IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

72 / 76
久々の番外編更新です。今回はマドカのターン。


番外編#4 Mの一日/お出かけタイム

「暇だ・・・・」

 

テーブルに突っ伏しながら、マドカはそう独りごちる。基本的に探偵事務所での仕事は書類整理や簡単な掃除、依頼人への応対などで外に出る事は殆ど無い。ダーツもビリヤードも最初こそは暇潰しにやっていたが、続けている内にやり飽きてしまった。

 

フィリップに相手をしてもらおうにも十中八九何時もの検索中毒で何かを調べて邪魔をしようにも出来ない。

 

「仕事も全て片付けてしまったし・・・・どうすれば良い・・・・・?」

 

事務所での日々には慣れ始めて来た。だが実質一人だけで留守番と言うのも余りにも退屈過ぎる。いっそこのまま少し眠ってしまおうかと思ったが、他に依頼人がもし駆け込んで来たら自分しか応対出来る者はいない為そう言う訳にも行かない。

 

「何とか出来ない物だろうか?」

 

そう思った矢先、玄関のドアが開く。

 

「よー、マドカ。暇か?」

 

戸口から首を突っ込んで来たのは一夏だった。

 

「兄さんか・・・・暇で死にそうだ。何とか出来ないか?」

 

ぐてーっとしたマドカの様子を見て苦笑しながらワシワシと彼女のふわふわな手触りの髪の毛を撫で付ける。

 

「何でずっとここにいるんだよ?」

 

「事務所を空ける訳には行かないだろう?もし他に依頼人が来たらどうするんだ?」

 

「いや、お前が依頼を受けて出張ったらそれこそどうすんのさ。フィリップさんはよっぽどの事がない限り外出しないし、許可取れば別に少し位なら抜けても怒られないぞ?」

 

「いや・・・・しかし・・・・」

 

このままでは埒が空かないと、一夏は地下の格納庫に繋がるドアを空けると、下にある大量のホワイトボードに書かれた文字と数字の羅列と睨めっこしているフィリップに呼び掛けた。

 

「フィリップさん、ちょっとマドカの事借りますよ。」

 

「ああ、好きにしたまえ。実は今数学上の未解決問題の事を検索していてね。ここにあるホワイトボードだけでは足りないんだ。マーカーもそろそろインクが切れてしまうが・・・・・ん・・・?なるほど、そうか。こうすれば・・・・おお〜。実に興味深い。」

 

許可を取ると、一夏は直ぐにマドカの手を掴んで事務所を飛び出した。

 

「兄さん、どこへ連れて行くつもりだ?!」

 

半ば拉致されて引き摺られるかの様に手を引かれ、マドカの何時もの冷静さはどこにも無い。

 

「デートだ。」

 

「デ、何だと?!」

 

マドカは面食らった。デートなどと何を言っているのだろうかこの男は。

 

「それと、質問に一つ答えろ。お前、服まさか無地の白黒だけしか無いとか言わないよな?」

 

一夏は黒いスラックスに革靴、上は青いワイシャツに白いネクタイと薄手の黒いトレンチコート、更に薄くワックスで固めた髪に伊達眼鏡を含むアクセサリ—も幾つか着用している。対するマドカは、白いワイシャツにスリムフィットの真っ黒いジーンズだけだ。腕時計などのアクセサリーは疎か化粧すらしていない。

 

「ワイシャツなら同じのが五枚とジーンズも替えは二本あるが・・・?」

 

一夏はこめかみを抑えた。シャルロットやセシリアが聞けば間違い無く二時間以上にも及ぶファッションの大切さを雄弁に語る説教をするだろう。ラウラですらようやくお洒落に目覚めたと言うのに、ここに来てもう一人いたとは。

 

「よし、行き先は決まった。キリキリ歩け妹よ。今からお前にファッションの極意(ヌリ)を教えてやるぜ、極意(ヌリ)を。」

 

亜樹子ならばこの様な事になる前に何らかの対処をしていた筈なのに、何をやっているんだ。一夏はそう思いながらも懐からワイバーフォンを引っ張り出してある場所に電話をかけた。

 

「あーもしもし。俺っす。良いの一人見つけたんで、見繕ってくれません?はい。はい。おおぅ、それはどうも。はい、ありがとうございます。」

 

携帯を再び懐にしまい込み、一夏は満面の笑みを作る。何か良からぬ事を企むわんぱく坊主の様な、兎も角良い歳をした青年がする様な顔ではなかった。マドカすらも若干引き笑いを浮かべている。

 

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。」

 

マドカが連れられたのは、Third Surfaceと筆記体の看板を掲げた大型ブティックだった。

 

「やっほー、スタッフの皆すわぁ〜ん。とりあえず、彼女に白黒以外で色々と見て下さい。アクセサリーも幾つか見繕って頂ければ。」

 

「かしこまりました。」

 

何やら自分の身に何かが降り掛かる様な気を感じ取ったマドカは静かに退店しようとしたが、こけてしまった。みると、いつの間にかスコーピオショックのワイヤーが踝に巻き付いている。

 

「逃げるなよ、マドカ?自慢じゃないが俺は学園では学年代表のファッションリーダーだ。心配しなくても最終的な選定は俺がやるし、費用も俺が持つから安心しなさ〜い。あ、多分抵抗は続くと思うんで、縛っちゃれ〜。」

 

それでも尚逃げようとするマドカを、従業員の一人がスパイダーマン顔負けの素早さで巻き尺二つを駆使して彼女を縛り上げた。

 

「な、兄さん何を!?やーめーろーーーー、はーなーせーーー!!!」

 

バタバタ暴れるマドカだったが全く無駄だった。従業員三人に担ぎ上げられ、奥にある試着室へと担ぎ込まれて行く。

 

「時間はどれ位掛かります?」

 

「そうですね・・・・二十分もあれば大体お眼鏡に敵う物は揃えられるかと。新作のフリル三昧もありますよ。」

 

「パーフェクトです、店長。是非お願いします。」

 

「これからもどうぞご贔屓に。」

 

店長が封筒をそっとコートポケットに落とした。店の割引券が十数枚入っている。Third Surfaceはここ最近月刊のファッション雑誌のトップを何度も飾っている有名店だが、それには当然理由がある。一夏だ。既にIS学園内では生徒は疎か教師にも高値で(秘密裏に)写真集が売買されている上、相変わらず続けているお悩み相談でも服装や化粧品などのアドバイスを出しているのだ。

 

そして紹介先がこの店である。刀奈や簪、更には千冬とも足繁く通っているため既に店長以下店員の間では彼を知らない者はいない。

 

「勿論。可愛い娘や綺麗な人、その内またたーくさん連れて来ますから。いつも良い品をありがとうございます。んじゃ、ちょっと化粧品売り場の方に言ってるんで。あ、写真はこれに収めといて下さい。」

 

「勿論です。」

 

小型のデジタルカメラをその場に残し、化粧品売り場に駆け込んだ。次の探し物は香水である。

 

「香りは大して気ににならないし、持続時間もそれなりだからオーデトワレで行くか。エキゾチックさの一品とシンプル・イズ・ベストの物になるな。さて、マドカに似合いそうな奴は、と・・・・・・お。」

 

目に止まったのが、シプレ系のラベルが張ってある瓶だ。

 

「アニマリックと・・・・フローラル・グリーンで行くか。よし。」

 

最後に『お手軽化粧品セット・入門編』なる小さな化粧箱を購入し、急いで Third Surface に戻った。そこにはぐったりと椅子に座っているマドカと何やらスッキリした様子の店員数名、そして服と靴が数種類積み重なっている。

 

「いやー、良い仕事しましたね店長。」

 

「そうですねー、服は着る人を選ぶって言うけどほんとその通りですよ。」

 

「その様子じゃ上手く行ったね。」

 

「はい。こちらも大変有意義な時間を過ごせました。」

 

会計を済ませると、一夏はマドカと手を繋いでほくほく顔で事務所への帰路についた。マドカは現在紫色のレース付きキャミソールにグレーのデニムショーツと同色のニーハイソックス、そしてコンバースに身を包んでいる。やはり馴れないのか露わになった肩や脇、太腿をしきりに気にしていた。

 

「兄さん、肩と脇がスースーする・・・・それに、この靴だともしこけたら足首が碌に保護出来ないぞ。」

 

「う・る・さ・い。」

 

袋の中からワークキャップを取り出して頭に落とした。

 

「一々戦術的優位性(タクティカル・アドバンテージ)を気にする必要は無い。マドカは可愛いんだからお洒落しないと。まあ、これから馴れれば良いんだよ、これから。もう道具の様に扱われる事も無い。誰かのコピーと思う事も無い。普通の女の子の生活を謳歌出来るんだ。その為にはまずお洒落だ。いやー、にしても中々上手く着こなせてるぞ。すっげえ可愛い。」

 

「み、見るな!写真も消せ!今すぐ消せ、全部!」

 

バタバタと一夏の手からワイバーフォンをもぎ取ろうと奮闘するが、身長、体格、腕の長さ、全て劣っている為、顔を押さえ付けられたまま腕をバタバタさせるだけとなった。端から見ればからかわれた妹が面倒見の良い兄に仕返しをしようとしている風に見える。

 

「やーだ。これは後々使えると思うから持っておく。それに、マドカと一緒に取った写真は段々増えて来ているとしても、マドカだけが写っている写真は殆ど無いからさ。まあ俺の昔の写真も殆ど無いけど。」

 

そんな時、遠方から悲鳴と断続的に爆竹が破裂する様な音が聞こえた。

 

「兄さん、あれを。」

 

マドカが指差した先では、暴力団員らしき人物多数が白昼堂々互いに向かって銃を突き付けて口々に罵声を浴びせ合っている。

 

「おいおい、何をはしゃいでやがるんだ。ロケット花火を初めて打ち上げるガキじゃあるまいし。真っ昼間からパンパカ撃つなんて迷惑千万だぜあのとっちゃん連中。マドカ、まだ銃の腕前、まだ鈍ってねえよな。」

 

「勿論だ。」

 

一夏はトレンチコートの内側からH&K MP7A1を取り出してマドカに渡すと、自分はH&K Mk23を二丁引き抜いた。

 

「四十連発のバナナマガジン二つを連結出来る様にしてある。殺傷能力は極限まで抑えてある麻酔ゴム弾だ。辺り所が悪けりゃ死ぬが、普通に食らったら二時間はまともに喋る事も出来なくなる程度の威力だ。ああ、それとマガジンそれしかないから、無駄弾は撃つなよ。」

 

「了解。」

 

サイレンサーをしっかりと銃口に嵌め込んであるのを確認し、薬室に初弾を送り込んだ。

 

「兄さん、幾ら手が大きくても2丁拳銃をやるには大き過ぎやしないか?」

 

「大丈夫だって。久々の狩りじゃ♪」

 

「狩りじゃ・・・」

 

二人の目が空ろになり、怪しい光が差し込んだ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。