IS x W Rebirth of the White Demon 作:i-pod男
「そう言えば今日だったな、転校生の二人が来るの。」
一夏は普段より少し遅めに起きた為に朝食を食べそびれていた。冷蔵庫に入れてあるコーヒー牛乳の紙パックとクリームメロンパン、そしてバームクーヘンを鞄の中に突っ込むと、教室に急いだ。
「やばいやばいやばい。」
他の生徒達は既に席についている。一夏が足を教室に踏み入れた瞬間にホームルームの開始を告げるベルが鳴り、(作者の所為で結構久し振りに)副担任の山田真耶が教壇に立った。
「えー、今日は転校生が二人新たにこのクラスに加わる事になりました!」
それを聞いた一夏は目頭を揉み、席に深く座り込んだ。相手が相手なだけに更に細心の注意を払わなければならない。束謹製のISのデータを欲しがる人間、自分を懐柔しようとする人間は五万といる。
(更に性能に頼らず、実力で勝たなきゃならないって事か・・・・)
ドアが開き、学園の制服を身につけた金髪の男と銀髪の少女だった。はっきり言って二人は対照的だった。外見などはもちろんそうだが、二人が纏う空気の温度差が激し過ぎて、一部は日向ぼっこに最適な気温、もう片方はシベリアの死神の固有結界としか形容出来ない凄まじい低温になっているのだ。
「こんにちわ。フランスから来ました、シャルル・デュノアです。」
「え・・・・?男・・・・?」
「はい。そうですけど・・・・」
一瞬の沈黙。一夏の頭の中に本能的な警鐘が幾つも鳴り響く。咄嗟に両耳を覆った判断は正しかった。次の瞬間、生徒全員の叫び声が超音波となって教室に木霊したのだ。
(ジーザス!何だ今のは?!耳覆ってなかったら今頃俺の鼓膜が破裂してたぞ?!)
「静かにしろ、馬鹿者ども。まだ終わっていないぞ。ボーデヴィッヒ、挨拶をしろ。」
「はっ。」
爪先を揃え、背筋を伸ばし、敬礼するボーデヴィッヒと呼ばれた眼帯を付けた銀髪の少女。両手を後ろで組んだ。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」
そして、沈黙。
「あ、あの・・・・以上、ですか?」
「以上だ。」
最早取りつくしま無しである。真耶も涙目だ。
(おい、もうちょっと何か言ってやれよお前は。マイナスイオンが減ってストレスが上がるだろうが。まあでも、資料にあった通りの情報だな。流石はフィリップさん、情報収集では右に出る奴はいない。ペンタゴン?何それ中小企業の名前?ここは二人の
ラウラは一夏を見つけると、つかつかと彼の方に向かって行った。どこか不敵な笑みを浮かべている。
「やはりしぶとく生きていたか。」
「よう。モンド・グロッソ以来だな、
「そうだな。」
「あ、コレ食べる?バームクーヘン。」
「・・・・・・・・・・貰おう。」
何故かは分からないがラウラは葛藤の末食べ物の魔力に心が押し負けてしまい、差し出されたバームクーヘンの袋を受け取った。したり顔で一夏は彼女を撫でてみた。
「やめんか貴様!!」
一夏の手を払い除けるラウラ。
「クハハハハハ!!」
「いい加減にしろ。ボーデヴィッヒも一々反応するな。では、これから二組と基本的な戦闘の合同訓練を行う。五分以内にグラウンドに集合しろ。織斑、お前はデュノアの面倒を見てやれ。」
「うーす。」
「えっと、織斑君だっけ?僕は」
「
一夏は小さいバッグとシャルルの手を引っ掴むと、走り出した。だが、一夏の走るスピードがあまりにも速いので、足を半ば縺れさせながらついて行っている。前後左右、更には天井からも女子、女子、女子である。しかも何故か武士の口調になっている。
「お、窓だ。飛ぶぞ。」
「へ?」
「あいきゃんふら〜い!」
「え、ええええええええええええええええ?!」
開いた窓から何の躊躇いも無く一夏は飛び降りた。そして着地すると、すぐ後から落ちて来るシャルルを受け止めると、再び走り出す。
「お、織斑君・・・・・は、速過ぎる、よ・・・・」
「
一夏は制服を脱ぎ、下に重ねていたISスーツを露わにした。他の生徒達が持っている様に体にぴったりフィットする様な物ではなく、NASCARのメカニックが着用しているツナギ状のゆったりした作業着に似ている。
「スーツ下に着込んでおいて良かったぜ。あ、グラウンドの方向は分かるよな?」
「え?う、うん・・・・あ、あのさ!」
「ん?」
「フランス語、凄い上手いね。」
「出身者にそう言われるとは光栄だ。ありがとう。」
着替えを入れたバッグをロッカーの一つに押し込むと、そのまま更衣室を出て行った。
グラウンドでは一組と二組に分かれ、出席番号順に立っていた。
「では、本格的な実戦訓練を行う。凰、オルコット、前に出ろ。」
「「はい。」」
「お前達には、山田先生と模擬戦をして貰う。もうそろそろ来る筈だが。」
「う、うわぁ〜〜〜〜〜〜!!!!」
空中から叫び声が聞こえて来た。全員が上を見上げると、量産機のラファールリヴァイブを纏った真耶が地面に向かって一直線にやって来る。
「Oh, my.」
『Luna!』
右腕に零式を瞬時に部分展開した一夏はソウルメモリーズのルナを発動、雪片・無限の刃先を伸縮させて真耶の胴体に巻き付けて、勢いを死なせた。だが、それとほぼ同時にラウラが左腕を部分展開し、赤いラインが入った黒い腕部を突き出した。すると真耶の体は空中に釘付けになり、全く動けなくなってしまった。
「はひぅ・・・・」
「山田先生、テンパり過ぎです。やる気、元気、落ち着きを心掛けて下さい。」
「すみませぇ〜〜ん・・・・」
(眼鏡のドジッ娘教師が涙目。ごちそうさま。良い物見せて貰えました)
「では、始めろ。二人の相手が終わった後は織斑と戦って貰うからそのつもりで。」
「わ、分かりました!」
「では、初め!」
セシリアと鈴が機体を展開すると同時に、真耶の目付きが変わった。先程のドジッ娘オーラはどこへやら、右手にライフル、左手に大振りのナイフを装備して迎撃を開始した。
「すご〜い・・・・」
「やまちゃんカッコいい〜〜!!」
「まーやん見直した!」
「フレーフレー、やまぴー!頑張れ頑張れやまぴー!」
「ファイトーまやまや!」
(幾つ渾名あるんだよ、あの人は・・・・まあ、名前を回文にしてしまった親の真意を是非とも聞きたいってのはあるけどさあ)
経験の差と言うのは物にもよるが得てしてかなり物を言う。現在真耶は一、二枚二人より上手だった。ナイフ一本を片手で操りながら格闘が十八番の鈴を相手に彼女が繰り出す青龍刀と拳、蹴りの変則的な攻撃を全てギリギリで回避し、的確な反撃をナイフで行ったり零距離からのフルオート射撃で後ろに吹き飛ばしたりで対処はほぼ完璧だ。白兵戦の合間を縫って放たれる衝撃砲は幾らか被弾していたが、どれもクリーンヒットが決まらず致命的と呼べる程のダメージは残していない。
一方、セシリアは必要に応じて遠近両方に対応する遊撃のポジションについている。鈴が距離を詰めると一緒に一夏との特訓の成果を見せるべく初心者とは思えない程の銃剣術やナイフファイトを見せたり、ビットと一緒に弾幕を張って引きつけたりもした。だが、やはり教科書通りの動きと言うのは熟練者には意味を成さない。援護射撃を見事にかい潜ってショットガンとグレネードランチャーを僅かな隙を突いてお見舞いした。シールドエネルギーが底を突きそうになった所でセシリアは悔しそうに降下し、ISを解除した。
「うぅ・・・・悔しいですわ〜。まさかあんな所で・・・」
「いや、十分凄かったぞ。ナイフさばきと銃剣術、随分と馴れて来た様に見えた。後は練習あるのみだ。近距離での自分の十八番を見つければ必ずどこかで相手の意表を突けるテクニックを見つけられる。ナイスファイトだ。」
しばらくすると、鈴も残り二桁になるまでエネルギーを削られて降りて来た。顰めっ面で不機嫌丸出しだ。
「あ〜〜〜〜もう!な・ん・であんな避け方出来るの?!てか避けられるかなフツー。」
「お、お二人とも即興のコンビネーションとは思えませんでした。私もギリギリ半分以下に抑えられましたけど、結構エネルギーが削られちゃいましたから。その調子で頑張って下さいね!」
「うむ、凰は兎も角、オルコットの近接格闘を見るのは初めてだな。荒削りだったが、形にはなっていた。精々励め。ちなみに、山田先生は一度は代表候補まで登り詰めた操縦者だ。あの程度のバトルは造作も無い。元々多対一を得意としているのでな。」
「む、昔の話ですよ。それに、結局候補生止まりでしたし。」
候補生止まりでも十分過ぎる戦闘能力を持っている真耶。人は見かけには寄らないと言うのは正にこの事である。
「これで諸君らにも教師の実力は分かってもらえただろう。以後、敬意を持って接する様に。渾名を作っていた貴様らには後で反省文十枚を書いてもらう。」
(やめたげて下さいよ、もう)
一夏は思わずそう言いそうになったが、授業中である為千冬も私情を挟む訳には行かない。もしそんな事を言ったら最後、出席簿と言う名の学園に置いては処刑道具とすらなり得る凶器が脳細胞の命を刈り取ろうと空から落ちて来る。
「専用機持ち五人をリーダーとして出席番号順にグループに分かれろ。」
「ISの方はラファールが三機と打鉄が二機ですから、早い者勝ちですよー!装着と歩行はもう出来る様になっていると思いますので、これから武装の展開と収納、実用をします!」
(ラファールで行くか。あれ、戦い方が偏らないし。)
大型の台車にラファールを乗せると、せっせと一人で運んで行った。それを千冬とラウラ以外の皆が唖然として見ていた。ISと言う物は装着していなければ只のばかでかい鉄の塊でしかない。それもかなりの重量がある鉄の塊だ。更にそれを動力が全く無い台車で運ぶと、そこから汗一つかかずに引き下ろしたのだ。
「っしと。」
零式を展開すると、両手を叩く。ガシャンガシャンと喧しい音がした。
「じゃあ、まず・・・・きよちゃん行ってみよう。二十秒位歩行してから軽く何度かジャンプ。よし、じゃ次小走り。そうそう、爪先から着地する感じで。」
ナノマシンとハイパーセンサーで彼女の動きをじっくりと観察して、一夏は的確なアドバイスを出して行く。
「よしと、基本的な移動は出来たから、今度は武器の展開から始めよう。ライフル二丁とブレードの『ブレッドスライサー』がスロットに入ってる。タイム計るから、ちゃんとやってね?」
「う、うん・・・・」
清香は右手に左手を添えると、光の粒子が集まって形を成した。現れたのは鉈サイズの近接武装、ブレッドスライサーだ。
「おお、ナイス。初めにしちゃ、及第点かな?2.02秒だ。じゃ、次はライフル。」
清香は目を閉じて集中したが、粒子が手元を漂うばかりで中々形を形成しない。
「レッドバレット!」
名前を呼ぶ事でようやくライフルが彼女の両手に現れた。
「遅い。10.57秒。」
「う〜〜〜〜!銃って形が複雑だから上手くイメージ出来ないんだもん!」
「それは分かるけど、出来る方が断然楽だよ?発声でのコールはまあ仕方無いけど、武装の展開は速ければ速い程対応方法を考える余裕が出来る。ISバトルはスポーツと言っても、人を殺せる武器だ。じゃあ一番簡単な指鉄砲をイメージしてごらん?」
一度レッドバレットを収納させると、もう一度展開させた。先程よりも確実に速いスピードでの展開に成功する。
「やったぁーーー!!!」
「な?難しく考え過ぎない方が良いんだよ。細かい部分まで鮮明にイメージ出来る人もいれば、簡略化された物の方がイメージし易いって人もいる。要は実験と失敗の繰り返しでしか展開と収納のスピードは上がらない。人間の脳味噌はピンキリだから、それぞれのやり易い方法を見出だしてくれ。こればっかりは教科書読んだり手本を見たりして出来る事じゃない。んじゃ、次。」
こんな感じで続いて行った。他のグループリーダーもそれぞれ代表候補及び専用機持ちであり一般生徒とは一線を画している為か、教え方はかなり上手かった。だが、問題はラウラのグループだ。他のグループとの温度差が激しい。
「もっとスムーズに動け愚図が。実戦でそれでは十秒以内に死体袋に入ってしまうぞ。」
まるで軍隊のブートキャンプで新兵を扱く教官である。
「辞めんか、馬鹿者。」
どこからか小石が飛んで来てラウラの後頭部辺りで止まった。シールドエネルギーが減ったのに気付いた彼女は振り向いた。そこでは腕を組んで仁王立ちしている千冬がいる。
(出た・・・・・ターミネーター/ダースベイダー/第六天魔王信長だ・・・・)
「代表候補生と一般生徒を一緒にするな。経験が劣っているのは仕方が無いだろう。そして何より、ここは戦場ではない。学び舎だ。立ち場を弁えろ、ボーデヴィッヒ。」
「・・・・了解しました。」
「返事は『はい』だ、馬鹿者。」
再び小石を投げつけられて再び減少するシールドエネルギー。
(小石を投げただけでシールドエネルギーって減少する様な物じゃないよね・・・・・?)
一般生徒が操縦を一通り終わらせ、授業は終了した。一足先に片付け終えると、着替える途中で使っていたロッカーにメモ用紙が入っている事に気付いた。
「屋上、ね。」
外に出ると丁度鈴と鉢合わせた。
「一夏、一緒にお昼食べない?久々に手作り中華作って来たから。セシリアも日頃の感謝と言う事で作って来たらしいけど。」
「ご一緒させて頂きますわ、一夏さん。」
「お、まじ?それは良いけど・・・・(あの二人に起こられちまうな。しゃーねー、ここは口実を作ってと)お。お〜い、シャルルや〜い!」
少し声を張り上げてシャルルを呼ぶ。すぐに気付いた彼は一夏達の方に走って行く。
「何?」
「皆で昼飯食べないか?食事は大勢でやった方がにぎやかだし。それに、女子率98%のこの学園で男一人をボッチにするのはバッドエンドしか予想出来ないから。」
「でも、僕が邪魔しちゃっていいのかな・・・?」
「平気よ。四人が五人になろうが大して変わらないわ。」
鈴音の後押しもあり、四人は屋上に向かった。
「あ”〜〜、いい天気だ。」
ゴロニャ〜とでも鳴きそうな感じでまったりオーラを醸し出す一夏。
「う〜っす二人共。」
「やっと来たわね、全く。」
「・・・・・・遅い。」
「ごめんごめん、実技があったもんで。片付けとか手間取ったんだわ。」
「後、何でその三人がいるの?」
『解答すべし』の文字が描かれた扇子を開いて口元を隠す楯無。簪もジト目で睨んで来る。
「あ〜、まあ、成り行きで。クラスメイトでもあり、仕事仲間でもありだし。で、シャルルは新入生。この学園で一人にする事はステーキソースに体を浸して猛獣の群れを駆け抜けようとするに等しいから。(デートで好きな所連れてってあげるからそれで許して)」
手を合わせて謝ると、楯無に読唇で分かる様に口パクをした。
「なら、許して上げる・・・・・」
渋々と言った様子で楯無はそっぽを向いて納得した。
「・・・・学食のデザート、一品奢って。一番高いの。」
「ワオ、手厳しい。まあ、分かりました。」
簪は中々にシビアな条件を提示したが、一も二も無く一夏はそれを呑んだ。
「よしと、飯だ!」
四人がそれぞれ重箱やら弁当箱やらタッパーを開けて中身を披露した。一夏は驚きに口笛を一つ吹いた。
「ワオ、
一夏は持参して来た割り箸でちょっとずつ色々と摘み始めた。シャルルも少しぎこちないが箸で一品ずつゆっくりと食べる。
「美味い、流石。」
「本当に美味しいよ。やっぱり和食って奥が深いね。勉強になるよ。」
次にセシリアのサンドイッチを食べてみた。一夏はナノマシンのお陰で形容しがたい凄まじい味を許容する事は出来たが、シャルルは咀嚼して僅か十秒で卒倒した。楯無がほうじ茶を飲ませて胃の洗浄を行ってすぐに復活したが。
「(何じゃこりゃ・・・・?卵サンドなのにバニラの味がするぞ・・・・何を入れやがった、セシリア?)あー、セシリア?お前コレ味見したか?」
「へ?」
「良いから食ってみ。」
サンドイッチを一つ取ってセシリアに食べさせた。途端に彼女の健康な顔色が一気に真っ青に変わってしまった。慌てて魔法瓶のアイスティーを飲んで嚥下したが、顔色の悪さは相変わらずである。
「な?味見は大事だろ?後、ちゃんとレシピ通りに作れば概ね写真と同じ様になるから。そこら辺はここにいる皆さんを頼る事。」
「はいぃ・・・・うぅ・・・・・ショックですわ。」
仕方なしに他の料理を一夏やシャルルと一緒に食べる事にした。
「所で、」
シャルルがおにぎりを手に取って口火を切った。
「一夏ってさ、授業中も思ったんだけど凄く博識だよね?どこから雑学とか言語能力仕入れて来るの?下手なネイティブよりずっと発音が上手いよ?英語もそうだし、フランス語も・・・・」
「あ、それは私も思った。ネットで調べたけど、ヨーロッパ圏の言語ってどれも発音が独特だから結構難しいらしいのよね。でも全然難しそうにしてないし・・・・何で?」
シャルルの疑問に便乗して楯無も一夏にそう聞いた。
「何でって・・・・知ってて損は無いでしょ?それにコミュニケーションは何事に於いても第一だよ?探偵なら尚更。」
「探偵、ですか・・・・あの((PE|プライベート・アイ))みたいな・・・?」
「ああ。ほい、名刺。一応連絡先とかも書いてあるから。」
鈴以外の全員に配ると、食事を再開した。
ラウラもいじられキャラにしてしまった方が良いのでしょうか・・・・?でも、食べ物で釣られるのを想像してちょっと悶えてしまいましたよ不覚にも。