IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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ライダー達の戦闘は一話完結、NEVERのサイバー工作はソレと同時進行で書いて行きます。この方がコロコロ場面を変えずに混乱を避けられますので。

今回はエターナルからです。


熾烈なF/ 近づく限界

「さあて、こっからだぜ?」

 

ドーパントとの勝負でもあるがこれは時間との勝負でもある。どんな些細な隙も徹底的に突かなければならない。

 

『Ice age Maximum Drive!』

 

『Xtreme Maximum Drive!』

 

マキシマムスロットにアイスエイジメモリを差し込み、体中から絶対零度に近い冷気を発した。クイーンメモリの障壁に阻まれているお陰でそれは限定的な区域だけに留まる。フラッシュ・ドーパントは全身から強烈な光を発してエターナルの目を眩ますとバリアーを指先から放つレーザーで破ろうとするが効果はあまり無く、刀身が伸長したエターナルエッジ・カリバーモードの一撃を食らい、後ろに吹き飛ばされる。だが直ぐに起き上がった。傷はかなり浅かったらしい。

「やっぱり低温では光も減速するんだな。」

 

その理由はエターナルの体があまりの寒さに震えているからだ。いくらナノマシンで体が強化されているとは言え、変身しているのは死者である先代とは違って生きている人間だ。それ故大自然の力が及ぼす影響に抗う事は出来ない。エターナルローブでメモリの力を無効化する事は出来るが、全身に巻き付ける事は出来ない。徐々に息が上がり、肩を上下させる程に荒くなる。手足の末端から徐々に、だが確実に感覚が無くなり始めた。耐え切れない事は無いが、この環境下でベストのコンディションで満足な戦闘を行う事が出来る時間は限られている。限界が来るのも時間の問題だ。

 

血液の流れをもう少し速めれば、と一夏は考え、メトロノームの様に規則正しく正確なリズムを刻む心臓の鼓動の間隔が短くなり始めた。そしてナノマシンが環境に適した状態に体を調整し始めた所で、再びフラッシュ・ドーパントが仕掛けて来た。だが今度は単騎での攻撃ではなく、数十体の分身を作って一部はレーザー、一部は突撃、そして残りは遊撃と、まるで訓練された部隊の用に行動する。

 

そして一体を倒した所でまた新たに現れる際限無いその波状攻撃に押され、エターナルは徐々に劣勢に追い込まれた。

 

(もっとだ・・・・血流を更に加速!)

 

血液の流れが更に早まり、それに応じて心臓も早鐘の様にバクバクと胸を打つ。体温が上がり、失いかけていた手足の感覚が一気に戻り始める。その所為で無数の細い針に刺されているかの様な感触に教われ

 

「俺は、負けられねえんだよ!」

 

『Cyclone Maximum Drive!』

 

『Weather Maximum Drive!』

 

更に数を倍に増やして押し寄せる大量のフラッシュ・ドーパントを荒れ狂う竜巻となった吹雪で押し返し、再びメモリ二本をそれぞれコンバットベルトとエターナルエッジのスロットに入れようとしたが、突如凄まじい疲労と血液循環傷害特有の虚脱感に襲われ、指の隙間からメモリが落ちた。それを見逃す筈も無く、再びフラッシュ・ドーパントの連携攻撃をまともに受けて無抵抗でバリアーに叩き付けられた。

 

「体が動かねえ・・・・・嘘だろ・・・・!?こんな時に・・・」

 

だがそうなるのも当然である。現在は摂氏マイナス273.15度近くある極限の氷点下地帯は普通の人間では数秒と立たずに死んでしまう。だが一夏は体内のナノマシンがポンプとなって血管中の血液の流れを加速させて体温をその環境下で活動出来る温度に上げて保っている。もし普通の人間がそんな事をすれば只では済まない。血流の速度でどんどん上昇する凄まじい血圧によってかかる甚大な負担に耐え切れず、心臓が張り裂けてしまうからだ。一夏であるからこそまだ動けるのだ。

 

「俺は・・・・死なねえ。死ねねえんだよぉ!!!」

 

『Zone Maximum Drive!』

 

先程取り落としたメモリ二本が宙を舞ってエターナルの元へと舞い戻り、そのままスロットに挿入されたが、体の動きがままならない為、更に二本のメモリをスロットに叩き込んだ。

 

『Skull Maximum Drive!』

 

『Fang Maximum Drive!』

 

『Nazca Maximum Drive!』

 

『Puppeteer Maximum Drive!』

 

「ベリアルマッハ・ストライザー!」

 

極限まで高められた身体、増幅された闘争本能と鋭利な刃、高速移動、そして人形技師の繊細な操作能力。この四つが駆け合わさり、分身したフラッシュ・ドーパントは全て一刀の下に斬り伏せられた。スロットのメモリを全て引き抜くと、膝をついた。血流の速度もようやく通常の速度に落とす事が許されたがまだ休むわけにはいかない。ワイバーフォンを引っ張り出し、息も絶え絶えに束に連絡を入れた。

 

「束、さん・・・・・ドーパント・・・・やり、ました・・・・」

 

先程ブレイクしたフラッシュメモリの残骸の隣には少女が倒れていた。メモリ四本分のマキシマムドライブをまともに受けて原形を保っている事に安堵し、一夏は彼女の首筋に指を当てて脈があるか確かめた。

 

『い、いっくん?大丈夫?』

 

「平気っす・・・・ちょいだるいだけで。少し休んだらすぐ回復します。戻ったら指示、お願いします。」

 

ワイバーフォンを閉じるとイエスタデイメモリのマキシマムドライブを発動し、体のコンディションを二十四時間前の時と同じ状態に戻した。

 

(世界の存亡が掛かってんだから第一ラウンドでへたってる場合じゃねえな。フィリップさんが言った通り短い時間で片をつけなきゃならない。この調子で、セブンシンズを倒す。倒さなきゃならない!)

 

 

 

 

 

途轍も無く難易度が高い迷宮の様な電脳空間内ではNEVERがゆっくりと、だが確実にサイバー・ドーパントの居場所を突き止めつつあった。フィリップの指示に従い、今の所全く気付かれていない。

 

『これで大体進行率は65%だ。第四ファイアーウォールを解除・・・・ん?第五ファイアーウォールにアクセスする為の入り口が見つからない・・・・暗号化されているのか?』

 

『道は四つあるが、どっちも監視プログラムらしい物で一杯だぞ。』

 

インカム越しにフィリップの頭を抱えて唸る声を聞きながらも装備を確認する克己は何時に無く切羽詰まっていた。

 

『その内の一つ以外が全てトラップだ。暫く待ってくれ。』

 

だがその時間もやがて直ぐに僅かとなる。背後からブーンとモーターが回る音がして防護シャッターが次々と閉まって行く。更にその隙間を通り抜ける妨害プログラムが大量に押し寄せて来た。

 

『そんな時間は無い!後ろから客が来てる!』

 

『ここで気付かれたなんて!?しかも・・・・なんてえげつない・・・・ジェイルを組まれて完全に包囲されてしまったら終わりだ。プログラムコマンド:スパイトリガー!』

 

賢は弾かれた様に四つある道のうちの一つに向かって全速力で駆け出した。

 

『高性能のスパイウェアプログラムを芦原賢に仕込んである。過去にハッキングに成功した者達が使った侵入経路を全て閲覧し、その中から最も効果的なルートを探し出す。ポイントマンは彼に任せて速く移動したまえ。気付かれてしまった以上隠れる必要も無い。君の得意な戦法に切り替えてくれ。』

 

ソレを聞いた克己は待ってましたとばかりに全員に目配せしてシースからナイフを引き抜いた。

 

『剛三、レイカ、手榴弾。』

 

『おうよ!』

 

『オッケー。』

 

レイカは手榴弾を幾つも付けたベルトをバッグから引き抜き、ピンを抜いては放り投げた。ソレを剛三が力一杯振り抜いて吹き飛ばし、迫り来る妨害プログラムの波を凌いだ。

 

『爆発物の数は限られてる・・・・賢、グレネードランチャーで後ろの奴らを足止めしろ。シャッターは壊すな。』

 

『・・・・了解。』

 

巨大なリボルバーのシリンダーがついたグレネードランチャーを構えて仰角を調整すると、丁寧に一発ずつ擲弾を放ち、京水が差し出す予備の弾薬を手早く装填して行き、再び弾切れになるまで発射する。

 

『全員ポジを取れ。これから奴の懐を目指して突撃する。絶対に立ち止まるな。』

 

『鞭、鞭!鞭鞭!ん鞭っ!頭がおっきいのね、ぶっとびぃ〜〜〜〜〜!!!』

 

『あ”〜〜〜〜〜〜もううるさい!!!京水お前黙ってろよもう、頼むから!』

 

次々と現れる妨害プログラムを破壊しつつもデータの曲がりくねる迷宮を突破しながら妨害プログラムを鞭で破壊したり一つのプログラムをまた別の物にぶつけて粉々に砕く京水を怒鳴りつけたのは身の丈を越す鉄棒を豪快に振り回す剛三だった。背には大量の銃器を詰め込んだダッフルバッグを襷掛けして保持しており、ジッパーが外側にある為即座に他のメンバーは新たな武器に手を伸ばす事が可能となる。

 

『ネクストゲーム、スタート。』

 

だがその二人のやり取りを全く意に介さず、我関せずのスタンスを保つ芦原賢は低い声でそう呟き、弾切れになったサブマシンガンを投げ捨ててバッグからUZI二丁を引き抜いた。再び指切りバーストで妨害プログラムを銃弾で薙ぎ払って行く。

 

『おい賢!てめえもいい加減ちったあ何か喋りやがれ!こいつの声頭に響くんだよ、集中出来ねえったらありゃしねえぜおい!おめえもそう思うだろ、なあ?!」

 

『あーもう二人共うっさい!筋肉ゴリラも変なオッサンも黙って働く!』

 

しんがりを務める紅一点のレイカが後ろから追い上げて来る妨害データを得意の蹴り技で一掃し、いがみ合う二人にダメ出しをする。

 

『そう、へんなおっさ・・・何ですって!?言ったわね?!あんたレディーに向かって最大の侮辱を!ムッキー!!!』

 

『レイカの言う通りだ、無駄口叩いてないでさっさと進め。兄弟、次はどっちだ?』

 

十字路に差し掛かった五人は一度止まり、フィリップの指示を待つ。

 

『ここまでバレずにこれたのは最早奇跡と呼べるね。左だ。』

 

賢は大容量のドラムマガジンを装着したH&K G36Cを腰撓めに構え、上空前面から次々と襲い来る妨害プログラムをクレー射撃よろしく確実に指切り三連バーストで撃墜していた。

 

『クリア。敵増援までTマイナス15。』

 

『よぅし、レイカ、京水、突破する。ついて来い。剛三は後ろで賢のカバーだ。撃ち落とせなかった奴らを落とせ。』

 

『急ぎたまえ、大道克己。君が新しいエリアに入る度に新たなジェイルを構築して行く。一時しのぎ程度の妨害工作でしかないが、前方の敵を突破しながら後方から追い上げられるのは幾ら君でもきつ過ぎる。一度ジェイルを構築してしまっては開ける事は出来ないからそれだけは十分に留意してくれたまえ。』

 

『了解だ。全員飛ばせ!』

 

緑色の隔壁が妨害プログラムを阻んで行く中、NEVERはブーツの堅い靴底で地面を蹴る音を残しながら前進した。

 

『プログラムコマンド:ルナティックワーム。』

 

京水の姿がまるで処理スピードが停滞した動画の様にカクカクと動きが鈍り始めたかと思うと、一人が二人、二人が四人、四人が八人と鼠算式に増殖を始めた。背後の妨害プログラム達の行く手を阻み、更に多くのプログラムがフィリップの作成するジェイルに囚われる。

 

『これは・・・・成る程、京水はウィルスか。』

 

『ああ。自立行動し、感染と増殖を繰り返すワームタイプさ。ルナメモリの持ち主としてはぴったりと思ってね。』

 

『助かるぜ、一時凌ぎとは言えこれで後ろを気にせずに突き進める。ちなみに、もっとデカい武器はねえのか?いい加減ライフルとグレネードランチャー程度じゃ心許なくなって来た。もっとデカいのを寄越せ。』

 

『少し待ちたまえ、即席の攻撃プログラムを幾つか構築する。これでご満足頂けると良いけど。』

不定形な緑色のデータの塊は克己の腕の中に現れると数秒で形を成し、三本の大きな筒状の火器が三つ現れた。

 

『ほう、M72LAWが二つに対戦車弾頭つきのSMAWロケットランチャーか。これは面白い。』

 

『対戦車兵器だから威力は申し分無い筈だよ。最初の二つは即席の攻撃プログラム、もう一つはメタルの大男、堂本剛三に持たせるんだ。彼でなければそれは使えない仕様になっている。』

 

『了解だ。』

 

だが、NEVERは再び別の障害に阻まれた。

 

『くっそ・・・・・おい兄弟、幾ら俺でもコイツはどうにも出来ないぞ。』

 

磨き上げられたガラスの様に澄み切ったPASSWORDと大文字で書かれた壁である。克己は試しにロケットランチャーを一発使ったが、当然びくともしない。腹立たし気に重荷となったランチャーを壁に投げつけ、インカムを二度叩いてフィリップの指示を促した。

 

『もしかしなくてもパスワードは書き換えられている。それに解読しても自動で書き換えるプログラムも取り付けている筈だ。こんな時のSMAWだよ、大道克己。』

 

『剛三、撃て!!』

 

克己の号令で剛三が左肩に乗せた砲身をパスワードによって作られた防壁に向け、発射した。大量のガラスが砕ける耳障りな音と共にその壁は呆気無く吹き飛んだ。

 

『おい、何だったんだ、さっきのは?』

 

『パスワードクラック専用のプログラムさ。力押し(ブルートフォース)でありとあらゆる文字、数字、記号の組み合わせを試みる。本来ならプログラムコマンド:アイアンウィルでどうにか出来たんだが、オムニのサーバーを丸ごと十五秒間使って処理スピードを一時的に向上させられる物なんだよ。ストックはまだあるが、少ない。だからここぞと言う時まで取っておく。篠ノ之束、NEVERの進行率は?』

 

「進行率は70%を突破したよ!この調子なら・・・・・行ける。』

 

だが、不意に不規則な警報音に束は身を堅くした。デンデンセンサーが反応している。つまり侵入者が既に事務所の中に潜伏していると言う事だ。

 

『どうした?』

 

「・・・・・何か、いる・・・・・ここの、事務所に。デンデンちゃんが反応してる。」

 

束の声が震え、心臓が恐怖で凍り付いた。

 

『この正念場で邪魔が入るとはね・・・・予想の範囲内ではあるが・・・・ここで躓いては元も子もない!』




次回はジョーカー vs ジャガー、イニシャルJ同士の戦闘です。

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