IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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今回はVTシステムにオリジナル要素を加えました。


Mの追跡/悪魔のVTS

「ったく、せっかちな野郎だなてめえは。人が模擬戦で忙しいってのに。」

 

「貴様に勝ち逃げはさせん!」

 

「もう遅い。あの時俺は既に勝ち逃げした。お前とは分かり合えたと思ったんだが、どうやら違ったみたいだな。しゃーねー、来いや。シャルル、簪、悪いけど選手交替してくれ。久々に軍人とのステゴロだ、腕が鳴るぜ!」

 

「一夏!」

 

「鈴、来んじゃねーぞ?俺が過去にやらかしたヘマだ、俺一人で始末を付ける。(シュヴァルツェア・レーゲン・・・・ドイツの第三世代か。見えるのはあの肩にある大砲と両腕に仕込んでいる近接武器と。」

 

投げ捨てたエターナルローブを拾ってピットの入り口に集まった四人に投げて寄越した。

 

「とりあえずそれを楯にしててくれ。縦横二列に並べば全員はカバー出来ると思うから。物理攻撃は防げねえが、エネルギー兵器と大抵の実弾兵器の攻撃を完全に無力化出来る。(相手は軍人、銃撃ならスピードはこっちが上だが、格闘はギリギリ互角かな?)」

 

一夏はラウラに向き直ると、顔の上半分を覆うバイザーの奥からラウラを睨み付けた。しかし能面の様に冷ややかな表情を顔に貼り付けたラウラは眼帯が隠していた黄金の瞳、ヴォーダン・オージェを露わにして両腕からプラズマブレードを発生させて一夏に向かって来た。

 

『Fang!』

 

だが一夏は慌てずに再びファングメモリを発動して左手に展開した獣の様な刃を発生させた。左腕の刃は流石束謹製のISと言うべきか、ちょっとやそっとの対レーザーコーティングを施した実体兵器を焼き切るエネルギーで出来た刃と鍔迫り合いを容易にさせていた。

 

(手加減なんて阿呆な事言ってられないな。ナノマシン全開!!)

 

「お前が何をしようが、お前は絶対に他人になる事は出来やしない!何故それが分からないんだ?! 俺は俺、千冬姉は千冬姉、そしてお前はお前だろうが!」

 

鍔迫り合いを強制的に終了させる為に圧倒的な腕力でラウラを押し返した。だが彼女はいつの間に覚えたのか、イグニッションブーストで再び一夏に向かって突貫した。

 

「違う!!違う 違う 違う 違う 違う!!!」

 

今度は背中から鋭利な鏃が付いたワイヤーブレードが現れ、鎌首を擡げる蛇の様に一夏に襲いかかる。咄嗟に避けようとするが、ラウラが右手を突き出した途端一夏は動けなくなり、ブレードが一夏に襲いかかった。

 

「うぉおっ!?」

 

『Skull!』

 

突然の反撃だが、一夏は後ろに吹き飛ばされてアリーナのシールドバリアーに激突しながらも間一髪でスカルメモリの能力によって難を逃れた。体勢を立て直そうと移動しようとしたが、どう言う訳か動けない。

 

「体が・・・!」

 

見ると、ラウラが右手を突き出して冷笑を浮かべていた。

 

「やはりISでは足元にも及ばないな。機体の性能に頼り過ぎた貴様の慢心が運の尽きだ。食らえ。」

 

ガキン、と言う重々しい金属音と共に右肩のレールカノンが作動、照準は一夏の顔、それも眉間より僅か数センチ下の鼻腔である。ライフルでの狙撃を受けた時もし銃弾が鼻腔を貫通していれば間違い無く撃たれた人間は死んでいる。銃弾の種類にもよるが、そこを貫けば、銃弾が脳幹を破壊して人体の生命を維持する機能を完全に遮断するからだ。絶対防御があるとは言え、近距離でそこに砲弾を叩き込まれれば只では済まない。

 

「一夏!」

 

「やっぱり助けないと!」

 

「やめなさい。ISをしまって。」

 

シャルルと簪がエターナルローブの中から飛び出そうとしたが、鈴が両肩の衝撃砲を部分展開して照準を二人に向けた。

 

「今この場で水を差すって言うなら私がアンタ達をぶっ飛ばすわよ?コレは一夏の戦いなの。口を挟む権利は委細を知らない私達には無い。セシリアは兎も角、デュノアも簪もさっきの戦闘で分かった筈よ?あいつは何時如何なる時もどんな事が起ころうとも常に先の先の先まで計算してその裏の裏をかける。言うなれば文庫本で悦に浸ったライバルに負けを宣言されても涼し気な『チェックメイト』とでも言いた気な顔で逆転勝利を収めるダークな主人公って所よ。」

 

簪以外はあまりピンと来ている様子は無いが、とりあえず納得した様で大人しくした。

 

「(流石は軍人、容赦は無しってか)慢心?その台詞、そっくりお前に返してやる。良い手札が来たからと言ってのぼせ上がって場の賭け金、ポットをがめろうとしたら、」

 

『零落白夜・真』

 

零式が光に包まれ、一夏は見えない拘束から解放された。

 

「以前の勝ちを含め、手持ちのチップをカモ(Fish)だと思ってた奴らに全て毟り取られるぜ?」

 

「何!?」

 

『零落白夜・真 Maximum Drive!』

 

「大盤振る舞いだ。釣りは取っときな。」

 

逆手に構えた雪片・無限に最大出力でエネルギーを送り込み、右袈裟、左袈裟と斬りつけ、最後に左手に持ち替えると大上段で真っ向から振り下ろした。ラウラの機体、シュヴァルツェア・レーゲンの残存するシールドエネルギーはあっと言う間に僅か95に下がった。

 

「すご・・・・・」

 

「鈴さんの言った通りですわね。」

 

「一夏、本当に強い・・・・(ヒーロー、みたいだ・・・・・)」

 

「ね?」

 

三者三様のリアクションにそれ見たことかと言わんばかりの笑顔を見せる鈴音。

 

「まだだ・・・・まだ、私は・・・・」

 

「全く、馬の耳に念仏。いやこの場合兎の耳に念仏だな。(もう一方の兎は多少なりとも聞き分けが良くなったってのになあ、残念だなあ)しゃーねー。お熱いのもう一発プレゼントしてやるぜ。」

 

『Heat Maximum Drive!』

 

零式の右拳が薄い橙色の炎に包まれ始めた。

 

(えーっとジョーカーグレネードって訳にもいかないよな、俺ジョーカーメモリ使ってないし。てかコレ全部フィリップさんのメモリだし。)

 

少し考えて、名前を決めた。

 

「ビッグバン・ナックル!!」

 

イグニッションブーストで加速、接近し、再びイグニッションブーストをかけて更に距離を縮めた。

 

「ダブル・イグニッションブースト!?」

 

「織斑先生にしか出来ない高等技術を一体どうやって・・・・?」

 

「もう一夏人間じゃないんじゃないかな?」

 

「・・・・・・姉弟揃って、しかたない。」

 

今度ばかりは四者四様のリアクションだ。一夏は燃え盛る拳で右ストレートを叩き込んだ。

 

「ぬぅうぉおおおりゃああああ!!!」

 

そしてそのまま力一杯上に投げ上げ、重力に従って放物線を描きながら地面に叩き付けられた。

 

「敵将、討滅せり!」

 

ISを解除してピットで控えている四人に向かおうとしたが、後ろから聞こえた咆哮に即座に反応して振り向き、後ろに飛んだ。見ると、シュヴァルツェア・レーゲンが溶け始め、不定形なヘドロの様に姿を変え始めた。理論に則るとあり得ない現象である。ISが姿形を変えるのは初期設定から一次移行する時と一次移行から二次移行と言う二種類のフォームシフトだけで、多少は機体の形状が変わってもあそこまでの劇的な変化はあり得ない。

 

「てめえ・・・・仏の顔も三度までって諺知ってるか?今の俺は、てめえに連続で手持ちのマキシマムドライブをブチ込みたい程機嫌が悪くなった!!!!」

 

溶けた機体はやがてラウラを飲み込み、姿を変えた。それも、千冬がモンド・グロッソに出場した時の全盛期の姿に。

 

「何ですの、あれは!?」

 

「分からないけど、ヤバいわ。セシリア、簪と管制室に行ってこのアリーナを封鎖する様に言って!アリーナのバリアーも限界まで出力を上げるの!デュノアは念の為待機。コアバイパスで万が一ガス欠を起こした時一夏にエネルギーを渡せる様に準備!私はここから千冬さんに連絡入れるから。ホラ、行って!」

 

的確な指示を得た三人は行動を開始し、鈴は携帯を引っ張り出して千冬のプライベートの番号に連絡を入れた。

 

「もう暫く持ち堪えなさいよ、一夏・・・・折角のタッグマッチ台無しにされてたまるもんかっての。」

 

振り下ろされる初代雪片を雪片・無限が受け止める。

 

「ぐぅ・・・・くっ!!!!(クソッ、流石は全盛期の千冬姉モドキだ。パワーも反応速度も全部同じだ。流石の俺もナノマシン全開にしてても勝てる気がしねえ。何をどうしたらこうなるんだ、全く!)おい、ラウラ!てめえホントにコレで良いのか?このままじゃお前正真正銘の『失敗作』になっちまうぞ!?他人の姿借りて生きようとするなんざ、自分に対しても他人に対しても詐欺と同じだ!!何で純粋に自分の存在を認められねえんだ?!同姓同名の奴はいるかもしれないが、お前はこの世界でたった一人の誰にも真似出来ないラウラ・ボーデヴィッヒだろうが!!!」

 

『Skull!』

 

「おい!!聞こえてんなら返事しやがれ!!」

 

幾ら戦いに場慣れしているとは言え、一夏はまだ全盛期の千冬に勝てる程の力はまだ無い。寧ろ何度もダウンさせられ、エネルギーが六割近く削られてしまっている。

 

「返事無しか。そうかいそうかい。お前もバーサークするなら、俺もそうさせてもらうぞ。こっからは人と人の戦いじゃない。獣の殺し合いだ。」

 

そう言いはしたが一夏は迷った。以前聞かされた事があるのだ。エクストリームメモリを使わずにマキシマムドライブを複数同時に行った際、翔太郎が払う事を選んだ代償を。

 

(翔太郎はファングとエクストリームを除いて最も攻撃力と負担が高いヒートトリガーに変身した時、伊坂深紅郎を倒す為に玉砕覚悟でツインマキシマムを発動した。結局は無駄に終わってしまったがね。翔太郎が二本のメモリの力に絶え切る事が出来なければ、多大なダメージで恐らくは死んでいたかもしれない。翔太郎みたいなガイアメモリによって受けたダメージは現代の医学では治療出来ない。本人の回復を待つしか無いんだ。何らかの理由でエターナルを使う事が出来なくなった時は呉々も注意したまえ。)

 

「併用はした事無いが、この際やるしか無い。今の俺が出せる最良の手札!!」

 

どんなリスクを伴うか一夏は分からなかった。だがそれでは膠着状態が長引くばかりだ。打破するには、多少の事は顧みる事は出来ない。

 

「デカく賭けなきゃ、デカくは勝てないな。」

 

『Fang Maximum Drive!』

 

『Heat Maximum Drive!』

 

どちらのメモリも、使用者の闘争本能を高める能力を持っている。二つのメモリを最大出力で発動した瞬間、一夏は一瞬意識が飛びかけた。

 

『Maximum Drive! Maximum Drive! Maximum Drive! Maximum Drive! Maximum Drive! Maximum Drive! Maximum Drive! Maximum Drive! Maximum Drive! Maximum Drive! Maximum Drive!』

 

燃え盛る左腕に生えた巨大な鎌の様な三つのマキシマムセイバーが生え出始める。残りのエネルギー全てをスラスターに回し、旋回しながらリボルバーイグニッションブーストを無意識の内に発動させた。機体も体も機動を帰る度にに軋み、悲鳴を上げる。

 

(頼む、もうちょいだ。もうちょいだけ耐えてくれ零式!あいつの呪われた過去を振り切らせる為にもう少しだけ耐えてくれ!!!)

 

左腕の燃える刃は擦れ違い様に千冬を模倣したナニカを真っ二つに焼き切り、機能を停止させた。だがリボルバーイグニッションブーストのスピードは完全には殺せていない。意識を失い、零式が強制解除された一夏はアリーナに叩き付けられそうになったが、既の所で鈴とシャルルが受け止めて事無きを得た。

 

「一夏、大丈夫!?」

 

「あーあ、左腕とか絶対骨折してるわね。あばらも絶対イった。ISであんな無茶苦茶な戦い方する所始めて見た気がする。全く、この馬鹿は。」

 

「同感だな。」

 

間髪入れず千冬が打鉄の野太刀の倍近くはある近接ブレードを引っ下げてやって来た。

 

「お、織斑先生!!」

 

「遅れてすまない。凰、その馬鹿とアリーナの中心に転がっているもう一人の愚か者を寄越せ。私が保健室に運ぶ。見舞いに行くのは勝手だが、後で何があったかお前達を聴取する必要がある、夕食を食べ終わったら寮長室に来い。そして今後学年別トーナメント当日まで一切の私闘を禁じる。連絡事項は以上だ。散れ。」

 

気を失った一夏とラウラを米俵の様に抱えると、千冬は歩き去ろうとしたが踵を返した。

 

「ああ、凰。状況をこの場で収める事が出来たのはお前の的確な判断が合ってこそだ。その事には礼を言っておく。後でこの不出来な愚弟に何か奢ってもらえ。」

 

「は〜い。」

 

今度こそ千冬は本当に歩き去った様に見えたが、実際はシャルルや鈴音に見えなくなった直後に全力疾走で廊下を駆け抜けて保健室に向かった。すぐに二人には治療が施された。保健の医師の見立てではラウラの方は全身の打撲と筋肉及び腱の損傷が酷く、意識不明だがバイタルが安定している為命に別状は無い。だが一夏の方が更に酷かった。左腕は複雑骨折、旋回の際に発生したGで肋骨が数本骨折と数カ所に渡る罅、至る所にある筋肉とその繊維の激しい損傷、そして背中は打撲と、ナノマシンが再生を始めているとは言え重傷のオンパレードだった。

 

「まったく貴様は・・・・人に心配をかける事だけに関しては一級品だな。」

 

千冬は一夏の無傷な方の手を握った。その暖かさが、まだ彼が生きていると言う事を照明している。まるで握る力を緩めたらその温もりが消えて一夏が死んでしまうと思っているかの様に。ピクリと手が動くと、一夏の目が開いた。

 

「ちー姉。俺の手を鼻水と涙で汚さないでくれ。」

 

「・・・・・体の調子はどうだ?」

 

「(スルーしやがった!)治りかけてるから別に問題は無いよ。まあ、単独でツインマキシマムを使った負担でどうやらナノマシンの俺の怪我に対するリアクションが遅れたらしいからこのザマだけど。一日位休養してればすぐに治る。」

 

「多少はまあ仕方無いが、あの様な無茶は二度とするな。これ以上家族が消えて行くのは寝覚めが悪くなるどころの騒ぎじゃなくなる。下手をすれば発狂するかもな。」

 

それを聞いた一夏は小さく笑って、彼女を止めるには軍艦一隻引っ張って来ても多分無理だろうなと考えた。

 

「そんときゃ俺が化けて出てちー姉を止めるさ。気丈に振る舞うのも結構だけど、ちー姉もさっさと好きな男見つけて結婚したら引退してくれ。こんな業界にいつまでも居座られたら俺の心臓に悪い。」

 

「ちー姉言うな。それにお前に異性云々の話をされたくはない。お前こそ女の一人や二人でも落としに行ってはどうだ?ここなら選り取り見取だろう?」

 

からかってやろうと言う細やかな悪戯心が芽生えた千冬。だがそれは予想外の形で裏切られる事になる。

 

「ご心配無く。相思相愛の女性は二人いますので。」

 

「そうか・・・・・・・待て、何だと?」

 

「だか、やべ・・・・(やっちまったぁああああああーーーーーーーーーーーー!!!!ガッデムシット!!!あー、このブラコン大魔神があの二人を血祭りに上げちまうじゃねえかさっきの俺の要らん発言で!)あー、いや何でも無い何でも無いよ。」

 

「誰だ?」

 

「何が?」

 

「相思相愛の女性は二人いると言ったな、どこの誰だ?言わなければもう一方の腕も折るぞ。」

 

「怪我人を労る姉の言葉とは思えんな。あ、そーだ。冷蔵庫の中身がこんにゃくばっかになっちゃう気がする様な気がするなぁ。確か糸こんにゃくの和風パスタとか」

 

「おいやめろ。貴様、私を殺す気か。」

 

途端に態度が変わる千冬に一夏は思わず笑いそうになったがまだ再生途中のあばらが痛むので必死に堪えた。

 

「こんにゃくで死んだ人間なんて聞いた事ねーぞ。まあ、その事についてはいずれ話すつもりだったけどね。更識姉妹の二人だよ。」

 

「ほう。」

 

「驚かないんだね。」

 

「いや、驚いてはいる。特に姉の方だ。あんなメチャクチャなじゃじゃ馬を良く好きになれたな。まあお前は最近のチャラい面食い男とは違う。女をヤリ捨てる様な不届き者ではない事は分かっているからあまり心配はしていないが、そうか更識の二人か・・・・(後でシメにいくか。)」

 

「何考えてるか知らないけどあの二人イジめて良いのは俺だけだから。」

 

「変態め。」

 

「うっせぃ暴君ドS教師。」

 

二人は暫くその何気ない馬鹿らしい会話を続けて、最後に笑った。

 

「所で、ラウラの機体だけど。あれ何が仕込まれてた?」

 

「ヴァルキリー・トレース・システム。通称VTシステム、または更に縮めてVTSと呼ばれる物だ。法に抵触するどころか、お前の言葉を借りるならば『バリバリ違法でぶっちぎりのヤバいブツ』と言える代物だな。過去のモンド・グロッソ出場者の動きを完全に模倣する事が出来る。それだけなら聞こえは良いが、操縦者の体の限界を無視した動きを繰り返す。今回はお前がボーデヴィッヒを止めてくれたお陰で助かったが、 使い続ければ間違い無く死ぬ。使用者の強い願い、願望によって発動する様にプログラムされていた。」

 

「らしいぞ、ラウラ?」

 

ベッド脇の松葉杖で隣のベッドのカーテンを開いた。そこには沈んだ表情でベッドに顔を埋めて泣き声を押し殺していたラウラの姿があった。

 

「暫くは動けんだろうな、お前は。当然タッグトーナメントも間に合わんだろう。ISのダメージレベルがDに達しているのだ。まあ、当然の帰結と言えような。私はこれからお前達の後始末を片付けなければならないからこれで行くが、ボーデヴィッヒ。」

 

「はぃ・・・・・」

 

最初に会った時と違い全く覇気が無い、消え入りそうな声だ。表情も沈んで、筋肉痛と全身打撲が無ければ間違い無く身投げをしている。

 

「一つ目、お前は私にはなれん。寧ろなって欲しくない。私の様な迷惑な人間は私一人で十分だ。二つ目、お前を倒した私の弟は若さ故に愚かな所はあるが私が知る誰よりも人間らしい人間だ、見習っておけ。戦いが全てではない。最後に、もう一つ。お前は誰だ?」

 

お前は誰だ。その質問を何度一夏に言われただろうか。だがラウラはその質問に目を向けようとしなかった。図星を何度も突かれて、本性を認めるのが怖くて自分は逃げたのだ。

 

「私は・・・・誰でも・・・・」

 

「誰でもないのならば丁度良い。これからお前はラウラ・ボーデヴィッヒと言う名の小娘だ。悩むのは十代の特権だから精々悩むが良い、そして禿げろ。ではな。」

 

千冬が去った後、暫くの間気まずい沈黙が部屋を支配した。一夏は痛む体に鞭打って起き上がると、差し入れの林檎を取って齧った。

 

「何か言え・・・・」

 

ラウラはようやくそう絞り出した。

 

「まあ、何はともあれ一件落着だ。これを機に俺が言った事を実行してみるんだな。新境地が開けると思うぞ? 」

 

「ま、待て」

 

「とりあえずお前は黙って寝ろ。俺も寝る。言い訳も謝罪も愚痴も全部明日にでも聞いてやるから。今の俺は体がガタガタで聞く耳持てないんでな。」

 

林檎の残りを食べ終わると芯をゴミ箱に捨てて寝返りを打った。

 

 

 

 

 

 

 

「VTS?」

 

キングサイズのベッドでスコールと組んず解れしているオータムはあまり聞き慣れない頭文字に首を傾げた。

 

「そう。ヴァルキリー・トレースシステム。」

 

裸体をシーツで隠しながらスコールは微笑を浮かべた。

 

「実はアレ、ドイツ軍のISの一つに潜伏中仕込んでおいたの。でも、あれは表向きのVTS。潰されるのも時間の問題だけど、良い隠れ蓑になってくれたわ。」

 

「表向き・・・・・まさか」

 

「察しがいいわね。そう言うコは好きよ?そう。マドカはあくまでプロトタイプだけど、彼女の様にブリュンヒルデやその他のヴァルキリー並の操縦者のクローン製造。彼女達の動きだけでなく姿形をも完璧なトレースをゼロから作り出す。それこそが、真のVTSよ。」


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