IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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これでようやく本編が完結しました。去年の十一月から長い間の応援、ありがとうございました。次はお待ちかねの番外編です!


さらばEよ/不死身の男達

「終わった。これで、全てが終わった・・・・・これで、皆死なずに済む。あ、俺は別か、ハハハ。」

 

押し寄せる疲労に膝が折れた。変身が解除され、仮面が無数の欠片となって剥がれ落ちる。服はボロボロの布切れになってしまい、ジャケットもかなり傷んでいる。エターナルエッジや体中に巻き付けられたマキシマムスロットに収まったほぼ全てのメモリ、そしてロストドライバーが砕け散った。もう変身する事も出来ない。そして矢継ぎ早に繰り出す多重マキシマムドライブに体が耐え切れる筈も無く、体中の皮膚がどす黒く変色し始めた。

 

「やっぱりな・・・・最後は己の体でツケを払わなきゃならないか。」

 

ネクローシス、それは生物の組織が死んで行く事。一夏の体は、そのネクローシスに蝕まれていた。いくら束謹製のナノマシンで注入され、常人以上の能力を有しているとは言え、それでも限界は存在する。マキシマムドライブを無理に連続で乱発した所為で細胞自体に負担がかかり、破壊される側から精製されていた。だが最後の究極技で遂に壊死が競り勝ち、一気に負担が押し寄せて来たのだ。

 

それ故、一夏は指一本すらまともに動かす事も叶わない程に弱体してしまった。もう動けない。視界も霞み、息も浅くなって行く。

 

死ぬのか?ふとそんな疑問が過る。難敵であったセブンシンズを倒して、それだけで死んでしまうのか?仲間にも共にも恋人にも誰にも会えずにたった一人で?

 

ふざけるな。

 

「ここで死ぬなんて・・・・冗談じゃ、ない・・・・帰らなきゃならないんだ、俺は・・・・」

 

倒れた体を支えようと右手で状態を押し上げようとしたが、腕は細胞の組織が完全に死に絶え、泥で出来たかの様に崩れ落ちた。不思議と痛みは無い。

 

「頼むよ・・・・・もう少しで・・・・後もう少しなんだ・・・・・!死ぬなら別に構わねえけど最後だけは!皆に会わせてくれよ!こんな死に方なんて寂し過ぎるだろうが!カッコ悪くてあの世に行けねーよ!」

 

だが一夏の声は風に攫われて虚空に消えた。無情にも誰も答えない。目の前が真っ暗になり、何も見えなくなる。

 

「く・・・・そぉ・・・・・!」

 

自分がもう助からない事は分かっている。だがそれでも足掻かずにはいられない。残った左手で必死に辺りを探り、砕けていないメモリを掴むと涙を流しながら事切れた。

 

 

 

一夏から百数十メートル離れた所には半径が数キロにも及ぶ巨大なクレーターが出来ている。スコールはその中心にいた。メモリやドライバーも砕かれ、両手両足も肘や膝から下が欠損している。虫の息だが、彼女は生きていた。

 

「よう。」

 

クレーターの上から彼女を見下ろす男の影があった。

 

「プロ、フェッサー・・・・?」

 

「もう忘れたか?奴は消えたんだぜ。織斑はどこにいる?」

 

「この、先・・・・よ・・・・」

 

か細い声で答えながら先が無い左手で前方を指差した。

 

「そうか。あいつは強かっただろう?いや、答えるな。王のメモリに魅入られた男だ、強くない訳が無い。」

 

克己は懐からベレッタ92Fを引っ張り出し、銃口をスコールの額に向けた。

 

「この世界は俺が生きた証を刻む場所だ。貴様の好きにはさせない。まだやり足りないってんなら、とりあえず地獄で待っていろ。そこでまた、殺してやる。」

 

彼女の返事を待たず、克己はベレッタが空になるまでスコールを撃ち続けた。クレーターに用済みとなった銃を投げ捨て、彼女が指し示した所へミーナを背負って歩いて行く。そして彼女の言った通り、メモリを握り締めたまま息絶えた一夏の亡骸がそこにあった。

 

「ざまあねえな、織斑。お前は死を超越した俺を、エターナルを、自らの一部として蘇らせた。この程度でお前が死ねる筈が無いだろう?」

 

倒れた一夏を足で無造作に仰向けに転がし、サディスティックな笑みを浮かべた。

 

「克己・・・・・」

 

「ミーナ、お前にはもう時間が無い。俺の最後の頼みを聞いてくれ。こいつをこのまま死なせる訳にはいかない。」

 

「どうやって・・・・?」

 

「幸い、コイツの手にはジーンメモリがある。これで俺達の細胞を混ぜ合わせ、コイツの細胞に作り替える。壊死して使い物にならない部分とその他の足りない部分をカバーするんだ。」

 

ミーナは意味が分からなかった。彼は自分の存在をこの世に刻み付けるまで永遠に生き続けると言っていたのに、それを手放そうとしているのだから。

 

「それじゃあ克己が」

 

「俺は只借りを返すだけだ。それに、コイツのお陰で俺の存在が消える事は永劫無い。俺がコイツの一部となり、コイツの子孫は俺の欠片を抱えてこの世に生まれて来る。つまりコイツ自身が、俺がこの世界に存在したと言う生ける証になるんだ。」

 

「・・・・・分かった。克己と一緒なら、良い。克己がそう言うなら。」

 

克己は一夏の手に握られたメモリを抜き取った。ジーン、アイスエイジ、ナスカ、イエスタデイ、バード、そしてクイーンの合計六本だ。落ちていたメビュームマグナムを拾い上げ、ジーンメモリをシリンダーに差し込んだ。

 

『Gene Maximum Drive!』

 

克己はミーナを後ろから抱き寄せ、彼女の胸に銃口を押し当てた。

 

「ミーナ、行くぞ。」

 

克己の言葉に彼女は何も言わず、只目を閉じて頷いた。

 

「あばよ、織斑。また会いたきゃ地獄に来な。もっとも、地獄行きにゃあ戻り道なんざねえがな。」

 

その言葉を最後に、引き金が引かれた。二人の体は光の粒子となって一夏の死体に降り注ぎ、壊死で崩壊した細胞組織が見る見る内に消えて行く。ぼんやりと一夏は視界が戻り始めたのに気付き、跳ね起きた。崩れた筈の右腕もある。

 

「俺は一体・・・・・?いや、それよりも・・・・」

 

一夏はポケットを探り、ワイバーフォンを引っ張り出した。奇跡的に外装に傷が付き、液晶に罅が入って破損しただけでそれ以外は普通に通話出来る。震える手で翔太郎に電話をかける。

 

『一夏か?!大丈夫か!?』

 

声がひずんではいるが聞こえる。翔太郎の声だ。

 

「大丈夫です・・・・・・でも、体が殆ど動かないです。迎えに来てもらえませんかね?」

 

『ああ、すぐ迎えに行くから待ってろよ。おいフィリップ、千冬に連絡しろ。一夏が・・・・・仮面ライダーが勝ったってな。』

 

「変なんですよ。確実に死んだ筈なのに、俺生きてるんです。」

 

『そうか・・・・悪運の強さは筋金入りだな、お前。』

 

だが朦朧とする意識の中でも翔太郎の声が少しうわずったのを一夏は聞き逃さなかった。

 

「・・・・・知ってるんですか?理由。俺が掴んだ無傷のメモリは六本あった筈なのに一本足りない。指先でイニシャルをなぞってどれかも把握してます。ジーンメモリだ。」

 

翔太郎は暫くの間沈黙していたが、これ以上隠しても無駄だろうと思い直し、息を吐き出した。

 

『ハァ〜、分かった。そこまで推測出来てるんだったらもうバレるのは時間の問題だ。白状する。お前を救ったのは、大道克己と、ミーナだ。ジーンメモリが無いと言う事は、その二人はお前を救う為に自らの細胞をお前の物に作り替えてお前の一部となった。お前と同化すれば永遠が手に入るだの何だの言ってたからな。』

 

克己の意志を察した一夏は小さく笑った。

 

「そう、ですか・・・・・でも、これで終わりましたね。僕がエターナルのマキシマムを発動して、全世界に流通したガイアメモリが全て機能停止になりました。」

 

『俺達や照井のメモリも、か。』

 

「すいません。」

 

『いや、気にすんな。いずれは仮面ライダーも引退しなきゃならない時が来るとは思ってた。これで風都や世界を泣かせる奴らは、もういない。おやっさんも喜んでくれる。しばらく待ってろ。な?』

 

「はい。じゃあ、また後で。」

 

通話を切り、手に握られたメモリを見つめた。試しにスタートアップスイッチを押してみたが、ガイアウィスパーはしない。それでもまだ何かに使えるかもしれないと他にまだ無傷のメモリがあるかどうか迎えが来るまで探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィリップが克己に依頼した動画の全国配信の内容は以前エターナルがNEVERを引き連れて風都タワーを占拠した時に使われた物を合成した映像だ。声はボイスチェンジャーで変えられていたが、エターナルの姿はそこにある。足りない部分はフィリップと束が作り上げた。

 

『俺の名は仮面ライダーエターナル。インフィニット・ストラトスに命運を握られた哀れな箱庭の住人を解放する者だ。ファントム・タスクは、俺が倒した。主犯であるプロフェッサー並びにスコール・ミューゼルは、残念ながらもうこの世にはいない。だが、彼らの目指す物は俺が目指す物と何ら変わらない。彼らは、只方法を間違えてしまっただけだ。インフィニット・ストラトスが本来開発された理由を思い出せ。スポーツの道具だなんだと綺麗事をのたまっても、兵器である事に変わりは無い。そもそも事の発端は軍事転用が始まったからだ。先人達や子々孫々の為にも、本来開発された理由を思い出せ。再びこの様な悲劇を繰り返し、世界の崩壊を目の当たりにしたくなければ、インフィニット・ストラトスとこの世界を、あるべき姿に戻してくれ。それが俺と先立った事件の主犯達の願いだ。』

 

これを見た各国の政府は青ざめた。まだ一日も経っていないのに彼らを打ち倒したこの仮面の男は、世界を掌握するだけでなく粉々に出来るだけの力を有していると言う事になる。たとえ世界中の軍隊を総動員しても、彼に取っては払う埃が一つから二つに増えるだけだ。つまり、目に見える違いは無い。

 

彼らは冷や汗を噴き出しながらISの兵器に関する情報全てを収集、破棄する様に命じた。

 

「順調だね。さて、これで織斑一夏の最初にして最大の依頼は果たされた。迎えは」

 

「私が出しときましたぁ〜!後五分位でここに来ると思うよ。」

 

「そうか。ありがとう、篠ノ之束。これでようやくこの事件も終わった。君は、これからどうする?」

 

「ん〜、そだねぇ〜。箒ちゃんと世界旅行?」

 

彼女ならやりそうな事だ。世界で二番目の頭脳を持つ彼女なら不可能でもない。

 

「行って来ると良い。それに、篠ノ之箒だけでなく、両親も連れて行きたまえ。」

 

「考えとく〜、バイビー!」

 

束が去り、フィリップは開けっ放しになったドアを見て溜め息をついた。

 

「やれやれ、ようやくこれで事務所も静かになる。只でさえ騒がしいと言うのに。ん?」

 

ふと上を見ると、どう言う訳かパラシュートをつけた一夏が事務所の真上に降りて来ている。

 

「まったく、彼も翔太郎並に悪運の強い弟子だよ。」

 

『Spider』

 

左腕のスパイダーショックにギジメモリを挿入し、一夏の踝に向けて射出して安全な落下地点へと誘導した。

 

「お帰り、織斑一夏。やっと戻って来たね。おめでとう、織斑千冬と篠ノ之束の依頼は見事完遂された。」

 

「そ、すか・・・・・」

 

「どうかしたのかい?」

 

「とりあえず、すげえ眠い上に腹減りました。象を二頭位は食べられる気がします。」

 

予想通りの答えにフィリップは笑ってしまった。

 

「君も相変わらずだね。だが、寝るのも食べるのももう少し後回しだ。迎えに来た皆に挨拶をしなきゃならないだろう?」

 

「迎え?」

 

フィリップが指差した先に視線を向けると、IS学園の仲間が集まっていた。

 

「あー・・・・・・よ、よう。ただいま。こんなナリだが、ちゃんと生きて帰って来たぞ。」

 

まず最初に近付いて来たのが千冬だった。

 

「ただいま、ちー姉。」

 

「良く戻って来てくれたな、一夏。そしてありがとう。本当に。」

 

「まあ、依頼された以上やる事はやらなきゃね。」

 

「それよりも、まずこの二人を慰めてやれ。お前が戻った事を聞くやいなや直ぐに飛んで行こうとした物でな。抑えるのに苦労したぞ。」

 

二人の真っ赤に泣き腫らした目を見て一夏は二の句が継げなかった。何をどう言っても痛い目に合うのは目に見えている。

 

「死にそうになっては帰って来る。いやぁ〜、またまたやらせて頂きましたァン!」

 

簪の平手が一夏の右頬を張り飛ばした。

 

「オッケー、分かった。今のはナシ今のはナシ!え〜と・・・・勝てば良かろうなのだぁ〜!何故なら、頂点に立つ者は常に一人!」

 

今度は楯無の平手が左頬を張り飛ばす。

 

「いってぇ・・・・・あのさあ、俺一応怪我人なんだからもうちょい労ってくれん?かーなーりボロクソにやられたんですけど。」

 

だが平手打ちを食らった直後に両頬に二人の唇が押し付けられた。

 

「今のは心配させた罰。」

 

「お帰りなさい、あ・な・た。」

 

「あー、良かった。何時もの二人だ。ただいま、皆。」

 

「お父さんが直ぐに来てくれるからね。ゆっくり休んで。」

 

「そうさせてもらう。その後で、何でも良いから二人の手料理を食べたいな。腹減り過ぎて死ぬ、かも・・・・」

 

そう言いながら一夏はぐったりと体中の力が抜け、穏やかな顔付きで大鼾をかき始めた。

 

「ったく、この馬鹿は。」

 

「ヒヤヒヤさせおって全く。」

 

「鈴さん、箒さん!そう仰らないであげて下さいな。世界を救った殿方ですのよ?もう少し大らかでいるべきではなくて?」

 

「そうだぞ、それだけの働きをしたと言う事だ。文句を言うべきではない。」

 

「コイツには後で会える。今は撤収するぞ。更識、これからもその馬鹿をよろしく頼む。」

 

楯無と簪を残して、千冬は専用機持ち達を引き連れて学園に戻った。

 

END




ここからちょっとDC(ディレクターズカット)の所を入れます。

それから三年の月日が流れ、早くも世界は大きく変革を遂げた。ISとその技術はスポーツとしての道具ではなく、宇宙進出以外に工事や救助など社会的に貢献して生活を支える支柱の一つとして新たに広まって行った。ISに関係する法律も一新され、抜け道など存在しない条約、『永久の戒律(エターナル・コマンドメンツ)』通称EC条約が世界各国で結ばれた。




そんな中、更識の本家では、大掛かりな式が執り行われていた。本家と分家の者が皆紋付袴や着物に身を包み、上座にいる天次郎、かぐや、楯無、そして一夏の方を見ていた。天次郎は三方に乗せられた杯に並々と酒を注ぎ込み、それを一夏の方へと押し出した。

「本来なら、現当主である私の娘がやるべき事なのだが、今日のこの世襲式は私が執り行う。織斑一夏殿に申し上げます。貴方はその杯を飲み干されると同時に、十八代目更識楯無となられます。その杯を一気に飲み干し、懐中深くお収め願います。どうぞ。」

一夏はその杯を両手に取り、一気に飲み干したが、酒が口に入った瞬間焼ける様な感覚に襲われた。かなり辛口の清酒らしい。だが表情には出さず、杯を絹で出来た布で慎重に包み、懐に収めた。最後に向かいの座布団に座っている楯無と座る場所を入れ替える。

「それでは、三本締めで締めさせて頂きます。皆様、御手を拝借。よぉ〜、ハッ!」

三本締めの直後、膳に乗せられた料理が次々と運び込まれて来た。

「さてと、今日は無礼講だ。派手に騒いで良し。潰れない程度に飲んでいいからね。かぐや、舞を披露してくれるかな?」

「は〜い!」

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