IS x W Rebirth of the White Demon 作:i-pod男
文字数が初めて一万超えましたよ(ドンドンパフパフー!!)
そしてとある名言が多少アレンジされていますが、入っています。分かる人には絶対分かる筈です。
「な、何の事かな織斑君?」
「一夏で良い。下手な嘘はつかないでくれ。明らかに動揺の色が顔に見えてるからすぐ分かるぞ、シャルロット・デュノアさん?」
「ぼ、僕はおと、こ・・・・っ?!」
どもりながらも一夏の指摘を否定しようとした。が、散撒かれた資料を見ると、シャルル否シャルロットの顔はみるみる青ざめて行った。本名、生年月日、血液型、今までの自分の経歴が事細かに書かれている。
「って言うのは口実で実家に俺の機体のデータを盗む様に言われてんだろ?隠さなくても良い。俺は全て知っている。」
「・・・・そっか。まさか一日も経たずに分かっちゃうなんてね。でも、良くここまで調べられたね?」
「事前にここに来る事は知ってたし、優秀な探偵が上司だからな。」
「そっか。凄い人だね。一夏の言う通り、僕は実家の命令で特異ケースである君のISのデータを盗む様に言われているんだ。まあ、バレちゃったから良くて多分牢獄行きかな?」
アハハと乾いた力の無い笑い声でそう零すシャルロット。
「騙しててごめんね。バレてたから騙してたかどうかは分からないけど。」
「で?」
「え?で、って言われても・・・・?」
「自分の意志はどこに行った?」
「だって僕には何も」
「何も出来ない?確かにそうかもしれない。だが、そうじゃ無いかもしれない。ただ何もしようとしていないだけかもしれないし、そうじゃないかもしれない。人生とは全てがギャンブルだ。確かな物など何一つ無い。怖いが、逆にそれがスリリングで面白い所だ。たった一つ何かが変わるだけで全てがひっくり返る可能性だって秘めている。」
「何が言いたいのさ!?」
「自分でどうしたいか、どうなりたいかを決めろと言っているんだっ!!」
一夏の遠回しな物言いに業を煮やしたシャルロットは立ち上がって叫んだが、一夏も負けじと叫び返した。
「ここに来るまでお前は流されてばかりだったろ?ここに来るまでお前は自分の意志で何かをした事があるか?お前は周りの空気に徹底抗戦しなかった。心が弱かったからだ。負け続けて来たからだ。当然他にも理由はあるだろうが、どうにもしようとしなかったお前自身に一番の非がある!」
ナイフの切っ先の様に突き付けられる指を見てシャルロットはヘナヘナと力なくベッドの上に座り込んだ。
「シャルロット、今お前が成すべき事は只勝つ事。勝つ事だ。勝ったら良いな、じゃない。勝たなきゃ駄目なんだ!勝ちもせずに生きようとする事がそもそも論外なんだよ。 汚いやり方だ何だと罵倒されようが野次られようが全て無視しろ、障害が立ち塞がるならばあらゆる手段を考えついて、用いて、徹底的に戦って突破するんだ!!勝ち続ける人生はあり得ないが、負け続ける人生と言うのも同じ位あり得ない。縛り付けられた鳥籠から抜け出したいか?」
「僕は・・・・」
「答えろ。他の誰でもなくシャルロット・デュノアとしての答えを聞かせてくれ。」
「抜け出したい・・・・」
「ぁあ?聞こえねえよ。ハキハキ喋れ!」
「抜け出したいよっ!!」
泣きながらシャルロットはそう叫んだ。顔を両手に埋め、片を振るわせて小さくしゃくり上げ始めた。
「おめでとう。大勝利 ジャックポットに向けての小さな一歩がその答えで踏み出された。ごめんな、泣かせちまって。ほれ。」
一夏は洗面所からタオルとティッシュの箱を持って来てやり、涙と鼻水で顔がぐじゃぐじゃになったシャルロットに渡してやった。
「ん・・・・・あり”がと・・・・」
「所で、お前の母さんは手品が好きだったらしいな?」
「うん。僕も色々教えてもらったんだ。マジシャンは、」
「「人を驚かせたり楽しませたりする方法を探すのに七転八倒するものだから。」」
シャルロットの言葉に一夏は自分の言葉を重ねて復唱した。それは、フランク銀の口癖でもあるマジシャンの在り方を説くフレーズだ。
「え?何で知ってるの?」
「おいおい、俺はフランク銀の弟子だぞ?あの人の口癖の三つや四つ覚えられなくてどうする?ベアトリス・デュノア夫人は本物の魔法と見紛う様な現役時代の彼の鮮やかなマジックに心打たれて、何時しか自分も手品を通して人に笑顔を齎したいと思う様になった。そして独学で技を身に付け、君にもそれを伝えた。そんな所だろ。」
「うん。」
「マジック、好きか?」
「大好きだよ。今も昔も。」
一夏は少し考えると、一夏は手を擦り合わせてそれを開いた。手の中には小鳥が収まっており、ピヨピヨと鳴き声を上げていた。
「よし、それなら大丈夫だ。全て上手く行く。そしてお前は自由を勝ちとれる。」
窓を開き、小鳥を放してやった。シャルロットは一夏の背中しか見えないので分からないが、彼は現在口角を片方だけ吊り上げたどす黒い笑みを浮かべていた。その表情は計算通りに事を進める事に成功した死のノートを手に入れた自称新世界の神すらも凌駕する悪魔の笑い顔である。ワイバーフォンを取り出すと、楯無に電話をかけた。そして十秒もしない内に現れた彼女は一夏がドアを開けるや否や抱きついて来た。
「おっとと・・・・」
「ん〜〜、一夏君の匂いだ〜♪どうしたの〜、寂しくなった?膝枕して欲しい?」
「まあ、寂しいってのはありますし膝枕も是非して貰いたいですけどその前にちょっと手を貸して欲しい事があります。(『お礼』はちゃんとしてあげますから、ね?)」
「あの、一夏、その人は・・・?」
「二年の更識楯無さん。学園の生徒会長にして強力な助っ人だ。」
一夏は床に落ちた資料を拾い上げて彼女に渡した。提示された条件をすぐに呑んで楯無はそれにつらつらと目を通して行くが、通して行きながらピキピキと額に幾つも青筋が立ち始めた。
「な?えげつないを通り越してエグいだろ?」
「・・・・・・・ぶちまけてやる。」
再び書類を宙に投げ捨てるとハイライトの消えた目と不気味な薄ら笑いでそう呟いた。
「何を!?誰の何をぶちまけるつもりですか?!」
「「そんなの主犯と共犯者全員の全部に決まってるでしょ。」」
最早人を沈める気満々の顔付きの一夏と楯無である。
「二人して何真顔で怖い事言ってるの!?」
二人のどす黒モードのヤバい発言を聞いて色々と崩壊し始めたシャルロット。
「まあ、それは置いとくとして、」
「良いの!?置いといちゃって良いの!?殺しちゃ駄目だからね?!」
「シャルロット黙ってろ。話が進まん。」
楯無はシャルロットをベッドに座らせると、一夏は馴れた手付きで緑茶を三つ用意した。楯無に今の所どこまで話したかをかいつまんで説明し、今後の方針を三人で話す事になった。
「一夏君はどうしようと思ってるの?」
「まあ、まずデュノアを完全に潰す事を前提に考えると、当然ながら代表候補はやめる事になる。会社が潰れて親が牢獄行きとなると、身寄りも他にいない。そこで、まず必要な証拠を全て奴らの顔に叩き付けて養子縁組に出させる。向こうだってブタ箱行きは全力で避けたいだろうしな。勿論自由国籍の手続きも取らせる様に計らう。」
「なる程ね。法律では養子縁組の手続き対象が十五歳未満の場合法定代理人が署名及び押印する必要がある。要するに脅して縁を切らせるって事か。じゃ、里親は?」
「考えてある。問題無い。本人に電話しなきゃならないがな。シャルロット、お前マジックが好きだって言ってたよな?ベテランのプロの元で修行したいと思った事は無いか?」
一夏は財布の中から一枚の名刺を取り出した。それは風都では行きつけの喫茶店Platineの名刺だ。
「店長・・・・フランク、銀・・・・!?えええええええええ!?」
「なるほど〜、それ良いわね。流石一夏君。」
「最終的にはフランス政府にデュノアの処遇は任せるつもりだけど、『お礼参り』防止の為に予防線を張っておく必要がある。楯無さんの家の人に頼んで暫く彼女の身の回りをマークする様頼んでくれません?」
「勿論よ。自由国籍持ちで日本国民になれば私もガードを固めるのが更に簡単になるし。でもよくそこまで考えたわね?」
「博打も社会も駆け引きが出来てナンボの物だ。容赦はしない。余程の相手でない限り俺はそうそう負ける気はしないからな。それに、彼女に無駄な負担をかけるのは男として問題だから。ね?」
「ちょ、ちょっと待って!」
蚊帳の外で自分の運命がどうなるかをトントン拍子で決められている当の本人がストップをかけた。
「あ、ごめんね。」
舌をぺろっと出して悪びれた様子も無く謝罪の言葉を口にする楯無。
「どうした?」
「何で?・・・・・何でそこまでしてくれるの?僕達会ったばっかりだよ?殆ど赤の他人みたいなもんだよ?」
「ん〜、私は基本困ってる人は放って置けないし、そう言う企業悪は嫌いなのよね〜。お姉さんのおせっかいだけど、職業柄仕方無いの。」
「俺はただ困ってるから助けを求めて全てを丸投げする奴は助けない。そう言う奴らに限っていざと言う時自分では何も出来なくなる。だが、自分が陥っている状況から抜け出したい、打開したいと言う意志を持っている奴は話が別だ。ま、最終的にショーダウンでどうするかはお前次第だがな。俺はあくまで選べる道を用意してやるだけだし。自分を助けられるのは、とどのつまりは自分だけなのさ。」
ぬるくなった緑茶を飲み干すと一夏は立ち上がってドアノブに手をかけた。
「あ、どこ行くの?」
「用事が二つある。例の予防線を張ってくれるジョーカーに連絡しなきゃ行けないのと、もう一人助言を必要としているLadyがいるんだ。」
「もう一人?」
「お前と同じ過去と言う名の籠に捉われた小鳥さ。」
「え〜!?もう行くの!?呼んどいてそれは無いんじゃない?お姉さん怒っちゃうぞ!」
「こっち来て。」
一夏は指をクイクイと曲げて来る様に促した。そこで楯無の耳に何かを囁くと、楯無は小さくピョンと飛び上がって万歳をする。
「ホントに!?やった♪」
「承諾してくれて何よりだ。んじゃ、後で。」
「うん♪待ってるから♡じゃあ、シャルロットちゃん。お姉さんと遊びましょ〜!」
手をワキワキと動かしているのが視界の端にチラリと映ったが、一夏は見なかった事にした。後からシャルロットの悲鳴混じりの笑い声と艶っぽい声が聞こえたが、聞かなかった事にした。歩きながら束に電話をかけた。
『ハロハロ〜いっくんおはこんばんちわ〜っす!どしたの?らぶりぃ束さんの声が聞きたくなった?』
「箒と連絡取ってますか?」
ズバリと核心を突く一夏の言葉に束は言葉を詰まらせた。
『っ・・・・・・取ろうとしてる、けど・・・・・出てくれない。』
最初は元気だった声があっと言う間に尻窄みになり、力も覇気も全く無いか細い声に早変わりした。
「やっぱりか。分かりました。束さん、学園のスケジュールは知ってますよね?」
『それが、どうかしたの・・・・?』
「臨海学校で、俺達の所に来て下さい。引き摺ってでも箒を連れて行きます。そこで否が応でも二人を接触させる。電話なんて遠回しな正攻法が今の箒には通用しません。ですから多少強引な手段を使わなければならない。翔太郎さん達にもこの事は協力する様に伝えますから、絶対に逃げちゃ駄目です。今回を逃せば、恐らく・・・・・」
もう二度と二人が口をきく事は無い。束も箒も最悪の場合自殺を図るか世界を破壊してしまうかもしれない。
「次はありません。今度を逃したらもう後も先も無い。だから、絶対来て下さい。」
『分かった。絶対行く。ちーちゃんにこの事は・・・?』
「言ってませんよ。じゃあ当日、待ってます。幸運を、束さん。」
ワイバーフォンを閉じて通話を切り、その足でラウラを探しに屋上に向かった。第二回モンド・グロッソの事を思い出しながら・・・・・
〜回想〜
『ちー姉、つえ〜な〜・・・・おっと、次の試合ももうそろそろだな。急ごっと。』
第二回モンド・グロッソ当日、一夏は観客席から千冬が順調に勝ち進むのを見て終始応援していた。選手達の休憩もあるので、この時間を利用してトイレに行こうとしていたのだが、会場は想像以上に入り組んでいる為にトイレを探すのにかなり時間を食ってしまったのだ。戻る際飲食物を幾つか買って席に戻る所だったが、突如後ろから肩を掴まれて止められた。
『織斑一夏君かね?』
『・・・・・そう言うアンタは?』
振り向くと、黒いスーツを身に着けた人が良さそうなガタイの良い男が愛想笑いを浮かべていた。後ろには同じ服装の男が四人程いる。
『会場の警備の者です。』
『あ、そう。で、何か?』
『実は貴方をVIP席の方にお通しする様に言われて探していた所なのです。一緒に来て頂けませんか?』
だが一夏は答えず、何度か鼻をひくつかせると頷いた。四方を固められたまま廊下の奥へと進んだ。爆発する歓声からはどんどん遠ざかっていく。
『警備員て、嘘だろ?』
一夏は徐に足を止めると口を開いて大声でそう聞いた。
『はい?』
『あんたらから覚醒剤特有の甘酸っぱい匂いがうっすらとだけどするんだよ。大会当日にヤクをキメるなんてそんな馬鹿な事をする様な警備員はいない。やるとしたら職務怠慢が好きなのか、ソッチ系統の組織化。前者は八割方無いと思ってる。お宅ら、誰の何て言う組織?』
『チッ。捕まえろ!』
『どけ、阿呆。』
一夏は持っていた紙コップの中身を右の警備員にぶちまけると、怯んだ所でホルスターの銃とスタンガンを奪い取って構えた。
『失せろ。二度と俺に構うな』
『悪いがそうは行かない。こっちも仕事でね。』
『『『Masquerade!』』』
『Arms!』
『力づくでも連れて行くよ。』
『ガイアメモリ・・・・』
とりあえずマスカレイドだけでもどうにか始末してしまおうと一夏は新しく強化された肉体を利用する事にした。こうなっては周りがどうのこうのと言っていられない。反撃しなければ間違い無く拉致される。奪った銃はH&K Mk23 Mod 0と言うH&K USPの前期の銃である。安全装置を外すと、マスカレイド達に向かって銃が空になるまで撃ち続ける。碌に狙いをつけずに乱射した為大半の弾は当たらずじまいだったが、マスカレイド一体が倒れた。空銃は持っていても意味が無いので全力で二体目のマスカレイドの顔面目掛けて投げつけた。一キロを上回る重さを持つこの銃はプロの野球ピッチャー顔負けの速度で回転しながら投擲された。グリップ底はトマホークの刃の用にマスカレイドの顔に減り込む。
(残りはマスカレイドとドーパントが一体ずつ・・・・!!)
今一夏の手にあるのはスタンガンだけ。マスカレイドならまだしも、アームズドーパントには全く意味を成さないだろう。それにこの場で変身すれば彼らを倒す事は容易だ。だが逮捕されて聴取の時に自分がガイアメモリを持っている事をバラされてしまえば大変な事になる。しかしナノマシンで強化されているとは言えメモリブレイクまで持ち込むのは無理がある。
(八方塞がりとはこの事だ・・・・)
『どうした?今更ビビって動けないのか?オラオラオラ!』
アームズ・ドーパントは右腕が変形したマシンガンでの銃撃を一夏に浴びせたが、咄嗟に遮断物の後ろに飛んで回避した。
『ご冗談を。策を練ってただけだよっ!』
あの時無駄に銃を乱射しなければ勝機はまだあったかもしれない。今更ながら一夏は自分の計画性の無い行動を呪った。幾らナノマシンで自己再生能力が付加されたとは言え再生が間に合わない程のダメージを長時間受け続ければ間違い無く死ぬ。改造人間はベースが人間である為に当然限界があり、『超人』であっても『不死身』ではないのだ。
(しゃーねー・・・・ここは多少の無茶をしてでも!)
銃弾がズバズバと壁を削って行き、もう殆ど後が無い。廊下の端に積まれた折り畳みテーブルを二つ持ち上げると、それを思い切り投げつけた。
『小細工を。』
マシンガンの銃身の下からグレネード弾が飛び出し、テーブルを粉々に吹き飛ばした。が、その爆発はドーパントが放った攻撃である故に威力も凄まじく、天井の一角が吹き飛んで火災警報が鳴った。当然スプリンクラーが作動し、辺りに水を撒き散らし始めた。
『このガキィ・・・・!舐めた真似しやがって!』
マスカレイドが懐のホルスターからベレッタを引き抜いて喚きながら目の前に飛び出た一夏に向けて引き金を引こうとした。だが、黄金色の歪曲した銃弾がマスカレイドの胸を貫き、アームズ・ドーパントも更に飛んで来た銃弾によって吹き飛ばされた。
『この攻撃は・・・・』
『全く、手間のかかる弟子だなお前は。相棒が海外で一人にしておくのは絶対マズいってんでここまで来たんだが、見事に予想が当たるとはなあ。』
「君の履いている靴の中にスパイダーショックの発信器を改造した物を仕込んでおいた。」
翔太郎とフィリップが変身した仮面ライダーW LTだった。先程の銃撃はトリガーマグナムから放たれた黄金の追尾弾だったのだ。
『靴の中?』
確認すると確かに発信器が右の靴に入っていた。
『制作は篠ノ之束に少し手伝って貰ったがね。それは君の声を拾えるし、心拍数、現在地、全てを把握出来る様になっている。無事で良かった。さて、翔太郎。早く彼らを片付けよう。」
『おっしゃ。』
『何だお前らは!?』
『俺達は仮面ライダーW。憂いの涙を拭う、二色のハンカチさ。』
「僕達の弟子に手を出した事、後悔させてあげるよ。」
『「さあ、お前の罪を数えろ!」』
『一気に決めるぜ。』
『Trigger!』
レフトスロットのトリガーメモリをドライバーから抜き取り、トリガーマグナムの銃身に押し込むとマキシマムモードに移行した。
『Trigger Maximum Drive!』
『トリガー・フルバースト!』
蒼と金色の銃弾が飛び交い、マスカレイドとアームズ・ドーパントに直撃した。メモリは破壊され、マスカレイドを使った男の体は跡形も無く消滅した。アームズのメモリは砕け散り、変身していた男は気絶した。
『んじゃ、俺達は行くぜ。見られたらマズいからな。ここはお前が倒したって事にしといてくれ。』
『はあ・・・・』
慌ただしい足音が幾つも聞こえ始め、一夏はWにその場から早く離れる様に促した。緊張の糸が切れて壁を背にして座り込み、深く息をついた。
『ミスター・オリムラ!無事ですか!?』
軍服姿の男が一夏を助け起こした。
『何とか・・・・・千冬姉は勝ったの?』
『はい。おめでとうございます。織斑千冬選手は、優勝しました。』
『そすか。』
『申し訳ありません、私達が付いていながらとんだ失態を・・・・!』
『俺がどうにか出来たから良かったけどさ。良いよ、別に。』
一夏は持っていたスタンガンを投げ捨てて立ち上がった。濡れた髪をかきあげる。
『タオルある?びしょ濡れになっちゃったから。』
『は、はい!すぐに御持ちします!』
そして男はドイツ語で口早に捲し立てながらどこかへ歩いて行った。しばらくしてから人込みを掻き分けてISスーツ姿の千冬が飛び出した。
『一夏、一夏!!!無事か?怪我は?!』
『大丈夫、大丈夫。ご覧の通り俺は無傷ドーパントは撃退したから。ま、びしょ濡れだけどぉっと!?』
千冬のいきなりのハグ/タックルを食らって立ち上がった一夏は思わず仰け反りそうになった。その時、一夏は初めて目にした。眼帯を付けて軍服に身を包んだ銀髪の少女———ラウラの姿を。その赤い片目はまるで親の敵を見つけた人間の様に一夏を凝視していた。
『ほらほら、離れて。濡れるよ?それに、別にちー姉の所為じゃないから。だから泣くなよ。ホレホレ、撫でるぞコラ。』
だが千冬は一夏から離れようとしなかった。ホテルへ帰る時も一夏は千冬と一緒に銀髪少女率いる部隊にリムジンの中でも周りをがっちりと固められた。
『・・・・・おい、お前。』
『お前じゃない。俺は織斑一夏と名前がある。お前は確か、ラウラ・ボーデヴィッヒだったか。』
『まあ良い。しかし本当なのか?アレを全てお前一人で倒したと言うのは?』
『まあな。』
一夏の目の奥に答えがあるとでも思っているのか、じっと凝視して視線を全く外さない。
『ああ。俺が倒した。だがそんな事を聞いてどうする?』
『従軍した事も無いお前の様な男が化け物四体を生身で押さえ付けられたとは到底思えない。そして、教官の弟とも俄には信じられなくてな。』
『ボーデヴィッヒ、それ位にしておけ。私の弟を甘く見るな。お前を含めお前の部隊が束になってこいつを取り押さえようとしても絶対に無理だ。ISではどうか分からんが、生身ならばお前らは確実に負けるな。』
(ちー姉自重ぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!あんたなんばしよっとですか!?!?)
それを聞いてリムジンに乗っていた黒兎部隊の隊員は騒然となった。
『教官!?』
『嘘だと思うのならば後で試してみるが良い。』
そして結果的には千冬の言った通りの結果になった。黒兎部隊が総動員で一夏を相手に永久乱取りをする事になったがラウラ以外の隊員を全て戦闘不能(と言っても軽く当て身を入れて気絶させる位の事だが)に陥らせ、ラウラさえも僅差ではあるが打ち倒した。
『フォォオオオオオオウ!!!気分そ・う・か・い Death!!!!』
勝利のVサインを空に掲げる一夏。
『ば、馬鹿な・・・・我々が、全滅だと・・・・!?』
『コレで信じてもらえたか?』
『此処までの実力を見せられては、認めざるを得ないな。お前は紛れも無く、教官の弟だ。』
『そりゃどうも。んじゃあな。良い運動になった。部隊の連中にもよろしく言っといてくれ。ホラよ。』
別れ際に一夏は近くの購買で勝ったバームクーヘンをラウラに渡して去った。
『それ、美味いから早く食えよ?』
〜回想終了〜
予想通り、屋上ではラウラが夜空にぼうっと光を発して浮かぶ欠けたクッキーの様な月を眺めていた。だが、何時もとは違い左目を隠した眼帯は外している。そこから見える黄金の瞳はまるで満月の様に輝いている様にも見えた。
「よう。何を一人で黄昏れてんだ?」
一夏に気付いたラウラは背を向けて眼帯を付け直すと再び振り向いた。
「・・・・お前の『助言』だが、確かに戯れ言だな。私には分からん。私を私たらしめているのは教官だ。出来損ないだった私を今の私にしてくれたのは教官だ。それに、醜さを愛せだと?しばらく会わないうちにやはり頭がおかしくなったか?醜悪な部分は徹底的に排除する。兵士に求められるのは優秀さだ。要らん部分は切り捨てる。」
「そうか。お前、そう言う考えは危ないぞ?」
「何?」
「『 私を私たらしめているのは教官だ。出来損ないだった私を今の私にしてくれたのは教官だ 』お前はそう言ったな?それはストレスに対する間接的な反応だ。劣等生のレッテルと言うストレスに対してな。共感姓、一体感、identification。出来損ないの自分を優秀で有能な教官である千冬姉に重ねている。千冬姉の苦しみはお前の苦しみ、お前の成功は千冬姉の成功と言う風にな。警告しておく、その依存を直ぐに断ち切れ。一心同体と言う比喩表現を超えた危険な領域に踏み込めば・・・・・・・お前はお前でなくなるぞ。千冬姉を敬うのは結構だが、彼女は人間だ。神じゃない。」
「貴様・・・・・それでも教官の弟なのか?!」
ラウラは袖の中に仕込んだナイフを投げつけて来たが、一夏は左手でそれを受け止めた。ザクリと刃が掌を貫き、貫通した。ボタボタと傷口から指先へと血が流れ、ポタポタと血だまりを地面に作って広がって行く。
「ああ。これでも弟だ。言っておくが、お前を返り咲かせてくれた千冬姉が彼女の全てと言う訳ではないんだぞ?いってぇ・・・・流石にハーフセレーションがあるナイフは抜くのがいてえな、おい。」
ナイフの柄を握り締めて引き抜くと、傷口はあっと言う間に閉じて傷すら無くなった。滴る血も舐めて綺麗にすると、ガムを口に放り込んでクチャクチャと噛み始める。
「学年別トーナメントで勝負だ。お前が勝てば、どうしようが俺は干渉しない。だが、俺が勝ったら俺の言う事を一つ聞いてもらう。」
「望む所だ。あの時の敗北の雪辱を果たしてやる。」
ナイフを投げ捨てると、一夏は踵を返して階段を下りて生徒会室に向かった。
「お待たせ〜」
「ん〜〜!」
入るやいなや楯無はドアを閉めて鍵をかけると、一夏を抱きしめ、ソファーに押し倒した。
「シャルロットは?」
「寝かしつけたから、大丈夫よ?それよりもほら、は・や・くぅ〜。」
腹の上に座り込むと、覆い被さってキスを強請り始めた。一夏はそれにディープキスで答えた。最初はいつも通り軽いジャブで始めていたが、今回は初めから思い切り唾液たっぷりの舌を絡めた濃厚キスだ。
「一夏くぅ、ん・・・・・・甘いよぉ・・・」
「ガム噛んでたんで。(血ぃ舐めちまったからなあ)」
「もっとぉ、もっとしてぇ・・・・」
ペロリと舌を出して一夏の唾液で湿った唇をゆっくりと嘗め回した。息を乱した楯無は頬を赤らめ目も据わっている。
(うわあ、この人完全に発情してやがる。すげえエロい・・・・てか俺も今この人を滅茶苦茶にして食べたいんですけど。だが、我慢だ。此処では流石に色々とマズい)
一夏は楯無の舌先から垂れる唾液を啜り、上体を起こすと彼女の舌に吸い付いた。お互い口元が涎でベトベトになってしまっているが、最早そんな事を気にするつもりも余裕も無い。
「お姉ちゃ〜ん、いる〜?」
だが、二人の動きはドアの向こうから聞こえた簪の声でフリーズした。
「あ、うん!ちょ、ちょっと待ってね!」
二人は乱れた衣服を整え、口元の涎を拭った。一夏がドアを開く。
「一夏もいたんだ・・・お姉ちゃんと何してたの?」
「ん?ディープキス。」
嘘を言っても意味が無いので、包み隠さず簡潔に述べる一夏。
「ディ・・・えええええええ・・・・・!?ずるい。」
「ず、ずるくないもん!簪ちゃんは一夏君とデートまでしたんでしょ?私はまだしてないし・・・・」
「週末に連れて行きます。簪もしたいなら、おいで?一杯してあげるから。」
結局その夜一夏はキス魔と化して小一時間は二人とたっぷり濃厚キスを楽しんだ。
最後が微エロになっちゃいました。
感想、質問、評価、色々とお待ちしております。そして遅れましたが初の10☆の高評価をくださった神明 空さん、誠にありがとうございます。
皆さんコレからもよろしくお願いします。