転生とらぶる1   作:青竹(移住)

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番外編028話 建国式典の裏側にて。

 世界の3分の1を支配する神聖ブリタニア帝国。その首都ペンドラゴンにある城の中では、1人の男が薄らと笑みを浮かべてTVに映っている映像を眺めていた。

 

「ほう、異世界か。興味深い話だね」

「シュナイゼル殿下、それよりも問題はオデュッセウス殿下の件かと」

 

 椅子に座っている自分の横に立っていた端整な顔立ちをした茶髪の男の言葉に、シュナイゼルは苦笑を浮かべる。

 

「確かにそうだね。異世界云々という話には興味があるけど、兄上の件はもっと興味深い。……カノン、兄上は何らかの手段で無理矢理あそこにいるのかな? それとも、自分の意志で?」

「映像越しに見る限りでは、という判断ですが、薬のような物を使われたような様子は無いように見えます。恐らくは……」

「兄上自身の意志だと?」

「……」

 

 自らが心酔する主君からの問いかけに、無言で返すカノン。

 カノンの知っているオデュッセウスという男は凡庸な男である。その柔和な性格から人望はあるが、それとてシュナイゼルと比べると特別視する程のものではない。だが、だからこそ自分が生まれ、ここまで育ってきたブリタニアという国を自らの意志で捨てるような真似をするとは思えないのだ。その考えが、明晰な頭脳を持つカノンの口を開かせずにいた。

 そんな己の腹心の様子を数秒程眺めていたシュナイゼルが、再び口を開く。

 

「兄上に関しては、陽光と連絡を取って直接聞いてみるのがいいかもしれないね」

「正面から当たると?」

「この場合はそれが得策だよ。……ただ、さすがに今の状況だと彼等の建国を私達ブリタニアが認める発言は出来ないが」

「分かりました、裏から話を通してみます」

「頼むよ。……それと、映像に映し出されていた虫型の機体」

「恐らくシュナイゼル殿下のお考え通りかと。フランスでの件は性能試験か何かだったのでしょう」

 

 この時2人の脳裏を過ぎっていたのは、EUを攻めているブリタニア軍との戦闘に乱入してきた謎の機体の映像だった。

 混乱の極みであったとは言っても、さすがに映像データの類を回収することには成功しており、その映像に映し出されていたのが先程の建国式典の映像で映し出されていた虫型の機械だったのだ。

 

「かなり高性能な機体だという報告だったね。それに、他にも何機か見知らぬ機体がいた。……そっちに関しても情報をお願いするよ。ロイド達が私達の下にいれば、映像を解析して貰えたんだが」

「今は枢木卿の直属ですから。……ですが、ロイドのことです。恐らく誰かが何を言うまでも無く情報の解析はしているかと。機を見て話を通してみます」

「ああ、頼むよ」

 

(しかし、画面に映っていたもう1人……あれは間違い無く以前会ったアクセル・アルマーだった。名前も同じだったし、本人に間違い無いだろう。異世界、か。道理でこちらで情報を探っても何も出てこない筈だね。彼はあの時コーネリアの部下として雇われていた。そして、ブラックリベリオン後にコーネリアは行方不明。これは偶然の一致として考えるには、余りにも不自然)

 

「カノン、悪いがもう1つ頼まれてくれないか」

 

 こうして、ブリタニアの宰相とその側近は粛々と陽光という存在を受け止め、打つべき手を模索していく。

 

 

 

 

 

「ええいっ、なんじゃあの言い分は!」

 

 中華連邦の首都、洛陽。その中枢にある朱禁城の一室で、怒りに満ちた叫びが響き渡る。

 叫んだのは大宦官の1人でもある夏望だが、その部屋の中には他の大宦官達の姿も存在している。

 そして、夏望同様苛立たしげな表情を浮かべながらTVへと視線を向けていた。

 

「とにかく、すぐに討伐軍を結成するべきだ。このまま黙っていては、我々の面子が立たん」

 

 大宦官の1人がそう言い、他の者達も当然だとばかりに頷く。

 

「だが、今の映像で流れていたのが本当だとすると、国土の半分近くを奪われたことになる。そうなると、さすがに討伐軍を編成するにしても相応の時間が必要になるが」

「それに、あの虫型の機体。あれは恐らく……」

 

 ポツリと呟かれたその言葉に、他の大宦官達が黙り込む。

 少し前に、首都である洛陽の近くにある基地が襲撃された事を思い出したからだ。

 首都を守るという役割を持っている為、当然かなりの戦力が配備されており、更には旗艦クラスでもあるターロンダンすらも存在していた。だがそのターロンダンを始めとして、ロンダンや少なくない数のガン・ルゥがいつの間にか基地の中から消えており、更には襲い掛かってきた虫型の機体にいいように蹂躙されたのだ。基地側の被害は3割のガン・ルゥが撃破、4割のガン・ルゥが小破から中破と、惨敗としか表現出来ないような損害だった。

 

「何、儂等の物量があれば、あの程度の敵など、どうとでもなるわ。それに異世界云々という話が事実なら……この機会を見逃す訳にはいかん。ブリタニアやEUが手を出してくる前にこちらが手を打つとしよう」

「うむ、そうだな。これで勝てば異世界の技術や資源も全て儂等の物になる。異論は?」

 

 その問いに、大宦官全てが首を振る。

 自分達はこの世界の中心にいるのだから、負ける事はあり得ない。いや、むしろ勝って当然。そんな幻想を真実であると思い込み、陽光に対して対話ではなく武力を持って干渉する事を決定する。

 この選択が、自らの破滅へと繋がっているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 海を渡っている海氷船。その中の1室でルルーシュが座っていた机へと拳を振り下ろす。

 

「ええいっ! ようやくナナリーに害を為す者達を纏めてエリア11から連れ出したというのに、何だあの放送は! 陽光だと? 異世界だと? ふざけるのも大概にしろ!」

「落ち着け。確かに予想外の出来事ではあるが、だからと言って今すぐお前に関係がある訳では無いだろう?」

 

 お気に入りの人形を胸に抱き、自らの契約者へと声を掛けるC.C.。だが、そんなC.C.へとルルーシュは鋭い視線を向ける。

 

「俺達に関係無い? そんな筈があるか! お前もあの放送を見ただろう? 星刻が作りあげた国だ。中華連邦の蓬莱島を本拠地とする俺達黒の騎士団に影響が出ない筈はあるまい。星刻の件に比べれば、オデュッセウスがいたのはどうでもいい事だが……」

「星刻か。建国なんて真似をするという事は、総領事館で私達と関わった時には既にこの件を進めていたんだろうな」

「……だろうな」

「ふふっ、星刻の動きを見抜けなかったのが悔しいのか?」

 

 からかうようなC.C.の口調に、ピクリとしつつも受け流すルルーシュ。

 やがて、気を取り直したかのように建国式典の映像を改めて再生する。

 

「星刻も問題だが、やはり最大のイレギュラーはこのシャドウミラーという部隊だな。この虫型の機体はフランスや中華連邦で幾度か見かけられた機体だ。恐らくは異世界とこの世界の違いや、戦力を確認していたんだろうが」

「異世界、か。この世界の外なら……あるいは……」

 

 ルルーシュへと聞こえないようにポツリと呟くC.C.。異世界ならば自分の望みを叶える手段があるのではないか、と。特に魔法という存在がある以上は、と。

 そんな風に別々の事を考えつつも、その対象は同じである2人は暫く黙ったまま自分の考えに没頭するのだった。


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