転生とらぶる1   作:青竹(移住)

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0076話

「あれがアースクレイドルか」

 

 バン大佐の指揮するライノセラスに乗り、アフリカへと渡りようやくここまで辿り着いた。原作同様アーチボルドが陽動として暴れている為か、こちらはトラブルも特に無い平和な旅路だった。

 個人的には中国の蚩尤塚で龍王機と虎王機に接触してみたかったというのもあるが、アインストと早速ご対面というのもちょっと遠慮したい。

 

「アクセル大尉。アースクレイドルの責任者と会う事になるのだが、君も一緒に来るように」

 

 ブリッジにあるモニタでアースクレイドルを眺めながら考え事をしているとバン大佐から声をかけられる。

 アースクレイドルの責任者というと、イーグレット・フェフか。原作のレモン曰く純粋な科学者という事で、シャドウミラーの事情も理解している筈だ。

 

「了解」

 

 アースクレイドルの内部に入ったライノセラスから、バン大佐と共に降りてイーグレット・フェフの下へと向かう。

 

 

 

 その部屋にいたのは青い長髪を後頭部で縛っている中年の男、イーグレット・フェフ博士だった。

 こうして見ると、科学者というよりは流浪の格闘家か何かのように見えるな。

 そんな事を考えていると、フェフ博士が口を開く。

 

「ようこそアースクレイドルへ、バン大佐。我々はあなた方を歓迎する。そして……」

 

 そこまで言って、俺へと視線を向けてくるフェフ博士。その目は理知的なようでありながら、どこか狂気を秘めている。

 

「君がアクセル・アルマー大尉か。話は聞いている。よく無事にこのアースクレイドルまで辿り着いてくれた」

「いや、バン大佐が拾ってくれたおかげだよ」

「イーグレット・フェフ博士、困窮に喘ぐ我が同志達を受け入れてくれた事を感謝する。ところで、ここの責任者であるソフィア・ネート博士はどこに?」

 

 フェフ博士の言葉で俺への疑いはある程度晴れたのか、バン大佐がフェフ博士へと声を掛ける。

 

「彼女は人工冬眠中だ。自らの意思でな」

「……」

「その事に何か疑問でも?」

「DC戦争終結後、アースクレイドルは彼女の意思により地中での眠りについたと聞いている。それが何故今になって活動を再開して、尚且つ我々への協力を申し出てきたのだ?」

「アースクレイドルのメンバーは元々その大半がDCの出身者や関係者だ。我々が大佐達に協力するのはおかしな事ではないだろう?」

「だが、アースクレイドルは最悪の事態に備える為の、人類の種を存続させる為の施設だ。現時点で異星人が具体的な動きを見せておらぬとは言え、いささか軽率ではないか? 特にホワイトスターの行方が分からぬこの状況で」

 

 追及するバン大佐と、それを躱すフェフ博士。なんと言うか、こういうのを狐と狸の化かし合いとでも言うのだろうか。

 

「フッ、さすがはビアン総帥の死後にDC残党を纏め上げた男だ。与えられた力をただ享受するような真似はせんか」

 

 唐突に部屋へと入ってきたのはヴィンデルだった。俺にとっては半年ぶりになる顔だが、その顔は相変わらず意志の強さを感じさせる。

 

「何者だ?」

「ヴィンデル・マウザー大佐だ。アースクレイドルの協力者だと言っておこう。そしてバン大佐が連れてきてくれたアクセルの上司でもある。久しいな、アクセル。随分とのんびりしていたようだが、腕は落ちてないだろうな?」

「ふん、それを確かめる為にここに来る前に新型機の奪取なんていう仕事をまわしたのか?」

「先方の要望もあってな。だが、アクセルの事だ。ヘマをするなんて思っていなかったよ」

 

 俺とヴィンデルが話をしている間にも、バン大佐とフェフ博士の会話は続いている。

 

「バン大佐は、異星人の脅威が払拭できぬ現状でアースクレイドルを表に出すのが危険だと言うのだな?」

「そうだ。いずれ我々は彼らと戦う事になるのだからな」

「では我々が連邦軍どころか、異星人と互角に戦える力を手に入れつつあると聞けばどうだ?」

「力だと?」

「そうだ。そこにいるヴィンデル・マウザー大佐率いる部隊が提供してくれた技術だ。それにより、我々はクレイドル内でのPTやAMの量産。そして、それらを超える機動兵器の開発に成功している」

 

 PTやAMを超える機体? ランドグリーズの事か? 個人的には足を止めての撃ち合いをメインとするヴァルキュリア系の機体はいまいち好みじゃないんだが。ランドグリーズよりはブースト・ドライブを搭載したガーリオン・カスタムの方が使えるように感じる。

 それに、軍隊として必要なのは兵器の質もそうだが、それを操るパイロットの質も重要だ。いくら高性能な機体でも、乗っているのがヘボパイロットなら意味は無い。あちらの世界でエルアインスに乗っていたハンス中佐が良い例だ。

 バン大佐も元は民族解放運動のリーダーだけありその辺は十分に理解しているのだろう。

 

「だが、それだけでは異星人に勝てまい」

「だからこそ、連邦の体制を武力で変えると言うのだろう? バン大佐」

「そうだ。 L5戦役の勝利など一時しのぎに過ぎん。異星人との闘争は、まだ始まったばかりなのだ。実際、エアロゲイターの前線基地であったホワイトスターはその姿を消し、いつまた攻め込んでくるのか分からない状況だ」

 

 まさかホワイトスターは俺の空間倉庫に収納済みです、と言う訳にもいかないのでその辺は黙って聞き流す。ホワイトスターの回収に関しては俺の能力も含めて迂闊に話せない秘密だ。話せるとしたら、俺の能力の事を知っているレモンくらいだろうか。

 本来の歴史を知っているのならホワイトスターが無いのはおかしいと感じるのだろうが、幸いな事に向こうの世界で現れた異星人はエアロゲイターではなく、インスペクターだ。そしてホワイトスターはエアロゲイターの物なので、向こうにはホワイトスター自体が無かった。

 そんな事を考えている間にも、俺以外の3人で話しはどんどん進んでいく。

 

「我々もその考えに賛同している。故に大佐の本懐を遂げる為の下準備をしている所だ」

「下準備?」

「ああ。新生DCの皮切りとなるアフリカ北部制圧作戦、デザートクロス作戦。それを成功させる為の充分な戦力をすでに用意してある」

「ほう」

「どうだ、バン大佐? ヴィンデル大佐の言う通り後は機が熟するのを待つだけなのだ。早く各地へ散っている同志に集結命令を出した方がいいぞ」

「……ローズは今回の件を承知しているのか?」

「無論だ」

「了解した。諸君らの協力に改めて感謝する」

 

 ローズ、いやイスルギ重工の機嫌を伺うような発言が出るが、現状のDC最大のスポンサーであるのだからその意思は無視出来ない、か。

 

「全てはビアン総帥の遺志。そして、我らの手で作り出す新しい秩序の為に」

「うむ」

 

 その会話を最後にして、3人の会談は終わりを告げた。

 バン大佐とフェフ博士はこれからのDCの活動について打ち合わせがあるとかで部屋に残り、俺はヴィンデルに連れられてシャドウミラーに割り当てられている区画へと向かう。

 

「ヴィンデル、結局戦力はどのくらい持ってこれた?」

「そうだな。大まかにだがエルアインス120機、量産型ゲシュペンストMk-Ⅱ80機、量産型アシュセイヴァー50機、ラ-ズアングリフとランドグリーズが20機ずつ、アシュセイヴァー10機にその他諸々あわせてざっと350機という所だな。他は転移の際に時空の捻れに巻き込まれて消滅した。お前が使っていたネバーランドもこちらには辿り着いていない」

 

 350機、か。原作だと確か250機前後しか転移に成功しなかった筈だから、大体100機程増えた事になるのか。これはアギュイエウスとリュケイオス、そして時流エンジンの開発に関わったレモンのおかげだろう。

 

「ネバーランド以外のトライロバイト級は?」

「ギャンランドは無事にこちらに辿り着いていて、すぐにでも使用可能だ。ワンダーランドは無事に辿り着いたものの、損傷が酷い為に現在修理中。アークランドは大破と言ってもいい状況だな。よって修理を断念。部品はワンダーランドの補修部品へとまわしている」

 

 アークランドは元々武装が壊れた状態で、輸送艦として使われていたのだから部品取り用にまわされてもしょうがない、か。

 

「にしても、ネバーランドにアークランド。俺が乗った艦が悉く消えたり壊れたりするのは呪われでもしているのか?」

「ふっ。世界に反旗を翻した俺達だ。呪われているとしてもそれはある意味当然と言えるんじゃないのか?」

 

 珍しく冗談を口にしたヴィンデルに驚く。こいつもこの世界に転移してきて多少は変わったのかもしれないな。

 そんな風に会話を続けながら歩いていると、指紋認証や網膜認証等の強固なプロテクトがかかった扉へと辿り着く。

 

「この先が私達シャドウミラーが借りている区画だ。あまり詮索されるのも嬉しくないのでな、厳重に行き来を制限している」

 

 指紋や網膜を認証して扉が開くと、向こうには武装した量産型Wの姿が数人見えた。

 侵入者対策にここで待機しているんだろう。

 

「ご苦労」

 

 ヴィンデルの言葉に敬礼をし、道を空ける。俺もその後に続いて通路を進む事数分。大きめの部屋へと辿り着く。

 中に十数人の量産型Wがコンピュータへと向かって何やら作業をしている。この部屋の印象を一言で表すなら作戦司令室とでも言えばいいのだろうか。

 

「アクセル!」

 

 部屋の中を見ていた俺に声を掛けてきたのは、レモンだった。その顔には笑みが刻まれている。

 ……ただし、目は笑っていないのだが。

 拙い、アレはなにか怒っている顔だ。それも怒りを表に出すのではなく、内に溜め込んでいる。

 

「レモン、久しぶりだな。元気にしてたか?」

 

 ヴィンデルやレモンはともかく、俺に取ってはこちらの世界に転移してきてすでに半年以上が経っているのだ。久しぶりにレモンの顔を見ると、胸の中にじわりと暖かい何かが湧き上がるような気がする。

 ……それが例え、怒っているレモンだとしても。


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