IS x W Rebirth of the White Demon 作:i-pod男
ではどうぞ!
土曜の朝、通常授業は無いのだが緊張と興奮が食堂を占めていた。今日IS学園では学園祭が開かれるのである。故に早朝から既に生徒の何人かはクラスの出し物に何の不備もないか最終確認の作業に取り掛かっている。
「しっかしなあ・・・・・ラウラの奴め・・・・」
恨めしそうにラウラの名を呟くのは、漆黒の燕尾服に袖を通す一夏だ。今から一週間と少し前に出し物を決める為の会議が行われ、意外にもラウラが喫茶店を提案した。経費の回収も可能となり、余った分は売り上げとなる。衣装はどうするんだと何名かが訪ねたが、シャルロットがツテがあるから問題無いと胸を張った為、結局そのまま決定してしまった。一夏自身は厨房かどこかで裏方に徹しようとしていたが、全員に却下され、執事服を着て給仕をする事になった。
「あーあ・・・・疲れちまうなあ。」
唯一の男子である為、客寄せに使われる事は目に見えているがそれでも愚痴を零さずにはいられない。だが別に燕尾服を着るのが嫌だと言う訳では無い。好きこそ物の上手なれと言う諺がある様に、寧ろ仮装や変装はかなり好きだし、好きである故に得意なのだ。小道具も案外簡単に揃えられる。問題は休憩無しで働き詰めになるのではないかと言う懸念だ。彼自身休息と言う物が必要だし、折角の学園祭を恋人と回れないと言うのは頂けない。何より二人が一緒に回れないのを知った時の落胆振りを想像してしまうと心苦しいを通り越して気が気では無い。
「けどまあ・・・・・そこら辺は何とか抜けてみるか。」
だがそこを何とかするのが男と言う物だ。気合いを入れ直した一夏は雰囲気を出す為に長くなり始めた髪をワックスでオールバックにセットし、簪のスペアの伊達眼鏡をかけた。最後にネクタイの結び目を直し、手袋を嵌めて準備を整える。最後に姿見の前に立ち、役作りの最終調整として何度か執事らしい振る舞いや言葉遣いを念の為にリハーサルすると、教室のドアを開いた。
「皆さん、お早うございます。今日は沢山のお客様に来て頂くので、呉々も粗相の無い様に。おもてなしだけでなく、準備も恙無く迅速に済ませますよ。」
手を叩き合わせてそう言い放った直後、約一分の間教室が水を打った様に一瞬にして静まり返った。作業中の者でさえ手を止めて一夏の方を見ている。
「ほ、本物だ・・・・本物の執事がここにいるわ・・・・・」
ふと誰かが零したその言葉で再び一組のクラスが活気と言う名の炎で燃え上がった。
「誰か!先輩に連絡して!夏のコミケに使うお題は『執事』よ!主との主従を超えた禁断の関係も良し、他の使用人との真夜中の逢い引きも良し!急いで!」
「ラジャー!」
「メニューに記載された物は全て作り置きを揃えてあるので一先ずは大丈夫でしょう。ラウラ、茶葉とコーヒー豆、後、使える市販のお菓子の数は?」
「た、足りるとは思うが・・・・・」
一夏の役の嵌りっぷりに押されながらもメイド服姿のラウラはおずおずと答えた。
「思う、では困ります。材料が足りなくなってしまえば一々学園を出て買いに行く事は早々出来ません。お客様をお待たせするのは多少は仕方ありませんが、使用人たるもの全ては確実に、正確に、そして迅速に、です。幸いまだ時間は充分ありますので、今から書くメモを持って全速力で購入して下さい。料金は私のポケットマネーからお支払いします。」
バイブルサイズの革張り手帳に箇条書きでコーヒー豆や茶葉の銘柄、その他のお菓子、そしてその量を手早く書き留め、そのページを破り取って紙幣の詰まった封筒と一緒に押し付けた。
「お釣りと領収書は後で受け取ります。さあ、急いで!Schnell schnell schnell(早く早く早く)!!!」
「Jawohl(了解)!」
手を叩くごとに一歩ずつ迫って来る一夏の迫力にラウラは小刻みに何度も頷き、脱兎の如く教室を飛び出して行った。
「セシリア。」
「はい?」
「食器の正確な数を。」
「えーと・・・・五百人分近くはありますわね。」
「よろしい。誰も何も割ったりしない様に細心の注意を払って下さい。さてと。」
一夏は教室中を何度もぐるぐると回ってはテーブルの微妙なズレを正したり、僅かばかりの埃を丹念に掃除したり、食器を磨き直したりと病的と言わざるを得ない程神経質にチェックを重ねた。
「皆さん、お疲れ様でした。皆さんのお陰でお客様を受け入れる準備は全て整いました。外にヘルシーなおやつを用意してありますので、どうぞごゆっくりご賞味下さい。食べカスを零さず、服を汚さず、ゴミは全てゴミ箱に入れる様に。よろしいですね?」
「は〜い!」
全員が教室の外に出たのを確認した所で、一夏もまた人知れずその場を後にした。向かった先は、生徒会室。一度ノックして入るとソファーの一つに虚が資料を纏めたファイルと睨めっこをしていた。
「虚さん、まだ見てなかったんですか?その資料纏めるの結構時間掛かったんですよ?弾のプロフィール。」
そう、虚がテーブルの上に乗っている目玉クリップで纏められた二十枚の紙は、一夏が知りうる弾のプライベートを除く情報のほぼ全てが事細かく記載されていた。これを彼女に渡したのは随分前なのだが、未だに一度も開いた事が無いらしい。唯一知っているのは顔と名前だけだ。
「・・・・けど、やっぱり初対面の方の全てを知っているって何だかマナー違反と言うか、ずるいと言うか・・・・・」
「虚さん。彼氏欲しいんですか、欲しくないんですか?」
「お、男友達は、欲しいですけど、彼氏なんてまだ・・・・・」
普段はてきぱきと執務をこなす虚の相も変わらない二の足の踏みっぷりに段々と辟易し始めた一夏はセットした髪を思い切りかきむしりたい衝動に駆られた。
「とにかく!男の気を引きたいならまずやる気を持つ事です。弾も明るくてポジティブな性格の持ち主ですけど、こう言う事に関しては結構ヘタレなんでどっちかがイニシアチブを握らないと始まりません!今日の虚さんの課題は二つです。一つは、交際の基礎のきの字である連絡先の交換。壁の華を決め込むのを今日で最後にしましょう。二つ目は何らかの共同作業。共通の趣味は料理ですから、料理部で二人で何かやって下さい。更に他の物で何かすれば尚良いです。しかし、必ずっ!二人で!」
二人で、の所を特に強調しながら資料をずいっと彼女の方に押し出した。
「自分で言うのもアレですけど、俺、学園の中じゃ誰よりも色恋沙汰のエキスパートですよ?姉妹のハートを鷲掴みにしたんですから。見た所こう言う事を話せる相手もいないでしょうし。信じて下さい。それでは、good luck。逃げないで下さいね?そろそろ始まるんで、失礼します。」
恭しく頭を下げ、足早に一夏は教室に戻った。戻りながら携帯を引っ張り出し、弾に電話をかける。コールは一回待っただけで直ぐに繋がった。
「弾。今どこだ?」
『もうすぐ学園のモノレールに乗る所だけど?』
「蘭と、弾吾さん、後千鶴さんも一緒だよな?」
『あ、ああ。けど、呼んでどうするんだ?』
「そこは、
これ以上無いと言う位歓喜に満ち満ちた笑みを浮かべ、一夏は通話を切り、マナーモードに設定してから再びポケットにしまった。
「では、始めましょう。心揺さぶるステップと音楽のパジェントを。」
一年一組のご奉仕喫茶は、大成功の一言だった。教室の前では生徒が長蛇の列を成し、接客されるのを今か今かと待ち構えている。この調子では碌な休憩も取れやしない。その思いを必死に表情に出さない様に努めながら一夏は営業スマイルを振り撒く。
「では、少々お待ち下さい。」
注文を取ってから裏に回り、大きく溜め息をついて座り込んだ。
「ここまで疲れるのも久し振りだな・・・・あー、休憩したい。」
ボトルの麦茶を一気飲みすると立ち上がった。
「出来るわよ?三十分だけだけど。」
メイド服に身を包んだクラスメイトの一人が一夏の切実なリクエストに答えた。
「まじすか?」
「うん。でも、ほんと三十分だけだから。休めるうちに休んどいて。ここの看板て一番リアリティー醸し出してる織斑君だし。倒れられちゃ皆が困るのよ。」
「ではお言葉に甘えて。」
オールバックに固められた髪からワックスを落とし、振り乱した。手袋と眼鏡を外してポケットに収め、鼠色のチョッキのポケットに入った懐中時計を開いた。
「三十分か・・・・長い様な短い様な・・・・よし、行くか。まずは四組だな。」
リボン型のネクタイは兎も角、燕尾服は目立つ。ベストのボタンを全て外し、予め用意しておいたウィンドスケールのネクタイと帽子を被った。
「さて、遊ぶか。」
最近聞き始めたスウィングジャズの歌詞を口ずさみながら歩調をリズムに合わせてダンディーに闊歩する一夏はまるで1930年から40年からタイムスリップして来たかの様で、燕尾服でなくともハッキリと目立った。
四組では定番のお化け屋敷をやっており、時折悲鳴や驚きの声が聞こえる。やはり四組には整備科所属の生徒が半数近くを占めるのでこの手の仕掛け作りや工作はお手の物なのだろう。丁度教室の外にある簡易の休憩室で簪が団扇で自分を扇いでいた。やはり空調がされている教室とは言え、暗い為に多少暑苦しい様だ。
「よう、簪。お疲れ。」
「あ、一夏・・・・?」
簪は血痕を思わせる赤い染みが所々付いている死に装束に身を包んでおり、元々色白の肌がより一層化粧の所為で白く見える。
「お化けの役?」
「うん・・・・・くじ引きで・・・・あんまり怖くないって・・・・」
やはりそこまではっきり言われるとへこむのだろう。
「まあ、そこら辺は向き不向きがあるしなあ。けど簪みたいな可愛いお化けなら三途の川を渡るのがバカンスに感じられるよ。所で今、三十分位の時間はある?」
「ん、大丈夫。」
「どこ行きたい?」
「ん〜っとねえ・・・・」
簪に手を引かれて向かった先は、アニメ研究部だった。
「簪さん?何故にワテクシはこげな所へ?・・・・・まさか夏のコミケネタに・・・・悪魔で執事の役をやらされるの?てか初版限定のフルカラーバージョン買うつもりですよね?」
「一夏は・・・・嫌?」
天使の様な上目遣いなのに、何故か簪の背後に小さな悪魔の羽とぴょこぴょこ動き回る尻尾が見えた気がした。この様に『お願い』されると一夏はめっぽう弱くなり、九割型あっさりと誘惑に負けてしまう。
「・・・・モデル代はキッチリ請求するからそのつもりで。」
今回もまた例外では無い。
「あー、来た来た来た!待ってたよ織斑く〜ん!」
何故か一丸レフカメラを首から下げた新聞部の黛薫子もその場にいた。
嵌められた。元凶はお前かと一夏は拳を握る。彼女が持っている高そうなカメラをバラバラに分解して、部品とフィルムを少しずつ足で踏み潰すのを見せつける事が出来ればどれ程スッキリする事か。
「・・・・俺も時間無いんで、早くお願いします。」
いつの間に持って来たのか、クラスメイトが脱いでいた燕尾服とネクタイを持って来た。手早く着替えて言われるままに様々なポーズを取り、描き終わるまでその姿勢を維持する。
ここまで逃げ出したくなると思ったのは久し振りだなと心の中で苦笑し、いっそこのままラウラとシャルロットが転校して来た時みたいに『あいきゃんふら〜い』と言いつつ窓から飛び降りて逃走した方が良いのではとすら思う。だが、簪がいる手前そうする訳にも行かない。
「う〜ん・・・・よし、出来た!織斑君ありがとうね!」
「これで最後ですよね?」
「うん。」
永遠にも等しく感じられた筈なのにまだ十分しか経過ししていない。さっさと退散して貴重な残り二十分弱で簪と遊び倒さなければ。
「後で請求書送るから覚悟して下さい。」
そう言い捨てて、一夏は簪の手を握ったまま部室を出た。
「・・・・怒ってる・・・・?」
「いや、怒ってはいない。ただ事前に言って貰えれば時間空けられたのになと思ってるだけで。だ・か・ら、ちょっと迷惑代の前払いを頂きますよ、『お嬢様』?」
廊下の角に簪を連れ込み、小さくキスをしていたがそれも段々とエスカレートさせ、かなり激しいディープキスにして行く。それこそ彼女の魂を余す所無くすすり上げてたっぷりと味わう悪魔の様に。
「あー・・・・・悪い、取り込み中だったか?」
「ん?」
聞き慣れた声がしたので振り向くと、弾を筆頭に妹の蘭、そして今や知名度がかなり上がり始めたダンサーの稲本弾吾とパートナーの星野千鶴がいた。全員お揃いの弾吾は気まずそうに目を逸らし、千鶴と蘭は顔が真っ赤になっていた。公共の場でキスをしているカップルなどそうそう見ない為に免疫がないのだろう。
「ああ、ごめんごめん。ちょっとな。で?どうした?」
「迷っちまってさ。その〜、ステージがある第三アリーナ?ってどこなんだ?」
「あ〜、そうだった。すまん。今の今まで地図送るの忘れてたわ。」
「一夏さんらしからぬミスですね。」
「だから謝ってんだろうが、蘭。」
携帯を取り出して弾にアリーナへの地図を送った。それと同時に虚宛てのメールを密かに送信する。と言うのも、現在彼らがいるのは虚が書類整理をしている生徒会室とはそう離れていない場所だ。彼女が弾と鉢合わせるのは最早時間の問題だ。後は、偶然を装って鉢合う様に誘導するだけ。
連絡を受けて虚は生徒会室を出た。一夏と目が合い、ウィンクが来た。会話開始の合図である。
「あ、織斑君。」
「おー、虚先輩。お疲れっす。」
「そちらの方々は・・・?」
「えー、後ろにいる大人の二人はプロダンサーの稲本弾吾さんと星野千鶴さん。事務所の上司とのツテで知り合いました。赤毛の二人は中学からの友達で五反田弾と妹の蘭。実家が食堂をやってて、美味いんですよ。」
「そ、そうですか。三年の布仏虚です。生徒会に」
やはり多少の緊張は隠せないのか、虚の表情は硬く、普段ははっきり喋るのに少しぎこちない。
「一夏さん、ここって部活でダンスってあります?」
一夏がやろうとしている事を察したのか、蘭はそう訪ねた。
「あるぞ。行ってみるか?案内するぞ。」
「はい!弾吾さんも千鶴さんも早く早く!」
二人の手を引っ張って蘭は大はしゃぎで一夏と簪の後を追った。そして廊下でポツンと取り残された弾と虚。
「・・・・そ、その・・・・五反田さんは、やっぱり料理は得意なんでしゅか?」
噛んだ。思いっきり噛んでしまった。虚は羞恥で逃げ出したくなったが、ほぼ間違い無く一夏が監視している為それも不可能だ。
「ま、まあ、ホント人並み程度の物っスよ。一番美味いのはじいちゃんの、いや祖父の料理ですね。給食番長ならぬ料理番長ですから。アハ、アハハハハ・・・・」
弾も心臓が破れそうな程に緊張していた。何日か前に一夏に彼女の事を話されたが、聞けば聞く程興味が湧いた。写真を見せられて、どストライクだ。出来るかどうかは分からないが、あわよくば彼女のハートを射止められればと考えると、自然にダンスの練習にも何時もの倍以上は身が入った。
「そ、それでは、うちの料理部に行ってみませんか?参考になると思いますし・・・・」
「じゃあ、お言葉に甘えて・・・・」
二人は並んで歩いたが、終始無言だった。全くと言って良い程会話が弾まない。二人が同時に声を上げてはお先にどうぞの水掛け論が再三再四続く。そうこうしている内に料理部の部室でもある家庭科の教室を開くと、部員達が様々な料理を作っている最中だった。
「おおお〜〜〜〜〜すげええええええ!」
料理が好きな弾にとって完璧な設備を整えたIS学園の家庭科教室は正しく
「体験で、ここで料理を作る事も出来るんですけど・・・・・」
「え?良いんスか、勝手に備品使っちゃって?一夏のダチとは言っても俺、部外者っスよ?」
「大丈夫ですっ。私が何とかしますから。ですからそ、その・・・よ、良かったら一緒に・・・一緒に何か作りませんか?!」
これを聞いて、弾は深く一夏に感謝した。もろ自分のタイプの女性とこれ程までに喋ったのは覚えている限りでは初めてだ。ピシッと姿勢を正し、腰から俺的零に直角を作って頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
こんな調子で二人は早速料理を始めた。始めたは良いのだが、普段要領がいい二人は互いの事を意識し過ぎるあまり、普段なら絶対にあり得ない包丁で指を切ったり塩と砂糖を間違えたり鍋に触れて火傷をしたりと、凡ミスを連発した。
キャプチャーフライでこの一部始終をワイバーフォンの画面から見ていた一夏は歯痒さで一杯だったが、二人の迷走振りを見て笑い転げていた。
「ぎゃはははははははは!!弾・・・・初心にも程があるぞっくはははははっ!・・・虚さんも虚さんだし。何の話をすれば良いかちゃんとイヒヒヒヒ書いといただろうが!!ったくもう〜〜あっはははは!!!!あ〜腹いてえ・・・・!!」
「すいません、一夏さん。ウチの馬鹿兄が・・・・」
兄の馬鹿さ加減を謝罪しつつ、蘭も笑っていた。兄の七転八倒する姿もそうだが、燕尾服姿で執事を演じていた一夏が抱腹絶倒するシュールな絵の方がツボらしい。
「まあ、二人の感情を操る事なんて出来ないしここは地道にやるしか無い。弾吾さんも千鶴さんもすいません、巻き込んじゃって。」
「そんぐらい良いって、別に。」
「そうそう。好きな女の子の一人はいないとね。折角の高校ライフなんだしさ。それより早くアリーナに案内して!」
人前で踊る事が待ち切れない様で、千鶴は忙しなくステップを踏んでいた。
「織斑君!急いで戻って!今ちょっとヤバいから!」
案内しようとした矢先、メイド服姿のクラスメイトが息せき切ってやって来た。三人には悪いがアリ—ナには自力で行ってもらうしか無い。弾に送信したのと同じ地図を携帯から送り、教室に戻った。列は短くなってはいるが満席だ。
「お待たせいたしました。ちょっとした・・・・野暮用がありましたので。お詫びと言っては何ですが、ちょっとした余興をご覧に入れましょう。」
手近なテーブルのクロスを引っ張った。当然、テーブルに於いてある物は何一つ落ちていない。その大きなクロスで大きな筒を作り、三つ数えると中からメイド服姿のシャルロットがお辞儀をして現れた。当然クロスには何の仕掛けも無い。
「では、こちらにいる若きマジシャンと共にお客様を魔法の世界へとご招待いたします。」
一夏が両手を叩き合わせた瞬間、そこから突如炎が噴き出した。直ぐにそれは消え、新品のトランプの束がそれぞれの手に収まっている。その内の一つをシャルロットが取って両手に挟み込むと、一瞬にしてそれは一羽の鳩となった。鳩にまたクロスをかぶせて三つ数えて取り払うと、小さな花束に、もう一度同じ手順を繰り返すと一メートル弱のステッキに変化する。
次々と二人が引き起こす摩訶不思議な現象に只の客から観客へと変わった生徒達はもう釘付けだ。
「さて、では・・・・そこのお嬢様、お手伝い頂けませんか?」
ギャラリーを見渡し、一夏は手近な人にシャッフルしたカードを広げて見せた。
「この中から、一枚お選び下さい。ただし、私とシャルロットさんには絶対に見せない様に。」
そうは言ったが一夏とシャルロットには既にどのカードが引かれたか分かっている。すり替えはしないと言うアピールの為にサインをして貰うと、カードを返却してもらい再びシャッフル。もう一度束を広げてそれを見せてカードがあるかどうか確認させた。
「この中に、貴方のカードはまだありますね?」
「はい。」
「では、私が今からこの束を宙に投げ上げてもらいます。そしてカードの一枚をシャルロットさんがダーツで見事壁に縫い止めてみせます。では、三、二、一!Go!」
「はいっ!」
投げ上げたカードはそこかしこに散らばった。シャルロットの手にあったダーツは一枚のカードを除いて。そしてダーツに貫かれたカードは、先程観客に選んでもらったカード、紛う事無きクラブのエースだ。
拍手喝采を浴びる中、ポケットの携帯が震えた。恐らく蘭達がそろそろ来て貰いたいのだろう。
「では、いよいよ最後の魔術をお見せします。シャルロットさんが何も無い所から現れたのとは逆に、今度は私が一瞬にしてここから消えます。Au revoir♪」
一夏はその場に膝を抱えて座り込み、シャルロットは大きなダンボール箱を彼の上にかぶせた。ステッキをくるりと回して呪文を唱えると、一夏は宣言通り煙の様に姿を消す。
「さてとぉ、いよいよ最終段階だ。」
抜け道から出た所で動き易い服に着替えた一夏は、事前に保存しておいたメールを弾、蘭、弾吾、そして千鶴の四人に送り、アリーナに向かった。既に大掛かりなステージが用意されており、観客も段々と大きくなりつつある。
「よお、お待たせ。弾、結局どうなった?」
「まあ・・・・」
弾の手は絆創膏だらけになっていた。何度も虚を見ながら包丁を使った所為で切り傷が幾つも出来たんだろう。だがそれでも勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「れ、連絡先の交換は出来たからよ・・・・」
「グッジョブ。さて、お次は皆の見せ場だ。」
マイクを持った一夏はリモコンで音楽とスポットライトを操作し始めた。
「は〜い、Everyone!学園祭は楽しんでいるか!?」
観客が沸く。
「あれれ〜?元気が無いぞ?もう一度。楽しんでいるか!?」
更に大きな歓声が上がる。
「OK、今日は俺のスペシャルなゲストを四人呼んでいます。それでは、音に乗るエキスパート、人呼んで『ビートライダーズ』を盛大な拍手でお迎え下さい!Come on!!!花道・オンステージ!!!!!」
リモコンで曲が流れ始め、四人はそれぞれ得意なダンスを披露して現れた。
「い・ち・か・く〜ん♪」
後ろから声を掛けられ、そのまま抱きつかれた。
「刀奈、お疲れ様。無理言ってごめんね。虚さんは?」
「彼が一番良く見える所に座らせといたから安心して。でも、一夏君てつくづく私以上の策士よね?良い意味で。ここまで綿密な計画が実現するなんて考えもしなかった。」
「いや、友人として彼女が欲しいって願いを叶えただけだから。まあ、こっから先はあいつ次第だけど。」
一夏は刀奈の肩を抱きながら弾と虚の恋愛成就を願い、ステージで元気一杯でパワフルな肩を軸に回るブレイクダンスのウィンドミルを披露する弾と彼を支える三人のチームメンバーのパフォーマンスを最後まで見届けた。
「一夏君、後で執事服着て部屋に来てね?」
「・・・・・・何をするつもり?」
「ひ・み・つ。」
いやー、書いた書いた。一万文字近くだ。でもここまで粘った甲斐がありました。UAも16万突破です。本当に応援ありがとうございます。
ちなみに四人のパフォーマンスに使われる曲は
登場BGM:鎧武サントラ 始動 鎧武
Just live more
NO WAY 〜悪漢無頼〜
風
Joker
侍
轍 WADACHI
最初の四つは鎧武のOP担当の湘南乃風、『侍』はそのメンバーのソロ、最後はDA PUMPです。どれもISの世界観にはメッセージ性があると思って選んだ曲です。