IS x W Rebirth of the White Demon 作:i-pod男
授業が終わり、更識姉妹とも多少イチャついた後、一夏はグラウンドに設けられた射撃場に向かった。竜の根回しで風都で銃を何度か撃った事はあるが、やはり規制が厳しい日本では撃ってみたいと思える銃は置いていないか違法であるかのどちらかなのだ。だがIS学園は学園その物が独立国家と同じなので、通常兵器も一通り置いている。それに対し、アメリカやヨーロッパ圏では銃を持っている民間人は圧倒的に多い。IS操縦者とは言え代表候補やテストパイロットなどの重要なポストに就いている人間は余程の緊急事態ではない限り専用機の展開が禁止されている。それ故自衛の為に何らかの武装を手元に置いている生徒は少なくない。
「おー、やってるなあいつ。」
断続的に聞こえる乾いた銃声は映画とは違い距離が離れていても撃発音はかなり響く。現在は人型の的に向かってドイツのH&K USPコンパクトを撃っていた。撃ち方はリズムを刻むかの様な、なんとも軍人のラウラらしい物だ。足元に転がって来た薬莢を拾い上げると、45ACP弾である事に気付いた。
「ほー、随分と装備が充実してるな。」
「・・・・・お前か。」
「よう。あのバームクーヘン、どうだった?」
残弾を全て撃ち終わるまでラウラは何も言わなかったが、マガジンが空になってスライドが交替したまま固定されるスライドストップ状態に入ると銃を置いて一夏に向き直る。
「後で店の名前を言え。」
「へいへい。」
独立国家扱いの学園とは言え、ISと同じく銃は兵器である。当然事故などは起こる可能性は零とは言えない。学生証は銃を収めたラックを開くキーカードの役割も兼用しており、リーダーに通すと四つのロックが開いた。一夏は少し考えてからコルト社のガバメントとスミス&ウェッソンM19、通称コンバットマグナムと呼ばれる銃身が4インチの357マグナム弾を撃ち出すリボルバーを取り出した。手慣れた手付きで的を弾を装填し、まずはコルト・ガバメントを構えると、左肩を前に出して斜めに構えた。グリップを握った右手をゆっくりと左手で包み込み、余った人差し指をトリガーガード前にかけた。左目を閉じて照準を合わせると、息を吐き出しながら引き金を引いた。ラウラが撃った物と同じ45ACP弾を放ち、額から胸まで縦一文字に繋がる銃創を作り出した。どれももし本当の人間が相手ならば一撃で相手を葬れる位置を弾が貫通している。次に、壁についた赤いボタンを六回押すと、空中にオレンジ色の掌サイズのクレーが射出された。コンバットマグナムを片手で構えると、反動すらナノマシンで強化された肉体で強引に絶え切って全てを二秒以内で撃ち抜き、破壊した。銃口の硝煙を吹き消すと、シリンダーから薬莢を弾き出した。
「・・・・毎回思うのだが、何故お前はそこまで強い?」
「実は俺も良く分からない。人間の強さの秘訣ってのはピンキリ物だからな。千冬姉にも同じ事を聞いたのか?」
「ああ、聞いた。だが、教官は自分には勿体無い程出来が良く強い弟がいる。そう言っていた。あの時、教官の言葉に間違いはなかった事に気付かされた。」
ラウラが遠い目をしているのを見て一夏は小さく笑った。
「何だ、羨ましいのか?」
「撃ち殺すぞ、貴様。」
「冗談だよ、全く。でもまさか知らない所でそんな事を言われてたとはね。結構意外でもあり嬉しくもあるな。」
ニヒッと笑いながら再びガバメントを今度は片手で眉間、鼻腔、喉、両肩に一発ずつ、そして最後の二発を腹に撃ち込んだ。
「暫く考えたんだが、俺達の気が妙な所で合うのはある意味似た者同士だからかな?」
「どこがだ?寝言は寝て言え。」
「生まれは違えど体質が共通してる。」
「体質?」
「ああ。ナノマシン、と言えば分かるかな?」
眼帯で隠されていない右目が見開かれた。
「タイプは違うが、俺も体内に細菌サイズのロボットを多数飼っている。膂力、五感、免疫力。全てが強化されて人間ではなし得ない事が出来る。お前も、そういうクチだろ?」
「・・・・・人の表情を本の如くスラスラと読むな、気持ち悪い。」
これ以上は表情を読まれまいとラウラは出来るだけ無表情を装い始めた。
「良く言われるよ。でも、そう言う反応を示すって事は当たりか。恐らく、ソレが関係している。」
一夏はラウラの眼帯を指差した。
「表情は読めるが、人間の過去は分からない。実際は調べてもらったんだ、お前の事を。ヴォーダン・オージェの事も。同じナノマシンを注入された物同士だから、似た者同士だと言ったんだ。」
「そう言う事か。なるほど。」
「その黄金の瞳は他人に隠す事は出来ても誰にも隠せない奴がいる。お前の事情を知っている奴らと、お前自身だ。」
二つの拳銃の手持ちの弾全てを撃ち終わると、薬莢をバケツに流し込んで銃をラックに戻した。
「そこで、お前に一つ助言してやる。」
「助言だと・・・・・?」
「ああ。従軍した事もない平和ボケなジャップが何をほざくと思うかもしれないが、まあ独り言ないし平和ボケな日本国民の戯言と聞き流してくれ。『己を己らしくさせる要因を見つけ、磨け』そして『自他の醜さを愛せ』。」
それだけ言うと、一夏は自室でもある寮長室に戻った。
「醜さを、愛する・・・・・だと?」
「ふぃ〜・・・・」
一夏は部屋に帰る途中、真耶に呼び止められた。
「あ、先生。どうしたんすか?」
「え〜とですね、お引っ越しです!」
「主語入れて下さい。意味が分からない。」
「あの、だからですね、デュノア君が来ましたから男子同士で相部屋と言う事になって・・・・」
「決定事項ですか?」
「はい。」
一夏は心底残念そうな顔をした。学園に来てからようやく姉弟らしいコミュニケーションを本格的に取れる様になっていたと言うのに、いきなり太平記にピリオドが打たれたのだ。だが一夏は兎も角真耶は教師と言う名の宮仕えの立ち場にいる。上層部の決定事項を覆す事は不可能だ。
「住み心地良かったのにな。先生、この事は千冬姉には?」
「言えませんよ!?私まだお嫁に行ってないのに死にたくないです!」
「デスヨネ〜。分かりました、じゃ俺が言います。部屋、どこですか?」
「1026号室です。あ、鍵、失くさないで下さいね。」
それを聞いた一夏は鍵を受け取りながらも顔を顰めた。と言うのも、それは箒が引き蘢っている部屋のすぐ隣なのだ。只でさえ色々と忙しいのにこの上更にストレスが溜まれば下手をするとその内どこかがハゲてしまうのではないかとすら思っている。
「あの、じゃあ・・・・・箒はまだ・・・?」
「残念ながら。年頃の男女はやっぱり色々あるんですね。」
「俺の所為です。仕事増やしちゃってすいません。近い内に、無理矢理にでも彼女を引き摺り出しますから。じゃ、伝えに行きますね。」
「き、気を付けて下さい・・・・」
「大丈夫ですって。ああ見えて千冬姉俺には甘いですから。」
だが、千冬のリアクションは一夏の予想の遥か斜め上を行く物だった。
何と、泣き始めたのだ。
「・・・・・ちょっと。泣くなよ。俺が悪いみたいじゃないか。」
「いいやお前は悪くない。全てはあの山田真耶と言う悪女の所為なんだ。」
「やめなさい、そう言うの。山田先生だって千冬姉だって宮仕えの身なんだから上層部には従うしかないでしょうが?本人も好きでやってる訳じゃないし。たまに遊びに来るから。ね?」
差し出したティッシュで鼻をかみながら赤くなった兎目で一夏を見やる千冬。
「本当だな・・・・?」
「ただし、最低限の家事は出来る様になっていたらの話。自炊しろとまでは言わない。とりあえず洗濯と掃除が出来れば顔出します。」
「努力は、しよう・・・・・」
「よろしい。あ、ここの鍵どうしよう?」
「持っていろ。私が何時も部屋にいるとは限らんからな。ここはお前との共有区域だ。好きに使って構わん。」
「ありがと。」
一夏はいじけている千冬を後ろから目一杯抱きしめてやり、
「元気出してくれよ、『ちー姉』。」
そう言って荷物を纏め始めた。
「ああ。所で、一夏。」
「ん?」
「おまえがもっているシャッフルメモリの事なんだが。」
「何?」
「暇だったので一つ押してみたらメモリが変わった。」
「・・・・・は?」
普段はない事なのだが、この時ばかりは一夏の思考が不覚にも停止した。メモリが変わった。千冬の口から聞く様な言葉ではない為、尚更一夏の脳内はこんがらがっていた。
「だから、シャッフルメモリのイニシャルが変わったと言っている。」
「・・・・・何に?」
「コレだ。」
『Skull!』
「スカルメモリ・・・?あ。」
一夏は思い出した。自分が最初にメモリを手に入れた時の事を。そしてフィリップが言った言葉を。
『あれはシャッフル、トランプで言う「切り混ぜ」の記憶を内包したメモリだ。数あるガイアメモリの適合率の高低を一々照合していては時間が掛かり過ぎてしまう。これで、ランダムにあのメモリが持つ能力は変わって行く。当たりか外れかは、織斑一夏の引きの強さに掛かっている。』
つまり、メモリの能力はスタートアップスイッチを押す人物により個々に変わると言う事だ。そしてフィリップが言うには先代エターナル、大道克己はエターナルメモリを含めて合計二十六本のガイアメモリを持っていたと言う。
「どうした?」
「いや・・・・ちー姉。スカルメモリ、貰っても良い?」
「ああ。私が持っていても意味はないからな。」
「ありがと。」
一夏は千冬からジョーカーメモリとイニシャル以外の外観が良く似たスカルメモリを受け取り、ポケットに入れた。荷物を纏め終わると、小さく千冬に手を振って出て行き、1026号室に入った。シャルルはまだいない。いそいそと奥の方にあるベッドに荷物を置き、棚に私物を置き始めた。
「さてと。」
『Ptera』
プテラップトップがパソコン型のガジェットモードからライブモードに変形して部屋の中を飛び回り、盗聴器や隠しカメラなどを探し出して破壊すると、メモリを排出して再びパソコンの形に戻った。
「これでよし。」
一夏は銀色のトランクを取り出し、開いた。中にはエターナルエッジ、メビュームマグナム、そしてエターナルメモリを含む合計九本のガイアメモリが収納されている。残り十六本分の収めるべきメモリの為に作られた窪みの一つにスカルメモリを押し込んだ。コレで合計は十本、A to Zまで後十五本である。
「後、渡せる人物は・・・・・?今考えられるだけで五人か。」
当然だが、メモリは信用出来る相手にしか渡せない。風都以外でもガイアメモリの流通は細々とだが存在するので売買、所持自体が違法とされている。その為純正であるとは言えガイアメモリを所持している翔太郎やフィリップ、竜は今まで以上に用心している。この件に関しては三人が持つメモリの合計よりも多いメモリを持つ一夏は人一倍気をつけなければならない。もし心無い人物が自分がメモリを持っている事を誰かに密告するのを想定すると事務所の皆にも累が及ぶ。
「・・・・・・やばいな。」
今まで異常にガードを固めなければならない。
「刀奈と簪に親とのアポを取り付けなきゃな。」
交際の報告と言う件もあるが、千冬と束も何時如何なる時も一夏を事が起こる前に守る事は出来ない。その意味で対暗部用暗部、『更識』は事前の対処を可能とする情報網と影響力を持っている。更識が味方についてくれれば、翔太郎、フィリップ、竜、そして他の協力者達も守る事が出来るのだ。
「デートの途中で引き合いに出す話題じゃねえしなあ・・・・どうしよう・・・?」
だが、考え倦ねている一夏の思考を中断したのはドアが開く音だ。慌ててトランクを閉じた。
「よう。」
「ごめん、取り込み中だった?」
「いや?お前もここか、シャルル?」
「うん。」
「俺はもう荷物は整理し終わったから、手伝って欲しかったら言ってくれ。」
「ありがとう、でも大丈夫だよ。」
「そうか。」
荷物を整理し始めたシャルルに背を向け、プテラップトップに送られた資料を印刷した物を収めたファイルを手に持って一夏は静かに口を開いた。
「シャルル、手を止めなくて良いから一つ質問に答えてくれないか?」
「うん、良いよ?」
肯定の意を確認するや否や、一夏はそのファイルの中身を空中に放り投げた。ページは散けてヒラヒラと床に落ちて行く。
「Qui sont vous, madomoiselle?お前は誰だ、お嬢さん?」
舞い落ちるページの隙間から刺す様な眼光を放ち、シャルルは絶句した。
今回は某弁護士ドラマの第二期の自分の中では名台詞だった一文を使いました。そしてシャッフルメモリについての新たな発見、ようやくここで出せました。ラウラとの過去は次話で明かします。今回で空かせると思ったんですが、ちょっとタイミングを見誤りました。すいません。