IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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お待たせしました。ようやく懸念していたプロジェクトが終わったので久々に執筆が出来ました。




涙とF/家族の重み

「家族・・・・・?」

 

マドカはまるで初めてその単語を聞いたかの様に顔を顰め、首を傾げた。

 

「ああ。肉親はもうこの世にはいないけどね。」

 

フィリップの言葉を聞いてマドカは鼻を鳴らしてその言葉を一蹴した。

 

「では家族とは呼べないだろう?それは血縁関係にある者を指す言葉だ。」

 

「長い時間を共に過ごせば、血縁であろうと無かろうと関係無い。仲間であり、家族さ。大事なのは、気持ちと心。その二つを通わせる事が出来れば、家族になれる。少なくとも僕はそう教わった。」

 

ガスが抜ける様にプシューッと音がしてリボルギャリーのハッチが左右に開き、壁にある窪みにWのバイクユニット三つを搭載したドラム型のハンガーが収納されて行く。完全に開いた所で両側のプラットフォームが足場となって降りて来た。

 

「フィーく〜ん、お帰り〜♪あれ?ちーちゃん?じゃないよね。誰どなた?」

 

タオルと毛布、そして簡素なスウェットの上下を片手に持った束が器用にフィリップに向かって手を振った。

 

「織斑マドカだ。少々訳ありで、ここで預かる事になった。責任は僕が持つ。」

 

「それは別に構わねえぞ。」

 

その後ろには湯気を上げるトレーを持った翔太郎の姿もある。

 

「翔太郎・・・・」

 

「よお、遅かったな。頼まれたモンは用意しておいた。つっても、野菜と鶏肉が入ったクリームシチューとパンだけなんだがな。ちなみに、ネットでレシピを検索して俺が作った。味の方は、まあ大丈夫だ。束にやらせたら見た目がアレになっちまうし。」

 

トレーには確かに具材が一口サイズに刻まれたシンプルなシチューが入った深皿とパンを二切れが乗っている。翔太郎はそれをテーブルに置いた。

 

「しかしよお、フィリップ。あいつら何なんだ?女ばっかりでガイアメモリ持ってるなんて。」

 

「奴らはファントム・タスクの手先だ。そしてあいつらは、各国の代表の遺伝子に寄って作られた、私と同じクローン。」

 

マドカは毛布で体を覆われたまま器用に束に服を脱がされ、乾いたスウェットの上下に着替えると翔太郎の疑問に答えた。相変わらず警戒心は高く、着替えるや否やすぐさま三人から距離を取り、バッグにちらりと目を向けた。

 

「なるほど、やはり『ヴァルキリー・トレース・システム』で作られたクローンだったのか。代表達の事は勿論、ファントム・タスクの事も既に検索済みだよ。最終的な目標は、破壊と創造。つまりこの世界を一度破壊してから再び立て直すと言う物だ。目的だけなら馬鹿馬鹿しいとしか言えないが、戦力や頭脳はISを除いても凄まじい。加えて、篠ノ之束のハッキングですら探知出来ない。」

 

「そんな脳味噌持ってる奴が相手となると、一筋縄じゃ行かないって事か。」

 

翔太郎は組織のスケールの大きさに息をつき、帽子をクルクルと回した。

 

「待てよ・・・・?フィリップ、ソイツらの名前と顔、全員頭ん中に入ってるんだよな?」

 

「ああ。」

 

「だったらそれを全国に公表すれば多少はどうにかなるんじゃないのか?」

 

「馬鹿か、貴様は?」

 

翔太郎の言葉をマドカは一刀両断した。

 

「そんな事をした所で何の意味も無い。我々の資金力を甘く見るな。顔や名前を変える事位訳は無いだろう。妄りにこちらの情報を開示すればいたちごっこが余計に複雑になる。そんな事も分からないのか?」

 

「そうだよ、翔太郎。相手もそれ位は織り込み済みの筈だ。」

 

「わーったよ!ったくどいつもこいつも人の事馬鹿にしやがって・・・・」

 

「はーい、束さんから言わせると、今この部屋では一番の馬鹿だから仕方無いと思いまーす。」

 

束は翔太郎の心を更に深く抉り、遂には彼をその場から去らせるまでに至った。

 

「それは兎も角、まーちゃんはここに住まわせるんだよねフィー君?」

 

「勿論。」

 

「断る。」

 

マドカはバッグの中に入っていた予備の銃を引き抜き、銃口をフィリップに向けた。

 

「私をここに連れて来た理由は分からないが、私はここにいるつもりは毛頭無い。奴らの執念を甘く見過ぎている。ここもいずれは嗅ぎ付けられる。そうなれば、お前達は生き地獄を味わう事になるぞ。分かったら出口へ案内しろ。頭に風穴を開けられたくなければな。」

 

だがマドカが引き金を引く前に白い何かが彼女の前を横切り、銃を手から弾いた。咆哮を上げるソレは、小さな白いティラノサウルスの形をしたロボットだった。更に強靭な顎で銃身をまるでアルミホイルの様に噛み締めて銃を使用不能にしてしまう。

 

「生き地獄?臨む所さ。そして執念を甘く見過ぎている?織斑マドカ、その台詞を今そっくりそのまま君に返そう。君は僕達の執念を甘く見過ぎている。僕達が今まで一体どれだけの苦行を乗り越えて来たと思っているんだい?ガイアメモリを売り捌く組織、そのスポンサーである財団のエージェント、そしてガイアメモリを持った不死身のテロリスト集団。時間は掛かったが、僕達はそれら全てと戦って最終的には勝利した。この戦いもそれら同様に分は悪いかもしれないがそんな事で一々怖じ気づいていたら、仮面ライダーなんてやっていられない。戦わなければならないなら、僕も、僕の家族も、仲間も、絶対に逃げない。僕は悪魔(ぼく)と相乗りしてくれる相棒がいるから何も怖くない。相棒がいるから、僕は戦える。」

 

マドカはフィリップの言葉を聞いて呆れ返り、頭を振った。あり得ない。どれだけ人数が集まろうと一足す一は二、二足す一は三にしかならない。勝算も無しに世界中の軍隊すら軽く超越する戦力を有した組織と戦って勝つと大言壮語するこの男は、正気なのか?

 

「あの男を馬鹿だと言っていたが、お前も底無しの大馬鹿だ。勝てると思っているのか?本気で?」

 

「勝つつもりで戦わないと、勝てる物も勝てない。君も戦うつもりだと思っていたよ。そうでなければ、追われている理由の説明がつかない。戦う気がないなら、何故逃げようとしていた?」

 

そう言われてマドカは二の句が継げなかった。何故自分はあの時死に物狂いで逃げようとした?自分の存在を本物として確立する為に今まで生きて来た。だが運命は大道克己と織斑一夏と言う二人の男に寄って大きく揺らいだ。自由とその尊さを教わり、自分は解き放たれた。だが今まで首輪に繋がれたも同然だった時とは違う。どうすれば良いか分からない。

 

マドカはその場に踞って頭を掻き毟った。初めての感情にどう反応していいか分からない。そんな彼女の震える肩に毛布をかぶせ、優しく抱きしめたのは束だった。

 

「大丈夫。怖かったよね。辛かったよね。大丈夫だよ、ここはまーちゃんの家だから。誰もまーちゃんを傷つけたりしないから安心して。いっくんもちーちゃんも、ちゃんと話せば分かってくれるよ。ね?」

 

混乱の末にマドカの目尻から涙が零れた。困惑するマドカは大粒の涙を拭うが、再び溢れる。拭っては溢れ、拭っては溢れる涙は、ポタポタと頬を伝って滴り落ちて行く。

 

「何故?何故私は泣いているんだ?」

 

「それは、君が人間であると言う証拠だ。物言わぬオブジェは、喋らない。ましてや喜怒哀楽を表現する事も、涙を流す事も無い。君は立派な人間だ。僕や織斑一夏の家族さ。そしてその涙は歓喜の涙だ。泣きたい時は思い切り泣く方がスッキリする。僕はこれで失礼するよ。篠ノ之束、彼女の事を頼む。」

 

「は〜い!」

 

マドカは、泣いた。年相応の少女の様に大声を上げて束の胸の中で泣いた。

 

「よしよし、まーちゃんはいいこ。冷めちゃうから、シチュー食べよ?ね?」

 

ドアの隙間からこの様子を見たフィリップは安堵の笑みを見せると、スタッグフォンを開いた。

 

「織斑一夏、僕だ。君の妹をこちらで預かっている。ファントム・タスクとの本格的な戦いも近い。用心して、来るべき時の為に備えておきたまえ。僕は今から彼らが持つメモリの能力の検索に入る。もっとも何が出るかは分からないがね。」

 

スタッグフォンをテーブルに置き、地球の本棚に入った。世界中の図書館の本棚を合わせてもまだ足りない程の無数の本棚が白い空間に現れ、フィリップが検索項目を唱える度に該当しない項目が風を切って彼の後ろへと消えて行き、数冊の本に絞られた。

 

「Arachnid, Flash, Machairodus, Cyber, Rhino, Jaguar, Gas・・・・どれもシンプルだが、質はゴールドメモリの域とはね。ん?何だこれは・・・・?Seven Sins?新しく検索を開始する。キーワードは悪魔、数字の七、罪。」

 

十冊以上はある本のページを全て同時にバラバラと捲りながら目を通し、情報を吸収して行く。

 

「何て事だ・・・・・」

 

「フィリップ?」

 

「翔太郎。織斑一夏の為にI, K, N, Q, Rのメモリを早急に集めなければならない。」

 

「え?」

 

「状況が変わった。ファントム・タスクは一筋縄では行かないと君は言っていたが、それ以前の問題だ。彼らの敵の根源とも言えるドーパントはテラーにクレイドールエクストリーム、そしてユートピア以上に厄介だ。照井竜にも注意を呼び掛けてくれ。これこそが、『敵の根源』としか形容出来ない途方も無い力を持った相手だ。こちらも戦力を整えなければならないが時間が無い。急ごう。」

 

 

 

 

 

 

 

某国の大都市にある摩天楼にある高級レストランでタキシードとドレスに身を包んだ一組の男女が夕焼けを眺めながらソフトなスウィングジャズを聞きながらディナーを楽しんでいた。その場には二人しかいない。

 

「ちまちまやるのも際限無く感じて来た。そろそろ本腰を入れて動くぞ、スコール。」

 

「そうね。エムの失敗を鑑みてジー、アイ、エフ、アール、ジェイの自我を消しておいたし、テストも兼ねてオータムと一緒に適当な所を襲撃して貰いましょう。手始めに・・・・そうね。アメリカの、タイムズスクェアなんてどうかしら?『米国を襲う原因不明のガス爆発』、良い見出しになると思わない?」

 

まるでデート中の何気ない会話であるかの様に振る舞うスコールの笑みは美しかった。だがその目には言い知れぬ狂気を孕んだ恐ろしい物だった。小さく切り分けられた白身の魚が一口、艶のある彼女の口の中に消えて行く。

 

「いや、もっと良い方法がある。私の経験からすれば、国と言う物は案外脆い物でね。国に取って大事な物が二つある。その二つのうちの一つでも十分だが、両方とも奪えば国家転覆など造作も無く出来る。」

 

プロフェッサーの言葉の意味を理解したスコールは笑った。言う程簡単ではないが、彼らにはガイアメモリと言うISでは倒す事すら出来ない最強の兵器を持っている。

 

「ジェイ、アール、アイには適当な都市で暴れて貰えれば良いが、この計画に一番必要なのはエフとジーだ。今から指令を送る。」

 

『Cyber!』

 

サイバー・ドーパントはキーボードを叩き、耳に指先を当てた。

 

「ジェイ、アール、アイ。それぞれマンハッタン、シアトル、ロサンゼルスに向かえ。移動の手筈はエフが整えてくれる。別命があるまでガイアメモリを使用し、都市を破壊しろ。ジーとエフは基幹施設の麻痺だ。」

 

「私も行くわ。テレビ出演なんて何時振りかしら。」

 

「血のみが歴史を前進させる。」

 

「ムッソリーニの言葉ね。ほんと、その通りだわ。歴史には比喩的であろうと無かろうと何かしらの流血は付き物。」

 

「そして溢れるアメリカの血がこの歴史のスタートを切る為の第一歩となる。彼女達の姉妹は、まだ動けないのかい?」

 

「まだ暫く調整に時間が掛かるから無理ね。流れ作業でやるみたいにぽんぽん作れる訳無いでしょ?ドクトル・ファウストですらホムンクルスを作るのに人生の大半を費やしたのよ?」

 

ドイツの詩人ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの戯曲の主人公の名を口にしつつ、グラスを傾けて辛口のチンザノと言うワインを飲み干した。

 

「さてさて。ではロケ地に向かおうか、女優殿?」

 

「ええ、監督。オスカーを取りに行きましょう。」

 

食事を終えた二人はそれぞれガイアメモリを取り出して窓ガラスを突き破り、姿を消した。




五千まで後二百前後・・・・腕が落ちて来た・・・・

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