IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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今回は二十六本と言う出鱈目過ぎる涼のガイアメモリを持っているアドバンテージを最大限に有効活用します


X、発動/探偵を舐めるな

「あれか・・・・」

 

『Cyclone Maximum Drive!』

 

翼が強風を受けて更に飛翔速度が上がった。方々から煙を上げる倉持技研が見えて来る。だが、突如下から金色の腕が伸びてエターナルの足に巻き付いた。激情に駆られていた所為で碌に反応出来ず、地上に引き摺り落とされてしまった。

 

「いっつ・・・」

 

『全く、やはり若さ故の短絡的な行動を起こしたね。』

 

仮面ライダーW LTのソウルサイドの手が元の長さに戻り、エターナルの腕を掴んで引っ張り起こした。そうしながらボディーサイドの手がロストドライバーのスロットを閉じてメモリを引き抜き、ベルトも取り外した。

 

「ったく、俺やフィリップの悪い癖まで移りやがったな、暴走特急になりやがって。彼女が心配なのは分かるがそんな状態で向こうに突っ込んでみろ。奴らの思う壷だぞ?落ち着いてチャンスを待つんだ。」

 

「返せ!」

 

敬語すらも忘れて翔太郎に掴み掛かったが、その手を払われてしまう。それでも翔太郎は一夏に今一度冷静さを取り戻させようと懸命に説得した。

 

「お前も言ってただろ?何事も見極めが肝心だって。状況も分からず突っ込むなんて自殺行為だ。

 

「そんな悠長な事を言ってる場合じゃない!今すぐ行かないと簪が・・・・簪が死んじまうんだ!邪魔するってんなら恩師でも容赦はしない。彼女を救えるなら俺は命だって惜しくない!どけ!

 

右側が反応する前に、Wの渾身の左ストレートが一夏の顎を捉えた。普通ならば顎が砕ける程の力なのだが口の中を少し切るだけで済み、それすらも直ぐに許に戻った。口の中で鉄の味がして一夏は血が混じった唾液を吐き出した。吐息の乱れも先程の拳の一撃で徐々に収まって行く。

 

「そう思ってるのはお前だけだ。少しは考えろ。お前が死んだら、千冬や皆がどれだけ悲しむと思ってる!?」

 

こんなに激しく捲し立てる翔太郎を見たのは久し振りだったが、これ程の凄まじい怒気を感じたのは初めてだった。今まで一夏はこれ程の怒りを彼から感じた事が無かった。

 

『それに、君の命と引き換えに助かっても、更識簪が微塵程も喜ぶと思うのかい?残された者の気持ちも考えたまえ。』

 

右側の目が点滅してフィリップが付け加えた。口調こそは落ち着いていたが、明確な怒りと失望が言葉から滲み出ている。

 

「すいませんでした。」

 

一夏はWに深く謝罪して口角についた泡を拭う。

 

「落ち着いたな。よし。フィリップ。」

 

『録音された会話から事情は分かった。でも幸いと言うべきか、あんな速度でここまで移動して来たんだ。タイムリミットまでまだ策を弄するだけの時間はある。既に作戦は検索済みだ。僕の指示通りに動いてくれたまえ。必ず皆を助けられる。』

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

『やあ、思ったよりも速い到着だね。こんな形で呼び立てて申し訳無い。こうでもしないと、まともに話せなかった物で。』

 

サイバー・ドーパントは一夏に仰々しい会釈をしてみせた。一夏は平静を装いながらゆっくりと進み出た。

 

「随分と悪趣味なアポの取り方だな。プロフェッサー、だったか?簪は無事なんだろうな?」

 

『「無事」ね。君の言う無事の定義と私の定義が食い違っていなければ良いんだが。まあ、上を見れば良い。そこにいる。』

 

サイバー・ドーパントの人差し指が示す先を見ると、気を失った簪がMナスカの手に握られたワイヤーで雁字搦めにされており、空中で揺れていた。落ちれば、間違い無く死ぬ高さだ。

 

『さて、電話でも言った通り、君のISのデータが欲しい。十歩前に出て、待機状態のアクセサリーをそこに置いてくれ。』

 

無表情で腕からフェイクの零式を外し、後ろに下がった。サイバー・ドーパントの腕から伸びたコードがISに接続されてデータの吸い出し作業が始まる。

 

「ちゃんと要求には応えた。今度はてめえの番だ。彼女を離せ。」

 

「良いだろう。マドカ、下ろしてやりなさい。」

 

Mナスカは簪を地上に降ろしたその直後、変身を解除した所でマドカは腰から拳銃を引き抜いた。光を反射しない様に艶消しを施されたベレッタM9A1だ。即座に引き金を引き、胸と腹に合計五発の弾を撃ち込んだ。だがその直後、辺り一面が大量の霧に包まれた。晴天もあっと言う間に黒い雷雲に覆われて赤い落雷が雨の様に降り注ぐ。

 

「俺の女に何してやがるんだてめえらはぁーーーーーーーーーーー!!??」

 

『Bullet!』

 

空中から急襲をを仕掛けるエターナルはメビュームマグナムのシリンダーを腕に沿って回転させ、

 

『Shell!』

 

そして素早く二本目のメモリをメビュームマグナムに差し込んで再びシリンダーを回転させた。

 

『Luna Maximum Drive!』

 

湾曲する軌道を描く散弾が降り注ぎ、変身を解除したマドカとサイバー・ドーパントはその場で動きを封じられてしまう。

 

『Cyclone Maximum Drive!』

 

更にサイクロンメモリで霧を飛ばしながら加速し、エターナルは簪を疾走して来るリボルギャリーのハッチを開いて中に寝かせた。そして引き返すと、先程の攻撃から回復したマドカとサイバー・ドーパント、そして銃で撃たれて死んだ筈の一夏が睨み合っている。

 

「どうなっている・・・・・?織斑一夏が、二人・・・?!」

 

「残念だったな。」

 

動揺が走るマドカに対してエターナルは小馬鹿にした様な声で言い、変身を解除した。その瞬間、倒れていたもう一人の一夏が光に包まれ、得意そうな顔を浮かべる翔太郎の姿に変わり、立ち上がった。サイバー・ドーパントのコードに繋がれていた零式も掻き消える。

 

「貴様・・・・!」

 

「俺を踊らせたつもりだろうが、事がシナリオ通りに運ぶとは思わない事だ。」

 

制限時間の一時間が科せられ、一夏が学園を出てから

 

 

 

 

「まずエターナルに変身しろ。」

 

ドライバーとメモリを返却された一夏は再び変身の手順を踏んだ。

 

『Eternal!』

 

『では、次に僕達が変身解除する。』

 

二つのスロットを閉じると仮面が剥がれ落ちてダブルドライバーを付けた翔太郎の姿に戻った。

 

「そしてダミーメモリで俺をお前に化けさせるんだ。」

 

『Dummy Maximum Drive!』

 

メビュームマグナムにダミーメモリを差し込んで銃口を翔太郎に向けた。使った事の無いメモリである故にどんなこうかを及ぼすかはまだ知らない。何が起こるか分からない故に引き金を引く事を躊躇ったが、翔太郎に促されてトリガーを引き絞った。翔太郎の姿は一瞬にして織斑一夏と寸分違わぬ姿に変わった。声すらも一夏の物だ。ご丁寧にISの待機状態である零式も腕に嵌っている。

 

「これで俺が出向けば良い。その間にお前はバードメモリで空に上がり、ウェザーメモリで辺り一面を霧や雲に包む。相手の視界を潰した所でお前が突っ込んで不意打ちをかけろ。怯んだ所で人質を待機させているリボルギャリ—に入れておけば良い。研究所の封鎖解除はエクストリームメモリでデータ化したフィリップが担当する。それが駄目なら封鎖した奴をパペティアーのメモリで操ってロックを解除させるか、その場から遠ざけて倒す。A to Zの殆どを揃えてるんだ。闘い方は幾らでもある。」

 

翔太郎が化けていると分かっていても、姿形や声すらも自分に似ていると妙に説得力がある。一夏は善なる自分(翔太郎)が悪を表す自分(一夏)を諭すこの時をロバート・ルイス・スティーブンソンの『ジキル博士とハイド氏』に無意識の内に照らし合わせていた。

 

「本当に、それしか無いんですか?失礼を承知で言いますけど、翔太郎さんの演技力に簪の命を賭けなきゃ行けないなんて、オッズ悪過ぎます。」

 

「お前なあ・・・・・ちったあ信用しろ。絶対に成功させる。男に二言は無い。」

 

一夏は無言で頷いた。翔太郎に倉持技研への道筋を教えると、バードメモリでエターナルローブを翼に変形させ、空から彼を追ってフィリップからの指示があるまで待機した。

 

 

 

 

そして全てが万事上手く運んだ事で今に至る。

 

『成る程・・・・ガイアメモリか。小賢しい真似を。』

 

データが読み込めないと言うエラー表示を目の当たりにし、サイバー・ドーパントの声は僅かに震えた。その時、翔太郎の背後にメカニックな鳥が現れ、そこから緑色の光が照射されて勝ち誇った表情のフィリップが現れた。

 

「その通り。ここで足止めを食ってくれたお陰で直ぐに緊急ロックダウンシステム、通信回線、そして点検中のISのロック、全てのクラックに成功した。篠ノ之束の手を借りてね。今頃妹の篠ノ之箒が瓦礫の撤去に尽力している。人質を救出する事が出来るのは、最早時間の問題だろう。」

 

「まさか脅そうとしていた奴がここまでするとは思ってなかっただろ?ま、一夏を甘く見ていたってのがお前らの敗因だ。探偵の強かさ、舐めんなよ?さて、ウチの弟子を傷つけられたとあっちゃ、もう言う事は一つしかねえな。なあ、相棒。」

 

翔太郎は帽子から埃を払って被り直した。

 

「ああ、そうだね。君もそう思うだろう?織斑一夏。」

 

「はい。」

 

「「「お前の罪を、数えろ。変身。」」」

 

三人は声を合わせてマドカとサイバー・ドーパントを指差した。

 

『Eternal!』

 

『Xtreme!』

 

黒いマントを覆った白い仮面ライダーと、モチーフがWからXに変わった究極のW、サイクロンジョーカーエクストリームが光と共に現れた。

 

『やれやれ、仮面ライダーが三人もいるとはね。厄介な事この上無い。では、失礼するよ。』

 

KのイニシャルがついたメモリをCのイニシャルがついたメモリに差し替えると、特殊部隊が着用する様な黒いスーツに身を包んだ仮面の兵士が現れた。警棒だけでなく、ライフルなどの銃器も装備している。

 

「こいつら、コマンダー・ドーパントの兵士か!?」

 

『いや、あの時のアダプターの使用前後と違って、明らかに戦闘力が上がっている。あの時銃を使ってはいなかった。織斑一夏、こいつらは僕達が何とかする。君はナスカ・ドーパントの方を。』

 

「はい。」

 

『「プリズムビッカー!」』

 

緑と黒の間に新たに現れたプラチナホワイトの胴体から円形の楯に収まった剣が現れた。柄の先端に黄緑色のメモリを差し込むと、収められたプリズムソードを抜刀して仮面の兵士達に斬り掛かって行く。

 

『左上、七時方向は防御。上段。右下切り上げ、三時。半撃、左横薙ぎ。』

 

フィリップの声にあわせてWは剣と拳を振るう。

 

「そして後ろっと!」

 

ビッカーシールドを投げると周りの仮面兵士にぶつかり、ブーメランの様に戻って来た。プリズムソードについた赤いボタンを押した。

 

『Prism Maximum Drive!』

 

「『プリズム・ブレイク!』」

 

バツ字型の斬撃の軌跡をプリズムソードで描くと、ビッカーシールドに収納して四つのスロットにメモリを差し込んだ。

 

『Cyclone Maximum Drive!』

 

『Heat Maximum Drive!』

 

『Luna Maximum Drive!』

 

『Joker Maximum Drive!』

 

「仕上げだ、行くぜフィリップ。」

 

『ああ。』

 

「『ビッカー・ファイナリュージョン!』」

 

プリズムビッカーから七色に輝く光の奔流が放たれ、一カ所に固められた兵士達を悉く一掃した。

 

 

 

エターナルは靡く黒いエターナルローブを脱ぎ捨ててコンバットベルト状に繋がったマキシマムスロットの一つにメモリを差し込み、刃が伸縮したエターナルエッジ・カリバーモードにもまたメモリを差し込んだ。

 

『Accel Maximum Drive!』

 

『Fang Maximum Drive!』

 

加速と、牙。二つのメモリが最大出力で解放する力によって渾身の斬撃を放ったが、刃は空を斬っただけだった。Mナスカは超高速で横に飛び、更に空中に舞い上がったのだ。エターナルは即座にメモリを引き抜き、新たなメモリをマキシマムスロットに叩き込む。

 

「次はお前だ。ナスカ・・・・織斑、マドカ!」

 

『Bird Maximum Drive!』

 

脱ぎ捨てたローブが再び肩甲骨辺りに戻って翼に形を変え、空中戦が始まった。入り乱れる剣戟とエネルギー弾の渦中、二人は獣の様に吠える。

 

(刀奈・・・・力を貸してくれ)

 

『Ocean Maximum Drive!』

 

水道管を破って地面から大量の水が沸き上がり、大型津波を凌駕する程の巨大な波となってMナスカに襲いかかった。暫く逃げ回ってはいたが遂に飲み込まれ、水の球体に閉じ込められてしまう。剣で斬ろうとも指先の光弾を幾ら放とうとも抜け出す事は出来ない。やがてその球体がどんどん縮まって行き、凄まじい水圧で指一本動かす事も敵わず、息も苦しくなり始める。そして目の前にメビュームマグナムの銃口が見えた。

 

『Weather Maximum Drive!』

 

『Xtreme Maximum Drive!』

 

「ラス・オブ・ユピテル。」

 

通電し易い水に囚われた状態で史上最高の電圧を持つ落雷を超越する高電圧の雷撃を受けたMナスカは囚われていた水を一瞬で気化させた。マドカは気を失い、落下の最中メモリはガイアドライバー諸共空中でバラバラに破壊されてしまった。

 

「このアマァ・・・・・」

 

簪を傷つけた事が再び蘇ってエターナルの怒りに火を点けたのか、エターナルカリバーを未だ弱々しく脈動する彼女の心臓に突き立てようとした。

 

(織斑、よせ。コイツを殺した所でマイナスにしかならん。専用機を持っていると言う事はコイツは実行部隊のエージェントとは言え幹部クラスだ。寧ろ拷問で知っている事を全て吐かせた方が利口だぞ・・・・・いや、この手があったか。零式を出せ、相互意識干渉(クロッシングアクセス)でコイツの意識と俺達の意識を繋げる)

 

『無理だ。波長を合わせるなんてそんな簡単に出来る筈が無い』

 

(やってみる価値は有る。微調整は俺に任せろ。それにテロリストとは言えコイツは人間だ。心が折れてしまえば、俺達の勝ちだ。こっちは二人掛かりだから負ける確率はかなり低い。お前がヘマをしなければの話だがな。これ以上彼女に傷ついて欲しくなければ、早急にファントムタスクを総合的に叩き潰す必要がある。この馬鹿はその礎と思えば良い)

 

仕方なしに変身を解除した一夏は零式の右腕部分だけを展開し、マドカの耳に付いたカフスに触れた。乱れた呼吸を整えながら波長を合わせようとする。やがて一夏の意識は沈んで行き、次に目を開いた瞬間、風が吹き荒れる果てしない荒野に立っていた。来るのを待っていたのか、NEVERの隊服を身に付けた克己はその場で寝転がっていた。

 

『遅かったな。』

 

「うるせえ。あいつはどこに居る?」

 

『このどこかだろうな。俺だって始めて来た場所だ。手掛かりなんてあってない様なモンだ。』

 

二人はマドカを探す為に、肩を並べて歩き出した。




前回で現れた黒い炎が本格的に出て来るのはもう少し先です。

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