IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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今回は戦隊物のネタがあります。


Oの苦行/獅子奮迅

そして放課後。

 

何事かと思いながらまだ何も知らない代表候補生達はアリーナに集まった。アリーナの中心には、三人の男と一人の女、合計四人が威風堂々と立っていた。一人は竹刀を肩に担いだ照井竜、もう一人はゆったりとした漢服に身を包んで木製や鉄製の練習に使う様々な武器を並べたロン、次にカモフラージュグリーンのツナギの服と指出しグローブを身に付けた一夏、そして刀を腰に差した千冬だ。

 

少数派の不良集団の様な出で立ちで醸し出す雰囲気は、武闘派の暴力団すらも何の迷いも無く土下座をさせてしまう様な恐ろしい物で、アリ—ナに入って来た皆はうっすらとだが寒気を覚えた。

「お、お父さん!?何でここに?!」

 

「一夏君の要請でここに来たんだよ。四十半ばの老いぼれに出来る事なんか限られているだろうけどね。にしても、中々鍛え甲斐がありそうで活きの良い娘達じゃないか。」

 

「右に同じく。俺は照井竜だ。よろしく頼む。」

 

面食らう彼女達を他所に二人の男は値踏みするかの様な視線を外す事無く手っ取り早く自己紹介を済ませた。

 

「教官、これは一体・・・・?」

 

「これより、ファントムタスクを相手にしている状況を想定した特別訓練を行う。分かっていると思うが、念を押しておくぞ。これからやるのはただのISの訓練ではない。場合によっては実戦で殺し合いに発展するかもしれない事を十分に留意してもらいたい。この様にな。」

 

千冬は腰を落として鞘から刀を抜き放った。その刃は一夏の喉を捉えようと迫って来るが、白刃取りで受け止められ、千冬が全力で押しても微動だにしなかった。空気は一瞬にして張り詰める。

殺し合い。まだ十代半ばの少女達を置くには余りにも重く、凄惨な状況である。だが、千冬は敢えてそう表現した。歯に衣着せて語るだけでは言葉は響かない。その為、実際に一夏に刃を向けたのだ。

 

「故に、心して掛かれ。これは私の独断ではあるが一夏からの頼みでもある。相手はISの操縦は勿論、生身での戦闘にも長けたテロリストだ。たとえドーパントが相手とは言え、行く行くは国を代表する事になる者が今後臨海学校で晒した様な無様な負け方をする事は出来ないぞ。私もあの時の様に何時でも加勢に行けるとも思わん事だ。では、これより三つの班に分かれてもらう。班長に名前を呼ばれた者は、前に出て並べ。」

 

まず竜が淡々と自分が持っている紙切れに書かれた名前を読み上げた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、凰鈴音。」

 

次にロン。

 

「セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア。」

 

最後に千冬だ。

 

「織斑一夏、更識楯無、更識簪。では、各自これより班長の指示に従い、訓練を始めろ。終わったら再びアリ—ナに戻って来い。以上、解散だ。」

 

 

 

 

竜はラウラと鈴を引き連れて島に囲まれる森の一角へと移動した。

 

「えっとぉ・・・・照井、さん?ここで何を・・・?」

 

「俺の課題は大した事では無いが、始める前に一つ言っておく事がある。俺は、はっきり言ってISが嫌いだ。使えもしない物の威光を傘に着て女に道理を履き違えさせる『力』を持つ。俺の仲間の言葉を借りるなら、今、世界を泣かせている道具だ。だが、織斑は言っていた。お前達はその道理を履き違えていない筋の通った奴らだと。俺はそれを信じようと思う。」

 

竜は右足を半歩後ろに下げ、竹刀を正眼に構えて二人を見据えた。

 

「では、来い。制限時間は今から一時間。五分の休憩を挟んでからまた一時間。その間俺に一撃でも入れる事が出来れば、それで良い。ただし、その一撃はお前達二人が同時に叩き込まない限り合格とは見なされない。本気で来なければ、怪我では済まんぞ?」

 

真剣とは違い竹刀は圧倒的に軽い。軽量な分、振る時に出すスピードは日本刀とは比べ物にならない程速くなる。加えて竜はキャリア街道を行く警察官だ。剣術と格闘術をほぼ我流で極めており、三十キロ近くあるエンジンブレードを今では両手ならば保持する事も出来る程の腕力を手に入れている。その腕から生み出されるスピードは正に脅威だ。

 

一太刀目はラウラの胴を狙った横凪で、ラウラはギリギリの所で反応して回避に成功した。

 

「何と言う速さだ・・・」

 

ラウラは唸りながら眼帯を剥ぎ取った。黄金の瞳『ヴォーダン・オージェ』が竜の剣技を見切って再び避けようとするが、それでも反応が間に合わず、頭に凄まじい衝撃が走った。竜の振り下ろした竹刀が当たったのである。

 

「先程の一撃でお前はもう死んでいる。」

 

「ラウラ!」

 

「余所見をしている余裕は無いぞ。お前の父親には手加減するなと言われている。そして俺は、相手が女であろうと全力でやる主義だ。」

 

今度は突きが鈴の腹を狙う。左足を軸に時計回りに回転して竹刀をやり過ごし、平手で竹刀の軌道を上に向けた。だが次の瞬間、鈴の目に拳が映った。

 

「え?」

 

鳩尾に的確な当て身を食らってバランスを崩し、二発目のストレートで宙に浮かび上がってラウラの足元に倒れた。竜は突きの軌道を反らされた瞬間に竹刀から手を離して狙い澄ましたワンツーパンチを鈴の腹に叩き込んだのだ。

 

「お前も今の二発で死んだ。そして同時に一撃を入れろと言った筈だ。どうした?倒れ臥している暇は無いぞ。まだ三十秒しか経過していない。それにお前達の戦いは臭い。その型に嵌り過ぎた動き、学校の臭いがして来た。反復練習は確かに有効だが、逆にその動きを予め知っていれば簡単に対応されてしまう。」

 

「何と言う強さだ・・・・!教官と同じか、それ以上か・・・?!」

 

「一夏の奴ぅ〜〜!後で絶対に殴るわ。」

 

竜は竹刀を拾い上げて再び構えた。

 

「残り五十九分だ。まだまだ時間はたっぷりあるぞ。絶望がお前達のゴールでない事を見せてみろ。」

 

 

 

 

「あの、ロンさん、と言いましたか?私達は何をすれば・・・・?」

 

「うん。君達の『力』を鍛える事になってね。ISの事は詳しくは知らないが、一応参考までにと君達が過去に行った模擬戦の映像記録を見せて貰った。それで分かった事を言わせてもらいたい。心技体の三つを総合的に上げなければならないよ。まあ、言うより見せた方が簡単だから、一度打ち込んで見なさい。」

 

セシリアには銃剣付きのライフルを、シャルロットには小太刀程の長さがある木刀を渡して手招きした。そして次々と繰り出される攻撃をまるで蛇かその他の軟体動物の様に避けた。

 

「ええ?!」

 

「な、何これ、全然当たらないよ!?」

 

「飲めば飲む程、酔えば酔う程強くなる。酔八仙の技をご覧あれ。」

 

一見ふざけている様に見えるロンだが、これも中国に実在する剛柔一体の虚実を織り交ぜた拳法『酔拳』である。時には二人の足の間を掻い潜り、時には寝転んだまま二人が攻撃するのを待ったり、まるで本当の酔っぱらいの様な千鳥足に二人は翻弄されるままだった。

 

「ふぅ〜〜・・・・ウィックッ。ナハハハハ。ほらほらぁ、私はここれすよぉ〜?」

 

「よ、酔っぱらってる、の・・・?」

 

「あ、あり得ませんわ!?お酒の匂いは全くしていなくてよ!」

 

「私は酔ってる様れ、酔ってる訳ではないのら〜。ンハハハハ。では、君達が学ぶ三つの事を教えよぉう。一ぉつ、技が彩る大輪の花。先程の様に、テクニックとは手際の良さと様式美があってこそ習得出来るぅ。」

 

次に二人はロンを挟撃しようと考え、別々の方向から同時に攻撃して来た。構えを解いたロンに当たりはしたが涼しい表情を崩さず、痛がる素振り一つ見せない。遂には次に繰り出される攻撃を片手ずつで止めてしまい、強引に腕を捻り上げた。

 

「むぅんっ!!」

 

「イタタタタ!」

 

「うぐぅ・・・・!」

 

「二つ。体に漲る無限の力、作り出すは不壊の肉体。格闘に於いて丈夫な体と単純な膂力は基本中の基本です。そして最後に、」

 

二人を離して今度は足を前後に開き、右半身を前に出した。先程とは打って変わって地味そうな構えである。再び掛かって行く物の次の瞬間シャルロットは踵から足を払われてひっくり返され、セシリアは自分の武器でロンに首を絞められた。手を離して前方に押し出しながら鋭い連続突きを背中に打ち込む。最後に人差し指以外を握り込むとそれぞれ数カ所を指先で突き、地面を力強く踏み鳴らしながら掌で後ろに吹き飛ばした。そして爪先で円を描きながら低く腰を落として息を吐き出す。

 

「日々是精進、心を磨く。どんな時でも仁義無き力を振るっては行けない。何故ならそれはただの暴力でしかないから。常に清らかな心で相対する事。武術だけでなく何をするにも心技体のどれを欠いても行けません。全ては等しく大事なのです。」

 

残心を終えて今度こそ本当に構えを解いたロンは、倒れた二人を助け起こした。

「それに君達はどこか勝負を急ぎ過ぎている様な節がある。当たらないと分かるや、矢継ぎ早に攻撃を繰り返すのが良い証拠だ。だが、それは徒に体力も銃弾も全てを消費するだけだし、当たらなければ意味は無い。何事も丁寧に、平常心を持って。」

 

二人を助け起こすと、埃を払い落として肩を叩いて励ました。

 

「さて、まだ初日ですので、まずは基本中の基本。体作りです。ゆっくりやるから、私の型を真似て動きなさい。本格的な修行はその後からです。さあ、構えて。」

 

「「はい!!」」

 

 

 

 

「あの、織斑先生・・・?」

 

「何でこんな事になってるんでしょうか・・・・?」

 

二人は冷や汗をどっさりとかいており、心無しか少し震えてすらいる。千冬の覇気に当てられて無事でいられる者はそうはいないだろう。

 

「簡単な話だ。私の弟が欲しければ奪ってみろ。ただそれだけの事さ。なに、お前達の内一人が一撃でも入れる事が出来ればそれで良い。生身だろうとISだろうと構わない。」

 

「俺はどうすりゃ良いのさ。」

 

彼女二人と向き合う千冬に小さく文句を言う一夏はアリーナの端で向き合う三人を見物していた。二人は黙ってISを展開すると、千冬も白桜を展開し、『桜』を構えた。

 

「一切手出し無用。お前はそこで見ているだけで良い。少なくとも、まだな。今は号令を頼む。」

「分かった。」

 

楯無と簪に一瞬だけ心配そうな表情を向けたが、二人は黙って頷いた。絶対に勝つから心配するな。視線だけで彼をそう励ます。

 

「開始!」

 

全盛期に比べれば劣っているとは言え、仮にも相手は初代の世界最強だ。出し惜しみは出来ない。すれば間違い無く一撃で葬られる。楯無のミステリアス・レイディが自分の周りに水の幕を張り、西洋の騎馬戦で使う様な円錐状のランス『蒼流旋』に仕込まれたガトリングを発射、その直後空いている手に伸縮する蛇腹剣『ラスティーネイル』を使った波状攻撃を繰り出す。更に千冬の後ろに回り込んだ簪は荷電粒子砲『春雷』を彼女がいる所に数発、そして回避先となりそうな所に見当をつけて再び数発ずつ放った。

 

「三日月。」

 

だが千冬はまず飛んで来る銃弾を一発ずつ丁寧に弾き飛ばし、振り抜かれるラスティーネイルの刃を掴んで左腕に巻き付けて強引に楯無を引き寄せた。飛んで来る荷電粒子砲の砲撃は当たる直前だけ展開した零落白夜・月相で無効化させる。ハンマー投げの様に楯無を振り回し、簪に思い切りぶつけた。

 

「どうした。その程度では弟をくれてやるわけにはいかんぞ。」

 

『桜』を腰に収め、『牙』と『月』を抜いた。

 

「ならこれで!」

 

指先をパチパチ鳴らし、千冬の周りで小規模の爆発が幾つも巻き起こった。

 

「簪ちゃん!」

 

「わ、分かった!」

 

ミサイルポッドが開いて十二発のミサイルが千冬にロックオンされ、四方八方から迫る。楯無は上空へ離脱して来る所を迎撃出来る様に蒼流旋とラスティーネイルを構える。ミサイルの弾頭が炸裂したが、千冬は未だ無傷だ。

 

「弱いな。弱い弱い。これでは欠伸が出てしまう。本腰を入れて掛からなければ、打ち身切り傷だけでは済まんぞ。小娘共。」

 

残りの刀を投げ上げると、それらは六本の牙となって二人に襲いかかる。

 

「・・・・・ち、ちー姉つえぇ〜〜〜・・・・!!何だ、あの鬼畜なISは?束さん何つートンデモストラトスを作ったんだ?」

 

(今のあいつらではまず勝てないな。だが、俺はあの女とぜひとも闘ってみたい。織斑、早くISを展開しろ。俺の腕があれば直ぐにカタが着く)

 

『駄目だ。これはあの二人の戦いだ。男たらんと欲するのであれば、女の気持ち汲み取ってやらなきゃならない。今この場で俺達が加勢したら勝つ可能性は大幅に上がるけど、あの二人のプライドを踏み躙って覚悟に泥を塗る事になる。そんな事したらお前、あの二人にどんだけ泣かれて怒られるか分かってんのか?別れ話切り出されでもしてみろ、俺はこの世に存在した事すら知らなかった様な方法で殺されるか、自害するぞ?』

 

(プライド云々の話は分からんでも無いが、何故あの二人に入れ込むか俺には分からんな)

 

『いや、分かってると思う。お前がミーナに抱いている感情と少し似ている。』

 

(ミーナに抱いている感情?ハハッ、俺がミーナを愛していると?)

 

『そこまでは言わないが、彼女には生きていてもらいたい。大事に思っている。そうだろ?』

 

(・・・・・チッ)

 

図星を突かれたのか、克己は何も言わずに舌打ちをして一夏の意識の底へと沈んで行った。勝負がつき、ブザーが鳴った。千冬は首をぽきぽきと鳴らしていて、二人を見下ろしていた。

 

「こんなの・・・・どう勝てば良いのよ・・・・?いやいや、石の上にも三年。絶対に勝たなきゃ!ね、簪ちゃん。」

 

「勝たなきゃ・・・・一夏のお嫁さんになれないぃ〜〜・・・・」

 

最早清々しい程の負けっぷりに二人は悔しがりながらも立ち上がってエネルギーの補充に向かった。

 

「もう少し歯応えのある戦闘を期待していたのだがな。今のままでは、弟を任せる事は出来ない。だがまあ、まだ初日だ。何度でも挑戦するが良い。織斑、茶を入れろ。二人のISのエネルギー充填が終わったらもう一度やる。」

 

「はい。」

 

 

 

 

 

 

 

訓練開始から数時間が経過し、全員はボロボロになりながら整列した。

 

「よし、では本日最後の課題だ。」

 

「ま、まだあるんですの・・・・?」

 

セシリアは青ざめた。

 

「流石に、もう無理、です。」

 

シャルロットはセシリアの肩を借りて立っているのがやっとの状態だ。

 

「入隊以来を超越する疲労感を味わわされたのは初めてだ・・・・」

 

ラウラはと言うと、鈴におぶさっている。

 

「まあ、そう言うな。発案者でありお前に地獄を見せようと画策した一夏をサンドバッグにする事が出来るんだぞ?」

 

「いや、ちょっとちー姉?!」

 

(その言葉を待っていた!!)

 

強引に克己が主人格として表に出て来た。

 

「その通り!もっとも、俺に一撃を入れる事が出来ればの話だがな。この際だ。武器を使っても構わん。俺はナイフだけで良い。死神のパーティータイムはまだこれからだぞ!!」

 

開始から凡そ三十分後、克己は実に満足そうな表情を浮かべ、大の字に寝そべっている少女達を見渡した。

 

「実に虐め甲斐があったぞ。明日もこれが出来ると思うと、ゾクゾクするぜ。」

 

(大道・・・・・おまえ加減をしろよ、加減を!実戦形式とは言えこれ訓練だからな?!く・ん・れ・ん!!)

 

だが、訓練の一部始終をカメラを通して電脳世界から別の目が見ていた。サイバー・ドーパントである。

 

「スコール、私だ。」

 

『あら、プロフェッサー。どうしたの?』

 

「こちらもそろそろ本気で行かなければならないよ?我々の敵はISだけでは無い。仮面ライダーもいる。」

 

『そうねぇ。じゃあ、手始めに日本に一泡吹かせるとしましょう。狙うは、候補生達。』

 

「了解した。マドカを少しの間貸してもらうよ?例の日にちのスケジュールを忘れないでくれ。」

 

『分かってる。』


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