IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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お待たせしました。以前に比べて更新スピードは格段に落ちると思います。やはり高校は卒業間近になると多忙になりますね・・・・・


X、発動/お帰りなさい

「何時まで歩くつもりだ?」

 

もうこれで彼此荒れ地を宛も無く三十分近くは歩いた筈だが、地平線の彼方とは良く言った物だ。全く終わりが見えない。

 

『あいつを見つけるまでだ。移動手段は俺達の足しか無い。文句があるならポケットからブラックホークでも引っ張り出すんだな。』

 

克己の言葉に一夏は少しばかり驚いた。

 

『何だ?』

 

どうやらそれが表情に出ていたらしい。

 

「いや、ちょっと意外だと思っただけだよ。お前でも冗談を言うんだなと思って。」

 

『お前は俺を何だと思ってるんだ?俺は独立した人格だがこれでもお前の一部でもある。冗談が好きなお前の性分が俺にまで移っているだけだろうさ。全く、迷惑な事この上無い。俺の体があればな・・・・』

 

だが不意に克己は口を噤んで目を閉じた。

 

「どうした?」

 

『黙れ。聞こえる・・・・声が。』

 

目を開くと、まるで獲物を見つけた獰猛な捕食動物の様に目尻が吊り上がっており、口元には歪んだ笑みが浮かんでいた。左に曲がって猛スピードで足を動かし始めた。克己は一夏よりも背が高い上にガタイが良い。加えて足も長い為に走る時の歩幅は陸上競技選手並みの物になる。

 

『こっちだ、遅れるなよ!』

 

「な、ちょ、おい待て!ったくもう・・・・」

 

どうやら一夏の奔放さも克己の一部となってしまったらしい。一夏も克己に遅れを取らない様に一生懸命足を動かして進んだ。暫く走るうちに四方一メートル近くが血に染まった荒れ地の一片が見える。そこには体中を刃物で切り刻まれた二つの死体が折り重なる様に倒れており、そこから夥しく流れ出る血が地面を赤黒く染めていた。それは一夏と千冬の物だった。

 

そしてその骸に覆い被さったまま繰り返しナイフを突き立て続けていたのは血走った虚ろな瞳で死体に目を向ける血にまみれたマドカだった。

 

『な?言った通りだろ?俺の勘は当たり易いんだよ。』

 

「ちっ、言ってろバーカ。で?どうする?只ぶっ飛ばして万事解決って程簡単じゃないだろ?」

 

『安心しろ。お前はそこで見ていれば良い。奴の説得は俺に任せろ。』

 

ジャック・ザ・リッパー並みの惨状を作り出したサイコキラーを一体どうやって説得するんだと一夏は言いかけたが、克己も生前は惨状を作る事その物が仕事の傭兵であり、テロリストでもあった事を思い出し、似た者同士どこか共感出来る所があるかもしれないと言う考えに至り、黙って様子を見守る事にした。

 

『よお、クソガキ。現実世界以来だな。』

 

「織斑一夏じゃない・・・・?誰だ・・・・」

 

『俺の名は大道克己。ファントム・タスクに運命を握られた哀れな囚人を解放する者だ。しかしなんだ、随分とつまらん所だな、お前の脳内(ここ)は。』

 

「黙れ・・・・・!知った様な口を利くな!!

 

マドカは接近して手に持っていたナイフを克己目掛けて振り抜いたが、克己はボクサーの様に身を低くし、巧みなフットワークで刃の軌道を反らしたりスウェーで交わしたりしていた。口元には余裕の笑みを浮かべている。

 

『中々のナイフ捌きだ。もしNEVERいた頃出会ってたらお前を迎え入れてたぜ。だが惜しいな。お前の腕は俺より凡そ五センチ短い上に身長が明らかに低い。よって狙える急所の数も三分の一ぐらいに減る。そしてそのナイフの刃渡りは十五センチ前後。リーチは圧倒的に俺の方が上だ。』

克己は大きく前に飛ぶマドカの凶刃をベルトのシースに収納された大振りのアーミーナイフを引き抜いてそれを受け止め、顎を膝で蹴り上げた。マドカの体はふわりと宙に浮き、そのままひっくり返って地面に叩き付けられた。

 

『それに勝負はこれでついた。』

 

「ちょ、おま・・・・やり過ぎだぞ。」

 

倒れたマドカに駆け寄る一夏は苦言を漏らした。

 

『手加減はしたさ。現実世界なら顎の骨が砕けている。それに、元より殺すつもりは無い。嫌々闘う様な奴を殺すのはごめんだ。面白くも何とも無い。』

 

「嫌々闘ってたってのか?コイツが?」

 

『お前本当に分からなかったのか?奴の顔、特に目や攻撃の仕草を見れば簡単に分かるぞ?その貧相な観察眼で探偵とは世も末だな。一度両手足を縛られたままアドリア海でガレオンの船底を潜らされると良い。少しはマシになるだろう。』

 

嫌味しか言う事が無いのかとばかりに恨めしそうな視線を向ける一夏を他所に、克己はマドカの手の近くに落ちているナイフを遠方に放り投げた。

 

「・・・・・殺すなら、殺せ。」

 

『お前は大事な情報源だ。それに、さっき言った様に嫌々闘っている奴を殺してもつまらないんでな。死にたければ知っている事を全て吐いてから自分で勝手にやれ。そもそもお前は何故あんな奴らと組んでいる。』

 

「私は、国家代表IS操縦者のクローン製造計画の一環で生み出された。ヴァルキリー・トレース・システムと言うプロジェクトでな。織斑一夏と織斑千冬の遺伝子によって作られた存在なのだ、私は。だから私は『本物』になる為に、奴を殺さねばならない。」

 

マドカの視線は克己の後ろに立ってこの状況を見守っている一夏を恨みの籠った視線で見据えた。

「所詮私は作られた紛い物だ。ならば織斑一夏(オリジナル)を殺して私の居場所を」

 

『くだらんな。お前の身の上を話せとは言っていない。それに、俺が納得する答えにもなっていないぞ。俺は、何故奴らに反旗を翻して噛み付かないかと聞いているんだ。少なくとも、お前は誰かに従う事を良しとする様な奴には見えない。織斑や奴の姉の遺伝子から作り出されたなら尚の事だ。ソイツらに従うのが気に食わないのなら離反なり裏切るなりして手を切れば良い。』

 

「私の体内には無数の監視用ナノマシンが仕込まれている。命令違反を起こせば私は死ぬ。」

 

『ハッ、何だそんな事か。たったそれだけの事なのか?まあ鎖につながれて当然だと考えてないからまあまだマシだが、それでも反吐が出る。本当に死ぬかどうかも分からない癖に飼いならされてるとはな。生きているなら、その可能性に賭けろ。負けたらそれまで、だが、俺なら間違い無くソイツらと刺し違えてでも自由を手に入れる。』

 

「仮に本当に監視用のナノマシンがお前を殺せるとしても、恐らくはもう機能していない。」

 

二人のやり取りの最中に初めて一夏は口を開いた。

 

「何だと・・・?っ、そうか。あの大出力の電撃が。」

 

「ああ。ドーパントでも耐えられない様なボルテージにまで上げられたウェザーの雷だ。ナノマシンも恐らくショートして使い物にならなくなっているだろう。」

 

『つまり、幸か不幸かお前の手に自由とチャンスが舞い込んで来たって事だ。さあどうする?今までお前を散々ゴミクズ扱いして来た奴らに一泡も二泡もふかせられる自由とチャンス。どうするかはお前が決めろ。』

 

一夏の意識は再び現実に引き戻された。マドカは既に逃走を始めようとしており、一夏はそれを止めようとしたが克己の意識に妨害された。

 

(お前が齎した自由とチャンスをまた奪う事は許さん。発信器位なら構わんがな。奴が俺達の元に舞い戻ってくれば良し。そうでなければ、次は殺す。必ずだ)

 

だがマドカはタダで去った訳ではない。耳に付けていたISの待機状態であるカフスを外して於いて行ったのだ。が、ここで重大な事に気付いた。まだ簪の安否を確かめていない。一夏は一目散に走り出した。

 

 

 

 

襲撃された倉持技研に到着した頃には既に瓦礫の撤去作業も重傷者の救急搬送も終了しており、警察の立ち入り禁止のテープが研究所行一帯を封鎖していた。既に鑑識が瓦礫や残骸を調べ始めており、超常犯罪捜査課も現場に臨場していた。

 

「竜さん!」

 

「織斑か。安心しろ。助け出せる者は助けた。あの女のお陰でな。」

 

「あの女?」

 

竜は無言で顎をしゃくってある方向を指し示した。現場から少し離れたベンチではお馴染みのウサミミのカチューシャ、白いワイシャツと紫色のパンツルックの束が短く髪を切り揃えた箒と座っていた。

 

「束さん!箒!あの、簪・・・・簪は?」

 

「案ずるな一夏。既に最寄りの病院に搬送されている。傷も深くないし、姉さんの見立てでは命に別状は無い。」

 

「そうか・・・・・二人して瓦礫の撤去を手伝ってくれたんだってな。本当にありがとう。」

 

「礼を言われる程の事ではない。微々たる罪滅ぼしだ。」

 

「そうだよ、いっくん。束さんはあの時の束さんとは違うのだぁ〜!」

 

一夏は静かに頷いた。確かにこの二人は二人なりに変わったし、精神的に大きく成長した。束は(主にフィリップとメモリガジェットによる折檻で)一般常識とマナーが何たるかを叩き込まれて全くの赤の他人に愛想は無くても相槌を打つ位の事は出来る様になった。箒も以前の様な触れれば斬り捨てる様な攻撃的な雰囲気は失せており、一皮剥けて落ち着きとゆとりを学んだ様だ。

 

「うん。二人は良い意味で本当に変わったな。お帰り、箒。束さん。」

 

「うむ、ただいま。一夏。」

 

「いっくん、ただいまなのだぁ〜!じゃあ私は今からフィー君ちに遊びに行くからバイビー!」

 

光学迷彩で隠れていたデフォルメされた人参型ロケットが現れ、ハッチが自動で開いた。それに飛び乗るとISのイグニッションブースト並のスピードで加速し、一気に空の彼方へと消えて行った。

 

「では、私もこれで暇をして一度学園に戻る。千冬さんが休学扱いにしてくれたお陰で怪しまれずに済んだが、いい加減遅れを取り戻さなければならないからな。後、これは私と姉さんからの手土産だ。」

 

箒は一夏の手にバイオレンスメモリを握らせると、その場を後にした。

 

「あ、ああ。ありがとう、また後でな。」

 

これで二十六本全てのメモリが揃うまで残り五本となった。

 

『なあ、大道。二十六本のメモリが全部揃ったら一体どうなるんだ?』

 

(全てのメモリを統べる『王』になれる)

 

『「王」だと?』

 

(エターナル単体でのマキシマムはエターナルメモリより精製度が低いメモリ全てを永続的に機能を停止させられる。今では一度発動する度に一つしかメモリを無効化出来ないと言う始末だがな。だが幸いエクストリームでそれを全てひっくり返す事が出来る。エクストリ—ムで全てのメモリのレベルが昇華するからな。これから戦う時は実験がてら他のメモリを併用しつつどんどん使う事だ。)

 

『へいへい。』

 

「織斑。ここは刃野刑事と真倉に任せてある。病院に行くつもりなら連れて行ってやるぞ。」

 

「本当スか?ありがとうございます!」

 

竜の愛車であるカスタムのドゥカティ999『ディアブロッサ』のタンデムシートに乗ると、簪が搬送された病院まで疾走した。病院にたどり着くと、竜に礼を言いながらも病院の中を走り回って彼女が入れられた病室を探した。途中医師や看護婦に何度も走るなと注意されたが一夏の耳には届かない。彼女の名前が記された病室の扉を開くと、既に楯無がその場にいた。

 

「簪、その・・・・あの、遅れてすまん。大丈夫か?」

 

箒に命に別状は無いと言われてもやはり自分の目で見ない限りは安心出来なかったらしく、気の利いた言葉もまともにかけてやれなかった。

 

「うん。心配かけてごめんね?見た目程大した事無いから。」

 

一夏は五体満足で笑みを浮かべる簪の姿を見て緊張の糸が切れてしまい、床に座り込んで胸を撫で下ろした。

 

「もう・・・・電話しても出ないから心配したわよ。」

 

「え、マジで?」

 

一夏は携帯を引っ張り出して着信履歴を確認すると、確かに楯無から二十件以上の不在着信があった。しかも学園にいる間は常にマナーモードに設定している為気付かなかった様だ。

 

「すいませんでした。」

 

言い訳出来る様な事ではないので素直に謝罪した。

 

「捕まえたの?」

 

「あー実は・・・・」

 

克己の行動の一部始終を話すと、楯無は一夏に掴み掛かった。

 

「何で逃がしちゃうのよ!?簪ちゃんを傷つけたのよ!?」

 

「分かってる!」

 

「お姉ちゃんやめて!」

 

ベッドに横たわっていた簪が起き上がった拍子に痛みが走ったのか顔を顰めた。それを見て楯無は一夏の襟首を掴む手を緩める。

 

「ごめんなさい・・・・」

 

「いや・・・・俺も正直逃がすのは気が引けた。けど、簪にした事は百倍にして返したから。大道の説得が彼女を懐柔する事が出来れば、ファントム・タスク内部の情報も幾らか手に入る。」

 

「根拠は?」

 

一夏は無言でポケットからマドカが置いて行ったイヤーカフスを取り出してみせた。

 

「ん?そ、それ、ISの待機状態のアクセサリーだよね?」

 

「ああ。あのドーパント兼IS操縦者のだ。あいつのメモリとドライバーは砕いているし、あいつはこれを自主的に置いて行った。こちら側につく可能性は十分にある。」

 

そんな時、病室のドアが再び開いた。

 

「やっほー。お見舞いに来たわよ。」

 

鈴とラウラと言う少し珍しい組み合わせの二人が見舞い品を持って入って来た。

 

「おお、鈴、ラウラ。良いのか、ここに来て?ちー姉に学園防衛の為に待機しろって言われなかったか?」

 

「先輩がいるから二人位抜けても大丈夫だって。許可もちゃんと貰ったし。後ほら、薬膳料理持って来たから。手の込んだ仕込みとかしてないから大した物じゃないけど。」

 

トートバッグからタッパーを幾つか取り出した。

 

「一夏、お前こそ良いのか?許可も無しにこんな所をほっつき歩いて。」

 

「おいラウラ。好きな女が病院にいるって聞いたら規則なんか一々気にしてられるかっての。んなもんは後だ、後。」

 

「アンタらしいって言えばらしいわね・・・・・あ、ちなみにラウラの服だけど。」

 

ラウラが羽織っていた黒いパーカーのフードを被らせると、そこには何故か猫耳がついていた。袖もご丁寧に指先だけを通せる様なデザインらしく、肉球の模様がある。

 

「うわ〜、ラウラちゃんぐう可愛いぃ〜〜〜!コチョコチョコチョ。」

 

楯無に抱きつかれて暴れる様はまるで本物の猫だった。だが頭を撫でられたり顎の下をくすぐられて直ぐに抵抗出来なくなってしまい、耳はまるで感情とリンクしているかの様にヘニャリとなり始める。

 

「にゃ、やめろ!!」

 

一夏は暫く二人のやり取りを見ていたがワイバーフォンを取り出し、無表情で何度もシャッターを切って、ラウラを撫で始めた。

 

「やめろと言ってるだろう!」

 

一夏の手を振り払い、顔を赤らめて荒い息をしていたが、病室は笑いに包まれて思い空気はあっと言う間に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「プロフェッサー、失敗するなんて貴方らしくないわね?」

 

「面目ない。あんなメモリがあるとは思わなかったよ。」

 

それはスコールも同じだった。確かに今までのデータと比較すると比べ物にならない程の数値を仮面ライダー達は叩き出していた。そしてその秘密がエターナルメモリとエクストリームにある事もこれで完璧に把握出来た。

 

「だが、お陰で良いデータが取れた。あのエターナルが変身に使うメモリは素晴らしい力を持っている。特にあのメモリの能力を最大稼働で引き出す事を可能とするマキシマムドライブとその併用技術だ。加えて、あくまで目算だが二十五のスロット全てにメモリを差し込めば途轍も無いパワーを生み出す事が出来るだろう。あれを奪う事が出来れば・・・・」

 

「確かに。でも、プロフェッサーをあんなにあっさりと出し抜いた織斑一夏から奪えるのかしら?もうマドカもサイレント・ゼフィルスも手元には無い。ナノマシンもどう言う訳か機能しないから追跡も出来ない。」

 

だがプロフェッサーはサイバードーパントに変身すると腕のキーボードを叩いた。しばらくすると、左肩にそれぞれ I, G, J, R そして F アルファベットの文字の刺青を入れた少女達がISスーツ姿で暗闇の中から現れた。

 

「彼女は初めての成功例ではあるが所詮は試作品だ。始末は彼女の姉妹達に任せる。さて、君達の愚かな姉妹を、見つけ次第抹殺しろ。」




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