IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

68 / 76
番外編は本編と違い少し、というかかなり短めになります。今回は前話の後書きで書いた世襲式の完全版です

どうぞ。

7/22 結婚式の部分を入れました。笑いありシリアスありにしたくて欲張った所為で中々筆が進まなかった事をお詫びします。


The Eternal Epic Epilogue
番外編#1:受け継がれるT/流れ流され・・・・


それから三年の月日が流れ、早くも世界は大きく変革を遂げた。ISとその技術はスポーツとしての道具ではなく、宇宙進出以外に工事や救助など社会的に貢献して生活を支える支柱の一つとして新たに広まって行った。ISに関係する法律も一新され、抜け道など存在しない条約、『永久の戒律(エターナル・コマンドメンツ)』通称EC条約が世界各国で結ばれた。

 

 

そんな中、更識の本家では、大掛かりな式が執り行われていた。本家と分家の者が皆紋付袴や着物に身を包み、上座にいる天次郎、かぐや、楯無、そして一夏の方を見ていた。天次郎は三方に乗せられた杯に並々と酒を注ぎ込み、それを一夏の方へと押し出した。

 

「本来なら、現当主である私の娘がやるべき事なのだが、今日のこの世襲式は私が執り行う。織斑一夏殿に申し上げます。貴方はその杯を飲み干されると同時に、十八代目更識楯無となられます。その杯を一気に飲み干し、懐中深くお収め願います。どうぞ。」

 

一夏はその杯を両手に取り、一気に飲み干したが、酒が口に入った瞬間焼ける様な感覚に襲われた。かなり辛口の清酒らしい。だが表情には出さず、杯を絹で出来た布で慎重に包み、懐に収めた。最後に向かいの座布団に座っている楯無と座る場所を入れ替える。

 

「それでは、三本締めで締めさせて頂きます。皆様、御手を拝借。よぉ〜、ハッ!」

 

三本締めの直後、膳に乗せられた料理が次々と運び込まれて来た。

 

「さてと、今日は無礼講だ。派手に騒いで良し。潰れない程度に飲んでいいからね。かぐや、舞を披露してくれるかな?」

 

「は〜い!」

 

かぐやは扇子を手に持ち中心に立つと、天次郎は三味線をばちで弾き始めた。

 

「おぉ・・・・」

 

流石生粋の日本人と言うべきか、天次郎は小首をかしげた仕草と良い女性並みにきめ細かい肌と良い、普通の男では到底持ちえない色っぽさを醸し出していた。かぐやもまた優雅に舞を踊り、宴席がしんと静まり返り、只々見惚れるばかりだ。

 

「む〜・・・・」

 

「お、お姉ちゃん・・・・」

 

皆が静観する最中、現時点で最早『楯無』では無くなった刀奈は不満そうに一夏の方を見ていた。と言うのも、一夏は向かいの座布団に座っているのだが、二人の距離は数メートルある。加えて一夏は無礼講と言う事で羽目を外した更識に従う部下達に囲まれていた。様々な料理は勿論、酒も進められている。最早未成年ではなくなったし、断るのも失礼だ。飲むわ食うわ応対するわで忙しく、刀奈や簪とは宴席で一言も喋る事が出来ないのだ。機嫌が悪くなるのも無理は無い。

 

「夜まで待てば・・・・」

 

「そうだけど・・・・話したい事が一杯あるんだもん。」

 

「話したい事?例えば?」

 

「結婚式の日取りとか、新婚旅行の日数とか、行き先とか、子供が何人欲しいかとか、名前とか、色々あるでしょ?」

 

自分の姉は一体全体どこまで壮大な将来の計画を練るつもりなのだろうか?簪はそう思いながら苦笑するしかなかった。だが本音を言えば、自分も彼女と同じ気持ちだった。話したい事は沢山ある。だがこの人垣を超える事はかなり難しいだろう。

 

だが、ここで天次郎が二人に救いの手を差し伸べた。

 

「こらこら、君達。無礼講だとは言ったけど、あまり彼を追い詰めてやらないでくれ。そんな風に囲んでいたら娘達と碌に話も出来ないじゃないか。」

 

一升瓶を担いだ天次郎が一夏を囲んでいる者達に散る様促す。

 

「そうよぉ〜、若い者同士でもゆっくりさせてあげなさぁ〜い。貴方達の相手は私と天次郎さんでしてあげるからね〜。」

 

かぐやもほろ酔いで顔がうっすら赤くなったまま人垣を他所へと押しやった。二人は両親の心遣いに感謝しながら空いた一夏の両脇に座った。

 

「ったく・・・・いきなりあんなに飲ませるもんだから頭がいてぇわ。」

 

「ごめんね、仕事柄あんまり楽に出来る機会ってないからさ。はい、どうぞ。」

 

刀奈は酒瓶を傾けて一夏の猪口に酒を注いだ。

 

「ん、ありがと。けど、何か不思議だな。昔は嫌いだったアルコールが今じゃこんなだから。」

 

くいっと酒を呷り、料理をつまみ、舌鼓を打つ。

 

「絶対ちー姉の遺伝だな、うん。ああ、そう言えば虚さんどうしたんだ?・・・・まさか弾と夜遊びでもしてるんじゃないだろうな?」

 

「ないない、それは無い。食堂で仕込みを手伝ってるって。事前にお父さんに許可取ったから。和之おじ様はカンカンだったけどね。」

 

普段は品行方正で知られる虚が父の和之にこってり絞られる様を思い浮かべながら刀奈は笑った。

「・・・・だろうなあ。あの人、虚さんに似て礼儀作法には人一倍うるさいし。まあ、悪い人じゃないんだが俺は多少苦手だよ。刀奈も飲んで。」

 

「う、うん・・・・」

 

一夏は自分の猪口を簪に渡して酒を注いだ。

 

「む〜、私が弱いの知ってる癖に。」

 

「おいおい、あんだけ飲んだ俺にまた鮭を進めたのは刀奈だぞ?それに少しは飲んだ方が緊張も解れる。なあ簪?」

 

「私に聞かれても・・・・・」

 

「簪ちゃんは私達の中じゃ一番の飲ん兵衛なのよねえ。本音ちゃんが呼んでたわよ、蟒蛇のかんちゃんて。一升瓶飲んでもほろ酔いって凄いわよ?」

 

「後で・・・・お仕置き・・・・」

 

昼下がりに始まった世襲式の宴は夜の帳が降りても尚続き、終わったのは夜の十時過ぎだった。

 

「・・・・・お、終わった・・・・」

 

何とか摂取したアルコールの量を収める事が出来たが、それでも押し寄せる酩酊は無視出来る程生易しくはない。

 

「早く寝ないとヤバい・・・・死ぬ・・・・」

 

「ちょぉっとぉ〜〜〜、一人れ勝手に寝ちゃらめなんらよぉ〜?」

 

「にゃ〜ん♪」

 

どこから現れたのか、浴衣姿の刀奈と簪が一夏の着流しの袖を掴んだ。酒豪の簪もかなり酔っぱらっているらしく、既に呂律が怪しい。刀奈に至っては既に猫になってしまっている。しかも二人共浴衣がはだけてかなりきわどい。

 

「あのなあ、気持ちは嬉しいがへべれけ状態でヤったら後がヤバいんだぞ?酔いが更に回って二日酔いが三日になり四日になるんだ・・・・・ぞ?あれ・・・?何で体が熱いんだ?」

 

「ぬふふふふ・・・・・実はねぇ〜、一夏が最初に飲んだお酒〜。あれ辛かったでしょお?時間差で利く様になってる媚薬と精力剤なんだぁ〜。」

 

「・・・・・何ですと?」

 

「ちなみにぃ〜、私もお姉ちゃんも飲んだんだよ〜、二人で一リットルずつ位。」

 

「明日まで生きてられるかな、俺?」

 

最早逃げ場無し。八方塞がり、四面楚歌。加えて体の熱もどんどん上がって来る。

 

「早く発散しないと熱でばてちゃうよぉ〜?」

 

「お前ら・・・・・分かったよ、もう。気絶しても知らないからな?」

 

 

 

 

 

世襲式から数日後、初めて袖を通す白いタキシードに身を包んだ一夏は彫像の様に直立不動の姿勢をチャペルの入り口で保っていた。表情が固まったまま何も言わず、身動ぎ一つしない。多数の参列者が神父の入場を今か今かとドアが開くのを待っている。

 

『あー、あー。よし、電源が入った。僭越ながら、今や一人前になろうとしている彼の師である私、園崎来人が司会を務めさせて頂きます。それではまず、新郎の入場です。』

 

割れんばかりの拍手の渦と共に扉が開き、一夏は壇上に上がった。だがまるで関節が少し錆び付いたかの様に動きが少しばかりぎこちない。

 

落ち着け。落ち着くんだ。一世一代のイベントであるから緊張するのは分かるが落ち着け。だがいざ披露宴でこんなガチガチに固まっていたら声が裏返ると言う恥ずべきハプニングが起こってしまう。正に人生に於ける汚点となってしまう。それだけは避けたい。しかし何時を落ち着けようと躍起になっても動悸は収まらず、汗も噴き出すばかりだ。

 

「一夏、落ち着け。落ち着かないのは分かるが落ち着け。ここでしくじる訳には行かないんだぞ。ここが正念場なんだぞ。」

 

後ろから介添人の翔太郎が一夏の肩をタキシードに皺が入らない様に加減して揉んだ。翔太郎も今回は白と黒の礼服姿だ。帽子は外してあるが、未だ手元を離れない。

 

「そんな事言われても無理っす。マジ無理っす。結婚式が終わる前に心臓麻痺で死にます。」

 

唇をあまり動かさずに囁く一夏の声はカチカチと震えて歯が噛み合う音を気取られない為に奥歯をグッと噛み締めている。その為若干不明瞭だ。

 

「あのなあ・・・・・」

 

だが翔太郎が更に続けるその直前にブライズメイドがバージンロードを歩いて来た。先頭から順にメイド・オブ・オナーの虚の後ろは本音、更にマドカ、千冬、セシリア、ラウラ、そしてシャルロットの合計七人だ。人数も相俟って皆が着た色取り取りのドレスは虹を連想させる。それが意味する事は只一つ。

 

「続いて、新婦の入場です。」

 

再び扉が開き、天次郎とかぐやの付き添いで純白のウェディングドレス姿の刀奈と簪がバージンロードを歩く。二人が参列者達の視界に入った瞬間、息を飲む音以外は全くの無音となった。そしてその姿を我先に収めようと幾つものカメラのフラッシュが焚かれる。一夏も下顎が抜けんばかりにあんぐりと口を開けて二人を凝視した。

 

「・・・・俺、今天国にいる気がする・・・・」

 

あり得ない。人がこれ程までに美しくなる事が出来るのか?今の二人の美を的確に形容する事が出来る言葉などこの世に存在しないと一夏は確信した。むしろそう考える事すら烏滸がましく思える。今まで何年も二人を見て来たが、比べ物にならない。ウェディングドレス姿の二人は後光すら幻視してしまう程に美しかった。

 

一夏は緊張と幸福感が綯い交ぜになった複雑な思いで気絶しそうになるのを堪えながら深呼吸に努めた。

 

「ようこそ我が家へ、一夏君。」

 

「これから末永く二人をよろしくね。」

 

「はい。」

 

辛うじて絞り出した声は幸い裏返りはしなかった物の、酸欠状態に陥ったまま喋ったかの様で嗄れていたが、天次郎とかぐやが壇上に上がる直前に背中の一部を指先で押されて動悸が収まった。自分の方を見てウィンクするかぐやを見て、また何かしたなと心の中で笑った。

 

本来なら牧師が立つべき場所へと二人は上がり、新郎新婦に問うた。

 

「新郎、織斑一夏。貴方はこの先の未来に何があろうと二人を永久に愛し、敬い、守り、支え続け、生涯を捧げる事を誓いますか?」

 

「はい。全身全霊で。」

 

天次郎の言葉に一夏はハッキリとそう答えた。

 

「新婦、更識刀奈、更識簪。貴方達はこの先の未来に何があろうと、新郎を永久に愛し、敬い、守り、支え続け、生涯を捧げる事を誓いますか?」

 

「誓います。」

 

重なる二人の言葉を聞いて満足げに頷く天次郎とかぐやは四つの指輪が乗ったリングクッションを二人の前に持ち出した。

 

「では、指輪の交換を。」

 

刀奈と簪はブーケと手袋をそれぞれ虚と本音に預けた。

 

「二人共・・・・」

 

感極まって遂には泣きそうになってしまう一夏は指輪を取った。

 

「刀奈、簪。俺は二人の事を愛してる。今もこれからも、それは変わらないし誰にも負けないと胸を張って言える。でも、俺はまだ全然弱っちくて未熟だ。だからこれから先は今まで以上に二人を守れる様に強くなりたい。その為にも力を貸して欲しい。俺も全力で二人を支える。いつまでも二人の笑顔が曇らない様に。へまやったら思いっきりダメ出ししてくれ。そして・・・・・これから、よろしくお願いします!!」

 

遂に泣いてしまいながらも一夏はそう言い切り、二人の薬指に結婚指輪を嵌めた。ベールで見えないが、刀奈と簪も化粧が涙で崩れてしまっている。それでもお構い無しにそれぞれ指輪を手に取った。

 

「私は、一夏君から一生かかっても返し切れない恩を受けた。簪ちゃんと仲直りさせてくれたし、一夏君の隣にいさせてくれた。付き合ってる時も何時も簪ちゃんと私を誰よりも何よりも優先した。貴方と巡り会えて、心の底から好きになれた事をこれ程感謝した事は無いわ。私に出来る事があるなら何でも言って。こちらこそ、よろしくね。」

 

「私も、一夏から返し切れない恩を受けて堂々と生きる事が出来た。何時も私を笑顔にしてくれて、今までずっと下を向いて生きて来たのをあっと言う間にひっくり返してくれた。お姉ちゃん以上の完璧超人に敢えて、好きになって、今こうして結婚出来るなんて未だに信じられない。私も全力でお姉ちゃんとサポートするから、よろしくお願いします!」

 

一夏の左手の薬指に二つの指輪が並んで嵌められた。一つだけでもその責任は重大だが、それが二つ。その重さをしっかりと感じ、一夏は涙を拭った。

 

「では、誓いのキスを。」

 

一夏はゆっくりと二人のベールを上げた。そして案の定、メイクが崩れ、目尻を伝う涙の筋が幾つも見えた。

 

「泣くなよ・・・・メイク、崩れるぞ?」

 

「一夏君だって、泣いてるじゃない。」

 

「うん。一夏が泣くのって久し振りに見た。」

 

「良いんだよ、こう言う時は。」

 

三人の唇が同時に重なり、チャペルの屋根が吹き飛ぶのではないだろうかと言う凄まじい歓声が上がる。

 

「彼は幸せ者だね。」

 

司会の役を終えたフィリップは翔太郎の隣に立った。

 

「ああ、そうだな。照井の奴もこの時も表情にこそ出さなかったが内心飛び跳ねんばかりに喜ぶのも頷ける。さて、次は披露宴だ。たっぷり美味いモン食うぞ。人の金で飲み食い出来るって良いモンだな。」

 

「ハードボイルドを目指す男の台詞とは思えない程俗っぽいね。まあ、その通りではあるんだが。でも、今回は飲酒を控えてもらうよ。バイクで来ているんだからね。」

 

フィリップの言葉に翔太郎は露骨に嫌そうな顔をした。

 

「おい、良いだろうが。弟子の門出だぞ?祝い酒位多目に見ろよ。」

 

「君が酔っぱらった時はポンペイが滅んだ時と同じ位のダメージを精神的に食らう事になる。忘れたとは言わせないよ?それに、君は元々酒に弱いだろう。小虎の癖に強がらない方が良い。」

 

「こんのぉ野郎・・・・簡単に酔わないからって調子に乗るなよ、コラ?」

 

「ノンアルコールならば目を瞑る。それで手を打って貰えないかね?」

 

器用に二人の花嫁を肩に担いで意気揚々と退室する一夏の後を追い、披露宴の会場へと急いだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。