IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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ハネムーン編は二部に分けて投稿します。その次は皆さんお待ちかねの弾x虚です!


番外編#2 沢山のL/贅沢なハネムーン 前編

「う〜〜〜〜む・・・・・どうした物か?どこにする?日本国内は論外だな。アメリカやロシアも・・・・駄目だな、ありきたり過ぎるし刀奈は代表だから絶対行ってるし、そもそも俺ロシア語って苦手だし・・・・えーっとヨーロッパ圏は殆どボツで、アジアは場合によっちゃ危ねえか。中東とかも行ってはみたいが・・・・・あ、あれ向こうから招待されない限り行けなかったな。あああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ちきしょう!!!」

 

結婚式を終えたその三日後、名実共に刀奈と簪の二人と結ばれた一夏は今や自室となった客室の一つに籠ったまま頭をひねっていた。今日からおよそ一ヶ月は三人だけで過ごせる至福の時。つまりハネムーンである。裏社会を更にその裏から牽制出来るだけの力と資産を持ち合わせている為、当然他国にも別荘を幾つか持っている。だが、ただ別荘に行くだけでは面白みが無い上、別荘があると言う事は少なくとも一度はその国に行った事があると見てほぼ間違い無い。どうせなら、未踏の国への旅であっと言わせたいのだ。

 

「うがぁ〜〜〜〜!!」

 

一夏は頭を掻き毟りながらパソコンの画面を睨み付けた。自分も最近嵌り出した煙管に火を点けて煙を噴き出した。燃えカスを灰吹きを落とすと、また煙草を雁首に詰めて煙草盆の火入れに火皿を近づけた。

 

「大分悩んでるみたいね。お母さんが助けてあげましょうか?」

 

「義母さん・・・・いや、ハネムーンの行き先をどうしたものかと思ってさ。」

 

かぐやは一夏の周りに散らばるチラシや旅行代理店の雑誌、幾つものバツ印を付けられた世界地図、そしてパソコンの画面に映るウィンドウを見て少しばかり驚いた。一体何時から調べ始めていたのだろうかと言う凄まじい量なのだから。

 

「まあ、確かに仕事の関係でとはいえ大抵の国には行ったしねえ・・・・あ、そうだ。良い所があるじゃない。歳を取ると記憶が薄れるなんて不便な話よ、もう。行くならここからここで、締めはここら辺なんてどう?」

 

かぐやはシャーペンで三つの国を線で結び、日付を書いた。

 

「まず日本からスイス、更にそこからプエルトリコ?寒い気候から真逆の暖かい所になってません?」

 

「それが良いんじゃない。」

 

分かっていないわね、と言う顔付きでペシリと一夏の肩をはたいた。

 

「こう言うのは手間暇かけてやる物なのよ。それともそんな軽い気持ちで婿入りしたのかしら?」

一夏は左手の薬指に嵌った二つのプラチナリングに目をやった。障子の隙間から差し込む日の光を受け、粲然と輝いている。かぐやの言葉に首を横に振る。違う。

 

「言うなれば春の雪解けみたいにじっくりとやらなきゃ駄目!後、アグアディージャ湾は天次郎さんがハネムーンで私を最初に連れて行ってくれた思い出の場所よ。楽しかったわぁ。酔っぱらってた時は二人の愛の巣第一号だー、なんて呼んでたの。当然、私達以外そこに別荘がある事は誰も知らない。良い所よ?気候も穏やかで海も綺麗だし。まあ途中でカルテルの麻薬戦争に巻き込まれたから帰りがてらに潰したけど。あそこまで建物が派手に吹き飛ぶとは思わなかったわ。あんなに派手に吹き飛ぶのって映画の世界だけかと思ってたのに。」

 

知りたくもない様なハネムーンの経緯を聞いて、しまったと額をぴしゃりと打つ。そうだ、こう言う規格外がデフォルトの人達の家族に婿入りしたんだった。何をどうして建物を吹き飛ばしたなんて聞いた所で頭痛が酷くなる。

 

「とりあえず騒がせるのは日本国内だけにしといてよね・・・・」

 

「じゃあ世の犯罪者全員にそれをお言いなさいな。向こうが何の前触れも無く邪魔して来たんですもの、怒るのも当然よ。命があるだけでもありがたいと思って欲しいわ、全く。」

 

「あ、その人ら生きてるんだ!?建物吹っ飛ばしたりしたとか言ってたから、皆殺しかと思ったよ。もう良いもう良い。聞きたくないから。」

 

気を取り直して試しに一夏はネットの検索エンジンでかぐやが行ったその場所を探し、現れた画像を見て目を丸くした。目に歓喜の光が宿り、口もチェシャ猫の様な大きなスマイルに変わる。これだ。正しく自分が求めていた絶好のロケーション。

 

「よし、ここにしよう。ありがと義母さん。一気にやり易くなりました。」

 

「良かった、気に入ってもらえて。不在の間は私と天次郎さんが代わりにお仕事しててあげるからね。名前も幾つか考えとくから。」

 

「またまたそんな・・・・まだ四十にすらなってないのにおばあ」

 

それ以上言える前にかぐやが一夏の顔を掴み、その際口を塞いだ。白魚の様な補足繊細な指のどこからこんな力が出て来るのだろうかと思う程の握力で顎がミシミシと嫌な音を立て始める。

 

「い・ち・か・くん?お母さんに年齢の話はしちゃいけないって言いませんでしたか?」

 

殺意満開の笑顔でどんどん握力が強くなって行く。このままでは死にはしなくとも地獄を見る事になる。

 

「はいっ!はいっ!分かりました、失礼いたしましたお母様!!だから離して!離して下さい閣下!顎が砕ける!」

 

パッと万力の様に顔を両側から締め付ける手が離れ、二人には私が連絡しておくからね、と言い残したかぐやもまた煙の様に姿を消していた。

 

「殺されるかと思ったぜ、全く・・・・よしと、早速予約を入れて、と。」

 

Eチケットと必要になる物のリストを印刷し、早速荷造りに取り掛かった。現在ショッピングを級友達と楽しんでいる今が好機だ。

 

「菖蒲、百合。」

 

「はい。」

 

「ここに。」

 

障子の向こう側に二人の女性の声がした。

 

「刀奈と簪の旅行用の荷物を纏めといて貰えないかな?色々必要になると思うけど、出来る限りコンパクトにお願い。幾ら夫でも流石に女性の部屋に勝手に入るわけにはいかないし。」

 

「承知しました。」

 

声を揃えた二人は返事をした直後にまた消えた。

 

「全く・・・・うちに人外じゃない奴はいないのか・・・?」

 

言っても詮無い愚痴を零しながら最後にもう一度煙管を吸い、自分も荷造りを始めた。

 

 

 

 

 

 

それから数時間程してから三人はファーストクラスの席に座ってスイスへと旅立った。流石ファーストクラスと言うべきか、応対の仕方は勿論手続きの容易さがエコノミーとは一線を画していた。荷物のチェックイン以外は全てラウンジで恙無く澄ませる事が出来たのだから。

 

「・・・・・いかん、更識に嫁いでから俺、金銭感覚が麻痺して来たよ。ファーストクラスとか未だに慣れないんだけど。ていうか俺ビジネスクラスで予約入れた筈なんだけど。」

 

またかぐやか天次郎が裏で糸を引いたのはほぼ間違い無いと見て良い。

 

「いやー、にしてもびっくりしたわ。結婚式からまだ三日しか経ってないのに一夏君てばもう計画練ってるんだもん。」

 

豪華な機内食と白ワインに舌鼓を打ちながら刀奈は得意そうな顔をする夫に目を向ける。

 

「こう言うのは早い目にやっておきたいんだよ。それに苦労したんだぞ?二人が今までどこに行った事が無いかバレずに検討付けるの。」

 

「ふ〜ん。そんらにお姉さんにエッチな事して欲しいのかなぁ〜?」

 

気圧が低い為に少量のアルコールでも容易に酔いが回る。その所為で若干喋り方が舌っ足らずだ

 

「お姉ちゃん!人前でそんな事言っちゃ駄目だよ・・・・・私も、したいけど・・・・」

 

「あのねえ・・・・いや、して貰うのは素直に嬉しいけど、二人は寧ろされて欲しい側でしょ?」

普段は凛としている二人だが、閨では普段では考えも付かない程に艶っぽく淫らな姿を晒す。それに学生時代にも何度も何度も肌を重ねた。それにより一夏は既に二人の弱い所を全て熟知している。

 

図星を突かれて何も言えなくなった二人の手をそっと掴んで握った。二人の左手の薬指にも一夏と同じ指輪が嵌っている。

 

「時間はたっぷりあるから、焦らない焦らない。二人はスキーかスノーボードの経験はある?」

 

「ん〜〜、やった事はあるけど随分前だしね。」

 

「同じく。」

 

「ほぉ〜。」

 

一夏はしめたとほくそ笑んだ。ならば都合が良い。これなら全てが上手く行く。

 

「なら、手取り足取り教えてあげなきゃねえ。」

 

既に一夏の頭の中ではダヴィンチの作品並みに入念で手が込んだ計画が高速で練られていた。

 

 

 

 

 

 

そして到着から数時間後、三人はスイスの中でも有数のスキーリゾートの難関コースの頂上に立っていた。空に吐くも一つ無く、青色の空からは淡い陽光が節減に降り注ぎ燦々と光を放っていた

 

「・・・・・あ、あの、一夏君?」

 

「何かな?」

 

現在三人はそのスキーリゾートの中でもかなり難関なコースの一つのスタートラインで止まっていた。更識姉妹はスキー、一夏はスノーボードだ。

 

「何で私達・・・・こんな高い所にいるの?」

 

「ISでの飛行高度とそんなに変わらない気がするんだが?」

 

二人が何故尻込みするか、一夏はイマイチ良く分からなかった。IS学園にいた頃はこれよりも上を飛んでいたのだから高速移動は馴れている筈だ。

 

「で、でも、ブランクが大きい所為でいきなりここは・・・・ねえ、簪ちゃん?」

 

「うん。ちょっと難易度が高過ぎるんじゃない?」

 

「まあまあ、動きは頭が覚えてなくても体が覚えてるから本調子になるまでそんなに時間は掛からないって。ほら、行くよ。いざピンチになったら俺が助けるから。それ!」

 

二人の背中を押して、二人は急な斜面を凄まじい勢いで滑って行く。最初は聞こえていた悲鳴も段々と遠退く。

 

「さて、俺も行くか。Yeeeeehaaaaaaaa!」

 

久し振りにエクストリームスポーツが出来る事に気分が高揚しているのか、奇声を発してから自分も二人に続いて降りて行った。一夏が操る対照的な黒いボードは降り積もった粉雪を研ぎ澄ましたエッジが白い尾を引き、曲がる度に煌めく白い波を上げる。

 

久し振りに味わう爽快感に心が踊った。それに加え先に行かせた二人も直ぐに追い抜き、一度止まると二人に手を振って自分の方に来る様に誘導した。四苦八苦しながら減速し、端に寄って二人もようやく止まった。

 

「もう・・・・一夏の意地悪!この若さで心臓麻痺で死にたくないわよ!」

 

ゴーグルを押し上げて簪が一夏に詰め寄った。

 

「いや〜、久々に二人を困らせてみたくてね。つい。」

 

「つい、じゃなーーーい!止まらなかったら死んでたかもしれないでしょ?!それでも良い訳?!」

 

ポカポカと両手で胸を殴る刀奈の手を掴んで引き寄せた。

 

「ごめん、悪ふざけが過ぎた。でも、俺がちゃんと前に出たろ?いざ止まれなくなったら俺が助けてるよ。今度はちゃんと俺がゆっくりと馴れるまで先導するから。一列で進むから、間隔には気を付けて。」

 

それから夕暮れ時まで目一杯スキーを堪能した三人は、ホテルロビーにあるビュッフェに行った。格式が高いホテルに泊まっている為ドレスコードも存在する。

 

「ま、とりあえず持って来といて良かったよ。」

 

一夏はアルマーニのスーツを着込み、赤いネクタイを締めていた。髪の毛も薄くワックスでオールバックにしており、リムレスの眼鏡をかけている。

 

「あの二人は先に行ってろと言われたが・・・・・何を着て来るつもりなんだろうか?」

 

ドレスを着るのにはあまり時間は掛からないが、レンタル品なので微妙なサイズの調整などが必要だ。そうはいっても、これ程時間が掛かるとも思えない。

 

「ま、待つのも楽しみの内ってね。」

 

待っている間に一服しようと思い、懐から煙草入れを取り出しかけたが、ホテルは喫煙出来る部屋やその他の特定の場所以外では全面禁煙だった事を思い出してポケットに押し込んだ。分からなければ吸わないに越した事は無い。

 

人が多い所為で少し温度が上がって来たので扇を開いて小さく仰ぐ。

 

「会場は多分喫煙可能だったから、そん時まで我慢するか。」

 

「すいません。」

 

後ろから英語で声を掛けられ、一夏は振り向いた。

 

「どうしました?」

 

そこには紫のパーティードレスに身を包んだブロンド美女が立っていた。指には細長い葉巻が挟まれている。

 

「ライターが故障してしまって、マッチも切らしているんです。火を貸して頂けませんか?」

 

「俺ので良ければどうぞ。」

 

しまったばかりの煙草入れからジッポライターを取り出したが、手を止めた。

 

「あれ?ここ禁煙じゃなかったですか?」

 

「あらやだ、ごめんなさい。私ったら・・・・」

 

「いえ、お構い無く。ここに来るのは初めてな物でたまに勝手が分からない所があるんですよ。そもそも俺も普通なら一日に二、三回しか吸わないですし。あ、そうそう。」

 

再びポケットを探り、新品の紙マッチのケースを差し出した。

 

「ライターが修理されるまでこれをどうぞ。本数は少ないですけど、かなり長く燃えます。」

 

「まあ、ご親切に。貴方はここへ仕事に来たの?」

 

それを聞いた一夏は思わず笑いそうになってしまった。まだ二十代の前半で海外に仕事をしに行くとは余程のエリ—トでなければあり得ない。まさか第三者の目から自分がそんな風体をしている様に見られていたとは思わなかった。

 

「いえ、旅行で。正確に言えばハネムーンですがね。」

 

「あら、新婚さんですか。おめでとうございます、そしてお幸せに。マッチ、ありがとうね。それじゃまた。」

 

その女性は会場の人込みの中に姿を消した。そう言えば名前を聞きそびれたなと思ったその時、ひやりとした物を首筋に感じた。

 

「い〜ち〜か〜?」

 

「到着早々浮気なんて、お姉さんちょ〜ッとショックよ〜?」

 

間の悪い時にあの一部始終をみられていたらしい。お揃いのインクブルーのドレスと白いコサージュを付けた二人が一夏を射抜かんばかりに睨んでいる。

 

「何を誤解してるか知らないけど、違うから。火ィ貸してくれって言うからマッチを渡して、それでちょこっと世間話しただけだから。ここに来た目的とか。もうちょい信じてくれよ。」

 

結局二人の機嫌を直すのにスイスの滞在期間の約半分を労する事となった。




ファーストクラスって、憧れますよね。自分もいつか乗りたいです。

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