転生とらぶる1   作:青竹(移住)

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番外編038話 if 真・恋姫無双編 08話

 アクセルの仙人――正確には混沌精霊なのだが――としての力を周囲に見せつけずに発揮し、尚且つ孫呉の軍だけで黄巾党を殲滅する。そんな無茶な事を考えた冥琳だったが、実際に話を聞けばそれ程無茶な事でもなく、速やかに準備が整えられていく。

 アクセルがやるべき仕事は、実に単純。黄巾党の本陣の中に潜入し、内部を炎で混乱させる事だ。

 普通であれば20万人を超える黄巾党の本陣の中に1人で潜入し、内部で破壊工作をするというのは無茶もいいところだ。幾ら強いと言っても、あくまでも人は人。体力の限界がある。

 孫呉の中で最強の雪蓮でさえ、1人で相手を出来る人数は決まっているだろう。良くて数百人といったところか。

 だが……今回それを行うのはアクセルだ。一応補佐として思春と明命の2人もついてくるが、アクセルが意図的に目立って敵の注意を引くというのは変わらない。

 最初にその話を聞いた時、アクセルに対して懐疑的だった孫権が何故か無茶だと冥琳に詰め寄ったのが、アクセルには驚きだった。

 何故か雪蓮はそれをニヤニヤとしながら見ていたのだが。

 ともあれ、雪蓮、冥琳、祭、穏の4人はアクセルの実力がどれ程のものかを知っている。それこそ片手間で盗賊500人をあっさりと焼き尽くせる程の仙術を使える仙人であると。

 ……もっとも、容易く人を殺すのだから仙人は仙人でも堕落した仙人という印象が強かったりするが。

 尚、一刀に関してはアクセルと似たような立場だと話を聞かされたが、仙術の類は使えないと知って安堵している。

 ともあれ、アクセルの力をこの場に集まっている大勢の前で見せつけるのが危険なのであれば、見えない場所でその力を使って貰おうという考えだった。

 ちなみに、出来れば黄巾党を率いていると言われている大賢良師と呼ばれている人物を捕らえて欲しいと冥琳に要請されたアクセルだったが、肝心の大賢良師の顔が分からない以上、成り行きに任せるしかなかった。

 

(いや、頭に角があったり下半身が馬だったりする似顔絵が本物だったら別だけどな。寧ろ、そういうのなら従えて召喚の契約を結びたいくらいだ。俺の魔力に耐えられれば、グリより強くなるかもしれないし)

 

 そんな風に考えているのは、黄巾党の本陣の中でも糧食が集まっている倉の中の1つに隠れているアクセル。

 その近くには思春や明命もいるが、2人共が茫然自失の状態になっていた。

 それも無理はないだろう。何しろ、アクセルがこの倉の中に侵入したのはお馴染みの影のゲートを使ってのもの。

 だがお馴染みとはいっても、それはアクセルにとってはだ。

 初めて体験する思春と明命は、影に身体が沈んでいくという経験に悲鳴を上げていた。

 尚、その際に思春の悲鳴が思ったよりも可愛い悲鳴だった事が、アクセルにとっては驚きだった。

「ほら、折角仙術を経験したんだから、少しくらいは喜べよ」

『……』

 

 そう声を掛けるも、2人は未だに茫然自失といった様子のまま。

 

(取りあえず騒がれないなら黄巾党の連中にも見つからないだろうし、作戦開始の夜中までまだ数時間くらいはあるから……このままにしておくか)

 

 結局はそう判断し、我を取り戻すまで待つのだった。

 そうして夜も更け日付が変わりそうになる頃、アクセル達は行動を開始する事になる。

 この時代では正確な時間を計るものはないのだが、そこはアクセルの空間倉庫に入っていた時計を冥琳に渡してあり、夜の12時になったら行動を開始するように言ってあったので、特に問題はなかった。

 ……冥琳や穏は時間を正確に計る事の出来る時計という存在に興奮していたが。

 倉に潜んで数時間。それくらいの時間が経てば思春と明命の2人も我を取り戻しており、時間を今か今かと待っている。

 そんな中、倉の中に火を放とうとしたアクセルはふと気が付く。

 どうせ燃やすのなら、この倉の中身は全部貰っていった方がいいんじゃないか、と。

 呉という国を再興するに当たり、食料は幾らあっても余るという事はないだろう。

 

「よし、この倉の中身は俺が貰っておこう」

「何を急に……そもそも、これを呉の物に出来るのなら確かに助かるが、どうやって運び出す気だ?」

「そうですよ、アクセルさん。それに倉を燃やすんですから、これがないと……」

 

 そんな2人の心配に、問題はないと笑みを浮かべ……近くにあった糧食へと手を伸ばすと、次の瞬間空間倉庫の中に収納されて姿が消える。

 そのまま、2人が驚いているのを尻目に次々に空間倉庫に収納し、気が付けばアクセル達が潜んでいた倉の中にあった糧食は、その全てが消えていた。

 もっとも、ここにあるのが20万人分全てではない。本陣の中に倉は幾つもあるので、あくまでもほんの一部でしかない。

 そうして目の前の光景に慌てている思春と明命を倉から出すと、早速とばかりに魔法を使用する。

 

『紅き焔』

 

 その言葉を口にした瞬間、魔法が発動する。

 本来であれば中級の魔法の『紅き焔』だが、今回は魔力を大量に使用している為に『燃える天空』程ではないにしろ、巨大な炎となっていた。

 尚、何故『燃える天空』ではなく『紅き焔』を使用したのかといえば、やはり魔法の効果範囲の問題だろう。『燃える天空』では効果範囲が大きすぎ、寧ろ黄巾党を攻撃する呉軍の邪魔になると判断した為だ。

 ともあれ、つい数秒前までアクセル達がいた倉は豪快に炎を発しながら燃え上がり、近くにある建物へと延焼しては炎の勢いを増していく。

 更にアクセルが炎を生み出しては、手当たり次第に天幕やら建物やらを燃やし続けている為に、火の勢いは留まるところを知らない。

 外でその様子を見ていた思春や明命も、取りあえずは問題がないとしそれぞれの行動に移る。

 いきなり本陣内で火が上がり、混乱する黄巾党。

 

「敵襲だ、敵襲! 敵が陣地内に入り込んでいるぞ!」

「守れ、天和ちゃん達を守るんだ! 手透きの者は武器を取れ!」

 

 そんな声が響く中、アクセルは影のゲートを使いながら倉からこっそりと出て、手当たり次第に天幕の中へと炎を叩き込んでいく。

 本来であれば、ある程度の自己判断が出来る炎獣を使うと便利なのだが、今回はアクセルの力をなるべく隠す方向となっている。勿論黄巾党の本陣の中での出来事である以上、見つかる可能性は少ない。だが、それでも怪しまれないようにしておくのは当然だった。

 

「思春、明命、いるか?」

 

 近くにある天幕に粗方火を放った後で呟くアクセル。

 するとすぐに返事が返ってくる。

 

「ここにいる」

「アクセルさん、凄いです!」

 

 そんな声を上げる2人に小さく頷き、改めて指示を出す。

 ……思春と明命は別にアクセルの指揮下にいる訳ではないのだが、今はそれどころではないと判断しているのだろう。アクセルに対して否定的な思春にしても、特に文句を言うでもなく黙っていた。

 

「ついでだから俺は黄巾党の倉にある食い物や武器の類を片っ端から奪ってくる。同時にそれを奪った後で火を付けるから、お前達はそれ以外の天幕とかに火を放って混乱を煽ってくれ」

「……まぁ、先程見た光景から考えれば確かにその方がいいのだろうな。その方が蓮華様も喜ぶであろうし」

「分かりました、頑張ります!」

 

 2人共がそれぞれに返事をし、素早く去って行く。

 それを見送ってから、アクセルは再び影のゲートを使って本陣に幾つもある倉の中に入っては食料や武器を根こそぎ空間倉庫に収納してから火を放っていく。

 そんな風にせっせとアクセルに働かれては堪ったものではなく、見る間に黄巾党の本陣は混乱し始めていた。

 思春や明命にしても、天幕を見つけては火を放ち、混乱を助長していく。

 放火魔と化した3人が働けば黄巾党としては堪ったものではなく、殆どが農民や盗賊という事もあって右往左往するばかりであった。

 そして、そのタイミングを待っていた者も当然いる。

 

「どうやらアクセル達は上手くやってくれたみたいね」

「ああ。アクセルの仙術があれば問題ないとは思ってたが、予想以上だ」

 

 雪蓮が感心したように呟くと、冥琳がそれに同調するように頷く。

 そんな2人の隣では、蓮華が唖然としながら黄巾党の本陣の方へと視線を向けている。

 仙術が使えるとは聞いていたし、簡単なものではあるが見せて貰っていた。だが……それでも、ここまでの事を出来るとは思っていなかったのだ。

 

「あらあらー、蓮華様も驚いてるみたいですねー」

 

 いつものようにほんわかと笑みを浮かべつつ告げる穏の言葉で我に返る蓮華。

 慌てて首を左右に振る。

 

「た、確かに凄いですが、あれが全てアクセルの実力とは……」

 

 言葉尻に力がないのが、自分でもその言葉を信じていない理由だろう。

 

「いい、蓮華。確かにアクセルは多少どころじゃなく怪しいところもあるけど、それでも袁術からの工作員とかそういうのじゃないのは間違いないわ。大体、あれだけの力を持ってる奴が、袁術なんかの下にいると思う?」

「い、いえ……」

「でしょ? ……まぁ、私も勘に従っただけなんだけどね」

「姉様!?」

「あははは。ほら、まぁ、それよりも折角混乱しているんだから一気に攻めるわよ。一応私達が独自に動く許可を貰ってはいるけど、これを見れば他の勢力だって動き出すのは間違いないんだから」

 

 ポンッと軽く蓮華の肩を叩き、雪蓮は背後へと視線を向ける。

 そう、そこにいる自らの兵士達へと。

 

「皆の者、今こそが好機! 敵の混乱に乗じて、民を脅かす黄巾党の命を絶つ! 大陸全土に、孫呉の精兵ここにありと見せつけるのだ!」

『うおおおおおおおおおおおおおおお!』

 

 雪蓮の言葉で士気が高まった兵士達の雄叫びが周囲に響く。

 

「祭は私と一緒に兵を率いて黄巾党の本陣に突っ込む! 目指すのは黄巾党を率いている大賢良師の首! それを獲れば黄巾党如き烏合の衆はすぐに散っていく筈よ。蓮華、冥琳、穏は本陣を囲むようにして待機。逃げてくる敵を片っ端から討ち取りなさい! では、出撃する!」

 

 その言葉に、それぞれが素早く動き始めて自らの部隊を率いながら雪蓮に指示された行動へと移る。

 拙速は巧遅に勝ると言わんばかりに、黄巾党の本陣へと突っ込んで行く雪蓮達。

 蓮華、冥琳、穏の3人もそれぞれ部隊を率いて本陣から逃げ出す敵を次々に仕留めていく。

 

「うわあああああっ! 官軍だ、官軍の襲撃だぁっ!」

 

 そんな風な声も上がるが、寧ろその叫びは黄巾党を混乱させる事にしかならない。

 

「討て、討て、討てぇっ! この者共は既に人の仮面を捨てた獣だ! ここで逃せば、こやつらの剣は儂等の家族、友人、恋人に向かうぞ! 容赦せずに討ち滅ぼすのじゃ!」

 

 自らの部下に声を掛けながらも、祭は素早く弓を引いて矢を放つ。

 一矢、二矢、三矢、四矢、五矢。一瞬の休みもなく放たれた5本の矢は、1本たりとも外れることなく黄巾党の首や額へと突き刺さる。

 それに圧倒された黄巾党は、内部の混乱もあって既にそれぞれが四方八方へと逃げ出していく有様だ。

 だが本陣を逃げ出したとしても、そこでは蓮華達率いる部隊が包囲している。

 本当に運が良かったり腕の立つ極少数を除いて、その殆どが討ち取られ、屍の山を築いていく。

 

「はああああああぁっ!」

 

 斬っ!

 孫呉の王の証でもある南海覇王。雪蓮の手にあるその武器が振るわれる度に黄巾党の兵達は血を吹き出して地面へと倒れる。

 周辺にいた最後の1人を斬り殺したのを確認し、雪蓮は周囲を見回す。

 

「どうやらこれで最後だったみたいね。それにしても、炎で混乱を起こすんじゃなくて本陣諸共炎に包まれてるじゃない」

 

 どこか呆れたように呟く雪蓮。

 アクセルの実力は知っていた。だが、それでもここまでのものだとはさすがに予想していなかったのだ。

 

「それに火の仙術を得意としているって事は、冥琳との相性もいいでしょうしね」

 

 元々少数精鋭気味の孫呉であるだけに、策略を使って敵を減らすというのは以前から行われてきた。その中で最も手っ取り早く、見た者に畏怖を与える程に効果的で、効率的に敵を減らす。そういう理由から冥琳は火計を好むようになった。

 そういう意味でも、雪蓮にしてみれば冥琳とアクセルの相性はいいと言わざるを得なかった。

 

(それに、仙人の国の話とかを好んで聞いてるみたいだしね)

 

 彼女の親友は、非常に知的好奇心が強い。それ故に、アクセルの話は興味深かったのだろう。

 

(仲間に誘って良かったわね。勘に感謝って事かしら)

 

 そんな風に考えていると、再び近づいてくる黄巾党の気配を感じ取る。

 

「行くわよ! 私に続きなさい!」

 

 そう告げ、敵へと突っ込んで行く雪蓮。

 その後も雪蓮と祭率いる孫呉の部隊は黄巾党の本陣で縦横無尽に暴れ、アクセル、思春、明命の3人もまた火を付け、武器を奪い、黄巾党の中でも地位のありそうな相手を暗殺し、あるいは蓮華、冥琳、穏の3人は本陣から逃げ出そうとする黄巾党を次々と始末し……最終的には雪蓮が黄巾党を率いていた大賢良師と名乗る『男』を殺した事により黄巾の乱は収束する。

 黄巾党を率いていた大賢良師を討った事により、孫策の名前は中華全土に轟くのだった。

 ……もっとも、雪蓮本人は微妙に納得がいかない様子を見せていたのだが。


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