈していた。それも大の大人と大差無い身長であるためかなりグロテスクだ。
『オッケー、いっくん、マーちゃん。ワーム相手の実戦テスト開始だよ!』
インカムから飛び込む束の声を合図に、一夏とマドカは腰に銀色のベルトを腰に巻き付けた。そして手を頭上に上げると、一夏の手には赤、マドカの手には黒いカブトムシの形をした掌サイズの機械が飛び込む。
「カブトゼクター、ダークカブトゼクター、現着しました。行くぞ、マドカ。変身。」
「うむ。これを言うのも久し振りだな。変身!」
『『HENSHIN』』
その機械、ゼクターをベルトに付いたレールに沿って押し込み、固定した。途端に二人はISとは違う銀と赤の重厚な鎧に包まれて行く。
「束さん、マスクドライダーシステム『カブト』、マスクドフォーム問題ありません。」
「『ダークカブト』マスクドフォームも装着完了した。こちらも問題無い。」
『オッケーオッケー、んじゃそのまま戦闘レッツゴー!』
二人は右腰のホルスターに吊ってある銃を引き抜き、緑色のサナギ———ワームに向けて引き金を引いた。着弾と同時に大量の火花が散り、命中したワームは仰け反って倒れた。
「カブトクナイガンのイオンエネルギー、流動は良好、と。」
セレクタースイッチでセミオート、フルオートの調子も確かめると、軽く回転をかけて投げ上げて落ちて来た所を銃身部分に持ち替えた。
「ほら、よっと!!」
薪割りでもするかの様にカブトクナイガン・アックスモードでサナギ体のワームを真っ二つに切り裂いた。マドカも腕と腰の回転を利用して数体のワームを薙ぎ払い、どちらも緑色の炎と共にワームを吹き飛ばした。
「刃への温度伝達速度と効率も良好だ。」
『じゃあじゃあ残るテストは二つだよ!「キャストオフ」と「クロックアップ」で終了だからもうちょっち頑張ってね〜!角の形したレバーを反対側に倒したらいけるから〜。』
「了解。」
二人はベルトにセットしたゼクターの角『ゼクターホーン』を押し上げた。すると、二人を覆っていた銀と赤の装甲が迫り上がり始める。
「「キャストオフ。」」
ゼクターホーンを反対側まで倒し切ると、迫り出した装甲のパーツが凄まじい勢いで吹き飛んだ。それらは全てワームに激突した。
『『Cast off』』
そして顎を支点に畳まれていた角が起き上がり、装甲の下からそれぞれ赤いボディーと水色の複眼、黒いボディーと黄色い複眼が現れた。仮面は正にカブトムシの形をしている。
『『Change Beetle』』
「キャストオフ、成功です。クロックアップに入るんで一旦切りますね。」
『ほ〜い。頑張れいっく〜ん、マーちゃん!』
「脱皮される前に倒すぞ。クロックアップ。」
「オッケー。クロックアップ!」
二人はベルトの側面にあるスラップスイッチを叩いた。
『『Clock up』』
途端に、地球の全てがその動きを停止したかの様に辺りが静かになった。スラップスイッチを叩いた事によって発動したクロックアップは、ライダーシステムで変身した一夏とマドカの全身にタキオン粒子を駆け巡らせ、光速を超える速度での移動を可能とさせているのだ。二人が速く動き過ぎている故に周りの速度が酷く緩慢に見えるだけに過ぎない。サナギ体のワームもほぼ止まっている様に見える。
「行くぞ、兄さん。」
「おうよ。」
二人はカブトクナイガンのフレームからグリップを引き抜き、鋭利な刃を持つナイフ、カブトクナイガン・クナイモードでワームに襲いかかる。
『『Clock Over』』
ベルトから発せられる音声と共にクロックアップは解除され、再び周りの景色が動き出した。
「チッ、二体仕留め損ねた。」
「あらら、脱皮しちゃってらあ。やっぱ一分三十秒の壁はキツイな。」
「何を言っている?兄さんは動きに殆ど無駄が無いだろう?最小限の動きで最大限のダメージを効率良く与えている。」
「クロックアップは疲れるからあえてそうやって戦ってんの、俺は。」
暢気に話している内に仕留め損ねたワーム二体は体から凄まじい熱を発し、サナギがその熱で融解し始めた。完全に外皮が溶け去って姿を見せたのはカマキリに似たワーム、セクティオワームとカニムシモドキのベルバーワームだ。
「うっげえ、相変わらず現代美術の醜さだな、ワームって。」
「兄さん、どちらが先に倒せるか勝負だ。負けたら私にスイーツを奢ってもらうぞ。クロックアップ!」
『Clock up』
「上等だ。お前こそ負けたらと曇りジャンボラーメン奢ってもらうからな。クロックアップ!」
『Clock up』
再び神速の世界へと突入した二人はそれぞれ手際良くワームを追い詰めて行く。そしてゼクターに付いた一から三までの番号が振られたフルスロットルスイッチを順に押した。
『『One, two, three』』
そしてゼクターを操作し、最初に変身した時の状態に戻す。
「ライダー、キック。」
「ライダーキック!」
再びゼクターホーンをキャストオフ時の状態に戻すと、ゼクターから頭の角へ、そして角から右足へと波動になったタキオン粒子が迸って収束する。
カブトは怒りに任せて一直線に走って来るセクティオワームの顎に上段の回し蹴りを叩き込み、緑色の炎と共に吹き飛ばした。
ダークカブトは一方的に殴って蹴って弱らせたベルバーワームに踵落としを決め、ライダーキック発動と同時にそのまま力任せに勢い良く踏み抜いた。
『『Clock over』』
「・・・・同着と言った所か?」
「ま、今回は二兎追う物は二兎とも取るって事にはならないしな。良いぜ、それで手打ちにしよう。」
ゼクターをベルトから引き抜いて離すと、内蔵されたイオンエンジンを吹かして二匹のカブトムシはそのままどこかへ飛び去った。
「束さん、全テスト終了しました。どうっすか、データの方は?」
『うんうん、凄い凄い。やっぱりいっくんやマーちゃんだからこそ出せる数値だね。期待以上だよ!』
だが束の声は別の通信が入った事を知らせるブザーに掻き消された。
「あ、ちょっとすいません。はい?」
『一夏君?!大変よ!』
一夏の耳に飛び込んで来たのは高校の同僚にして今は妻である刀奈だった。
「どうした、そんな慌てて。実戦テストなら心配しなくても全部終わったよ。怪我もしてない。」
『そうじゃなくて!!お父さんから連絡があったのよ!一刀達が家に残したままにしてたゼクターの『資格者』に選ばれちゃったのっ!』
「家に残したままのゼクター・・・・?ザビー、ドレイク、サソード・・・・と、ホッパーか・・・分かった。まあ、義父さんがいるから大丈夫だとは思うけどオッケー。そう言う事なら一旦帰ろう。」
耳からインカムを抜いてはあと溜め息をついた。
「マドカ、帰っぞ。一刀達がやらかしたらしい。」
「やらかした?何をだ?」
「ゼクターに選ばれちまったんだと。」
一夏達が家に帰ってから直ぐに四人を集めた刀奈は恐ろしい形相で正座する四人を睨み付けた。正座して竦み上がったまま固まってしまう。夏奈芽に至ってはほぼ半泣きである。
「全く・・・・何を考えてるの貴方達は!?」
「お、お姉ちゃん、そこまで怒らなくても・・・・ね?」
久し振りに見る激怒した姉の姿に簪も少なからず恐怖を感じずにはいられなかった。
「怒るに決まってるでしょ簪ちゃん!?この子達はまだ中学生なのよ?こんな事するなんて早過ぎるじゃない!何かあってからじゃ遅いわ!」
「まあまあ、刀奈落ち着きなさい。興味本意で見て触っただけだろう?別に誰一人怪我をした訳でもさせたわけでもない。」
天次郎も刀奈を諭そうとする。
「そうだぜ、まずは
簪に刀奈をその場から出す様に目配せし、小さく頷くと天次郎と一緒に彼女を連れ出した。静かになった所で一夏は一列に並んで正座した四人に向き直る。
「さてと。お前らは祖父ちゃんからあれが『ゼクター』と呼ばれている以外は何も知らないだろうから、説明しておく。そうすれば何で母さんが珍しくああまで怒鳴ったかも分かる筈だ。ああ、後、足崩しても良いから。」
一夏も胡座をかいて座り直し、それにならって四人も頻りに脹脛や足裏を揉みながら胡座をかいた。
「ゼクターと言うのは、マスクドライダーシステムと言う『武器』を使える様になる為の『鍵』だ。玩具じゃない。見ての通り、ゼクターには意志ががある。そしてその意志は、使い手を選ぶ。ゼクターがお前達の元にやって来たと言う事は、お前達はそのゼクターの資格者に相応しいと言う意味だ。」
「でも、それがお母さんが怒った事とどう関係あるの?」
涙を拭きながら夏奈芽が訪ねる。
「今日俺は、東京の渋谷に落っこちた隕石の調査の為に行くって出る前に言ったろ?実は、その隕石にはワームと言う別の生命体が乗っていて、地表と激突した瞬間そこら中に卵を散撒いたんだ。マスクドライダーシステムはそのワームを殲滅する為に開発された物なんだよ。」
「あれが・・・・武器・・・?」
「そうだ。ワームには幾つか能力がある。一つが擬態。人間を殺してその人間になりすます。見た目だけじゃなく仕草の一挙手一投足、更には記憶までもをコピーする徹底振りだ。二つ目がクロックアップ。簡単に言ってしまえば、光を超えるスピードでの移動が可能になる。正に目にも留まらない程のな。ゼクターに選ばれてしまった以上、図らずもお前達を戦力の一部として頭数に入れざるを得ない。つまり、お前達もいずれはワームと戦う事になる。だから母さんはあそこまで怒ってたんだ。」
ゼクターに『懐かれる』事が何を意味するのか、その真の意味を説明されて言葉に詰まってしまう。
「親父、俺はやるぜ。」
唯一人、尊を除いてだが。
「タケちゃん!」
「そいつら、隙あらば姉ちゃん達も狙うってんだろ?だったらやってやるよ。二人には指一本だろうと触れさせねえ。」
「同感だ。夏奈芽や玉籤に手を出す可能性は多いにあり得る。擬態能力があるなら尚更注意が必要だ。」
「カズ兄まで・・・!」
「言うだろうと思ったよ、全く。だそうですよ、義父さん、義母さん、マドカ?」
天井裏の板が二つ外れ、そこからかぐやとマドカの二人が飛び降りて来た。頭上にはそれぞれ銅色と黒いゼクターが飛び回っている。一夏の頭上にも、赤いカブトゼクターが飛来した。
「やれやれ、やはり我の強さは親譲りでしたよ。」
「良いじゃないの。妹思い、姉思いで結構な事だと思うわよ。」
「やると決めたからには気を引き締めろ。言っておくが、ワームとの戦いは稽古とは違う。半端な覚悟で挑めば、怪我では済まんぞ?玉籤、夏奈芽、お前達はどうする?嫌ならば無理強いはしない。その気になれば資格者自らゼクターを手放す事は可能だ。」
「まあまあ、マドカ。そう急くなって。戦力は充分ある。ゆっくり考えさせてやれ。んじゃ、一刀は天次郎さんとかぐやさん、尊はマドカと俺で鍛える。風呂から上がったばかりで悪いが、早速始めるぞ。ゼクター操作のいろは、個々のライダーシステムの特徴とその癖を教えておかなきゃならない。夏奈芽、玉籤、二人も一応見学に来い。どう言う物かは口で説明するよりも見た方が分かる。」
更識が所有する森林地帯にある小さな空き地で、一刀は祖父母の天次郎とかぐや、尊は父と叔母の一夏とマドカと向かい合っていた。
「まず、変身の方法だ。ライダーにはそれぞれゼクターを装着する為のアイテムが存在する。俺や天次郎さんやマドカ、そして今尊が持っている様なベルトもあれば、かぐやさんが持ってるブレスレット型の物もある。後は一刀が持ってる武器の形をした物もある。まずはゼクターを呼べ。資格を持つ者がベルトを持っていれば、ベルトの発信器と資格者の脳波をキャッチしてやって来る。」
そう言い終えるや否や、数秒後にカブトゼクター、ダークカブトゼクターが飛来し、一夏とマドカの手に収まった。
「「変身!」」
『『Henshin』』
二人はあっと言う間に赤と銀の装甲に包まれた。
「じゃあ、私達もやろうかね。」
「そうね。」
天次郎とかぐやも右手を空に掲げると、それぞれの手に群青のクワガタムシの形をした『ガタックゼクター』、そして銅色の『カブティックゼクター』が飛び込んで来た。
「変身。」
「変身♪」
『Henshin』
『Henshin Change Beetle』
天次郎は青と銀のまるで戦車の様にゴツい装甲に、かぐやは緑色の複眼に左右比対称の銅色のボディーを持つガタックとケタロスに変身した。
「うぉお〜〜〜〜カッケーーーーー!!!!っしゃあ!」
まずゼクトバックルの上部に付いたスイッチを押してゼクターを装着する為のレールを露出させると、尊が突き出した左手にショウリョウバッタ型の『ホッパーゼクター』が草むらから飛び込んで来た。
「変〜〜身ッ!」
『Henshin』
他のゼクターよりもトーンが高いエコーをかけた電子音声と共に、尊の体もメタリックグリーンの装甲に覆われて行った。
『Change Kickhopper』
紫色の刀、サソードヤイバーを持った一刀の足元の土からは蠍型の『サソードゼクター』が飛び出して来た。
『Stand by』
咄嗟に飛んで来たそれを掴み取り、一刀はそれを逆手に持っていたサソードヤイバーの柄の峰辺りに装着した。
「変身!」
『Henshin』
「さてと、今変身した姿がマスクドライダーシステムの第一形態、『マスクドフォーム』だ。この状態はどちらかと言えばパワーと防御に特化してる。衝撃を殺す事は出来ない物の、大抵の攻撃から被るダメージは雀の涙程度だ。あ、ちなみに尊のキックホッパーとかぐやさんのケタロスからはこのマスクドフォームはオミットされている。二人共元々スピードファイターだしな。さて、次のステップは『キャストオフ』と『クロックアップ』だ。」
カブト、ダークカブト、そしてガタックはゼクターホーンを操作して一気に反対側へと引いた。上半身のパーツが全て弾け飛び、ホーンが展開する。
『『『Cast off』』』
『『Change Beetle』』
『Change Stag Beetle』』
「マスクドライダーシステムの第二形態はスピード型の『ライダーフォーム』だ。装甲を吹き飛ばすキャストオフは不意打ちにも使えるし、当たり所が良ければ雑魚ワームを倒す事も出来るから、使い所をちゃんと見極める様にしろ。そしてマスクドライダーシステムの要がこれだ。クロックアップ!」
『Clock up』
スラップスイッチを叩いた次の瞬間、ダークカブトはキックホッパーの背後に立っていた。
「え?え??あれっ!?ええええええーーーー!!!」
「うるさい。驚き過ぎだ。」
仮面の上からでも衝撃を感じるチョップを脳天に食らい、キックホッパーはその場に踞った。
「これがクロックアップ、タキオン粒子を全身に纏って光すら凌ぐ早さで移動する技術だ。私と兄さん、そしてお父様のガタックがクロックアップを発動するにはベルトの左右にあるスイッチを叩けば発動出来るが、お前達の物はバックルのトレーススイッチだ。やってみろ。サソードはゼクターの尻尾を押し込めばキャストオフ出来る。」
言われた通りにサソードヤイバーに装着したゼクターの尻尾を押し込むと、言葉通り装甲がパージされた。そして二人は恐る恐るバックルの上にあるスイッチをスライドする。
『『Clock Up』』
途端に二人の周りの景色が変わった。まるで周りの時が何千倍も遅く動いているかの様な不思議な感覚に、尊と一刀は困惑した。
「なあ、兄貴これ、どうなってんだ?!周りが、遅く見える・・・・」
「いや、俺達が速く動き過ぎて逆に周りが遅く動いている様に見えるだけだと思う。」
そうやって話している内に、クロックアップが解けた。
『『Clock over』』
「お、元に戻ったぞ。」
だが二人はがっくりと膝を折った。
「あれ・・・?」
「体が・・・・重い・・・・!?」
「ワームはクロックアップを自在に扱えるが、人間には一度に使える時間は精々一分ちょっとだ。肉体的な負担が半端無いからねえ。勿論任意でオン・オフは可能だよ?まあ、ワームを相手にしたライダーの戦いってのはこんな感じだ。その調子じゃまだ実戦は高校を卒業してからだろうな。さて、夏奈芽、玉籤、お前達はどうする?」
「あたしも・・・・あたしもやる。もしクロックアップの使い過ぎでカズ兄や尊がバテたら、あたしがしっかりしなきゃならないし・・・・」
「私も。カズお兄ちゃん達にばっかり痛い思いして欲しくないから。」
「やっぱ俺と母さんの娘だな。兄弟思いの優しい娘達だ。」
一夏は二人にグリップとライダーブレスを渡すと、二人の元に蜻蛉型のドレイクゼクター、スズメバチ型のザビーゼクターが飛んで来た。
「「変身!」」
『『Henshin』』
「玉籤が変身したのが格闘オンリ—のザビー、夏奈芽は遠距離型のドレイクだ。お互いの欠点をカバーし合える。キャストオフとクロックアップの操作も二人と同じだ。」
「あ〜あ。やっぱりかあ・・・・・」
木の梢から双眼鏡でこの様子を見て、刀奈はどこかあきらめがついた様な笑みを浮かべて溜め息をついた。
「こうやってウチのコ達も親離れして行っちゃうのよねえ。嬉しい様な、寂しい様な。あの時は怒鳴っちゃってごめんね、簪ちゃん?」
「ううん、良いよ。もし私がお姉ちゃんと同じ立場にいたら、多分同じ様に怒ってたと思う。でも、大きくなって行く四人を見てると、何か頼もしいって思えて来るんだ。夏奈芽ちゃんは誰よりも優しくて、名前の通り皆の要。玉籤ちゃんもそれを全力でサポートして行くし。」
「そうね。一刀君も一夏君と同じ様にあの一本の刀で皆を守り切れる位強くなるんだろうなあ。優しいけど、自分にも皆にも厳しいから全員をそうやって引っ張って行くし。尊君はムードメイカーでいつも皆を笑わせようとしてる。そうやって前向きさで元気を分けてくれる。四人揃ってあっと言う間に
「フフッ、そうだね。
最初はブレイドの新世代ライダーにしようかなと迷ったんですが、新世代って三人(グレイブ、ランス、ラルク)しかいない所為で一人あぶれてしまうと気付いたのでカブトのライダーにしました。
ちなみに、未登場でしたがコーカサスは千冬、ヘラクスは刀奈です。
それでは。
注意:あくまでこれは企画案で、衝動的に書いた物です。