IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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Kの真実/あねいもうと

箒は涙を流し、獣の様に吠えながら束と取っ組み合いの喧嘩をしていた。だが束は殆ど抵抗せず、殆ど箒の一方的な蹂躙だった。

 

「お前のっ!お前の所為で!家族からも、一夏からも引き離された!あの糞忌々しいプログラムにも付き纏われている!全部、全部お前の所為だ!返せ・・・・私の・・・私の今までの歳月を返せ・・・・!!」

 

馬乗りになって腹と言わず頭と言わず、束を所構わず殴り付けた。声が尻窄みになって行くと同時に束を殴る拳にも力が入らなくなり、弱々しい物になった。

 

「何で・・・・何でISなんて物を作った!?」

 

「ごめんね、箒ちゃん。ごめんなさい。ううん、もう謝っても遅過ぎだよね。ごめんね。ごめんね、箒ちゃん。駄目なお姉ちゃんでごめんなさい。」

 

崩れ落ちて小さくなった箒に覆い被さるかの様に彼女を抱きしめた束は泣いた。これ以上に無いと言う位涙を流し、声を上げて泣き叫んだ。

 

「箒ちゃん。ISを作ったのはね、宇宙を見たかったからなんだ。」

 

一頻り泣いた後、箒の隣でリボルギャリーの天井を見上げながら束はそう零す。

 

「え・・・・それだけ・・・・?」

 

「うん、本当にそれだけ。子供みたいな馬鹿で単純な夢なんだけど、一々ロケットに乗って行くのって面倒臭いじゃん? 高く高くどこまでも行ける翼が欲しい。皆にもそれを見せつけてやりたい、小さい時からずっと思ってた。だからISを作ったんだ。」

 

殴られた際に切れた唇から流れる血を指先で拭った。

 

「インフィニット・ストラトス。無限の成層圏て名前もちゃんと意味があるんだよ?政府のお馬鹿さん達は結局それを兵器として転用しちゃったんだけどね・・・・」

 

「白騎士事件も、箒ちゃんを悲しませたのも・・・・私が勝手にこの世界の全部を引っ掻き回しちゃった所為なんだよね・・・・ごめんね、箒ちゃん。未来も自由も奪って今まで何もしてあげなくて。許してくれなくても良い。勘当してくれたって良い。でも、これだけは伝えなきゃいけなかったから・・・私は何があっても箒ちゃんの事が大好きだよ。」

 

 

 

「こっちはこっちで、どうにかなりそうだな。」

 

リボルギャリ—内の二人の泣き声を聞いて翔太郎は涙を見られない様にさり気なく拭い、そう呟いた。

 

「そうだね。さて、大道克己。君に見せなけらばならない物とは、これだ。」

 

フィリップは大道の意識が主人格となった一夏の額に指先を押し付け、目を閉じた。

 

「何だ・・・・コレは・・・?!」

 

気付いた時には何も無い四方八方が真っ白な空間の中で立っていた。

 

『僕の記憶と、僕が閲覧した君に関する情報さ。全てを知る時だ。』

 

映写機がスクリーンに投影するかの如く、巨大な画面が現れた。そこにはフィリップを幼くした様な線の細い顔立ちの青年が映し出される。

 

『大道克己、 十七歳。1988年4月10日生まれ、死亡したのは1995年7月4日で、死因は交通事故。血液型はB。父親は生まれて間も無く事故で死亡、母親は科学者である大道マリア。死亡してから君は直ぐにマリアさんの力でNEVERとして再び生者の世界に戻った。』

 

フィリップが喋りながらも生前の、NEVERになる前の克己を写す映像は流れ続けた。

 

『しかし、死者蘇生は超人的な身体能力と不死身の肉体の代償に記憶と共感能力の欠落、そして細胞維持酵素の定期的な注入によってしか生きられない体となる事。君は次々と仲間を集めて世界各国で傭兵として裏社会に名を馳せた。』

 

様々な戦地で政府の高官からマフィア、テロリストまでもを容赦無く虐殺して行く鮮明でグロテスクな映像が映し出されて行く。映像は更に続いて行き、Wと対峙するエターナルの姿が映し出された。

 

『そして遂にその手は、風都にまで伸びた。財団Xが手がけた次世代型のT2ガイアメモリの一つ、エターナルメモリで変身した大道克己は、風都タワー内部に設置した兵器、通称『エクスビッカー』で風都の住民全てをNEVERにしようと目論んだが、僕達仮面ライダーがそれを止めた。』

 

映像は一旦途切れ、とある離れ島の景色でフィリップが止めた。

 

『ここから先は聞かされた君の話だ。悪魔になる以前の、ミーナが讃えた英雄の話だ。』

 

そこに映し出されたのは、ボロボロの服を来た人間達を先導して実験場所から逃亡している克己を含めるNEVER達の姿だった。その人間達は手をかざすと、行く手を阻む白服達を吹き飛ばし、消し炭に変えて行く。

 

『彼らは通称「クォークス」と言う超能力を使える生体兵器だ。だが、当然ながら人間の脳にも限界が存在する。力を使えば使う程疲弊して行く。末路も目に見えているだろう。』

 

そして克己の隣にある人物の姿があった。全身が赤いラインが入った黒いNEVERの隊服とは対極の白い衣服で、胸元まであるダークブラウンの髪を下ろしていた。彼女は超能力兵士の中ではずば抜けて能力が高いらしく、十数人の人間を手を振るだけで投げ飛ばしたり草地を僅か十秒で燃え盛る更地に変えたりした。だが、実験施設の敷地からかなり離れた所で、逃げ出した者達の様子が変わった。額に瞳の様な模様が現れたかと思うと、NEVER以外の皆は頭を抱えて次々と地面へ倒れ込んだ。

 

『ミーナ!』

 

倒れるミーナを受け止めたが、既に彼女は事切れていた。

 

『死んでるわ、克己ちゃん!!』

 

『おい、どうなってんだよ!?何なんだよこれ!?』

 

脈を測った短髪の男は悔しそうに首を横に振り、その隣にいる身の丈を越す鉄棒を持った大男は狼狽していた。

 

『・・・・・ゲーム、オーバー・・・・』

 

ライフルを肩に担いで髪をかきあげた男は静かにそう呟いた。

 

『私の許可無くビレッジを出た者は、皆死ぬ事になる。彼らを逃がして英雄を気取ったつもりだろうが、貴様達の余計な介入は逆に彼らの死を早めてしまったのだよ。』

 

スーツを着た中年の男は冷笑を浮かべながらポケットからメモリを取り出した。そこで映像が止まり、消えた。

 

『この先はもう見なくても織斑一夏が寝ていた時に彼を介してみたビジョンで知っている筈だ。』

 

「ミーナ・・・・そしてあいつは・・・そうだ・・・・あいつは・・・・ハハハハハ・・・ドクター・プロスペクトか。そうだ、俺が殺してやったんだ。死体の仲間入りをさせて、あいつのビレッジより面白い本当の地獄へ叩き落としてやった・・・・今でも楽しんでるんだろうなあ。こんな物を見せてどうしようと言うんだ?」

 

だが狂った笑みを浮かべている大道に動じず、フィリップは辛抱強く続けた。

 

『まだ終わりじゃない。まだ続きがある。』

 

再びスクリーンが現れ、風都タワーをバックに黄昏れるミーナの姿があった。その手には表面が煤で黒くなった小さな長方形型の何かだった。

 

「ミーナ!?彼女は死んだ筈・・・・!?」

 

『いいや、今でも生きている。実際、僕は彼女に会った。そして今でも君に感謝しているんだ。彼女からすれば、君は死よりもおぞましい闘うだけの道具としての日々を過ごす運命から救い出した英雄だからね。あのハーモニカは、大道克己、君がミーナに渡した物だよ。彼女は今でも、あれを大切に持っている。これを聞きたまえ。』

 

ミーナは悲しそうな微笑を浮かべて、ハーモニカを口に宛てがい、吹いた。その音色は、まるで草原を撫でる優しき一陣の風の様な、身にしみる心地良さを感じさせる物だった。フィリップですらその音に耳を傾けていた。

 

『これ・・・浜で俺が口笛で吹いてた曲だ!?』

 

『克己・・・・ありがとう。私も、皆も、助けてくれて・・・・約束もちゃんと守ってるから。私は今も忘れてない。何もかも絶対忘れない。そして明日を求めて足掻き続ける。これからも、ずっと、永遠に。』

 

永遠。それはエターナルメモリが克己を真の使い手と認めた魔法の言葉だった。そして、その言葉が再び彼の頭痛を再発させた。今度は以前とは比べ物にならない程の凄まじい痛みで、正に万力で頭蓋骨を粉々に砕かれているかの様な激痛だった。様々な記憶が矢継ぎ早に呼び起こされて行く。大道はあまりの痛みに喉が張り裂けてしまう程叫びながら苦しみ、頭を掻き毟ってのたうち回った。やがて痛みが治まり始めたのか、叫び声が笑い声に変わり始めた。

 

「ハッハッハッハッ・・・・ハーーーッハッハッハッハッハッハッハ!!」

 

『その様子だと思い出したみたいだね。』

 

「ああ。そうか、ミーナは生きているのか。そして何も忘れていない。俺の消えた過去も、あいつらの事も。あの曲も、ようやく思い出せた。」

 

景色が白い空間から元の砂浜に戻った。克己の目の冷たさは相変わらずだったが、狂気を秘めた殺人鬼のそれではなく、穏やかな物だった。

 

「礼は言わないぞ。」

 

「元より君から感謝の言葉など期待しちゃいないさ。むしろ、する必要も無い。過去とは人が生きた証だ。それを再び手に出来るのは当然の権利だと僕は思っている。さて、あちらもそろそろ終わったかな。」

 

リボルギャリーを開くと、そこには憑き物が落ちたかの様な晴れやかな表情を浮かべた篠ノ之姉妹が互いの肩を抱いている姿があった。

 

『大道、替われ。』

 

一夏が克己を押しのけて主人格に戻り、箒の前に立つと深々と頭を下げて謝罪した

 

「箒・・・・・すまなかった。傷つけて、突き放して、ずっと何もせずにいた。扉ぶち破ってでも何とかするべきだったのに俺は何もしなかった。本当に、ごめん。」

 

「・・・・・良いのだ。私の愚かさと驕りが招いた、自業自得だ。一夏は何度も私の目を覚まさせようと呼び掛けて来たのに、私は聞く耳を持たなかった。お前の言う通り私は逃げてばかりの臆病者で、腰抜けだ。子供の様に駄々ばかりをこねて、迷惑ばかりをかけて・・・済まなかった。」

 

箒は一夏よりも更に深く頭を下げた。そして正座をして目を閉じる。

 

「一夏、頼みがある。私の髪を切ってくれ。」

 

「え?」

 

「私は最早武士ではない。いや、あの時点で最早武士を名乗る資格すら無かった。私は、これからはただの篠ノ之箒としてやり直す。心機一転する為にも、きっかけが必要なのだ。」

 

「分かった。俺でいいなら、謹んで。」

 

一夏は箒の髪の毛を掴み、エターナルエッジを振り下ろしてポニーテールの根元からばっさりと切り落とした。箒はそれを包んで水の中に投げ込んだ。髪は風で散らばり、やがて波に攫われて消えて行った。

 

「ありがとう。私は篠ノ之箒だ。よろしく頼む。」

 

「ご丁寧にどうも。俺は織斑一夏だ。こちらこそよろしく。」

 

新しく生まれ変わった短髪の篠ノ之箒は、手を差し出し、一夏はそれを握った。

 

「一夏、会ったばかりですまないが、私は学園を暫く離れようと思う。広がって来た視野でもっと色々な物を見てたい。見て、成長したい。お前の様に強くなりたい。」

 

一夏は何度か小刻みに頷いた。

 

「そうか。分かった。お前がそう決めたのなら、俺は止めない。」

 

「さようなら。」

 

「さようならじゃなくて、またいつか。だろ?」

 

「そうだな。達者でな。またいずれ会おう。」

 

箒は束の許へ戻り、二人は何故か人参の形をしたロケットに搭乗して別れを告げながら天空の彼方へと姿を消した。

 

「これで色々と終結したね。さて、翔太郎。僕達はそろそろ帰るとしよう。はぁ、ようやくこれで事務所も静かになる。」

 

「束もようやく仲直りが出来たし、後は姉妹水入らずの時間だな。少し早めだが帰るか。」

 

「左、フィリップ。」

 

「何だい、織斑千冬?」

 

「ありがとう。」

 

「お易い御用さ。」

 

「ああ。涙を拭う事こそが、俺達の仕事だからな。後一夏、ヘィ。」

 

翔太郎はくしゃくしゃになった茶色の袋を一夏に投げ渡した。

 

「ブツを幾つか入れておいた。また必要になると思うからな。」

 

翔太郎のウィンクの意味を理解したのか、一夏は顔を小さく綻ばせた。

 

「ありがとうございます。じゃ、後で。」

 

 

 

 

 

 

 

その夜・・・・

 

「なあ、簪ってば・・・・」

 

「ふ〜んだ。」

 

簪に思い切り無視されているのが余程堪えているのか、一夏は目に見えてしょげている。食事もあまり進んでいない。

 

「ガールフレンドほったらかしたままにするのはマズいよ。僕だったら絶対怒るよ?」

 

隣に座っているシャルロットはカワハギを摘んで一夏を哀れんでいた。次にわさびの塊を摘んで口に放り込んだ。

 

「あ、こらシャル、馬鹿!」

 

案の定、わさびの味に馴れていないのにかなり大きな塊を丸ごと口に放り込んだ為、シャルロットは箸を取り落として口と鼻を抑えて声にならない悲鳴を上げ、小さくのたうち回った。

 

「わさびをそのまま食う奴があるか。ほれ、お茶。」

 

湯飲みに煎茶を注いでやり、シャルロットに渡した。それを受け取るや否や、女子らしからぬ勢いで喉を鳴らしながらごくごくと飲み干す。

 

「うぐぅ・・・・あひがほ・・・・でも、風味があって、おいひいよ・・・?」

 

「まあ、今度から気をつけろ。お前、もし男が出来てそれやったら絶対ずっとからかわれるぞ?さてと。簪、こっち向いて。」

 

「やだ・・・」

 

「あ〜あ、折角食べさせようと思ってたんだがなぁ〜〜、嫌なら仕方無いなぁ。」

 

簪とシャルロットにしか聞こえない程の声だが、簪はこの言葉にピクリと反応を見せた。

 

「一夏、えげつない。」

 

「ノンノン、片思いだろうと両思いだろうと、どこかしらで駆け引きは必ずあるのだよ、マドモアゼル。意中の人の心を射止めただけでは、止まらないんDEATH!」

 

「い、一回だけ、なら・・・・あ〜ん・・・・」

 

真っ赤になりながらも小さく口を開けた簪の口にカワハギを入れた。

 

「ん・・・美味しい。」

 

「これで機嫌直してくれた?」

 

「も・・・・も、もう一回・・・・・」

 

よしよしと頭を撫でて、簪は少しずつ機嫌を直して行く。

 

「すご・・・・ねえ、一夏。僕にもそのやり方教えて。」

 

「男を手玉に取りたいなんて随分と強かだねえ。」

 

「僕は振り回されるより振り回したいんだよね、どちらかと言えば。」

 

ムフフと笑うシャルロットを見て、一夏は不思議とそれを容易に想像する事が出来た。歳不相応の落ち着き払った性格を持ったシャルロットが年下の彼氏の手を引っ張って買い物に付き合わせたり、デートの別れ際に不意打ちのキスをしたり、などなど・・・・

 

「まあ、さっきみたいにわさびをそのまま口に放り込むなんて馬鹿な真似をしない様にな。絶対にからかわれる側に立場が逆転するから。立場が逆転したら、挽回するのは意外と難しいんだぞ?」

 

「えへへへ、その時は一夏に手伝って貰うからよろしく。」

 

「そう言えばさ一夏、もう一人の引き蘢ってた幼馴染み。どうしたの?姿が見えないんだけど?」

 

真向かいに座る鈴がお吸い物を飲み干して碗を置いて訪ねた。

 

「ああ。姉妹水入らずで、暫く学園を離れるとさ。あいつ、随分と変わったよ。やっぱり持つべき物は家族だよな。なあシャル。明日って各国から届いたパッケージとかのテストだろ?俺は別にそう言うの無い、と言うかスロットに空きが無いから別に行かなくても良いんじゃないか?」

 

「残念ながらそれは違うぞ?あの馬鹿が『置き土産』を私の部屋に置いて行った。零式に現在積まれている武器は曰く試作モデルだそうだ。お前にもテストは付き合って貰う。」

 

襖が開いて千冬が一夏の空き時間の希望を見事に粉砕した。

 

「それにお前がテストをする必要がなくても、他の候補生達の手伝いをさせるつもりだったんだ。そう易々と休ませてやると思うなよ?」

 

「うっげ・・・えげつね〜。」

 

千冬のしたり顔を見てげんなりとした一夏は再び刺身を簪の口に運んだ。

 

「・・・・・お前は餌付けをする親鳥か?」

 

「親鳥?多いに結構。簪が可愛いから何とでも仰るがよろしい。」

 

 

 

 

食事を済ませた後、一夏は冷えた麦茶が入った魔法瓶を持って寛いでいた。風呂から上がった所で少し逆上せており、首筋にそれを押し当てて体温を下げようとしているのだ。そしてそのまま千冬に渡されたタブレット画面にある零式の新しい武装の基本データを確認していた。一つ目は雪片・無限と連結できるナイフ、『爪幻(そうげん)』。

 

もう一つは射撃武器だが、天幻とは違って片手で保持が可能なサブマシンガン、『吹雪』だ。発砲の際はISが自動で反動を殺してくれるが、銃身にはガスを逃がす為のガスポートが、そして先端にはコンペンセイターが付いている。これにより銃口がフルオートで撃つ時に起こるマズルジャンプを更に軽減して更に精密な射撃が可能となる。

 

当然どちらもソウルメモリーズの能力付加が出来る。

 

「ありがと・・・・束さん。」

 

「一夏、やっと見つけた。」

 

「おお、簪。ちょっと長風呂し過ぎて逆上せたから頭冷やしながら明日使う武装のデータを見てたんだ。」

 

簪も風呂から上がって間も無いらしく、髪の毛は少し湿っており、肌もうっすらと赤くなっていた。それがたまらなく色っぽく見えた一夏は簪を抱き寄せて膝の上に落とした。

 

「ちょ、ちょっと・・・・?!」

 

「こうするの、久し振りだから。」

 

一夏の腕にかき抱かれて、簪の抗う意志と力はあっと言う間に消えて行った。

 

「あ〜、落ち着く。」

 

「一夏は、さ・・・・・」

 

「ん?」

 

「な、何人ぐらい子供欲しい?(何言っちゃってるの私!?)」

 

一夏は普段その様な事をあけすけに口にする性格の持ち主ではない簪の言葉に眉を吊り上げた。

 

「あ、いいい今のは、あの、その・・・く、口をついて出ちゃって・・・・も、勿論欲しいけど!あ・・・・・・」

 

更に自分を追い詰めてしまった簪は、両手で鬼灯の様に真っ赤になっている顔を隠した。一夏はその手をどけさせ、ギュッときつく目を瞑っている簪にキスしてやる。腰を抱いている腕の力を少し強めて更に体を密着させた。風呂上がりのシャンプーの香りが鼻をついて、簪の口の中に舌を差し込んでかき回した。

 

「二人位、かな?男女どっちも欲しいなんて言ったら、贅沢言い過ぎだと思うけど。」

 

一頻りキスを楽しんでから離れて答えた。

 

「ま、真面目に答えにゃいで!」

 

「いやでも、本当の事だから。」

 

「私は、そうねぇ〜・・・・一人で良いかな?出来れば男の子が欲しいかも。一夏君に似てるカッコいいコが。」

 

「ふーん、そっか、って?!」

 

聞き覚えのある声に反応して思わず振り向くと、いつの間に現れたのか、短パンとTシャツに身を包んだ楯無の姿があった。相変わらず扇子を手に持っており、『家族円満』の四文字が書かれている。

 

「お姉ちゃん!?」

 

「刀奈、お前いつの間に!?」

 

「えへへ〜、学園長の轡木さんに許可貰って来ちゃいました。アハッ♪でもずるいなあ、簪ちゃん。臨海学校で一夏君と二人っきりでラブラブチュッチュ出来るなんて。それに子供の話までしちゃって・・・・ンフフフフ、私もま・ぜ・て♡」

 

モニョンと擬音が付きそうな程に豊満で柔らかい胸を背中に押し当てて一夏の耳に囁いた。彼の頭を自分の方に向けてキスを始めた瞬間・・・・

 

「ほぉ〜う。」

 

甘い空気が一瞬にして張り詰めた。この空間に水を投げ込めばあっと言う間に氷になっただろう。

 

「私の目を盗んで不純異性交遊を敢行するとは、随分と命知らずな奴らもいた物だな。ま、今回は多目に見てやる。一夏、久し振りにマッサージをしてくれ。」

 

「え〜・・・・」

 

名残惜しそうに二人を見ていた一夏だったが、出席簿よりも大きく、分厚いタブレット型の端末を引っ張り出したのを見て一も二も無く頷いた。

 

「分かった。ごめんな、二人共。」

 

「ぶぅ〜、先生のいけず〜。」

 

「私の弟が欲しければ、私に一太刀でも入れる事だな。それが最後の条件だ。」

 

「ちー姉は隠れブラコンだいってぇええええーーーー!!?」

 

「黙っていろ、この色ボケ小僧が。」

 




次回から福音戦が始まります。

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