IS x W Rebirth of the White Demon 作:i-pod男
グリズリー・ドーパントは後ろ足で立ったヒグマの数倍近くある灰色の剛毛に覆われた姿に変わり、ハウンド・ドーパントも大型犬を凌駕する四本足のドーパントに変わった。
『織斑一夏よ、更識本家の血を薄めぬ為にも貴様にはここで死んでもらう!!』
鉤爪が付いた力士の様な手を振り回して一夏に襲いかかった。ナノマシンをフル稼働し、バックステップで避けはしたが、間髪入れずハウンド・ドーパントが飛びかかって一夏の左腕に噛み付いた。痛みに悲鳴を上げた一夏は懸命に引き剥がそうとしたが、発達した顎の力は凄まじく、まるでスッポンと格闘しているかの様だった。そしてハウンド・ドーパントが離れた所でグリズリー・ドーパントの鉤爪が迫る。
「一夏!!」
「グゥアッッ!?」
内蔵にまで達する鉤爪の刺し傷もそうだが、高速で走る二トントラック以上の力で殴られて一夏は道場の壁を突き抜けて十数メートル吹き飛び、地面で何度かバウンドしてようやく止まった。一夏の体から血がとめどなく溢れ出して地面に巨大な血だまりを作って行き、どんどん冷たくなって行くのを感じる。
「一夏君!!」
「楯無、行っては駄目。ISを使っても倒せない様な相手を私達が束になった所で徒に死者が増えるだけよ。」
かぐやは楯無を押さえつけ、天次郎も簪の両肩を後ろから掴んで引き止めている。
「今は彼を・・・・仮面ライダーを信じるしか無い。」
『クククッ・・・・口程にも無いな若造が。更識の連中も貴様を助けようともせんとは、見捨てられたな。所詮貴様も操られるだけの手駒に成り下がるのだ。これからは我々千代田が更識を作り直す。』
グリズリー・ドーパントは鉤爪の血を払い、恐怖心を煽る為なのかわざと一歩ずつゆっくりと近寄って来る。
『よくも僕から・・・・僕から楯無を奪ったな・・・・・!!殺してやる・・・・殺してやる!!!』
甲高い叫び声をあげながらハウンド・ドーパントも唸りながら近付いて来る。
ナノマシンを全力で使えば倒せるかもしれないが、この傷が完全に回復する前に脳と心臓を破壊されてしまったら幾ら超人的な能力を持っているとは言え本当に死んでしまう。傷口はすぐに塞がって行くが、流れた血と内蔵にまで達する————それこそドーパントの様な存在からの———程の一撃を完全に癒すには少なくとも二、三分は要する。だが今は一秒たりとも無駄には出来ない。
(だらしが無いな)
突如頭の中に大道克己の声が聞こえて来た。
(大道?!)
(こんな奴に倒されたと思うと屈辱だ。俺はメモリがなくともドーパントと渡り合う事は出来たぞ?俺に替われ。生身での対ドーパント戦の手本を見せてやる)
一夏は急に体の力が抜けて水の中に沈んで行く様な不思議な感覚に見舞われた。傷が塞がった所で一夏が————否一夏だった青年が立ち上がったその目は狂気に満ちあふれ、口元は悪魔の様に冷たく凶悪な笑みで歪んでいた。一夏の体に、大道克己の人格が主人格である一夏の物と入れ替わったのだ。
「ドーパントになろうと、人体の急所は変わらない。やる事さえやれば超人態であってもコイツらを叩き潰すのは勿論の事、殺すなど造作も無い。どんな堅い外皮を持つ生き物も、」
牙を剥き出し、大口を開けて再び飛びかかって来たハウンド・ドーパントの口の中に拳を突き入れた。当然器官に拳を詰まらせて呼吸困難に陥る。そのまま腕ごと噛み千切ろうとしたが、酸素が頭に行かない所為で体に力が入らない。まるで溺れているかの様に四肢をばたつかせるハウンド・ドーパントの腹を無造作に何度も殴り付けた。
「内蔵などの柔らかい部分を潰せばひとたまりも無い。」
『幻斎!!貴様ぁああああああ!!!!』
「ハッハァ、久し振りだ。中々に使い勝手の良い体じゃないか!!」
(おい大道!!メモリブレイクか変身解除させれば良い、殺す必要は無いだろ!?)
「黙っていろ、織斑一夏。折角のパーティータイムを台無しにするなよ。メモリとドライバーを置いて行ったから俺が尻拭いをしているんだろうが。」
「・・・・・一夏が、誰かと話してる・・・・・?」
「いや、あれは恐らく別の人格と対話しているだけだろう。こちらの一夏君の方が遥かに凶悪で危険だ。総員、武器を持って私が指示を出すまで待機だ。」
抑揚の無い天次郎の声が飛ばした指示に分家と本家の皆は携行している拳銃を構えた。
「ちょっとお父さん!?」
「今の彼は織斑一夏であって織斑一夏ではない。お前と簪の恋人に見えるかもしれないが、今の彼の
「一夏君がそんな事」
「そんな事をしないと言い切れるのかい?今の彼が?」
大道の人格が乗り移った一夏はハウンド・ドーパントを串刺しにした方の手でグリズリー・ドーパントを殴り付け、結果的に更に深く拳を突き入れる事になった。恐らく食道を通り過ぎて胃にまで届いているだろう。最早痙攣しているハウンド・ドーパントの口の中から腕を無理矢理引き抜いた。使用者が気を失った事によりメモリは自動的に排出されて、幻斎は人間の姿に戻った。
大きく腕の肉を裂かれたがそれも直ぐに閉じた。ボロボロになったシャツを破り捨て、それで血と唾液と胃液に塗れた腕を拭う。
「ほう、NEVERの時よりも遥かに使えるタフな体だな。」
腕の傷口が閉じるのを見て、調子を確かめる為に腕や指を曲げ伸ばしをして満足そうに頷いた。
「不死身でないのが唯一残念だが、まあ良い。」
右腕の零式から量子変換されたエターナルエッジが現れ、その切っ先でグリズリー・ドーパントを指した。
「次はお前だ。あの駄犬では、パーティータイムの前座にも退屈しのぎにもなりはしなかったから。精々死なずに俺を楽しませてくれ。」
『ウォオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーー!!!!!』
繰り出される攻撃は全て怒りに任せての大振り。故に単調で避け易い。
「さあ、来い・・・・・エターナル!!もう一度この世に俺の存在を永遠に刻み付ける為の力を、俺に寄越せ!」
(俺も、欲しい!)
「何・・・?」
(俺も、力が欲しい。今ようやく分かった。俺の欲望が。仲間も好きな人も、全てを永遠に守り通す事が出来る絶対的な力が欲しい!!それが俺の欲望だ。これで満足か、大道克己?!)
「ようやく少しはマシになったな。」
大道はフッと口角を片方だけあげて笑い、手を挙げた。眩い光と共にその手にエターナルメモリとロストドライバーが現れる。
(エターナルメモリとドライバーが?!)
「俺との運命の絆は死して尚健在だ。永遠・・・・エターナル。変身!!」
大道と心の中にいる一夏の声が重なり、
『Eternal!』
黒マントに身を包んだ白い悪魔が姿を現した。向かって来るグリズリー・ドーパントの攻撃を身じろぎせずに受け止める。
『何、だと・・・?!』
「弱いなあ。弱い弱い。」
お返しに腹にストレートを叩き込んだが、明らかに威力が上がっている。
(何だこれ・・・?!今までと全然違う。この無限に湧き出る力が・・・・)
「そうだ。これだ。これが、これこそが!エターナルの真の力だ!力とは使いこなせなければ宝の持ち腐れだ。力を手にする事を恐れていては何も出来ない!」
エターナルはエッジモードのエターナルエッジを巧みに操って瞬く間にグリズリー・ドーパントを追い詰めて行く。
「お前の様にチンケな力を手に入れた位で粋がる様なクズは、地獄への片道切符をくれてやる。」
『Eternal Maximum Drive!』
エターナルレクイエムが発動し、千代田厳流のガイアメモリは機能を停止して変身が解除された。メビュームマグナムの銃口で厳流の頭に狙いをつける。だが一夏の意識が干渉してその手を押さえ付けた。
(おい、待て!!ガイアメモリをどこで手に入れたかを吐かせなきゃならない、今ここで殺されたら糸口が途切れる!)
「俺の知った事ではない。離せ。」
(ふざけんな!これ以上俺の体で好き勝手させるわけにはいかねえんだよ!!)
Wの様に二つの意識が半身ずつに干渉し、鬩ぎ合う。同じ体なのでどちらも膂力は互角だ。拮抗状態が続く中、厳流と幻斎の二人は取り押さえられた。
「チッ・・・・良いだろう。今回はお前がようやく欲望を露わにした事に免じて退いてやる。精々甘さに殺されない様気をつける事だ。」
言うが早いか、大道はドライバーのスロットを定位置に戻し、変身が解除された。同時に主人格の一夏の意識が浮上する。辺りを見回し、状況を把握すると現在の自分の状況を見て嘆いた。
「うっわぁ〜〜〜〜・・・・・嘘だろ。これWindScaleの中でもかなり気に入ってたブランド物なのに。あ〜あ。」
服は繕えばまだ着れる、などと言う様な生温い安全圏には無かった。
「やっぱスタイリッシュに戦うのってムズいな。あーあ、鳴海さんがいたらやり方ぐらい分かったかもしれないのにな。あ、天次郎さ〜ん、コッチはとりあえずカタが付きました。なので皆さんが構えてるその物騒なモノをしまっちゃ貰えませんかね?」
千代田の二人を六人程が拘束及び保護していたが、残りの全員は銃口を全て一夏に向けていた。トリガーに指が掛かっている。天次郎は銃口を一夏の額にぴたりと押し付け、小太刀の刃を喉に押し付けた。
「・・・・・・刀奈の好きなお菓子は?」
「金平糖、水羊羹、そしてモンブラン。」
「私の座右の銘は?」
「深謀遠慮。」
「簪が今ハマッているヒーローモノの主題歌とアーティストの名前は?」
「番組名は『サイボーグ忍者コタロー』主題歌は『NO WAY〜悪漢無頼〜』アーティストは湘南乃風。」
「かぐやのスリーサイズは?」
「えーっと・・・・・知らないっす。」
「よし、安全だ。銃を下ろせ。今の彼は僕らが知る彼だよ。」
ケロリと表情が何時もの微笑を浮かべて銃と小太刀をしまった。
「お父さん何聞いてるの!?お母さんのスリーサイズって・・・・」
人込みを掻き分けた簪は顔を赤らめた。
「まあ知っていたらその場で斬首するつもりだったんだがね。」
千代田は当主を含めその家に使える者が多数ガイアメモリに拘っている事が露見し、皆が逮捕されて事件の幕は閉じた。
ハッキングされた衛星カメラを通してこの一部始終を見ていたオータムは大きくしたうちをして回線を遮断した。
「チッ・・・・あの役立たず共が。」
ゴミ箱を無造作に蹴り上げ、中身を床にぶちまけると、胸ポケットに入っているアラクニドメモリを取り出して握り締めた。
「良いわよ、別に。どうせその内捨てるつもりだったし。それに、動かせる駒はもうかなり増えたのよ。VTシステムで複製した現国家代表達のクローンの調整もようやく最終段階への目処が立って来たから。」
培養液に浸かり、体中が大小様々なチューブに繋がれた全裸の少女二人を満足そうに見つめるスコールは噛んでいたガムを膨らませた。
「次は、そうねえ・・・・海にでも行きましょうか。調整を終わらせ次第、アイを起こしてエムと行動させなさい。連れて行くから。さて、どう動くかしら?織斑一夏。いいえ、仮面ライダーエターナル?貴方の事、是非知りたいわ。勿論他の仮面ライダーさん達にも会えれば良いんだけど。」
う〜・・・・五千に到達しなかった・・・通常ノルマなのに・・・・スランプなのか・・・?
まあ自分の体調の事はさておき(オイ)次回かその次辺りで臨海学校に突入します。
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