IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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コーヒーをご用意下さい(念の為)


新たなD/ユア・ネーム・イズ

「はぁっ!!!」

 

「良いぞ、もっとだその調子!」

 

「はい!!」

 

「ほらほら踏み込みは上体がふらふらしちゃ簡単に倒されちゃうぞ?」

 

「よっと。」

 

いつも通りセシリアの近接格闘の訓練に付き合っている一夏。セシリアは現在銃剣としても使われる訓練用のゴム製ナイフを使って一夏に一撃を入れようと躍起になっていた。が、まるで柳の枝が風に舞う様にしなやかで流れる動きで繰り出される攻撃が全て受け流されて行く。最後に右肩のある部分を指先で強く突くと、彼女の手がだらりと下がり、指の隙間からナイフが落ちた。

 

「大分形になって来たな。」

 

「一夏さんのお陰ですわ。ありがとうございます。あの、腕を元に戻して頂きたいのですが・・・・」

 

「おお。すまんすまん。ほれ。」

 

同じ所を軽くトスンと指先で突くと、麻痺していたセシリアの腕に徐々に感覚が戻り始めた。

 

「一夏さんが仰った様に整備科の皆さんにスターライトに銃剣装置を取り付ける様に頼んでみましたが、やはり正解でした。いつもいつも何から何までありがとうございますわ。今度何かお礼がしたいです。」

 

「だったら、そうだな・・・・お菓子が美味いおすすめの店とか知ってたら教えて欲しいんだけど。」

 

「でしたら、Wheel of Fortuneと言うお店を訪ねてみては?確か、フウトと言う街から少し離れた所に支店があった気がします。」

 

「運命の輪、ねえ。面白そうだ。ありがと。教えてくれたお礼としてそこでケーキを買って、幾つか進呈しよう。」

 

「本当ですか!?」

 

「こう言う場合嘘はつきません。お疲れさま。汗かいた後は熱が引いてたイオン下がるから、早く体暖めろよ〜。」

 

剣道場から出て行って手を振ると、もう一方の手でワイバーフォンを操作した。

 

「さーてと。楯無さんは何処へ・・・・?」

 

「いーやーだーーー、はーなーしーてー、虚ちゃーん!!!!」

 

「いけません、お嬢様。生徒会室に直ちに戻って書類を片付けて下さい。」

 

廊下の角を曲がった所で楯無が虚と呼んだ眼鏡とヘアバンドをつけた三年生が楯無の両腕をがっちり掴んでずるずると引き摺っているのが見えた。楯無ならそれ位普通に抜け出せる物なのに、何故か抜け出せていない。

 

「あの〜・・・・」

 

「あ、一夏君助けて〜〜!!」

 

「助ける必要はありません、職務怠慢故の自業自得です。」

 

「だったら遠慮無く黒縄地獄だろうが阿鼻地獄だろうがお好きな所へどうぞ。」

 

「薄情者〜〜〜〜!!!彼氏の癖にぃ〜〜〜!!」

 

足をバタバタさせる楯無はまるで駄々をこねる子供の様だった。

 

「ただし、俺も手伝いますので引き摺るの辞めてあげて下さい。可哀想ですし。後、楯無さん足をばたつかせるの辞めた方が良いですよ?時折チラチラとパンツ見えちゃってますんで。」

 

「〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」

 

スカートを抑えて口をへの字に曲げて楯無は顔を真っ赤にして一夏を見上げて睨んだ。

 

「そんな顔してもただ可愛いだけですから。よいしょっと。」

 

楯無の手を掴んで引っ張り上げると、手を握ったまま生徒会室まで連行した。放課後から三十分前後程しか時間が経っていないので必然的に他の生徒達の目にも触れる事となる。

 

「ご心配無く。ある程度の情報規制は私がしておきます。各部活のトップとは、顔見知りなので。特に新聞部とはね。」

 

一夏の考えを見透かしたのか、虚は歩きながらそう言った。

 

「あ、そすか。あの〜えっと・・・・」

 

「自己紹介がまだでしたね。私は布仏虚、整備科の主席です。」

 

「布仏?・・・・て事は・・・・」

 

「お気づきの通り、本音は私の妹です。何時もご迷惑をかけていないか気掛かりで。」

 

「いやいや、数少ない癒しと言う名のマイナスイオン製造機が一組にいるんですから迷惑だなんてとんでもない。多いにクラスの皆の役に立っていますよ、先輩。」

 

話しながら生徒会室に入り、楯無を文字通り椅子に縛り付けて書類と格闘させると、一夏は虚と向かい合わせに座った。彼女のクールな瞳は全く何も映さない完璧なまでのポーカーフェイスである。

 

「突然の事で戸惑うかもしれませんが、率直に聞きます。貴方は会長・・・・いえ、お嬢様や更識家の事をどこまでご存知ですか?」

 

「ロシアの国家代表、自由国籍持ち、学園最強の生徒会長、そして家のトップだって事位ですけど?家の事についてはあまり知らないですね。特殊な所だ、と言う事位しか。」

 

「更識家は対暗部用暗部。学園を守ると同時に、影から国家を支える柱であり、守る防波堤です。」

 

「道理で強い訳だ。あの時SPモドキが一緒にいたのも頷ける。」

 

「い〜ち〜か〜く〜ん〜、手伝ってくれるって言ったでしょ〜!?」

 

「はいはい、分かりました。すんません、この話は、また後で良いですか?」

 

「ええ。お嬢様や簪お嬢様の事、よろしくお願いします。好きな殿方が出来たとあの方の口から聞くのは初めてな物で。私も幼馴染みとして嬉しく思っています。」

 

一夏は小さく礼を言って頭を下げると書類の山に埋もれている楯無を救出に向かった。

 

「ぅわ〜ぉおう。部活の部費申請、備品の増量申請、『生徒の声便り』、職員室からの連絡事項、etc。どんだけさぼったらこんなに溜まるんですか?」

 

「だ、だって・・・・(一夏君の事が頭から離れなくて仕事が出来なかったんだもん)」

 

「まあ、書類整理なら俺も仕事先でやってるから良いんスけどもね。」

 

一夏は右手に鉛筆、左手にペン、口には蛍光ペンを加えて仕事を始めた。そして一時間半で山の様な書類が八割無くなった。手伝っていた虚も叫びはしなかった物の、口はあんぐりと開き、目も見開かれている。

 

「えーっと・・・・後はコレですね。」

 

目玉クリップで十ページはある書類の束を纏めると、デスクの上に置いた。

 

「ん〜〜、やっぱ座りっぱなしはキツいな。」

 

一夏は立ち上がると伸びをして背中をボキボキと鳴らした。

 

「俺基本は現場主義なんだけど。」

 

「現場主義?何が?」

 

「俺、風都で探偵の助手やってます。」

 

「あ、成る程。」

 

「では、私はこの書類を職員室に届けたら部屋に戻ります。会長も、コレに懲りたら職務怠慢をしないで下さい。」

 

「うん・・・お、お疲れさま〜。」

 

草臥れた楯無は机に突っ伏したまま手を振った。虚が出て行くと一夏と楯無の二人だけになった。

 

「さてと。よいしょ。」

 

「う”〜あ”ー、気持ち良い〜・・・・・・」

 

後ろに回り込んで楯無の肩を揉み始めた。

 

「凝ってますね。やっぱゆとりは大事ですよ?」

 

「そうだけどぉ〜、そうもいかないのよ。生徒会長だし、当主だし、国家代表だし、」

 

「後、押し寿司。」

 

「それはかんけー無い!」

 

しょうもないジョークに楯無は顔を膨らませて振り向いた。一夏は彼女が座っている革張りの座椅子を回転させて自分と向かい合わせると、目線を楯無と合わせた。

 

「頑張り過ぎです。ゆっくりしましょうよ、ね?楯無さん。」

 

「・・・・・刀奈。」

 

「はい?」

 

「刀奈って、呼んで。楯無は当主に与えられる世襲名で、私の名前であって私の名前じゃ無い。刀奈は私が私でいられた頃の名前。二人の時だけで良いから、そう呼んで欲しいな・・・・・・あ、敬語とさん付けもなしで・・・・」

 

「刀奈。」

 

胸が熱くなり、キュンッと痛みを覚えた。一夏の指先がまるでキャンバスに触れる繊細な絵筆の様に楯無———刀奈の顎から頬、そして頬から艶っぽい唇へと滑らせて行く。それだけで、刀奈は続々と快感が背筋から全身へと駆け抜けて体中の力が抜けて行った。

 

「ぁぅ・・・・・」

 

「刀奈は、どんなキスが好み?ちょっと荒っぽい熱烈ベーゼ?それともねっとりゆっくりと落として欲しい?」

 

指先で唇をなぞり、そう囁いた。今の一夏はさしずめインキュバスと言う所だろうか。目はじっと刀奈を捉えたまま全くブレない。彼女は答えようとしているが、何故か言葉が喉につかえて出て来ない。

 

「初めてだし、ゆっくりの方が良いわな。うん。」

 

一夏は刀奈の手を取り、立たせると壁に押し付けた。これで彼女は逃げられない。

 

(あ・・・・来る・・・・一夏君に、ファーストキス・・・・・取られちゃう・・・・)

 

一夏の唇が触れた瞬間腰砕けになってしまい、立っているのが難しくなった。壁を背にしているお陰で崩れ落ちずには済んだが。最初はただの軽いキスだった。一度離れると、次についばむ様な軽いキスを何度か繰り返していく。だが、続けると同時に刀奈の方も次第に乗り気になって来たので、唇を吸ったり舌で舐められたりと次第に濃厚になって行く。

 

(やだ・・・・一夏君、上手過ぎる。こんなの、耐えられない・・・・・駄目、頭真っ白になっちゃう。でも、もっと・・・・もっとして欲しい・・・・!!)

 

だが、無情にも彼女の願望は潰えた。キスの最中にワイバーフォンが高らかに着信音を鳴らしたのだ。一夏は唇を離し、崩れ落ちそうになる刀奈の腰を抱いて座椅子に座ると彼女を膝の上に乗せた。

 

「むぅ・・・」

 

「ちょい待って。はい。」

 

『やあ、織斑一夏。』

 

電話の主はフィリップだった。

 

『報告が遅れてすまない。ちょっと事件で立て込んでいてね。』

 

「事件?何の?」

 

『宝石泥棒さ。もう解決した。所で、君が調べて欲しいと言っていたシャルル・デュノアだったかな?その名前で該当する人物はいたが、IS企業のデュノアとは関係無かった。あの写真の人物とも全く違う。』

 

それを聞いて一夏は顔を顰めた。基本キーワードさえ分かっていれば大抵の事はフィリップが地球の本棚で調べればすぐに答えは出る筈なのだが、今回はそうならなかった事を不審に思ったのだ。

 

「え、じゃあ」

 

『まあ、待ちたまえ。君が必要としている情報は見つけた。IS企業デュノア社の社長クリストファー・デュノアと血が繋がった子供はたった一人しかいなかった。その名はシャルロット・デュノア。彼女の母親ベアトリス・デュノアとの間に出来た娘だ。ベアトリス・デュノアは既に故人だがね。プテラップトップに詳細データを送る。詳しい事はそちらを見てくれたまえ。』

 

「分かりました。後で調査費用振り込んどきますね。亜樹子さんと事務所の口座に半々で。」

 

『別に構いはしないさ。亜樹ちゃんもそこまで金銭にがめつくはない。』

 

「どうだかな・・・・?ま、兎も角ありがとうございます。」

 

『ああ。暇になったらまた事務所に遊びに来てくれたまえ。最近チェスと言う盤を使った室内遊戯に凝っているのだ。とあるペルシャ人の軍師が戦の戦略を立てる為に作った六種類十六個の駒を使ったゲームらしい。是非君と対局してみたい。』

 

「チェスですか。良いっすね。んじゃ、いずれまた。」

 

『ああ。』

 

ワイバーフォンをしまうと、刀奈が一夏の頬を抓った。

 

「痛い痛い。」

 

「彼女ほったらかして電話〜?」

 

膨れっ面で一夏の顔を覗き込む彼女の頬に手を添え、頬に軽くキスをしてやった。

 

「仕事の電話だよ、仕事の。機嫌直して?」

 

「・・・・も、もう一回、キスしてくれたら許してあげる・・・・」

 

「土日のデートスポットも決まったしね。」

 

表面上は笑顔を見せて刀奈を抱きしめていた物の、胸中ではじきにやって来る転校生二人の事————特にシャルル・デュノア改めシャルロット・デュノア———の事について心中は穏やかではなかった。

 




五千突破しねーなー・・・・・もっと頑張らなきゃなあ・・・・でも冬休みでゆっくりしてるしなあ・・・・

まあ、頑張ります。

質問、感想、評価、色々お待ちしております。

では

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