転生とらぶる1   作:青竹(移住)

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以下は暁の時の前書きです。



取りあえずゲート編の方が一段落ついたので、お気に入り5000人&もう少しで1000話記念の番外編を投稿します。
番外編に関しては、推されて泣くのは腹ばかりさんからのリクエスト、「真・恋姫無双」編となりました。
他にも色々と面白そうな案はたくさんあったんですが、今回はこちらを採用させて貰います。

尚、あくまでも三國志ではなく真・恋姫無双であるという事を理解した上でお読み下さい。
特に名前に関しては、ゲームでも姓、名、字を言っていたり、本来の三國志であれば呼ばない呼び方(曹孟徳と呼ぶところを曹操という風に)が混在しているので、分かりやすさ重視とさせて貰います。


番外編031話 if 真・恋姫無双編 01話

 アクセルが気が付いた時、そこには何もなかった。

 一面の荒野。どこまでも続く地平線は、少なくてもここがホワイトスターの中ではない事を証明している。

 

「……どこだよ、ここ」

 

 周囲を見回しながら、呟く。

 右を見ても、左を見ても、後ろを見ても、前を見ても……下を見ても、上を見ても、一面の荒野しか存在しない。

 いや、上には空が広がっているのだが。

 敢えてアクセントになるものとなれば、岩だろうか。

 

「え? いや、マジで俺はどうしてここにいるんだ? 昨日は確か……」

 

 昨夜の事を思い出すアクセルだったが、いつも通りにレモン達との夜を過ごし、その後は眠りについた記憶しかない。

 寝たのだが、何故か今の自分はいつもの軍服を身に纏っている。

 更に、周囲を見回してもレモン、コーネリア、マリュー、スレイ、シェリルといったいつもの面々の姿はない。

 

「いや、本当に何があった?」

 

 額に手を当て数秒程悩んだ様子を見せるアクセルだったが、すぐに溜息を吐きながら首を横に振る。

 何故こうなったのかは分からないが、とにかく一端ホワイトスターに戻ればいい。そう思った為だ。

 確かにここがどこかは全く不明だが、ニーズヘッグにはアギュイエウスが内蔵されている。それを使えば、今自分がどこにいるのかが分からなくてもホワイトスターに帰れる。そう思い、いつものように脳裏へと空間倉庫のリストを展開し……その動きが完全に止まる。

 

「………………え?」

 

 たっぷりと1分程沈黙した後で、思わず呟く。

 先程までは意味不明な場所にいるという理由がありながらも、まだ余裕があった。それは、いざとなればいつでも好きな時にホワイトスターへ帰れるという余裕があったからだ。

 だが……今、アクセルの脳裏に浮かんだ空間倉庫のリストの中にはニーズヘッグの名前はなく、更にはサラマンダーの名前もない。

 それどころかゲートシステムやマーカーの類も存在しておらず、極めつけに大量の銃器が存在していた筈なのに、それすらも存在していない。

 完全に、極めつけに、全く何かを残す様子もなく、銃やナイフといった武器が空間倉庫のリストから消えている。

 技術班が開発して押しつけられはしたものの、使った事がなかったプロテクターの類や、暗視装置、録画機能、通信機能、ズーム機能といった多機能型バイザーのようなものを含めて、防具の類も完全に消えていた。

 残っているのは、アクセルが買い溜めていた食料と水を含めた各種飲み物。それと雑誌やゲームを始めとした娯楽品の類とスライムのみ。

 そして何より……

 

「ここでジェネシスがあっても意味ないだろうが」

 

 そう。何故かリストの中にはジェネシスの文字があった。

 そんな物があったとしても、そもそもアクセル1人でジェネシスをコントロール出来る訳がないし、それ以前にジェネシスを惑星に撃とうものなら、その惑星の生物の殆どが死ぬのだ。使おうにも使える訳がない。

 レモンに頼んで改良して貰うべきだった。そうも思ったのだが、今更それを考えたところで意味はない。

 

「……いや、待て」

 

 そこまで呟き、ふと猛烈に嫌な予感がした。

 もし、この世界にいる生き物が自分1人だけだったら?

 そう、どのような理由かは分からないが、アクセル程の力を持つ者を何の違和感にも気が付かせないままに、この場所に転移させたのだ。そうである以上、もしかして……そう思った、その時。そんなアクセルの嫌な予感を裏切る存在の気配を察知する。

 

「人……だな」

 

 近づいてくる気配は間違いなく人。それも1人ではなく3人。

 一先ず自分のいる場所が無人の世界ではなかったと知り、アクセルの口から安堵の息が吐き出される。

 

(まずは一安心、か。後はここがどんな世界かって事だが……出来ればどこかシャドウミラーと関わりのある世界であって……無理、だな)

 

 まだかなり遠くにいる人影に視線を向け、内心の思いを自ら否定するアクセル。

 何故なら、こちらに向かってくる人影が手に持っているのは、銃ではなく剣なのだから。

 アクセルが知っている中で、銃を使わないような世界となれば門世界しかない。ネギま世界の魔法界でも銃を使う者は極少数なら存在している。

 

「出来れば門世界であって欲しいところだが……」

 

 呟きつつも、その望みは薄い。半ばそう考えつつ、アクセルは近づいてくる3人組の方へと歩いて行く。

 別に待っていても良かったのだが、少しでも早く情報を得たかった為だ。

 向こうに警戒させないように、急いだりはせずにのんびりと歩いて行く。手には武器を一切――そもそも武器を持っていないのだが――持たずに近づき、やがて向こうもアクセルに気が付いたのだろう。その口元に笑みを浮かべ……

 

(あ、駄目だなこりゃ)

 

 その笑みが下卑たものであるのを知ったアクセルは、内心で呟く。

 そして実際、近づいてきた人物……背の高い男、背の小さい男、太っている男の3人は持っていた剣の切っ先をアクセルに向ける。

 

「へへっ、こんな場所で何をしてるんだ、兄ちゃん。……まぁ、いい。見た事がないような服を着てるじゃないか。それをちょっと俺達に渡せよ。命が惜しいのならな」

 

 

 

 

 

「……なるほど。どうやらここは俺の知っている場所じゃないようだな」

「へっ、へへ……その、お役に立てましたか?」

 

 アクセルの前でズタボロになりながら尋ねてくる背の高い男。

 ただの人間がアクセルに勝てる筈もなく、1分と経たずにその戦意はへし折られていた。

 それでも男達3人がまだ生きているのは、ただ単純にアクセルがこの世界の情報を得る為の情報源を必要としていたからだ。

 ここがアクセルの知っている場所ではないと理解した理由。それは……

 

「真名、か。また妙な風習が。にしても、陳留? どこかで聞いたような覚えがあるな」

 

 首を傾げるも、思い出すような事はない。

 やがて、そんなアクセルに対して背の小さい男が口を開く。

 

「それで、ですね。その……そろそろ俺達を解放して貰えるとありがたいんですが」

「……そうだな。まぁ、お前達からは色々と話を聞くことも出来たし、それはそれでいいか。行け」

 

 呟き、背の高い男が持っていた長剣を拾い上げる。

 一瞬そんなアクセルに対して何かを言おうとした男達だったが、襲った相手に返り討ちにされて命が助かっただけで運が良かったと判断し、小さく頭を下げてそのまま急いで走って行く。

 その後ろ姿を見送り、手にした長剣を見て……アクセルは、改めて自分がいるのが全く未知の世界であることを実感する。

 明らかに長剣の出来が良くないからだ。

 勿論アクセルが知っているのはシャドウミラーの技術で作られた長剣だが、それとは比べるべくもない。

 だが、ナイフの類ですら空間倉庫の中から消えてしまっている以上、この程度の長剣でも取りあえずあるだけはありがたかった。

 

(まぁ、いざとなればスライムがあるからいいんだが……不幸中の幸いだよな。それに食事や水に困らないってのも助かるし)

 

 そんな風に考えていると、再び何かの気配。

 それなりに気配を消すのが上手い1人と、その手の類の技術は習得していないのだろう2人。

 少し離れた場所にある岩陰に隠れているその3人に向かって、アクセルは手に持っていた長剣の切っ先を向ける。

 

「誰だ? 俺に何か用があるのなら出てこい」

「いやいや、こうも見事に私の姿を見つけるとは。……風、凜、お前達の気配ではないのか?」

「えー、星ちゃんが来いって言ったんじゃないですかー」

 

 そんな声が聞こえてきて、取りあえずは物盗りの類ではないだろうと判断したアクセルは、向けていた長剣の切っ先を下ろす。

 そして実際、姿を現した3人は敵対行動をする様子もなくアクセルの側へと近づいてくる。

 先頭を歩いているのが、槍を持った女。その次が眼鏡を掛けた女で、最後に頭の上に人形をのせた背の小さな女。

 

(……眼鏡? 意外と文明レベルが高いのか?)

 

 長剣の出来具合に先程の男達から聞いた情報で、てっきり門世界、あるいはそれよりも文明の遅れてた場所だと思っていたのだが。

 

(魔法の類は聞いた事もないって話だったし、科学技術に関しても同様。だとすれば、やっぱり文明レベルは低いと判断した……筈だったんだがな。あるいはどこか一帯だけが大きく文明が進んでいるとか、そういうパターンか?)

 

 内心でそう思っていると、槍を持った女がアクセルへと向かって笑みを浮かべて声を掛ける。

 

「いや、済まぬな。もし危ないようなら助けようと思っていたのだが……その必要も無かったらしい。それにしても立派な腕をお持ちですな。どうです? 是非私と一勝負……」

「星ちゃん、星ちゃん。そんな事をしてる場合じゃないですよー。ほら、あれあれー」

 

 人形を頭に乗せた少女があらぬ方を指さしながら呟く。

 その方向からは土煙。

 恐らく何者かがアクセル達のいる方へと向かってきているのだろう。

 

(まぁ、エアカーとかそういうのはまずないっぽいし、良くて馬車ってところか?)

 

 さて、どうするか。そう考えているアクセルの前で、女3人組は目配せをして意思を確認したのだろう。槍を持った女が口を開く。

 

「あの規模であるのなら、恐らくは官軍でしょう。見つかると面白くない出来事になりそうなので私達はこれで失礼しますが、そちらはどうしますか?」

「そうだな……」

 

 一瞬悩むが、この世界の事情を知るのであれば官軍……即ち公の組織に話を聞いた方が面倒臭くないだろうと判断したアクセルは、視線を土煙の方に向けて口を開く。

 

「俺はここで残ってみる。色々と情報を集めたいしな」

「おやまぁ、何とも奇特な御仁ですな。……では、我等はこれにて」

「お気を付けて」

「また機会があれば会いましょうねー」

 

 それぞれがそれぞれの言葉を掛けて去って行く。

 その後ろ姿を見送ったアクセルは、長剣を持ったまま近くにあった岩――女3人が隠れていた場所――へと背を預ける。

 そうしながら、あの3人の名前を聞いていなかったなと考えていると、視線の先に30騎程の騎兵が目に入ってきた。

 

「馬車じゃなくて騎兵か。予想通りここは色々と遅れている世界らしいな。……にしても、何だって俺がこんな場所に……誰の仕業だ? まさかレモンの悪戯じゃないよな?」

 

 そんな風に考えている間にも騎兵の群れはどんどんとアクセルの休んでいる場所まで近づいてきて……やがてその足を止める。

 そしてシャドウミラーの軍服を着ているアクセルをどこか胡散臭げに眺め……やがて騎兵の中から1人の人物が進み出る。

 

「貴方、こんな所で何をやっているかしら?」

 

 そう声を掛けてきたのは、馬に乗っていても分かる程に背の小さい女……いや、少女だった。

 先程の人形を頭に乗せていた人物よりはまだ背が高いが、それでも女と表現するには難しいだろう背の大きさ。

 だが身に纏っている気配はその容姿とは裏腹のものであり、間違いなく一級品と言ってもいい。

 少なくても、門世界に存在していた有象無象の貴族では相手にならない……いや、帝国の皇女であるピニャですらも、少女の纏っている気配には及ばないだろう。

 それは即ち、覇気と呼ばれる類のものだ。

 

「何と言ってもな。道に迷っているというのがこの場合は正しいのか?」

「道に? ……まぁ、いいわ。それよりも聞きたいのだけれど、3人組の男を見なかったかしら?」

「見たぞ」

「……へぇ。随分とあっさり認めるのね。見たところ、あの賊の仲間という訳ではなさそうだけど。まぁ、いいわ。それでどこに行ったのかしら?」

「向こうの方だな」

 

 チラリ、と視線を男達の逃げていった方へと向けるアクセル。

 それを聞いた女は、部下に指示してその後を追わせる。……何故か、自分はそこに残ったまま。

 

「で、そっちの質問には答えたが、まだ何か俺に用が?」

 

 アクセルの言葉を聞いていた少女が、口元に面白そうな笑みを浮かべる。

 おでこの広い女がその隣で面白くなさそうにアクセルを睨み付けていたが、本人は全く気にした様子もなく口を開く。

 

「貴方の着物。今まで見た事もないものね。どこで買ったのかしら?」

「さて、どこだったか……」

 

 別の世界から来ました。そう言ったとしても、この世界の人物には理解出来ないだろう。その意味も込めて返事をしたアクセルだったが、それを聞いたおでこの広い女がジロリと睨み付ける。

 

(へぇ……なかなかの殺気だ)

 

 その身体が滲み出すようにして現れた殺気を感じつつ、アクセルは全く気にした様子もなく女と言葉を続ける。

 

「答えて貰うわよ。陳留の勅史として、怪しい人物をこのまま野放しにする訳にはいかないのだから」

「……陳留?」

 

 それは目の前の少女が追っている男達から聞いた、ここから一番近くにある街の名前。

 勅史というのは何の事か分からなかったが、それでも何らかの役職であるというのは予想出来たのだろう。小さく溜息を吐いて口を開く。

 

「悪いが、俺も何で自分がここにいるのか分からないんだよ。気が付いたらここにいたからな」

「戯れ言を抜かすな!」

 

 そう叫んだのは、少女……ではなく、その横で先程から殺気を放っていた女。

 

「春蘭、落ち着きなさい。……私の名は曹操。聞き覚えは?」

「曹操? ……え? あれ。それって……」

 

 女の名前を聞き、思わず目を見張るアクセル。

 それはそうだろう。曹操。それは歴史に興味のないアクセルでも知っている程に有名な、三國志に出てくる主役級の登場人物なのだから。

 その事実に気が付き、アクセルとしては珍しい事にただ唖然とする事しか出来なかった。


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