IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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時間は鈴が中国に帰る所まで飛びます。そしてそして、タグでも表記した通り簪がヒロインになります。今回はまあ、それを積み上げて行く部分です。


Fとの別れ/新たな出会い

翔太郎やフィリップ達風都に住まう仮面ライダーとその仲間達に別れを告げた後。新学期が間近に迫っていた。そんな時に、ワイバーフォンに一本の電話がかかった。液晶を確認すると、『五反田弾』の名があった。偶然一緒のクラスになって意気投合した数少ない親友と呼べる男である。

 

「はい、織斑。」

 

『一夏、早く来てくれ!』

 

「どうした、そんなパニクった声しやがって。妹に彼氏でも出来たのか?」

 

『んな馬鹿な事言ってる場合じゃねえんだよ!!』

 

冗談めいた言葉に対して何時もの様な慌てたリアクションではなく、切羽詰まった叫び声が返って来た。それもワイバーフォンを耳からそれなりに話し手もハッキリと聞こえる程の音量でだ。

 

『鈴が引っ越しするんだ!中国に!!』

 

先程の悪戯っぽい表情は一瞬にして落ち着いた冷ややかな者へと変貌した。中学生に出来る顔付きとは思えない程大人びた顔だ。

 

「今どこにいる?」

 

『店の前だ。お袋が車出してくれるからって待ってる。急いで来てくれ、鈴が飛んで行っちまう!』

 

「すぐに向かう。一分待て。」

 

一夏は貴重品を手早くポケットに押し込んでフード付きのパーカーを羽織ると、嵐の様に玄関から飛び出した。周りの物がぼやける程のスピードで歩道を、車道を爆走し、『五反田食堂』と書かれた暖簾が掛かった引き戸の前で止まった。

 

「一分ジャスト。お前ホントすげえよな、それ。」

 

赤いドレッドヘアーにバンダナを巻いた男が腕時計の秒針を見て到着に要する時間を計っていた。彼こそが五反田弾である。白いミニバンの運転席には妙齢(に見えるが実際は四十間近)の女性がハンドルを握っており、助手席には弾と同じ赤い髪の毛の少女が座っていた。一夏が来たのを見て手を振って来る。一夏もまた手を振り返し、バンに乗り込んだ。

 

(間に合ってくれよ・・・・?)

 

フライトの十分前に、ようやく空港に到着した。三人は人込みを掻き分けて搭乗口の手前にあるセキュリティーチェックの列に辿り着いた。

 

「おーい、鈴!!」

 

列に並んでいた少女が名前を呼ばれて振り向いた。黄色いリボンで長い髪をツインテールにした小柄な体躯だ。

 

「一夏・・・・弾、蘭も。」

 

「いやー、良かったぜ。間際で調べたから間に合うかどうか分からなかったんだ。」

 

「そっか。やっぱ隠し切れなかったわね。」

 

溜め息混じりにツインテールの少女———凰鈴音はそう零した。

 

「小五から三年弱の付き合いだぞ?弾や蘭もそうだが、俺達は互いの事で知らない事は何も無い。」

 

「それもそうだった。まあ、縁があったらまたどっかでね。」

 

「おう。ロンさんとユエさんにもよろしく言っといてくれ。特にロンさんには世話になりっぱなしだったからな。」

 

バンの中で三人分の連絡先を書き留めた紙切れを渡して、四人は最後にもう一度だけハイタッチを交わした。

 

「じゃあ、またね。三人とも。」

 

「はい!」

 

「ああ、またな。」

 

鈴音は振り向かずにゲートへと歩いて行き、角を曲がって姿を消した。一夏達も同じ様に背を向け、振り返らずに歩を進めた。論理性の欠片も無い所信だが、必ずまたどこかであえると四人は信じた。たとえどこにいても、互いに信じているから。故に名残惜しさも涙も無い。

 

「あーあ。行っちまったなあ、一番の情報通が。『お悩み相談室』、どうするかねえ?結構な駆け込み寺だったんだがな。」

 

一夏は学校に戻ってからすぐに友人達と共に非公式の部活として『お悩み相談室』を立ち上げた。一年弱とは言え、それはかなりの盛況であった。同学年の生徒のみならず、後輩や上級生、果ては教師までもが足を運ぶ様になる程に。

 

「一夏さん、どうするんですか?情報収集は流石に私達だけじゃ・・・・」

 

「ああ。確かにな。」

 

中国へ旅立ってしまった鈴音は、このお悩み相談室の要である。と言うのも、彼女の父親は中国人民武装警察部隊に所属する現役の警察官であり、腕っ節は勿論、情報収集能力は目を見張る物がある。その特徴は娘に色濃く受け継がれており、校内のあらゆる情報を把握している様で、ドラマに登場する正に『情報屋』と呼べる人物なのだ。彼女が不在となってしまった今、新たな策を考えなければならない。

 

喫茶店で暫く考え倦ねたり、互いにあれこれ案を出し合ったりしていたが、結局妙案と呼べる様なアイデアは思い浮かばなかった。

 

「まあ、どうするかは暫くは保留だな。後、臨時だが休業しよう。」

 

「え〜・・・・」

 

蘭は余程残念なのか落ち込みの度合いが高い。

 

「そう言うな。」

 

妹の頭をポンポンと軽く叩く弾。

 

「俺達は所詮大人の真似事してるだけだぞ?少し位休暇を取ったってバチは当たらないし。なあ一夏?」

 

一夏は立ち上がると伝票を持ってレジに向かった。

 

「そうだな。俺、ここ払っとくよ。」

 

「おい、一夏、割り勘で」

 

「良いって。そんな大した金額じゃないんだから。俺は今から暇潰しの為にゲーセンで遊んで来る。後、店の仕込みがあるんだったら遅れない様にしろよ?」

 

それだけ言い残して、一夏は会計を済ませると近くのゲームセンターに向かった。真っ先に向かった筐体は『Quick Shooter Maximum』と言うFPS形式のシューティングゲームだ。難易度は初心者のNovice レベルから超上級レベルのMaster までの五段がある。現れる敵を掃討しながら進むと言うありきたりなゲームだが、難易度が上がるにつれ、敵の数と出現タイムの間隔が短くなり、手持ちのライフも少なくなる。それ故上級レベルを進んで選ぶ人間は余程やり込むタイプのゲーマーでない限りいない。一夏はそこまでのゲーマーではないが、ナノマシンに出来る限り頼らずにどこまでやれるかと言うテストに使って、replrere反射神経と動体視力の訓練を兼ねているのだ。

 

「さてと、今日はどこまで行けるかな?」

 

両替した百円玉を投入し、筐体の上に鎮座している銃の中から装弾数は少なくも威力が高いリボルバーを取り上げた。撃った時の衝撃もかなり忠実に再現されている為、使う人は少ない。銃で画面を撃って難易度を一番高いMasterレベルで設定する。

 

カウントが0になり、現れる敵を一人ずつ確実にヘッドショットで仕留めて行く。通常のリボルバーと同じく、装弾数は六発しか無い。数秒もしない内に全弾を撃ち尽くし、リロード、再び全弾発射と言う単純かつ意外に体力を使う作業をぶれないペースで淀み無く続けて行く。そして遂に一度もダメージを受けないままステージを全てクリアしてしまった。スコアも今までの中で最高位の物を叩き出した。

 

「よしと。」

 

スコーピオショックの文字盤を確認すると、そろそろ夕餉の支度をしなければならない時間だ。だが、耳を澄ますと、ゲームセンターから聞こえる音の爆発以外にも途切れ途切れだが何かが聞こえた。

 

「・・・めて、・・・・いで・・・・!」

 

女の声だ。それも恐らく一夏と同い年の。こんな早い時間から変態が彷徨いているのか。一夏は声のする方に向かって行った。

 

「おいおいおいおいおい。男三人で俺と同年代のコを囲うってのはどうよ?女の子はもっと優しく扱わなきゃ。」

 

スーツに身を包んだ男三人に声をかけた。三人は振り向いて暫く一夏を凝視していたが、障害ではないと言いた気に背を向けた。

 

「カッチーン。」

 

一夏はズボンのポケットからトランプの紙箱を引っ張りだして札を三枚引いた。それを手裏剣の様に投げつける。手首のスナップで回転が掛かった三枚のトランプは一直線に飛んで行き、三人の後頭部にカードの角がジャストミートで突き刺さる。その一瞬の隙を突いて一夏は三人が囲んでいた人物の手を掴んで走り出した。それは一夏が聞いた通り乙女の声であり、内側にはねた水色の髪の毛を持った少女だった。

 

「走るよ。」

 

「え、あ、あの、ちょ・・・・・」

 

暫く走って公園のベンチに腰掛けた。

 

「ここまで来れば大丈夫か。ごめんね、びっくりした?」

 

「・・・・・その、・・・・・ありがと・・・・・」

 

「お気になさらず。流石にあれを放って置くのはちょっとね。はい。」

 

自動販売機でジュースとアイスコーヒーを購入し、ジュースの方を差し出した。

 

「俺は一夏。織斑一夏だ。よろしく。」

 

「・・・・・簪。更識、簪。」

 

簪と名乗った少女は差し出された手をおずおずと握った。

 

「で、あんな輩に追われる理由って何?アレ明らかにSPっぽい風体してたんだけど。」

 

だが簪はジュースの缶を両手で包んで俯き、無言を貫き通した。

 

「あー、まあ、言いたくないなら別に良い。誰だって多少は込み入った事情を抱えてるんだから。それよりさ、腹減ってないか?」

 

その直後、クゥと小さく可愛らしく簪の腹の虫が空腹を告げる。羞恥で顔を真っ赤に染めて、俯いた。それを見た一夏は思わず笑いそうになってしまったが、そこは紳士としてあるまじき行為なのでどうにか笑いの衝動を押さえ込んだ。

 

「他に行くあて無いんだったら、ウチに来る?」

 

「え?」

 

「歩いてほんの五分ばかりだからさ。それに、腹減ったまんまじゃへたばるぞ?またあのSPモドキが来たらお互いちょっとどころか結構厄介だろうしさ。」

 

「・・・・・・じゃあ、お邪魔します。」

 

「んじゃ、ついて来て。」

 

缶コーヒーを一気に煽って缶をゴミ箱に投げ捨てると、一戸建ての自宅へと簪を導いた。

 

「はい、到着。」

 

「・・・・誰も、いない・・・・?」

 

「ああ、まあな。現在二人暮らしだから、殆ど家は空っぽなんだ。どうぞ。」

 

内装は特色と呼べる特色は無いシンプルな物で、簪はソファーに座らされた。余程珍しいのか家の周りをぐるりと何度か見渡している。

 

「そんな大した所じゃないけど、住めば都って奴。よしと、作るか。」

 

テーブルに食器や鍋敷きを並べると、手を洗い、ゴム手袋をはめると両手を叩き合わせる。冷蔵庫の中からは食材、戸棚からは調味料、そして調理器具も一式取り出して準備を始めた。簪はその様子をじっと見ていたが、野菜の切り方一つ取っても手付きや手際の良さは三ツ星シェフ顔負けの物だった。しばらくしてから香辛料の香ばしい匂いが台所から漂って来た。それは一層簪の食欲を引き立たせた。

 

「俺も結構腹減ってるから無難にカレーを作った。少し多めだけど。」

 

極弱火でカレーを煮込み、丁度炊飯器がアラームで白米を炊き終わった事を告げる。

 

「よしと。出来たよ。」

 

「凄い・・・・」

 

「殆ど一人暮らしみたいな物だからな。家事位は出来なきゃ生きて行けないし。んじゃ、どうぞ。Bon apetit。」

 

簪は熱々のカレーをひと匙掬って口に入れた。

 

「美味しい・・・・!これ、お店に出せるよ?」

 

「そりゃ良かった。レトルトじゃなくて最初から全部作ったからね。その方が更に味を調整出来るし。まあ、量はあるから、好きなだけ食べていいよ。」

 

そして、余程空腹だったのか、多目に作ったカレーも殆ど無くなっていた。

 

「ご馳走様・・・・」

 

「お粗末様。」

 

食器を台所に持って行って洗う作業に取り掛かり始めるが、簪もついて来た。

 

「どした?」

 

「洗うの、手伝う・・・・」

 

「良いって別に。もてなした客人に仕事させるってのはちょっと・・・・」

 

「一宿一飯・・・・・」

 

「一飯は分かるけど、前者の方はしてないぞ?」

 

だが、数分程の沈黙で簪の眼力に負けたのか、一夏は仕方なしに彼女が手伝う事を許した。食器を片付け終わってから食後の紅茶を啜り始めると、簪は意を決した様に語りだす。

 

「一夏。」

 

「ん?」

 

「私、ね・・・・・実は家出したんだ。」

 


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