IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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タイトルの通り、一夏のHell が始まります。


Cの感謝、Lの謝罪/地獄の面談

「ハッ・・・?!イテテテ・・・・」

 

跳ね起きた直後、体中が鈍痛に見舞われた。腹には包帯が幾つも巻かれており、一番の痛みはそこから来ている。体はバイタルを正確に表示する精密機器と点滴用の管に繋がれていた。隣の机にはフルーツの盛り合わせが入ったバスケットやお見舞いのカード、更には千羽鶴があった。一組の全員が総力を挙げて作った物なのだろう。また食事を振る舞いで模して恩を返さなければ鳴らないな、と考える。右腕の零式に目を落とすと、待機状態の黒い腕輪に見知らぬ青いフレアマークが入っていた。

 

「大道、克己・・・・」

 

一夏は身震いをした。正しく地獄から蘇った悪魔としか形容出来ない百戦錬磨の男の姿は今でも鮮明に目に焼き付いている。急所を狙う容赦の無い野獣の様な獰猛さとプロの傭兵に相応しい無駄を一切省いた戦闘スタイルはまさに脅威の二文字に尽きる。それと戦い、ほぼ相打ちに近い形で生き残った。勝利出来たのは最早奇跡と呼べる物だ。折れたナイフの刃で相手を倒した事を振り返ると、改めて自分がどれだけリスキーな賭けをしたか思い知った。恐らくあの様な勝ち方は今後一切出来ないだろう。翔太郎やフィリップ、そして竜がそれぞれの最強形態で挑んでも一度は完全に敗北した相手なのだ。一度使った手札を再度使って自分が勝てるとは露程も思っていなかった。

 

「殆ど持ってかれたが・・・・終盤(リバー)でどうにか巻き返せたなんてな。よっと。」

 

既に腹の傷は塞がっている。包帯を外して緊急処置で施された縫合を抜き取ると、心電図のパッドや点滴の針を取り除いて着替えた。バスケットのリンゴを一つ取って大きく噛りついた。

 

「さてと。あれを千冬姉から回収してあの二人を起こしに行き・・・ま、すか・・・?」

 

だが一夏は部屋を出ようとした所で手の中からリンゴをぽろりと取り零した。それも当然だろう。目の前には怒り心頭の乙女が三人仁王立ちで彼を睨み付けているのだから。言わずもがなその三人は楯無、簪、そして千冬である。

 

「あー・・・・・ぐっどもーにんぐ?」

 

「「「この馬鹿ぁーーーーーーー!!!!」」」

 

一号、二号、V3も真っ青になる程に鮮やかで切れのあるトリプルキックを食らって、一夏は撃沈した。

 

「っつつつつつ・・・・・Oh my。いきなりのご挨拶だな、ちー姉、楯無、簪。おー、今のは効いた。あれ?え、ちょ、首ぃいいいいい!!!首が変な方向に曲がってるんスけど!?何したの!?」

 

ボキボキと首を両手で元の位置に戻し、再び左右に揺らして再び首が軽く鳴った。

 

「あたたた・・・・俺一応怪我人だからもう少し労ってくれん?」

 

立ち上がろうとした所で三人に抱き竦められた。端から見ればかなり羨ましい状況だが、三人は肩を振るわせて啜り泣いているのだ。

 

「一夏君の馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!!」

 

「心配、かけ過ぎ・・・死んだと、思ったよぉ・・・!!」

 

「全くだこの大馬鹿者・・・・!!!トーナメントから三日も意識不明のままだったのだぞ!?」

 

「ごめん・・・・・ん、三日?」

 

一夏は壁にかけてある時計の日付を確認した。時間は午前九時半を少し過ぎた所だった。トーナメントが開催されたのは木曜日。意識不明になったのその日も加えて三日間。つまり今日は土曜日と言う事になる。

 

「Holy sh*t!」

 

思わず流暢な英語で悪態が口をついて出た。

 

(じゃあ俺は三日も、あの世界で戦っていたのか・・・・?大道克己と・・・てか俺、良く生きてたな)

 

「ごめん。」

 

三人は一夏を抱きしめたまま暫く泣いていたが、やがていきなり泣き顔を見られていた事が恥ずかしかったのか顔を赤くしてそっぽを向いた(特に千冬が)。

 

「所で、俺が倒れた後は?どうなったんだ?」

 

「例の物は更識姉妹に回収させた。私の部屋で束が作ったトランク内で厳重に保管してある。悪いが暫くの間預からせてもらうぞ。」

 

「ええ〜?!」

 

「当たり前でしょ!?あれだけの無茶しておいて体もがたがたなんだから!土日はしっかり休む事!良いわね?!」

 

「次・・・・ホントに死んじゃう。だから、仮面ライダー・・・・お休み。」

 

一夏のぼやきに二人は真っ向から挑んだ。

 

「いやでも、俺ナノマシンが」

 

「そう言う問題ではない。一夏、今回は私も二人と同意見だ。お前は最近頑張り過ぎている。授業然り、自主練然り、凰と共同でやっている悩み相談室も然り、ボーデヴィッヒの鎮圧、更にはクラス対抗戦やデュノアの面倒も色々と見ているそうじゃないか。下手をすればIS学園の一般教師に勝るとも劣らない仕事の量だ。少しは休んでもバチは当たらんぞ。」

 

どうにか逃げを打とうとした一夏の言葉を封殺した千冬は彼の頭に手を置いて優しく撫でた。その穏やかな表情は若干母親に見えなくもない。

 

「それに、お前には更識の両親とのアポがあるそうだな。じっっっっっっくりと聞かせてもらったぞ?色々と。」

 

ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた千冬。その色々とは聞くまでも無いだろう。後ろでは恐怖と羞恥で震えている楯無と簪の二人がいる。

 

(何をどう聞かれたんだ・・・?!いや、聞いたらトラウマが蘇るからよそう)

 

「二股は感心せんが・・・・・まあ、お前なら二人だろうが三人だろうが上手くやれるだろう。」

 

「ちー姉、ありがと。最初はどう説明すりゃ良いんだろうかと思ってたんだけど。言質は取ったから後で駄目だって言っても遅いよ?」

 

「弟に嘘はつかん。」

 

「ああ、そうそう、シャルル・・・・いや、シャルロットはどうなった?ラウラは?」

 

「大丈夫。もうデュノアに追われる事は無いわ。二人共お縄よ。デュノアは消えたけど、代表候補はもっとしっかりした企業で続けるって言ってたわよ、シャルロットちゃん。今頃は風都でゆっくりと義理のお姉さんと遊んでると思う。」

 

「リリィさんと?じゃあ、養子縁組の手続きは・・・?」

 

「うん♪特例で政府が許可したわ。」

 

「ボーデヴィッヒの方も、私が束にVTシステムを搭載した研究所を潰させた。まあ、機体がまたもとに戻るまで少し時間は掛かるだろうが。一応無事だ。」

 

「ぃいよっしゃあああああああーーーーー!!!」

 

トラウマから回復した楯無と千冬の報告を聞くやいなや、一夏は拳を天井に突き上げて勝鬨を上げた。

 

「良かった・・・・ホントに良かった。んじゃ、刀奈、簪、準備が出来たらすぐ」

 

(グウゥウゥゥウウ〜〜〜・・・・・)

 

一夏の腹の虫が盛大に空腹を告げた。

 

「・・・・・飯を食って出よう。今更だがすんげー腹減った。」

 

「三日も栄養点滴だけだったんだからな、無理も無いだろう。食堂に行って来い、用意はしてある。それと、これはそのデュノアとボーデヴィッヒからの手紙だ。目を通しておけ。」

 

 

 

 

 

 

 

『一夏

 

この様な手紙を書くのは初めてなので、正直何をどう言えば良いか分からん。が、教官は思った事を書けと言ったのでとりあえずそうしてみた。

 

まずは、すまなかった。私はお前の忠告を聞こうとせず、聞いてもその意味を理解しようとしなかった。軍人以前に人として失格だ。お前の言った事は全て冷静に考えてみれば子供にでも分かる様な事なのに、愚かな私は結局あのザマだ。

 

私の目を覚まさせてくれた事には本当に感謝している。これからはあの失敗を二度と繰り返さない様に努力をしたい。そしていずれまたお前とちゃんとした試合をしたい。教官やその他の誰でもなく、世界で唯一人の『ラウラ・ボーデヴィッヒ』である私の全力をもって。

 

これからもかけがえなき友人の一人で射られる事を切に願っている。

 

黒兎部隊隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

(たった三日なのに、随分と変わったな。大したもんだよ、お前はさ。それで良い。パーフェクトだ。それならどんな状況でも乗り越えられる。自分が甲ありたいと言う姿を見つけた今のお前なら。次はシャルロットか。)

 

『織斑一夏君へ

 

僕は今、銀家の一員シャルロット・D・銀としての人生を謳歌しています。

 

リリィお義姉ちゃんは大人なのに茶目っ気があって、お祖父ちゃんのフランクさんは厳しい人ですがとても優しくて面白い人です。一夏の周りにはこんなに優しい人が沢山いるんだなと思うと、ちょっぴり羨ましく思います。

 

二人に家族として迎え入れられた事で、お母さんが憧れて僕も大好きになったマジックの特訓も好きなだけ出来る様になりました。デュノア社のしがらみから僕を解き放った事で代表候補生も続けられて、学園で出会えた沢山の友達とも一緒にいる事も許されました。

 

こんな夢の様な幸福を手に入れる事が出来たのはどれもこれも全て貴方の尽力による結果です。感謝しても仕切れない程受けたこのご恩は死んでも絶対に忘れません。本当に本当にありがとうございます。

 

このお礼はいずれ僕が独自に考案する最高のマジックを見せてお返しさせて頂きたく存じます。

 

妹弟子、シャルロット・D・銀より』

 

車の中で二通の手紙を読み終えた一夏の口元は自然と綻んでいた。

 

「最高のマジックがお礼、か・・・・・ハハッ、良いじゃねえか。フランク師匠の『消える大魔術』以上のイリュージョンを見せて貰おう。今からでも待ち遠しいぜ。」

 

「でも、本当に良かったわね。ラウラちゃんもシャルロットちゃんも。」

 

「うん。一夏、やっぱり凄い。好きになって良かった・・・・」

 

肩に頭を乗せて来る二人の言葉に一夏は謙遜した。

 

「俺は何もしちゃいないよ。道を用意しはしたが、最終的な決断(コール)をしたのはあいつら自身だ。どれが正しい選択かなんて本人以外には分かるもんじゃない。けど、これで一安心だな。(問題はここからなんだけど)」

 

そして更に車に揺られる事数時間。巨大な武家屋敷の前に到着した一夏は久し振りに腕を通した薄い素材のカジュアルスーツもまるで鎧を身に着けているかの様に非常に重く感じられる。

 

(俺、まじで生きて帰れるのかな?電話で近々俺を連れて行くとか言ってたけど。天次郎さんは見た目は優しそうだけどああ言う人に限ってマジギレした時がギガ怖いんだな。後一番の問題が二人のお袋さんだよ・・・・・会った事無いけどもしかしたら・・・・)

 

一夏の脳裏に浮かんだのは鴉の濡れ羽色の髪の毛を生やした色白の和風美人。だが、着流しの中から長い針を引き抜いて油断を誘った隙にグサリと殺す、それこそ必殺○事人のようなクールビューティーだ。そして正門が開き、車から一歩足を踏みだした瞬間、

 

『パラパーー、パーラパッパッパッパッパッパラパー♪』

 

「ええええええええ!?」

 

口に出してすらいない考えを思い切り読まれた一夏はそのトランペットの音に目を見開いた。そしてどこからか石つぶてと手裏剣が一斉に飛んで来た。

 

「やっぱりねえーーーー!!!殴られるどころか十何回かは惨たらしい方法でブッ殺される事位は予想してましたけどねええええーーーーー!!」

 

一夏は自棄糞に叫び、袖の中からトランプ二束を引き出して広げると、次々と手裏剣と石つぶてを叩き落とした。そして直後、上空からの殺気を感じて車の上に飛び乗った。

 

「貴様か・・・・・娘を獲ろうと言う命知らずは・・・・?」

 

一夏が一秒前まで立っていた所には、肩まである長髪を髪紐で縛った更識天次郎が小太刀二本で地面を突き刺していた。瞳孔が開いた瞳を彼に向けている。射る様なその視線だけで人が殺せそうなその気迫は凄まじい。

 

「ちょっとお父さんやめて!!!」

 

「一夏、死んじゃう!!」

 

「一夏・・・・・?ああ・・・・そうか、あの時の・・・・いや、失礼した。IS学園で出会いはあり得ないから何処の馬の骨かと思ったら、君だったのか。いやはや全く、僕の早とちりも相変わらずだよ、かぐや。」

 

「貴方、でもぉ〜、どっちと付き合ってるのかしらぁ〜?」

 

茂みの中から、またもや一夏が想像した通りの姿をしたかぐやと呼ばれた和服の美女が現れた。唯一、一夏の予想と違ったのは青空の様に透き通った背中まである水色の髪の毛である。藍色の着流しから覗く白魚の様な指先には幾つもの手裏剣とクナイが挟まれており、もう一方の手には居合いに使う長尺の刀と下げ緒にもやはり大量の手裏剣や千本が括り付けられている。

 

(・・・・うん、どっちも間違い無くポン刀だな)

 

「あー、そ、それはですね・・・・・(これはもう、逃げられんな。正直に言おう)両方です。」

 

「「死ねえええええええ!!!」」

 

その言葉が口から出た瞬間背後からの神速の抜刀と前方から放たれる高速の斬撃二つ。楯無と簪も止めるどころか反応すら出来ない程のスピードだ。だが、一夏はその場を動かず目を閉じた。

 

「何で・・・・避けなかったの?」

 

「このまま行けば、君は閻魔王に媚を売る事になっていたんだよ?」

 

かぐやの刀は上半身と下半身を真っ二つに断ち割る位置で止まり、天次郎の小太刀二本は首元で巨大な鋏の様に首で交差したままでいた。

 

「二人と関係を持ったままここに来ればどうなるか位は分かっていました。覚悟もしていました。殺されても文句は言いません。それだけの事をしたんですから、この場で俺が死ぬならそれも已む無し、です。」

 

「そうか。」

 

「あら、そう。」

 

二人は刀を退いた。鍔が打ち鳴らされるチンと言う小さな金属音を聞いて、一夏は目を開いた。

 

「え・・・・?」

 

「君の事はあの日簪を連れ戻した頃からかぐやと話していてね。ISを動かせる様になったと聞いた時は本当に驚いたよ。簪も勿論驚いていたし、飛び上がらんばかりに喜んでいた。しかし、楯無の・・・・いや、刀奈の心までもを射止めるとは君も中々に罪作りな男だ。」

 

「ハ、ハハハハ。(その罪を自分が裁いて五寸刻みにしてやるって暗に言いたいんですね分かります)」

 

一夏は天次郎の笑みに宿った明確な殺意を前にして最早乾いた笑いしか出せなかった。

 

「「お、お父さん!!」」

 

「ふ〜た〜り〜と〜も〜〜〜〜!!!」

 

かぐやは僅か五秒で車に接近し、下車して顔が真っ赤になった二人を抱き竦めてずっと頬擦りをしている。

 

(すりすりすりすり)

 

「会いたかったわよ、二人共ぉ〜〜〜〜〜〜。」

 

「かぐや、やめなさい。二人が困ってる。」

 

「お母さん寂しくて死んじゃいそうだったのよぉ〜〜〜〜〜電話で声聞いてるだけじゃ駄目なのよ〜〜〜〜〜」

 

夫、天次郎の言葉を全く聞こうとしない妻のかぐや。水色の髪は勿論だが、この人を一も二も無く振り回す滅茶苦茶振りは間違い無く楯無に受け継がれていた。

 

「かぐや、彼は客人だ。ちゃんと中にお通ししておかないと。詳しい話はそれからでも遅くはないよ。」

 

「んふ、それもそうね。じゃあゆっくりと話しましょう。きゃは♪」

 

(マジで俺死にたくねえええええーーーーーーーーーーー!!!!!)


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