IS x W Rebirth of the White Demon 作:i-pod男
仮面ライダーWの名言を幾つか出します。やはりグッと来る台詞が多い物で。
ハネムーンの第一段階は大成功に終わった。と言うのも、ホテルに止まっている間事ある毎に何らかのサプライズが用意されているのだ。一体誰の根回しだろうかと疑問に思いながらもチェックアウトの為に部屋を出た時、掌サイズの木箱が置いてあった。その中には、シンプルなライターが入っていた。ステンレス製のケースに入ったアメリカのロンソン社のバラフレイムライターだ。幸運の印と言う考えもあってか、四葉のクローバーの刻印が側面に刻まれている。同封されていた紙切れには『ありがとう、そして幸運を』と筆記体で書かれていた。そして開いた拍子に一枚の名刺が二つ折りにされた紙切れの間から落ちた。
「ん?名刺・・・ニーナ・フリードマン・・・・って・・・・・・い、一夏君、何時この人に会ったの?」
「いや、俺は損な大層な人間に会った覚えは無いんだが。ああ、ほら。昨日火を貸してくれって言った人の事話したろ?もしかしてあの人の事か?彼女がどうかした?」
刀奈は震える手でその名刺を一夏に見せた。
「ニーナ・フリードマン、ホテルチェーン・フォルトゥナの最高経営責任者・・・・Oh, my。」
つまり昨夜マッチを渡したあの女性こそがこの名刺の持ち主と言う事だ。これならば一連の用意されたサービスやサプライズが誰の仕業か、ようやく納得が行った。全てを纏めるトップの役職に就いた彼女ならばその程度は朝飯前だろう。
「CEO御自らがあの会場で何やってたんだよ。しかも護衛や秘書もなしで。視察ならもっと明るい時間に出来るだろうに。でもまあ、これで貴重なパイプが出来たんじゃない?家族旅行の時もサービスして貰えたりして。」
「あ、それもそうか。」
「さてと、チェックアウトが終わったら空港に向かうよ。こっから先はもう小手調べじゃない。
「一夏、次はどこに行くの?」
「まあ、空港に行けば直ぐに分かる事だけど、今は内緒。」
北大西洋を渡りながら南西に下り、三人はプエルトリコの国際空港に降り立った。着陸前に飛行機の中で動き易く生地が薄い服に着替えている。そしてタクシーで天次郎から貰ったメモに書かれた住所へと向かい、三人は感嘆の声を上げた。
「すげえええええええーーーーーーーー・・・・・!!」
天次郎から海から少しばかり離れたこぢんまりとしたビーチハウスだと言っていたが、一夏が考える『こぢんまり』は天次郎の『こぢんまり』とは天と地程の隔たりがあった。
「何ここ、ただのビーチハウスじゃないじゃん!!ていうか軽くビーチハウス二つ分の大きさでしょ?!しかもこの砂浜の大部分が私有地よね?!」
「良いじゃない、お姉ちゃん。暑くなると思ってたのに平均気温がこれ位なら全然過ごし易いし。でも一夏、いつの間にこんな所見つけたの?」
「あー、まあな。知り合いのまた知り合いのコネで、ちょっと。」
事実であるとは言えまさか父親の根回しだ、とは言えない。
「ん〜〜、な〜んかお日様が何時もより近くにある気がして気持ち良い!」
刀奈は後部座席から差し込む日差しに当たりながら伸びをした。
「プエルトリコは亜熱帯だからな。さてと、荷物を降ろしたら二人はまず何をしたい?」
「ショッピング!」
声を合わせる二人に、一夏は小さく笑った。やはりこの二人が一緒ならばたとえ紛争地の真っ只中にいようとパラダイスになる。
「・・・・・何故に?」
「も〜〜、分かってないなあ。水着選んでもらう為に決まってるでしょ?簪ちゃんのビキニ姿見たくないの〜?私も体のラインが出易い水着にしたいと思ってるのになぁ〜。」
更識姉妹は歳を重ねるにつれどんどん女としての魅力が見事に開花し、十人が十人擦れ違えば確実に振り向いて二度見する美貌の持ち主になった。
「水着を選ぶのは別に構わないけど、あんまり他の男に見られるってのも何かアレだし。無意識に殺意が湧いてしまう様な気がする。」
一夏は段々と自分が嫉妬深い男になりつつある事に殆ど自覚が無い上での発言だ。
ビーチハウスは年季の入った二階建ての木造だが、建物の中は一等地に建てる一軒家の作りだった。天井は高く、リビングルームも広く、システムキッチンやユニットバスは勿論、見晴らしの良い屋上のテラスにはジャグジーもある。寝室は三つあり、その内の一つはキングサイズより更に大きい天蓋付きのベッドだった。
「ちょっとこれは凄過ぎるな・・・・内装はシンプルだろうと舐めて掛かるべきじゃなかった。」
静かにそう呟く一夏とは正反対に刀奈と簪は大興奮で、まるで学生時代に戻ったかの様に大はしゃぎしていた。
「凄い凄い凄い凄過ぎる〜〜〜〜〜!!!」
「やっぱり、一夏と結婚して良かった・・・・ん〜ちゅ。」
二人の喜び様を見て一夏は安堵の溜め息をついた。
「そう言ってもらえて俺も嬉しいよ。さてと、では早速買い物に行こうか。水着は厳選しちゃいます。」
「「やったぁ〜〜〜!!!」」
別棟のガレージに駐車されているダッジチャージャーSRT8を発進させ、早速ショッピングモールに向かった。三百五十馬力と言う凄まじいパワーを誇る内蔵された5.7リットルのV8エンジンは唸り声を上げながら車道を疾駆した。
「これなんかどうかな?」
刀奈が白地に細かい水色の水玉模様が幾つも付いたホルターネックビキニを、簪はネイビーブルーのフリルが付いたワンピースタイプの水着を身に付け、試着室のカーテンを引いた。
「ん〜〜、悪くはないがちょっぴり子供っぽくないか?それに下の方が紐って解け易いし。アクシデントが掟からじゃ遅い。後、ネイビーブルーって中途半端なんだよなあ、暗い色にしたいのか青にしたいのかどっち付かずで。」
「ここの水着ってそんなもんだよ。マイクロビキニよりかは遥かにマシだと思うけど?」
「いや、まあそうだけどさ・・・・」
簪の指摘に一夏は頷かずにはいられなかった。AV女優じゃあるまいし、マイクロビキニは幾らなんでもやり過ぎだろう。人目に触れさせればそれこそ一夏は悪い意味で精神的に大なり小なり何らかが崩壊してしまう。
「む〜〜、一夏君てファッションでも水着とかにも意外と細かいわね。」
「刀奈だって簪と一緒に新しい服とか買いに行く時はあんまり妥協しないだろ?こう言うのは厳選すべきだと思うんだ。俺の脳内フィルムにしっかりと焼き付けておきたいし、なにより二人は我が家の幸運と勝利の女神様だからね。」
最後の歯の浮く様な台詞も何の恥ずかし気も無く言い切られ、二人は赤面したが同時に喜びで胸が熱くなった。
「じゃあ・・・・」
再び試着室のカーテンの奥に消えた。そして二、三分程してから再び開かれる。
「はい!」
「おぉ〜〜〜!!Fantastíco(素晴らしい)!」
一夏は思わずスペイン語で感嘆の意を示した。刀奈はシンプルなアジュールブルーのビキニの上にショールにもなる同じ蒼い花柄のパレオ、そして簪は珍しく黒のビキニだ。肩から胸元にかけて黒いフリル、下も同様にフリルがついており、アクセントカラーとしてチラリと白いフリルが見え隠れした。頭にはつばの広い白の帽子を被っている。
「ふふ〜ん、良いでしょ。」
「完璧。簪も、意外性で花丸あげちゃいます。はい♪」
手を叩き合わせると、造花の青い薔薇が一輪現れた。それをそ帽子にちょんと差してやる。
「えへへ・・・・」
どうだとばかりに育って来た胸を張り、姉を見やる簪。
「む〜〜、簪ちゃんだけずる〜い!」
「ほらほら、ちゃんと用意してるから機嫌直して。えーっと、どこへやったかな?ん・・・?刀奈、耳になんか付いてるよ。」
わざとらしく手を伸ばし、両手に何も無い事を見せてから再び両手を合わせた。すると、今度は白いハイビスカスが出現した。これも刀奈の耳の後ろにちょんとさしてやる。
「うん。やはり女の美貌は花が引き立てるな。我ながら実に良く似合う。それではお待ちかねのアグアディージャ湾で一泳ぎだ。」
ビーチハウスに戻り、三人は早速モーターボートが二艘停泊している桟橋から日光を受けて煌めく海の中に飛び込んだ。打ち寄せる波は弱めで、水も生暖かい天候には丁度良かった。それに加え、密着している為お互いの体温が伝わって来る。
「あ〜〜、これぞ正に楽園だな。」
青い空、白い雲、日光を受けて煌めく白い砂浜、そして空に勝るとも劣らぬオーシャンブルーの海。ありきたりで暖かい季節でのバカンスとしては定番の設定だが、一夏は事ある毎にその設定をひっくり返して来た。
「臨海学校を思い出すなあ。」
仰向けになったままプカプカ浮かぶ一夏はどこぞの金持ちセレブの様にサングラスを額に押し上げた。
「でもあの時とは比べ物にならない位幸せ。ね、お姉ちゃん?」
「そうね。あの時とは違って私も簪ちゃんと遊べるし、一夏君の隣にいられるし、結婚も出来た。もう幸せ過ぎて死んじゃいそう。死なないけど。ねえ一夏君?」
「ん?」
「一夏は・・・・・子供、何人欲しい?」
突然の質問に一夏は口を開いた拍子に波で打ち寄せる潮水を飲み込んでしまい、激しく咳き込んだ。加えて海水の高濃度な塩分を摂取した所為で吐き気に襲われる。
「ちょ、いきなりどうした?まあそりゃ欲しくないって言ったら嘘になるけど・・・・でも、俺って父親に向いてるかなってたまに考えちまうんだ。身体的な異常は束さんの特性人間ドックで診断の結果何も無かったけど。ほら、一応昔は
「答えになってない。何人欲しいの?」
一夏の後ろ向きな発言などおかまい無しに二人は声を合わせて詰め寄った。
「三人かな。川の字二つ分て事で。男女の割合は、まあ運に任せるしか無いけど。知らんうちに名前も幾つか考えついちゃったし。」
「どんな?」
「まず刀奈の子は、男の子だったら、一夏と刀奈の最初の漢字を取って、
「なんだ、親になる気満々じゃない。」
「ね〜♪」
まだいもしない子供の名前を無意識の内に考える男が父親に向いていなくて何だろうか。自ら墓穴を掘ってしまった事に気付いた一夏は恥ずかしいやらもどかしいやらが綯い交ぜになり、不貞腐れて海の中へと潜った。そして海中で頭を抱えて悶え始める。
「あああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!何でだぁ〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?!自身無かった筈なのに何で墓穴掘っちまってるんだ俺はあああああああ!!!」
水中とは言えかなり鮮明な声で叫び、頭を掻き毟り始めた。周りを泳いでいた小魚は凄まじい音が振動となって水に伝わるのを感じて一斉に四方八方に散って行く。一度落ち着いた所で水底に沈み、考えた。父親になる自信が無いと言っていた反面、自分は子供の名前を既に考えており、何人欲しいかも粗方検討は付いている。そこで、翔太郎やフィリップが言っていた言葉が脳裏に蘇る。
『男の仕事の八割は決断で、後はおまけみたいな物だ。』
『Nobody’s perfect、完璧な人間なんていない。互いに支え合って生きて行くのが、人生と言うゲームさ。』
『対策なんて動いてから立てれば良い。僕も理屈でなく動いてみる事にするよ、翔太郎。』
そうだ。結局の所そうなのだ。自分は只怖がっている。臆病風に吹かれて二の足を踏んでいるだけだ。当然の事だが、足踏みしているだけじゃ進まない。最初の一歩を踏み出し、結果を気にしない度胸。必要なのはそれだけだ。人生に於ける荒波に対する対策なんてその時にならなければ立てようも無い。むしろ何が起こるかすら分からないのに対策だなんだと言っている方が愚かしい。
そんな単純極まり無い事をど忘れしていた自分が恥ずかしかった。もういっぱしの探偵だと三人の師に認められたと言うのに、これでは彼らに顔向け出来ない。
浮上すると、二人を力一杯抱きしめた。
「決めた。なるよ。俺は、頑張って良い父親になる。なってみせる。だから三分の一ずつ、力貸してくれよ。刀奈、簪。」
「喜んで。良かった、いつもの一夏だ。」
「同じく。勿論よ。と言う訳でこれから二週間、アッチのお相手よろしくね?ア・ナ・タ。」
それから半年程の時が経過してから刀奈は双子の女児を、簪は双子の男児を無事出産した。それも、奇跡の同時出産である。
次回はかなりの方がお待ちかねの弾 x 虚です!舞台は皆大好き学園祭!!お楽しみに。