IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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番外編、並びにこの作品もこれにて本当に完結となります。長い間の応援、誠にありがとうございます。UAもなんと17万近くになっておりました。沢山の方にご愛読頂いて本当に嬉しいです。これが完結した後は、DMC x ソードアートオンラインの方を更新して行きますので、そちらでもよろしくお願いいたします。


番外編#5 更識のC/四者四様

午前六時半のある朝。四つの部屋で同時に鳴る耳障りなアラーム音に反応して八つの目がぱっちりと開いた。

 

「ほ〜らほら、起きろ起きろ起きろ!ウェイクアップ・フィーバー!」

 

部屋は左右に戸が二つずつ、そして奥にも男子と女子用の洗面所を示す張り紙がある。その中央で、齢三十三となった一夏はブルージーンズに白ワイシャツと言う姿で銅鑼を親の仇の様に殴り付けた。それに反応してドアが開き、二組の少年少女がのっそりと現れた。

 

「父さん、おはようございます。あー首が痛い・・・・」

 

第一声を上げたのはダークブルーのショートヘアーに吊り上がった切れ目の少年、四兄弟の長男、一刀だった。首を左右に捻りながら不快そうに顔を顰め、洗面所に向かう。

 

「おあよぉう、ぉおうらん・・・・くぁ〜〜〜っ・・・」

 

次は母親と伯母譲りの水色の頭髪は男の割に長く後ろで一つに束ねている一刀の双子の弟にして四兄弟の末っ子、(たける)だ。束ねられた所以外はあちこちに跳ねまくった鳥の巣状態である。おはようと言いつつも欠伸が途中で出てしまい、意味不明になってしまう。

 

「おはよう一刀、尊。後、尊、ちょっと何言ってるか分かんない。はい、顔洗ったら道場へゴー!まず外回り四周ね。ほらダッシュダッシュ。あ、姉妹二人が追い付くまで勝手に出るなよ〜。」

 

二人は洗面所に用意された冷水入りバケツに頭を突っ込むと、そのまま下に降りた。

 

「おはよ。お父さ〜ん・・・・まだ眠い〜。」

 

三人目はおっとりした声を持った少女で、頻りに刀奈似のパッチリした目を擦っていた。胸元まであるロングの黒髪を持つ彼女は長女であり四兄弟の次女、夏奈芽(かなめ)である。ピンクのパジャマ姿のままとてとてと洗面所に向かう様は中学生とは思えない。

 

「ほらほら夏奈芽も、顔洗って来なさい。後、パジャマのズボンの裾踏んでる。こけるぞ。」

 

今にも戸口の角に頭をぶつけそうになる彼女の歩く軌道をズラして洗面所へと押しやった。

 

「う〜が〜〜。」

 

そして最後に、洗面所に行かず一夏の太腿にタックルをかまして来たのは夏奈芽の妹にして四兄弟の三女、玉籤である。刀奈のゴーイングマイウェイな性分と一夏が持つワイルドな性格が上手い具合に混ざっており、本来の髪型もそれを何故か理解しているのか、ショートの水色ウルフヘアだ。

 

「尊の鼾で殆ど眠れなかったよぉ〜〜〜。」

 

「夜になったら耳栓持って来てやるから、今は顔洗って道場を四周と何時ものセットトレーニングだ。そしたらとびっっっっきり美味しい朝ご飯が待ってるぞ。」

 

「いつも飛びっきり美味しいって。行ってきま〜す。」

 

四人が階下に降りて玄関のドアが開閉される音を聞き、下に降りた。心地良い日差しがカーテンを全開にしたベランダから差し込んで来る。そして出来立ての料理の匂いが鼻孔をくすぐる。

 

「やれやれ、四人共大きくなったな。十三年経ってあいつらはもう中学一年か。俺も老けたな・・・・」

 

「何言ってんのよ、三十路を過ぎてからまだ三年でしょ?どこが老けたのよ、どこが?私達一般家庭では結婚してまだ七、八年程度しか経ってない年齢よ?」

 

エプロンを巻いた刀奈が台所の奥から顔を出した。

 

「ですよね〜。まあ、その分長生き出来て子供達が大人になるのを見られるから良いんだけど。ナハハハハ。簪は?」

 

「洗濯物干してるわよ。」

 

「そっか。じゃあ、手伝いに行かなきゃな。何せ七人分だし。」

 

フライパンで卵焼きを作る刀奈を後ろからそっと抱きしめてやり、屋上へと駆け上がった。そこでは物干竿にベッドシーツや枕カバー、Tシャツやジーンズなどのあらゆる衣服をかけている簪の姿があった。

 

「簪、おはよう。手伝うよ。」

 

「ん、ありがと。」

 

「流石に洗濯籠三つ分はきついよな。」

 

「そんな事無い。四人の事を思うと、自然に力が出るから。でも、何か今でも信じられないな。まだ結婚歴が通算十三年だなんて。普通なら結婚して十年もしない歳なのにね。」

 

バスタオルを洗濯バサミで固定しながら一夏はくすくすと笑った。流石は姉妹と言うべきか、見事に全く同じ事を言っている。たまらず簪の前に回り込んで抱きしめた。

 

「簪、ありがとな。」

 

「え、何に対して?」

 

「全部。初めて俺の事好きって言ってくれた時も、俺と正式に付き合ってくれた時も、俺と結婚してくれた時も、元気な子を二人も産んでくれた時も、十三年もこんなどうしようも無い馬鹿と連れ添ってくれた事も、全部ひっくるめてありがとう。愛してる。」

 

洗濯物を干し終わると、下に降りた。既に四人はシャワーを浴びて着替えを済ませ、食卓に付いている。

 

「やー、皆お揃いで。ごめんごめん。洗濯もの干すのに手間取ってね。多いのなんの。さてと、食べようか。頂きます。」

 

「頂きます。」

 

一夏に続いて六つの声が頂きますを復唱した。

 

「いやー、やっぱ味噌汁って美味しいな。うん、日本人で良かった。私これが無きゃ朝が始まらないわ。」

 

刻んだ大根と人参、そしてネギがたっぷり入った味噌汁に舌鼓を打つ玉籤は、へにゃりと顔がほころぶ。シャワーから上がった生乾きの髪の艶が日光を受けて輝いた。

 

「朝から何を年寄り臭い事言ってるんだ、玉籤。まあ、実際その通りなんだがな。味噌の味と言い、濃さと良い・・・・完璧だ。」

 

中学生の割にトーンが低い声で苦笑する一刀も唸る。

 

「アハハハ、カズお兄ちゃんも大概だと思うよぉ。あ、お父さん、ご飯おかわり。」

 

夏奈芽はご飯茶碗を一夏に差し出した。

 

「だよなあ、姉ちゃん。俺らん中で一番年寄り臭い発言が多いのってダントツで兄貴だよ。お、卵焼き美味い。鰹節が良く利いてる。」

 

「それはそうと尊、昨日の夜鼾が凄かったお陰で私寝不足よ。顔洗っても前々眠気が晴れないわ。」

 

「ごめんごめん。姉貴、綺麗なんだからそんな眉間に皺寄せないでくれよ。老けるぞ?兄貴みたいに。」

 

そう言った途端、一夏の指先から溶けて小さくなった氷の欠片が放たれ、尊の眉間に命中した。予想だにしなかった事でもあり、そのあまりの痛みに尊は額を抑えたまま声を上げる事すら出来ずに椅子の中で体を捩りまくる。

 

「こら尊、口を慎め。姉と言っても彼女は歴としたレディーだぞ?男としてそんな失礼な事を言うもんじゃない。」

 

「いてててて・・・・うぉ〜〜〜、奥までズキズキきやがる・・・・・」

 

「口は災いの元という諺はお前の為に存在する。それさえ治ればお前もモテるさ。」

 

「もう、一夏君。尊をいじめないの。まだ少し時間はあるけど、早く食べ終わって布団片付けたら学校に行きなさい。」

 

「はーい。」

 

一同に声を揃え、四人は朝食を済ませると自室がある二階に上がった。

 

「さてと、あの子達は転校初日だし俺が送ろうかね?」

 

「一夏、心配し過ぎ。そんな時間無いでしょ?潜入って今日だよ?分かってる?」

 

麦茶を飲んで未だにのんびりと朝食をつまむ能天気な一夏を簪が窘める。

 

「勿論分かってるよ。フィールドワークを志願したのは俺なんだから。あの四人をしっかり送り届けて気が引き締まったら行くんだ。帰れば土産話の一つや二つも聞けるしな。」

 

姉の人を振り回す気質が恐らく長年連れ添った所為で伝染してしまった。そう考えながら簪は頭を抱え、朝刊を頭から被って顔を隠した。不貞腐れているのである。

 

「まあまあまあまあ、簪ちゃん。行かせて上げましょうよ。まだ時間あるんだし。ね?あ、そうだ。何なら一緒に行けば良いじゃない。後片付け位なら一人でも出来るし。」

 

「そうだな。新調したリンカーン・ナビゲーターを試す良い機会だ。どうする、簪?」

 

新聞の下から小さく、行く、と声がした。やはりなんだかんだ言って簪も多少は心配だったらしい。

 

「だ、そうだ。刀奈、家の事、暫く頼める?」

 

「勿論。行ってらっしゃい、貴方。ん〜ちゅ。」

 

「ふぃ〜、ご馳走様。さてと、肉体と精神共にエネルギー充填も済んだ事だし、行きますか!」

 

ガレージは地下をぶち抜いて作ってある為、かなり広い。そこにはは家族全員もしくは過半数が移動する為に使う大型SUVのリンカーンナビゲーター、小数用のフォルクスワーゲン・ゴルフ、パーツを買って一夏自身が二年以上かけて組み上げたカスタムバイク、ビューエル・ファイアボルト 1200、そして刀奈がお気に入りのスズキ・イナズマの合計四台の車両が収納されている。

 

それに加えてスペアパーツと様々な工具が壁のラックに所狭しと並べてある、ちょっとした秘密基地の様な場所だ。リンカーンナビゲーターを私設の車道に出し、全員が乗ると発車した。

 

「ねえお父さん、転校先の藍越学園ってどんな所?」

 

運転席と助手席の真後ろにある後部座席に姉と陣取った玉籤が訪ねた。

 

「ん〜?ああ、一応中高一貫で意外とリベラルな方針を取ってる。節度を守っているのであれば私服での登校可だし。あんまり露出度が高い服着てると、怒られるしやらしい目で見られるからそこら辺は気をつけろよ?」

 

「そうなる前に、俺が三枚下ろしにしてやる。」

 

やらしい目で見られる。そのフレーズに一番反応を示したのが最後部座席の窓際に座っている一刀だった。腕を組んだまま切れ長の目が更に鋭くなって行く。

 

「おう、やったれ兄貴!姉ちゃんとグシ姉に色目使う奴、死すべし!」

 

「駄目だよ、カズお兄ちゃん!タケちゃんも煽らないの!」

 

夏奈芽が振り向いてあわあわ言いながら二人にストップをかける。

 

「暴れるのは構わんが、程々にな?」

 

「お父さんも何言ってるの?!転校初日だよ?!」

 

車内が笑いに包まれた。

 

「あ、じゃあ俺と兄貴とグシ姉はどうするのさ、この髪。地毛だって言っても絶対信じないぞこの色は。」

 

「染髪は確かにNGだけど、ご心配無く。お母さん達がちゃーんと処理しておきました。DNA鑑定で地毛だって事は事前に報告済みです。後でお礼を言って家でもちゃんと手伝う様に。」

 

「流石母さん。仕事が早い。」

 

そうやって談笑している内に学園の正門付近に停車した。

 

「よし、着いたぞ。思いっきり楽しんで来い。小学校とはまた違う面白みがある。」

 

「行ってきます、父さん、母さん。」

 

「お父さん、簪お姉さん、ありがとー!」

 

「お父さんも仕事頑張れ〜!」

 

「そんじゃ、行ってきます!」

 

元気良く正門へと駆け出す四人を見送り、一夏は簪に運転を替わって貰った。

 

「さてと、お父さんはいっちょ頑張っちゃいますか。」

 

「十五分で潜入先に到着するから着替え用意してね。」

 

「はいはーい。」

 

助手席のシートを上に上げると、下には新品のスーツが綺麗に畳まれて収納されていた。一緒に入っていた眼鏡型の通信機をかける。

 

「もしもーし。エース入りました。ETA十五分、全員状況報告。」

 

『バカラ、スタンバイオッケーです。』

 

『テキサス、準備完了。』

 

『ルーレット、いつでもどうぞ。』

 

『BJ、号令待ちです。』

 

「オッケー。始めろ。ショータイムだ。」

 

スーツに着替え、一夏が踏み込んだ先は小さな不動産の事務所だった。だが、それはあくまで建前であり、その事務所は暴力団によって仕切られている。そしてその資金源の一つである違法カジノの一つがその地下で経営されているのだ。潜入する事によって証拠を持ち帰り、カジノを経営している者をある時期に一度に捕まえる。それが今回の潜入任務の目的である。準備ですら一年近くは有した。

 

「一週間もあれば潰せるとは思うが、何が起こるか分からん。それと、忘れるな。死ぬな、殺すな、囚われるな。以上。」

 

「気を付けてね。」

 

「ああ。さてと、新世代共々、元気にやって行きますか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

藍越学園の方では、更識四兄弟が自己紹介をしようとしている所だった。

 

「四兄弟の長男、更識一刀だ。特技は剣道、趣味は菓子作り。口数が少ない新参者だが、まあよろしく頼む。」

 

「長女の夏奈芽で〜す。特技は手品、趣味は読書で、カズお兄ちゃんの次に生まれました〜。よろしくね〜。えい♪」

 

手に持っていた空のコーヒー牛乳パックを思い切り上から叩き潰すと、跡形も無くなってしまった。新鮮な自己紹介におお〜っと生徒達が拍手する。

 

「次女の更識玉籤。特技はスポーツ全般、趣味は昼寝。甘党なんでお近付きになりたい人はお菓子ヨロシク!後、昼寝は邪魔しないでね?怒るから。」

 

「最後になっちゃったけど、同い年にして末っ子の更識尊だ。特技はダンスとギター、趣味は音楽鑑賞でジャンルは問わない。ん〜〜〜・・・・うん、綺麗な人で一杯だ。俺幸せ、ヒャッホウ!よろしく。」

 

何故かその場でバク転を決めて自己紹介が終わった。




キャラとしては 一刀=常識人のしっかり者、尊=目立ちたがり屋の女誑し、夏奈芽=癒やし系おっとり、玉籤=ボーイッシュなツッコミ役と言う感じです。

ちなみに、四人の見た目と現在進行形で習っている武術(の設定)は独断と偏見でこんな感じです。

一刀:剣道、ジークンドー(鈴から)

夏奈芽:太極拳(鈴から)、合気道

玉籤:空手、キックボクシング(ムエタイもミックス)

尊:カポエラ(寝技混じり)、テコンドー

成人したら大抵の人間は潰されますね。物理的に。

本作品を最後まで読んで頂き、ありがとうございました。次の作品でお会い出来るのを感想欄を見ながらお待ちしております。

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