IS x W Rebirth of the White Demon   作:i-pod男

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以前TINAMIで投稿していた物(プロットが不満でしたので削除しましたが)をこちらに上げます。

そうです、またです。またIS x 仮面ライダー物です。


Wの検索/探偵の弟子

ここは吹く風が風車を回すエコの都市、その名も『風都』。今日も、街の涙を拭う為、『仮面ライダー』は戦う・・・・・

 

「『ハアッ!』」

 

赤い複眼に首から伸びる銀色のスカーフ、そして左右の半身の色が違う仮面ライダーW CMが、メタルシャフトを使った巧みな棒術で迫り来る異形の怪物、『ドーパント』を圧倒していた。

 

「決めるぜ、フィリップ。」

 

『そうしよう。亜樹ちゃんが正式に寿退社するから御馳走を振る舞ってくれると言っていた、これを逃す手は無い。何より、所長を引退してしまったからには、僕達が新所長としてしっかりしなきゃね。』

 

一人の体が、まるで二人の人間が会話をしているかの様に独自の動作を行っているのは、端から見れば滑稽だろう。腰に巻いていた赤い英文字のWを象ったベルトバックルからUSBメモリらしき機械を引き抜いて得物の棒に挿入した。

 

「権利書は相変わらず向こうが持ってるんだがな。」

 

『Metal!Maximum Drive』

 

棒の一部に緑色の旋風が巻き起こった。

 

「メモリブレイクだ。覚悟しな、蟹のバケモンめ!」

 

「『メタルツイスター!!』」

 

回転しながら風を纏った鉄棒をドーパントに繰り返し叩き付け、最後の一撃で数メートル先にあるゴミ置き場に吹き飛ばした。すると、そのドーパントの体からUSBメモリらしき物が排出された。ドーパントが人間の姿に戻って行き、メモリは排出されると同時に砕け散った。Wの形を保っている二つのスロット部分を閉じて装填されていた同型のUSBメモリ二本を引き抜いた。旋風と共に仮面は剥がれ落ち、ソフト帽にネクタイを締めた二枚目の二十代前半の男が姿を現した。

 

「後は警察にお任せだな、フィリップ。」

 

「そうだね。リボルギャリーで早く事務所に戻ろう。」

 

茂みを押しのけながら現れたのは、髪の毛が所々寝癖が抜けていないかの様に跳ねて、それをクリップで留めていた青年だった。革張りの本を脇に挟み、体から土や落ち葉を払い除けながら帰還を催促する。ポケットから現代の物からかけ離れた珍妙な携帯電話を引っ張りだして操作すると、どこからか巨大な戦車の様な車が二人の目の前に止まった。

 

「流石にこれは人目に付くだろ?」

 

「仮面ライダーになってかなり経つのに、今更人目を気にする様な性分なのかい、翔太郎は?」

 

スーツ姿の翔太郎と呼ばれた男の苦笑いに、もう一人の青年が薄笑いでそう返す。

 

「いや、けどよフィリップ・・・」

 

翔太郎は腕時計を確認すると、目を大きく見開いた。

 

「やっべ!時間ねえ、乗るぞ!」

 

「ほら見た事か。」

 

その巨大な車『リボルギャリー』のボディーが開き、二人はその中に飛び乗ると、急いで事務所に急行した。

 

 

 

 

 

 

「いやー、ごめんね、一夏君。バイトの帰りだって言うのに無理に手伝って貰って。」

 

「俺も翔太郎さんやフィリップさん、竜さんにお世話になってますから。それに料理するの好きですし。後、遅くなりましたけど結婚おめでとうございます。」

 

現在、照井家では、すっかり主婦と相成った鳴海亜樹子改め照井亜樹子は、キッチンで一夏と呼ばれる学生と並んで料理をしていた。制服でお馴染みのワイシャツと黒いスラックス、更にその上にエプロンと言う出で立ちは、中学生と言うよりも若い主夫に見えるだろう。その間に、バイクの吠える様なエンジン音が聞こえ、止まった。

 

「あ、帰って来た!」

 

「俺、見てますから。」

 

そう言うやいなや、脱兎の如くキッチンから飛び出して玄関に向かってまっしぐらに向かって行った。

 

「竜くーーーーーん!!!」

 

「全く、亜樹子さんは・・・・・よっと。」

 

一夏は料理を皿に盛りつけて使った調理器具を流し台に纏め、臭いを霧散させる為に換気扇を付けると、洗い物を片付け始めた。洗いながら、ふと窓の外を眺めた。日が少しずつだが、傾きかけている。

 

「やっぱ、帰らなきゃかな?」

 

ポケットから携帯を引っ張りだすと、電源を入れた。不在着信とメールが山程入っている。発信者は全件が同じ『千冬姉』だった。携帯の電源を再び落として乱暴にポケットの中に突っ込むと、洗い物を再開した。

 

「一夏くーん、皆来たよーー!」

 

「はーい!」

 

料理と食器を並べ終え、エプロンを外すと自分も玄関に向かった。そして顔色が一瞬にして変わった。翔太郎、フィリップ、亜樹子、そして亜樹子と腕を組んでいる男、照井竜がいる。そこまでは良かったが、四人の後ろに立っている人物が前に出ると、表情が固まる。

 

「一夏・・・・ここにいたのか!」

 

伸びた黒い髪にすらっとした体を持ち、一夏と目鼻立ちがいくらか似た女性が肩で息をしていた、汗で髪が額や頬に張り付いて一夏の名を呼んだ。

 

「束さんに、追跡させたのか。」

 

一夏は目を閉じたままそう呟いた。

 

「署から帰る途中で偶然会ってな。お前の写真を持ってお前を見なかったか、聞き回っていたらしい。姉なんだろう?」

 

竜の言葉に一夏は頷く。会って日は浅いが、流石は現役の警察官と言うべきか、その気迫と射抜く様な眼光は普通の人とは別格である。それ故、下手な隠し事は無駄だった。

 

「はい。翔太郎さんやフィリップさんには言いましたよ?家出をしたって。」

 

「左、何故こう言う大事な事を黙っているんだ、お前は?」

 

鋭い眼光を一夏から隣にいる翔太郎に向けて問い詰める。 だが翔太郎もその眼光に怯まず、負けじと竜の言葉に反論した。

 

「おいおい、泣きながら事務所に転がり込んで来た中学生を追い返す程血も涙も無い男じゃねえっての、俺は。まあまあ、良いだろ別に。亜樹子も俺らも、それにお前もお陰で助かってんだろうが?」

 

幼いながらも高い一夏の家事スキルは、照井家と探偵事務所の裁縫、炊事、洗濯、掃除で大いに役立ち、ライダー達の日常生活を支えている功労者なのだ。

 

「僕も翔太郎に賛成だね。あの時、あの場で織斑一夏を追い返せば、僕達は人の皮を被った鬼になってしまう。亜樹ちゃん、照井竜、君達だって僕達と同じ状況にいれば、同じ事をした筈だ。まあ、今は一先ずお互い矛先を納めて、食べよう。料理は冷めたら味が落ちる。そして、空腹はイラつきを促進させると聞いた。食後に決着をつけても遅くはないと思うが。」

 

「そうそうそうそう!折角皆集まったんだし、とりあえず皆座って食べよう!空きっ腹じゃ機嫌が悪くなるのは当たり前だのクラッカーだよ!ほらほら、一夏君のお姉さんも!」

 

(古いな、照井。何でそんなの知ってるんだ、お前の嫁は。)

 

(左・・・・・・俺に質問するな。)

 

フィリップの賛同の言葉に便乗し、あれよあれよと言う間に亜樹子のペースに巻き込まれてしまった千冬は、図らずも探偵事務所からの寿退社の祝い事に同席させられてしまった。そして『姉弟だから』と言う理由で、一夏は必然的に千冬の隣に座らされる。二人は居心地悪そうに座っている為、食卓の温度差が非常に激しかった。

 

「千冬姉・・・・その、ごめん。心配かけて。」

 

「いや、私もその・・・・・・碌に連絡も寄越さないで勝手な事ばかりを言って済まない。家事も碌に出来ない上に・・・・・」

 

「いやでも怒りに任せて出て行ったのは俺だし・・・・・」

 

「げ、原因を作ったのは私だ・・・・」

 

何としてでも非を被ろうとするこの水掛け論が更にエスカレートしようとしていた。

 

「ちょっとちょっとそこの二人〜〜〜〜!!暗い暗い暗い!!!」

 

だが、早くもアルコールを摂取した亜樹子は赤ら顔で二人の肩を持ってそれを止める。

 

「姉弟なんだからさぁ〜、もっとフランクに楽しくやりましょうよ〜。」

 

「竜さん、何とかして下さい。」

 

吐息に乗ったアルコールの臭いに顔を顰めた一夏は、頼みの綱と亜樹子の唯一のブレーキ役である竜に助けを求めたが、竜は知らん顔でビールを飲み、料理を摘んでいた。だが、一瞬だけ一夏の方を見ると、小さく首を横に振った。どうやらこうなっては流石の竜も止められないらしい。がっくりと項垂れた一夏の顔を上げると、亜樹子はその頬を左右に引っ張って変な顔を作る。それを見た翔太郎とフィリップは、思わず吹き出してしまった(竜は笑わない様に頑張っていたが口の端がピクついている)。千冬もその顔を見て暫くは堪えていたが、やがて堪えられなくなったのか小さな笑いを漏らした。

 

「ようやく笑った。」

 

「ん・・・?」

 

「亜樹ちゃんは、織斑千冬、君を笑わせる為にこうしているんだ。僕は何があったかは既に『検索』をしたから分かるが、敢えて言おう。織斑一夏は寂しかったんだよ。」

 

「ちょ、フィリップさん!」

 

一夏は図星を見事に突かれて慌てふためいたが、構わずに続けた。

 

「恥ずかしがる事では無い。寧ろ人間として当然の反応だ。親がいなくなってしまった以上、必然的に君が面倒を見る事になってしまう。だが、多忙を理由に家族とのコミュニケーションを疎かにして良い筈が無い。たとえ海外に行っていたとしてもだ。確かに、織斑一夏は幼稚にも逆上して冷静さを失い、風都に来てしまったが」

 

「フィリップ、もうよせ。」

 

翔太郎が彼の言葉を遮る。千冬は肩を小刻みに振るわせ、必死で涙を堪えている様子だった。一夏は千冬の手を握って小さく翔太郎達に頭を下げると、一旦外に出た。

 

「千冬姉・・・・泣くなよ、らしくない。」

 

「私だって人間だ、泣く時位ある。」

 

千冬は一夏から渡されたハンカチで目頭を拭う。

 

「しかし、あのフィリップとか言う男、全く以てあいつの言う通りだ。あそこまで的確に言い当てられてしまっては反論のしようも無い。改めて、詫びたい。一夏、今までずっと一人にしていて、本当に済まなかった。」

 

「俺こそ、ガキみたいな事して心配かけて、ごめん・・・・・ほ、ほら、早く戻ろう。仕上げのデザートがあるから。」

 

その様子を遠巻きに見ていた四人は満足そうに互いの顔を見て頷き合っていた。

 

「姉弟かあ・・・・」

 

亜樹子は意味深に竜をちらっと見る。

 

「今回はフィリップ自身が園崎の末っ子だったと言うのが有利に働いたな。立ち場が同じ者の言葉は重みも説得力もある。」

 

竜の言葉に翔太郎は神妙に肯定の意を示した。

 

「さてと、俺達はデザートとお茶の用意でもするか。」

 

「入れるのは私だからね。翔太郎君のコーヒーも紅茶も相変わらず飲めた物じゃないんだから。」

 

「おい、亜樹子ぉ!!お前は一々一言多いんだよ!照井、お前も亜樹子の旦那ならそれらしく何か言ってくれ、一言だけで良いから!」

 

「一言で良いんだな?ならば言おう。事実だ。」

 

「うっ・・・・・!くぉんのぉやろぉ・・・・・喧嘩売ってんのか?」

 

(事実とは言え)オブラートに包もうともしないその辛辣な言葉を聞いた翔太郎は刺されたかの様に胸を押さえたが、直後に歯を剥き出して竜を睨み付ける。

 

「フフフ、諦めたまえ、翔太郎。それに、一々君がやらずとも、優秀な助手が何時も入れてくれただろう?それに、彼なら『アレ』を預けても問題は無いと思う。短い間でしかなかったが、彼はその覚悟を度々僕達に見せてくれた。目を見張る物だよ・・・・・・実に興味深い。」

 

 

 

〜回想〜

 

一夏が家出して事務所の厄介となってから、数日が経過した。

 

「危ない!」

 

「うわっ!?」

 

一夏は落ちて来る瓦礫の真下で震えるサラリーマンとその家族を押し退け、どうにか事無きを得た。

 

「大丈夫ですか?!」

 

「あ、ああ。」

 

「二人を連れてこっちに!ここは危険です!」

 

一夏は何が起こっているか全く状況を飲み込めていなかったが、三人が死にかけそうになっていたのを見ると体が勝手に動いてしまっていた。翔太郎とフィリップはそれを感心した様子で見ていた。

 

「フィリップ・・・・」

 

「ああ。幼くも彼は中々肝の据わった人物だね。翔太郎、今さっき思い付いた事なんだが聞いてくれるかい?」

 

「あ?」

 

「いっその事彼を弟子にしてしまってはどうだろうか?彼は中々器用な逸材だ。今の僕達には必要な存在だと思うんだけど。」

 

「はあ?!お前何言ってんだ、フィリップ!あいつまだ中一だぞ!十二、三の子供だぞ?!そんな奴がドーパント相手に戦うだなんて、ふざけんのも大概にしろ!そうさせない為に俺達仮面ライダーがいるんだろうが。」

 

「ただの考えなのにそこまで怒る事は無いだろう?今回は、僕が行くよ。」

 

勢い良く捲し立てる翔太郎をどうどう、と手で制した。

 

「ああ、良いぜ。」

 

フィリップの肩に恐竜型の掌サイズのメカが現れ、変形した。それにより出現したメモリ部分のスイッチを押す。

 

『Fang』

 

『Joker』

 

「「変身!!」」

 

二人がダブルドライバーにそれぞれのメモリを左右のスロットに差し込んでその部分を展開すると、フィリップの体が風に包まれた。

 

『Fang! Joker!』

 

そして白と黒のモノトーンに鋭角的なデザインが加わったW、 FJとなる。結果的にドーパントは一方的な攻撃の末にメモリをブレイクされ、変身していた犯人は警察に引き渡された。

 

「織斑一夏、これが僕達二人で一人の仮面ライダー、Wの戦いだ。君のあの時の判断は無謀だったが、同時に正しかった。翔太郎の言葉を借りるならば『零れた街の涙を拭った』と言えば良いのかな?」

 

「何か良く分からないですけど・・・・」

 

気障な言い回しの意味が今一つピンと来なかったのか、首を傾げる。

 

「分からなくて良い。お前は、自分で正しい事をしたと思うか?誰にそう聞かれても同じ答えが言えるか?心の中で、そう確信出来たか?」

 

「はい。」

 

翔太郎を真っ直ぐ見据え、その質問に一夏は頷いた。

 

「なら、それで良い。深く考える事は無い。男の仕事の八割は決断。後はおまけみたいなもんだ。あの家族を助けたいと言う決断を迷わずしたお前は、立派だよ。大した奴だ。」

 

一夏は何も言わずに頭を下げた。

 

〜回想終了〜

 

 

「しかし、高々一介の中学一年生にドーパントと戦わせる等と、正気かフィリップ?」

 

風都の治安を守る警察官でもあり、仮面ライダーでもある照井はあまり納得出来ていないのか、顔を顰めて腕を組んだ。

 

「照井竜、勿論分かっているさ。翔太郎も最初はそう言っていた。何も今すぐ、と言う訳じゃ無い。しかし、仮面ライダーの正体を知らされた今、彼もまた僕達に何らかの形で協力したいと言う考えを少なからず持っている筈だよ?検索した結果では、彼は誰かを守ると言う事に対して非常に強い憧れを持っている。そして物事をやるには、何らかの目標がいる。目標到達の為には、原動力、モチベーションが必要だ。織斑一夏にとって憧れの対象は実姉。」

 

「「織斑千冬。」」

 

 

 

 

 

 

結果的に照井家で一夜を明かす事となってしまった織斑姉弟は、早朝で帰宅の準備を始めた。

 

「織斑一夏、君に翔太郎と僕からの餞別がある。大事にしてくれたまえ。」

 

渡されたのはカーボン製の小さなアタッシュケースだった。

 

「これは・・・・?」

 

「開けてからのお楽しみだ。」

 

翔太郎はにやつきながらそう返す。

 

「中身は言えないが、何時か必ずお前の役に立ってくれる。」

 

「お世話になりました。」

 

一夏と千冬は並んで頭を下げると、自宅に向かって歩き始めた。その後ろ姿を、四人は見えなくなるまでずっと見ていた。

 

「しかし、翔太郎はやっぱりハーフボイルドだね。彼の為にあそこまでやるなんて。」

 

フィリップは相棒である翔太郎の脇腹を肘で小突く。

 

「良いじゃねえか。弟子の為に頑張るのが師匠のする事だろうがよ。そ・れ・に、発案者はお前だぞ?徹夜なんかしやがって。」

 

「あいつの師匠はお前達だけではないぞ?左、そろそろ事務所に戻った方が良いんじゃないか?事務所を空けたままでは報酬が入らん。未だに権利書は所長が持っているからな。」

 


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