IS x W Rebirth of the White Demon 作:i-pod男
翌朝早朝、リボルギャリーの格納庫で束は頭を抱えてコロコロと転がり回っていた。
「うぅ〜〜〜〜〜・・・・・・どうしよう・・・・・」
「どうやら天才にも難しい事はあるみたいだね。朝食を持って来た。君はここ最近碌に睡眠も食事もとっていない。栄養失調で妹に会う前に死んでしまうよ?」
フィリップが入り口のドアを開き、バタートースト、スクランブルエッグ、そしてサラダをのせたトレーを持って入って来た。束がコロコロと転がり回っているのを見て笑うのを堪えようとしているが。
「フィー君?!」
「勝手ながら昨日の会話を聞かせてもらったよ。相手は織斑一夏だろう?昨夜遅くにスタッグフォンにメールが届いてね。君に協力する様にと書いてあった。」
スタッグフォンの画面をヒラヒラと見せてトレーを近くのテーブルに置いた。
「出来るかどうか不安かい?」
「・・・・・・正直言うと、そう。」
束がそう思うのも無理は無い。自業自得とは言え指名手配されていて世界中を飛び回らなければならない破目になったのだから、碌にコミュニケーションが取れないのは当たり前の事だ。だが束に取って世界で唯一人の妹に対してそんなのは言い訳でしかない
「大丈夫だ。僕に出来て君に出来ない筈は無い。天才とは言え、僕達は人間だ。それだけは誰であっても変える事が出来ない唯一の理さ。」
「何で、そう言えるの?」
「僕にも家族がいたから。両親と、姉二人、そして義理の兄が一人。」
それからフィリップは秘密を明かした。仮面ライダーである翔太郎達や、影から日向から彼らを支えて来た亜樹子しか知らない秘密を。園崎家、ミュージアム、そして自分が知らないうちに彼らと敵対して、自分もまた園崎の一員であったと気付かされた事。
「ミャ〜〜〜」
ブリティッシュショートヘアのミックが戸口の隙間から顔を出して鳴き声を上げた。意外な事にフィリップと同じ位束に懐いている。と言うのも、束が率先してISの特許料で蓄えた莫大な資金を事務所の維持費(ミックの餌も含む)に使っているからと言う事情もある。
「今現在、園崎家の生き残りは僕とこのミックだけだ。皆いなくなってしまったけど、最後の最後で、僕は家族皆と円満な和解をする事が出来たから、会わなければ良かったとは金輪際思わなくなった。時間はかなり掛かってしまったが、不可能ではないんだよ。僕は君にも同じ事が出来ると信じている。朝食は冷めない内に早く食べたまえ。」
立ち去ろうとした所で、腰にダブルドライバーが現れた。
「おっと、いきなりか。悪いがそこから離れてくれ。」
『Cyclone!』
「変身。」
ライトスロットにサイクロンメモリを差し込むと、精神ごとメモリが翔太郎のドライバーへ転送されてフィリップは気を失った。
「ありがと、フィー君・・・・・」
「ニャ〜ニャッ」
ミックが束の足に頬擦りをしてゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
「ミッ君もありがとね。」
ミックを抱き上げて耳の裏を指先でかいてやると、気持ち良さそうに目を細めた。
「ゥミャア〜〜ン♪』
同時刻、とあるアジトでは・・・・・
「スコール。私は数日後に学園に行く。その為の下見をしたい。」
千冬に顔立ちが瓜二つのエムが朝食を食べている途中のスコールに申し立てた。
「あら、珍しいわね。貴方がそんな事を言うなんて。理由を聞いても良いかしら?」
「もう一人の私がどれ程の物か見てみたいだけだ。向こうから仕掛けて来ない限り戦闘は避ける。」
「・・・・・分かった。好きにしなさい。」
「おい、スコール!良いのかよ!?予定が早過ぎんだろうが!?それにエム一人で」
「黙っていろ。私はお前には何も聞いていない。」
スコールの太腿に頭を乗せていたオータムは跳ね起きると和やかな朝の空気が一気に険悪に変わった。
「あ”あっ?!」
『Nazca!』
エムは銀色に輝くガイアドライバーを装着し、ナスカメモリを差し込んだ。そして現れたのは騎士を彷彿させる黒いナスカ、Mナスカ・ドーパントだった。目を覆うマスク部分は銀色で、そこに走るラインも黒だ。肘と膝には僅かに反りが付いた刺々しい刃が付いており、両肩に翼の様に付いたマフラーを含めて体中に幾何学的な毒々しい紫色のラインが刺青の様に入っていた。
「オータム、確かにお前はISでは優秀かもしれん。だが、そんな物はガイアメモリが持つ圧倒的な力の前では只の玩具だと言う事を忘れるな。特に、今の私はナスカメモリの力をレベル4と言う高みにまで引き出す事に成功したのだからな。」
片刃の剣で挑発する様に彼女を指差した。
「ざけてんじゃねえぞ、ゴルァア!!」
『Arachnid!』
オータムも飛び起きるとドライバーを腰に巻いてゴールドメモリを乱暴に差し込んだ。その瞬間、みるみる姿が人間のソレからグロテスクに逸脱していく。体色は暗くなり、体中が五寸釘の様な鋭い体毛に覆われ始めた。顔には新たに六つの目が現れ、口も鋭利な鋏状に変わり、高枝切り鋏の様にガキンガキンと打ち合わさった。背中と脇からも新たに三対の腕が生え始める。凶悪な蜘蛛の始祖の記憶を宿したアラクニド・ドーパントの誕生だ。口から吐き出す糸でMナスカを捕縛しようとする。
「超高速。」
だが、目にも留まらぬスピードで飛んで来る糸を回避し、右手に作り出したビリヤードサイズのエネルギーで出来た玉を五つ指先から弾き出した。プロ野球選手の豪速球ですら足元にも及ばない様なスピードで撃ち出されたがアラクニド・ドーパントも咄嗟にそれを避けて八本の足で天井に張り付いた。標的を失った玉はアラクニド・ドーパントの後ろにあった壁の一角を粉々に破壊してしまう。
「二人共、やめなさい。」
静かに、だがハッキリとスコールはそう言った。胸元から人間の心臓が醜く歪み、捻じ曲がって形作られたSのイニシャルを持つゴールドメモリより更に上を行くプラチナメモリを構えた。それを見た瞬間二人の動きは止まり、アラクニド・ドーパントに至っては震え出した。
「わ、分かったからソレしまってくれよスコール。」
オータムは慌てて変身を解除してメモリとドライバーをしまうと、座り込んで大人しくなった。
「私は行くぞ。ではな。」
ベランダに出ると、巨大な翼が構築されてMナスカはISでは到底出せないマッハを超えるスピードで空に舞い上がり、地平線の彼方に姿を消した。
「スコール、本当に行かせちまっていいのかアイツ?」
「大丈夫。あのコ、スタンドプレーは確かに目立つけどお仕事はしっかりしてくれるから。言うなればブラックジャガーね。ネコ科の動物はライオンを除いて単独で狩りを行うのよ。彼女と一緒。それに、彼女には保険がかかってるの。」
「保険?」
「そ。コレよ。監視用のナノマシン。」
スコールはドレスの中からスマートフォンの様な機械を取り出し、画面をオータムに見せた。そこには血圧、脈拍などのバイタルサインが幾つも提示されており、一番下には小さな赤いボタンがあった。
「恐らく無いと思うけど、もし彼女が裏切る様な素振りを見せたら、神経の中枢部を即座に破壊する様に細工してある。じゃあ、残りを早く食べましょうか。」
ファントム・タスクの真の目的は、未だ謎に包まれたままである。
一方、IS学園では丁度一夏が目を覚ました所だった。それも床の上で毛布を被って。起き上がってベッドの方を見ると、シャルロットは自分のベッドで、自分のベッドでは更識姉妹がパジャマ姿で抱き合って寝ているのだ。
「ん?あれ?えーっと・・・・・・俺は確か・・・・あ。」
一夏は記憶の糸を辿って行く。昨夜は更識姉妹の二人と思いっきりキスをしまくって、二人が満足して部屋に戻った後、明日も早いので着の身着のまま眠ってしまったのだ。それも床の上で。そこまでは良いのだが、二人が何時どうやって部屋に入って来たのかが分からない。起き上がって調べて見ると鍵穴に傷が少しだが付いている。そして嫌でもたった一つの真実に辿り着いてしまう。
「ピッキングしやがったな、コイツら。・・・・・少し虐めてやろう。うん、それが良い。」
一夏は静かな寝息を立てる更識姉妹から毛布をひっぺがした。
「うぉいこら、起きろ。眠れるビューティフォーな不法侵入者共め。」
「「ん”〜〜・・・・・」」
シャルロットが寝ている為あまり大きな声は出せない。故に普通の話し声で二人に呼び掛けたが、反応ナシである。仕方無いので二人の足の裏をくすぐり始めた。寝返りを打つのが段々と顕著になり始め、しまいに二人はベッドから転げ落ちて目を覚ました。
「んぅ・・・あぇ・・・・?」
「あ・・・・お姉ひゃん・・・おぁよ・・・・」
二人は寝ぼけ眼を擦り、キョロキョロと辺りを見回した。それこそアニメにでも出て来るねぼすけな小熊の様だ。要約すると、ドストライクゾーンにいる二人の彼女は破壊的な程な可愛さで一夏を攻撃している。
「(舌っ足らずな喋り方すな、可愛過ぎるわ!!襲っちまうぞコラ!)お・き・ろと言ってるのが分からんか、ねぼすけシスターズ共。」
業を煮やした一夏は二人の頬を軽く抓った。
「「いひゃい!!」」
「おはよう。人のベッドでぐーすかよー寝てたなあおい?」
芝居かどうかは兎も角痛がっていたので、抓った所に軽くキスしてやり、一夏は呆れ顔のままポットでお湯を沸かして紅茶を用意し、ミルクと砂糖をたっぷり混ぜた。
「全く・・・・・寝る時位ゆっくりさせてくれよ。」
「「だって三人で寝たかったんだもん!!」」
流石は姉妹、言葉すら見事なまでにシンクロしている。一夏も反射的に気圧されて半歩後ろに下がった。
「でも一夏君は床で寝ちゃってるし、三人で寝られないからしかたなく一夏君のベッドで寝たんだよ?少なくとも側にいられるから・・・・簪ちゃんと久し振りに寝られたから良いけど。」
頬を赤らめ、そっぽを向きながら言葉が尻窄みになりながらも楯無はそう言った。
「それに、一夏のベッドで寝たら良く眠れた。次は絶対一緒に寝る。」
眼鏡を外したままフンスッと鼻から息を吐き出しながら堅く誓う簪。
「分かった分かった。その内な?」
「じゃあ、行く前にもう一回キスして。」
「私も。」
一夏は二人をしっかり抱きしめ、それぞれ十秒程かけてキスをしてやると満足そうな顔で退室した。
「・・・・・・ねえ、一夏。使って悪いけどブラックコーヒー淹れてくれないかな?思いっきり濃い奴。」
途中から起きていたが三人の邪魔をするのも憚られたので寝た振りをしていたらしいシャルロットは起き上がると一夏にそう頼んだ。
「別に構いはしないが、良いのか?俺も飲めなくはないが、濃いとちょっと味がしつこくなるぞ。」
「僕今のやり取りしっかり聞こえてたんだけど。」
「あ、そうなんだ。悪いな起こしちまって。」
「僕元々朝型で早起きだからそれは別に良いけどさぁ、寝たふりしながら砂糖吐きそうになったよ。お願いだから個室だろうと公衆だろうとカラハリ砂漠だろうと固有結界作らないで。エスカレートしたら環境汚染になっちゃうからね?」
シャルロットの言葉に一夏は苦笑した。
「あの二人、彼女なんだよね・・・・?」
「ああ。まあ、一般的にはダメ出し食らうだろうが俺には関係無い。俺はあの二人が好きだから。それだけは絶対に譲れないんだよ。ほれ、コーヒー。」
「あ、ありがと・・・・・そっか、譲れないか。な〜んか二人が羨ましいな。」
湯気の立つコーヒーを啜りながらシャルロットはそう零した。
「好きな人がいるって事がか?」
「うん。」
「お前もその内探しゃあ良いだろ?男なんざ石ころみたいにゴロゴロ世界中に転がってっぞ。で、結局どうするんだ?この業界に残るのか?それとも、全てをリセットして新たな人生を歩むか?」
「もう少し、考えようと思ってる。生徒会長の更識さんが言ってたけど、まだ三年は時間があるからたっぷり悩む時間はあるって言ってたし。」
「まあ、確かに一朝一夕で答えを出せる様なチンケな問題でもないからな。悩め悩め、たっぷり悩め。フランクさんの所にもメールとお前の個人情報の一部を添付して送っておいた。お前が望むなら養子にしてくれるって、すぐに返事が来たよ。」
「一夏、ほんとにほんとにありがとう。」
「んじゃ、俺はチャチャッとシャワー浴びたらすぐ着替えるから五分程待ってくれな。」
「うん。」
一夏はノブを捻り、冷たい水が噴き出した。突如冷水を浴びせられたショックで体が一瞬硬直して息が詰まるが、細胞の一つ一つが覚醒して行くのを感じた。徐々に水の温度を上げながらシャンプー、リンス、ボディーソープと、素早くも丁寧に体を清めて体を拭きながらも器用に着替えを済ませた。所要時間は驚異の五分三十秒である。まだ生乾きの髪の毛をタオルでガシガシと乱暴に拭きながら洗面所を出て鞄を腕に引っ掛ける。
「俺、先に行ってるぞ。」
「分かった。じゃあ、教室でね。」
一夏は小走りで食堂まで移動してトレー四つを両手と頭で上手い具合に運びながら鈴とセシリアが座っている席へ移動した。
「よう二人共。意外に仲良くやってるな。」
「まあ、うん。山田先生の一件以来何と言うか、馬が合ってさ。」
「そうですわね。縁と言うのは本当に不思議な物ですわ。」
「それは確かに。」
一夏は適当な席に座り、大盛りのご飯の上に卵と醤油をかけて食べ始めた。
「所で一夏、学年別トーナメントのパートナーはどうするの?」
「パートナー?」
一夏は口の中で咀嚼していたご飯と卵を飲み込むとおうむ返しに聞いた。
「あら、聞いてませんの?より濃い戦闘経験を生徒に積ませる他、クラス対抗戦の時の様なハプニングがあってもすぐ対応出来る様に取られた処置ですのよ?」
「ほ〜。タッグ戦ね。あ、じゃあペアを組む制限とかはあるのか?流石に専用機持ち同士が組んだらワンサイドゲーム過ぎてあんまし面白くねえだろ?」
「まあ、そうだけどさ。別に特にコレと言った制限は無いと思うわよ。私はセシリアと組むってペア申請の書類提出したけど別に何も言われなかったし。政府連中は先天的な才能評価が目的で一年坊を見に出張って来るから、よっぽど無様な負け方しなきゃお小言拝聴は免れるわ。まあ、当然そう簡単に負けてやるつもりは無いけどさ。クラス対抗戦、結局はうやむやになっちゃったし。」
「確かにな。模擬戦じゃ、えっと・・・・四試合でお互い一勝一敗だったな。」
「今度こそハッキリ白黒付けるわよ?」
「望む所だ、返り討ちにしてやんぜ。首洗って待ってろ。」
二人の視線がぶつかって火花がバチバチと散る。
「一夏も早く相手探さなきゃ一人でやる事になるわよ?」
「馬鹿野郎、一学年120人前後だからそうそう簡単に余りゃしねーっての。それにパートナーにはもう当たりを付けてるからな。」
「へぇ〜。じゃあさ、三人が三人お互いの手札が大体分かってるから放課後に特訓してみない?意外と面白くなるかもよ?」
「名案ですわね。タッグはパートナー同士が阿吽の呼吸で行動出来なければ成り立ちませんもの。あれから私も鈴さんのお陰で近接戦に更なる磨きをかけられましたわ!」
「ほー、ソイツは楽しみだ。」
二人の代表候補の物言いに一夏はニヤリと好戦的な笑みを浮かべ、食事を再開した。
(とは言った物の・・・・どうした物かな?俺としては簪と組みたいんだが、シャルロット———否学園ではシャルルか———を放って置いたら間違い無く何処かでボロを出す。俺が一回結構揺さぶりをかけちまった所為で余計に意識しちまうからな。分かる奴には絶対すぐに分かる。特に、女子はそう言う事に関しては結構鋭い。あー、どうしよ?)
授業がすぐに始まるので考え倦ねている暇はあまり無い。仕方無いので一夏は簪とシャルルにそれぞれアリーナに来る様にとメールを送った。